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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M |
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管理番号 | 1332903 |
審判番号 | 不服2016-12034 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-08-09 |
確定日 | 2017-09-25 |
事件の表示 | 特願2013- 39433「軟包装用樹脂フィルムの多色印刷物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月11日出願公開、特開2014-166713〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成25年2月28日の出願であって、平成27年10月22日付けで拒絶理由が通知され、それに対し、平成27年12月21日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、平成28年4月27日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付で手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。 第2 本件補正の補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成28年8月9日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 本件補正は、平成27年12月21日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりに補正することを含むものである。 (補正前)「樹脂フィルムにおいて、白色層を水性グラビア印刷又は水性フレキソ印刷層で形成し、この白色層以外の多色層をインクジェット印刷層で形成してなる軟包装用樹脂フィルムの多色印刷物。」(以下、「本願発明」という。) (補正後)「透明なプラスチックフィルムの表面に無溶媒系のUV硬化型インクを用いてインクジェット多色印刷面を形成し、この多色印刷面に重ねて白色の水性グラビア又はフレキソインクを用いてベタ塗り白色印刷面を形成して成る印刷物。」(下線部は補正箇所を示す。以下、「本願補正発明」という。) 2 補正の目的 上記補正は、(1)「軟包装用樹脂フィルム」を、「透明なプラスチックフィルム」とする補正事項、(2)「多色層をインクジェット印刷層で形成」を、「無溶媒系のUV硬化型インクを用いてインクジェット多色印刷面を形成」とする補正事項、(3)「白色層を水性グラビア印刷又は水性フレキソ印刷層で形成」を、「白色の水性グラビア又はフレキソインクを用いてベタ塗り白色印刷面を形成」とする補正事項、(4)インクジェット多色印刷面を、フィルムの「表面」に形成し、ベタ塗り白色印刷面を「多色印刷面に重ねて」形成するとする補正事項を含んでいる。 このうち、上記補正事項(1)はフィルムについて「軟包装用」とする限定を省くものであり、補正事項(3)はフレキソ印刷に用いられるインクについて「水性」とする限定を省くものであるから、これらの補正事項は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものともいえない。 3 補正却下の決定のむすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 4 付言 なお、以下のとおり、本願補正発明は、特許を受けることができないものであるから、本件補正を受け入れる余地はない。 (1)引用刊行物記載の発明 ア 平成27年10月22日付けの拒絶理由通知に引用され、本願の出願日前である平成23年8月11日に頒布された刊行物である特開2011-152930号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある。 (ア) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 透明樹脂フィルムの一方の表面に、下地層を介してインキジェット印刷像が形成され、該インキジェット印刷像を覆うように白インキベタ層が形成されていることを特徴とする容器用インキジェット印刷フィルム。」(下線は合議体が付した。以下同様。) (イ) 「【発明を実施するための形態】 【0022】 <インキジェット印刷フィルムの基本層構造> 本発明の容器用インキジェット印刷フィルムの基本層構造を示す図1を参照して、全体として1で示すインキジェット印刷フィルムは、透明樹脂フィルム10を基材フィルムとして有するものであり、この透明樹脂フィルム10の一方の面に、下地層11が形成されており、下地層11の表面には、インキジェット方式により印刷された印刷像13を有しており、さらに、この印刷像13を被覆するように、白インキベタ層15が設けられている。」 (ウ) 「【0024】 透明樹脂フィルム10は、それ自体公知の透明な熱可塑性樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体や、環状オレフィン共重合体などのオレフィン系樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル系共重合体樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α-メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のビニル系樹脂;ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン11、ナイロン12等のアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート;ポリフエニレンオキサイド;ポリ乳酸などの生分解性樹脂;などから形成されていてよい。一般的には、透明性に優れていると同時に、この印刷フィルム1を製造する際に行われる熱処理に対しての耐熱性が良好であるという点で、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルが好適である。」 (エ) 「【0026】 透明樹脂フィルム10の一方の面側に形成されている下地層11は、アンカーコート層とも呼ばれ、インキジェット方式により施される印刷像13を強固に保持固定し、密着性を高めるためのものである。このような下地層11は、インキジェット用の透明なアンカーコート剤としてそれ自体公知のものを使用することができ、例えば、熱硬化性、紫外線硬化性或いは電子線硬化性の透明な、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等が所定の溶剤に分散乃至溶解された塗布液を塗布・乾燥し、次いで加熱、紫外線照射、電子線照射等により硬化することにより形成される。これらの中でも樹脂の選択範囲が広いため、熱硬化性樹脂を加熱硬化する方式が好ましい。 このような下地層11の厚みは、通常、0.1乃至2.0μm程度である。」 (オ) 「【0027】 印刷像13は、インキジェット方式により形成されるものである。具体的には、インキジェットプリンタを使用し、各色の顔料乃至染料が紫外線硬化型樹脂バインダー、光重合開始剤及び各添加剤と共に溶剤に分散乃至溶解されている油溶性のインキジェット用インキを、所定のデザインに応じて施して色重ねし紫外線照射することにより形成される方式が、揮発成分が少なく、また設備がコンパクトであるため好ましい。一方で、バインダーを熱硬化型バインダーにし加熱して形成する方式、あるいはバインダーを電子線硬化型バインダーにし電子線照射して形成する方式で形成することもできる。」 (カ) 「【0028】 印刷像13を被覆するように設けられる白インキベタ層15は、酸化チタンや酸化亜鉛等の白色顔料が熱硬化性、紫外線硬化性或いは電子線硬化性の樹脂バインダーと共に溶剤中に分散されている白色インキを用い、この白色インキを塗布、乾燥し、加熱、紫外線照射或いは電子線照射により硬化させることにより形成される。この中では樹脂バインダーを広範囲の種類から選択できるため熱乾燥硬化方式が好ましい。即ち、本発明の印刷フィルム1では、白インキベタ層15をバックグラウンドとして、この上にインキジェット印刷像13が存在する形で観察される。従って、この印刷フィルム1を容器の外面に貼着したときには、容器の表面(その多くは暗い色を有している)が完全に隠ぺいされるとともに白インキベタ層15が明るいバックグラウンドとなり、この結果、印刷像13を外部から明瞭に観察することができ、印刷像13による加飾効果を向上させることが可能となるのである。 【0029】 白インキベタ層15を形成するための白色インキの塗布は、特に制限されず、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビアローラを用いたグラビア印刷やインキジェットプリンタを用いてのインキジェット方式による印刷などの手段により行うことができるが、塗布速度等の観点からはグラビア方式によるのが好適である。かかる白インキベタ層15の厚みは、一般に、0.5乃至70μm程度である。」 (キ) 「【0030】 上記のような層構造を有する印刷フィルム1が貼着される容器としては、特に制限されず、各種金属板、例えばアルミニウム板、アルミニウム合金板、ティンフリースチールなどの表面処理鋼板、ブリキ板、クロムメッキ鋼板、アルミメッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板、スズニッケルメッキ鋼板、その各種の合金メッキ鋼板などを、絞り加工、絞りしごき加工、再絞り加工などによって成形したシームレス缶、及び溶接缶など、各種のタイプの金属缶や、プラスチックフィルムやヒートシール樹脂がコートされたアルミ箔等の金属フィルムからなるパウチ(袋状容器)を例示することができる。