• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N
管理番号 1332888
審判番号 不服2016-5849  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-19 
確定日 2017-09-28 
事件の表示 特願2014-11275「アリ用毒餌剤の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年5月1日出願公開、特開2014-77016〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成21年11月9日に出願した特願2009-256404号の一部を平成26年1月24日に新たな特許出願としたものであって、平成26年1月24日に上申書が提出され、平成27年2月6日付けで拒絶理由が通知され、同年4月13日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月6日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対して応答がされず、平成28年1月7日付けで拒絶査定がされ、同年4月19日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、平成29年4月11日付けで拒絶の理由が通知され、同年6月19日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成27年4月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「容器に収容された状態でアリを防除するために使用されるアリ用毒餌剤の製造方法であって、
少なくとも、殺虫剤と、ショ糖と、グリセリンと、水飴と、粉体とを含む構成成分を、ゼラチンを加えることなく、加熱及び冷却せずに、成形可能なゲル状又はペースト状となるまで混ぜ合わせて、上記容器に粘着する粘着性を付与するとともに、成形された形状を上記容器に粘着した状態で維持する形状維持性を付与することを特徴とするアリ用毒餌剤の製造方法。」
(以下「本願発明」という。)

第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が通知した拒絶の理由は、理由1及び2からなる。
そのうちの理由1の概要は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物1(特開昭58-124709号公報)、刊行物2(特開平8-175910号公報)、刊行物3(実願昭62-97884号(実開昭64-2001号)のマイクロフィルム)、刊行物4(特開平9-131154号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。本願発明は、上記の拒絶理由が通知された請求項1に係る発明である。

第4 当審の判断
当審は、当審が通知した拒絶の理由のとおり、本願発明は、上記刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

(1)刊行物
刊行物1:特開昭58-124709号公報
刊行物2:特開平8-175910号公報
刊行物3:実願昭62-97884号(実開昭64-2001号)のマイクロフィルム
刊行物4:特開平9-131154号公報
刊行物5:実用新案登録第2599092号公報
刊行物6:特開2001-226206号公報
刊行物5及び6は、この出願の出願当時の技術常識を示すために引用するものである。

(2)刊行物の記載事項

ア 刊行物1
(1a)「1.(a)一般式

式中、Rは水素又は塩素原子を表わす、の活性化合物少なくとも1種と、
(b)グリセロール又は適宜糖及び/又はグリセロールと混合されていてもよい蜂蜜又は、適宜グリセロールと混合されていてもよい糖、ここで成分(b)は少ない量の水を含有していてもよい、から成る蟻に対する毒餌。
・・・・・・・・・・・・・・・
7.(a)一般式

式中、Rは前記した意味を有する、
の活性化合物少なくとも1種を(b)グリセロール又は適宜糖及び/又はグリセロールと混合されていてもよい蜂蜜又は適宜グリセロールと混合されていてもよい糖、ここで成分(b)は少量の水を適宜含有していてもよい、とをニーダ中で低い温度で混合し、それにより生じた混合物を次いで均質化しそして1つ又はそれより多くの容器中に充填することを特徴とする、特許請求の範囲第1?6項の何れかに記載の蟻に対する毒餌の製造方法。
8.該方法を10℃乃至30℃の温度で行なうことを特徴とする特許請求の範囲第7項記載の方法。」(1?2頁、特許請求の範囲第1項、第7項及び第8項)
(1b)「本発明は或る種のリン酸エステルをベースとする蟻に対する或る種の毒餌(baits)、その製造方法及び蟻を防除する(controlling)ためのその使用に関する。」(2頁右上欄11?14行)
(1c)「蟻を防除するための殺虫剤(insecticide)は広範な多様な処法で使用することができることは既に開示されている。挙げることができる例は噴霧、ダスト、スプレーガン及び毒餌のための剤である。蟻は人間及び家禽生息区域の近隣にしばしば見出され、そして駆除されなければならないので、毒餌は、人間及び家禽に対して比較的危険が少ないこと及び一般的に高い程度の環境許容性の故に次第に重要になりつつある。
しかしながら蟻に対する毒餌に使用するのに好適な殺虫活性化合物の数は、非常に少ない。何故ならば、非常に鋭敏に反応する蟻はそれらを受け入れることを大抵拒絶するからである。これは、毒餌が1日又は2日続く短い活性を有する場合のみならず数か月にわたる活性及び保存期限を示すように高い濃度で活性化合物を含有する場合に特にそうである。
O,O-ジエチルチオノホスホリル-α-オキシミノフエニル-アセトニトリル(ホキシム)(phoxim)及びO,O-ジエチル-チオノホスホリル-α-オキシミノ(2-クロロフェニル)アセトニトリル(クロロホキシム)(chlor-phoxim)は、蟻を駆除するために使用することができる殺虫及び殺ダニ活性を有する化合物として多年にわたり知られてきた(西ドイツ特許明細書第1,238,902号参照)。これらの物質は噴霧及びダステイングのための剤の形態で使用することができる。
更に、蟻を防除するために毒餌の形態でホキシムを使用せんとする試みがなされた(“Toxicological and Biological Studies of Odorous House Ant,Tapinoma sessiles”in Journ.of Econ.Ent.,volumes 63,1971-1973(1970)。これから、蟻の完全な防除は、クロイチゴシロツプ又はクロイチゴジヤムと混合したホキシム0.05重量%を含有する毒餌によリ達成され得ることがわかる。しかしながら、かかる低含有率のホキシムを有する毒餌は実際の目的に対して十分に長い保存寿命を持たないのが欠点である。ホキシムが0.5重量%乃至1重量%の濃度で存在している同様な毒餌は実際の目的に対して十分である安定性及び作用期間を示すが、それらは蟻がこれらの毒餌を食べないような忌避効果を生じる。ホキシムを含有する毒餌の使用はこれまでは蟻の防除における所望の結果を達成しなかつた。
ホキシム又はクロロホキシムをベースとする毒餌の製造における追加の困難は、活性化合物が熱に対して相対的に鋭敏であるということである。かくして、成分を混合し、そして対応する混合物の粘度を減じそして攪拌することを容易にするためにそれらを加熱することから成る慣用の製造方法は実施することができない。
本発明は
(a)一般式

