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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1332954
審判番号 不服2016-6053  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-22 
確定日 2017-09-27 
事件の表示 特願2013-540883「全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法、及び全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂コンパウンドの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月31日国際公開、WO2012/070774、平成25年12月 9日国内公表、特表2013-543926〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年10月21日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2010年11月23日 韓国(KR))を国際出願日とする特許出願であって、平成27年8月12日付けで拒絶理由が通知され、同年11月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月18日付けで拒絶査定がされ、平成28年4月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年5月20日付けで前置報告がされたものである。

第2 平成28年4月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年4月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成28年4月22日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求と同時にされた補正であり、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成27年11月18日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階と、
前記アセチル化された第1単量体と芳香族ジカルボン酸とを重縮合反応させ、全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを合成する段階と、を含む全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】

水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化するとともに、水酸基を有するが、アミノ基とアセチルアミノ基とを含まない第2単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階と、

前記アセチル化された第1単量体と芳香族ジカルボン酸とを重縮合反応させるとともに、前記アセチル化された第2単量体、アセチルアミノ基を有するが、水酸基とアミノ基とを含まない第3単量体、及び芳香族ジカルボン酸を重縮合反応させ、全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを合成する段階と、
を含む全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。」
(下線は補正箇所を示すものである。)

2.新規事項について
(1)本件補正は、次の補正事項を含むものである。

<補正事項1>
アセチル化する段階に、第1単量体をアセチル化するとともに、「水酸基を有するが、アミノ基とアセチルアミノ基とを含まない第2単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化する」ことを追加する。

<補正事項2>
全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを合成する段階に、前記アセチル化された第1単量体と芳香族ジカルボン酸とを重縮合反応させるとともに、「前記アセチル化された第2単量体、アセチルアミノ基を有するが、水酸基とアミノ基とを含まない第3単量体、及び芳香族ジカルボン酸を重縮合反応させ」ることを追加する。

(2)そこで、国際出願日における国際特許出願の明細書及び請求の範囲の翻訳文(以下、併せて「当初明細書等」という。)の記載について検討する。
当初明細書等には、以下のとおり記載されている。

