• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1332867
審判番号 不服2016-14658  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-30 
確定日 2017-10-17 
事件の表示 特願2013-521949「嗅覚機能不全の処置のためのラサギリンの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月 2日国際公開、WO2012/015950、平成25年 8月22日国内公表、特表2013-533287、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年7月27日(パリ条約による優先権主張 2010年 7月27日(US)アメリカ合衆国、2011年 1月28日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成27年6月11日付けで拒絶理由通知がされ、平成27年12月24日付けで手続補正がされ、平成28年5月11日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成28年9月30日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1-13に係る発明は、以下の引用文献1-3に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
特に、本願発明の対象である「嗅覚機能不全を患っている非パーキンソン病の対象」には、手足に症状が出ていないが将来的にパーキンソン病を発症する患者も包含されており、パーキンソン病において運動症状を生じる前に嗅覚障害が生じることは引用文献1、3に記載されているから、パーキンソン病の運動症状発症前の対象における嗅覚障害の改善または進行の抑制のために、ラサギリンを含有する医薬を用いることは当業者が容易になし得ることである。

引用文献等一覧
1.Alvarez, M. V. et al., Movement Disorders, 2010, Vol.25, Supp. 2, p. S255, Abstract Number:211(以下、「引用文献1」という。)
2.国際公開第2009/151625号(以下、「引用文献2」という。)
3.Simuni, T. et al., European Neurology, 2009, Vol.61, No.4, p.206-215(以下、「引用文献3」という。)

第3 本願発明
本願請求項1-13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明13」という。)は、平成27年12月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-13に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
嗅覚機能不全を患っている非パーキンソン病の対象における嗅覚機能不全の症状を処置する薬剤の製造における、所定量のR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンまたは薬学的に許容されるその塩の使用であって、前記R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンまたは薬学的に許容されるその塩は前記対象に定期的に投与されるものである、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンまたは薬学的に許容されるその塩の使用。」

また、本願発明2-13の概要は以下のとおりである。

本願発明2、3は、本願発明1の薬剤の用途をそれぞれ「非パーキンソン病の対象における嗅覚機能不全の進行の速度を低減するため」、「非パーキンソン病の対象における嗅覚機能の喪失を阻止するため」と置き換えた発明である。
本願発明4-13は本願発明1-3のいずれかを減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の記載がある(訳文は当審で作成した)。

(1a)「Objective: To report a patient with Prkinson's disease(PD) who noted improved olfactory sensation, as measured by the University of Pennsylvania Smell Identification Test(UPSIT), following Rasagiline initiation.」(目的:ラサギリン投与開始後、嗅覚識別テスト(UPSIT)の評価で嗅覚改善を認めたパーキンソン病(PD)患者の報告)(Objectiveの項)

(1b)「Background: Hyposmia is a commmon, non-motor clinical symptom of PD that can present up to 10 years before typical motor symptom develop. Currently, there are no treatments for this disorder, but a phase IV clinical trial assessing potential benefit with Rasagiline treatment is underway.」(背景:嗅覚減退はPDに共通する非運動性の臨床症状であって、典型的な運動性症状が進む10年前にまで現れ得る。現在、この不調に対する治療は無いが、ラサギリン治療で期待できる効果について第4相臨床試験での評価が進められている。)(Backgroundの項)

(1c)「Results: A 71 year old man with PD diagnosed in 2006 with relatively mild motor dyfunction reported a prominent loss of olfactory sensation for "as long as he could remember".・・・(略)・・・His examination was pertinent for a mild rest tremor and diffuse bradykinesia; his UPDRS III score was 20. ・・・(略)・・・His baseline olfactory sensation was quantified using UPSIT prior to Rasagiline initiation as part of routine clinical screening; his score (13/40) indicated severe hyposmia for age. Five months later, he was retested with UPSIT and his score had improved by 4 points to 17, though subjectively he reported no difference with his sense of smell. He denied any unwanted effect from rasagiline.」(結果:2006年にPDと診断された相対的に軽微な運動障害のある71歳男性は「思い出せる限りの期間にわたる」顕著な嗅覚の喪失を訴えた。・・・彼の軽い安静時振戦と拡散運動緩慢に対する検査は適正に行われ、UPDRS IIIスコアは20であった。・・・彼のベースライン嗅覚はラサギリン投与開始に先立ちルーチン臨床検査の一環としてUPSITにより定量評価された;彼のスコア(13/40)はその年齢にしては深刻な嗅覚減退を示した。5ヶ月後、彼は再度UPSIT検査され、そのスコアは17まで4ポイント改善していたが、主観的には嗅覚において何ら変化はないと彼は答えた。彼はラサギリンによるいかなる望まない影響も否定した。)(Resultsの項)