式中、Rは水素又は塩素原子を表わす、
の少なくとも1種の活性化合物、
(b)グリセロール又は適宜に糖及び/又はグリセロールと混合されていてもよい蜂蜜又は、適宜にグリセロールと混合されていてもよい糖、成分(b)は適宜に少量の水を含有して成つていてもよい、から成る蟻に対する毒餌を提供する。
本発明は、更に、
(a)一般式

式中、Rは前記した意味を有する、
の少なくとも1種の活性化合物を、
(b)グリセロール又は適宜に糖及び/又はグリセロールと混合されていてもよい蜂蜜、又は適宜にグリセロールと混合されていてもよい糖、成分(b)は適宜に少量の水を含有して成つていてもよい、と、ニーダ中で低温で混合し、それにより生成した混合物を次いで均質化しそして1つ又はそれより多くの容器に充填することを特徴とする本発明に従う蟻に対する毒餌の製造方法を更に提供する。」(2頁右上欄15行?3頁左下欄10行)
(1d)「本発明に従う毒餌は蟻の防除に対して非常に良く使用することができる。
本発明に従う毒餌はクロイチゴシロツプ又はクロイチゴジヤムと混合されたホキシムを含有する当技術水準から知られた毒餌よりも蟻の防除により好適であるということは非常に驚くべきことと言わなければならない。更に、本発明に従う毒餌は、公知のクロイチゴシロツプ又はクロイチゴジヤムをベースとするホキシムを含有する毒餌と対照的に0.5?1.0重量%の活性化合物の濃度においてすら蟻に対する忌避作用の発現に力を及ぼさないことは予期され得なかつた。」(3頁左下欄11行?右下欄5行)
(1e)「本発明に従う毒餌は活性成分として、O,O-ジエチルチオノホスホリル-α-オキシミノフエニルアセトニトリル(ホキシム)及び/又はO,O-ジエチルチオノホスホリル-α-オキシミノ(2-クロロフエニル)アセトニトリル(クロロホキシム)を含有する。これらの活性化合物、その殺虫性及び蟻の防除に対するその使用は既に知られている(西ドイツ特許明細書第1,238,902号参照)。
本発明に従う毒餌は活性化合物又は活性化合物の混合物とは別に、グリセロール又は糖及び/又はグリセロールと適宜混合されていてもよい蜂蜜、又は適宜にグリセロールと混合されていてもよい糖、を含有する。
これに関連して、蜂蜜は天然の蜂蜜及び人工蜂蜜の両方を意味すると理解されるべきである。
本発明に使用することができる好ましい糖は単糖類及び二糖類である。特に好ましい好適な単糖類の例はグルコース、ガラクトース及びフルクトースである。挙げることができる二糖類の例はシヨ糖、ビート糖、及びラクトースである。更に、転化糖(invertix)も又糖として好適である。“転化糖”は26重量%の水を含有する水性糖溶液を意味すると理解される。
活性化合物及び添加物の下記組合せが存在する本発明に従う毒餌は、特に好ましい:
ホキシム及びグリセロール
クロロホキシム及びグリセロール
ホキシム及び天然蜂蜜
クロロホキシム及び天然蜂蜜
ホキシム及び人工蜂蜜
クロロホキシム及び人工蜂蜜
ホキシム、天然蜂蜜及びグリセロール、
ホキシム、人工蜂蜜及びグリセロール、
ホキシム及びシヨ糖、
ホキシム及びビート糖、
ホキシム及びラクトース、
ホキシム、シヨ糖及びグリセロール、
ホキシム、ビート糖及びグリセロール、
ホキシム、ラクトース及びグリセロール、
ホキシム、天然蜂蜜及びシヨ糖、
ホキシム、ビート糖及び天然蜂蜜、
ホキシム、人工蜂蜜及びラクトース、
ホキシム及びグルコース
ホキシム、グルコース及びグリセロール、
ホキシム及びガラクトース、
ホキシム、ガラクトース及びグリセロール、
ホキシム及びフルクトース、
ホキシム、フルクトース及びグリセロール、
ホキシム及びインベルテツクス、
ホキシム、天然蜂蜜及びインベルテツクス。
本発明に従う毒餌における活性化合物の含有率は或る範囲内で変えることができる。一般に、式(1)の活性化合物の全濃度は0.01重量%乃至5重量%、好ましくは0.05重量%乃至2重量%である。
本発明に従う毒餌の場合における活性化合物と混合される生成物中の糖、蜂蜜及び/又はグリセロールの量の割合は大きい範囲内で変えることができる。かくして、式(1)の活性化合物に加えて、存在する添加剤は場合により少量の水を含む糖又は蜂蜜又はグリセロール単独であることができる。しかしながら、添加される生成物はこれらの物質の混合物であることもできる。もし添加された生成物が糖及び蜂蜜の混合物であるならば、一般に0.1?10重置部、好ましくは0.5?8重量部の蜂蜜が糖1重量部に対して割当てられる。もし添加された生成物が糖及びグリセロールの混合物であるならば、一般に0.05?19重量部、好ましくは0.25?10重量部のグリセロールが糖1重量部に対して割当てられる。もし添加された生成物が糖、蜂蜜及びグリセロールの混合物であるならば、一般に0.05?2重量部の蜂蜜及び0.05?8重量部のグリセロール、好ましくは0.1?1重量部の蜂蜜及び0.1?5重量部のグリセロールが糖1重量部に対して割当てられる。」(3頁右下欄6行?4頁右下欄13行)
(1f)「蟻に対する新しい毒餌の製造に対する本発明に従う方法において、温度は或る範囲内で変えることができる。一般に製造は10℃乃至30℃の温度、好ましくは室温で行なわれる。
特定的には、本発明に従う方法は、一般に、式(1)の少なくとも1種の活性化合物は最初、各々の場合における量の所望の割合で特定の添加物と混合され、次いでそれにより生成された混合物が均質化され、次いで実際の使用に対して設計された容器に充填されるように一般に行なわれる。
成分の混合のために、使用されるニーダはかかる目的で普通に使用される攪拌装置及びニーダの何れかであると理解されるべきである。その後の均質化はこの目的に普通に使用することができる装置の何れかにおいて行なうことができる。固体又はペースト状物質を均質化するために好適なシリンダーミルを使用するのが特に有利である。本発明に従う毒餌が糖を含有する場合には、微細に粉砕した形態の糖を使用するのが有利である。
本発明に従う方法により製造すると、本発明に従う毒餌物質は固体又はペースト状の物理的化学的に安定で物質な生成物として生じる。貯蔵寿命の検査は蒸発による損失を防止した水洩れのないパツクにおける毒餌物質は54℃までの貯蔵温度で少なくとも8週間そして40℃までの貯蔵温度で少なくとも6か月変化を示さなかつた。
本発明に従う毒餌物質はこれらのタイプの毒餌処法に対してすべての慣用の形態で蟻の防除に対して入手可能ならしめることができる。特に小さな容器で毒餌物質を使用するのが有利である。この目的で、毒餌物質は10?50mlの容量を有する小さな容器に充填される。毒餌物質は容器中に直接充填されるか又はセルロース又はコツトンウールの如き吸収性材料に前以つて加えられ、次いで使用するように設計された容器に移される。吸収性材料は毒餌物質を充填する前に容器中に存在させることもできる。
容器は1つ又はそれより多くの開口を備えており、これは最初閉じており、そしてたとえば蟻が毒餌物質に到達することができるように予めそれらの上にあったカバーを除去することによって蟻を防除するために使用する前に開かれる。」(4頁右下欄14行?5頁左下欄4行)
(1g)「比較実施例(i)
糖ビートシロツプ999.5g及びホキシム0.5gをニーダ中で10分間室温で混練することによつて混合した。しかる後、混合物をシリンダ・ミル中で均質化し、そして直径4cm及び高さ1.6cmを有する小さなプラスチツク容器に各々50mgの分量に分けて充填した。容器は各々側部に開口を有し、そして毒餌を仕込んだ後蓋によって閉じた。
下記表Iに記載の毒餌は糖ビートシロツプではなくて指示された添加剤を使用して、上記比較実施例に記載の方法によつて製造された。

