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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1332732
審判番号 不服2015-19754  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-02 
確定日 2017-09-20 
事件の表示 特願2013-39559「マルチ粒子」拒絶査定不服審判事件〔平成25年7月4日出願公開、特開2013-129663〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成17年8月31日(優先権主張:2004年8月31日(英国))を国際出願日とする特許出願である特願2007-529005号の一部を平成25年2月28日に新たな特許出願としたものであって、平成25年5月27日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月4日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年8月7日付けで最後の拒絶理由通知がされ、平成27年2月19日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月22日付けで平成27年2月19日提出の手続補正書による手続補正が却下されるとともに拒絶査定がされ、これに対し、同年11月2日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1-30に係る発明(以下、「本願発明1」-「本願発明30」という。)は、平成25年12月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-30に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、本願発明1は次のとおりである。
「溶融押出しされた、制御された放出性のマルチ粒子であって、(a)薬学上活性な薬剤、(b)不溶性メタクリル酸アンモニウム共重合体、(c)水浸透性調節剤および(d)非支配的な可塑剤を含み、前記非支配的な可塑剤は、セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、ソルビトール、ショ糖、4000乃至10,000の範囲内の分子量を有する高分子量ポリエチレングリコール、セバシン酸ジブチル、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、プロピレングリコールおよび低分子量ポリエチレングリコールからなる群から選ばれるか、またはセチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、ソルビトール、ショ糖、4000乃至10,000の範囲内の分子量を有する高分子量ポリエチレングリコール、セバシン酸ジブチル、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、プロピレングリコールおよび低分子量ポリエチレングリコールからなる群から選ばれた物質の可塑化および潤滑の特性に対し近似する特性を有する前記非支配的な可塑剤であり、前記非支配的な可塑剤は次の判断基準によって識別可能であり、すなわち
(a)前記識別可能な非支配的な可塑剤は、オイドラギットRS POにおける所定の濃度での示差走査熱量測定によって可塑化効果について試験するとき、オイドラギットRS POのTg(℃として測定する)を、前記選ばれた物質の同じ濃度によって提供される減少の±50%の範囲内だけ減少させ、および
(b)前記識別可能な非支配的な可塑剤は、オイドラギットRS POにおける所定の濃度でのIKA MKD 0,6-H60 高性能測定混練機における潤滑効果について試験するとき、トルク(Nmとして測定する)を、前記選ばれた物質の同じ濃度によって提供される減少の±50%の範囲内だけ減少させ、
そこではTgおよびトルクについての値は3つの試験結果の平均であり、
および前記マルチ粒子は、処理中の潤滑に有意なまたは有用な量を提供するのに十分な、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルクまたは溶融シリカから選ばれる支配的または非支配的な潤滑剤の量を含まず、かつ、非支配的な可塑剤の量は、原料(a)?(d)の合計重量に基づき5乃至15%である、マルチ粒子。」

3 原査定の理由
原査定の理由は、「この出願については、…平成25年 5月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由6(進歩性)によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、要するに、当該理由6として、本願発明1は、その出願の優先日前に頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない、という拒絶理由を含むものである。
刊行物1 国際公開第03/013433号(原査定の引用文献1)

4 刊行物1の記載事項
拒絶の理由において引用され、本願出願前(本願優先日前)に頒布されたことが明らかである刊行物1には、以下の記載がなされている。なお、刊行物1は英語で記載されているところ、下記摘示はその訳である。

(1)「例えばマトリックスは、オピオイドアゴニスト及び実質的に非放出形態の被覆されたオピオイドアンタゴニストに加えて、…
消化性の長鎖(C_(8)?C_(50)、特にC_(12)?C_(40))の置換または未置換炭化水素、例えば脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪酸のグリセリルエステル、鉱物及び植物性の油及びワックス、及びステアリルアルコール;及びポリアルキレングリコールも含みうる。

疎水性材料が炭化水素である場合、炭化水素は、好ましくは、25℃?90℃の融点を示す。長鎖炭化水素材料の中でも、脂肪(脂肪族)アルコールが好ましい。経口投与形は、60(重量)%までの少なくとも1つの消化性長鎖炭化水素を含みうる。」(36頁下から10行-37頁8行)

(2)「 実施例10
制御放出ヒドロコドン
持続放出ヒドロコドン剤形は、下記表10の処方となるよう調合された。
表10
┌───────────┬──────┬───────┐
│成分 │量/単位(mg)│量/バッチ(g)│
├───────────┼──────┼───────┤
│ヒドロコドン酒石酸塩 │ 15.0 │ 320.0 │
├───────────┼──────┼───────┤
│オイドラギットRSPO│ 76.0 │ 1520.0 │
├───────────┼──────┼───────┤
│オイドラギットRLPO│ 4.0 │ 80.0 │
├───────────┼──────┼───────┤
│ステアリルアルコール │ 25.0 │ 500.0 │
├───────────┼──────┼───────┤
│合計 │ 120.0 │ 2400.0 │
└───────────┴──────┴───────┘
工程:
1.粉砕されたステアリルアルコール、オイドラギットRLPO、ヒドロコドン酒石酸塩及びオイドラギットRSPOをHobart Mixerを使い混合。
2.Powder Feeder、溶融押出機(6×1mmダイヘッド付き)、Conveyor、Lasermike、及びPelletizerを用いることで顆粒物を押し出す。」(実施例10)

