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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1332288
異議申立番号 異議2017-700385  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-19 
確定日 2017-09-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6009013号発明「積層体の製造方法及びアクリル系樹脂フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6009013号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6009013号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成23年2月28日に出願された特願2011-43137号の一部を、平成27年2月19日に新たな特許出願としたものであって、平成28年9月23日にその特許権の設定登録がされ、平成29年4月19日に特許異議申立人 椎名一男より特許異議の申立てがされ、当審において同年6月19日付けで取消理由が通知され、同年8月24日付け(受理日:同月25日)で意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
特許第6009013号の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ順に「本件発明1」ないし「本件発明10」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
アクリル系樹脂フィルムと他のフィルムとを積層した積層体の製造方法であって、
アクリル系樹脂にゴム弾性体粒子が配合されたアクリル系樹脂組成物を溶融押出しする押出し工程と、
前記溶融押出しされた前記アクリル系樹脂組成物を金属で形成されたロール及び弾性ロールで挟み込んでシート状のアクリル系樹脂フィルムを製膜することで、前記アクリル系樹脂フィルムのうち、前記金属で形成されたロールに接地する面を滑面、前記弾性ロールに接地する面をフィルム表面から突出する前記ゴム弾性体粒子の表面積が前記滑面よりも大きい粗面とする製膜工程と、
前記アクリル系樹脂フィルムの前記粗面側に接着剤層を介して前記他のフィルムを積層する積層工程と、を備えることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記ゴム弾性体粒子は、前記アクリル系樹脂に対して25?45重量%配合されている、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記粗面と前記滑面との算術平均粗さの差が5?100nmである、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記滑面側に機能性層を形成することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記他のフィルムが偏光フィルムであることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記金属で形成されたロールが冷却ロールであることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
アクリル系樹脂にゴム弾性体粒子が配合されたアクリル系樹脂組成物からなるシート状のアクリル系樹脂フィルムの製造方法であって、
前記ゴム弾性体粒子は、数平均粒径が10?300nmの範囲内であり、
前記シート状のうち一方の面は滑面であり、前記シート状のうち前記滑面と反対側の面は、フィルム表面から突出する前記ゴム弾性体粒子の表面積が前記滑面よりも大きい粗面であり、
前記アクリル系樹脂組成物を溶融押出しする押出し工程と、
前記溶融押出しされた前記アクリル系樹脂組成物に金属で形成されたロール及び弾性ロールを接地させてシート状に製膜する工程と、を備え、
前記アクリル系樹脂フィルムのうち前記金属で形成されたロールに接地する面は前記滑面であり、
前記アクリル系樹脂フィルムのうち前記弾性ロールに接地する面は前記粗面であり、
前記弾性ロールは金属弾性ロールであることを特徴とするアクリル系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ゴム弾性体粒子は、前記アクリル系樹脂に対して25?45重量%配合されている、請求項7に記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記粗面と前記滑面との算術平均粗さの差が5?100nmである、請求項7又は8に記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記金属で形成されたロールが冷却ロールであることを特徴とする請求項7?9のいずれか1項に記載のアクリル系樹脂フィルムの製造方法。」

第3 取消理由について
1 取消理由の概要
当審において通知した平成29年6月19日付けの取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)
本件発明7ないし10は、甲1に記載された発明であり、また、甲1に記載された発明、甲2、甲3及び甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明7ないし10に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)取消理由3(進歩性)
本件発明1ないし6は、甲1に記載された発明、甲2、甲3、甲6、甲7に記載された事項、及び周知技術(甲4、甲5等)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし6に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

2 甲各号証
特許異議申立人が提出した証拠方法及び当審が追加した文献は、以下の甲1?甲7である。

甲1:特開2009-126150号公報
(特許異議申立書で引用された甲第1号証)
甲2:特開2010-231016号公報
(特許異議申立書で引用された甲第2号証)
甲3:特公昭55-27576号公報
(特許異議申立書で引用された甲第3号証)
甲4:特開昭56-121736号公報
(特許異議申立書で引用された甲第4号証)
甲5:永田宏二著、「接着技術」、株式会社近代編集社発行、
昭和46年2月1日、表紙、目次、頁4-7
(特許異議申立書で引用された甲第5号証)
甲6:特開2009-143174号公報
(当審において新たに引用した文献)
甲7:特開2008-132746号公報
(同上)

(1)甲1に記載された事項
ア「【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる厚み0.03?0.5mmの押出樹脂フィルムであって、該フィルムを前記熱可塑性樹脂の熱変形温度(Th)+20℃の熱雰囲気下で0.5時間放置したときの押出方向の収縮率S1(%)が下記式(1)を満たし、かつ幅方向の収縮率S2(%)が0?5%であることを特徴とする押出樹脂フィルム。
【数1】
S1=0.1/X?1.7/X ・・・(1)
X:押出樹脂フィルムの厚み(mm)
・・・
【請求項3】
ダイから押出される溶融熱可塑性樹脂を、高剛性の金属ロールと、外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロールとで挟持しながら製膜することを特徴とする、請求項1または2記載の押出樹脂フィルムの製造方法。」

イ「【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなる押出樹脂フィルムは、自動車の内装や外装、家庭電気製品の外装、液晶テレビやモニター等の光学用途等、極めて広い範囲で利用されている。・・・
【0003】
ところが、前記押出樹脂フィルムには、本来、押出方向に大きな歪が残留しており、前記熱変形温度以上の環境では大きく収縮してしまう。・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、熱収縮の小さい押出樹脂フィルムおよびその製造方法を提供することである。」