実施例1
粉末状ビート糖490g、天然蜂蜜200g、及びグリセロール300gをニーダ中で予備混合した。しかる後、ホキシム10gを室温で加え、そして10分間でニーダで練ることによつて混合を行なつた。次いで対応する混合物をシリンダミル中で均質化しそして直径4cm、高さ1.6cmを有する小さなプラスチツク容器中に各々50mgで分量して充填した。容器は各々側部に開口を有しており、そして毒餌を仕込んだ後、蓋で閉じた。
下記表IIに示された毒餌は実施例1に記載の方法によつても製造した。

実施例A
蟻に対する食餌識別試験
試験動物:ラシウスニガー(Lasius niger)
(働き蟻及び幼虫)
適当な毒餌の製造のため、各場合に特定の毒餌物質50mgを直径4cm及び高さ1.6cmを有するプラスチツク容器Iに充填した。更に、活性化合物を含有しない類似した毒餌処法各場合に50mgを容器Iに対して前記した寸法を有するプラスチツク容器II内に入れた。各々側部に開口を有し、そして毒餌物質を仕込んだ後プラスチツク蓋で閉じられた容器I及びIIを頂部で開いておりそして直径11.5cm及び高さ3.4cmを有するより大きいプラスチツク容器IIIに入れた。このプラスチツク容器IIIの壁は蟻が這い出すのを防止するためにテフロンで被覆されていた。各々の場合に、容器IIIを0.2cmの内径を有する1cm長さのプラスチツク管を経由して20cm長さで2.3cmの内径を有するガラス管と接続した。ガラス管を湿つた泥炭を25%充填し、20匹の蟻(働き蟻)と50匹の幼虫を入れた。ガラス管の内側は写真フイルム用ボツクスから黒い包装材料により暗く保つた。この型の実験においては、蟻は忌避効果が発現したならば活性化合物を含有した毒餌を忌避すること及び活性化合物を含有しない毒餌からのみ給餌することの選択を許容された。
%での絶滅の程度を7日後に決定した。これに関連して、100%はすべての蟻(働き蟻)が死滅したことを示した。0%は蟻は殺されなかつたことを示す。
試験した毒餌の組成、活性化合物の含有率、及び7日後に死んだ蟻の%を下記表からみることができる。
蟻に対する食餌識別試験
実験動物:ラシウスニガー(働き蟻及び幼虫)

