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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01B
管理番号 1332610
審判番号 不服2016-17432  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-22 
確定日 2017-10-10 
事件の表示 特願2011-275631「炉壁形状測定装置、炉壁形状測定システム、および炉壁形状測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 9日出願公開、特開2012-150103、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
特許出願: 平成23年12月16日
(優先権主張平成22年12月27日)
拒絶査定: 平成28年8月17日(送達日:同年9月13日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成28年11月22日
手続補正: 平成28年11月22日
拒絶理由通知: 平成29年6月12日
(以下、「当審拒絶理由」という。発送日:同年同月13日)
手続補正: 平成29年8月7日(以下、「本件補正」という。)
意見書: 平成29年8月7日


第2 原査定の概要
原査定(平成28年8月17日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1-6
・引用文献等 A-D
<引用文献等一覧>
A.特開2004-077019号公報
B.実公平4-054208号公報
C.特開平07-091931号公報
D.特開2008-175625号公報


第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2 本件出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用刊行物
1.特開平8-73860号公報(当審において新たに引用した文献)
2.特開2004-077019号公報(拒絶査定時の引用文献A)
3.特開平8-218071号公報(当審において新たに引用した文献)


1 理由1について
請求項5に「請求項1?4の何れか1項に記載の炉壁形状測定装置」の記載があるが、請求項3及び4に係る発明は、「炉壁形状測定システム」であって、「炉壁形状測定装置」でないから、請求項3、4を引用する請求項5に係る発明は、明確といえない。

