• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1332674
審判番号 不服2016-8995  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-16 
確定日 2017-09-13 
事件の表示 特願2013-550370「太陽電池及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 2日国際公開、WO2012/102449、平成26年 2月 6日国内公表、特表2014-503125〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)10月6日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2011年1月25日、韓国)を国際出願日とする出願であって、平成26年9月26日に手続補正がなされ、平成27年6月24日付けで拒絶理由が通知され、同年9月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成28年2月15日付けで拒絶査定(謄本送達日 同年同月23日、以下「原査定」という。)がなされ、これに対し、同年6月16日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年6月16日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、本件補正前(平成27年9月18日になされたもの)の特許請求の範囲を、以下のとおりに補正する内容を含むものである(下線は請求人が付したとおりである。)。
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1につき、
「基板と、
前記基板の上に配置される裏面電極層と、
前記裏面電極層の上に配置される光吸収層と、
前記光吸収層の上に配置され、前記光吸収層より高いバンドギャップを有するバッファ層と、
前記バッファ層の上に配置され、前記バッファ層より高いバンドギャップを有するウィンドウ層と、を含み、
前記バッファ層のバンドギャップは3.3eV乃至3.6eVの値を有し、
前記バッファ層は(A_(x)Zn_(1-x))O(0<x<1)の化学式で形成され、前記Aは金属元素を含むことを特徴とする、太陽電池。」
とあったものを、
「基板と、
前記基板の上に配置される裏面電極層と、
前記裏面電極層の上に配置される光吸収層と、
光吸収層の上に配置され、前記光吸収層より高いエネルギーバンドギャップを有する亜鉛拡散層と、
前記亜鉛拡散層の上に配置され、前記亜鉛拡散層より高いエネルギーバンドギャップを有するバッファ層と、
前記バッファ層の上に配置され、前記バッファ層より高いエネルギーバンドギャップを有し、ガリウム(Ga)がドーピングされたジンクオキサイド(ZnO:Ga)で形成されるウィンドウ層と、を含み、
前記光吸収層、亜鉛拡散層、バッファ層及びウィンドウ層は、順次高いエネルギーバンドギャップを有するように形成され、
前記バッファ層のバンドギャップは3.3eV乃至3.6eVの値を有し、
前記バッファ層は(A_(x)Zn_(1-x))O(0<x<1)の化学式で形成され、前記Aは金属元素を含むことを特徴とする、太陽電池。」
に補正。

2 補正の目的
(1)本件補正は、補正前の請求項1において、下記の各補正を行うものである(下線は当審にて付した。以下同じ)。
ア 「前記光吸収層の上に配置され、前記光吸収層より高いバンドギャップを有するバッファ層と、前記バッファ層の上に配置され、前記バッファ層より高いバンドギャップを有するウィンドウ層」を、「光吸収層の上に配置され、前記光吸収層より高いエネルギーバンドギャップを有する亜鉛拡散層と、前記亜鉛拡散層の上に配置され、前記亜鉛拡散層より高いエネルギーバンドギャップを有するバッファ層」と補正して、光吸収層とバッファ層の間に、「亜鉛拡散層」が形成されることの限定を付加する。

イ 「前記バッファ層より高いバンドギャップを有するウィンドウ層」に関して、「前記バッファ層より高いエネルギーバンドギャップを有し、ガリウム(Ga)がドーピングされたジンクオキサイド(ZnO:Ga)で形成されるウィンドウ層」と補正して、「ウィンドウ層」に係る限定を付加する。

ウ 「バンドギャップ」に関して、「前記光吸収層、亜鉛拡散層、バッファ層及びウィンドウ層は、順次高いエネルギーバンドギャップを有するように形成され」との限定を付加する。

(2)上記(1)アないしウの補正は、いずれも限定を付加する補正であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。
(1)本願補正発明の認定
本願補正発明は、上記1において、本件補正後のものとして記載したとおりのものと認める。