ウ「【0011】
このような押出樹脂フィルムは、ダイから押出される溶融状態の熱可塑性樹脂を、高剛性の金属ロールと、外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロールとで挟持しながら製膜する簡便な方法により得られる。すなわち、前記金属ロールおよび弾性ロール間に溶融熱可塑性樹脂を挟持すると、弾性ロールが溶融熱可塑性樹脂を介して金属ロールの外周面に沿って凹状に弾性変形する。これにより、金属ロールおよび弾性ロールは、溶融熱可塑性樹脂に対して面接触で圧着するので、これらロール間に挟持される溶融熱可塑性樹脂は面状に均一加圧されながらフィルムに製膜される。このようにして製膜すると、フィルム内に歪が残留するのを抑制することができ、その結果、得られるフィルムは前記熱変形温度以上の加熱環境下において収縮率が小さいものになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の押出樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂からなる。該熱可塑性樹脂としては、溶融加工可能な樹脂なら特に制限はなく、例えばポリ塩化ビニル樹脂、・・・メタクリル酸メチル樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン樹脂、・・・アクリル系ゴム等のゴム状重合体が挙げられ、これらは1種または2種以上をブレンドして用いてもよい。
【0013】
これらの樹脂の中で、光学特性の良好なメタクリル酸メチル単位を50質量%以上含むメタクリル酸メチル系樹脂、上述のメタクリル酸メチル系樹脂100重量部にゴム状重合体を100重量部以下添加した樹脂組成物、・・・樹脂から選ばれたものが好ましい。」
「【0016】
本発明におけるゴム状重合体とは、アクリル系多層構造重合体もしくは5?80重量部のゴム状重合体にエチレン性不飽和単量体、なかでもアクリル系不飽和単量体95?20重量部をグラフト重合したグラフト共重合体等がある。
【0017】
アクリル系多層構造重合体は、ゴム弾性の層またはエラストマーの層を20?60重量部を内在させるものであって、最外には硬質層を有するもので、最内層として硬質層をさらに含む構造のものでも良い。」

エ「【0038】
本実施形態の押出樹脂フィルムは、通常の押出成形法により製造することができる。すなわち、図1に示すように、基材となる熱可塑性樹脂を押出機1および/または押出機2で加熱して溶融混練しながら、ダイ3から薄いシート状に押出しを行う。」
「【0041】
上記のようにしてダイ3から押出される溶融熱可塑性樹脂4を、略水平方向に対向配置された2本の冷却ロール5に挟み込んで冷却することで押出樹脂フィルム11を得る。冷却ロール5は、図2に示すように、高剛性の金属ロール6と、外周部に金属製薄膜9を備えた弾性ロール、すなわち金属弾性ロール7とで構成されている。金属ロール6および金属弾性ロール7は、少なくとも一方がモータ等の回転駆動手段に接続されており、両ロールが所定の周速度で回転するように構成されている。」
「【0046】
このような金属ロール6および金属弾性ロール7間に溶融熱可塑性樹脂4を挟持すると、金属弾性ロール7が溶融熱可塑性樹脂4を介して金属ロール6の外周面に沿って凹状に弾性変形し、金属弾性ロール7と金属ロール6とが溶融熱可塑性樹脂4を介して所定の接触長さLで接触する。これにより、金属ロール6および金属弾性ロール7は、溶融熱可塑性樹脂4に対して面接触で圧着するようになり、これらロール間に挟持される溶融熱可塑性樹脂4は面状に均一加圧されながら製膜される。このようにして製膜すると、フィルム内に歪が残留するのを抑制することができ、その結果、得られる押出樹脂フィルム11の押出方向および幅方向の収縮率S1,S2が上述の範囲内となる。」

オ「【0057】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で使用した押出装置の構成は、次の通りである。
【0058】
押出機1:スクリュー径65mm、一軸、ベント付き(東芝機械(株)製)。
押出機2:スクリュー径45mm、一軸、ベント付き(日立造船(株)製)。
フィードブロック:2種3層および2種2層分配(日立造船(株)製)。
ダイ3:Tダイ、リップ幅1400mm、リップ間隔1mm(日立造船(株)製)。
ロール:横型、面長1400mm、径300mmφの冷却ロール2本。」
「【0061】
<ロール構成2>
図2に示した構成をロール構成2とした。具体的には、1番ロールおよび2番ロールを以下のように構成した。
(1番ロール)
軸ロール8の外周面を覆うように金属製薄膜9を配置し、軸ロール8と金属製薄膜9との間に流体10を封入した金属弾性ロール7を1番ロールとした。軸ロール8、金属製薄膜9および流体10は、次の通りである。
軸ロール8:ステンレス鋼製
金属製薄膜9:厚さ2mmのステンレス鋼製の鏡面金属スリーブ
流体10:油であり、この油を温度制御することによって、金属弾性ロール7を温度制御可能にした。より具体的には、温度調節機のON-OFF制御により前記油を加熱、冷却して温度制御可能にし、軸ロール8と金属製薄膜9との間に循環させた。
(2番ロール)
表面状態を鏡面にしたステンレス鋼製のスパイラルロールを高剛性の金属ロール6とし、これを2番ロールとした。
なお、金属弾性ロール7と金属ロール6とが溶融熱可塑性樹脂4を介して接触する接触長さLは、5mmにした。」
「【0063】
以下の実施例および比較例で使用した熱可塑性樹脂は、次の通りである。
・・・
樹脂4:メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル=96/4(重量比)の共重合体(屈折率1.49)70重量%に下記参考例で得たアクリル系多層弾性体を30重量%含有させたアクリル系組成物。熱変形温度(Th)は100℃。
【0064】
[参考例]
(ゴム状重合体の製造)
特公昭55-27576号の実施例に記載の方法に準拠して、三層構造からなるアクリル系多層弾性体を製造した。具体的には、まず、内容積5Lのガラス製反応容器に、イオン交換水1700g、炭酸ナトリウム0.7g、過硫酸ナトリウム0.3gを仕込み、窒素気流下で撹拌後、ペレックスOT-P((株)花王製)4.46g、イオン交換水150g、メチルメタクリレート150g、アリルメタクリレート0.3gを仕込んだ後、75℃に昇温し150分間撹拌を続けた。
【0065】
続いてブチルアクリレート689g、スチレン162g、アリルメタクリレート17gの混合物と過硫酸ナトリウム0.85g、ペレックスOT-P7.4gとイオン交換水50gの混合物を別の入口から90分間にわたり添加し、さらに90分間重合を続けた。
【0066】
重合を完了後、さらにメチルアクリレート326g(合議体注:「メチルメタクリレート326g」の誤記と認める。)、エチルアクリレート14gの混合物と過硫酸ナトリウム0.34gを溶解させたイオン交換水30gを別々の口から30分間にわたって添加した。
【0067】
添加終了後、さらに60分間保持し重合を完了した。得られたラテックスを0.5%塩化アルミニウム水溶液に投入して重合体を凝集させた。これを温水にて5回洗浄後、乾燥してアクリル系多層弾性体を得た。
【0068】
[実施例1?8および比較例1?3、5]
<押出樹脂フィルムの作製>
表1に示す種類の樹脂を押出機1にて溶融混練し、フィードブロックおよびダイ3の順に供給した。そして、ダイ3から押出された溶融熱可塑性樹脂4を、表1に示すロール構成の1番ロールおよび2番ロールで挟持しながら製膜し、表1に示す厚さの押出樹脂フィルムを得た。なお、表1中の「1番ロール表面温度」および「2番ロール表面温度」は、いずれもロールの表面温度を実測した値である。」
「【0074】
【表1】