(1d)「Conclusion: ・・・(略)・・・there is unfortunately nothing currently to offer as treatment for hyposimia and some other non-motor complaints. We are hopeful our patient's improvemrnt represents a trend toward continued improvement in olfactory sensation along with other motor symptoms of PD, and that the results of the phase IV trial of Rasagiline produce similar recover of function in other PD patients.」(結論:・・・残念ながら現在は嗅覚減退や他の非運動性の症状に対する治療として提供できるものは何もない。我々は、この患者における症状改善が、PDの他の運動性症状に伴って嗅覚においても継続する症状改善に向かう傾向の顕れであることを期待し、またラサギリンの第4相試験の結果において他のPD患者においても同様の機能回復を得られることを期待する。)(Conclusionの項)

引用文献1には、(1b)のとおりパーキンソン病患者において嗅覚減退が運動症状に先立って現れ得ることが記載されてはいるものの、そのような、パーキンソン病と診断できる前に見られる嗅覚機能不全に対する有効な治療については何ら記載されていない。(1d)では、嗅覚減退を含むパーキンソン病の非運動性症状に対して確立した治療手段が存在しないことに言及しており、嗅覚改善を報告されている症例もパーキンソン病と診断された患者の一例のみである。
そうすると、上記(1a)-(1d)より、結局、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「嗅覚機能不全を患っているパーキンソン病の対象における嗅覚機能不全の症状を処置する薬剤の製造における、ラサギリンの使用。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の記載がある(下線は当審で付与した)。

(2a)「41.パーキンソン病の初期の徴候を示す患者の治療方法であって、パーキンソン病の初期の徴候を示す患者を特定することと、当該患者を治療するのに効果的な量のラサギリンまたは薬学的に許容されるラサギリンの塩をそのように特定された患者に定期的に投与することとを含む方法。」(特許請求の範囲)

(2b)「46.初期パーキンソン病患者において非運動性症状の重症度を緩和する方法であって、非運動性症状の重症度を緩和するのに効果的な量のラサギリンまたは薬学的に許容されるラサギリンの塩を初期パーキンソン病患者に定期的に投与することを含む方法。

47.請求項46に記載の方法であって、前記非運動性症状がUPDRSバージョン4パート1により規定される方法。」(特許請求の範囲)

(2c)「パーキンソン病(PD)は、2番目に一般的な加齢に関係する神経変性障害であり、60歳を越える人の1-2%が発症している。・・・(略)・・・さらに、潜在的障害の特徴、例えば歩行機能障害、平衡感覚障害、すくみ(freezing)、睡眠障害、自律神経障害および痴呆などは一般に、利用可能な治療によっては十分に制御されない(Lang AE, Obeso JA. Time to move beyond nigrostriatal dopamine deficiency in Parkinson's disease. Ann Neurol 2004, 55: 761-765)。・・・(略)・・・パーキンソン病研究において、障害の進行を遅らせるか、止めるか、または逆転させる神経保護療法が最も優先度が高い。」(第1頁第16行-第2頁第23行)

(2d)「ここで用いられる場合、「パーキンソン病の初期の徴候」は、以下の1以上を含む:
a)一方の手の安静時4-8Hzの丸薬丸め振戦;
b)安静時に最大であり、運動時に減少し、睡眠時にはない振戦;
c)運動の硬直および緩徐化(徐脈)、運動の低下(運動低下症)、および運動開始における困難(失動症);
d)口の開きおよびまばたきの減少を伴う仮面状の顔面、これはうつ病と混同されるかもしれない;
e)前かがみになる姿勢;
f)歩行開始における困難;短い歩幅で引きずり歩きになる歩行、および闊歩により揺れないように腰に曲げられた手;
g)時折無意識に早くなる歩調、および時に転倒を避けて走りだす患者(加速歩調);
h)姿勢反射に起因して重力の中心が移動するとき、前方に転倒する傾向(前方突進)または後方に転倒する傾向(逆突進);
i)単調な吃音構語障害の特徴を伴い発声不全になる発語;
j)小字症を生ずる運動機能減少症および抹消筋肉組織の制御障害および日常生活の活動による増加した困難;
k)少ないまばたきおよび顔の表情の欠如;
l)減少した運動;
m)姿勢反射障害;および/または
n)歩行異常の特徴。

ここで用いられる場合、PD患者の段階は、症状に依存した以下の5つの異なる段階でHoehnおよびYahrにより記載される(Hoehn MM, Yahr MD, Parkinsonism: onset, progression and mortality. Neurology 1967, 17:427-42)。
ステージI:(軽微なまたは初期の疾患):体の片側にのみ発症する症状
ステージII:体の両側に発症するが、姿勢は正常なままである。
ステージIII:(中程度の疾患):体の両側に発症し、起立または歩行時の軽度の不均衡がある。しかしながら、独立したままである。
ステージIV:(進行疾患):体の両側に発症し、起立または歩行時の身体障害の不安定性。この段階にある人は相当の支援を必要とする。
ステージV:重篤で完全に進行した疾患が存在する。ベッドまたは椅子に制限される。

