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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07J
管理番号 1332664
審判番号 不服2015-21545  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-04 
確定日 2017-09-13 
事件の表示 特願2012-528250「イソオキサゾリジン誘導体」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月17日国際公開、WO2011/029547、平成25年 2月 7日国内公表、特表2013-504524〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は2010年9月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年9月11日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、出願後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成24年 5月11日 手続補正書の提出
平成26年 7月18日付け 拒絶理由通知
同年10月28日 意見書・手続補正書の提出
平成27年 3月31日付け 拒絶理由通知
同年 7月 7日 意見書・手続補正書の提出
同年 7月28日付け 拒絶査定
同年12月 4日 拒絶査定不服審判の請求・手続補正書の提 出
平成28年11月25日付け 拒絶理由通知
平成29年 2月27日 意見書・手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、平成29年2月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「一般式(I)
【化1】

(式中、
R1は、(CH_(2))_(n)-Z-(CH_(2))_(n’)-R4(式中、nは1、n’は0、1または2である)であり;
Zは、単結合又はOであり;
R4は、
・H、ハロゲン、OH;
・オキソ基で置換されていてもよいアリール(C_(1)?C_(6))アルキル、(C_(1)?C_(6))アルキルカルボニル、(C_(1)?C_(6))アルキルカルボキシル、O(C_(1)?C_(6))アルキルカルボキシル、および(C_(1)?C_(6))アルコキシ;
・ハロゲン原子およびOHからなる群から選択される1つまたは複数の置換基で置換されていてもよい(C_(1)?C_(6))アルキル;
からなる群から選択され、
R2は、(CH_(2))_(p)R8であって、該R8は、ハロゲンおよび(C_(1)?C_(6))アルキルからなる群から選択される1つまたは複数の置換基で置換されていてもよい(C_(3)?C_(8))シクロアルキル、アリールおよび(C_(5)?C_(10))ヘテロシクロアルキルからなる群から選択され、該pは、0または1?3の整数であり、
XおよびYは、フッ素である。)
の化合物、またはその医薬として許容される塩。」

第3 当審における拒絶の理由の概要
平成28年11月25日付けで当審が通知した拒絶の理由は、理由2及び理由3を含むものであり、その概要はそれぞれ、次のとおりのものである。

1 理由2
理由2は、「本件出願は、特許請求の範囲が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合しないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。」というものであり、具体的には、次の事項が指摘されている。
「本願明細書及び出願時の技術常識からみて、本願発明1?10の発明が解決しようとする課題は、グルココルチコステロイド系列の新規の抗炎症性および抗アレルギー性化合物、又はそのような化合物を調製する方法を提供することにあると認められる。
そして、本願発明1?10はp=0の場合、R2が(C_(3)?C_(8))シクロアルキル等の環である化合物、及びR1についてのn、n ’、Z、R4について、各種の組み合わせを有する化合物のいずれか又は両者を包含し、広範な化合物を包含するところ、発明の詳細な説明には、R2が環である化合物、R1について例えばn=n’=0、Z=O、R4=ハロゲン、OH、SH、CN、NH_(2)である化合物等は具体的に記載されておらず、化学物質はその構造が異なればその製造方法及び生物学的活性等の性質が異なることを考慮すれば、具体的に記載された化合物と同様のものであるということもできない(なお、請求項8はR2が環のもののみが記載されている。)。
してみると、本願発明1?10に係る発明は、当業者が上記課題を解決できると認識できるものということはできず、これら発明は発明の詳細な説明に記載したものということはできない。」

2 理由3
理由3は、「本件出願の請求項1?7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、以下の刊行物1?4が引用されている。

刊行物1:J.Med.Chem.,(1982),25(12),p.1492-1495
刊行物2:特表2008-506649号公報
刊行物3:国際公開第2009/108118号
刊行物4:MITCHELL A. AVERY and JOHN R. WOOLFREY, ’10 EFFECT OF INDIVIDUAL STRUCTURAL CHANGES ON ANTIINFLAMMATORY ACTIVITY’, (1997), BURGER'S MEDICINAL CHEMISTRY AND DRUG DISCOVERY, Fifth Edition, Volume 5:Therapeutic Agents, JOHN WILEY & SONS, INC., p.281,327-363

第4 当審の判断
当審は、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合せず、同法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された前記刊行物1、2及び4に記載された発明並びに周知事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。その理由は次のとおりである。

1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本願明細書及び出願時の技術常識からみて、本願発明の発明が解決しようとする課題は、グルココルチコステロイド系列の新規の抗炎症性および抗アレルギー性化合物を提供することにあると認められる。
本願発明に係る化合物の製造方法について、発明の詳細な説明には、
「 【0125】
一般式(I)および(I’)の化合物は、当技術分野において開示されている方法に従って従来通り調製することができる。式(I’)の化合物の調製に使用することができるプロセスの一部は、以下のスキームに記載している通り、式(I)の化合物についても適用することができる。
【0126】
【化16】