2 理由2について(請求項1及び3に係る発明に対して)
・請求項1
・引用刊行物1-3
・備考
省略

・請求項3
・引用刊行物1-3
・備考
省略


第4 本願発明
本願請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明1-5は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
第1長手面および該第1長手面に対向する第2長手面を有し、前記第1長手面および前記第2長手面にそれぞれスリット状の第1窓および第2窓を備える断熱性保護箱内に配置された、
前記第2長手面の近傍に配置された、スリット状のレーザ光を射出する第1スリットレーザ光源と、
前記第1長手面の近傍に配置された、スリット状のレーザ光を射出する第2スリットレーザ光源と、
前記第1スリットレーザ光源から射出された前記レーザ光を反射して前記第1窓を介して第1炉壁表面へ該レーザ光を照射する第1レーザ光用ミラーと、
前記第2スリットレーザ光源から射出された前記レーザ光を反射して前記第2窓を介して前記第1炉壁表面に対向する第2炉壁表面へ該レーザ光を照射する第2レーザ光用ミラーと、
前記第1窓を介して前記断熱性保護箱内に入射する、前記レーザ光の照射による反射光および前記第1炉壁表面が発する自発光を反射する第1撮像用ミラーと、
前記第2窓を介して前記断熱性保護箱内に入射する、前記レーザ光の照射による反射光および前記第2炉壁表面が発する自発光を反射する第2撮像用ミラーと、
前記第1および第2撮像用ミラーから反射された前記自発光と前記反射光とを光学フィルタを介して撮像する撮像装置と、を備え、
前記第1および第2スリットレーザ光源が射出するレーザ光の光軸は、前記断熱性保護箱の長手面に対し平行に配置され、
前記断熱性保護箱の前記第2長手面に対して30度以上の角度をなして配置された前記第1レーザ光用ミラーに対する前記レーザ光の入射角が60度以下、および、前記断熱性保護箱の前記第1長手面に対して30度以上の角度をなして配置された前記第2レーザ光用ミラーに対する前記レーザ光の入射角が60度以下であり、
前記光学フィルタは、前記レーザ光の波長を透過する狭帯域のバンドパス特性を持つ第1透過領域と前記自発光の波長を透過する広帯域のバンドパス特性を持つ第2透過領域とを有することを特徴とする炉壁形状測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の炉壁形状測定装置と、
前記炉壁形状測定装置の炉内位置を検出する位置検出手段と、
前記炉壁形状測定装置の撮像装置により撮像された画像と前記炉壁形状測定装置の位置とから前記第1および第2炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成する画像処理手段と、
を備える炉壁形状測定システム。
【請求項3】
前記画像処理手段は、前記自発光が撮像された画像領域のうち垂直方向1ラインの1次元自発光ラインと、前記反射光が撮像された画像領域のうち前記スリット状のレーザ光の像から三角測量の原理に基づいて炉壁の垂直方向1ラインの凹凸形状を算出した1次元凹凸形状ラインとを、前記位置検出手段が検出した前記炉壁形状測定装置の炉内位置に関して整列することにより、前記第1および第2炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成することを特徴とする請求項2に記載の炉壁形状測定システム。
【請求項4】
位置検出手段が、請求項1に記載の炉壁形状測定装置の炉内位置を検出する位置検出ステップと、
前記炉壁形状測定装置が、炉壁表面へ照射されたスリット状のレーザ光の反射光と、該炉壁表面が発する自発光とを、1つの画像内にて分離して撮像する撮像ステップと、
画像処理手段が、前記自発光が撮像された画像領域のうち垂直方向1ラインの1次元自発光ラインを抽出する1次元自発光ライン抽出ステップと、
前記画像処理手段が、前記反射光が撮像された画像領域のうち前記スリット状のレーザ光の像から三角測量の原理に基づいて炉壁の垂直方向の1次元凹凸形状ラインを算出した凹凸形状算出ステップと、
前記画像処理手段が、前記位置検出ステップにより検出した前記炉壁形状測定装置の炉内位置と、前記1次元自発光ライン抽出ステップにより抽出した1次元自発光ラインと、前記凹凸形状算出ステップにより抽出した1次元凹凸形状ラインとを用いて、前記炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成する画像生成ステップと、
を含むことを特徴とする炉壁形状測定方法。
【請求項5】
前記画像生成ステップは、前記画像処理手段が、前記1次元自発光ライン抽出ステップにより抽出した1次元自発光ラインと、前記凹凸形状算出ステップにより抽出した1次元凹凸形状ラインと、前記炉壁形状測定装置の炉内位置に関して整列させることにより前記炉壁表面の自発光画像および凹凸形状の画像を生成することを特徴とする請求項4に記載の炉壁形状測定方法。」


第5 引用刊行物、引用発明等
1.引用刊行物1について
当審拒絶理由に引用された引用刊行物1には、次の事項が記載されている。

「【0006】
【作用】本発明のコークス炉隔壁の損傷部測定方法は、隔壁Wに投光部の基準線状光SLを投光し、基準線状光SLが投射される隔壁Wを撮像部により撮像し、該撮像画像を画像処理して損傷部の検出を行うものであるが、撮像光軸RAとの交差点が基準隔壁位置SWとなるよう一定の投光軸角度θをもつ基準線状光SLを投光する投光部の基準線状光SLが隔壁Wの変位部や耐火レンガの目地切れ、肌荒れ、貫通、亀裂、欠損部等に投射され、隔壁Wに投射された基準線状光SLの変位を投射線状光RLとして撮像した撮像画像は画像処理され、投射線状光RLと基準線状光SLとの変位量及び投射線状光RLの部分変位量hや部分変位幅sが撮像画像から算出されて隔壁Wの変位及び損傷部の凹凸量や大きさ等が測定されることとなる。
【0007】
【実施例】次に、本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。1は隔壁で区切られた炭化室2と燃焼室3とを交互に配置したコークス炉4上に走行自在に配設される移動台車であり、該移動台車1にはコークス炉4の炭化室2や燃焼室3の装炭口2aや覗き孔3aを通じて内部に挿入される回転自在なプローブ5が昇降動自在に装着されている。6は昇降動自在なプローブ5を傾動自在に支持するガイドフレーム7に取り付けられるプローブガイド用ローラである。また、前記プローブ5の先端には隔壁Wを撮像する撮像部8と基準線状光を投射する投光部9が上下に装着されており、該撮像部8と投光部9を保護するためプローブ5は内筒10と外筒11の二重構造として冷却水がその間隙に循環されるようになっている。
【0008】前記撮像部8はCCDのような撮像素子をもつビデオカメラよりなり、撮像光軸RAが隔壁Wと直交するようプリズム12により設定されるとともに、基準隔壁位置SWと一定距離L0 を隔てて隔壁Wと対面している。また、投光部9は半導体レーザよりなり、撮像部8の若干下方に配置されている。半導体レーザは撮像部8による隔壁画像と識別できる強度のスリットレーザ光(基準線状光)を隔壁Wに投光するものであり、基準線状光SLの投光軸角度θは撮像部8の撮像光軸RAとの交差点が基準隔壁位置SWとなるようプリズム13により設定されている。」