(2)刊行物の記載及び引用発明
ア 原査定における拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-264306号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は太陽電池の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】・・・
【0003】従来の高効率CIS太陽電池および高効率CIGS太陽電池では、一般に、窓層としてZnO層が用いられている。近年、光吸収層と窓層のコンダクションバンドオフセットを最適値にするために、ZnOの代わりにZnとMgとOとを含む層(Zn_(1-x)Mg_(x)O層)を用いた太陽電池が検討されている。また、Zn_(1-x)Mg_(x)O層を用いることによって、従来の太陽電池に用いられていたバッファー層を不要としたCISおよびCIGS太陽電池も開発されている。これらの太陽電池に用いられるZn_(1-x)Mg_(x)O層は、スパッタリングによって形成される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、CIS層(またはCIGS層)上に、Zn_(1-x)Mg_(x)O層を直接形成するとスパッタダメージによって太陽電池特性が低下するという問題があった。現在、太陽電池のさらなる高効率化が求められており、Zn_(1-x)Mg_(x)O層を用いる太陽電池においてもさらなる高効率化を実現する必要がある。
【0005】このような状況に鑑み、本発明は、ZnとMgとOとを含む層を備えた太陽電池を、従来に比べてさらに高効率化できる製造方法を提供することを目的とする。」

(イ)「【0010】上記製造方法では、前記第1の電極層がMoからなり、前記第2の電極層が透明電極であってもよい。・・・」

(ウ)「【0020】第2の電極層14は、透光性の導電性材料で形成でき、たとえばITO(Indium-Tin Oxide)で形成できる。」

(エ)「【0029】(実施例2)本実施例では、本発明の製造方法で太陽電池を製造した一例について説明する。
【0030】まず、スパッタ法によって、ガラス基板上にMo膜を形成し、その上に蒸着法によってCu(In,Ga)Se_(2)膜(膜厚:2μm)を形成した。その後、基板温度を300℃にし、Znを3分間、Cu(In,Ga)Se_(2)膜上に蒸着した。このZnの蒸着によって、Cu(In,Ga)Se_(2)膜の表面から50nmの深さまでZnを添加し、Znがドープされていないp形化合物半導体層と、Znがドープされたn形化合物半導体層とを形成した。
【0031】次に、ZnOおよびMgOターゲットを用いた二元スパッタによって、n形化合物半導体層上に、Zn_(0.9)Mg_(0.1)O膜(膜厚:100nm)を形成した。このとき、アルゴンガス圧が2.66Pa(2×10^(-2)Torr)であり、ZnOターゲットに加えた高周波パワーは200Wであり、MgOターゲットに加えた高周波パワーは100Wであった。
【0032】次に、透明導電膜であるITO膜(膜厚:100nm)をスパッタ法によって形成した。ITO膜は、アルゴンガス圧が1.064Pa(8×10^(-3)Torr)で、高周波パワーが400Wの条件によって形成した。その後、NiCr膜とAg膜とを電子ビーム蒸着法によって積層することによって、取り出し電極を形成した。」

(オ)引用発明
a 上記(ア)ないし(エ)によれば、引用文献1には、次の方法発明(以下「引用方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「スパッタ法によって、ガラス基板上にMo膜を形成し、その上に蒸着法によってCu(In,Ga)Se_(2)膜(膜厚:2μm)を形成し、
その後、基板温度を300℃にし、Znを3分間、Cu(In,Ga)Se_(2)膜上に蒸着し、
このZnの蒸着によって、Cu(In,Ga)Se_(2)膜の表面から50nmの深さまでZnを添加し、Znがドープされていないp形化合物半導体層と、Znがドープされたn形化合物半導体層とを形成し、
次に、ZnOおよびMgOターゲットを用いた二元スパッタによって、n形化合物半導体層上に、Zn_(0.9)Mg_(0.1)O膜(膜厚:100nm)を形成し、
次に、透明導電膜であるITO膜(膜厚:100nm)をスパッタ法によって形成した、太陽電池の製造方法。」