(2)甲2に記載された事項
ア「【請求項1】
熱可塑性樹脂及び弾性体粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物の層を有する単層又は多層の偏光子保護フィルムであって、前記熱可塑性樹脂組成物を、線圧150N/cm以上の押し付け圧力にて2本の金属製ロールで挟み込んだ状態で製膜してなることを特徴とする偏光子保護フィルム。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂55?85重量部及び弾性体粒子15?45重量部を含有する組成物である請求項1に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項3】
弾性体粒子中の弾性体の数平均粒径が10?300nmである請求項1又は2に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項4】
偏光子と積層される面の中心線平均粗さRaが、弾性体粒子中の弾性体の数平均粒径の3分の1以下である請求項1?3のいずれかに記載の偏光子保護フィルム。
【請求項5】
偏光子と積層される面の中心線平均粗さRaが、0.01?0.05μmである請求項1?4のいずれかに記載の偏光子保護フィルム。
【請求項6】
熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂である請求項1?5のいずれかに記載の偏光子保護フィルム。
【請求項7】
弾性体粒子がアクリル系弾性重合体を含有する粒子である請求項1?6のいずれかに記載の偏光子保護フィルム。
【請求項8】
弾性体粒子が、アクリル系弾性重合体の外側にメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の層を有する多層構造の粒子である請求項7に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項9】
全体の厚さが100μm以下である請求項1?8のいずれかに記載の偏光子保護フィルム。
【請求項10】
請求項1?9のいずれかに記載の偏光子保護フィルムと偏光子とが接着剤により積層されてなる偏光板。」

イ「【0015】
アクリル系弾性重合体を含有する弾性体粒子は、アクリル系弾性重合体の層を有する多層構造の粒子であるのが好ましく、アクリル系弾性体の外側にメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の層を有する2層構造のものであってもよいし、さらにアクリル系弾性体の内側にメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の層を有する3層構造のものであってもよい。なお、アクリル系弾性体の外側又は内側に形成される層を構成するメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の単量体組成の例は、先にアクリル系樹脂の例として挙げたメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の単量体組成の例と同様である。このような多層構造のアクリル系弾性体粒子は、例えば特公昭55-27576号公報に記載の方法により、製造することができる。
【0016】
弾性体粒子としては、その中に含まれる弾性体の数平均粒径が10?300nmであるものが好ましく用いられる。この弾性体の数平均粒径をあまり小さくすることは、製造上困難であり、また、この弾性体の数平均粒径があまり大きいと、偏光子保護フィルムの製造時や加工時に白化が生じ易くなる。この弾性体の数平均粒径は、好ましくは50nm以上であり、また好ましくは250nm以下である。
【0017】
最外層がメタクリル酸メチルを主体とする重合体であり、その中にアクリル系弾性重合体が包み込まれている弾性体粒子においては、それを母体のアクリル系樹脂に混合すると、弾性体粒子の最外層が母体のアクリル系樹脂と混和するため、その断面において、酸化ルテニウムによるアクリル系弾性重合体への染色を施し、電子顕微鏡で観察した場合、その弾性体粒子が、最外層を除いた状態の粒子として観察される。・・・本明細書において、弾性体粒子中の弾性体の数平均粒径とは、このように、弾性体粒子を母体樹脂に混合して断面を酸化ルテニウムで染色したときに、染色されてほぼ円形状に観察される部分の径の数平均値である。」

ウ「【0032】
以上説明した本発明の偏光子保護フィルムと、偏光子とを、接着剤を用いて積層することにより、本発明の偏光板が得られる。本発明の偏光板は、偏光子の少なくとも一方の面に本発明の偏光子保護フィルムが積層されてなるものであり、偏光子の両面に本発明の偏光子保護フィルムが積層されてなるものであってもよいし、偏光子の一方の面に本発明の偏光子保護フィルムが積層され、もう一方の面に他の偏光子保護フィルムが積層されてなるものであってもよいし、偏光子の一方の面に本発明の偏光子保護フィルムが積層され、もう一方の面には保護フィルムが積層されていないものであってもよい。」