また、このような金属缶の表面には、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロプレンフィルムなどの樹脂フィルムがラミネートされたものであってもよい。特に、シームレス缶のように過酷な成形加工により得られるものでは、このような樹脂フィルムをラミネートして成形加工されるものが多く、本発明の印刷フィルム1は、このようなラミネート缶にも適用できる。」 上記(ア)、(イ)、(オ)、(カ)の記載によれば、引用例1には、 「透明樹脂フィルムの一方の表面に、下地層を介して、各色の顔料乃至染料が紫外線硬化型樹脂バインダー、光重合開始剤及び各添加剤と共に溶剤に分散乃至溶解されている油溶性のインキジェット用インキを、所定のデザインに応じて施して色重ねし紫外線照射することによりインキジェット印刷像が形成され、該インキジェット印刷像を覆うようにフレキソ印刷または、グラビアローラを用いたグラビア印刷白インキベタ層が形成されている容器用インキジェット印刷フィルム。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 イ 平成28年4月27日付けの拒絶査定において引用され、本願の出願日前である平成24年9月27日に頒布された刊行物である特開2012-184321号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。 (ア) 「【0022】 本発明に係わる水性印刷インキ組成物は、グラビア、フレキソ印刷インキの製造に一般的に使用されているアイガーミル、サンドミル、ガンマミル、アトライター等を用いて製造される。 【0023】 本発明に係わる水性白インキ組成物は、一般に使用されている印刷方式、即ちグラビア印刷、フレキソ印刷等によりクラフト紙やKライナー紙等の着色原紙に印刷することができる。」 ウ 平成28年4月27日付けの拒絶査定において引用され、本願の出願日前である平成15年2月13日に頒布された刊行物である特開2003-39807号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の記載がある。 (ア) 「【0037】[プラスチックラベル]本発明のプラスチックラベルは、それぞれのインキ中のバインダー成分の種類に応じて複数種のインキが分けられた2種のグループのうち一方のグループに属するインキを、透明乃至半透明なプラスチックフィルムの一方の面に印刷して、他方のグループに属するインキを、他方の面に印刷することにより、作製することができる。なお、本発明では、印刷方法としては、溶媒成分の多いグラビア印刷、フレキソ印刷が好適である。また、インキ印刷層の厚いスクリーン印刷にも使用できる。」 (イ) 「【0060】(実施例3)グラビア印刷機を用いて、水性ウレタン系白色インキと、水性アクリル系非白色インキ(水性アクリル系カラーインキ)とを、それぞれ、透明なプラスチックフィルムの異なる面に、図6で示されるようにして印刷を行った。」 (2)対比 本願補正発明と引用発明1とを対比する。 ア 引用発明1の「透明樹脂フィルム」は、本願補正発明の「透明なプラスチックフィルム」に相当する。また、引用発明1の「インキジェット印刷像」は、「各色の顔料乃至染料」および「紫外線硬化型樹脂バインダー」を含む油溶性のインキジェット用インキを、所定のデザインに応じて施して色重ねし紫外線照射することにより」形成されるものであるから、引用発明1の「インキジェット印刷像」と本願補正発明の「インクジェット多色印刷面」とは、「UV硬化型インクを用いて」形成される「インクジェット多色印刷面」である点で共通する。 そうすると、引用発明1の「透明樹脂フィルムの一方の表面に、下地層を介して、各色の顔料乃至染料が紫外線硬化型樹脂バインダー、光重合開始剤及び各添加剤と共に溶剤に分散乃至溶解されている油溶性のインキジェット用インキを、所定のデザインに応じて施して色重ねし紫外線照射することによりインキジェット印刷像が形成」ることと、本願補正発明の「透明なプラスチックフィルムの表面に無溶媒系のUV硬化型インクを用いてインクジェット多色印刷面を形成」することとは、「透明なプラスチックフィルムにUV硬化型インクを用いてインクジェット多色印刷面を形成」する点で共通する。 イ 引用発明1の「白インキベタ層」は、「該インキジェット印刷像を覆うように」形成されることから、本願補正発明の「ベタ塗り白色印刷面」と同様に「多色印刷面に重ねて」形成されているといえる。また、引用発明1の「白インキベタ層」は、「フレキソ印刷」または「グラビア印刷」で形成されることから、本願補正発明の「ベタ塗り白色印刷面」と同様に「グラビア又はフレキソインク」で形成されているといえる。 