「【0011】また、測定装置15の冷却水量・水温検出装置19は冷却水量や水温をチェックして撮像部8や投光部9が高温により損傷されることを防止するためのものである。20は内筒10と外筒11に取り付けられる石英ガラス等の耐熱性ガラスで、該耐熱性ガラス20を通じて投光部9の基準投射光が隔壁に投射されるようにするとともに、撮像部9に撮像光が入射されるようにしている。21は基準線状光SLの駆動装置であり、該駆動装置21はプローブ先端の投光部9と光ファイバー22を介して接続し、光ファイバー22により伝送される信号に基づいて半導体レーザが発振されるようにして駆動装置21が熱により影響を受けないようにしている。
【0012】このように構成されたものは、定期点検時にはコークス炉4上に走行自在に設けられた移動台車1に装着された昇降動自在なプローブ5を装炭口2aや覗き孔3aを通じて炭化室2や燃焼室3内に挿入する。そしてプローブ5を回転させつつ昇降動させて炭化室2や燃焼室3の隔壁をプローブ5の先端に設けた撮像部8により順次撮像してゆく、撮像部8による撮像の際、隔壁Wと直交し、且つ基準隔壁位置SWと一定距離L0隔ている撮像光軸RAとの交差点が基準隔壁位置SWにあるようプリズム13により設定されている基準線状光SLが投光部9より隔壁Wに投光されることになり、隔壁Wに投射された投射線状光RLも撮像部8により同時に撮像されることとなる。」


上記図2より、内筒10及び外筒11が第1長手面および該第1長手面に対向する第2長手面を有し、前記第1長手面に耐熱性ガラス20を備えていることが見て取れる、また、第1窓撮像部8、投光部9、プリズム12及びプリズム13が内筒10及び外筒11内に配置されていること、投光部9は第2長手面の近傍に配置され、その照射光の光軸は、前記長手面に対し平行に配置され、プリズム13に反射されて耐熱性ガラス20を介して隔壁Wに照射されること、また耐熱性ガラス20を介して内筒10及び外筒11内に入射する、前記照射による反射光をプリズム12が反射し、該反射光を撮像部8が撮像することが見て取れる。

したがって、上記引用刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。(対応する引用刊行物1の記載箇所を括弧書きで示す。)

「第1長手面および該第1長手面に対向する第2長手面を有し、前記第1長手面に耐熱性ガラス20を備える内筒10及び外筒11内に配置された、(【0007】、【0011】、図2)
前記第2長手面の近傍に配置された、スリットレーザ光(基準線状光)を隔壁Wに投光する投光部9と、(【0008】、図2)
前記スリットレーザ光を反射して前記耐熱性ガラス20を介して隔壁Wへ該スリットレーザ光を照射するプリズム13と、(【0008】、【0011】、図2)
前記耐熱性ガラス20を介して前記内筒10及び外筒11内に入射する、前記照射による反射光を反射するプリズム12と、(【0008】、【0011】、図2)
前記プリズム12から反射された前記反射光を撮像する撮像部8と、を備え、(【0008】、図2)
撮像部8と投光部9を保護するため、内筒10と外筒11の二重構造として冷却水がその間隙に循環されるようになっており、(【0007】)
前記投光部9が射出する光の光軸は、前記内筒10及び外筒11の長手面に対し平行に配置される(【0008】、図2)、コークス炉隔壁の変位及び損傷部の凹凸量や大きさ等の損傷部測定装置(【0006】)。」

