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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1332889
審判番号 不服2016-8685  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-10 
確定日 2017-09-28 
事件の表示 特願2012-526443「有機エレクトロルミネッセンス素子」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月 2日国際公開、WO2012/014740〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、2011年7月20日(優先権主張平成22年7月27日)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成26年12月 8日:拒絶理由通知
平成27年 2月16日:意見書
平成27年 2月16日:手続補正書
平成27年 7月29日:拒絶理由通知
平成27年10月 1日:意見書
平成27年10月 1日:手続補正書
平成28年 3月17日:拒絶査定
平成28年 6月10日:審判請求書
平成29年 4月 5日:拒絶理由通知(以下、通知された拒絶の理由を「当審拒絶理由」という。)
平成29年 6月12日:意見書
平成29年 6月12日:手続補正書(以下「本件補正」という。)

(2)本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成29年6月12日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載の事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものであると認める。

「基板上に対向する一対の陽極、陰極の間に少なくとも発光層を含む有機層が配置された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
陽極または陰極の少なくとも一方が透明電極で構成され、
該陽極、陰極、または有機層のうちの少なくとも1層が、長軸及び短軸を有する異方性微粒子を含み、
前記異方性微粒子は、異方性金属酸化物微粒子、異方性金属塩微粒子、または炭素原子と金属以外の他の原子からなる異方性有機化合物微粒子から選択され、
前記異方性微粒子の長軸方向が、実質的に基板面に平行である
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」(以下「本願発明」という。)

2 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は概ね次のとおりである。
本件出願の平成27年10月1日付けで手続補正がなされた請求項1ないし8に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願発明1ないし8は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記引用例に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用例1.国際公開第2009/141903号
引用例2.特開2010-161002号公報
引用例3.特開2010-73678号公報

本願発明1では、「異方性微粒子の長軸方向が、実質的に基板面に平行である」のに対し、引用発明では、粒子(異方性微粒子)の長軸方向が、実質的にガラス基板面に平行であるかどうか明らかでない点(相違点)で相違するが、引用発明は、粒子の長軸方向が基板面に平行である蓋然性が高いから、上記相違点は実質的な相違点ではなく、本願発明1は引用発明と同一である。仮に上記相違点が実質的な相違点であるとしても、引用発明において、光取り出し効率をさらに向上させるために、粒子の長軸方向を基板面に平行になるようになすこと、すなわち、上記相違点に係る本願発明1の構成となすことは当業者が引用例2の記載事項に基づいて容易になし得たことである。

3 引用例の記載事項
(1)本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になり、当審拒絶理由で引用例1として引用された国際公開第2009/141903号には、次の事項が図とともに記載されている(下線は合議体が付した。以下同様。なお、レイアウトの都合上、段落番号は全角で表示し、改行を入れた。また、丸括弧や英字等、引用例1において半角で表記されている文字の一部についても、表記を改めたものがある。)。
ア 「技術分野
[0001]
本発明は、電流の注入によって発光するエレクトロルミネセンス(以下、ELともいう)を呈する有機化合物を利用した有機半導体素子の一例であり、かかる有機化合物材料からなる有機発光層を備えた有機発光素子に関する。」

イ 「発明が解決しようとする課題
[0005]
従来の有機発光素子、円偏光フィルタを用いた素子では円偏光板により外光をカットすることが出来るが、EL発光強度も同時に低下する問題がある。
[0006]
また、光取り出し側に金属ナノ粒子を含んだ光吸収層を用いた素子では、光取り出し効率は十分に向上しないが分かった。
[0007]
外光をカットしつつ、EL発光強度を低下させない有機発光素子技術が望まれている。
[0008]
そこで本発明は、有機発光素子に使用される透明部材においても光散乱、光打消し技術を用い外光をカットし、更にEL発光(EL輝度)を円偏光フィルタを用いた素子以上の発光強度を確保するとともに構造が簡単な有機発光素子を提供することが一例として挙げられる。」

ウ 「課題を解決するための手段
[0009]
本発明の有機発光素子は、第1電極及び第2電極の間に積層されかつ有機発光層を含む複数の有機半導体層からなる有機発光素子であって、
前記有機発光層と前記第1及び2電極の少なくとも一方との間に配置された前記有機半導体層の少なくとも一つが、前記有機発光層からの発光光が透過するように電子及び又はホールを輸送するキャリア注入輸送性を有する有機材料と前記有機材料内に分散された複数の粒子とを含む光散乱層である、ことを特徴とする。
[0010]
以上の構成によれば、光散乱層が導入されていることにより、干渉効果が減るために、素子構成を比較的自由に設定することができる。よって、たとえ膜厚を厚くしても、円偏光フィルタを用いた素子よりも効率のよい素子が作製できる。」