ア 「【請求項1】
水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階と、
前記アセチル化された第1単量体と芳香族ジカルボン酸とを重縮合反応させ、全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを合成する段階と、を含む全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。
【請求項2】
水酸基を有するが、アミノ基とアセチルアミノ基とを含まない第2単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階を追加して含む請求項1に記載の全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記第1単量体は、パラアセチルアミノフェノール、3-アセチルアミノフェノール、2-アセチルアミノフェノール、3-アセチルアミノ-2-ナフトール、5-アセチルアミノ-1-ナフトール及び8-アセチルアミノ-2-ナフトールからなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含む請求項1に記載の全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。
【請求項4】
水酸基を有するが、アミノ基とアセチルアミノ基とを含まない第2単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階と、
前記アセチル化された第2単量体、アセチルアミノ基を有するが、水酸基とアミノ基とを含まない第3単量体、及び芳香族ジカルボン酸を重縮合反応させ、全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを合成する段階と、を含む全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記合成された全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを固相重縮合することによって、全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂を合成する段階を追加して含む請求項1または4に記載の全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記カルボン酸無水物の使用量は、使用された単量体に含まれた水酸基の全含量1モル部に対して、1.0?4.0モル部である請求項1または4に記載の全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記第2単量体は、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含む請求項4に記載の全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記芳香族ジオールは、4,4’-ビフェノール、ヒドロキノン、1,4-ジヒドロキシナフタレン及び2,6-ジヒドロキシナフタレンからなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含み、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸は、パラヒドロキシベンゾ酸及び6-ヒドロキシ-2-ナフト酸のうち少なくとも1種の化合物を含む請求項7に記載の全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記第3単量体は、4-アセチルアミノベンゾ酸、3-アセチルアミノベンゾ酸、2-アセチルアミノベンゾ酸、3-アセチルアミノ-2-ナフト酸及び6-アセチルアミノ-2-ナフト酸からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含む請求項5に記載の全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法、及び全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂コンパウンドの製造方法に係り、さらに詳細には、水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有する単量体を使用するか、あるいは水酸基を有する単量体と、アセチルアミノ基を有する他の単量体とを使用する全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法、及び前記製造方法によって製造された全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂を使用する全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂コンパウンドの製造方法に関する。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一具現例は、水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有する単量体を使用するか、あるいは水酸基を有する単量体と、アセチルアミノ基を有する他の単量体とを使用する全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法を提供するものである。
本発明の他の具現例は、前記それぞれの全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法によって製造された全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂を使用する全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂コンパウンドの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の特徴は、水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階と、前記アセチル化された第1単量体と芳香族ジカルボン酸とを重縮合反応させ、全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを合成する段階と、を含む全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法を提供する点にある。
【0012】
前記全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法は、水酸基を有するが、アミノ基とアセチルアミノ基とを含まない第2単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階を追加して含んでもよい。
【0013】
前記第1単量体は、パラアセチルアミノフェノール、3-アセチルアミノフェノール、2-アセチルアミノフェノール、3-アセチルアミノ-2-ナフトール、5-アセチルアミノ-1-ナフトール及び8-アセチルアミノ-2-ナフトールからなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでもよい。
【0014】
本発明の他の特徴は、水酸基を有するが、アミノ基とアセチルアミノ基とを含まない第2単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階と、前記アセチル化された第2単量体、アセチルアミノ基を有するが、水酸基とアミノ基とを含まない第3単量体、及び芳香族ジカルボン酸を重縮合反応させ、全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを合成する段階と、を含む全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法を提供する点にある。
【0015】
前記全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法は、前記合成された全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを固相重縮合することによって、全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂を合成する段階を追加して含んでもよい。
【0016】
前記カルボン酸無水物の使用量は、使用された単量体に含まれた水酸基の全含量1モル部に対して、1.0?4.0モル部であってもよい。
【0017】
前記第2単量体は、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでもよい。
【0018】
前記芳香族ジオールは、ビフェノール、ヒドロキノン、1,4-ジヒドロキシナフタレン及び2,6-ジヒドロキシナフタレンからなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含み、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸は、パラヒドロキシベンゾ酸及び6-ヒドロキシ-2-ナフト酸のうち少なくとも1種の化合物を含んでもよい。
【0019】
前記第3単量体は、4-アセチルアミノベンゾ酸、3-アセチルアミノベンゾ酸、2-アセチルアミノベンゾ酸、3-アセチルアミノ-2-ナフト酸及び6-アセチルアミノ-2-ナフト酸からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでもよい。」

エ 「【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法、及び前記製造方法によって製造された全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂を使用する全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂コンパウンドの製造方法について詳細に説明する。
【0027】
本発明の一具現例による全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法は、水酸基(-OH)とアセチルアミノ基(-NHCOCH_(3))とをいずれも有するが、アミノ基(-NH_(2))を含まない第1単量体を、カルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階(第1単量体のアセチル化段階)、及び前記アセチル化された第1単量体と芳香族ジカルボン酸とを重縮合反応させ、全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを合成する段階を含む。
【0028】
前記全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法は、水酸基を有するが、アミノ基とアセチルアミノ基とを含まない第2単量体を、カルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階(第2単量体のアセチル化段階)を追加して含む。前記第1単量体のアセチル化段階と、前記第2単量体のアセチル化段階は、同時に進めてもよいし、順次に進めてもよい。
【0029】
本発明の他の全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法は、水酸基を有するが、アミノ基とアセチルアミノ基とを含まない第2単量体を、カルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階(第2単量体のアセチル化段階)、及び前記アセチル化された第2単量体、アセチルアミノ基を有するが、水酸基とアミノ基とを含まない第3単量体、及び芳香族ジカルボン酸を重縮合反応させ、全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを合成する段階を含む。
【0030】
前記第1単量体のアセチル化段階、及び前記第2単量体のアセチル化段階では、前記第1単量体、及び前記第2単量体にそれぞれ含まれた水酸基(-OH)に、アセチル基(-COCH_(3))が導入されてアセチルオキシ基(-OCOCH_(3))を形成し、酢酸ガスが生成される。ここで、酢酸ガスは、生成物から容易に除去される。
【0031】
本発明の具現例で、アセチルアミノ基を有する第1単量体または第3単量体を使用することによって、機械的強度(特に、反り特性)にすぐれる全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂、その樹脂コンパウンド及び成形物を製造することができる。」