エ「【0094】
(アクリル系弾性重合体B)
アクリル系弾性重合体粒子Bとして、最内層が、メタクリル酸メチルに少量のメタクリル酸アリルを用いて重合させた硬質の重合体、中間層が、アクリル酸ブチルを主成分とし、さらにスチレン及び少量のメタクリル酸アリルを用いて重合させた軟質の弾性体、最外層が、メタクリル酸メチルに少量のアクリル酸エチルを用いて重合させた硬質の重合体からなる3層構造の弾性体粒子であって、弾性体の数平均粒径が240nmのものを用いた。」
「【0096】
実施例1?8
(偏光子保護フィルムの作製)
アクリル系樹脂のペレットとアクリル系弾性重合体粒子A又はBとを、表1に示す割合でスーパーミキサーで混合し、二軸押出機で溶融混練して、アクリル系樹脂組成物ペレットとした。このアクリル系樹脂組成物のペレットを、65mmφ一軸押出機に投入し、設定温度275℃のT型ダイを介して押し出し、45℃に温度設定した鏡面を有する二本のポリシングロール(金属ロール)で、表1に示す押し付け圧力にて、フィルムの両面を挟み込んで冷却し、厚さ80μmの偏光子保護フィルムを得た。なお、偏光子保護フィルムの厚さは、(株)ニコン製のデジタル測長器“MH-15M”を用いて測定した。この偏光子保護フィルムの中心線平均粗さRaを次の方法で測定し、結果を表1に示した。」
「【0098】
(偏光板の作製)
偏光子保護フィルムのRa測定面に積算照射量5.0kJ/m^(2)でコロナ放電処理を表面に施した。コロナ放電処理後、偏光子の両面にエポキシ系接着剤を介して偏光子保護フィルムのコロナ放電処理面を貼り合わせ、積算光量1500mJ/cm^(2)(実施例1、2)又は3000mJ/cm^(2)(実施例3?8)の紫外線を照射し偏光板を得た。この偏光板の接着性を次の方法で評価し、結果を表1に示した。」

(3)甲3に記載された事項
ア「重合は触媒の存在下に行われ、連鎖移動剤として動く重合調整剤を含有しうる。逐次製造重合体の最終粒子大きさは100ないし300nmの範囲に変りうる。望ましくは160ないし280nmの範囲である。」(4頁7欄1?5行)

イ「実施例 2-7
一連の多段逐次生成インターポリマーが本発明のヘイズ耐性・高衝撃硬質熱可塑性プラスチツクを例示するために製造されている。硬質熱可塑性重合体とのインターポリマーのブレンドにおける最終硬質段階の量の影響を示すために組成が変化されている。実施例1の手順に従つて6種の異なる組成物が製造され試験されている。結果は第I表に報告されている。」(11頁22欄16?24行)

ウ「

」(12頁)

(4)甲4に記載された事項
「2種の物体面を相互に接着しようとする場合、その接着力の強さは、接着剤の性能もさることながら、両界面の性質、とりわけ表面の粗度が大きな影響を及ぼしていることは夙に知られた事実である。したがつて2種の物体を接着しようとする場合、予め両物体面に凹凸を付与して、粗面となしてから接着するのが普通である。」(2頁左上欄1?7行)

(5)甲5に記載された事項
「1・4・3 あらさ
固体の表面は、ミクロに観察するとかなりの凹凸があり、その山の高さ・形状などはその材料の加工法によりいちじるしく変化している。・・・この表面あらさの接着におよぼす影響については、古来機械的接着(mechanical adhesion)と固有接着(specific adhesion)、あるいはレオロジカルな面からいろいろ論議されているが、ここで深く考究するつもりはない。現実にはあらさの程度が問題ではあるけれども、被着体表面を機械的にあらすことにより見かけの接着強さは増加する。
・・・
接着技術の上から、このあらさの管理は重要な項目の1つであることを忘れてはならない。」(6頁右欄下から10行?7頁右欄10行)

(6)甲6に記載された事項
ア「【請求項1】
微粒子を分散させた透明性樹脂を溶融してダイから押出し、一対のロール間に挟み込んで成形する押出マットシートの製造方法であって、
前記一対のロールは、一方が高剛性の金属ロールであり、他方が外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロールであることを特徴とする押出マットシートの製造方法。」

イ「【背景技術】
【0002】
マット調の外観を有するマットシートは、例えば自動車の内外装部品、家庭用電気機器の外装部品、家具の外装、壁等の表面加飾に用いられ、一般に、透明性樹脂に特定の微粒子を分散させて押出シート化する押出成形により得られる。
・・・
【0006】
例えば特許文献1には、所定の樹脂混合物を用いて良好な艶消しフィルムを得る方法としてTダイ法、インフレーション法、カレンダー法が記載されている。
しかしながら、溶融樹脂を一対のロール間に挟み込むTダイ法およびカレンダー法には、微粒子が透明性樹脂中に押し込まれてしまい、マット調の外観が損なわれるという問題がある。また、溶融樹脂を一対のロール間に挟み込まないインフレーション法には、得られるシートに厚みムラがあり、かつ筋等が発生して表面の外観が低下するという問題がある。」

ウ「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、厚みムラがなく、表面の外観に優れ、所望のマット性を有する押出マットシートの製造方法を提供することである。」

エ「【発明の効果】
・・・
【0011】
そこで本発明では、前記一対のロールを、高剛性の金属ロールと、外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロールとで構成するようにした。このようなロール間に溶融樹脂を挟み込むと、前記弾性ロールが溶融樹脂を介して金属ロールの外周面に沿って凹状に弾性変形する。これにより、金属ロールおよび弾性ロールは、溶融樹脂に対して面接触で圧着するので、これらロール間に挟み込まれる溶融樹脂は面状に均一加圧されながら成形される。このようにして成形すると、前記微粒子が透明性樹脂中に押し込まれるのを抑制することができるので、マット調の外観が損なわれるのを抑制することができ、所望のマット性を有する押出マットシートを得ることができる。」