そうすると、引用発明1の「該インキジェット印刷像を覆うようにフレキソ印刷または、グラビアローラを用いたグラビア印刷白インキベタ層が形成されていること」と、本願補正発明の「この多色印刷面に重ねて白色の水性グラビア又はフレキソインクを用いてベタ塗り白色印刷面を形成して成る」こととは、本願補正発明の「この多色印刷面に重ねて白色のグラビア又はフレキソインクを用いてベタ塗り白色印刷面を形成して成る」点で共通する。 ウ 引用発明1の「容器用インキジェット印刷フィルム」は、本願補正発明の「印刷物」に相当する。 したがって、両者は、 「透明なプラスチックフィルムにUV硬化型インクを用いてインクジェット多色印刷面を形成し、この多色印刷面に重ねて白色のグラビア又はフレキソインクを用いてベタ塗り白色印刷面を形成して成る印刷物。」である点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 本願補正発明のインクジェット多色印刷面が、透明なプラスチックの表面に形成されるのに対し、引用発明1のインキジェット印刷像が、透明樹脂フィルムの一方の表面に「下地層」を介して形成される点。 [相違点2] 本願補正発明の多色印刷面が「無溶媒系」のインクを用いて形成されるのに対し、引用発明1のインキジェット印刷像が「溶剤に分散乃至溶解されている」インキで形成される点。 [相違点3] 本願補正発明のベタ塗り白色印刷面が「水性」のグラビアインクを用いて形成されるのに対し、引用発明1の白インキベタ層が「水性」のグラビア印刷インキを用いて形成されるか特定されていない点。 (3)判断 上記相違点について検討する。 ア [相違点1]について 引用例1の記載事項(エ)によれば、下地層は、印刷像を強固に保持固定するために用いられるものであり、透明な、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等の公知のものを硬化することにより形成されるものとされている。このように下地層は、印刷像を保持するために、インキとフィルムとの親和性に応じて選択されるものであるから、下地層を設けるか否かは、必要性に応じて当業者が適宜選択しうる事項であるといえる。 したがって、引用発明1において、インキジェット印刷像を、「下地層」を介さずに形成することは、当業者が適宜なし得たことである。 イ [相違点2]について 本願補正発明は、インクジェット多色印刷面が無溶媒系のUV硬化型インクで形成されることによって特定されるものの、インクジェット多色印刷面を形成する方法ではなく、インクを用いて印刷面が形成された「印刷物」に関する発明である。一方、引用発明1は、そのインキジェット印刷像を形成するのに用いられるインキジェット用インキが「溶剤に分散乃至溶解されている」点で一応相違するものの、インキは塗布された後に硬化されており、硬化されたインキジェット印刷像は溶媒を含んでいないものといえる。そうすると、両者は何れもUV硬化のための成分を含むインクが硬化されたものである点で共通するものであり、硬化される前に溶媒を含んでいたかどうかによって形成された印刷面を区別することができないものであるから、実質的な相違点ということはできない。 なお、仮に無溶媒系であるか否かにより、形成される印刷面が異なるものであったとしても、無溶媒系のインクジェットインキも例示するまでもなく周知のものであり、インクジェットインキをどのようなものとするかは、周知のインクの中から当業者が適宜選択しうるものである。 したがって、引用発明1において、溶剤に分散乃至溶解されているインキジェット用インキの代わりに無溶媒系のインキジェット用インキを採用することは、発明を具体化する際の微差に過ぎず、当業者が適宜なし得ることである。 ウ [相違点3]について グラビアインクとして「水性」のインクは、例えば引用例2の(ア)や引用例3の(イ)に記載されているように周知のものである。引用発明1はグラビアインクの溶媒を特定していないものの、周知のインクの中から、水性のインクを採用することは当業者が適宜なし得ることである。そして、水性インクの環境負荷が少ないことも、従来より広く知られている効果であるから、グラビアインクの溶媒を水性としたことにより、格別な効果の差異を生じるとはいえない。 エ 効果について 本願補正発明の効果も、引用例1に記載された発明および周知技術から当業者が予測できる範囲のものであって、格別なものであるとはいえない。 オ むすび したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記「第2 本件補正の補正却下の決定」のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成27年12月21日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は、上記「第2 本件補正の補正却下の決定」の「1 補正の内容」に「本願発明」として記載したとおりである。 2 引用刊行物記載の発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用例と、その記載事項は、上記「第2 本件補正の補正却下の決定」の「2.