オ 「【0051】
〔実施例1〕
全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂(1)、及び前記樹脂のコンパウンド(1)製造
撹拌装置、窒素ガス流入管、温度計及び還流冷却器が装着された10リットル反応器に、パラヒドロキシベンゾ酸2,486g(18.0モル)、6-ヒドロキシ-2-ナフト酸282g(1.5モル)、4,4’-ビフェノール698g(3.8モル)、テレフタル酸872g(5.3モル)及びパラアセチルアミノフェノール227g(1.5モル)を入れ、窒素ガスを注入し、前記反応器の内部空間を不活性状態にした後、前記反応器に酢酸無水物3,084g(30.2モル)と共にアセチル化反応及び後続重縮合反応を円滑に進めるために、酢酸カルシウム0.3gをさらに添加した。その後、前記反応器温度を30分にわたって150℃まで昇温させ、前記温度で3時間還流させた。その後、副産物として生成された酢酸ガスを除去しながら、6時間にわたって、330℃まで昇温させ、単量体の重縮合反応を進めることによって、全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを製造した。次に、前記プレポリマーを反応器から回収して冷却固化させた。その後、粉砕機を使用して、前記プレポリマーを平均粒径1mmに粉砕した。次に、均一な粒子サイズを有する全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマー3,000gを、10リットル容量のロータリキルン反応器に投入し、窒素を1Nm3/hrの流速で続けて流しながら、重量減量開始温度である200℃まで1時間にわたって昇温させた後、さらに5時間にわたって290℃まで昇温させて2時間維持することによって、全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂(1)を製造した。次に、前記反応器を、常温(25℃)で1時間にわたって冷却させた後、前記反応器から全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂(1)を回収した。
【0052】
その後、前記製造された全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂(1)、ガラス・ファイバ(直径10μm、平均長150μmである粉砕ガラス・ファイバ)及び滑石(直径2?15μm)を、重量基準で、65:10:25の比率で混合し、二軸押出機(L/D:40、直径:20mm)を使用して溶融混練することによって、全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂のコンパウンド(1)を製造した。前記樹脂コンパウンド(1)製造時に、前記二軸押出機に真空を加えてガスを除去した。
【0053】
〔実施例2〕
全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂(2)、及び前記樹脂のコンパウンド(2)製造
単量体として、パラヒドロキシベンゾ酸2,707g(19.6モル)、6-ヒドロキシ-2-ナフト酸284g(1.5モル)、4,4’-ビフェノール702g(3.8モル)、テレフタル酸626g(3.8モル)及び4-アセチルアミノベンゾ酸270g(1.5モル)を使用して、酢酸無水物の使用量を3,042g(29.8モル)に変更したことを除き、前記実施例1と同一の方法で全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂(2)、及び前記樹脂のコンパウンド(2)を製造した。」

(3)本件補正後の、アセチル化する段階に、第1単量体をアセチル化するとともに、「水酸基を有するが、アミノ基とアセチルアミノ基とを含まない第2単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化する」こと(補正事項1)、及び、全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを合成する段階に、前記アセチル化された第1単量体と芳香族ジカルボン酸とを重縮合反応させるとともに、「前記アセチル化された第2単量体、アセチルアミノ基を有するが、水酸基とアミノ基とを含まない第3単量体、及び芳香族ジカルボン酸を重縮合反応させ」ること(補正事項2)について、当初明細書等における記載を検討すると、上記のとおり、それら2つの事項を両立させることについて文言上記載されていない。
そして、アセチル化段階について、当初明細書等における記載を検討すると、「前記第1単量体のアセチル化段階と、前記第2単量体のアセチル化段階は、同時に進めてもよい」と記載されており(摘示エの【0028】)、補正事項1の事項については記載されているものの、第1単量体と第2単量体を使用する製造方法と、第2単量体と第3単量体を使用する製造方法とは、他の製造方法として記載されている(摘示エの【0028】、【0029】)。そして、第1単量体と第2単量体と第3単量体は、明確に区別されている(摘示ウの【0013】、【0017】、【0019】)。
そうすると、補正事項2に係る、前記アセチル化された第1単量体と芳香族ジカルボン酸とを重縮合反応させるとともに、「前記アセチル化された第2単量体、アセチルアミノ基を有するが、水酸基とアミノ基とを含まない第3単量体、及び芳香族ジカルボン酸を重縮合反応させ」ること、すなわち第1単量体と第2単量体と第3単量体を使用することが記載されているということはできない。
また、実施例には、実施例1としてパラヒドロキシベンゾ酸、6-ヒドロキシ-2-ナフト酸、4,4’-ビフェノール(いずれも「第2単量体」である。)とパラアセチルアミノフェノール(「第1単量体」である。)を使用すること、実施例2としてパラヒドロキシベンゾ酸、6-ヒドロキシ-2-ナフト酸、4,4’-ビフェノール(いずれも「第2単量体」である。)と4-アセチルアミノベンゾ酸(「第3単量体」である。)を使用することが記載されている(摘示オ)ものの、第1単量体と第2単量体と第3単量体を使用することは記載されていない。
さらに、この技術分野において、第1単量体と第2単量体を使用する製造方法と、第2単量体と第3単量体を使用する製造方法が記載されていることをもってして、製造方法として第1単量体と第2単量体と第3単量体を使用することが、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)にとって、自明のことでもないし、技術常識でもない。
以上のとおりであるから、当初明細書等には、補正事項1の事項については記載されているとしても、補正事項2の事項についての記載は一切されていないし、そのことが示唆もされていないし、本願出願時において、当業者にとって、そのことが自明のことでもない。
してみると、本件補正後の請求項1に記載された、前記アセチル化された第1単量体と芳香族ジカルボン酸とを重縮合反応させるとともに、「前記アセチル化された第2単量体、アセチルアミノ基を有するが、水酸基とアミノ基とを含まない第3単量体、及び芳香族ジカルボン酸を重縮合反応させ」ることが、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとする根拠は見出せない。
したがって、補正事項2は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。