エ 「発明を実施するための形態
[0013]
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
[0014]
図2は、複数の有機発光素子が表示パネルに適用された場合の一例、パッシブ駆動型有機EL表示パネルを示す部分背面図である。図において、複数の有機発光素子1は基板45上にマトリクス状に配置されている。有機EL表示パネルは、透明電極層を含む行電極の複数の第1電極46と、有機半導体層と、該行電極に交差する金属電極層を含む列電極の複数の第2電極52と、が基板45上に順次積層されて構成されている。行電極は、各々が帯状に形成されるとともに、所定の間隔をおいて互いに平行となるように配列されており、列電極も同様である。このように、マトリクス表示パネルは、複数の行と列の電極の交差点に形成された複数の有機発光素子1の発光部からなる表示領域DRを有している。第2電極52は、接続部Cnを介して配線電極19に接続されている。なお、第2電極52の上には図示しないが封止膜として窒化酸化シリコン、窒化シリコンなどの窒化物、或いは酸化物又は炭素などの無機物からなる無機パッシベーション膜を備え、無機パッシベーション膜の封止膜には、フッ素系やシリコン系の樹脂、その他、フォトレジスト、ポリイミドなど合成樹脂膜との多層とすることもでき、有機発光素子は外気から遮断されている。電流印加時に例えば発光色の青、緑、赤を呈する有機化合物材料から有機発光層は構成され得る。すなわち、有機発光素子は、例えば赤色、緑色及び青色に対応させて各々形成される。基板45を透明材料から構成し、第1及び2電極をそれぞれ透明電極及び金属電極とすることで基板45から発光光が取り出されるボトムエミッション型とし、逆に、第1及び2電極を金属電極及び透明電極とすることでトップエミッション型とすることもできる。
[0015]
図3の基本的な有機半導体層40は、例えば、各層の区切りを「/」で表すものとして、陽極の第1電極46から陰極の第2電極52へ順に積層されたホール注入層47/ホール輸送層48/発光層49/電子輸送層50/電子注入層51のそれぞれの機能を持つ複数の機能有機材料の膜からなる。さらに、ホール輸送層及び発光層間に電子ブロック層を、発光層及び電子輸送層にホールブロック層を機能有機膜として設けることもできる。なお有機発光素子は、発光層49内に電荷及び励起子を各々閉じ込めるための電荷及び励起子拡散層が積層された構造を採用してもよい。またなお、発光層を除き、ホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層、電子ブロック層及びホールブロック層のいずれかは省略する場合もある。
[0016]
図3を用いて、個々の有機発光素子1の前提となる基本的概略を説明する。例えば、図示するボトムエミッション型の基本的な有機発光素子では、基板45側から順に積層された第1電極46、少なくとも有機発光層49を含む積層された有機半導体層40、及び第2電極52を有し、基板45側から発光光が取り出される。ここで、第1電極46及び第2電極52がそれぞれ陽極及び陰極である場合、有機半導体層40の主に有機物からなる発光層において、第1電極46の陽極からホールが第2電極52の陰極から電子が注入され、再結合し発光する。
[0017]
図4は、図3に示す有機発光素子内における光路の一例を示す断面のイメージ図である。なお図示の各層の間には隙間が存在しているが、これは図面の見やすさを考慮し、設けたものである。有機発光素子1は、ガラス基板上に、透明陽極46、ホール注入層47、ホール輸送層48、発光層49、電子輸送層50、電子注入層51及び金属陰極52が順次積層された構造となっている。
[0018]
有機発光素子の発光層49では、ホールと電子の再結合によって様々な方向にEL発光する。発光層49では各発光点において次のような光路の光線が生成される。陽極46へ向かう光線L1(各界面の臨界角未満)は有機半導体層40及び透過性を有する陽極46を透過して有機発光素子の外部に出力される。一方、陰極52側へ向かう光線L2は陰極52で反射され、すべての有機半導体層40及び陽極46を透過して有機発光素子の外部に出力される(各界面の臨界角未満)。残る発光層49が放射した一部の光L3(各界面の臨界角以上)は、有機発光素子の外部に取り出されることなく、有機発光素子内において消失する。
[0019]
基本的構成の有機発光素子では、外部からの外光も有機半導体層40を透過し陽極46で反射して再び有機半導体層40を透過して有機発光素子の外部に出力されるので、外光反射光E1と発光層49のEL発光の強度の割合に応じて、特に、明所でのコントラストが低下する。」

オ 「[0032]
<有機発光素子の例>
<例NP>
図5は、例NPの有機発光素子内における光路の一例を示す断面のイメージ図である。なお図示の各層の間には隙間が存在しているが、これは図面の見やすさを考慮し、設けたものである。有機発光素子1は、ガラス基板上に、透明陽極46、粒子の複数が分散されたホール注入層である光散乱層47a、ホール輸送層48、発光層49、電子輸送層50、電子注入層51及び金属陰極52が順次積層された構造となっている。光散乱層47aは、部分的に光を反射しかつ透過性を有するように設定された、ホール注入層の母材とそこに分散された粒子とかなる薄膜である。粒子は、例えば金属ナノ粒子であり、Au,Agなどの金属や、TiO_(x),ZrO_(x),ZnO_(x),MoO_(x),WO_(x),SiO_(x),FeO_(x),Y_(x)O_(y),CuO_(x)などの酸化物や、TiMO_(x)(M=Si,Fe,Zr,Sn,Sb,W,Ce)、AgMoO_(x)、IMO_(x)(M=In,Zn)などの2種類以上の金属イオンを含む複合酸化物や、AlF_(3),MgF_(2)などのフッ化物や、ポリスチレンなどの高分子材料である。なお、xは原子比を表す。個々の粒子は針状、円柱状、板状、矩形状、立体状、円錐、球状や角柱状等の個体、或いは凝集又は集合体である。粒子は平均粒径が0.1nmから10000nmを有する。分散粒子の半径は、入射外光の波長よりも非常に小さく、レイリー散乱が生じるように、粒径分布も設定される。粒子は隣接するもの同士間の距離が0.1nm以上1μm以下である密度で分散されている。粒子は、分散される有機半導体層の有機材料と0.01以上の屈折率差があるものが選択される。光散乱層47aは高低差0.1nm以上1000nm以下の凹凸界面を有する。光散乱層47aは、1×10^(-10)?1×10^(10)cm^(2)/Vsのキャリア移動度、又は10^(10)?10^(-10)Ω・cmの導電性を持つように設定される。
[0033]
図5ではホール注入層であるが、ホール輸送層に粒子を分散させて光散乱層とするなど、光散乱層は有機発光層49と陽極46の間に配置されたいすれの半導体層でもよい。
[0034]
有機発光素子の発光層49におけるEL発光及び外光の光路は図3に示す有機発光素子の場合と同様であるが、陽極46側へ向かう光線のうち発光層49にやや沿った方向への光線は光散乱層47aのレイリー散乱に応じて光線が散乱されて、陽極46から有機発光素子の外部に出力される。有機発光素子は光散乱層47aによって光取り出し効率が向上するため、全体として発光量が増大する。このとき各層の屈折率が上述のように設定されていると、横方向への光伝搬を抑制し、さらに光取り出し効率を向上することができる。
場合の散乱。レイリー散乱の散乱光の強度は外光の波長の4乗に反比例する。」