5 刊行物1に記載された発明
上記の記載から、刊行物1には、
「ヒドロコドン酒石酸塩15.0mg/単位、オイドラギットRSPO76.0mg/単位、オイドラギットRLPO4.0mg/単位、ステアリルアルコール25.0mg/単位、合計120.0mg/単位からなる成分を溶融押出により作製された、制御放出経口投与形。」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

6 本願発明1と引用発明との対比
(1)引用発明における「ヒドロコドン酒石酸塩15.0mg/単位」「制御放出経口投与形」は、本願発明1における「(a)薬学上活性な薬剤」「制御された放出性のマルチ粒子」に相当する。
本願明細書には、本願発明1における「(b)不溶性メタクリル酸アンモニウム共重合体」「(c)水浸透性調節剤」の具体例として、それぞれ「Eudragit RS PO」(【0034】)、「Eudragit RL PO」(【0042】)が挙げられていることからみて、引用発明における「オイドラギットRSPO」「オイドラギットRLPO」は、それぞれ本願発明1における「(b)不溶性メタクリル酸アンモニウム共重合体」「(c)水浸透性調節剤」に相当する。
本願発明1における「(d)非支配的な可塑剤」は、前半の特定の化合物を含むか、後半の判断基準によって識別することができる化合物を含むかのいずれかの場合を規定するものであるが、引用発明は、上記における前半において規定している特定の化合物である「ステアリルアルコール」を含むことを規定していることから、引用発明は、本願発明1における「非支配的な可塑剤は、セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、ソルビトール、ショ糖、4000乃至10,000の範囲内の分子量を有する高分子量ポリエチレングリコール、セバシン酸ジブチル、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、プロピレングリコールおよび低分子量ポリエチレングリコールからなる群から選ばれるか、またはセチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、ソルビトール、ショ糖、4000乃至10,000の範囲内の分子量を有する高分子量ポリエチレングリコール、セバシン酸ジブチル、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、プロピレングリコールおよび低分子量ポリエチレングリコールからなる群から選ばれた物質の可塑化および潤滑の特性に対し近似する特性を有する前記非支配的な可塑剤であり、前記非支配的な可塑剤は次の判断基準によって識別可能であり、すなわち
(a)前記識別可能な非支配的な可塑剤は、オイドラギットRS POにおける所定の濃度での示差走査熱量測定によって可塑化効果について試験するとき、オイドラギットRS POのTg(℃として測定する)を、前記選ばれた物質の同じ濃度によって提供される減少の±50%の範囲内だけ減少させ、および
(b)前記識別可能な非支配的な可塑剤は、オイドラギットRS POにおける所定の濃度でのIKA MKD 0,6-H60 高性能測定混練機における潤滑効果について試験するとき、トルク(Nmとして測定する)を、前記選ばれた物質の同じ濃度によって提供される減少の±50%の範囲内だけ減少させ、
そこではTgおよびトルクについての値は3つの試験結果の平均であり」との事項を備えている。
また、引用発明は、4成分からなる顆粒物であることからすると、引用発明は、本願発明1における「処理中の潤滑に有意なまたは有用な量を提供するのに十分な、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルクまたは溶融シリカから選ばれる支配的または非支配的な潤滑剤の量を含まず」との事項を備えている。

(2)したがって、両者は、
「溶融押出しされた、制御された放出性のマルチ粒子であって、(a)薬学上活性な薬剤、(b)不溶性メタクリル酸アンモニウム共重合体、(c)水浸透性調節剤および(d)非支配的な可塑剤を含み、前記非支配的な可塑剤は、セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、ソルビトール、ショ糖、4000乃至10,000の範囲内の分子量を有する高分子量ポリエチレングリコール、セバシン酸ジブチル、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、プロピレングリコールおよび低分子量ポリエチレングリコールからなる群から選ばれるか、またはセチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、ソルビトール、ショ糖、4000乃至10,000の範囲内の分子量を有する高分子量ポリエチレングリコール、セバシン酸ジブチル、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、プロピレングリコールおよび低分子量ポリエチレングリコールからなる群から選ばれた物質の可塑化および潤滑の特性に対し近似する特性を有する前記非支配的な可塑剤であり、前記非支配的な可塑剤は次の判断基準によって識別可能であり、すなわち
(a)前記識別可能な非支配的な可塑剤は、オイドラギットRS POにおける所定の濃度での示差走査熱量測定によって可塑化効果について試験するとき、オイドラギットRS POのTg(℃として測定する)を、前記選ばれた物質の同じ濃度によって提供される減少の±50%の範囲内だけ減少させ、および
(b)前記識別可能な非支配的な可塑剤は、オイドラギットRS POにおける所定の濃度でのIKA MKD 0,6-H60 高性能測定混練機における潤滑効果について試験するとき、トルク(Nmとして測定する)を、前記選ばれた物質の同じ濃度によって提供される減少の±50%の範囲内だけ減少させ、
そこではTgおよびトルクについての値は3つの試験結果の平均であり、
および前記マルチ粒子は、処理中の潤滑に有意なまたは有用な量を提供するのに十分な、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルクまたは溶融シリカから選ばれる支配的または非支配的な潤滑剤の量を含まない、マルチ粒子。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
非支配的な可塑剤(ステアリルアルコール)の量について、本願発明1は、「原料(a)?(d)の合計重量に基づき5乃至15%である」と特定しているのに対し、引用発明は、全成分の合計重量に対して「20.8%(=25.0/120*100)」含有すると特定している点。