(4)なお、請求人は、この点について、「旧請求項1、4の内容に基づいて、独立クレーム新請求項1を作成しました。」と主張しているが、旧請求項1、4は、引用関係のない独立請求項であり、また、上記のとおり、当初明細書等の記載に補正の根拠は見当たらないから、請求人の主張は採用することができない。

(5)以上のとおりであるから、補正事項2を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?14に係る発明は、平成27年11月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階と、
前記アセチル化された第1単量体と芳香族ジカルボン酸とを重縮合反応させ、全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを合成する段階と、を含む全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、
「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(その1)
・請求項1-14
・引用文献等
1

(その2)
・請求項1-3、5-8、10-14
・引用文献等
3

<引用文献等一覧>
1.特開2005-060455号公報
3.特開2001-139674号公報」
というものを含むものである。

3.当審の判断
3-1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1であり、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-060455号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。

ア1 「【請求項1】
下記構造単位(I)および(II)を含有してなる液晶性ポリエステルアミド。
【化1】

(式中Ar1、Ar2は芳香環を含む2価の残基を示す。)
・・・(略)・・・
【請求項7】
請求項1?6いずれか記載の液晶性ポリエステルアミドを製造する方法であって、構造単位(I)および/または(II)を与えるモノマーの少なくとも1種のアミノ基が予めアシル化されたものを用い、該アシル化されているモノマーを、その他のアシル化されていないアミノ基および/または水酸基を有するモノマーのアシル化を行う際に同じ反応容器中に存在させてアシル化反応を行い、その後重縮合を行うことにより液晶性ポリエステルアミドを製造することを特徴とする液晶性ポリエステルアミドの製造方法。」