2.引用刊行物2?3について
ア 当審拒絶理由に引用された引用刊行物2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0042】
本発明において、図1、図7?図8に示すように光ビーム照射装置9や撮像装置8をはじめとする電子機器は断熱容器3内に収納し、鏡面2は断熱容器3の外側に配置する。断熱容器3に対しては、炉外からの冷却水の供給や電源配線・信号配線の接続を有しない。従って、炉内に設置する炉壁形状測定装置1を軽量かつ小型化することができ、炉内に挿入し移動する構造物、例えばコークス炉炭化室51のコークス押出機53に容易に着脱することが可能である(図6)。図7に示すように、断熱容器3はその表面を断熱材4によって被覆し、短時間であれば高温の炉内に滞在して内部の電子機器を正常に作動させることができる。コークス炉炭化室51であれば、炉内に3分間滞在することが可能であり、炉壁形状測定装置1を装着したコークス押出機53を炉内に挿入し、炉の奥行方向全長を観察して炉外に抽出するための最低限の時間を確保することができる。断熱容器3を被覆する断熱材4としては、例えばセラミックファイバーボードまたはケイ酸カルシウムボード等を用いることができる。
【0043】
本発明においては、鏡面2を断熱容器3の外側に配置するので、観察装置の視野を確保するための断熱容器3の観察窓26を最小限の大きさに留めることができる。プリズムをボックス内に収納して広い視野を確保しようとする従来技術においては、ボックスに設置する観察窓の大きさを大きくする必要があり、本発明のように断熱容器3を用いる場合には観察窓から容器内に浸入する輻射熱によって容器内の温度が急速に上昇する問題があったが、本発明のように鏡面2を断熱容器3の外側に配置した結果として、観察窓26を小さくできるので、ここから浸入する輻射熱を最小限に留め、断熱容器内の温度上昇を防止することができる。観察窓26には石英ガラス等の耐熱ガラスを装着する。耐熱ガラスは金属蒸着等の手段によって外部からの輻射熱を反射する機能を有することが好ましい。」

イ 当審拒絶理由に引用された引用刊行物3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0019】また後述するCCDカメラのコントローラ21もカメラ首振り駆動装置収納ボックス12内に配置されており、全てのケーブル等はこのカメラ首振り駆動装置収納ボックス12内に集められ、直立ブーム2及び挿入用ブーム1のN2 ガス及び配線ケーブル用管路1a、2aを通り外部の信号処理器44に接続されている。さらにカメラ首振り駆動装置収納ボックス12内には、図5および図6に示すように左右対称位置にレーザ距離計41および放射温度計42がそれぞれブラケット43a、43bを介して取り付けてある。これらレーザ距離計41および放射温度計42は、コークス炉炭化室47の長手方向の側壁面に直角になるように配設しており、左右のレーザ距離計41からそれぞれ長手方向の側壁面にレーザ光線を放射し、その反射レーザ光線を受光することによって両側壁面間の距離を求める一方、放射温度計42によって両側壁面の温度を求めるようになっている。」