ここで用いられる場合、「初期PD患者」とは、HoehnおよびYahrにより定義されるパーキンソン病のステージIまたはステージIIのPD患者であり、症候性の抗パーキンソン治療を必要としない。好ましくは、前記PD患者は少なくとも次の9ヶ月症候性の治療を必要としない。初期PD患者は、関連する試験を行うことにより特定されてよい。」(第31頁第5行-第32頁第29行)

(2e)「全UPDRS(Unified Parkinson’s Disease Rating Scale、統一パーキンソン病評価スケール)スコアは、パーキンソン病症状のレベルまたは重症度を示す。これを用いて治療の間、有効性変数のベースラインからの変化を測定する。UPDRSは3つの部分の試験よりなる。全31項目がパートI、IIおよびIIIの試験に含まれる。各々の項目に0-4のスコアをつけ、0は障害がないこと、4は最も高い障害の程度を示す。各試験におけるパートI、IIおよびIIIの合計が、全UPDRSスコアを提供する。パートIは、精神作用、挙動および気分を評価するように設計される(項目1-4)。これは履歴的情報として収集される。パートII(項目5-17)もまた履歴的情報である。パートIII(項目18-31)は往診時の運動試験である。

パートI:精神作用、挙動および気分
項目1.知能障害
0:なし。
1:軽微-事象の部分的記憶を有する一貫した健忘、他の困難性は無い。
2:中程度の記憶障害、見当識障害および複雑な問題を扱う際の中性度の困難性がある。家庭で時折後見が必要な軽微ではあるが決定的な機能障害。
3:時間および、多くの場合、場所の見当識障害を伴う重篤な記憶障害。問題の取り扱いにおける重篤な記憶障害。
4:重篤な記憶障害であり、人に対してのみ見当識が保存されている。問題解決のための判断ができない。個人的介護によりかなりの介助を必要とし、一人にしておくことができない。
項目2.思考障害(痴呆または薬物中毒による)
0:なし
1:鮮明な夢
2:見識を保持した良性の幻覚
3:時折のもしくは頻繁な見識のない幻覚または妄想;これは日常活動に支障をきたす可能性がある。
4:持続性の幻覚、妄想または病勢盛んな精神疾患。自身で管理することができない。
項目3.抑鬱
0:なし。
1:通常以上の悲哀または罪悪感。数日または数週間続くことはない。
2:鬱状態が続く(1週間以上)。
3:自律神経症状(不眠症、食欲不振、体重減少、無関心)を伴う鬱状態が続く。
4:自殺念慮または自殺企図を有する自律神経症状を伴う鬱状態が続く。
項目4:意欲および自発性
1:通常よりも受動的;より消極的。
2:選択的(ルーチンでない)活動への自発性の喪失または無関心。
3:日常の(ルーチン化した)活動への自発性の喪失または無関心。
4:引きこもり、完全な意欲の喪失。