b 引用文献1には「太陽電池の製造方法」(引用方法発明)が記載されているから、引用文献には当該「太陽電池の製造方法」(引用方法発明)によって製造された次の「太陽電池」の発明(以下「引用発明」という。)も記載されていると認められる。
「ガラス基板と、
前記ガラス基板の上に形成されるMo膜と、
前記Mo膜の上に形成されるZnがドープされていないp形化合物半導体層のCu(In,Ga)Se_(2)膜と、
前記ZnがドープされていないCu(In,Ga)Se_(2)膜の上に形成されるZnがドープされたn形化合物半導体層のCu(In,Ga)Se_(2)膜と、
前記ZnがドープされたCu(In,Ga)Se_(2)膜の上に形成されるZn_(0.9)Mg_(0.1)O膜と、
前記Zn_(0.9)Mg_(0.1)O膜の上に形成される、ITO膜である透明導電膜を含む、太陽電池。」

イ 同じく、原査定における拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-158619号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子デバイスおよびその製造方法に関し、特にたとえば太陽電池およびその製造方法に関する。」

(イ)「【0029】
(実施形態2)
実施形態2では、本発明の電子デバイスの一例として、太陽電池の一例について説明する。
【0030】
実施形態2の太陽電池について、図2に断面図を示す。図2を参照して、実施形態2の太陽電池10は、基板11と、基板11上に順に堆積された、裏面電極(第1の電極層)12、半導体層13、酸化物層14および透明導電膜(第2の電極層)15と、透明導電膜15上に形成された取り出し電極16とを含む。なお、これらの層の他に、さらに他の層を備えてもよい。たとえば、半導体層13と酸化物層14との間に、第2の半導体層を設けてもよい。・・・
【0038】
透明導電膜15は、透光性を有する導電性の材料で形成でき、たとえば、ITO(In_(2)O_(3):Sn)、ZnO:B、ZnO:Al、またはZnO:Gaからなる膜を用いることができる。また、これらの膜を2つ以上積層した積層膜を用いることもできる。」

(ウ)「【0069】
(実施例3)
実施例3では、実施形態2の太陽電池を製造した一例について説明する。
【0070】
図5を参照しながら形成方法を説明する。基板21としてソーダライムガラスを用いた。この基板21の上にスパッタ法で裏面電極(第1の電極層)22となるMo膜を形成した。Mo膜の膜厚は約0.4μmとした。次に、光吸収層となる半導体層23としてCu(In,Ga)Se_(2)(CIGS)薄膜を蒸着法で形成した。CIGS膜の膜厚は約2μmとした。次に、このCIGS膜を加熱しながらCIGS膜の表面にZnを蒸着して拡散させ、CIGS膜の表面にZnをドープした。これによって、半導体層23の表面に、第2の半導体層23bとなるCu(In,Ga)Se_(2):Zn層を形成した。Znの拡散深さは約50nmであった。・・・このようにして、実施形態2の太陽電池を製造した。」

(エ)上記(ア)ないし(ウ)によれば、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
「基板と、基板上に順に堆積された、裏面電極(第1の電極層)、半導体(CIGS)層、酸化物層及び透明導電膜(第2の電極層)からなる太陽電池において、前記透明導電膜は、透光性を有する導電性の材料で形成でき、ITO(In_(2)O_(3):Sn)、ZnO:B、ZnO:Al、またはZnO:Gaからなる膜を用いることができる点。」