第6 当審拒絶理由についての判断
1.特許法第29条第2項について
(1)本願発明1について
ア 対比
まず、引用発明における「耐熱性ガラス20」と、本願発明1における「スリット状の第1窓および第2窓」とは、「第1窓」である点で共通し、また引用発明は、「撮像部8と投光部9を保護するため、内筒10と外筒11の二重構造として冷却水がその間隙に循環されるようになって」いるものであるから、引用発明の「内筒10及び外筒11」は、本願発明1における「断熱性保護箱」に相当する。そうすると、引用発明における「第1長手面および該第1長手面に対向する第2長手面を有し、前記第1長手面に耐熱性ガラス20を備える内筒10及び外筒11内に配置された、」点と、本願発明1における「第1長手面および該第1長手面に対向する第2長手面を有し、前記第1長手面および前記第2長手面にそれぞれスリット状の第1窓および第2窓を備える断熱性保護箱内に配置された、」点とは、「第1長手面および該第1長手面に対向する第2長手面を有し、前記第1長手面に第1窓を備える断熱性保護箱内に配置された、」点で共通する。
次に、引用発明における「前記第2長手面の近傍に配置された、スリットレーザ光(基準線状光)を隔壁Wに投光する投光部9」は、本願発明1における「前記第2長手面の近傍に配置された、スリット状のレーザ光を射出する第1スリットレーザ光源」に相当する。
さらに、引用発明における「前記スリットレーザ光を反射して前記耐熱性ガラス20を介して隔壁Wへ該スリットレーザ光を照射するプリズム13」、「前記耐熱性ガラス20を介して前記内筒10及び外筒11内に入射する、前記照射による反射光を反射するプリズム12」は、それぞれ本願発明1における「前記第1スリットレーザ光源から射出された前記レーザ光を反射して前記第1窓を介して第1炉壁表面へ該レーザ光を照射する第1レーザ光用ミラー」、「前記第1窓を介して前記断熱性保護箱内に入射する、前記レーザ光の照射による反射光および前記第1炉壁表面が発する自発光を反射する第1撮像用ミラー」と、「前記第1スリットレーザ光源から射出された前記レーザ光を反射して前記第1窓を介して第1炉壁表面へ該レーザ光を照射する第1レーザ光用反射体」、「前記第1窓を介して前記断熱性保護箱内に入射する、前記レーザ光の照射による反射光を反射する第1撮像用反射体」である点で共通する。
また、引用発明における「前記プリズム12から反射された前記反射光を撮像する撮像部8」と、本件発明1における「前記第1および第2撮像用ミラーから反射された前記自発光と前記反射光とを光学フィルタを介して撮像する撮像装置」とは、「前記第1撮像用反射体から反射された前記反射光を撮像する撮像装置」である点で共通する。
そして、引用発明における「前記投光部9が射出する光の光軸は、前記内筒10及び外筒11の長手面に対し平行に配置される」点と、本願発明1における「前記第1および第2スリットレーザ光源が射出するレーザ光の光軸は、前記断熱性保護箱の長手面に対し平行に配置され」る点とは、「前記第1スリットレーザ光源が射出するレーザ光の光軸は、前記断熱性保護箱の長手面に対し平行に配置され」る点で共通する。
そしてまた、引用発明の「コークス炉隔壁の変位及び損傷部の凹凸量や大きさ等の損傷部測定装置」は、「損傷部の凹凸量や大きさ等」を測定するものであり、これは本願発明1の「炉壁形状測定装置」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「第1長手面および該第1長手面に対向する第2長手面を有し、前記第1長手面に第1窓を備える断熱性保護箱内に配置された、
前記第2長手面の近傍に配置された、スリット状のレーザ光を射出する第1スリットレーザ光源と、
前記第1スリットレーザ光源から射出された前記レーザ光を反射して前記第1窓を介して第1炉壁表面へ該レーザ光を照射する第1レーザ光用反射体と、
前記第1窓を介して前記断熱性保護箱内に入射する、前記レーザ光の照射による反射光を反射する第1撮像用反射体と、
前記第1撮像用反射体から反射された前記反射光を撮像する撮像装置と、を備え、
前記第1スリットレーザ光源が射出するレーザ光の光軸は、前記断熱性保護箱の長手面に対し平行に配置される炉壁形状測定装置。」