イ1 「【0055】
本発明の液晶性ポリエステルアミドの製造方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルアミドの重縮合法に準じて製造できる。
【0056】
例えば、上記液晶性ポリエステルアミドの製造において、次の製造方法が好ましく挙げられる。例として、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ジヒドロキシ化合物、芳香族アミノヒドロキシ化合物、芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位からなる液晶性ポリエステルアミドの製造について示す。
・・・(略)・・・
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族アセチルアミノカルボン酸もしくは芳香族アミノカルボン酸、芳香族ジヒドロキシ化合物、芳香族アセチルアミノヒドロキシ化合物もしくは芳香族アミノヒドロキシ化合物、芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、アセチル化されていないアミノ基およびフェノール性水酸基をアシル化した後,脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルアミドを製造する方法。
・・・(略)・・・
【0057】
なかでも(3)のように、構造単位(I)を与える芳香族アミノカルボン酸または構造単位(II)を与える芳香族アミノヒドロキシ化合物の両方もしくは片方、もしくは一部をアシル化したモノマーを予め用い、他のアシル化されていないアミノ基または水酸基を有するモノマーと共に反応容器に添加し、無水酢酸と反応させ、アシル化されていないアミノ基または水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合を行う方法が好ましく、具体的には芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ジヒドロキシ化合物、芳香族アセチルアミノヒドロキシ化合物、芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、アミノ基またはフェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルアミドを製造する方法が好ましい。
・・・(略)・・・
【0059】
本発明の液晶性ポリエステルアミドを脱酢酸重縮合反応により製造する際に、液晶性ポリエステルアミドの溶融温度で減圧下反応させ、重縮合反応を完了させる溶融重合法が好ましい。例えば、所定量のp-ヒドロキシ安息香酸、p-アミノ安息香酸および4,4´-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、p-アセチルアミノフェノール、テレフタル酸、イソフタル酸、無水酢酸を攪拌翼、留出管を備えた反応容器中に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら130?300℃の範囲で2?6時間反応させアセチル化させた後、液晶性ポリエステルの溶融温度(例えば、250?350℃の範囲)まで昇温し、1.0mmHg(133Pa)まで減圧し、重縮合反応を完了させる方法が挙げられる。得られたポリマーはその溶融温度で反応容器内を2.0kg/cm^(2)(0.2MPa)に加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口よりストランド状に吐出することができる。溶融重合法は均一なポリマーを製造するために有利な方法であり、ガス発生量がより少なく、異物量のより少ない優れたポリマーを得ることができ、好ましい。」

ウ1 「【0068】
実施例1
攪拌翼、留出管を備えた50mmφの試験管にp-ヒドロキシ安息香酸16.6g(0.12モル)、p-アセトアミノ安息香酸14.3g(0.08モル)、4,4´-ジヒドロキシビフェニル14.9g(0.08モル)、ハイドロキノン4.4g(0.04モル)、p-アセチルアミノフェノール12.1g(0.08モル)、テレフタル酸6.7g(0.04モル)、イソフタル酸26.6g(0.16モル)および無水酢酸45.4g(フェノール性水酸基合計の1.01当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら150℃で2時間反応させた後、200℃で1時間保持、さらに250℃で1時間保持後、280℃に昇温して1時間保持した。さらに340℃まで昇温し1時間保持した後、30分で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に30分間反応を続け重縮合を完了した。最終重合温度は340℃であった。次にドラフト内で撹拌翼を取り出し、ポリマーを水の中に吐出した。
【0069】
この液晶性ポリエステルアミド(A-1)はp-オキシベンゾエート単位とp-イミノベンゾエート単位がp-オキシベンゾエート単位、p-イミノベンゾエート単位、4,4´-ジオキシビフェニル単位、1,4-ジオキシベンゼン単位およびp-イミノオキシベンゼン単位の合計に対して50モル%、p-イミノオキシベンゼン単位が4,4´-ジオキシビフェニル単位、1,4-ジオキシベンゼン単位およびp-イミノオキシベンゼン単位の合計に対して40モル%、テレフタレート単位がテレフタレート単位およびイソフタレート単位の合計に対して20モル%からなり、アミド化率は26.6%であった。」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、摘示ア1?ウ1、特に摘示ウ1における実施例1の記載から、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「攪拌翼、留出管を備えた50mmφの試験管にp-ヒドロキシ安息香酸16.6g、p-アセトアミノ安息香酸14.3g、4,4´-ジヒドロキシビフェニル14.9g、ハイドロキノン4.4g、p-アセチルアミノフェノール12.1g、テレフタル酸6.7g、イソフタル酸26.6gおよび無水酢酸45.4gを仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら150℃で2時間反応させた後、200℃で1時間保持、さらに250℃で1時間保持後、280℃に昇温して1時間保持し、さらに340℃まで昇温し1時間保持した後、30分で1.0mmHgに減圧し、更に最終重合温度340℃で30分間反応を続け重縮合を完了し、次にドラフト内で撹拌翼を取り出し、ポリマーを水の中に吐出する、液晶性ポリエステルアミド(A-1)の製造方法。」

(3)本願発明と引用発明1との対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「p-アセチルアミノフェノール」、「無水酢酸」、「液晶性ポリエステルアミド(A-1)」は、それぞれ、本願発明における「水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体」、「カルボン酸無水物」、「液晶ポリエステルアミド樹脂」に相当する。また、引用発明1における「テレフタル酸」、「イソフタル酸」は、いずれも、本願発明における「芳香族ジカルボン酸」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明1とは、