【0127】
本発明の化合物の調製手順
本発明の特定の実施形態によると、本発明の化合物は、置換基R1、R2、XおよびYに応じて、スキームに記載の様々な経路に従って調製することができる。
【0128】
経路A1 - 式(V)の化合物を調製するための一般式(IV)の化合物とN-テトラヒドロピラニルヒドロキシルアミン(HO-NH-THP)との反応は、80?100℃の範囲の温度でプロトン性溶媒、例えば、EtOHなどにおいて実施することが好都合であり得る。THP保護基は、この反応条件で直接開裂される。
【0129】
これらの化合物を、当業者にすぐに分かる方法を使用して、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アシル、イソシアネート、塩化カルバモイルまたは塩化スルホニルでさらに官能化(J.Med.Chem.、379?388、1995;J.C.S.Chem.Comm.、256?257、1985)して、一般式(VI)の化合物を得ることができる。これらの反応は、通常、溶媒、例えば、ジクロロメタン(DCM)またはテトラヒドロフラン(THF)などにおいて実施し、室温(RT)から還流の温度範囲で進行する。この反応を促進するために塩基、例えば、トリエチルアミンまたはジイソプロピルエチルアミンなどが必要となり得る。ハロゲン化アリールとの反応は、知られているイソオキサゾリジンの銅触媒N-アリール化を行いながら実施することができる(Bioorg.Med.Chem. Lett.、2834、2005)。アセチルエステルは、アルコールの脱アセチル化の標準条件を使用して容易に加水分解することができ、例えば、該化合物を、好適な溶媒(例えば、メタノールまたはエタノール)において塩基、例えば、水酸化ナトリウムもしくはカリウムまたは炭酸カリウムなどで処理する。この反応は、通常、RTで1?5時間にわたって進行し、それにより、一般式(VI)の化合物が生じる。
【0130】
一般式(IV)の化合物は、文献で報告されている標準的手順に従って調製できることが好都合である。例えば、それらは、一般式(III)の化合物の塩基、例えば、酢酸カリウムなどによる処理により調製することができる。この反応は、通常、好適な極性溶媒、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)などにおいて実施し、一般に80?110℃の温度範囲で、0.5?4時間にわたって進行する。
【0131】
式(III)の化合物は、知られている化合物から当業者によく知られている方法により容易に調製することができ、一般式(II)の化合物から出発する(J.Med.Chem.1982、25、1492?1495)。
【0132】
経路A2 - あるいは、一般式(VI)の化合物は、ニトロンの付加環化によるイソオキサゾリジン形成の知られている手順を使用して、パラホルムアルデヒドの存在下での式(VII)の化合物と式(X)の化合物との反応から出発して調製することができる(J.Med.Chem.、25、1492?1495、1982)。この反応は、80?100℃の範囲の温度で、プロトン供与溶媒、例えばエタノールなどにおいて実施することが好都合である。式(X)のヒドロキシルアミンは、市販されているか、または当業者によく知られている手順を使用して、例えばオキシムを、還元剤、例えばボランピリジン錯体などで還元すること(J.Med.Chem.、40、1955?1968、1997)により、またはO-テトラヒドロピラニルヒドロキシルアミンと好適なアルキル化剤、例えば、ハロゲン化アルキルなどとの反応(Chem.Pharm.Bull.、46、966?972、1998)により容易に調製することができる。
【0133】
式(VII)の化合物は、式(IV)の化合物を加水分解することにより調製することができる。この反応は、化合物(IV)に酵素、例えば、Candida Antarctica由来の固定化リパーゼ(Sigma Aldrich)などの作用を受けさせることにより実施することが好ましい(Tetrahedron、50、13165?13172、1994)。
【0134】
経路A3 - 一般式(VIII)の化合物は、式(VII)の化合物とHO-NH-THPとの反応から出発して調製することができる。この反応は、80?100℃の範囲の温度でジオキサンにおいてまたはプロトン性溶媒、例えばEtOHなどにおいて実施することが好都合であり得る。THP保護基は、この反応条件で直接開裂される。得られた(VIII)を、0℃?RTの温度で、好適な溶媒、例えば、DCMまたはTHFなどにおけるジヒドロピランによる処理により都合よくおよび選択的に保護して、式(IX)の化合物を得ることができる。この反応は、0.5?3時間の範囲の時間で完了する。式(IX)の化合物は、経路A1に記載したように、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アシル、イソシアネート、塩化カルバモイルまたは塩化スルホニルでさらに官能化することができる。THP保護基は、保護された中間体を好適な溶媒、例えば、THFまたはジオキサンなどにおいてHClで処理することにより容易に除去することができる。この反応は、通常、RTで1?15時間にわたって進行し、それにより一般式(VI)の化合物が生じる。
【0135】
経路A - 一般式(VI)の化合物の6b位の2-ヒドロキシアセチル部分のヒドロキシル基の一般式(XI)の化合物の離脱基(LG)への転化は、好適な溶媒、例えばピリジンなどにおいて式(VI)の化合物を塩化メタンスルホニルまたは塩化p-トルエンスルホニルで処理することにより実施することができる(Marchによる「Advanced Organic Chemistry」、Wiley-Interscience)。この反応は、通常、RTで1?5時間にわたって実施する。
【0136】
一般式(XI)の化合物のLGを、求核試薬、例えば、ハロゲン化物アニオン、アルコール、チオール、チオ酸、アミン、アミドおよびカルバニオンなどにより容易に置換(J.Org.Chem.、1042、1999;J.Steroid.Biochem.13、311?322、1980)して、R1=(CH_(2))_(n)-Z-(CH_(2))_(n’)-R4(式中、n=0であり、ZおよびR4は上で定義した通りである)である一般式(I)および(I’)の化合物を得ることができる。この反応は、通常、好適な溶媒、例えば、DCM、THFまたはジメチルホルムアミド(DMF)などにおいて0?80℃の温度範囲で1?5時間にわたって実施し、塩基、例えば、炭酸ナトリウムもしくはカリウムまたは水素化ナトリウムなどにより促進することができる。得られた生成物は、記載した求核置換反応により導入した部分を修飾することによりさらに官能化することができる。
【0137】
経路B - 一般式(XII)の中間体を得るためのよく知られている酸化条件下での式(VI)の化合物の反応。この反応は、通常、開放空気において、室RTで12?48時間にわたって、無機塩基、例えば、水酸化ナトリウムまたはカリウムなどの水溶液の存在下で、好適な溶媒、例えばTHFなどにおいて実施する。
【0138】
経路B1 - 1当量以上の酸活性化剤、例えば、カルボニルジイミダゾールなどによる酸(XII)の処理による、式(XII)の中間体の、R1=(CH_(2))_(n)-Z-(CH_(2))_(n’)-R4(式中、n=0であり、ZおよびR4は上で定義した通りである)である一般式(I)および(I’)の化合物への転化。この反応は、通常、好適な極性溶媒、例えばDMFなどにおいて、0?80℃の温度範囲で1?2時間にわたって実施する。活性化した酸は、求核試薬、例えば、アルコール、チオール、チオ酸およびアミンなどと反応させることができる。この反応は、塩基、例えば、炭酸ナトリウムまたはカリウム、水素化ナトリウムなどにより促進することができ、0?20℃の範囲の温度で1?24時間にわたって進行する。