パートII:日常生活の活動(スコア0-4)
項目5.会話
0:正常。
1:軽度の障害。理解されるのに困難性はない。
2:中程度の障害。時折、発言を繰り返すよう求められる。
3:重度の発症。頻繁に発言を繰り返すよう求められる。
4:大抵の場合、理解できない。
項目6.唾液分泌
0:正常。
1:口内の唾液の軽微であるが明らかな増加;夜間に流涎となる可能性がある。
2:中程度の唾液の増加;小量の流涎の可能性がある。
3:時折流涎を伴う著しい唾液の増加。
4:顕著な流涎。常時ティッシュかハンカチを必要とする。
項目7.飲み込み
0:正常。
1:まれにむせる。
2:時折むせる。
3:軟らかい食べ物を必要とする。
4:経鼻胃チューブまたは胃切開摂食を必要とする。
項目8.書字
0:正常。
1:軽度に遅いかまたは小さい。
2:中程度に遅いかまたは小さい;全ての文字が判読可能。
3:重度に障害;全ての文字が判読可能というわけではない。
4:大部分の文字が判読不可能
項目9.食物の切り分け、用具の取り扱い
0:正常
1:いくらか緩慢だが介助は必要ない。
2:ぎこちなく且つ緩慢だが、ほとんどの食物を切ることができる。いくらか介助が必要。
3:他の人に食物を切ってもらう必要があるが、まだ緩慢に食事をとることができる。
4:食べさせてもらう必要がある。
項目10.着衣
0:正常。
1:いくらか緩慢だが、介助は必要ない。
2:ボタン留めや腕を袖に通すのに時折介助が必要。
3:かなりの介助が必要だが、いくつかのことは自分でできる。
4:何もできない。
項目11.衛生
0:正常。
1:いくらか緩慢だが、介助は必要ない。
2:シャワーもしくは入浴に介助が必要、または衛生管理は非常に緩慢である。
3:洗浄、歯磨き、髪をとかす、浴室に行くのに介助を必要とする。
4:フォーリーカテーテルまたは他の機械的補助。
項目12.ベッドでの寝返りおよびシーツの調整
0:正常。
1:いくらか緩慢でぎこちないが、介助は必要ない。
2:大きな困難を要するが、一人で寝返り打つことができ、またはシーツを整えることができる。
3:寝返りを打つことやシーツを整えることを始めることはできるが、一人ではできない。
4:できない。
項目13.転倒(すくみとは関係ない)
0:なし。
1:まれに転倒する。
2:時折転倒し、それは1日に1回よりも少ない。
3:平均して1日1回転倒する。
4:1日複数回転倒する。
項目14.歩行時のすくみ
0:なし。
1:歩行時まれにすくみ、初めに躊躇するかもしれない。
2:歩行時に時折すくむ。
3:頻繁にすくむ。時折すくみから転倒する。
4:すくみから転倒する。
項目15.歩行
0:なし。
1:軽度の困難。手を振らないか、または足を引きずるかもしれない。
2:中程度の困難があるが、介助をほとんどまたは全く必要としない。
3:介助を必要とする歩行の重篤な障害。
4:介助を伴っても全く歩くことができない。
項目16.振戦
0:なし。
1:軽度でまれに存在する。
2:中程度;患者にとって厄介である。
3:重篤;多くの活動を妨げる。
4:顕著;ほとんどの活動を妨げる。
項目17.パーキンソン症候群に関連する感覚的不調
0:なし。
1:まれにしびれ感、うずき、または軽度の痛みを有する。
2:頻繁にしびれ感、うずき、または痛みを有する;苦痛ではない。
3:頻繁な有通性の感覚。
4:耐え難い痛み。
パートIII:運動試験(スコア0-4)
項目18.発語
0:正常。
1:表現、言い回しおよび/または声量の軽微な喪失。
2:単調、不明瞭であるが理解可能;中程度に障害されている。
3:顕著な障害;理解が困難である。
4:理解不可能。
項目19.顔の表情
0:正常。
1:軽躁(hypomimia)、これは正常な「ポーカーフェイス」かもしれない。
2:軽微だが明らかに異常な表情の減少
3:中程度の軽躁;時折開いた口。
4:表情の重篤もしくは完全な喪失を伴う仮面顔または固定顔;1/4インチ以上開いた口。
項目20.安静時の振戦
a)顔面、唇および顎
b)右手
c)左手
d)右足
e)左足
0:なし
1:軽度で頻繁にある。
2:振幅が軽く、ほとんどの時間ある。
3:中程度の振幅でほとんどの時間ある。
4:顕著な振幅でほとんどの時間にある。
項目21.手の動作時または姿勢時振戦
0:なし。
1:軽度;動作に伴っておこる。
2:中程度の振幅;動作に伴っておこる。
3:動作時および姿勢時に中程度の振幅。
4:顕著な振幅;食事を妨げる。
項目22.硬直(座ってリラックスした患者による主要な関節の受動運動について判断。歯車減少(cogwheeling)は無視した。)
a)首
b)右上肢
c)左上肢
d)右下肢
e)左下肢
0:なし。
1:軽度であるか、またはミラー運動または他の運動により活性化されたときのみ検出可能。
2:軽度または中程度。
3:顕著であるが、全可動域が容易に達成される。
4:重篤、可動域の達成には困難を伴う。
項目23.フィンガータップ(Finger taps)(患者は各々の手を別々に、なるべく大きな振幅で親指と人差し指とを迅速に継続して軽く叩く)
a)右手
b)左手
0:正常 > 15/5秒。
1:少し遅いおよび/または振幅が減少(11-14.5秒)。
2:中程度の障害。明確な早期の疲労。運動中に時折停止するかもしれない(7-10/5秒)。
3:重篤な障害。動作の開始において頻繁な躊躇または運動中に停止する(3-6/5秒)。
4:ほとんどできない(0-2/5秒)。
項目24.手の運動(患者は各々の手を別々に、できるだけ大きな振幅で迅速に継続して手を開閉する。)
a)右手
b)左手
0:正常
1:少し遅いおよび/または振幅が減少
2:中程度の障害。明確な早期の疲労。運動中に時折停止するかもしれない。
3:重篤な障害。動作の開始において頻繁な躊躇または運動中に停止するかもしれない。
4:ほとんどできない。
項目25.急速な手の交互運動(出来るだけ大きな振幅での垂直または水平な手の回内回外運動。両方の手を同時に。)
0:正常。
1:少し遅いおよび/または振幅が減少
2:中程度の障害。明確な早期の疲労。運動中に時折停止するかもしれない。
3:重篤な障害。動作の開始において頻繁な躊躇または運動中に停止するかもしれない。
4:ほとんどできない。
項目26.脚の機敏さ(患者は脚を全体的に持ち上げ、迅速に継続してかかとで地面を軽く叩く。振幅は約3インチである。)
0:正常。
1:少し遅いおよび/または振幅が減少
2:中程度の障害。明確な早期の疲労。運動中に時折停止するかもしれない。
3:重篤な障害。動作の開始において頻繁な躊躇または運動中に停止するかもしれない。