「水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体と、カルボン酸無水物と、芳香族ジカルボン酸とを反応させる段階、を含む液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。」

の点で一致し、以下の点で一応相違している。

<相違点1A>
本願発明においては、液晶ポリエステルアミド樹脂が「全芳香族」と特定されているのに対して、引用発明1においては、液晶性ポリエステルアミドが「全芳香族」と特定されていない点。

<相違点2A>
本願発明においては、「水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階」を含むと特定されているのに対して、引用発明1においては、そのような特定はされていない点。

<相違点3A>
本願発明においては、「前記アセチル化された第1単量体と芳香族ジカルボン酸とを重縮合反応させ、全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを合成する段階」を含むと特定されているのに対して、引用発明1においては、そのような特定はされていない点。

<相違点4A>
本願発明においては、モノマー原料として「水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体」、「芳香族ジカルボン酸」を使用するのに対して、引用発明1においては、本願発明のそれらのモノマー原料に相当する「p-アセチルアミノフェノール」、「テレフタル酸」、「イソフタル酸」を使用するとともに、さらに「p-ヒドロキシ安息香酸」、「p-アセトアミノ安息香酸」、「4,4´-ジヒドロキシビフェニル」、「ハイドロキノン」も使用する点。

相違点1Aについて検討すると、引用発明においては、液晶性ポリエステルアミドの原料モノマーであるp-ヒドロキシ安息香酸、p-アセトアミノ安息香酸、4,4´-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、p-アセチルアミノフェノール、テレフタル酸、イソフタル酸がいずれも芳香族化合物であるから、それらから製造される液晶性ポリエステルアミドは「全芳香族」であるといえる。
したがって、相違点1Aは実質的な相違点ではない。

次に、相違点2Aについて検討すると、引用文献1には「(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族アセチルアミノカルボン酸もしくは芳香族アミノカルボン酸、芳香族ジヒドロキシ化合物、芳香族アセチルアミノヒドロキシ化合物もしくは芳香族アミノヒドロキシ化合物、芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、アセチル化されていないアミノ基およびフェノール性水酸基をアシル化した後,脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルアミドを製造する方法。」との記載があるように(摘示イ1の【0056】)、引用発明1においては、重縮合反応の前に、無水酢酸によって芳香族アセチルアミノヒドロキシ化合物を含むフェノール性水酸基のアセチル化が行われる、すなわち芳香族アセチルアミノヒドロキシ化合物であるp-アセチルアミノフェノールを無水酢酸と反応させてアセチル化する段階が含まれているものと認められる。
したがって、相違点2Aも実質的な相違点ではないし、仮にそうでないとしても、当業者が容易に想到しうることである。

次に、相違点3Aについて検討すると、引用文献1には「窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら130?300℃の範囲で2?6時間反応させアセチル化させた後、液晶性ポリエステルの溶融温度(例えば、250?350℃の範囲)まで昇温し、1.0mmHg(133Pa)まで減圧し、重縮合反応を完了させる方法が挙げられる。」との記載があるように(摘示イ1の【0059】)、引用発明1においては、アセチル化、すなわち相違点2Aについて検討したようにp-アセチルアミノフェノールをアセチル化させた後に、重縮合反応、すなわちテレフタル酸及びイソフタル酸と、その他の原料モノマーとの重縮合反応が行われるものと認められる。
また、引用発明1においては、「液晶性ポリエステルの溶融温度(例えば、250?350℃の範囲)」(摘示イ1の【0059】)に相当する温度において、「さらに250℃で1時間保持後、280℃に昇温して1時間保持し、さらに340℃まで昇温し1時間保持した後、30分で1.0mmHgに減圧し、更に最終重合温度340℃で30分間反応を続け重縮合を完了し」ており、温度を段階的に上昇させたり減圧したりしながら重縮合を行っているから、「更に最終重合温度340℃で30分間反応を続け重縮合を完了」する前に、重縮合が完了していないプレポリマーが生成しているといえるので、本願発明にいう「プレポリマーを合成する段階」が含まれているものと認められる。そして、相違点1Aについて検討したように、引用発明1における液晶性ポリエステルアミドは「全芳香族」であるといえる。
したがって、相違点3Aも実質的な相違点ではないし、仮にそうでないとしても、当業者が容易に想到しうることである。