ウ 同じく、原査定における拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2010-74069号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0029】
次に、図4に、Mg_(X)Zn_(1-X)OのバンドギャップエネルギーとMg組成Xとの関係を示す。横軸がMg_(X)Zn_(1-X)OのX値を、縦軸がMg_(X)Zn_(1-X)Oのバンドギャップエネルギーを示す。・・・
【0030】
アンドープZnOは、図4ではMg組成X=0に相当し、図に示すようにZnOのバンドギャップ3.3eVに該当する。これに対してp型層となる窒素ドープMgZnO層3のMg組成を0.1にすると、Mg_(0.1)ZnOのバンドギャップは、図4の点線で示されるように約3.5eVとなる。したがって、アンドープZnO層2と窒素ドープMgZnO層3とのバンドギャップ差は、最低0.2eV開けておくことが望ましいことがわかる。
【0031】
また、上限は、Mg組成X=0.5であるので、Mg_(0.5)ZnOのバンドギャップは、約4.4eVである。このときのアンドープZnOと、Mg_(0.5)ZnOとのバンドギャップ差は1eV程度になることがわかる。以上より、半導体発光素子の発光輝度を大きくするためには、発光層のバンドギャップよりもアクセプタ層のうちの少なくとも1層のバンドギャップが大きく、かつ、そのバンドギャップ差は0.2eV以上とすることが好ましい。」

(イ)図4は次のものである。


(ウ)上記(ア)の記載を踏まえて、上記(イ)の図4をみると、Zn_(0.9)Mg_(0.1)Oのバンドギャップは、約3.5eVであること、及び、ZnOのバンドギャップは、3.3eVであることが見てとれる(以下「引用文献3に記載の事項」という。)。

(3)対比・判断
ア 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「ガラス基板」、「(前記ガラス基板の上に形成される)Mo膜」、「(前記Mo膜の上に形成される)Znがドープされていないp形化合物半導体層のCu(In,Ga)Se_(2)膜」、「(前記ZnがドープされていないCu(In,Ga)Se_(2)膜の上に形成される)Znがドープされたn形化合物半導体層のCu(In,Ga)Se_(2)膜」、「(前記ZnがドープされたCu(In,Ga)Se_(2)膜の上に形成される)Zn_(0.9)Mg_(0.1)O膜」及び「太陽電池」は、本願補正発明の「基板」、「(前記基板の上に配置される)裏面電極層」、「(前記裏面電極層の上に配置される)光吸収層」、「(光吸収層の上に配置される)亜鉛拡散層」、「(前記亜鉛拡散層の上に配置される)バッファ層」及び「太陽電池」にそれぞれ相当する。

(イ)Cu(In,Ga)Se_(2)のエネルギーバンドギャップは、一般に1eVのオーダーである(例えば、特開2010-283322号公報 段落【0056】「光電変換層のバンドギャップ値の例を挙げれば、CIGS層のバンドギャップ値は1.05?1.70eV程度・・・である。」、及び、特開2006-13028号公報 段落【0008】「CIGSのバンドギャップエネルギー(Eg_(1))=1.16eV、・・・を用いている。」との記載参照)。
そして、エネルギーバンドギャップが1eVのオーダーの化合物半導体であるCu(In,Ga)Se_(2)にZn(亜鉛)を拡散(ドープ)するとエネルギーバンドギャップが広がることは本願優先日当時周知の事項である。
したがって、Znが拡散(ドープ)されたCu(In,Ga)Se_(2)膜は、(Znがドープされていない)Cu(In,Ga)Se_(2)膜より高いエネルギーバンドギャップを有するといえる。
そうすると、引用発明の「前記ZnがドープされていないCu(In,Ga)Se_(2)膜の上に形成されるZnがドープされたCu(In,Ga)Se_(2)膜」は、「前記ZnがドープされていないCu(In,Ga)Se_(2)膜の上に形成される、前記ZnがドープされていないCu(In,Ga)Se_(2)膜より高いエネルギーバンドギャップを有するZnがドープされたCu(In,Ga)Se_(2)膜」であるということができる。
よって、引用発明の「前記ZnがドープされていないCu(In,Ga)Se_(2)膜の上に形成されるZnがドープされたCu(In,Ga)Se_(2)膜」は、本願補正発明の「光吸収層の上に配置され、前記光吸収層より高いエネルギーバンドギャップを有する」「亜鉛拡散層」に相当する。