カ 「実施例
[0052]
<基準例ref>:ガラス基板/透明電極/ホール輸送層/有機発光層/電子注入層/反射電極という構成の有機EL素子を作製した。
[0053]
ガラス基板上にITO(インジウムスズ酸化物)の透明電極を常温スパッタにより形成し、その上に、NPB(ナフチルペンチルベンジジン)のホール輸送層を70nm厚さで、次いで、Alq3(トリス(8-キノリノラト)アルミニウム、緑色発光色素)の電子輸送性有機発光層を60nm厚さで、最後にアルミニウムの反射電極を80nm厚さで順に真空蒸着によりに成膜した。
[0054]
<基準例偏光板付きref’>:ガラス基板/透明電極/ホール輸送層/有機発光層/電子注入層/反射電極という構成の有機EL素子を作製した。
[0055]
基準例refの有機EL素子を作製し、そのガラス基板に偏光板を貼り付けた。
[0056]
<例NP-t>:ガラス基板/透明電極/光散乱層/ホール輸送層/有機発光層/電子注入層/反射電極という構成の有機EL素子を作製した。
[0057]
ガラス基板上のITO透明電極上に、光散乱層のホール注入層として、スピンコート塗布及び焼成(200℃)より、粒径11nmのナノシリカ(SiO_(2))(7wt%)を混合したPEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))を31nm厚で形成し、その上に、NPBホール輸送層を39nm厚さで成膜した以外、基準例refと同様に有機EL素子を作製した。PEDOTとPSS(ポリスチレンスルホネート)とIPA(イソプロピルアルコール)を含むPEDOT溶液を調製しこれにナノシリカを添加して塗布した。
[0058]
<例NP-r>:ガラス基板/透明電極/光散乱層/ホール輸送層/有機発光層/電子注入層/反射電極という構成の有機EL素子を作製した。
[0059]
ガラス基板上のITO透明電極上に、光散乱層のホール注入層として、スピンコート塗布及び焼成(200℃)より、ナノシリカに代えて粒径8nm?10nmの銀ナノ粒子(Ag)(50wt%)を混合したPEDOTを45nm厚で形成し、その上に、NPBホール輸送層を25nm厚さで成膜した以外、例NP-tと同様に有機EL素子を作製した。PEDOT溶液を調製しこれに銀ナノ粒子を添加して塗布した。」

キ 「請求の範囲
[1]
第1電極及び第2電極の間に積層されかつ有機発光層を含む複数の有機半導体層からなる有機発光素子であって、
前記有機発光層と前記第1及び2電極の少なくとも一方との間に配置された前記有機半導体層の少なくとも一つが、前記有機発光層からの発光光が透過するように電子及び又はホールを輸送するキャリア注入輸送性を有する有機材料と前記有機材料内に分散された複数の粒子とを含む光散乱層である、ことを特徴とする有機発光素子。
[2]
前記粒子は針状、円柱状、板状、矩形状、立体状、円錐、球状や角柱状等の個別、集合体であることを特徴とする請求項1記載の有機発光素子。
[3]
前記粒子は平均粒径が0.1nmから10000nmを有することを特徴とする請求項1又は2記載の有機発光素子。・・・」

ク 「[図5]



ケ 上記アないしクからみて、引用例1には、実施例の例NPの有機発光素子として、次の発明が記載されているものと認められる。
「ガラス基板上に、透明陽極46、粒子の複数が分散されたホール注入層である光散乱層47a、ホール輸送層48、発光層49、電子輸送層50、電子注入層51及び金属陰極52が順次積層された構造となっている有機発光素子1であって、
光散乱層47aは、部分的に光を反射しかつ透過性を有するように設定された、ホール注入層の母材とそこに分散された粒子とかなる薄膜であり、 粒子は、例えば金属ナノ粒子であり、Au,Agなどの金属や、TiO_(x),ZrO_(x),ZnO_(x),MoO_(x),WO_(x),SiO_(x),FeO_(x),Y_(x)O_(y),CuO_(x)などの酸化物や、TiMO_(x)(M=Si,Fe,Zr,Sn,Sb,W,Ce)、AgMoO_(x)、IMO_(x)(M=In,Zn)などの2種類以上の金属イオンを含む複合酸化物や、AlF_(3),MgF_(2)などのフッ化物や、ポリスチレンなどの高分子材料であり、
個々の粒子は針状、円柱状、板状、矩形状、立体状、円錐、球状や角柱状等の個体、或いは凝集又は集合体であり、粒子は平均粒径が0.1nmから10000nmを有する、
有機発光素子1。」(以下「引用発明」という。)