オ「【0077】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で使用した押出装置の構成は、次の通りである。
【0078】
押出機1:スクリュー径60mm、一軸、ベント付き(東芝機械(株)製)。
押出機2:スクリュー径45mm、一軸、ベント付き(日立造船(株)製)。
フィードブロック:2種2層分配(日立造船(株)製)。
ダイ3:Tダイ、リップ幅1400mm、リップ間隔1mm(日立造船(株)製)。
ロール:横型、面長1400mm、径300mmφの冷却ロール2本。」
「【0080】
<ロール構成1>
図2に示した構成をロール構成1とした。具体的には、1番ロールおよび2番ロールを以下のように構成した。
(1番ロール)
軸ロール8の外周面を覆うように金属製薄膜9を配置し、軸ロール8と金属製薄膜9との間に流体10を封入した金属弾性ロール7を1番ロールとした。軸ロール8、金属製薄膜9および流体10は、次の通りである。
軸ロール8:ステンレス鋼製
金属製薄膜9:厚さ2mmのステンレス鋼製の鏡面金属スリーブ
流体10:油であり、この油を温度制御することによって、金属弾性ロール7を温度制御可能にした。より具体的には、温度調節機のON-OFF制御により前記油を加熱、冷却して温度制御可能にし、軸ロール8と金属製薄膜9との間に循環させた。
(2番ロール)
表面状態を鏡面にしたステンレス鋼製のスパイラルロールを高剛性の金属ロール6とし、これを2番ロールとした。
なお、金属弾性ロール7と金属ロール6との接触長さLは、5mmにした。」
「【0082】
以下の実施例および比較例で使用した透明性樹脂は、次の通りである。
・・・
樹脂6:メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル=96/4(重量比)の共重合体70重量%に下記参考例で得たアクリル系多層弾性体を30重量%含有させたアクリル系組成物。熱変形温度(Th)は100℃。
・・・
【0083】
[参考例]
(ゴム状重合体の製造)
特公昭55-27576号の実施例に記載の方法に準拠して、三層構造からなるアクリル系多層弾性体を製造した。具体的には、まず、内容積5Lのガラス製反応容器に、イオン交換水1700g、炭酸ナトリウム0.7g、過硫酸ナトリウム0.3gを仕込み、窒素気流下で撹拌後、ペレックスOT-P((株)花王製)4.46g、イオン交換水150g、メチルメタクリレート150g、アリルメタクリレート0.3gを仕込んだ後、75℃に昇温し150分間撹拌を続けた。
【0084】
続いてブチルアクリレート689g、スチレン162g、アリルメタクリレート17gの混合物と過硫酸ナトリウム0.85g、ペレックスOT-P7.4gとイオン交換水50gの混合物を別の入口から90分間にわたり添加し、さらに90分間重合を続けた。
【0085】
重合を完了後、さらにメチルアクリレート326g、エチルアクリレート14gの混合物と過硫酸ナトリウム0.34gを溶解させたイオン交換水30gを別々の口から30分間にわたって添加した。
【0086】
添加終了後、さらに60分間保持し重合を完了した。得られたラテックスを0.5%塩化アルミニウム水溶液に投入して重合体を凝集させた。これを温水にて5回洗浄後、乾燥してアクリル系多層弾性体を得た。
【0087】
以下の実施例および比較例で使用した微粒子(光拡散剤)は、次の通りである。
・・・
微粒子5:メタクリル酸メチル/エチレングリコールジメタクリレート=95/5(重量比)の共重合体粒子(屈折率1.49、重量平均粒子径5μm)。
【0088】
[実施例1、2、4?7および比較例1、2、4?7]
<押出マットシートの作製>
表1に示す種類の樹脂および微粒子を表1に示す割合でヘンシェルミキサーにて機械的に混合し、押出機1にて溶融混練し、フィードブロックおよびダイ3の順に供給した。そして、ダイ3から押出される溶融樹脂4を、表1に示すロール構成の1番ロールおよび2番ロールに挟み込んで成形し、表1に示す厚さの押出マットシートを得た。」
「【0092】
<評価>
得られた各押出マットシート(実施例1?7および比較例1?7)について、光沢度、算術平均粗さ(Ra)および外観を評価した。各評価方法を以下に示すと共に、その結果を表1に併せて示す。
【0093】
(光沢度の評価方法)
得られた押出マットシートにおいて、2番ロールに接触していない面を、JIS Z-8741の光沢度測定に準拠して光沢度計(スガ試験機製の「UGV-4D」)により60°反射にて測定した。光沢度(%)は、その数値が低いほど、マット性が高いことを示す。
【0094】
(算術平均粗さ(Ra)の評価方法)
JISB0601-2001に準拠して表面粗さ形状測定機((株)ミツトヨ製の「サーフテストSJ-201」)により、算術平均粗さ(Ra)をカットオフ値2.5mm、基準長さ2.5mm、区間数5で測定した。この測定結果を、表1中に「Ra」として記載した。
【0095】
(外観の評価方法)
得られた押出マットシートの外観を目視で確認した。なお、判定基準は以下のものを用いた。
○:厚みムラがなく、表面に筋等の発生もなく、マット調の外観も損なわれていない
△:厚みムラがなく、表面に筋等の発生もないが、艶が出てしまいマット調の外観が損なわれている
×:マット調の外観は損なわれていないが、厚みムラがあり、表面に筋等が発生している」
「【0096】
【表1】