4:ほとんどできない。
項目27.椅子からの立ち上がり(患者は、腕を組んだまま垂直な背部の木製または金属製の椅子から立ち上がることを試みる)
0:正常。
1:緩慢、または1度以上の試みが必要かもしれない。
2:緩慢、または椅子のひじかけから自分で押し上がる。
3:後退の傾向があり、1回以上試行しなければならないかもしれないが、介助なしで立ち上がることができる。
4:介助なしでは立ち上がることができない。
項目28.姿勢
0:正常な直立。
1:完全な直立ではなく、軽度の前屈姿勢;高齢者に一般的。
2:中程度の前屈姿勢、明らかに正常ではなく、一方の側に軽く傾斜していてもよい。
3:脊柱後弯を伴う重篤な前屈姿勢;一方の側に中程度傾斜していてもよい。
4:姿勢の極度の異常を伴う顕著な湾曲。
項目29.歩行
0:正常。
1:緩慢に歩き、短い歩幅で脚を引きずって歩くかもしれないが、加速歩行または前方突
進はない。
2:歩行に困難を伴うが、ほとんどまたは全く介助を必要としない;加速歩行、短い歩幅、または前方突進があるかもしれない。
3:介助を必要とする重篤な障害のある歩行
4:介助なしでは全く歩くことができない。
項目30.姿勢の安定性(突然の後方変位に対する応答)
0:正常。
1:後方突進するが、介助なしで回復する。
2:姿勢反応の欠如;検査員が受け止めなければ転倒する。
3:非常に不安定で、自然にバランスを失う傾向がある。
4:介助なしでは立つことができない。
項目31.体の動作緩慢および運動低下(一般に、緩慢、躊躇、腕の振りの減少、運動の振幅の小ささおよび不足)
0:なし。
1:最小の緩慢さ、慎重な正確に動きを与える;人によっては正常。場合によっては振幅が小さいかもしれない。
2:動きの緩慢および不足の程度は軽度、明確に正常ではない。または運動の振幅が小さい。
3:中程度の緩慢、運動の振幅が不足するか、または小さい。
4:顕著な緩慢、動きの振幅が不足するか、または小さい。」 (第33頁第22行-第42頁第22行)

(2f)「PDの緩和に効果的な治療のために、疾患過程のできるだけ早期に神経保護が導入されなければならない。これは、通常PDの診断時までに50-80%の黒質細胞の損失が既に生じているという理由による(Simpins N, Jankovic J. Neuroprotection in Parkinson Disease. Arch Intern Med, July 28, 2003, Vol 163: 1650-1654)。」(第44頁第19-25行)

(2a)-(2f)より、引用文献2には、パーキンソン病とその初期段階の治療について次の技術事項が記載されているといえる。

(2i)初期パーキンソン病患者において、非運動性症状の重症度を緩和するために、ラサギリンまたは薬学的に許容されるラサギリンの塩を定期的に投与する。

(2ii)パーキンソン病は加齢に関係する神経変性障害であって、種々の運動性症状、非運動性症状を呈し、疾患過程の早期に神経保護を導入することが望ましい。

(2iii)パーキンソン病の診断や重症度の判定にはUPDRS、HoehnおよびYahrによる5段階ステージといった基準が用いられており、それらには「パーキンソン病の初期の兆候」として運動性症状の他に非運動性症状も挙げられるが、嗅覚に関する項目は含まれていない。

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の記載がある(訳文、下線はそれぞれ当審で作成、付与した)。

(3a)「At 12 months, patients taking rasagiline from the start of the trial had significantly lower UPDRS scores (less disability) than those who initiated rasagiline after 6 months of precebo treatment, suggesting that the earlier administration of rasagiline may have provided neuroprotection.」(12ヶ月の時点で、試験開始からラサギリンを摂取している患者は、プラセボ6ヶ月の後にラサギリンを開始した患者に比べてUPDRSスコアが著しく低かったが、これはより早いラサギリン投与の開始が神経保護を提供し得ることを示唆している。)(第208頁、左欄、第2段落第、2-7行目)