(相違点1)本願発明1の「第1窓」は「スリット状」とされているのに対し、引用発明における「耐熱ガラス20」の形状は不明である点。

(相違点2)「第1撮像用反射体」及び「第1レーザ光用反射体」として、本願発明1では「第1撮像用ミラー」及び「第1レーザ光用ミラー」を備えるのに対し、引用発明では「プリズム12」及び「プリズム13」が用いられている点。

(相違点3)本願発明1は、「スリット状の」「第2窓」、「第2スリットレーザ光源」、「第2レーザ光用ミラー」、「第2撮像用ミラー」等、「第2炉壁」の形状測定のための構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(相違点4)本願発明1は、「レーザ光の照射による反射光」と併せて、「炉壁表面が発する自発光」が反射、撮像されるものであるが、引用発明においては該自発光が反射、撮像されるか否かは不明である点。

(相違点5)本願発明1は、「光学フィルタを介して撮像する」のに対し、引用発明においては光学フィルタが用いられているか否かは不明である点。

(相違点6)本願発明1は、「前記断熱性保護箱の前記第2長手面に対して30度以上の角度をなして配置された前記第1レーザ光用ミラーに対する前記レーザ光の入射角が60度以下、および、前記断熱性保護箱の前記第1長手面に対して30度以上の角度をなして配置された前記第2レーザ光用ミラーに対する前記レーザ光の入射角が60度以下」とされているのに対し、引用発明は、そのような構成を有さない点。

(相違点7)本願発明1は、「前記光学フィルタは、前記レーザ光の波長を透過する狭帯域のバンドパス特性を持つ第1透過領域と前記自発光の波長を透過する広帯域のバンドパス特性を持つ第2透過領域とを有する」とされているのに対し、引用発明は、そのような構成を有さない点。


イ 相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点7について検討すると、相違点7に係る本願発明1の「前記光学フィルタは、前記レーザ光の波長を透過する狭帯域のバンドパス特性を持つ第1透過領域と前記自発光の波長を透過する広帯域のバンドパス特性を持つ第2透過領域とを有する」という構成は、上記引用刊行物2-3には記載されておらず、本願の優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用刊行物1ないし3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。なお、該構成は原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献B-Dにも記載されていない。

(2)本願発明2-5について
本願発明2-5も、本願発明1の「前記光学フィルタは、前記レーザ光の波長を透過する狭帯域のバンドパス特性を持つ第1透過領域と前記自発光の波長を透過する広帯域のバンドパス特性を持つ第2透過領域とを有する」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用刊行物1ないし3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.特許法第36条第6項第2号について
当審では、
「請求項5に「請求項1?4の何れか1項に記載の炉壁形状測定装置」の記載があるが、請求項3及び4に係る発明は、「炉壁形状測定システム」であって、「炉壁形状測定装置」でないから、請求項3、4を引用する請求項5に係る発明は、明確といえない。」
との拒絶の理由を通知しているが、本件補正によって、特許請求の範囲が補正(上記「第4 本願発明」を参照。)された結果、この拒絶の理由は解消した。


第7 原査定についての判断
1.特許法第29条第2項について
本件補正により、補正後の請求項1-5は、「前記光学フィルタは、前記レーザ光の波長を透過する狭帯域のバンドパス特性を持つ第1透過領域と前記自発光の波長を透過する広帯域のバンドパス特性を持つ第2透過領域とを有する」という技術的事項を有するものとなった。当該技術的事項は、原査定における引用文献A-Dには記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないので、本願発明1-5は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Dに基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-25 
出願番号 特願2011-275631(P2011-275631)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01B)
P 1 8・ 121- WY (G01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梶田 真也  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 須原 宏光
中塚 直樹
発明の名称 炉壁形状測定装置、炉壁形状測定システム、および炉壁形状測定方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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