(7)甲7に記載された事項
ア「【請求項1】
メタクリル樹脂を含有してなる樹脂層を2層以上有する積層フィルムであって、
(1)積層フィルムを構成する層のうち、少なくとも1層が、ビカット軟化点が120℃以上である、メチルメタクリレート単位70重量%以上含有するメタクリル樹脂Aにより形成された層Aであり、
(2)積層フィルムを構成する層のうち、少なくとも別の1層が、ビカット軟化点が95℃?115℃、引張り破壊ひずみが15%以上である、メチルメタクリレート単位70重量%以上含有するメタクリル樹脂Bにより形成された層Bであり、
(3)積層フィルムの一方の最表面が層Bである
ことを特徴とする積層フィルム。
・・・
【請求項3】
最表面にある層Bの表面粗さが8?30nmである請求項1?2記載の積層フィルム。
・・・
【請求項5】
メタクリル樹脂Bが多層構造アクリルゴム粒子を含有するものである請求項1?4記載の積層フィルム。
【請求項6】
他方の最表面が層Aである請求項1?5記載の積層フィルム。
【請求項7】
請求項6記載の最表面の層A上に、更にハードコート層、反射防止層が順次積層されてなる反射防止フィルム。
【請求項8】
請求項1?6記載の積層フィルムの最表面の層B上に、偏光子が積層された偏光板。」

イ「【0026】
また、冷却ロール表面には、層Bが配置されてなる表層とは反対側の表面が接触することが好ましい。層Bの表層が接触した場合には、表面の突起が押しつぶされて表面粗さが小さくなってしまう可能性もある。また、Tダイから押し出されたシートを平行な2本の金属ロールで挟み込む方法も一般的に使用されているが、斯様な方法でも表面の突起が押しつぶされて表面粗さが小さくなってしまう。層Bが配置されてなる表層は、層Bの温度が樹脂のガラス転移点以下に冷却された後に、他ロールに接触することが好ましい。」
「【0029】
本発明において、層Bが配置されてなる表層の表面粗さは、層Bに更に積層する層(例えば、偏光子)との密着性の観点から、好ましくは8?30nm、より好ましくは10?20nmである。表面粗さが小さ過ぎると、フィルムの滑り性が悪化し、ハンドリング性が著しく悪化する傾向にある。例えばフィルムをロールトゥロールで搬送する際に、搬送ロールに張り付き、しわが入ったり、破断したりする。またフィルムをロールとして巻き取る際には、フィルム同士でこすれ、傷がついたり、フィルム間の空気抜けが悪いために、巻き取りロールの形状が悪化する場合がある。
一方で表面粗さが大き過ぎると、表面での光の散乱により、フィルムの透明性が損なわれてしまう。」
「【0037】
本発明の積層フィルム又は反射防止フィルムの最表面の層B上に、必要に応じて接着剤層を介して偏光子を積層することにより、本発明の偏光板が得られる。」

第4 当審の判断
当合議体は、以下に述べるように、本件発明1ないし10に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではなく、取り消すべきものではないと判断する。

1 取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について
(1)甲1発明
上記第3の2(1)の記載、特に実施例4?6の記載からみて、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル=96/4(重量比)の共重合体70重量%に、下記参考例で得たアクリル系多層弾性体を30重量%含有させたアクリル系組成物を、押出機により溶融混練し、ダイから押出されたアクリル系組成物を、表面状態を鏡面にしたステンレス鋼製の高剛性の金属ロール及びステンレス鋼製の鏡面金属スリーブで外周面を被覆した金属弾性ロールで挟持しながら製膜する、押出樹脂フィルムの製造方法。

[参考例]
(ゴム状重合体の製造)
特公昭55-27576号公報の実施例に記載の方法に準拠して、三層構造からなるアクリル系多層弾性体を製造した。具体的には、まず、内容積5Lのガラス製反応容器に、イオン交換水1700g、炭酸ナトリウム0.7g、過硫酸ナトリウム0.3gを仕込み、窒素気流下で撹拌後、ペレックスOT-P((株)花王製)4.46g、イオン交換水150g、メチルメタクリレート150g、アリルメタクリレート0.3gを仕込んだ後、75℃に昇温し150分間撹拌を続けた。
続いてブチルアクリレート689g、スチレン162g、アリルメタクリレート17gの混合物と過硫酸ナトリウム0.85g、ペレックスOT-P7.4gとイオン交換水50gの混合物を別の入口から90分間にわたり添加し、さらに90分間重合を続けた。
重合を完了後、さらにメチルメタクリレート326g、エチルアクリレート14gの混合物と過硫酸ナトリウム0.34gを溶解させたイオン交換水30gを別々の口から30分間にわたって添加した。
添加終了後、さらに60分間保持し重合を完了した。得られたラテックスを0.5%塩化アルミニウム水溶液に投入して重合体を凝集させた。これを温水にて5回洗浄後、乾燥してアクリル系多層弾性体を得た。」

(2)本件発明7について
ア 対比
本件発明7と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル=96/4(重量比)の共重合体」、「アクリル系多層弾性体」、「アクリル系組成物」、「押出樹脂フィルム」、「表面状態を鏡面にしたステンレス鋼製の高剛性の金属ロール」及び「ステンレス鋼製の鏡面金属スリーブで外周面を被覆した金属弾性ロール」は、それぞれ本件発明7の「アクリル系樹脂」、「ゴム弾性体粒子」、「アクリル系樹脂組成物」、「アクリル系樹脂フィルム」、「金属で形成されたロール」及び「金属弾性ロール」に相当する。
そうすると、両発明は、
「アクリル系樹脂にゴム弾性体粒子が配合されたアクリル系樹脂組成物からなるシート状のアクリル系樹脂フィルムの製造方法であって、
前記アクリル系樹脂組成物を溶融押出しする押出し工程と、
前記溶融押出しされた前記アクリル系樹脂組成物に金属で形成されたロール及び弾性ロールを接地させてシート状に製膜する工程と、を備え、
前記弾性ロールは金属弾性ロールであることを特徴とするアクリル系樹脂フィルムの製造方法。」
である点で一致し、次の点において一応相違ないし相違している。