(2)本願の優先日前に頒布され、当審拒絶理由で引用例2として引用された特開2010-161002号公報には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの基板のいずれかの面に、対向する一対の電極と該電極の間に1つの発光層を備え、前記一対の電極のうち少なくとも一方は光透過性電極であって、該光透過性電極の光取り出し面側に封止部位が設けられているEL素子において、該封止部位の視認側面に下記条件をいずれも満たす光学シートが接着部位を介して設けられていることを特徴とするEL素子。
a.該光学シートは、少なくとも透明樹脂からなるマトリックス中に平均アスペクト比が2以上の扁平なドメインが分散されている構成であって、該シート面に垂直な断面における該扁平なドメインの長軸方向と該光学シート面と平行な方向とのなす小さい方の角度の平均値が30°以内である。
b.該光学シートを構成する前記マトリックスの屈折率をn_(0)とし、前記扁平なドメインの屈折率をn_(1)とするとき、n_(0)は1.62以上2.0以下であり、かつ|n_(0)-n_(1)|≧0.05である。
c.該接着部位の屈折率をn_(2)とするとき、該光学シートを構成する前記マトリックスの屈折率が|n_(0)-n_(2)|≦0.05の関係を満たす。
【請求項2】
前記扁平なドメインの平均粒径が10μm未満であり、平均厚みが0.5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のEL素子。
【請求項3】
前記扁平なドメインは、カルボン酸、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤より選択される少なくとも1種の化合物によって表面処理されていることを特徴とする請求項1または2に記載のEL素子。
【請求項4】
前記マトリックスは平均粒径が1nm以上100nm以下の微粒子を含有し、該微粒子を分散させたマトリックスの下記式で表される屈折率をn、前記扁平なドメインの屈折率をn_(1)、該微粒子の屈折率をn_(3)とすると、
微粒子の屈折率n_(3)>1.8でかつ|n-n_(1)|≧0.05の関係を満たすことを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のEL素子。
(式) n=n_(0)・A+n_(3)・(1-A)
(式中、マトリックスの屈折率をn_(0)、マトリックスの体積分率をA、微粒子の屈折率をn_(3)、微粒子の体積分率を1-Aとする。)
【請求項5】
前記微粒子は、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、ポリシラザン、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルシリルクロライド、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシランから選択される少なくとも一つの表面処理剤で改質されていることを特徴とする請求項4に記載のEL素子。
【請求項6】
前記扁平なドメインが炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムから選ばれる少なくも一つであることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載のEL素子。
【請求項7】
外界から上記光学シート内に入射する光のうち、該シート面の法線方向から入射する光に対する平行透過率をToとし、該シート面の法線に対し40°傾斜した方向から入射する光に対する平行透過率をTβとしたとき、Tβ/Toの値が0.65以上であることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載のEL素子。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか1項に記載のEL素子を用いることを特徴とするEL表示装置。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、扁平なドメインが透明樹脂中に分散されている光拡散機能を有する光学シートを光取り出しフィルムとしてEL素子に用いることで、十分な光取り出し効率とクラックの発生のないEL素子を提供することにある。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、扁平なドメインが透明樹脂中に分散されている光拡散機能を有する光学シートを光取り出しフィルムとしてEL素子に用いることで、十分な光取り出し効率とクラックの発生のないEL素子を提供することができる。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
本発明のEL素子は、少なくとも1つの基板のいずれかの面に、対向する一対の電極と該電極の間に1つの発光層を備え、前記一対の電極のうち少なくとも一方は光透過性電極であって、該光透過性電極の光取り出し面側に封止部位が設けられていることを特徴とし、かつ該EL素子は、前記封止部位の視認側面に下記条件をいずれも満たす光学シートが接着部位を介して設けられていることを特徴とする。
【0028】
a.該光学シートは、少なくとも透明樹脂からなるマトリックス中に平均アスペクト比が2以上の扁平なドメインが分散されている構成であって、該シート面に垂直な断面における該扁平なドメインの長軸方向と該光学シート面と平行な方向とのなす小さい方の角度の平均値が30°以内である。
【0029】
b.該光学シートを構成する前記マトリックスの屈折率をn_(0)とし、前記扁平なドメインの屈折率をn_(1)とするとき、n_(0)は1.62以上2.0以下であり、かつ|n_(0)-n_(1)|≧0.05である。
【0030】
c.該接着部位の屈折率をn_(2)とするとき、該光学シートを構成する前記マトリックスの屈折率が|n_(0)-n_(2)|≦0.05の関係を満たす。
【0031】
形状異方性を有する平均アスペクト比が2以上の扁平なドメインをシート面に垂直な断面におけるドメインの長軸方向と該シート面と平行な方向とのなす小さい方の角度の平均値が30°以内となるようにマトリックスである透明樹脂中に分散、固定化させることで、EL素子から視認側正面に向かって出射される光に対して殆ど散乱を起こすことなく、臨界角以上の角度で進行する光に対して大きな散乱を与え、光取り出し効率を高めることができる。
【0032】
しかしながら、扁平なドメインを機械的に混合するだけではマトリックスとの親和性が不十分であるため、界面に空隙が生じたり、扁平なドメイン同士が凝集してしまい、目的の分散状態やマトリックスの機械的強度を得ることができない。そこで本発明者らは検討を重ねた結果、表面処理を行った扁平なドメインを用いることで、該シート面に垂直な断面における該扁平なドメインの長軸方向と該光学シート面と平行な方向とのなす小さい方の角度の平均値が30°以内となる分散状態を達成し、更に樹脂との親和性が十分なため加熱時のクラック発生を顕著に抑制し、光取り出し効率を向上できることを見出したものである。」

エ 「【0039】
<扁平粒子>
本発明で扁平なドメインとして生産上、性能上好ましく使用される扁平粒子について説明する。
【0040】
本発明に用いられる扁平粒子は、粒子の立体形状に直交3次元座標系を当てはめたとき、少なくともいずれか一方向に短い特徴をもつ粒子であり、外見上、円盤を含む楕円盤状のもの、四角状あるいは六角状に代表される多角形平板状のもの、更には棒状のものなど種々の形状のものが用いられる。
【0041】
本発明に係わる光学シートは、透明樹脂中に平均アスペクト比が2以上の扁平粒子が分散されている構成であることが特徴である。本発明においてアスペクト比とは、粒径と厚さの比(アスペクト比=直径/厚さ)をいう。また、本発明でいう粒径とは、扁平粒子の表面を形成する平面あるいは曲面の中で最も広い面積を有する面(以下、主要面と称する)の外接面または内接面に対して垂直にその粒子を投影した場合の面積(投影面積)に等しい円の直径で表される。粒子の厚さとは、主要面に垂直な方向での粒子の厚さのうち最長のものとして定義する。
【0042】
粒径と厚さは、粒子が固体の場合、以下の方法で求められる。予めEL素子より剥離して取り出した光学シートから、バインダー樹脂を溶解等の方法により除去し、粒子のみを抽出する。これを支持体上に内部標準となる粒径既知のラテックスボールとともに塗布した試料を作成し、ある角度からカーボン蒸着法によりシャドーイングを施した後、通常のレプリカ法によってレプリカ試料を作成する。同試料の電子顕微鏡写真を撮影し、画像処理装置等を用いて個々の粒子の投影面積と厚さを求める。この場合、粒子の投影面積は内部標準の投影面積から、粒子の厚さは内部標準と粒子の影(シャドー)の長さから算出することができる。本発明において、アスペクト比、粒径、粒子厚さの平均値は、上記シャドーイング法を用いて粒子を任意に300個以上測定し、それらの算術平均として求められる値をいう。また、粒子が気体あるいは液体の場合、光学シートを超薄膜切片状に連続的に切り出し、電子顕微鏡像の画像処理により立体化した後、上記粒径と厚みを求めることができる。
【0043】
本発明において、扁平粒子の平均アスペクト比は2以上であるが、5以上であることが好ましい。また、本発明に用いられる扁平粒子の平均粒径は、10μm未満が好ましく、0.1μm?8μmが更に好ましく、0.1μm?5μmが特に好ましい。本発明に用いられる扁平粒子の平均厚みは、2μm以下が好ましく、1μm以下が更に好ましく、0.5μm以下が最も好ましい。
【0044】
本発明に用いられる扁平粒子は、無機物質、有機物質、有機/無機複合物のいずれであっても構わないし、その物質の状態が固体に限定されるものではなく、液体でも気体でも構わない。扁平粒子が液体の例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)のような熱可塑性樹脂中に、常温で液体の状態を示しかつPETとの相溶性が低いUV吸収化合物などを分散させ、PETとともに溶融押出法にて製膜後、二軸延伸したシートなどが挙げられる。二軸延伸後の各UV吸収化合物からなる分散体は、周囲のPETに追随して面方向に形が伸びるため、扁平状の分散体となる。PETとUV吸収化合物の平均屈折率の差が0.02以上異なるようにUV吸収化合物の種類を選択するとともに延伸倍率を制御することにより、本発明の狙う散乱特性を示す光学シートを得ることができる。また、扁平粒子が気体の例としては、例えば、PET中に、PETと平均屈折率が殆ど差がない無機粒子を添加し、先程と同様、PETとともに溶融押出法にて製膜後
、二軸延伸したシートなどが挙げられる。PETを二軸延伸することにより、各無機粒子とPETとの界面を起点とした微細な空隙が形成され扁平粒子状になる。添加する無機粒子は、屈折率が分散媒のPETと近いものを選択しているため、光学的には何ら影響を及ぼさない。無機粒子のサイズや添加濃度、延伸倍率を制御することにより、本発明の狙う散乱特性を示す光学機能性フィルムを得ることができる。
・・・略・・・
【0053】
例えば、扁平状の炭酸カルシウムとしては、ニューライム社製の六角板状、円盤状、鱗片状のものなどが用いられる。
【0054】
有機系の扁平粒子としては、例えば、特開平11-199706号公報に開示されているような製造方法を用いて作られる、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリスルフィド系、ポリオレフィン系、フッ素樹脂系またはポリビニルアルコール系のものなどが用いられる。
【0055】
扁平粒子の特殊形状として、棒状粒子が挙げられる。棒状粒子を用いる場合、その長軸は本発明に係わる光学シートの面方向に配向していることが重要であり、該シート面に垂直な方向から見た場合、個々の棒状粒子は特定の方向を向かず無配向になっていることが好ましい。また、単独に1つの棒状粒子として分散されている場合だけでなく、複数の棒状粒子が凝集して扁平な形状の粒子群を成しているものも好ましく用いられる。具体的には、上記、無機系、有機系、あるいはこれらの複合系いずれの扁平粒子においても、後述の粒子バインダーとして用いる各種樹脂との親和性を高めるため、公知の各種表面改質剤・手法を用いて表面処理することができる。」