表I(続き)

上の実験結果からわかる通り、本発明に従う毒餌は公知の比較毒餌と対照的に忌避効果を及ぼさない。故に、本発明に従う毒餌を使用すると、蟻の大部分は指された期間に死亡するが、比較のため試験された公知の毒餌を使用するとそうはならない。」(5頁左下欄16行?8頁左上欄2行)

イ 刊行物2
(2a)「【請求項1】5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾールを殺虫活性成分として含有することを特徴とするアリ用毒餌剤。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1)
(2b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明はアリ用毒餌剤に関するものである。」
(2c)「【0002】【従来の技術および発明が解決しようとする課題】従来より、ゴキブリ等の防除用として毒餌剤が使用されている。一方、アリ防除用の毒餌剤も知られてはいるものの、必ずしも充分な効果をあげているとはいえない。一般に、アリは一つの巣にいる頭数が非常に多いため、個々のアリを殺すよりも、毒餌剤をアリの巣内に運ばせて巣全体を壊滅させるのが効果的であるが、そのためには後述のような種々の性質を満たす必要があり、そうした条件に合致する殺虫活性成分として何がふさわしいのかは何ら手掛かりがないのが現状である。
【0003】即ち、忌避効力のある殺虫活性成分や速効的で接触したアリをすぐに殺すような殺虫活性成分を使用した場合には、毒餌剤をアリの巣内に運ばせて巣全体を壊滅させることはできない。換言すれば、忌避活性がなく、また、接触作用による即効的な殺虫性を示さず、かつ、アリに対する食毒性の高い殺虫活性成分を見出す必要があった。
【0004】【課題を解決するための手段】本発明は、上述の課題を解決するものであり、特開昭63-316771号公報に記載の化合物である5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール〔以下、化合物(I)と記す。〕を殺虫活性成分として含有するアリ用毒餌剤を提供するものである。」
(2d)「【0005】本発明のアリ用毒餌剤は、殺虫活性成分である化合物(I)を通常0.001?90重量%含有し、その他の成分としては、例えば小麦粉、トウモロコシ澱粉、ジャガイモ澱粉等の穀類、グラニュー糖、蜂蜜等の糖類、バター、ピーナッツ油等の油類、オキアミ粉末、サナギ粉末等の動物質、ミルク、タマネギ等の香料、ニトロセルロース等の結合剤、グリセリン、エチレングリコール等の湿潤化のための溶剤、ゼラチン、カラギーナン、寒天等のゲル化剤などの通常の毒餌剤に用いられる基材を含有するものである。また、必要により、防腐剤、酸化防止剤等の添加剤を含有してもよい。
【0006】本発明のアリ用毒餌剤は、上述の殺虫活性成分および基材等を混合して粉末状としたものでもよいし、さらに水を加えて混練、造粒した粒状物であってもよい。また、ゼリー状物、液状物等であってもよい。本発明のアリ用毒餌剤は、アリの生息場所、アリを駆除したい所等にそのまま置いてもよいし、適当な容器中に置いてもよい。」
(2e)「【0007】本発明のアリ用毒餌剤は各種のアリに対して有効であり、例えばクロヤマアリ、トビイロシワアリ、トビイロケアリ、イエヒメアリ、ツヤシリアゲアリ、アミメアリ、ヒメアリ、オオズアリ、オオハリアリ、クロオオアリ、ルリアリ、ファイヤーアント、カーペンターアント等の防除に用いられる。」
(2f)「0008】【実施例】・・・まず、本発明のアリ用毒餌剤の製造例を示す。
製造例
化合物(I)0.01重量部、小麦粉30重量部、サナギ粉末20重量部、ピーナッツ油10重量部、グラニュー糖20重量部およびデキストリン19.99重量部を混合し、適当量の水を加えて混練し、押出造粒、乾燥、粉砕して粒状のアリ用毒餌剤を得た。
【0009】次に、本発明のアリ用毒餌剤を用いた試験例を示す。以下の試験において、比較参考のために用いた殺虫活性成分化合物(化合物Aおよび化合物B)は下記の通りである。
化合物A:3-メチル-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-(トリフルオロメチルチオ)ピラゾール〔特開昭62-45577号公報に記載の化合物〕
化合物B:5-アミノ-3-メチル-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-(トリフルオロメチルチオ)ピラゾール〔特開昭61-268671号公報に記載の化合物〕
【0010】試験例1
クロヤマアリ80頭を飼育している容器内の餌場に、上記製造例で得た毒餌剤50粒を置いた。1日後、飼育容器内のアリの生存数を調査した。また、化合物Aまたは化合物Bを製造例に準じて毒餌剤に製剤したものについても同様の試験を行った。本発明のアリ用毒餌剤を施用した結果、アリの生存数は0であったが、化合物Aまたは化合物Bを用いた場合、アリの生存数は80頭であった。この結果、アリ用毒餌剤の殺虫活性成分化合物としては、元来ピレスロイド化合物のような忌避性のある化合物は適さないが、化合物(I)と同系統のアリールピラゾール化合物である化合物Aや化合物Bも適さないことが示された。
【0011】試験例2
野外のクロヤマアリの巣周辺に上記製造例で得た毒餌剤300粒を置いた。毒餌剤設置直後は10分間に113頭のアリが巣穴から出入りしたが、2日後および7日後には巣穴に出入りするアリが全く観察されなくなった。」
(2g)「【0012】【発明の効果】本発明のアリ用毒餌剤は、5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾールを殺虫活性成分として用いるものであり、優れた効果を示すものである。」