(ウ)引用発明の「Zn_(0.9)Mg_(0.1)O膜」のエネルギーバンドギャップが、約3.5eVであることは本願優先日当時公知の事項である(引用文献3に記載の事項)。
したがって、引用発明の約3.5eVのエネルギーバンドギャップを有する「Zn_(0.9)Mg_(0.1)O膜」は、本願補正発明の「バンドギャップは3.3eV乃至3.6eVの値を有」する「バッファ層」に相当する。
また、Cu(In,Ga)Se_(2)のエネルギーバンドギャップが1eVのオーダーであること(上記(イ))、及び、ZnOのエネルギーバンドギャップが3.3eVであること(引用文献3に記載の事項)を踏まえると、ZnがドープされたCu(In,Ga)Se_(2)のエネルギーバンドギャップが約3.3eVより低いことは明らかであるから、引用発明の「前記ZnがドープされたCu(In,Ga)Se_(2)膜の上に形成されるZn_(0.9)Mg_(0.1)O膜」は、「前記ZnがドープされたCu(In,Ga)Se_(2)膜の上に形成される、前記ZnがドープされたCu(In,Ga)Se_(2)膜より高いエネルギーバンドギャップを有するZn_(0.9)Mg_(0.1)O膜」であるということができる。
そうすると、引用発明の「前記ZnがドープされたCu(In,Ga)Se_(2)膜の上に形成されるZn_(0.9)Mg_(0.1)O膜」は、本願補正発明の「前記亜鉛拡散層の上に配置され、前記亜鉛拡散層より高いエネルギーバンドギャップを有する」「バッファ層」に相当する。
さらに、引用発明の「ZnがドープされていないCu(In,Ga)Se_(2)膜」、「ZnがドープされたCu(In,Ga)Se_(2)膜」及び「Zn_(0.9)Mg_(0.1)O膜」は、順次高いエネルギーバンドギャップを有するように形成されるものであるといえるから、引用発明は、本願補正発明の「前記光吸収層、亜鉛拡散層、バッファ層及びウィンドウ層は、順次高いエネルギーバンドギャップを有するように形成され」る構成のうち、「前記光吸収層、亜鉛拡散層及びバッファ層は、順次高いエネルギーバンドギャップを有するように形成され」るとの構成を備える点で一致する。

(エ)本願補正発明の「(A_(x)Zn_(1-x))O(0<x<1)の化学式で形成され、前記Aは金属元素を含む」「バッファ層」と引用発明の「Zn_(0.9)Mg_(0.1)O膜」を対比する。
本願発明の段落【0027】「本発明のバッファ層400は(A_(x)Zn_(1-x))0(0≦x≦1)の物質で形成され、Aは2族元素で構成されることができる。実施形態では、MgZnOでバッファ層を形成したが、その他に亜鉛を含む化合物で形成されることができ、マグネシウムの代わりにCa、Srなどの元素を使用して形成することができる。」の記載から、Aはマグネシウム(Mg)であってよいといえる。
そうすると、両者は、「Zn_(0.9)Mg_(0.1)O」の点で一致する。
したがって、引用発明の「Zn_(0.9)Mg_(0.1)O膜」は、本願補正発明の「(A_(x)Zn_(1-x))O(0<x<1)の化学式で形成され、前記Aは金属元素を含む」「バッファ層」に相当する。