オ 「【0056】
(扁平粒子の配向性)
本発明に係わる光学シート内における扁平粒子の配向性は、該シートの厚み方向と個々の扁平粒子の扁平方向が概ね平行になっていることが光取り出し効率を向上する上で好ましい。換言すれば、該シート面に垂直な縦横2つの断面における粒子の長軸方向が、各断面の面方向に概ね平行であることが好ましい。ここで、シート面に垂直な断面における粒子の長軸方向とは、閉曲線または閉直線で囲まれる粒子断面において、外周の2点間の距離のうち最も長い2点を結んだ方向を意味するものとする。本発明に係わる光学シート内における扁平粒子の配向性は、シート面に垂直な縦横2つの断面における、粒子断面の長軸方向とシート面方向とのなす小さい方の角度の平均が30°以内であることが特徴であり、20°以内であることが好ましい。
【0057】
上記好ましい配向性を実現させる方法としては、平均アスペクト比の高い扁平粒子を選択したり、シート形成時に高粘度の扁平粒子含有の溶液を用意し、この溶液をシート状に延ばす際にシートの面方向に強いせん断力が加わるようにしたり、あるいは塗布直後の溶剤を多量に含んでいる状態から乾燥固化するまでの時間を長めにするなど、種々の方法があり、適宜これらの方法を単独あるいは組合せて実現させることができる。逆に言えば、例えば溶剤とUV硬化樹脂と扁平粒子を含んだ塗布液を、ワイヤーバーなどで塗布した後、直ちにUV照射することにより、固化した層内において十分に安定配向していない扁平粒子を含んだシートを作製することが可能である。ワイヤーバー塗布において、塗布後乾燥してUV照射による固化までの時間を十分にとることにより、良好な配向性を得ることができる。また、他の方法として、スピンコート法は扁平粒子の好ましい配向を形成しやすく好ましい。」

カ 「【0105】
(本発明に係わる光学シートの配置位置)
本発明に係わる光学シートの配置位置は、EL素子における、外界に向けて光が取り出される面より発光層側で、光透過性電極の光出射面側の面より視認側のいずれかの位置であることが好ましい。
【0106】
ここで、外界に向けて光が取り出される面とは、EL素子の最も視認側に位置する面を指す。EL素子の構成として、発光層からの光が光透過性電極を透過した後、透明基板を通り、視認側に達する構成の場合、該透明基板の光透過性電極がある面とは反対側の面に本発明の光学シートが設けられる。該光学シートの該透明基板とは反対側の面は外界空気層となっている構成は、本発明の範囲外であって、本発明の光学シートは、その両面が一般的に屈折率1よりも大きい部材で挟まれていることが重要である。本発明の光学シートは該光透過性電極の視認側の面と該透明基板の該光透過性電極側の面との間に設けられていても構わない。最も好ましい配置位置は、後述する図4、図5に示すようなカラーフィルター基板の透明平坦化層の表面に設けられることである。」