【0139】
あるいは、式(XII)の中間体は、よく知られている条件下で、好適な溶媒、例えばDCMなどにおいて塩化オキサリルを使用して、対応する塩化アシルに転化することができる。活性化した中間体は、求核試薬、例えば、アルコール、チオール、チオ酸、アミンならびにカルバニオン、例えば、アルキル、アリールおよびヘテロアリールクプラートなど、または塩化アシルの対応するケトンへの転化に適していると文献で報告されている他の有機金属化合物などと反応させることができる。
【0140】
経路B2 - 酸(XII)とカルボニルジイミダゾールとの反応、ならびにその後のチオ酢酸のナトリウム塩および/または無水硫化水素との反応に由来する、式(XII)の中間体の一般式(XIII)の化合物への転化。この反応は、通常、0?20℃の範囲の温度で、予め形成した塩のこの反応溶媒溶液を活性化した酸の溶液に添加することにより実施する。容易に形成したチオ酸中間体(XIII)を、in situでアルキル化剤、例えばブロモアルカンなどと反応させ、それにより、R1=(CH_(2))_(n)-Z-(CH_(2))_(n’)-R4(式中、n=0、Z=Sであり、R4は上で定義した通りである)である一般式(I)および(I’)のチオエステルが生じる。好適なブロモアルカン、例えばブロモ-クロロメタンなどの選択により、R1=(CH_(2))_(n)-Z-(CH_(2))_(n’)-R4(式中、n=0、Z=Sであり、R4は上で定義した通りである)である式(I)および(I’)の化合物の調製が可能となり、それは、さらに修飾することができる。例えば、R4がクロロメチルであるこれらの化合物とヨウ化カリウムとの反応、およびその後のフッ化銀による処理により、R4=フルオロメチルである式(I)および(I’)の化合物の調製が可能となり得る。これらの反応は、当業者によく知られている(J.Med.Chem.、37、3717-3729、1994)。
【0141】
経路C - ニトロンの付加環化によるイソオキサゾリジン形成の知られている手順を使用した、パラホルムアルデヒドの存在下での一般式(IV)の中間体と式(X)のヒドロキシルアミンとの反応。この反応は、プロトン供与溶媒、例えばエタノールなどにおいて実施することが好都合である。この反応は、高温、例えば60?85℃で実施することが好都合であり、それにより、R1=(CH_(2))_(n)-Z-(CH_(2))_(n’)-R4(式中、n=1、Z=O、R4=Ac)である一般式(I)および(I’)の化合物が生じる。
【0142】
一般式(XIV)の中間体は、塩基、例えばピリジンなどの存在下で、好適な溶媒、例えばDMFなどにおいて、R1=(CH_(2))_(n)-Z-(CH_(2))_(n’)-R4(式中、n=1、Z=O、R4=AcおよびX=H)である一般式(I)および(I’)の化合物を塩化メタンスルホニルで処理することにより調製することができる。この反応は、80?100℃の範囲の温度で1?5時間にわたって進行する。
【0143】
対応するアルケンから出発するクロロヒドリンの調製のよく知られている条件下で式(XIV)の化合物を反応させることにより、R1=(CH_(2))_(n)-Z-(CH_(2))_(n’)-R4(式中、n=1、Z=O、R4=HおよびX=Cl)である一般式(I)および(I’)の化合物を得ることが可能となる。この反応は、塩素化剤、例えば、N-クロロスクシンイミドまたはジクロロ-5,5-ジメチルヒダントインなどの使用を伴い、酸、例えば過塩素酸などにより促進される。この反応は、通常、極性溶媒、例えばTHFなどにおいて、0?20℃の温度範囲で1?4時間にわたって実施する。式(XIV)の化合物のアセチルエステルは、アルコールの脱アセチル化の標準条件を使用して容易に加水分解することができ、例えば、該化合物を溶媒、例えば、メタノールまたはエタノールなどにおいて塩基、例えば、炭酸ナトリウムまたはカリウムなどで処理する。この反応は、通常、0?20℃の範囲の低温で、0.5?2時間にわたって進行する。
【0144】
経路D - 当業者によく知られている手順を使用した、一般式(VI)の中間体と塩化アシルとの反応。この反応は、塩基、例えばトリエチルアミンなどの存在下で、溶媒としてのDCMにおいて、室温で20?50時間にわたって実施することが好都合である。この手順により、R1=(CH_(2))_(n)-Z-(CH_(2))_(n’)-R4(式中、n=1、Z=O、R4は上で定義した通りである)である化合物式(I’)の化合物の調製が可能となり得る。
【0145】
経路E - 一般式(I’)の化合物を得るための一般式(XV)の化合物の合成およびその後の付加環化反応のワンポット手順。この手順の第1のステップは、C21での対応するメシレートの形成を必然的に伴い、乾燥アセトニトリル中の塩化メシルおよびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を用いるよく知られている条件により、中間体(VII)から出発する。次いで、フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAF)およびKIのin situ添加ならびに8?20時間にわたる加熱により、フッ素原子の導入を実施できることが好都合である。経路Cに記載の知られている条件下、パラホルムアルデヒドの存在下での得られた中間体(XV)と式(X)のヒドロキシルアミンとの環化付加反応により、一般式(I’)の化合物(式中、R1=CH_(2)-Fであり、R2は上で定義した通りである)が形成される。」との記載があり、さらに、実施例として、例1?25において、具体的な化合物の製造方法、収率、分析結果が示され(段落【0151】?【0331】、本発明の化合物の薬理活性として、例26?30において、薬理学的試験の方法及び結果が示されている(段落【0332】?【0344】)。
しかしながら、本願発明は、式(I)において、Z=Oであり、n’=0であり、R4=ハロゲン、OH、O(C_(1)?C_(6))アルキルカルボキシル、又は(C_(1)?C_(6))アルコキシである化合物を包含する(これらの化合物は、O-ハロゲン又はO-O構造を有するものである(以下「化合物群A」という。なお、ハロゲンは本願明細書の記載によればフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を包含する。)ところ、発明の詳細な説明には、当該化合物の製造方法について、段落【0126】の反応図(化合物(XI)から化合物(I)を得る経路、化合物(VI)から化合物(I’)を得る経路)及び段落【0136】及び【0144】に一般的な製造方法に関する記載はあるものの、かかる一般的な製造方法によって化合物群Aの化合物が製造されることは具体的に記載されておらず、化学物質はその構造が異なれば、反応性等の化学的性質等が異なることを考慮すれば、化合物群Aの化合物が、具体的にその製造方法が示された化合物と同様に化学的に安定な化合物として製造することができ、同様の薬理活性を有しているとはいえず、また、製造することができ、同様の薬理活性を有しているという技術常識もない。
してみれば、化合物群Aの化合物を包含する本願発明が上記した発明が解決しようとする課題を解決することができると当業者が認識できるということはできない。
したがって、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものということはできないから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合せず、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