ウ 刊行物3
(3a)「ホウ酸と糖分を混ぜたもので蟻を退治する方法」(1頁、実用新案登録請求の範囲)
(3b)「この実用新案は蟻退治の方法として、ホウ酸を蜂蜜又はジャム又は水飴(砂糖でもよい)を練り合わせたものを利用することである。混合比率としては、重さで、ホウ酸1に対して蜂蜜、ジャム、水飴、又は砂糖を、2?3位の割合で練り、それを図面の様な容器に入れて、蟻の居るとことに置いおくと、蟻が集って来て、その粘液を盛に自分の巣に持ち運び、2?3日経つと一匹も居なくなる。」(1頁8?14行)
(3c)「

」(2?3頁、第1図及び第2図)

エ 刊行物4
(4a)「【請求項1】蟻防除剤と誘引喫食性成分とを含有するゲル状蟻ベイト剤について少なくとも前記誘引喫食性成分を異にする二種以上のゲル状蟻ベイト剤をそれぞれ各別に調製し、これらの蟻ベイト剤を蟻が誘引喫食可能に構成された容器内に区分して供給してなることを特徴とする蟻防除用容器。
【請求項2】前記ゲル状蟻ベイト剤が植物性成分を誘引喫食性成分とする一つと、動物性成分を誘引喫食性成分とする一つとの二種からなることを特徴とする請求項1の蟻防除用容器。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(4b)「【0007】この本発明の構成特徴において、誘引喫食性成分としては、既知の植物性成分や動物性成分を用いることができる。植物性成分としては、グラニュー糖、黒砂糖、水アメ、蜂蜜、コメ粉、トウモロコシ粉等の穀粉、大豆油、コメ油、トウモロコシ油等の油類など、また動物性成分としては、蚕のサナギ粉やゴキブリ粉などを挙げることができる。」
(4c)「【図1】

【図2】

」(5頁、図1及び2)

オ 刊行物5
(5a)「【請求項1】・・・毒餌剤容器。」(1頁、実用新案登録請求の範囲の請求項1)
(5b)「【0001】【産業上の利用分野】本考案は、ゴキブリやその他害虫で家住性害虫の駆除用として用いられる毒餌剤を入れる容器であり、特に適当な柔らかさの状態の毒餌剤を収納する毒餌剤容器に関するものである。」
(5c)「【0005】・・・一般に半なまタイプと称されている比較的柔らかい薬剤・・・」
(5d)「【0016】毒餌剤15の処方あるいは組成は特に限定するものではなく・・・
【0017】前記殺虫剤の配合量は、得られる組成物の所望される効力、殺虫剤の種類、対象とする昆虫の種類などに応じて適宜に選択すればよいが、ホウ酸およびホウ酸塩の場合は5?70%、なかんづく10?50%、その他の殺虫剤の場合は0.05?10%、なかんづく0.1?5%とするのがよい。・・・前記以外の成分として、例えば摂餌物質、誘引性成分、酸化防止剤、防腐剤、誤食防止剤、着色剤などが用いられる。前記摂餌物質としては、例えば小麦粉、米粉、米糖、とうもろこし粉などの穀粉;ポテトスターチ、コーンスターチなどのスターチ類;グラニュー糖、麦芽糖、アラビノース、ガラクトース、ラクトース、フルクトース、ソルビトール、マルトース、カラメル、廃糖蜜、蜂蜜などの糖類および糖蜜類やグリセリンなどがあげられる。」
(5e)「【0020】【考案の効果】以上述べたように、本考案によれば、・・・害虫の侵入口を大きく構成できると共に・・・全体の強度を高めることができ、また、・・・毒餌剤の固定保持がより確実となり、特に、半なまタイプの毒餌剤において容器からのはみ出しを確実に防止することができる。又、前記上面部分の突状部の突出基部が容器外方に膨らんでいることにより、半なまタイプの毒餌剤を該突出基部の膨らみ部分に入り込ませることもでき、該毒餌剤の保持をより確実にすることができる。・・・」
(5f)「【図1】本考案の毒餌剤容器の一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1に示した毒餌剤容器に毒餌剤が装填された状態の側面図である。
・・・・・・・・・・・・・・・
【符号の説明】
1 毒餌剤容器
・・・・・・・
5 突起部
6 はみ出し防止部
・・・・・・・
10 突状部
・・・・・・・
15 毒餌剤
【図1】

【図2】

」(4頁、図1及び2とその説明)

カ 刊行物6
(6a)「【請求項1】水飴とレシチンを有効成分として含有することを特徴とするゴキブリ用誘引組成物。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1)
(6b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ゴキブリ用誘引組成物に関する。」
(6c)「【0007】有効成分である水飴とレシチンは、本発明の誘引組成物中に、合計量で3重量%以上添加すればよく、さらには10?100重量%とするのが好ましい。また含有比として、水飴:レシチンを300:1?2:1、さらには100:1?2:1とするのが好ましい。本発明の誘引組成物には、発明の効果を奏する限り、下記の基剤、害虫防除成分、防腐剤、安定化剤、誤食防止剤、上記以外の誘引剤等を適宜含有させることができる。このようにして得られる本発明の誘引組成物は、ゴキブリの防除を目的とする各種製剤に用いることができる。例えば、毒餌剤、粘着捕獲器、塗布剤等が挙げられる。毒餌剤としては、例えば、団子状製剤、ペースト状製剤、ゲル状製剤、打錠製剤等とすることができ、塗布剤としては、例えば、はけ塗り型製剤、スプレー型製剤、注入型製剤等とすることができる。」
(6d)「【0011】【実施例】・・・第1表に記載したゴキブリ用餌剤1?4(各100g)を、均一に練合して調製した。
【0012】