キ 「【0156】
《トップエミッション型EL表示装置の実施形態》
次に、本発明に好ましく用いられるトップエミッション型EL表示装置の具体的実施形態の一例を述べる。
【0157】
図4は、本実施形態のEL表示装置の断面構造を示す模式断面図である。
【0158】
図4においては、RGBの各画素領域のみを示しているが、実際には図3のように複数の画素領域が有機EL装置における実発光領域の全面に形成されているものとする。
【0159】
本実施形態のEL表示装置201は、カラーフィルター基板207に対してEL素子の白色光を照射させるようになっている。従って、着色層208R,208G,208Bによって、カラー表示を行うようになっている。
【0160】
次に、画素電極223及び陰極250によって挟持される低分子系発光機能層の構成について説明する。
【0161】
図4に示すように、発光層300は、画素電極223から陰極250に向けて、正孔注入層301、正孔輸送層302、有機発光層303、電子注入層304が順次積層された構成となっている。
【0162】
ここで、正孔注入層301は、トリアリールアミン(ATP)を含むものであり、正孔輸送層302は、TPD(トリフェニルジアミン)系からなるものである。
【0163】
また、有機発光層303は、スチリルアミン系発光層(ホスト)とアントラセン系ドーパントとを含んで構成される青色の有機発光層や、スチリルアミン系発光層(ホスト)とルブレン系ドーパントを含んで構成される黄色の有機発光層等を含んで形成されている。
【0164】
また、電子注入層304は、アルミニウムキノリノール(Alq3)層である。
【0165】
また、陰極250は、MgAg等の合金とITOとが積層されてなるものである。
【0166】
上記の各有機層301?304の材料及びLiFは、加熱ボート(るつぼ)を用いた真空蒸着法で順次形成される。また、陰極250の形成については、金属系材料については真空蒸着法を採用し、ITO等の酸化物材料についてはECRスパッタ法やイオンプレーティング法、対向ターゲットスパッタ法等の高密度プラズマ成膜法を採用する。
【0167】
このようなEL表示装置201においては、画素電極223を色毎にパターニングすれば、発光層300及び陰極を形成し分ける必要がなく、高精度が要求されるマスク蒸着を行う必要がない。
【0168】
次に、陰極250の上方に形成される層膜について説明する。
【0169】
陰極250の上方には、電極保護層255が形成されている。当該電極保護層255は、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法によって形成される。材質は透明性や密着性、耐水性を考慮して珪素酸窒化物などの珪素化合物が好ましい。また、形成前には酸素プラズマ処理によって密着性を向上させると電極との密着性が向上し、発光ムラが低減する。硬化前の有機緩衝層の浸透を防ぐことも目的としており、膜厚は100nm以上が好ましい。
【0170】
また、電極保護層255の上方には、有機緩衝層210が形成されている。・・・略・・・
【0182】
また、有機緩衝層210の上方には、ガスバリア層230が形成されている。当該ガスバリア層230の形成方法としては、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法が採用される。材質は透明性やガスバリア性、耐水性を考慮して珪素酸窒化物などの珪素化合物が好ましい。また、形成前には酸素プラズマ処理によって密着性を向上させると信頼性が向上する。膜厚は、200nm以下では有機緩衝層の表面及び側面被覆が不足するため、300nm以上が好ましい。
【0183】
本発明に係わる透明平坦化層は、該透明平坦化層よりも透明基材側に位置するカラーフィルター層等の構成により段差(表面凹凸)が生じる場合に、この段差を解消して平坦化を図り、EL発光層の厚みムラ発生を抑制する機能を有する。・・・このような透明平坦化層の厚みは、使用する材料を考慮し、平坦化作用が発現できる範囲で設定することができ、例えば、カラーフィルター層上の厚みを1?5μm程度の範囲で適宜設定することができる。
【0184】
透明平坦化層の形成は、上記樹脂材料を用いて、スピンコート、ロールコート、キャストコート等の方法で塗布し、硬化させることにより行うことができる。
【0185】
より具体的には、アクリレート系光硬化性樹脂(JSR(株)製 JUPC)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで希釈して平坦化層用塗布液を調製し、この平坦化層用塗布液を、スピンコート法によりカラーフィルター層上に塗布し、プリベーク(120℃、5分間)を行った後、所定のフォトマスクを用いて露光、現像を行い、次いで、ポストベーク(230℃、60分間)を行って、カラーフィルター層とブラックマトリックスを被覆する透明平坦化層(カラーフィルター層上の厚み2μm)を形成することができる。」

ク 「【実施例】
【0186】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0187】
実施例1
<EL表示装置101の作製>(比較例)
図4に示すEL表示装置を参考に、前述の《トップエミッション型EL表示装置の実施形態》の項に記載した方法、手順にて作製した。即ち、まず、第1のガラス基板上に、陽極(画素電極)、正孔注入層、正孔輸送層、白色発光層(EL層)、電子注入層、陰極(ITO)の順に積層し、その上に有機緩衝層、ガスバリア層を設けてEL素子を形成する。一方、500μmの厚みを有する第2のガラス基板の片面に、特開2008-41381号公報の実施例1に準じて、ガラス基板上にブラックマトリックス形成後、R,G,B3種のカラーフィルターを100μmピッチで形成し、その上に紫外線硬化型のアクリル系樹脂からなる透明平坦化層を設けた。
【0188】
カラーフィルター付きの第2のガラス基板のカラーフィルター層側の面、正確にはカラーフィルター層上の透明平坦化層の上に、下記粒子を含有する樹脂をスピンコートし、直ぐに紫外線照射により硬化させて光学シートを設けた。
【0189】
さらに特開2002-97217号公報:三菱化学社 実施例8を参考に作成したUV硬化樹脂(屈折率1.64)を接着部位(接着層)として用い、第1の基板上に形成されているEL素子のガスバリア層上に貼り付け、図5に示す構成のEL表示装置101を得た。尚、図5において示される番号は、以下の各要素である。
【0190】
401 第1のガラス基板、402 陽極、403 EL発光層、404 陰極(ITO)、405 ガスバリア層、406 接着層、407 光学シート、408 透明平坦化層、409 カラーフィルター、410 第2のガラス基板。
【0191】
(粒子+樹脂)
球状アルミナ(AO-800、平均粒径7.0μm、屈折率1.76)
・・・体積比率 5%
UV硬化樹脂(特開2002-97217号公報:三菱化学社 実施例8を参考に作成した(屈折率1.64)) ・・・体積比率 95%
実施例2
<EL表示装置102の作製> (本発明)
EL表示装置101の作製法において、カラーフィルター層上の透明平坦化層の上に、下記扁平粒子を含有した平板粒子+樹脂をワイヤーバーで塗布し、5分間静置した後に紫外線照射により硬化させて光学シートを設けた以外は、全て同じ方法により、EL表示装置102を作製した。
【0192】
(平板粒子+樹脂)
板状アルミナ(朝日化学工業社製ルクセレンFAO、平均アスペクト比2、平均粒径6.0μm、屈折率1.76) ・・・体積比率 5%
UV硬化樹脂(特開2002-97217号公報:三菱化学社 実施例8を参考に作成した(屈折率1.64))
・・・略・・・
【0196】
実施例7
<EL表示装置107の作製> (比較例)
EL表示装置101の作製法において、カラーフィルター層上の透明平坦化層の上に、下記針状粒子を含有した樹脂をスピンコートし、磁場を与えてガラス基板の法線方向に針状粒子を配向させ、紫外線照射により硬化させて光学シートを設けた以外は、全て同じ方法により、EL表示装置107を作製した。このときの粒子長軸配向角は88°であった。
【0197】
(針状粒子+樹脂)
酸化チタンにより被覆した針状酸化鉄粒子(酸化鉄粒子;戸田工業製AR 長軸180nm、短軸20nm、酸化チタン被覆率30%、屈折率2.44)
・・・体積比率 5%
UV硬化樹脂(特開2002-97217号公報:三菱化学社 実施例8を参考に作成した(屈折率1.64)) ・・・体積比率 95%
・・・略・・・
【0215】
《評価》
得られたEL表示装置について以下の評価を実施した。
【0216】
(ドメインの長軸方向の配向角)
予めEL素子より接着部位を溶解する溶剤などを用いて剥離した光学シートを包埋用樹脂に埋め込み、これをウルトラミクロトーム(RMC社製MT-7)によりシートの断面(正確にはX軸方向の断面とY軸方向の断面の2方向がある)を厚み100nmの超薄切片状に切削し、これらを走査型電子顕微鏡、あるいは透過型電子顕微鏡にて撮影する。そして撮影画像を例えば画像解析ソフト(三谷商事(株)製、WinROOF、ver3.60)等により解析し、ドメインの長軸方向とシート面に垂直な方向との角度(配向角)を求めた。
【0217】
(屈折率測定)
光学シートを構成する透明樹脂(マトリックス)、粒子(ドメイン)、接着層の屈折率の測定は、本文記載の方法を用いた。測定波長はいずれも589nmとした。
【0218】
尚表1中、EL表示装置No.112?117のマトリックスの屈折率は、上記微粒子分散マトリックスの屈折率nの値を用い、粒子との屈折率差、接着部位との屈折率差については、nを用いて各々計算した。
【0219】
(光学シートの散乱特性)
図1に模式的に示す日本電色工業社製ヘイズメータNDH2000ヘイズメータに光学シートをセットし、光学シート面の法線方向より光を当て、直進出射されてくる平行透過率Toを測定する。次に、図1に示すように光学シートを入射光に対して40°傾斜した状態で測定したときに得られる平行透過率の値をTβとする。
【0220】
求めたTo、TβよりTβ/Toを求めた。
【0221】
(相対正面輝度評価)
作製したEL素子について正面輝度測定を行った。
【0222】
測定は分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタセンシング製)を用いて正面からの発光輝度(2°視野角正面輝度)を測定した。
【0223】
EL表示装置101(比較例)の輝度を1として相対値で示した。
【0224】
(クラック)
作製した光学シートを90℃/dryの恒温槽に1h投入し、投入前後の光学シートの状態をオリンパス社製 蛍光観察顕微鏡 BX51を用いてクラックの状態を調べた。
【0225】
◎・・・クラックが全く発生しない。
【0226】
○・・・わずかに発生しているが恒温槽投入前後で性能に変化が無い。
【0227】
△・・・クラックが発生しており恒温槽投入後で性能が0.1以内の劣化。
【0228】
×・・・クラックが発生しており恒温槽投入後で性能が0.3以上劣化している。
【0229】
【表1】