(オ)引用発明の「ITO膜である透明導電膜」は、引用文献1によれば、「第2の電極層」であって、「第2の電極層14は、透光性の導電性材料で形成でき、たとえばITO(Indium-Tin Oxide)で形成できる」(上記「(2)」「ア」「(ウ)」参照)ものであるとされる。
したがって、引用発明の「ITO膜である透明導電膜」は、透光性の導電性材料で形成された「第2の電極層」であると理解される。
これに対して、本願補正発明の「ウィンドウ層」は、本願明細書に、「上記ウィンドウ層500は上記バッファ層400の上に配置される。上記ウィンドウ層500は透明で、導電層である。また、上記ウィンドウ層500の抵抗は上記裏面電極層200の抵抗より高い。」「上記ウィンドウ層500は酸化物を含む。例えば、上記ウィンドウ層500はジンクオキサイド(zinc oxide)、インジウムチンオキサイド(induim tin oxide;ITO)、またはインジウムジンクオキサイド(induim zinc oxide;IZO)などを含むことができる。」(段落【0032】?【0033】)と記載されている。
したがって、本願補正発明の「ウィンドウ層」は、「バッファ層400の上に配置され」、「透明で、導電層であ」り、「抵抗は上記裏面電極層200の抵抗より高」く、ジンクオキサイド(zinc oxide)、インジウムチンオキサイド(induim tin oxide;ITO)、またはインジウムジンクオキサイド(induim zinc oxide;IZO)などの「酸化物を含む」ものであると理解される。
よって、引用発明の「透明導電膜」は、本願補正発明の「ウィンドウ層」と、「Zn_(0.9)Mg_(0.1)O膜(バッファ層400)の上に配置され」、「透明で、導電層であ」り、「抵抗は上記Mo膜(裏面電極層200)の抵抗より高」く、「酸化物を含む」ものである点において、本願補正発明の「ウィンドウ層」に相当するものであるといえる。
以上によれば、引用発明の「前記Zn_(0.9)Mg_(0.1)O膜の上に形成される、ITO膜である」「透明導電膜」は、本願補正発明の「前記バッファ層の上に配置され、前記バッファ層より高いエネルギーバンドギャップを有し、ガリウム(Ga)がドーピングされたジンクオキサイド(ZnO:Ga)で形成されるウィンドウ層」と、「前記バッファ層の上に配置されるウィンドウ層」である点で一致する。

(カ)上記(ア)ないし(オ)によれば、両者は、
「基板と、
前記基板の上に配置される裏面電極層と、
前記裏面電極層の上に配置される光吸収層と、
光吸収層の上に配置され、前記光吸収層より高いエネルギーバンドギャップを有する亜鉛拡散層と、
前記亜鉛拡散層の上に配置され、前記亜鉛拡散層より高いエネルギーバンドギャップを有するバッファ層と、
前記バッファ層の上に配置されるウィンドウ層と、を含み、
前記光吸収層、亜鉛拡散層及びバッファ層は、順次高いエネルギーバンドギャップを有するように形成され、
前記バッファ層のバンドギャップは3.3eV乃至3.6eVの値を有し、
前記バッファ層は(A_(x)Zn_(1-x))O(0<x<1)の化学式で形成され、前記Aは金属元素を含む、太陽電池。」
である点で一致し、下記点で相違する。

・「ウィンドウ層」が、本願補正発明においては、「前記バッファ層より高いエネルギーバンドギャップを有し」、「ガリウム(Ga)がドーピングされたジンクオキサイド(ZnO:Ga)で形成され」ると特定されるのに対して、引用発明においては、「ITO膜」であって、「Zn_(0.9)Mg_(0.1)O膜」(本願補正発明の「バッファ層」に相当する)より高いエネルギーバンドギャップを有するか明らかではない点(以下「相違点」という。)。

イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)CIGS太陽電池において、光吸収層に太陽光が届くように、バンドギャップの関係を入射側から順に小さくなるようにすることは本願優先日当時の技術常識である。
(例えば、「CIGS太陽電池の基礎とバッファ層」、OPTRONICS 2010年6月号 vol.29 No.342 p110?115、特に111頁左欄19?25行の「2 CIGS太陽電池の基本動作 (1)各層での光吸収と損失 図3(a)と(b)に高効率デバイスのエネルギーバンド図(左側から光入射)と典型的な外部量子効率を示す。光入射側はEgが大きく、順に小さくなっている。光吸収層であるCIGSへ太陽光を到達させるために、このような構造となっている。」との記載参照。)