2 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)引用刊行物及びその記載
刊行物1:J.Med.Chem.,(1982),25(12),p.1492-1495(当審の拒絶理由通知で引用した刊行物1)
刊行物2:特表2008-506649号公報(当審の拒絶理由通知で引用した刊行物2)
刊行物4:MITCHELL A. AVERY and JOHN R. WOOLFREY, ’10 EFFECT OF INDIVIDUAL STRUCTURAL CHANGES ON ANTIINFLAMMATORY ACTIVITY’, (1997), BURGER'S MEDICINAL CHEMISTRY AND DRUG DISCOVERY, Fifth Edition, Volume 5:Therapeutic Agents, JOHN WILEY & SONS, INC., p.281,327-363 (当審の拒絶理由通知で引用した刊行物4)

刊行物1(表の記載を除き、訳文で示す):
1a)「いくつかのステロイド系[16α,17α-d]イソオキサゾリジン類の合成と局所抗炎症活性」(表題)

1b)「医薬品化学者にとって、親分子の生物学的活性を変えるためのステロイド核への複素環の縮合は非常に生産的な努力である。・・・。環Dが複素環と縮合したコルチコステロイド類の例は[17α,16α-d]-2'-メチルオキサゾリン1^(2)と16α-ヒドロキシ-16,17-アセトニド2と3を包含する。・・・。
高い局所抗炎症活性を有する新規な化合物を見つけることを目的としたプログラムの中で、我々はコルチコステロイド類の16,17-位に別の複素環が縮合したステロイドの合成を模索してきた。この報告で我々は、

一連の[16α,17α-d]イソオキサゾリジン類の調製と局所抗炎症活性について述べる。」(1492頁左欄下から15行?右欄最下行)

1c)「スキームI

」(1493頁左欄)

(1d)「表I.ステロイドの[16α, 17α-d]イソオキサゾリジン類と標準ステロイド類の物理学的及び生物学的データ

^(a)DMF中。^(b)MeOH中。^(c)ベタメタソンバレレート=100とした際の急性、マウスの耳、クロトン油アッセイ。括弧内の数値は推定される効力の95%信頼水準の範囲である。^(d)0.3μgがテストされた最高服用量であった。」(1494頁左欄)

1e)「生物学的結果
局所抗炎症活性は、修正した^(14)トネリらのクロトン油耳アッセイ^(15)によってマウスで測定した。この急性アッセイにおいて、イソオキソゾリジン類16-19は局所抗炎症剤として活性であることが見出された(表I)。実際、最も強力な化合物18は、他の16,17-複素環縮合ステロイド1-3と同様、標準であるβ-メタゾン17-バレレートよりもかなり強力であった。この[16α,17α-d]イソオキサゾリジンシリーズでは、C_(9)におけるフッ素の導入が、2'-メチル化合物16の効力を2倍としたのに対し、2'-ベンジル類似体17では何の効果もなかったのは注目に値する。」(1494頁左欄表Iの下5?17行)

1f)「実験の部
・・・
11β,21-ジヒドロキシ-1,4,16-プレグナトリエン-3,20-ジオン21-アセテート(10)。・・・。CHCl_(3)/EtOAc(3:1)での溶出により、10を結晶の固体(7.1g)として得た:mp 199-201℃・・・。
9α-フルオロ-11β,21-ジヒドロキシ-1,4,16プレグナトリエン-3,20-ジオン21-アセテート(15)。・・・。CHC1_(3)溶出を濃縮、乾燥し(6.8g)、次いでMe_(2)CO/ヘキサンから結晶化して15(2.6g)を得た: mp 211-215℃・・・。
ステロイドの2'-メチル-置換[16α,17α-d]イソオキサゾリジン類16及び18。化合物10・・・。 CHC1_(3)/EtOAc(3:7)での溶出により、最初に16(0.695g )を得、それをEtOAcから結晶化して純粋な16 (0.48 g )を得、・・・。16:^(1)H NMR・・・。
15(0.804g )に同様の操作を行うことにより18(0.35g )を得、それをEtOAc/ヘキサンから結晶化して18(0.282 g)を得た:^(1)H NMR・・・
ステロイドの2'-ベンジル-置換[16α,17α-d]イソオキサゾリジン類17及び19。化合物10・・・。この生成物をシリカゲル(70 g)上のクロマトグラフィーにかけ、CHC1_(3)/EtOAc(3:1)での溶出により、17(0.34g )を得、それをMe_(2)CO/ヘキサンから結晶化して純粋な17(0.191g)を得た:^(1)H NMR・・・。
15(0.804 g )に同様の操作を行うことにより19(0.26g )を得、それをEtOAc/ヘキサンから結晶化して純粋な19(0.197 g)を得た: ^(1)H NMR・・・。」(1494頁左欄下から22行?1495頁右欄2行)