(3)刊行物に記載された発明
刊行物1は、蟻に対する毒餌及びその製造方法について記載した特許文献であり、そこに記載される発明は、蟻の防除に対して非常に良く使用することができ、忌避作用が発現しない、というものである(摘示(1a)?(1d))。
その特許請求の範囲第7項(以下「請求項7」という。他の請求項も同様にいう。)に係る発明は、請求項1?6の何れかに記載の蟻に対する毒餌の、製造方法に係る発明であって、成分(a)である「一般式

式中、Rは前記した意味を有する、
の活性化合物少なくとも1種」と成分(b)である「グリセロール又は適宜糖及び/又はグリセロールと混合されていてもよい蜂蜜又は適宜グリセロールと混合されていてもよい糖、ここで成分(b)は少量の水を適宜含有していてもよい」とを「ニーダ中で低い温度で混合し、それにより生じた混合物を次いで均質化しそして1つ又はそれより多くの容器中に充填する」というものである。
上記成分(a)は、そのRは請求項1によれば「水素又は塩素原子」であり、この化合物は摘示(1e)によれば「ホキシム」又は「クロロホキシム」である。上記成分(b)は、文言上、糖、蜂蜜又はグリセロールの単独であるか、それらの二者の混合物であるか、それら三者の混合物であって、少量の水を適宜含有してよいものである。発明の詳細な説明には、摘示(1e)に、単独又は二者混合物の例が説明及び列挙され、摘示(1g)の実施例には、三者混合物及び二者混合物(糖とグリセロール、蜂蜜とグリセロール)の例が多数とグリセロール単独の例が記載されている。これらの実施例で用いられた糖は「ビート糖」である。
また、摘示(1f)によれば、毒餌の成分はニーダにかけられ、その後均質化されて、生成物は、「固体又はペースト状」の均質な生成物として生じる。
したがって、刊行物1には、請求項1を引用する請求項7に係る発明であり、成分(b)が糖、蜂蜜及びグリセロールの三者の混合物であって糖がビート糖などである、以下の
「(a)ホキシム及びクロロホキシムの少なくとも1種と、(b)糖、蜂蜜及びグリセロールの混合物であって糖がビート糖などであり、成分(b)は少量の水を適宜含有していてもよい、とをニーダ中で低い温度で混合し、それにより生じた混合物を次いで均質化して固体又はペースト状の生成物を生じさせ、そして1つ又はそれより多くの容器中に充填する、蟻に対する毒餌の製造方法」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているということができる。
また、刊行物1には、成分(b)が糖及びグリセロールの二者の混合物である、同様の、以下の
「(a)ホキシム及びクロロホキシムの少なくとも1種と、(b)糖及びグリセロールの混合物であって糖がビート糖などであり、成分(b)は少量の水を適宜含有していてもよい、とをニーダ中で低い温度で混合し、それにより生じた混合物を次いで均質化して固体又はペースト状の生成物を生じさせ、そして1つ又はそれより多くの容器中に充填する、蟻に対する毒餌の製造方法」
の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているということができる。
また、刊行物1には、成分(b)が蜂蜜及びグリセロールの二者の混合物である、同様の、以下の
「(a)ホキシム及びクロロホキシムの少なくとも1種と、(b)蜂蜜及びグリセロールの混合物であり、成分(b)は少量の水を適宜含有していてもよい、とをニーダ中で低い温度で混合し、それにより生じた混合物を次いで均質化して固体又はペースト状の生成物を生じさせ、そして1つ又はそれより多くの容器中に充填する、蟻に対する毒餌の製造方法」
の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているということができる。

(4)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「蟻に対する毒餌」は、本願発明の「アリ用毒餌剤」に相当し、
引用発明1の「蟻に対する毒餌の製造方法」は、その各成分を「ニーダ中で低い温度で混合し、それにより生じた混合物を次いで均質化して固体又はペースト状の生成物を生じさせ、そして1つ又はそれより多くの容器中に充填する」ものであるから、本願発明の「アリ用毒餌剤の製造方法」かつ「容器に収容された状態でアリを防除するために使用されるアリ用毒餌剤の製造方法」に相当する。
引用発明1の「ホキシム又はクロロホキシムの少なくとも1種」は、本願発明の「殺虫剤」に相当する。
引用発明1の「糖」は、本願発明の「ショ糖」の上位概念であり、いずれも「糖類」である(なお、引用発明1における例示の「ビート糖」は、てんさい糖であって、ショ糖を主成分とするものである。引用発明1の「蜂蜜」もグルコースとフルクトースなどの「糖類」を含み、本願発明の「水飴」もグルコースなどの「糖類」を含む。)。
引用発明1の「グリセロール」は、グリセリンと同義であるから、本願発明の「グリセリン」に相当する(以下「グリセロール」を「グリセリン」ということがある。)。
引用発明1の(a)及び(b)の成分は、引用発明の「蟻に対する毒餌」の構成成分であるから、本願発明の「アリ用毒餌剤」の「構成成分」に相当する。
また、引用発明1の「ニーダ中で低い温度で混合し、それにより生じた混合物を次いで均質化して固体又はペースト状の生成物を生じさせ」は、刊行物1には「一般に製造は10℃乃至30℃の温度、好ましくは室温で行なわれる」(摘示(1f))の記載があることから、「低い温度」とされる混合の温度は、上記の温度であって、本願発明の「加熱及び冷却せずに」に相当する温度であるといえ、また、引用発明1においてゼラチンを加えていないのは明らかであるから、これは、本願発明の「構成成分を、ゼラチンを加えることなく、加熱及び冷却せずに・・・混ぜ合わせて」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明1とは、
「容器に収容された状態でアリを防除するために使用されるアリ用毒餌剤の製造方法であって、
少なくとも、殺虫剤と、糖類と、グリセリンとを含む構成成分を、ゼラチンを加えることなく、加熱及び冷却せずに、混ぜ合わせる、アリ用毒餌剤の製造方法」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
アリ用毒餌剤の殺虫剤及びグリセリン以外の構成成分が、本願発明においては、ショ糖と水飴と粉体を含むのに対し、引用発明1においては、ビート糖などの糖と蜂蜜を含む点
(相違点2)
アリ用毒餌剤の構成成分をゼラチンを加えることなく加熱及び冷却せずに混ぜ合わせる工程が、本願発明においては、「成形可能なゲル状又はペースト状となるまで混ぜ合わせて、上記容器に粘着する粘着性を付与するとともに、成形された形状を上記容器に粘着した状態で維持する形状維持性を付与する」と特定されているのに対し、引用発明1においては、「均質化して固体又はペースト状の生成物を生じさせ」るものである点