(3b)「・・・(略)・・・non-motor symptoms were attributed to more advanced stages of PD; however, it is now known that many can manifest early in the course of the disease and can even precede the onset of motor symptoms(e.g. anosmia, ・・・(略)・・・).」((例えば嗅覚減退など)非運動性症状はPDの進行した段階で起こるものと考えられていたが、今ではその多くはこの病気の早期段階で、むしろ運動性症状の始まるのに先行して現れ得ることが知られている。)(第209頁、右欄、第1段落、第11-15行目)

(3c)「Loss of smell has long been reported to be an early sign of PD, present in 70-100% of PD patients[92]. As the loss of smell frequently can precede the onset of motor symptoms, recent reseearch has focused on the role of smell-testing in the early identification of PD[92]. If proven to be sensitive and specific, a smell test would be an easy-to-administer inexpensive screening tool that would be useful for identifying populations at risk of PD and for enrollment in neuroprotection clinical trials.」(嗅覚喪失はPDの早期の兆候であり、PD患者の70-100%で見られることが長らく報告されてきている。嗅覚喪失は運動性症状の始まる前に先行して現れることが多いため、最近の研究ではPDの早期診断における嗅覚試験の役割に焦点が置かれている。もし感度と特異性が証明されれば、嗅覚試験はPDのリスクのある群を同定するための、そして神経保護の臨床試験参加のための、簡便で安価なスクリーニングツールとして有用になるであろう。)(第212頁、左欄、第3段落、第1-9行目)

(3a)-(3c)より、引用文献3には、次の技術事項が記載されているといえる。

(3i)早期にラサギリンの投与を開始することでパーキンソン病治療において神経保護の作用を期待できる。

(3ii)パーキンソン病においては、発症に先立って嗅覚機能不全が高頻度で現れる。

(3iii)嗅覚機能不全からパーキン病発症リスクに対する特異性についての知見は確立されていない。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
本願発明1の「R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダン」は「Rasagiline(ラサギリン)」の名称で知られる化合物であるから、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点が存在する。

(一致点)
「嗅覚機能不全を患っている対象における嗅覚機能不全の症状を処置する薬剤の製造における、所定量のR(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンまたは薬学的に許容されるその塩の使用であって、前記R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンまたは薬学的に許容されるその塩は前記対象に投与されるものである、R(+)-N-プロパルギル-1-アミノインダンまたは薬学的に許容されるその塩の使用。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は嗅覚機能不全を患っている対象が「非パーキンソン病の対象」であるのに対し、引用発明ではパーキンソン病患者である点。
(相違点2)本願発明1は対象に「定期的に」投与されるのに対し、引用発明では投与間隔について特定されない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。

ア.相違点1について
本願明細書には、「非パーキンソン病の対象」について次の(a)、(b)の記載があり、また実施例について(c)-(j)の記載がある(下線は当審で付した)。

(a)「【0033】
本明細書で用いられる、パーキンソン病(PD)患者は、Hoehn and Yahr(Hoehn MM、Yahr MD、Parkinsonism:onset,progression and mortality.、Neurology、1967年、17巻、427-42頁)によって記載される以下の5つのPDステージのいずれかと診断されている患者である。
【0034】
ステージI:(軽度または早期疾患):症状が身体の片側だけに発症する。
【0035】
ステージII:身体の両側が発症するが、姿勢は依然として正常である。
【0036】
ステージIII:(中等度疾患):身体の両側が発症し、立位または歩行の間軽度の平衡異常が存在する。しかし、患者は依然として独立している。
【0037】
ステージIV:(進行した疾患):身体の両側が発症し、立位または歩行の間、無力性の不安定(disabling instability)が存在する。このステージにおける患者は実質的な援助を必要とする。
【0038】
ステージV:重症で、完全に進展した疾患が存在する。患者はベッドまたは椅子に拘束される。」(段落【0033】-【0038】)

(b)「【0039】
本明細書で用いられる「非パーキンソン病」の患者は、HoehnおよびYahrによって記載される5つのPDステージのいずれにも診断されていない患者である。」(段落【0039】)

(c)「【0057】
実験の詳細
試験デザイン
野生型(WT)およびアルファ-シヌクレイン過剰発現性(突然変異体)の11ヶ月のオスを、飲料水中3mg/kgのラサギリンで8週間処置した。嗅覚試験をラサギリン処置開始4週後に開始した。
・・・(中略)・・・
【0058】
アルファ-シヌクレイン過剰発現性マウス
Thy1プロモータの下でアルファ-シヌクレインを過剰発現するトランスジェニックマウス(Thy-aSyn)は、脳にわたって高レベルのアルファ-シヌクレインの発現を有するが、黒質線条体のドパミンニューロンの喪失は8ヶ月までない。したがって、このようなマウスは、前臨床段階のPD、特に、しばしばPDの極めて重要な運動症状の発症に数年先行し、匂いの検出、識別、および確認の欠損を含む嗅覚機能不全を形作るのに有用である。アルファ-シヌクレインの過剰発現は、PDを有する患者において観察されるものに類似する、マウスにおける嗅覚欠損を引き起こすのに十分である(2)。
【0059】
以下の嗅覚試験を、試験の間に行った:
1.社会的な匂いの識別試験
2.非社会的な匂いの識別試験
3.匂い検出試験
4.短期の嗅覚記憶試験
以下の対照試験を、試験の間に行った:
1.物体探索試験
2.物体/匂い識別試験
3.匂い嗜好」(段落【0057】-【0059】)