7 判断
上記相違点について検討する。
引用発明におけるステアリルアルコールは、上記4(1)に記載された消化性長鎖(C_(12)?C_(40))炭化水素に包含される脂肪(脂肪族)アルコールとして用いられているものであるところ、同じく上記4(1)には、経口製剤中に消化性長鎖炭化水素を60重量%まで含ませ得ることが記載されていることからすると、引用発明におけるステアリルアルコールの量を、刊行物1に記載された範囲内で特に5?15重量%に設定することは、単なる設計事項に過ぎず、例えば制御された放出性の達成などを目的として、15重量%を下回る程度に調節することは、当業者において容易になし得ることである。また、本願明細書の記載を参酌しても、ステアリルアルコールの含有割合を「5乃至15重量%」とすることにより「20.8重量%」の場合に比べ、格別の効果を奏することが確認できない。
このため、本願発明1は刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものである。

8 請求人の主張について
請求人は、平成27年12月17日提出の審判請求書の補正書において、参考資料2の実験データを示しつつ、「15重量%より多くのステアリルアルコールを含む比較のマルチ粒子…(バッチ番号F752/50)…の溶解プロファイルデータは、それらが貯蔵上で物理的/溶解プロファイルの不安定性の影響を受けやすい」(同補正書8頁下から3行?9頁15行)ものであり、「本願発明のマルチ粒子において5乃至15重量%の非支配的な可塑剤の存在によって…通常の条件下で長期貯蔵に対して安定である」(同補正書9頁16?22行)と主張し、さらに、同補正書9?10頁の実験データを示しつつ、「マルチ粒子においてオイドラギットRL POの量を変動させることは、それらの溶解プロファイルの安定性に対する何らかの関連する影響をもちません。…引用文献1の例10のマルチ粒子の溶解プロファイルの安定性が、バッチF752/50の比較のマルチ粒子のものと類似すると予測することができ、…安定性におけるこの改善は、マルチ粒子における非支配的な可塑剤の5乃至15重量%の存在によるものです。」(同補正書10頁下から4行?11頁5行)と主張する。
しかし、非支配的な可塑剤の含有割合を全成分の5?15重量%とすることで、マルチ粒子の「貯蔵上で物理的/溶解プロファイルの不安定性」を解消できることについて、本願の当初明細書には何ら記載されておらず、技術常識であるということもできない。
また、請求人が認識するとおり、「バッチF752/50の比較のマルチ粒子は、水浸透性調節剤を含んでおらず、その一方、引用文献1の例10および本願の特許請求の範囲に記載のマルチ粒子は水浸透性調節剤を含む」(同9頁23?25行)ものであり、F752/50と刊行物1例10各々のマルチ粒子は、その構成成分が相違する。そして、上記手続補正書(方式)9?10頁の実験データは、いずれも水浸透性調節剤を含むものであるから、当該データをもってしても、水浸透性調節剤を含むもの(すなわち、本願発明、当該データ、刊行物1例10)と含まないもの(F752/50)が同様の溶解プロファイルの(不)安定性の傾向を予測させるものとはいえない。
したがって、上記主張は、出願後に補充した実験結果を踏まえてするものであるところ、このような発明の効果は本願の当初明細書において明らかにしていなかった事項であり、しかも本願の当初明細書に当業者において当該効果を認識できる程度の記載やこれを推論できる記載があるとは認められないので、上記実験結果に基づく請求人の主張は採用することができない。
なお、仮に、上記主張が採用できるのであれば、「非支配的な可塑剤」の含有割合を全成分の5?15重量%とすることを補正事項として追加する平成25年12月4日提出の手続補正書による補正は、新たな技術的事項を導入することとなるところ、念のため付言する。

9 むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
そうすると、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-19 
結審通知日 2017-04-25 
審決日 2017-05-09 
出願番号 特願2013-39559(P2013-39559)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤田 浩平  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 大熊 幸治
長谷川 茜
発明の名称 マルチ粒子  
代理人 杉村 憲司  
代理人 冨田 和幸  
代理人 加藤 正樹  

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