刊行物2:
2a)「【請求項1】
遊離または塩形の、式I
【化1】

[式中、
R^(1)は、C_(1)-C_(8)-アルキルおよびC_(3)-C_(8)-シクロアルキルからなる群から選択され;そして
R^(2)は、水素、C_(2)-C_(8)-アルキルカルボニルおよびC_(3)-C_(8)-シクロアルキルカルボニルからなる群から選択される。]
の化合物。
・・・
【請求項4】
・・・
(4aR,5S,6aS,6bR,9aS)-8-シクロヘキシル-5-ヒドロキシ-6b-(2-ヒドロキシ-アセチル)-4a,6a-ジメチル-4a,4b,5,6,6a,6b,8,9,9a,10,10a,10b,11,12-テトラデカヒドロ-7-オキサ-8-アザ-ペンタレノ[2,1-a]-フェナントレン-2-オン;
2-((4aR,5S,6aS,6bR,9aS)-8-シクロヘキシル-5-ヒドロキシ-4a,6a-ジメチル-2-オキソ-2,4a,4b,5,6,6a,8,9,9a,10,10a,10b,11,12-テトラデカヒドロ-7-オキサ-8-アザ-ペンタレノ[2,1-a]-フェナントレン-6b-イル)-2-オキソ-イソ酪酸エチルエステル;
・・・;または
2-((4aR,5S,6aS,6bR,9aS)-8-シクロヘキシル-5-ヒドロキシ-4a,6a-ジメチル-2-オキソ-2,4a,4b,5,6,6a,8,9,9a,10,10a,10b,11,12-テトラデカヒドロ-7-オキサ-8-アザ-ペンタレノ[2,1-a]フェナントレン-6b-イル)-2-オキソ-酢酸エチルエステルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
抗炎症剤、気管支拡張剤、抗ヒスタミン剤または鎮咳剤である他の薬剤と組合せている、請求項1から4のいずれかに記載の化合物」

2b)「【0029】
本発明が適用できる炎症性または閉塞性気道疾患は、例えば内因性(非アレルギー性)喘息および外因性(アレルギー性)喘息の両方、軽度の喘息、中度の喘息、重度の喘息、気管支炎喘息、運動誘発喘息、職業的喘息および下記の細菌感染誘導喘息を含む、いかなるタイプもしくは起源であれ、喘息を含む。喘息の処置はまた、喘鳴症候群を示し、主要な医学的懸念の確立された患者カテゴリーであり、しばしば初期のまたは早期の喘息として同定される“喘鳴小児”と診断されるまたは診断できる、例えば、4または5歳以下の対象の処置を包含すると理解されるべきである。(便宜上、この特定の喘息状態は、“喘鳴小児症候群”と呼ぶ。)」

2c)「【0042】
式Iの化合物は、適当な経路で、例えば、経口で、例えば、錠剤またはカプセル形で;非経腸的に、例えば、静脈内に;例えば、炎症性または閉塞性気道疾患の処置において吸入により;例えば、アレルギー性鼻炎の処置において経鼻で;例えば、アトピー性皮膚炎の処置において皮膚に局所的に;または、例えば、炎症性腸疾患の処置において経直腸的に投与され得る。
【0043】
さらなる局面において、本発明はまた、活性成分として式Iの化合物を、所望により薬学的に許容される希釈剤または担体とともに含む医薬組成物を提供する。該組成物は、共治療薬、例えば上記記載の気管支拡張剤または抗炎症剤を含み得る。このような組成物を慣例の希釈剤または賦形剤およびガレヌス分野で既知の技術を使用して製造し得る。したがって、経口投薬形は、錠剤およびカプセルを含み得る。局所投与用製剤は、クリーム、軟膏、ゲルまたは経皮送達システム、例えば、パッチの形であり得る。吸入用組成物は、エアロゾルもしくは他の噴霧可能製剤または乾燥粉末製剤を含み得る。」

2d)「【0047】
本発明を、下記の実施例で例示的に説明する。
【実施例】
【0048】
実施例1-5
式Iの化合物を下記の表に示す。これらの製造法を下記する。表はまた質量分析(MH^(+))データを示す。実施例は遊離形である。
【化6】

【0049】
実施例1
メタノール(2ml)中、2-((4aR,5S,6aS,6bR,9aS)-5-ヒドロキシ-4a,6a-ジメチル-2-オキソ-8-プロピル-2,4a,4b,5,6,6a,8,9,9a,10,10a,10b,11,12-テトラデカヒドロ-7-オキサ-8-アザ-ペンタレノ[2,1-a]フェナントレン-6b-イル)-2-オキソ-酢酸エチルエステル(実施例6)(0.082g、0.173mmol)の混合物に、炭酸カリウム(0.563g、2mlのH_(2)O中4.08mmol)水溶液を加える。反応物を2時間撹拌し、次いで水で希釈し、酸性化する。生成物をジクロロメタンで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、ロータリーエバポレーターを使用して濃縮し、所望の生成物である、(4aR,5S,6aS,6bR,9aS)-5-ヒドロキシ-6b-(2-ヒドロキシ-アセチル)-4a,6a-ジメチル-8-プロピル-4a,4b,5,6,6a,6b,8,9,9a,10,10a,10b,11,12-テトラデカヒドロ-7-オキサ-8-アザ-ペンタレノ[2,1-a]フェナントレン-2-オンを得る。
・・・
【0053】
実施例4
(4aR,5S,6aS,6bR,9aS)-8-シクロヘキシル-5-ヒドロキシ-6b-(2-ヒドロキシ-アセチル)-4a,6a-ジメチル-4a,4b,5,6,6a,6b,8,9,9a,10,10a,10b,11,12-テトラデカヒドロ-7-オキサ-8-アザ-ペンタレノ[2,1-a]-フェナントレン-2-オンを、実施例1で使用したものに準じた製造法を使用して実施例8の化合物から製造する。
【0054】
実施例5
ピリジン(0.5ml)中、(4aR,5S,6aS,6bR,9aS)-8-シクロヘキシル-5-ヒドロキシ-6b-(2-ヒドロキシ-アセチル)-4a,6a-ジメチル-4a,4b,5,6,6a,6b,8,9,9a,10,10a,10b,11,12-テトラデカヒドロ-7-オキサ-8-アザ-ペンタレノ-[2,1-a]フェナントレン-2-オン(0.054g、0.115mmol)およびイソ酪酸無水物(0.019g、0.121mmol)の混合物を一晩撹拌する。該反応物を35℃で2時間加熱し、次いでさらに0.01gのイソ酪酸無水物を加え、温度を室温まで下げる。1時間後、反応物をHCl溶液で希釈し、生成物をCH_(2)Cl_(2)に抽出する。該有機層を乾燥させ、ロータリーエバポレーターを使用して濃縮する。粗生成物をクロマトグラフィーにより精製し、所望の生成物である2-((4aR,5S,6aS,6bR,9aS)-8-シクロヘキシル-5-ヒドロキシ-4a,6a-ジメチル-2-オキソ-2,4a,4b,5,6,6a,8,9,9a,10,10a,10b,11,12-テトラデカヒドロ-7-オキサ-8-アザ-ペンタレノ[2,1-a]-フェナントレン-6b-イル)-2-オキソ-イソ酪酸エチルエステルを得る。
【0055】
実施例6-8
式IIの化合物を下記の表に示す。これらの製造法を下記する。表は質量分析(MH+)データを含む。実施例は遊離形である。
【化7】