引用刊行物記載の発明」に記載したとおりである。 3 対比 本願発明と引用発明1とを対比する。 (1)引用発明1の「透明樹脂フィルム」は、本願発明の「樹脂フィルム」に相当する。 (2)引用発明1の「白インキベタ層」は、本願発明の「白色層」に相当する。そして、引用発明1の「フレキソ印刷または、グラビアローラを用いたグラビア印刷白インキベタ層が形成されている」ことと、本願発明の「白色層を水性グラビア印刷又は水性フレキソ印刷層で形成」することとは、「白色層をグラビア印刷又はフレキソ印刷層で形成」する点で共通する。 (3)引用発明1の「インキジェット印刷像」は「所定のデザインに応じて施して色重ねし」て形成されるものであるから、本願発明の「白色層以外の多色層」に相当する。そして、引用発明1の「インキジェット用インキを、所定のデザインに応じて施して色重ねし紫外線照射することによりインキジェット印刷像が形成」することは、本願発明の「白色層以外の多色層をインクジェット印刷層で形成」することに相当する。 (4)引用発明1の「容器用インキジェット印刷フィルム」は、「各色の顔料乃至染料」を含むインキジェット用インキにより印刷されたものであるから、本願発明の「多色印刷物」に相当する。 したがって、両者は、 「 樹脂フィルムにおいて、白色層をグラビア印刷又はフレキソ印刷層で形成し、この白色層以外の多色層をインクジェット印刷層で形成してなる樹脂フィルムの多色印刷物。」である点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点4] 本願発明の白色層を形成するグラビア印刷およびフレキソ印刷が、それぞれ「水性」とされるのに対し、引用発明1の白インキベタ層を形成するグラビア印刷およびフレキソ印刷が「水性」であるか特定されていない点。 [相違点5] 本願発明の樹脂フィルムの用途が「軟包装用」とされているのに対し、引用発明1の印刷フィルムの用途が「容器用」とされている点。 4 判断 上記相違点について検討する。 (1)[相違点4]について グラビア印刷およびフレキソ印刷を「水性」とすることは、例えば引用例2の(ア)や引用例3の(ア)、(イ)に記載されているように周知技術である。引用発明1はグラビア印刷およびフレキソ印刷が水性であるか否かを特定していないが、周知のインクの中から、水性のインクを用いた印刷を採用することは当業者が適宜なし得ることである。そして、水性インクの環境負荷が少ないことも、従来より広く知られている効果であるから、グラビア印刷およびフレキソ印刷に用いるインクの溶媒を水性としたことにより、格別な効果の差異を生じるとはいえない。 (2)[相違点5]について 本願発明の樹脂フィルムは、その用途を「軟包装用」と限定していることから、柔軟性を有し、物品を「包装」するに適した構造等を有するものといえるが、本願の明細書を参酌しても、どのような構造等を有するものが「包装用」であるかの定義がなされておらず、技術常識を踏まえても、本願発明の「軟包装用」フィルムは、その形状がフィルム状であること以外に、形状や構造、組成が特定されているとはいえない。一方、引用発明1のプラスチックフィルムは、上記「第2 本件補正の補正却下の決定」の4(1)ア(キ)の記載によれば、「パウチ(袋状容器)」などの容器に貼着されて用いられるものであるから、フィルム状の形状と共に柔軟性を有しているものである。 そして、引用発明1のプラスチックフィルムは、上記「第2 本件補正の補正却下の決定」の4(1)ア(ウ)の記載によれば、「ポリプロピレン」、「ナイロン」、「ポリエステル」等の樹脂が用いられるものであり、本願明細書の段落【0054】において実施例として開示される樹脂と共通するものであるから、引用発明1のプラスチックフィルムが包装用にも適用できることは自明である。 そうすると、当該相違点は、用途において文言上相違するものであるが、実質的な相違点であるとはいえない。 なお、仮に当該相違点が実質的な相違点であったとしても、「ポリプロピレン」、「ナイロン」、「ポリエステル」等の樹脂からなる容器用のインキジェット印刷フィルムを、包装用とすることは当業者が適宜なし得ることである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-07-19 |
結審通知日 | 2017-07-20 |
審決日 | 2017-08-01 |
出願番号 | 特願2013-39433(P2013-39433) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B41M)
P 1 8・ 121- Z (B41M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 野田 定文 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
鉄 豊郎 宮澤 浩 |
発明の名称 | 軟包装用樹脂フィルムの多色印刷物 |
代理人 | 大橋 弘 |