(5)相違点についての判断
相違点1及び2について検討する。

ア 刊行物1の実施例及び比較例(摘示(1g))を参照すると、引用発明1の実施例に相当するのは、活性化合物(成分(a)である。)としてホキシムを1.0%又は0.1%又は0.05%用い、添加剤(成分(b)である。)としてビート糖と天然蜂蜜とグリセロールの三者を用いた、実施例1?8である。この三者の配合比は様々であり、この三者の%に換算して示すと、およそ、以下の

実施例 ビート糖 天然蜂蜜 グリセロール
1 50 20 30
2 50 20 30
3 40 40 20
4 40 40 20
5 80 10 10
6 10 80 10
7 20 70 10
8 10 10 80

のとおりであって、およそ、ビート糖が80?10%、天然蜂蜜が80?10%、グリセロールが10?80%の例が記載されている。この配合比により、引用発明1の「固体又はペースト状の生成物」の何れかになると解される。
一方、比較実施例(i)は、ホキシムを0.05%用い、添加剤は糖ビートシロツプであって、グリセリンも蜂蜜を含まず、代わりに、糖ビートシロップであるので水を含む。
実施例Aには、これら実施例及び比較例の毒餌と、活性化合物を含まない餌とを、並べての、蟻に対する食餌識別試験の結果が示されている。これを参照すると、試験7日後の、死んだ蟻の%からみて、比較実施例(i)の60%と比べて実施例1?8は92?100%であって、蟻が多く死に、グリセリンを用いている実施例は、活性化合物濃度が高くても、忌避作用が発現していないことが理解される。

イ 参考に、引用発明2の実施例に相当するのは、活性化合物としてホキシムを1.0%又は0.1%又は0.25%用い、添加剤としてビート糖とグリセロールの二者を用いた、実施例12?14、16である。この二者の配合比は様々であり、この二者の%に換算して示すと、およそ、以下の

実施例 ビート糖 天然蜂蜜 グリセロール
12 51 -- 49
13 60 -- 40
14 75 -- 25
16 10 -- 90

のとおりであって、およそ、ビート糖が75?10%、グリセロールが25?90%の例が記載されている。この配合比により、引用発明2の「固体又はペースト状の生成物」の何れかになると解される。
実施例Aの食餌識別試験の結果は、比較実施例(i)の60%と比べて実施例12?14、16は83?98%であって、蟻が多く死に、グリセリンを用いている実施例は、活性化合物濃度が高くても、忌避作用が発現していないことが理解される。

ウ 参考に、引用発明3の実施例に相当するのは、活性化合物としてホキシムを1.0%又は0.1%用い、添加剤として天然蜂蜜とグリセロールの二者を用いた、実施例9?11である。この二者の配合比は様々であり、この二者の%に換算して示すと、およそ、以下の

実施例 ビート糖 天然蜂蜜 グリセロール
9 -- 90 10
10 -- 90 10
11 -- 50 50

のとおりであって、およそ、天然蜂蜜が90?50%、グリセロールが10?50%の例が記載されている。この配合比により、引用発明3の「固体又はペースト状の生成物」の何れかになると解される。
実施例Aの食餌識別試験の結果は、比較実施例(i)の60%と比べて実施例9?11は92?100%であって、蟻が多く死に、グリセリンを用いている実施例は、活性化合物濃度が高くても、忌避作用が発現していないことが理解される。

エ 以上によれば、グリセリンを配合することにより、蟻に対する毒餌(アリ用毒餌剤)が活性化合物(殺虫剤)を含むことに基づき蟻がこれを忌避するのを、抑える作用は、その殺虫剤及びグリセリン以外の成分が、糖及び蜂蜜である場合(引用発明1)、糖である場合(引用発明2)、蜂蜜である場合(引用発明3)の何れでも発揮されるし、その性状が固形であれペースト状であれ、発揮されると認められる。