【0056】
実施例6
エタノール(25ml)中、2-((10R,11S,13S)-11-ヒドロキシ-10,13-ジメチル-3-オキソ-6,7,8,9,10,11,12,13,14,15-デカヒドロ-3H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル)-2-オキソ-酢酸エチルエステル(0.576g、1.5mmol)、n-プロピルヒドロキシルアミン(0.166g、1.5mmol)、ジ-イソプロピルアミン(0.166g、1.65mmol)およびパラホルムアルデヒド(0.029g、0.97mmol)の混合物を85℃で20時間加熱する。反応混合物を水に加え、生成物をジクロロメタンに抽出する。ジクロロメタンを硫酸ナトリウムで乾燥させ、ロータリーエバポレーターを使用して濃縮し、所望の生成物、2-((4aR,5S,6aS,6bR,9aS)-5-ヒドロキシ-4a,6a-ジメチル-2-オキソ-8-プロピル-2,4a,4b,5,6,6a,8,9,9a,10,10a,10b,11,12-テトラデカヒドロ-7-オキサ-8-アザ-ペンタレノ[2,1-a]フェナントレン-6b-イル)-2-オキソ-酢酸エチルエステルを得る。
・・・
【0058】
実施例8
2-((4aR,5S,6aS,6bR,9aS)-8-シクロヘキシル-5-ヒドロキシ-4a,6a-ジメチル-2-オキソ-2,4a,4b,5,6,6a,8,9,9a,10,10a,10b,11,12-テトラデカヒドロ-7-オキサ-8-アザ-ペンタレノ[2,1-a]フェナントレン-6b-イル)-2-オキソ-酢酸エチルエステルを、実施例6で使用したものに準じた製造法を使用して製造する。」

刊行物4(表の記載を除き訳文で示す。):
4a)「10 個々の構造変換の抗炎症活性に対する効果」(327頁右欄下から7行?下から5行)

4b)「表 65.26 6α-フルオロ及び9α-フルオロ置換のコルチゾール誘導体の活性に対する効果^(a)

^(a) 参照188。
^(b) 21-アセテート。」(331頁)

4c)「10.7 C-6での変更
一般に6α-位のヒドロキシやオキソのような極性の置換基は生物学的活性を減少させる一方、アルキル基やハロゲンのような疎水性の置換基による6α-置換は、活性を増加する傾向にある。・・・。6α-フルオロ基はコルチコイドの活性を増強する点において9α-フルオロ基に非常によく似ている(188)。・・・」(337頁右欄下から10行?338頁左欄19行)

4d)「

」(347頁右欄)

4e)「184の9α-位にFを組み込み194とすることによって、クロトン油耳浮腫アッセイにおいて決定される局所効力において2倍の増加を伴う。」(348頁右欄7?10行)

4f)「

」(349頁左欄)

4g)「 最近Leeにより報告された新規なイソオキサゾリジン190について、X=Hである得られた化合物はプレドニソロンに対して、改善されなかった。
表65.36・・・

・・・
しかしながら、X=F及びR=H(197)又はAc(198)のとき、有効な局所活性が達成された。ID_(50)用量に基づき、相対的効力(プレドニソロン=1)は、197が4、198が5.3であった。
クロトン油耳浮腫アッセイにおいて、197は反対側の耳で測定された全身吸収の徴候を示したが、198は示さなかった。・・・。このクラスの効力を改善するには、9α-フッ素化が必要である一方、C-21におけるアセテート基は全身吸収を避けるために必要であることは明らかである。・・・」(349頁右欄7行?350頁左欄下から5行)

4h)「ソフトステロイドは非常に効力があるようで、9α-F誘導体222は参照ステロイド類よりもずっと少ない用量でよい活性が見られ、その一方、全身性の効果がなかった。」(356頁左欄下から15行?下から11行)

4i)「表65.40 ラットにおいて綿ペレットを移植されることによる粒状組織の形成に対する局所投与された選択された“ソフトステロイド”と参照ステロイド類の効果

^(a) 用量はペレット当たりのμg。
^(b) 全身作用を示す体重(gでの増加)と胸腺(重量の%減少)の変化。
^(c) ステロイドの服用による皮膚下に移植された綿ペレットの粒の阻害%。
^(d) ヒドロコルチゾン 17-ブチレート 2a。
^(e) ベタメダソン バレレート 5e。」(357頁)

4j)「表65.43 ハロメチル アンドロスタン-17β-カルボチオエートの生物学的活性

^(a) フルシノロン アセトニド(100)と比較したヒトの血管収縮活性。
^(b) フルシノロン アセトニド(100)と比較した局所抗炎症活性。
^(c) フルシノロン アセトニド(100)と比較した局所適用後の全身コルチコステロイド活性。
^(d) 標準。」(361頁)

(2)引用発明
摘示1a?1fからみて、刊行物1には、「式

(式中X=F、R=CH_(2)Ph)で表わされる化合物」(化合物19)の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。

摘示2a、2dからみて、刊行物2には、「式

(式中、R^(1)及びR^(2)は、シクロヘキシル及び水素、シクロヘキシル及び-CO-CH(CH_(3))_(2)、又はシクロヘキシル及びCH_(3)C(=O)-)で表わされる化合物」(実施例番号4、5又は8の化合物)の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されていると認める。