(イ)ここで、透明導電膜としてのZnOは本願優先日当時の周知の素材であり、引用発明のZn_(0.9)Mg_(0.1)Oのエネルギーバンドギャップである約3.5eVより高いエネルギーバンドギャップを有するZnO:Ga(ガリウムドープのZnO)も公知の素材である。
(例えば、鈴木晶雄他、「酸化亜鉛系ホモp-i-n接合の作成と光起電力特性」、真空、Vol.44(2001) No.3 p.236-239 「GZO film(ZnO:Ga_(2)O_(3), Eg^(opt)=3.6eV)」(236頁上欄4行)、並びに、K. Maejima 他4名、「Characterization of Zn_(1-x)Mg_(x)O transparent conducting thin films fabricated by multi-cathode RF-magnetron sputtering」 Thin Solid Films, vol.518(2010) 2949-2952, 「Fig.4のMg=0とMg=0.1 のEg^(opt)(eV)をみれば、Zn_(0.9)Mg_(0.1)Oのバンドギャップエネルギー(Mg Content(x)=0.1 約3.5eV)よりもZnO:Gaののバンドギャップエネルギー(Mg Content(x)=0 約3.9eV)が大きいことが見てとれる。」(2951頁のFig.4))

(ウ)そして、引用発明の「透明導電膜」は「ITO膜である」ところ、引用文献1の段落【0020】によれば、「第2の電極層14は、透光性の導電性材料で」あればよいとされる(上記「(2)」「ア」「(ウ)」)。
してみると、「透明導電膜」として、「ITO膜」にかえて、上記(イ)の約3.5eVより高いバンドギャップを有するZnO:Gaを採用して、エネルギーバンドギャップが窓層(Zn_(0.9)Mg_(0.1)O)<コンタクト層(ZnO:Ga)の関係となし、上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2?3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定についてのむすび
上記3の検討によれば、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の各請求項に係る発明は、平成27年9月18日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、上記「第2」[理由]「1 補正の内容」において、本件補正前のものとして示したとおりのものである。

2 刊行物の記載及び引用発明
上記「第2」[理由]「3 独立特許要件について」「(2)」のとおりである。

3 対比・判断
本願発明について
(1)上記「第2」[理由]「2 補正の目的」のとおり、本件補正は、補正前の請求項1において、下記アないしウの補正を行うものである。
ア 「前記光吸収層の上に配置され、前記光吸収層より高いバンドギャップを有するバッファ層と、前記バッファ層の上に配置され、前記バッファ層より高いバンドギャップを有するウィンドウ層」を、「光吸収層の上に配置され、前記光吸収層より高いエネルギーバンドギャップを有する亜鉛拡散層と、前記亜鉛拡散層の上に配置され、前記亜鉛拡散層より高いエネルギーバンドギャップを有するバッファ層」と補正して、光吸収層とバッファ層の間に、「亜鉛拡散層」が形成されることの限定を付加する。
イ 「前記バッファ層より高いバンドギャップを有するウィンドウ層」に関して、「前記バッファ層より高いエネルギーバンドギャップを有し、ガリウム(Ga)がドーピングされたジンクオキサイド(ZnO:Ga)で形成されるウィンドウ層」と補正して、「ウィンドウ層」に係る限定を付加する。
ウ 「バンドギャップ」に関して、「前記光吸収層、亜鉛拡散層、バッファ層及びウィンドウ層は、順次高いエネルギーバンドギャップを有するように形成され」との限定を付加する。

(2)したがって、本願発明は、上記「第2」[理由]「3 独立特許要件について」で検討した本願補正発明を特定するための事項である限定を省いたものである。

(3)これに対して、上記「第2、[理由] 3(3)イ」で検討したとおり、本願発明の構成を含み、さらに上記限定を加えた本願補正発明が、引用発明及び引用文献2?3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、上記「第2」[理由]「3」での検討と同様の理由により、本願発明は、引用発明及び引用文献2?3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得るものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2?3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-24 
結審通知日 2017-03-28 
審決日 2017-04-25 
出願番号 特願2013-550370(P2013-550370)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池谷 香次郎  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 松川 直樹
森林 克郎
発明の名称 太陽電池及びその製造方法  
代理人 森下 賢樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