(d)「例1:匂い検出閾値の決定
この実験は、ラサギリンが、嗅覚障害動物(olfactory challenged animal)の匂い検出閾値に対して陽性効果を有するか否かを決定するためにデザインされた(図1A)。

・・・(略)・・・

【0061】
考察
上記の結果は、ラサギリンがα-syn突然変異体の匂い閾値を10^(-4)から10^(-6)に改善したことを実証している(図1B)。・・・(略)・・・図1Bは、突然変異体が、対照(10^(-6))に比べて匂いを検出するのに高濃度(10^(-4))を必要とし、ラサギリン突然変異体の匂い検出閾値を改善することを示している。
【0062】
上記の結果は、10^(-6)の濃度で、ラサギリンがα-syn突然変異体の匂い検出能力を改善したことも実証している(図1C)。・・・(略)・・・図1Cは、10^(-6)の濃度では、非処置の突然変異体が匂いを検出せず、ラサギリンが突然変異体の匂い検出能力を改善することを示している。」(段落【0059】-【0062】)

(e)「【0063】
例2:短期嗅覚記憶
この実験は、ラサギリンの、突然変異動物が1分、1分30秒、または2分の短時間間隔の間に新規な匂いを記憶する能力に対する効果を評価するようにデザインされた(図2A)。

・・・(略)・・・

【0065】
考察:
上記の結果は、ラサギリンが、特に、1.5分間隔で、WTおよびα-syn突然変異マウスの短期の嗅覚記憶に対して陽性効果を有することを実証している(図2BおよびC)。
【0066】
・・・(略)・・・
図2Bは、2分のITIで、突然変異体およびWT-Rasが、WT-水に比べて短期嗅覚記憶の低減を示したことを示している。
【0067】
・・・(略)・・・図2Cは、1.5分では、ラサギリンがWTと突然変異体との両方に対する短期嗅覚記憶に対して陽性効果があったことを示している。」(段落【0063】-【0067】)

(f)「【0068】
例3:社会的な匂いの識別
この実験は、ラサギリンの、マウスが馴染みのある社会的な匂い(F)と新規な社会的な匂い(N)を識別する能力に対する効果を評価するようにデザインされた(図3A)。

・・・(略)・・・

【0072】
考察:
軽い社会的な匂いの強度の識別:
上記の結果は、ラサギリンが、α-syn突然変異マウスにおける軽い社会的な匂いの識別を改善することを実証している(図3B)。・・・(略)・・・図3Bは、突然変異体が、「軽い」社会的な匂いの識別に障害があり、ラサギリンが突然変異体における社会的な匂いの識別を改善することを示している。
【0073】
強い社会的な匂いの強度の識別:
上記の結果は、ラサギリンがWTおよびα-syn突然変異マウスにおける強い社会的な匂いの識別を改善することも実証している(図3C)。・・・(略)・・・

【0074】
図3Cは、突然変異体が「強い」社会的な匂いの識別に障害があり、ラサギリンがマウスにおける強い社会的な匂いの識別を改善することを示している。」(段落【0068】-【0074】)

(g)「【0075】
例4:非社会的な匂いの識別
この実験は、ラサギリンの、マウスが2つの近似した非社会的な匂いを識別する能力に対する効果を評価するようにデザインされた。

・・・(略)・・・

【0077】
考察:
上記の結果は、ラサギリンが、α-syn突然変異マウスにおける2つの近似した非社会的な匂いの識別を改善することを実証している(図4B)。・・・(略)・・・図4Bは、突然変異体が2つの近似した非社会的な匂いの識別に障害があり、ラサギリンが2つの近似した非社会的な匂いの識別を改善することを示している。」(段落【0075】-【0077】)

(h)「【0078】
例5:匂いの嗜好試験
この実験は、マウスまたはラサギリン処置が、ライムとレモンの間の匂いの嗜好を妨害し得るか否かを決定するための対照試験であった。

・・・(略)・・・

【0080】
考察:
上記の結果は、レモンとライムの間で匂いの嗜好の差が存在しなかったことを実証している。・・・(略)・・・図5Bは、各群に対して、レモン/ライム間に匂いの嗜好の差はなく、各匂いに対して、群間の嗅ぐ動作の時間%に差がなかったことを示している。」(段落【0078】-【0080】)