(3) 対比・判断
ア 刊行物1発明について
本願発明と刊行物1発明とを対比する。刊行物1発明の化合物は、本願請求項1に記載の式(I)において、n=1、Z=O、n’=0、R4=C_(1)アルキルカルボニル、p=1、R8=フェニル、X=フッ素、Y=水素である構造を有する化合物である。
したがって、本願発明と刊行物1発明とは、
「一般式(I)
【化1】

(式中、
R1は、(CH_(2))_(n)-Z-(CH_(2))_(n’)-R4(式中、nは1、n’は0、1または2である)であり;
Zは、単結合又はOであり;
R4は、
・H、ハロゲン、OH;
・オキソ基で置換されていてもよいアリール(C_(1)?C_(6))アルキル、(C_(1)?C_(6))アルキルカルボニル、(C_(1)?C_(6))アルキルカルボキシル、O(C_(1)?C_(6))アルキルカルボキシル、および(C_(1)?C_(6))アルコキシ;
・ハロゲン原子およびOHからなる群から選択される1つまたは複数の置換基で置換されていてもよい(C_(1)?C_(6))アルキル;
からなる群から選択され、
R2は、(CH_(2))_(p)R8であって、該R8は、ハロゲンおよび(C_(1)?C_(6))アルキルからなる群から選択される1つまたは複数の置換基で置換されていてもよい(C_(3)?C_(8))シクロアルキル、アリールおよび(C_(5)?C_(10))ヘテロシクロアルキルからなる群から選択され、該pは、0または1?3の整数であり、
Xは、フッ素である。)
の化合物、またはその医薬として許容される塩。」である点で一致し、本願発明はYがフッ素であるのに対し、刊行物1発明では、Yに相当する基が水素である点で相違する。
上記相違点について検討するに、ステロイド骨格を有する化合物において抗炎症作用を考慮して構造変換をすること、一般に6α位をハロゲンで置換すると活性が増加する傾向にあること、6α-フルオロ基はコルチコイドの活性を増強する点において9α-フルオロ基に非常によく似ていることは刊行物4に記載のとおり(摘示4a、4c)周知であり、また、刊行物4には、6α-フルオロ及び9α-フルオロ置換のステロイド誘導体が記載され(摘示4b,4j)、特定の置換基を有する化合物ではあるものの、9α-F誘導体222は参照ステロイド類よりもずっと少ない用量でよい活性が見られ、その一方、全身性の効果がなかったことが記載されている(摘示4h、4i)。してみると、ステロイド骨格を有する化合物においてその活性を考慮して、9α位と共に6α位(なお、上記Yの置換位置は6位である。)をフッ素で置換することは周知であるといえるから、刊行物1発明において、上記Yに相当する基としてフッ素を採用することに格別の創意を要したものとはいえない(なお、6α位をフッ素で置換することで結果的に活性が向上するか否か不明であるとしても、周知事項及び上記刊行物4の記載からみて、6α位のフッ素置換が活性を向上させる可能性があることを当業者であれば理解できるから、6α位をフッ素で置換する動機は十分に存在するといえる。また、6α位と9α位がフッ素で置換された化合物は第3の2で示した上記刊行物3にも記載がある。)。
そして、本願明細書の記載を参酌しても本願発明が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。
したがって、本願発明は刊行物1に記載された発明、刊行物4に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 刊行物2発明について
本願発明と刊行物2発明とを対比する。刊行物2発明の化合物は、本願請求項1に記載の式(I)において、n=1、Z=O、n’=0、p=0、R8=シクロヘキシル、X=Y=水素であって、R4=水素、イソプロピルカルボニル又はメチルカルボニルである構造を有する化合物である。
したがって、本願発明と刊行物2発明とは、「一般式(I)
【化1】