ケ 「【0230】
(実施例まとめ)
各EL表示装置の評価結果をまとめる。
【0231】
No.101は球状アルミナを用いておりアスペクト比、厚みともに規定外のため輝度が低く、クラックの発生も大きい。
【0232】
No.102は扁平粒子のアスペクト比は規定内であるが小さいため、ある程度の輝度向上効果は得られているが、マトリックスとの界面にややクラックが発生している。
【0233】
No.103扁平粒子にアルミナを用いており、輝度向上効果は得られているが、マトリックスとの界面にややクラックが発生している。
【0234】
No.104は平均粒径が大きいため輝度向上効果がやや低い。
【0235】
No.105はTβ/Toが低いため輝度向上効果がやや低い。
【0236】
No.106は配向角が大きいため輝度向上効果が低い。
【0237】
No.107は針状粒子を縦に入れても輝度向上効果は低い。」

コ 引用例2には、その【請求項1】、【0031】、【0032】及び【0055】の記載から、光取り出し効率を高めるために、扁平なドメインの長軸を光学シートの面方向に配向させることを把握できる。そして、引用例2の【0196】に「下記針状粒子を含有した樹脂をスピンコートし、磁場を与えてガラス基板の法線方向に針状粒子を配向させ、紫外線照射により硬化させて光学シートを設けた以外は、全て同じ方法により、EL表示装置107を作製した。このときの粒子長軸配向角は88°であった。」と、【0237】に「No.107は針状粒子を縦に入れても輝度向上効果は低い。」と、それぞれ記載されているように、EL表示装置107の作成の際には、磁場を与えることにより、ガラス基板の法線方向、すなわち縦に、針状粒子を配向させ、その配向状態のまま硬化させて光学シートが形成されているものと把握できる。そうすると、このときのEL表示装置107の「粒子長軸配向角度」が「88°」であるから、【0216】の「 (ドメインの長軸方向の配向角)・・・ドメインの長軸方向とシート面に垂直な方向との角度(配向角)を求めた。」との記載は、「・・・ドメインの長軸方向とシート面に平行な方向との角度(配向角)を求めた。」の誤りであることは明らかである。してみると、前記【表1】の記載から、ドメインの長軸方向とシート面に平行な方向との角度である「粒子長軸配向角度」は実施例では15ないし25°である。

サ 上記アないしコ及び引用例2の記載全体からみて、引用例2には、次の事項が記載されているものと認められる。
「光取り出し面側に封止部位が設けられ、該封止部位の視認側面に光学シートが接着部位を介して設けられているEL素子において、前記光学シートは、少なくとも透明樹脂からなるマトリックス中に平均アスペクト比が2以上の扁平なドメインが分散されている構成であって、該シート面に垂直な断面における該扁平なドメインの長軸方向と該光学シート面と平行な方向とのなす小さい方の角度の平均値が30°以内であるようになすことで、光取り出し効率を高めるようにしたこと。」(以下「引用例2の記載事項」という。)

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「ガラス基板」、「透明陽極46」、「金属陰極52」及び「発光層49」は、それぞれ本願発明の「基板」、「陽極」、「陰極」及び「発光層」に相当する。

(2)引用発明は、「ガラス基板」(本願発明の「基板」に相当。以下「」に続く()内の用語は対応する本願発明の用語を表す。)上に、「透明陽極46」(陽極)、粒子の複数が分散されたホール注入層である光散乱層47a、ホール輸送層48、「発光層49」(発光層)、電子輸送層50、電子注入層51及び「金属陰極52」(陰極)が順次積層された構造となっている有機発光素子1である。そうすると、引用発明の「有機発光素子1」は、本願発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当し、「透明陽極46」(陽極)と「金属陰極52」(陰極)との間に、「発光層49」(発光層)を含む有機層を備えているといえるから、引用発明は、本願発明の「基板上に対向する一対の陽極、陰極の間に少なくとも発光層を含む有機層が配置された」との構成を備える。