オ そして、引用発明1において、蟻に対する毒餌(アリ用毒餌剤)の殺虫剤及びグリセリン以外の構成成分が、ビート糖などの糖と蜂蜜であるのは、これらは何れも蟻が好む物質であり、蟻を誘引するために配合されているのであり、上記エによれば、その種類が糖及び蜂蜜でなければならないというものではないし、アリ用毒餌剤の性状がペースト状であってよいのは明らかである。してみると、この技術分野でアリ用毒餌剤に通常用いられている慣用の誘引物質を配合し得ることは、当業者が直ちに理解できることである。
刊行物1には、蟻に対する毒餌に使用できる糖の例として、シヨ糖も挙げられている。
刊行物2には、アリ用毒餌剤に配合し得る物質として「例えば小麦粉、トウモロコシ澱粉、ジャガイモ澱粉等の穀類、グラニュー糖、蜂蜜等の糖類、バター、ピーナッツ油等の油類、オキアミ粉末、サナギ粉末等の動物質、ミルク、タマネギ等の香料」が挙げられており(摘示(2d))、これらが慣用の誘引物質であることは、当業者に明らかである。
刊行物3には、蟻を退治する際に用いる、同目的の物質として「蜂蜜、ジャム、水飴、又は砂糖」が挙げられている(摘示(3b))。
刊行物4にも、蟻防除用容器に入れるベイト剤(毒餌剤)につき、「誘引喫食性成分としては、既知の植物性成分や動物性成分を用いることができる。植物性成分としては、グラニュー糖、黒砂糖、水アメ、蜂蜜、コメ粉、トウモロコシ粉等の穀粉、大豆油、コメ油、トウモロコシ油等の油類など、また動物性成分としては、蚕のサナギ粉やゴキブリ粉などを挙げることができる」と記載されている(摘示(4b))。
してみると、引用発明1において、アリ用毒餌剤の殺虫剤及びグリセリン以外の構成成分につき、ビート糖などの糖と蜂蜜に代え、ビート糖の主成分でもあるショ糖と、蜂蜜と同列に用いられる水飴と、慣用される植物性又は動物性の粉体を含ませることとして、ペースト状のアリ用毒餌剤とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、相違点1に係る本願発明の構成は、当業者が容易に想到し得る。

カ 次に、本願発明においては、その「ペースト状」に関し、「成形可能な」、「容器に粘着する粘着性を付与する」、「成形された形状を上記容器に粘着した状態で維持する形状維持性を付与する」と特定されている点について検討する。
引用発明1においては、「固体又はペースト状の生成物を生じさせ、そして1つ又はそれより多くの容器中に充填する」というものであり、実施例を参照すると、その成分比からみて、固体に近いものを含む、様々な硬さないし緩さの「ペースト状」が想定できるものである。そして、上記オのように、引用発明1においてビート糖などの糖と蜂蜜に代えてショ糖と水飴と慣用される植物性又は動物性の粉体を含ませてペースト状のアリ用毒餌剤とする場合においても、その「ペースト状」は、同様に、様々な硬さないし緩さであってよいことは明らかであるから、成形性や、形状維持性のあるものを、想定できる。この点、アリ用毒餌と同様に容器に収容して使われることが多く成分も似たようなものであるゴキブリ用の毒餌において「半なまタイプ」や「団子状製剤」といわれる製剤が周知であって(摘示(5a)?(5f)、(6a)?(6d))、当業者は「ペースト状」の毒餌が成形性及び形状維持性を有するものがあることを熟知していると認められる。また、その「ペースト状」は、成分からみても、粘着性は満足するものである。
してみると、上記の、成形性、粘着性、形状維持性に係る特定は、当業者が所望に応じ適宜ペーストの硬さないし緩さを調整して実現できることであると認められる。
よって、相違点2に係る本願発明の構成は、当業者が容易に想到し得る。

キ したがって、引用発明1において、相違点1及び2に係る本願発明の構成を備えるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

ク なお、殺虫剤は、本願発明では特定されていないが、本願明細書の段落【0014】で採用されている「フィプロニル」は、刊行物2に記載される殺虫活性成分である「5-アミノ-3-シアノ-1-(2,6-ジクロロ-4-トリフルオロメチルフェニル)-4-トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール」である。引用発明1の「ホキシム」又は「クロロホキシム」に代え、これを用いることも、当業者が容易に想到し得ることである。

(6)発明の効果について
本願発明の効果について、この出願の明細書(以下「本願明細書」という。平成27年4月13日付けの手続補正により補正されている。)の段落【0010】には「少なくとも、ショ糖と、グリセリンと、水飴と、粉体とをゲル状又はペースト状となるように混ぜ合わせて毒餌剤としたので、アリを誘き寄せやすく、かつ、アリの好む湿り気を有する毒餌剤とすることができるとともに、使用前や使用中において垂れにくくすることができる。さらに、従来例のゼラチンを含有する場合のような加熱工程及び冷却工程が不要なので、コストを低減できる」と記載されている。
このような効果は、引用発明1においても、ゼラチンを含まないペースト状の生成物を容器中に充填して製造することで既に達成されている効果であり、また、引用発明1の蟻に対する毒餌の構成成分につき、当業者が刊行物1?4に記載される慣用の誘引物質を用いて達成できる効果であるから、本願発明が、引用発明1及び刊行物1?4に記載された各種の毒餌剤の発明からは予測できない格別の効果を奏するものであるとは認められない。

(7)まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-21 
結審通知日 2017-07-25 
審決日 2017-08-17 
出願番号 特願2014-11275(P2014-11275)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村守 宏文斉藤 貴子  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 木村 敏康
佐藤 健史
発明の名称 アリ用毒餌剤の製造方法  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