(式中、
R1は、(CH_(2))_(n)-Z-(CH_(2))_(n’)-R4(式中、nは1、n’は0、1または2である)であり;
Zは、単結合又はOであり;
R4は、
・H、ハロゲン、OH;
・オキソ基で置換されていてもよいアリール(C_(1)?C_(6))アルキル、(C_(1)?C_(6))アルキルカルボニル、(C_(1)?C_(6))アルキルカルボキシル、O(C_(1)?C_(6))アルキルカルボキシル、および(C_(1)?C_(6))アルコキシ;
・ハロゲン原子およびOHからなる群から選択される1つまたは複数の置換基で置換されていてもよい(C_(1)?C_(6))アルキル;
からなる群から選択され、
R2は、(CH_(2))_(p)R8であって、該R8は、ハロゲンおよび(C_(1)?C_(6))アルキルからなる群から選択される1つまたは複数の置換基で置換されていてもよい(C_(3)?C_(8))シクロアルキル、アリールおよび(C_(5)?C_(10))ヘテロシクロアルキルからなる群から選択され、該pは、0または1?3の整数である。)
の化合物、またはその医薬として許容される塩。」である点で一致し、本願発明はX及びYがフツ素であるのに対し、刊行物2発明では、X、Yに相当する基が水素である点で相違する。
上記相違点について検討するに、上記アで述べたとおり、ステロイド骨格を有する化合物においてその活性を考慮して、9α位と共に6α位(なお、上記Xの置換位置は9位であり、Yの置換位置は6位である。)をフツ素で置換することは周知であるといえるから、刊行物2発明において、上記X、Yに相当する基としてフツ素を採用することに格別の創意を要したものとはいえない(なお、6α位、9α位をフッ素で置換することで結果的に活性が向上するか否か不明であるとしても、周知事項及び上記刊行物4の記載からみて、6α位、9α位のフッ素置換が活性を向上させる可能性があることを当業者であれば理解できるから、6α位、9α位をフッ素で置換する動機は十分に存在するといえる。また、6α位と9α位がフッ素で置換された化合物は第3の2で示した上記刊行物3にも記載がある。)。
そして、本願明細書の記載を参酌しても本願発明が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。
したがって、本願発明は刊行物2に記載された発明、刊行物4に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物4に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本願発明は、刊行物2に記載された発明、刊行物4に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成29年2月27日付けの意見書において、刊行物1について、「表Iに示されたデータの検証は、化合物19を提供する2’-ベンジル類似体17へのフッ素導入が、急性クロトン油耳アッセイにおける効率を69(26-112)から62(57-67)へ減じる結果となっています。効率の点からは見込みのないベンジル置換基は、本願の化合物におけるR2置換基として示されております。」、「刊行物1は、単に局所抗炎症活性についてのみ焦点を当てており、持続時間の問題、ましてや肺中での滞留の問題については何ら言及しておりません。ここでは、皮膚炎や類似条件の処理のための標準のβメタゾン17バレレートと同様に局所投与用のステロイドをむしろ取り扱っております。」と指摘し、また、持続時間の問題に関して、「該実験に使用された比較化合物は参照された刊行物に記載の化合物であり、一方の本願化合物は刊行物1において、フッ素化効果がないとされたベンジル基と類似するアラルキル基を有する化合物であります。また、本願明細書の例30は、本願発明の化合物(例26?29から自明なとおり実施例で合成した全ての化合物。原文では"compounds"と表記。)は、優れた肺内滞留を奏することを示しております。ここで、重要なことは、比較化合物は残留活性を示さなかったという点であります。」と指摘し、
また、刊行物2について、「刊行物1のフッ素化前の化合物に相当するものであり、平成27年7月7日に提出された意見書において化合物3として、刊行物2の実施例1の化合物について持続性がないことを証明しております。また、刊行物2の実施例は化合物の合成方法のみ開示しており、特に化合物の効果を実証するものではありません。当然ながら、持続時間に関して刊行物2には何ら示唆するものはありません。」と指摘し、
本願発明は刊行物1、2及び4に記載された発明から当業者が容易になし得たものではない旨主張するので、以下に検討する。
審判請求人の指摘する刊行物1の化合物17とその9α位にフッ素を導入した化合物19では、確かに化合物19の方がpotency(効力)の値が69から62へと低下しているが、化合物19は抗炎症活性を有するものであって、抗炎症性ステロイドとして用いることができないということではなく、また、刊行物1の記載は、さらに6α位へフッ素を導入した場合に活性が消失することを示唆するものでもない。
刊行物4には、ハロゲンのような疎水性の置換基による6α-置換は、活性を増加する傾向にあり、6α-フルオロ基はコルチコイドの活性を増強する点において9α-フルオロ基に非常によく似ていることが記載されており(摘示4c)、具体的な化合物として、表65.26の化合物39a、121と125を比較すると、6α位又は9α位にフッ素を導入することで、活性が増加することが読み取れ(摘示4b)、イソオキサゾリン環が縮合した化合物を含め、9α位にフッ素を導入することで効力が増加、改善することが記載されているが(摘示4d?4g)、上述のとおりの刊行物1に記載の化合物17と化合物19の比較を考慮すれば、9α位にフッ素を導入することで必ずしも活性を増強するとはいえず、6α位又は9α位にフッ素を導入することで活性が増強されるかどうかは、各種置換基を含めた化学構造に影響されると考えられる。しかし、上記した刊行物4の記載からは、6α位及び9α位にフッ素を導入することで活性が増強する可能性が十分に示唆されているといえるから、高い活性を所望する当業者は、化合物19について、6α位へフッ素を導入した化合物を創製することは容易になし得た事項であるといえる。
また、刊行物1には、持続時間の問題、肺中での滞留の問題についての記載はないものの、刊行物2にも記載のとおり(摘示2b、2c)、同様の化学構造を有する化合物を喘息等の疾患に吸入により投与することは周知であり、一般に医薬が所望の時間継続して効果を発揮することが望ましいことは通常であると認められる。
平成27年7月7日付けの意見書において提示された比較試験において、本願化合物36、37と刊行物1に記載の化合物18とを比較しているが、化合物18よりも本願化合物36、37により化学構造が近いと考えられる刊行物1発明である化合物19との比較がなされておらず、また、本願発明は本願化合物36、37と化学構造が大きく異なる化合物を包含するところ、化合物はその構造が異なれば薬理活性も異なることが通常であることから、本願発明の全ての化合物が本願化合物36、37と同様の持続時間を有するとはいえず、本願発明が刊行物1発明と比較して顕著な効果を奏するといえない。
本願の発明の詳細な説明の例30に肺内滞留についての記載があるが、具体的にどのような化合物における結果であるか不明であり、本願発明全体にわたって例30に記載のとおりの効果を奏するとはいえない。仮に審判請求人の主張するとおり、例30が実施例の全ての化合物についてのものであるとすると、本願の国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文の請求項1に該当する化合物は例30に記載の効果を奏すると考えられるところ、そもそも、刊行物1発明の化合物及び刊行物1に記載の化合物17、18は本願の国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文の請求項1に係る発明に該当するものであるから、これらの化合物は持続時間について例30に記載のとおりの効果を奏するということになる(なお、上記化合物18(平成27年7月7日付けの意見書に記載の比較化合物5)は平成29年2月27日付けの意見書において残留活性を示さなかったとされている。)。もし、刊行物1発明の化合物及び刊行物1に記載の化合物17、18が例30に記載の効果を有しないのであれば、本願発明は実施例の化合物とはその化学構造が大きく異なる化合物を包含するから、上記と同様の理由により本願発明の全体にわたって例30に記載の効果と同様の効果を奏するとはいえない。したがって、これらのことに鑑みれば、本願発明全体にわたって当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。
刊行物2発明については、炎症性疾患、閉塞性気道疾患に適用できることは刊行物2に記載があり(摘示2b、2c)、本願化合物36、37により化学構造が近いと考えられるのは刊行物2発明である実施例番号4、5、8の化合物であり、その他の点については、刊行物1について上記したのと同様である。
したがって、本願発明は進歩性を有するものとはいえず、上記審判請求人の主張の主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合せず、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、また、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の点を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-12 
結審通知日 2017-04-18 
審決日 2017-05-01 
出願番号 特願2012-528250(P2012-528250)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安孫子 由美  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 齊藤 真由美
冨永 保
発明の名称 イソオキサゾリジン誘導体  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  

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