[相違点1]
ゴム弾性体粒子について、本件発明7においては、数平均粒径が10?300nmの範囲内であると特定されているのに対し、甲1発明においては、数平均粒径が特定されていない点。
[相違点2]
シート状のアクリル系樹脂フィルムについて、本件発明7においては、「前記シート状のうち一方の面は滑面であり、前記シート状のうち前記滑面と反対側の面は、フィルム表面から突出する前記ゴム弾性体粒子の表面積が前記滑面よりも大きい粗面」であること、及び、「前記アクリル系樹脂フィルムのうち前記金属で形成されたロールに接地する面は前記滑面であり、前記アクリル系樹脂フィルムのうち前記弾性ロールに接地する面は前記粗面であ」ることが特定されているのに対して、甲1発明においては、当該フィルムの表面状態が特定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点1について
a 甲1発明のアクリル系多層弾性体は、特公昭55-27576号公報(甲3)の実施例に記載の方法に準拠して製造したものであり、甲3には、「逐次製造重合体の最終粒子大きさは100ないし300nmの範囲に変りうる。望ましくは160ないし280nmの範囲である。」(4頁7欄2?5行)と記載されている。
そうすると、甲1発明のアクリル系多層弾性体の最終粒子の大きさは、100?300nmの範囲に含まれていると解するのが相当である。
そして、本件特許明細書の定義によるゴム弾性体粒子の数平均粒径は、「ゴム弾性体粒子を母体樹脂に混合して断面を酸化ルテニウムで染色したときに、染色されてほぼ円形状に観察される部分の径の数平均値」(【0042】)であり、最外層がメタクリル酸メチルを主体とする重合体を、アクリル系樹脂に混合した場合には、その最外層を除いた状態の粒子として観察される部分の径の数平均値となるから(【0041】)、甲1発明のアクリル系多層弾性体の数平均粒径は、その最終粒子の粒径100?300nmの範囲に含まれるか、それより若干小さいものとなる。

b 他方、甲2には、接着剤により偏光子に積層される偏光子保護フィルムにおいて、アクリル系樹脂に、本件特許明細書と同じ定義による数平均粒径が10?300nmである多層のアクリル系弾性体粒子を添加した組成物を用いることが記載され(請求項1?10、【0015】?【0017】)、当該多層のアクリル系弾性体粒子は、例えば特公昭55-27576号公報(甲3)に記載の方法により製造することができること(【0015】)が記載されている。
そして、甲2の実施例に記載された「3層構造のアクリル系弾性重合体粒子B」は、各層を構成する単量体の種類は甲1発明のアクリル系多層弾性体と同じであり、その数平均粒径が240nmであることが記載されている。
上記のように、甲2には、甲1と同じく、特公昭55-27576号公報(甲3)に記載の方法により製造したことが示唆されたアクリル系弾性重合体粒子Bの数平均粒径が、甲3に記載された「100?300nm」の範囲に含まれていることが、具体的に示されている。

c そうすると、甲1発明のアクリル系多層弾性体の数平均粒径は、100?300nmの範囲に含まれるか、あるいは若干小さいものであるといえるから、本件発明7の「10?300nm」の範囲と重複一致しているということができる。
したがって、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。

d 仮に、実質的な相違点であるとしても、甲1発明のアクリル系多層弾性体の最終粒子の大きさを、甲1発明において引用された特公昭55-27576号公報(甲3)に記載された100?300nmの範囲内とし、その結果、数平均粒径を10?300nmの範囲内とすることは、当業者が適宜なし得るものといえる。
また、甲1発明は液晶テレビやモニターなどの光学用途に用いられるフィルムの製造方法であり、甲2は、液晶表示装置に用いられる偏光子保護フィルムの製造方法に関するものであるから、両者の技術分野は重複しており、甲2には、例えば、特公昭55-27576号公報(甲3)に記載の方法により製造することができるアクリル系弾性体粒子は、数平均粒径を10nmより小さくすることは製造上困難であり、300nmより大きいと白化が生じ易くなると記載されていることから(【0015】、【0016】)、甲1発明においても、アクリル系多層弾性体として、甲2に記載された程度の、製造が困難ではなく白化しない程度の数平均粒径である10?300nmを採用することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

(イ)相違点2について
a 甲1発明は、熱収縮の小さい押出樹脂フィルムの製造方法を提供することを課題とするものであり(【0007】)、甲1には、高剛性の金属ロール及び金属弾性ロールは、溶融樹脂に対して面接触で圧着し、これらロール間に挟持される溶融熱可塑性樹脂は面状に均一加圧されながらフィルムに製膜されるので、その結果、得られるフィルムは、加熱環境下において収縮率が小さいものとなることが記載されている(【0011】)。
したがって、甲1には、フィルムの表面状態が滑面や粗面であることについて何ら記載されていないから、甲1発明における「特公昭55-27576号公報の実施例に記載の方法に準拠して」製造した「三層構造からなるアクリル系多層弾性体」により、金属弾性ロールに接地するフィルムの表面は粗面になり、高剛性の金属ロールに接地するフィルムの表面は滑面となっているとする具体的な根拠は見出せない。