(i)「【0081】
例6:新規な物体の探索試験
この実験は、ラサギリンが新規な物体の探索のレベルに影響を有するか否かを決定するための対照試験であった。

・・・(略)・・・

【0083】
考察:
上記の結果は、ラサギリンが、WTおよび突然変異動物の新規な物体の探索に対して効果がないことを実証している(図6B)。・・・(略)・・・図6Bは、突然変異体がWTに比べて新規な物体の探索において障害があり、ラサギリンが新規な物体の探索に対して効果を示さないことを示している。」(段落【0081】-【0083】)

(j)「【0084】
例7:新規な物体/匂いの識別
この実験は、突然変異マウスおよびラサギリンで処置した動物の物体/匂い識別能力を決定するための対照試験であった。目的は、匂い識別の欠損は、嗅覚機能に特異的であったか否かを決定することであった(図7A)。

・・・(略)・・・

【0087】
考察:
上記の結果は、突然変異マウスが、対照に比べて同様の物体/匂い識別能力を示し、匂い識別の欠損は嗅覚機能に特異的であると思われることを意味することを実証していた。・・・(略)・・・図7Bは、突然変異体が新規な物体/匂いを識別することができ、ラサギリン処置が、突然変異体の識別能力を実質的にWTレベルに改善することを示している。」(段落【0084】-【0087】)

上記(a)、(b)によれば、本願発明の「非パーキンソン病の対象」とは、運動性症状の現れ方に基づきパーキンソン病の重症度のレベルを分けるHoehnとYahrによる重症度分類の、いずれのステージにも該当しない対象であると認められ、後のパーキンソン病発症の可能性に関わらず、パーキンソン病特有の運動症状が現れていない患者は本願発明の「非パーキンソン病の対象」に当たる。
また、(c)-(j)より、本願明細書には、パーキンソン病の発症に先行する嗅覚機能不全のモデルとしての遺伝子改変マウスと、そのような遺伝子改変のない野生型マウスとを用いて、両者におけるラサギリン投与の効果を確認したことが示されている。

引用文献1には、「第4 引用文献、引用発明等」の「1.引用文献1について」で述べたとおり、ラサギリン投与によってパーキンソン病の運動性症状に伴い嗅覚のスコアが改善されたことが記載され、パーキンソン病の発症に先立ち嗅覚機能不全が現れることも記載されるものの、パーキンソン病と診断されない単独の嗅覚機能不全にラサギリンを投与することは記載されていない。
引用文献2には、「第4 引用文献、引用発明等」の「2.引用文献2について」(2i)-(2iii)のとおり、初期パーキンソン病患者において非運動性の症状に対してラサギリンを投与することが記載されるが、非運動性の症状としても嗅覚機能不全については言及されず、パーキンソン病の診断前に現れた嗅覚機能不全に対するラサギリンの投与に関する示唆もない。
引用文献3には、「第4 引用文献、引用発明等」の「3.引用文献3について」(3i)-(3iii)のとおり、パーキンソン病治療では早期のラサギリン投与開始が神経保護に有利であり、パーキンソン病の発症に先立ち嗅覚機能不全が現れ得ることが記載されているが、嗅覚機能不全が後のパーキンソン病発症リスクの指標になると結論にするには至っていないことも記載されている。
すなわち、パーキンソン病の兆候を何ら伴わない嗅覚機能不全について、後にパーキンソン病との関連が明らかになる可能性があることは知られているものの、単独で認められる嗅覚機能不全においてそのようなパーキンソン病リスクがどの程度の頻度であり、嗅覚機能不全の症状のみに基づきパーキンソン病の治療薬を用いることの有効性がどの程度あるのか、といったことについて引用文献1-3からは不明である。
そうすると、嗅覚機能不全はその病因や発症機序が非常に多岐にわたる症状であり、高齢者において症状が見られる頻度が大きくなるという技術常識を踏まえれば、嗅覚機能不全の他にパーキンソン病の兆候が見られない場合に、直ちにパーキンソン病を疑ってその治療薬であるラサギリンの投与をすることについて、引用文献1-3に合理的な根拠は見出せない。
したがって、相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者といえども、引用発明および引用文献1-3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2-13について
本願発明2-13は、「非パーキンソン病の対象における嗅覚機能不全」に対するラサギリン投与に関する点で本願発明1と同一の構成を備えているから、本願発明1と同じ理由により、当業者といえども引用発明および引用文献2、3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-13は、当業者が引用発明および引用文献1-3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

したがって、上記結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-05 
出願番号 特願2013-521949(P2013-521949)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平林 由利子  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 淺野 美奈
前田 佳与子
発明の名称 嗅覚機能不全の処置のためのラサギリンの使用  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 野河 信久  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