(3)引用発明は、「透明陽極46」を備えるものであるから、本願発明の「陽極または陰極の少なくとも一方が透明電極で構成され、」との構成を備える。

(4)引用発明において、有機層の一つであるホール注入層である光散乱層47aは、粒子の複数が分散されている。そして、個々の粒子は、針状、円柱状、板状、矩形状、立体状、円錐、球状や角柱状等の個体である。そうすると、引用発明の「個々の粒子」は、「長軸及び短軸を有する異方性微粒子」である場合を含むといえるのであるから、引用発明は、本願発明の「該陽極、陰極、または有機層のうちの少なくとも1層が、長軸及び短軸を有する異方性微粒子を含み、」との構成を備える。

(5)引用発明において、前記粒子は、TiO_(x),ZrO_(x),ZnO_(x),MoO_(x),WO_(x),SiO_(x),FeO_(x),Y_(x)O_(y),CuO_(x)などの金属酸化物や、TiMO_(x)(M=Si,Fe,Zr,Sn,Sb,W,Ce)、AgMoO_(x)、IMO_(x)(M=In,Zn)などの2種類以上の金属イオンを含む複合酸化物や、AlF_(3),MgF_(2)などのフッ化物や、ポリスチレンなどの高分子材料であるから、引用発明は、本願発明の「前記異方性微粒子は、異方性金属酸化物微粒子、異方性金属塩微粒子、または炭素原子と金属以外の他の原子からなる異方性有機化合物微粒子から選択される」との構成を備える。

(6)上記(1)ないし(5)からみて、本願発明と引用発明とは、
「基板上に対向する一対の陽極、陰極の間に少なくとも発光層を含む有機層が配置された有機エレクトロルミネッセンス素子において、
陽極または陰極の少なくとも一方が透明電極で構成され、
該陽極、陰極、または有機層のうちの少なくとも1層が、長軸及び短軸を有する異方性微粒子を含み、
前記異方性微粒子は、異方性金属酸化物微粒子、異方性金属塩微粒子、または炭素原子と金属以外の他の原子からなる異方性有機化合物微粒子から選択される、
有機エレクトロルミネッセンス素子。」の点で一致し、次の点で相違する。

・相違点
本願発明では、「異方性微粒子の長軸方向が、実質的に基板面に平行である」のに対し、
引用発明では、粒子(異方性微粒子)の長軸方向が、実質的にガラス基板面に平行であるかどうか明らかでない点。

5 判断
(1)相違点について検討する。
ア 本願明細書の【0189】ないし【0200】、【0209】ないし【0211】には、有機EL素子206において、異方性微粒子の長軸と基板面との角度が30°以内の粒子の割合が84%である透明電極兼正孔注入層をスピンコート法により成膜したことが記載されている。
イ 引用例1の[0052]ないし[0095]に、実施例において、光散乱層をスピンコート塗布により形成していること記載されており、また、引用例2には、【0057】に「スピンコート法は扁平粒子の好ましい配向を形成しやすく好ましい。」と、【0196】に「下記針状粒子を含有した樹脂をスピンコートし、磁場を与えてガラス基板の法線方向に針状粒子を配向させ、紫外線照射により硬化させて光学シートを設けた」とそれぞれ記載されている。
ウ 上記ア、イの記載及び技術的にみて、スピンコートによれば、特段磁場を与えて粒子を配向させた状態で硬化させる等の処理をしない限り、粒子の長軸方向が遠心力により基板面に平行になるといえる。そうすると、上記相違点は実質的な相違点ではなく、本願発明1は引用発明と同一である。
エ 仮に上記相違点が実質的な相違点であるとしても、引用例1の[0005]ないし[0008]に、光取り出し効率を向上させて発光強度を確保するという課題が記載されているように、引用発明は、光取り出し効率を向上させるものである。また、引用発明は、レイリー散乱を前提としたものであるとしても、粒子形状についての言及とともに、粒子径の上限は10000nmとされている。そして、当業者ならば、引用例2の記載事項(上記3(2)コ)のように、光取り出し効率を高めるために、扁平なドメインの長軸方向と光学シート面と平行な方向とのなす小さい方の角度の平均値が30°以内であるようにする技術も心得ている。したがって、引用発明において、光取り出し効率をさらに向上させるために、粒子の長軸方向を基板面に平行になるようになすこと、すなわち、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が所望とする、引用発明の粒子形状及び粒子径と関係において、当業者が適宜なし得たことである。

(2)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び引用例2の記載事項から当業者が予測することができた程度のことである。

(3)したがって、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(4)なお、審判請求人は、平成29年6月12日提出の意見書において、引用例2には、粒子の配向方向が明確に記載されていないこと、及び、光散乱粒子を含む層をスピンコートで形成する場合には、粒子密度や粒子形状等により、一概にスピンコートで形成すれば光散乱粒子の長軸方向が基板と平行になるとはいえないこと、の2点を概略主張している。
しかしながら、前者については、上記3(2)で述べたとおり、引用例2中において、相互の記載の齟齬は見受けられるものの、引用例2の記載全体からみれば、粒子の長軸方向が実質的に基板面に平行であることが把握できる。後者については、引用例1,2において、スピンコートで、光散乱粒子の長軸方向が基板面に平行にならない具体的な理由を根拠を挙げて述べているわけでもない。また、前述のように、特に引用例2においては、磁場を利用して針状粒子を縦にした状態にしなければ、針状粒子が横、すなわち実質的に基板面に平行となってしまうから、敢えて磁場を利用したと理解できる。そうすると、引用例2のEL表示装置107において、針状粒子の長軸方向が実質的に基板面と88°をなす、ほぼ垂直方向に配向していると理解できる。
よって、請求人の主張は、いずれも採用できない。

6 むすび
本願発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-28 
結審通知日 2017-08-01 
審決日 2017-08-15 
出願番号 特願2012-526443(P2012-526443)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
P 1 8・ 113- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 樋口 信宏
鉄 豊郎
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子  
代理人 特許業務法人信友国際特許事務所  

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