b また、甲6には、甲1発明と同じ組成のアクリル系組成物である「樹脂6」に、メタクリル酸メチル/エチレングリコールジメタクリレート95/5(重量比)の共重合体粒子(屈折率1.49、重量平均粒子径5μm)である「微粒子5」を分散させた透明樹脂を、溶融してダイから押し出し、高剛性の金属ロール及び外周部に金属性薄膜を備えた弾性ロールの間に挟みこんで成形すると、当該微粒子が透明性樹脂中に押し込まれるのを抑制することができるので、マット調の外観が損なわれるのを抑制することができ、所望のマット性を有する押出マットシートを得ることができることが記載されている(請求項1、【0006】、【0011】、実施例6)。
甲6において、マット状の外観を形成する、透明樹脂中に押し込まれない微粒子は、「微粒子5」であって、「樹脂6」に含まれる「特公昭55-27576号の実施例に記載の方法に準拠して製造した三層構造からなるアクリル系多層弾性体」ではない。
そうすると、甲6の記載を考慮しても、甲1発明において、「特公昭55-27576号公報の実施例に記載の方法に準拠して製造した三層構造からなるアクリル系多層弾性体」が存在することにより、金属弾性ロールに接地する面においては、フィルムの表面から押し込まれずにマット状の外観、すなわち、粗面を形成しているとは認められない。

c 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明7の具体的態様として、特公昭55-27576号公報(甲3)に記載の方法により製造した、数平均粒径が10?300nmのアクリル系弾性体粒子等が配合されたアクリル系樹脂組成物を、金属で形成されたロール及び金属弾性ロールで挟み込んでシート状に製膜する工程を採用することにより、得られるフィルムにおいて、金属で形成されたロールに接地する面を「滑面」、金属弾性ロールに接地する面を「粗面」とすることができる旨が記載されている(【0039】、【0057】、【0060】、【0162】、【0163】等)。
甲1発明と本件発明7の上記の具体的態様とは、同じ組成のアクリル系樹脂組成物を、同じ二種のロールで挟み込んでフィルムを製造する点で一致している。
しかしながら、金属で形成されたロールに接地する面が「滑面」、金属弾性ロールに接地する面が「粗面」となるようにフィルムを製造するためには、上記の条件(アクリル系樹脂組成物、ロールの種類)だけでなく、ロール接地時における樹脂の溶融の程度等も適宜調整する必要があると解される。
そして、特許権者が平成29年8月24日付け意見書とともに提出した実験成績証明書(乙第1号証)には、甲1発明に含まれる甲1の実施例4を追試し、得られたアクリル系樹脂フィルムの両面を、原子間力顕微鏡で表面凹凸を観察したところ、両表面におけるアクリル系弾性重合体粒子の突出の程度の相違を確認することができなかったことが示されていることも、上記の解釈を裏付けるものといえる。
したがって、甲1発明について、本件発明7の具体的態様と同じ組成のアクリル系樹脂組成物と同じ二種のロールを用いる方法であるからといって、直ちに、「滑面」と「粗面」を有するフィルムが製造される方法であると認めることはできない。

d 上記a?cによれば、相違点2は、実質的な相違点である。

e そして、甲1発明は、熱収縮の小さい押出樹脂フィルムの製造方法を提供することを課題とするものであるから(【0007】)、甲1発明に係るフィルムの表面を、一方は滑面とし他方は粗面とする動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲2、甲3及び甲6に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、相違点2に係る本件発明7の構成を採用することは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明7は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、甲2、甲3及び甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明8ないし10について
本件発明8ないし10は、本件発明7をさらに限定したものである。
したがって、本件発明8ないし10は、本件発明7と同様の理由により、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、甲2、甲3及び甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 取消理由3(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とは、
「アクリル系樹脂フィルムの製造方法であって、
アクリル系樹脂にゴム弾性体粒子が配合されたアクリル系樹脂組成物を溶融押出しする押出し工程と、
前記溶融押出しされた前記アクリル系樹脂組成物を金属で形成されたロール及び弾性ロールで挟み込んでシート状のアクリル系樹脂フィルムを製膜する製膜工程と、
を有する製造方法。」である点で一致し、次の点において相違している。
[相違点2’]
本件発明1は、「前記アクリル系樹脂フィルムのうち、前記金属で形成されたロールに接地する面を滑面、前記弾性ロールに接地する面をフィルム表面から突出する前記ゴム弾性体粒子の表面積が前記滑面よりも大きい粗面とする」ことが特定されているのに対し、甲1発明では、当該フィルムの表面状態が特定されていない点。
[相違点3]
本件発明1は、「前記アクリル系樹脂フィルムの前記粗面側に接着剤層を介して前記他のフィルムを積層する積層工程と、を備えることを特徴とする積層体の製造方法」であるのに対し、甲1発明には、他のフィルムを積層する工程は特定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点2’について
上記相違点2について検討したとおり、甲1発明において、高剛性の金属ロールに接するフィルムの面が滑面、金属弾性ロールに接するフィルムの面が粗面となっているということはできないから、相違点2’は、実質的な相違点である。
そして、甲1発明に係るフィルムの表面を、一方は滑面とし他方は粗面とする動機付けがあるとはいえないから、甲2、甲3及び甲6に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、相違点2’に係る本件発明1の構成に至ることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(イ)相違点3について
上記(ア)のとおり、甲1発明に係るフィルムの表面が、一方は滑面、他方は粗面となっているともいえず、また、そのようにする動機付けもない以上、甲2、甲3、甲6、甲7に記載された事項、及び粗面の接着力が滑面に比べ優れるという周知技術(甲4、甲5等)を考慮しても、当業者が、甲1発明に基づいて、「前記アクリル系樹脂フィルムの前記粗面側」があることを必須とする相違点3に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明、甲2、甲3、甲6、甲7に記載された事項、及び周知技術(甲4、甲5等)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、本件発明1をさらに限定したものである。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2ないし6は、甲1に記載された発明、甲2、甲3、甲6、甲7に記載された事項、及び周知技術(甲4、甲5等)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由によっては、本件発明1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件発明1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-09-14 
出願番号 特願2015-30269(P2015-30269)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G02B)
P 1 651・ 113- Y (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保田 英樹  
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 藤原 浩子
西山 義之
登録日 2016-09-23 
登録番号 特許第6009013号(P6009013)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 積層体の製造方法及びアクリル系樹脂フィルムの製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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