次に、相違点4Aについて検討すると、本願発明は、所定の2つの段階「を含む全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。」であるから、当該2つの段階を「含」んでいればよく、「水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体」、「芳香族ジカルボン酸」以外のモノマー原料を使用することを排除していないものと認められる。
したがって、相違点4Aも実質的な相違点ではない。

よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。仮にそうでないとしても、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

3-2 引用文献3について
(1)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献3であり、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-139674号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。

ア3 「【請求項1】 少なくとも構成成分が、芳香族カルボン酸(A)及び水酸基を有する化合物(B)からなり、溶融滞留時に異方性を示す液晶性ポリエステルの製造方法において、芳香族環末端基数が下記式(i)を満たす液晶性ポリエステルのプレポリマー重合工程(1)と、得られたプレポリマーの重合度を上げるための固相重合工程(2)を行うことを特徴とする液晶性ポリエステルの製造方法。
【数1】



イ3 「【0010】本発明に係る液晶性ポリエステルは、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドが好ましく、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むものであってもよい。特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する液晶性芳香族ポリエステル、液晶性芳香族ポリエステルアミドである。
【0011】本発明に係る液晶性ポリエステルは、より具体的には、
・・・(略)・・・
(4)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸(c)及び/又はその誘導体の1種又は2種以上、芳香族ヒドロキシアミン(d)、芳香族ジアミン(d’)及び/又はその誘導体の1種又は2種以上、芳香族ジカルボン酸(a)、脂環族ジカルボン酸(a’)及び/又はその誘導体の1種又は2種以上、並びに、芳香族ジオール(b)、脂環族ジオール(b’)、脂肪族ジオール(b”)及び/又はその誘導体の少なくとも1種又は2種以上とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。更に上記の構成成分に、必要に応じて、安息香酸などの単官能モノマー、芳香族ヒドロキシジカルボン酸や芳香族トリカルボン酸等の3官能モノマー等の分子量調整剤を併用してもよい。」

ウ3 「【0019】本発明で使用する脂肪族カルボン酸無水物としては無水酢酸、無水プロピオン酸等の炭素数が10以下の低級脂肪族カルボン酸無水物が挙げられるが、コストおよび取扱面から無水酢酸が一般的である。本発明において、上記モノマーの中の、芳香族ジオール(b)、脂環族ジオール(b’)、脂肪族ジオール(b”)、芳香族ヒドロキシカルボン酸(c)、芳香族ヒドロキシアミン(d)の水酸基、特にフェノール性水酸基をアシル化するための脂肪族カルボン酸無水物(E)の使用量は、プレーポリマー製造時に、水酸基を有する上記化合物、特にフェノール性水酸基を有する芳香族化合物の水酸基当量の1.02?1.08倍、好ましくは1.02?1.06倍の量で、脂肪族カルボン酸無水物(E)を使用する。脂肪族カルボン酸無水物(E)の使用量が水酸基当量の1.02倍未満の場合には、アシル化時の平衡が脂肪族カルボン酸無水物側にずれて、液晶性ポリエステルヘの重合時に水酸基を有する化合物(B)等の原料が昇華し、反応系が閉塞しやすいし、また重縮合反応が不充分になり、一方、水酸基当量の1.08倍を超える場合には、ポリエステルの着色が著しくなり、また得られた樹脂の特性が低下するので好ましくない。」

エ3 「【0044】(実施例1)トルク計付撹拌装置、温度調節指示計、アルゴンガス導入管、コンデンサー付の内容積6リットルの反応器に、パラヒドロキシ安息香酸1379g、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸188g、テレフタル酸470g、4,4’-ジヒドロキシビフェニル372g、p-アセチルアミノフェノール126gと、無水酢酸1711g(水酸基当量の1.06倍)および触媒として酢酸カリウム0.33g(生成樹脂に対し、金属K換算、重量基準で60ppm)を仕込んだ。系内をアルゴンガスで置換した後、140℃に昇温し、1時間アセチル化した。その後約毎分2℃で昇温させて、副生する酢酸を留出、除去しながら340℃まで昇温させ、減圧下1時間その状態に保ち、撹拌トルクの上昇が認められ、所定トルクに達した。その後、温度条件を保って、撹拌を停止した。リアクター内に窒素を導入し減圧状態から常圧状態に移行した後、O.5時間静止させて熟成を行った。その後、反応器から内容物を取り出しプレポリマーのペレットを得た。得られたプレポリマーの極限粘度[η]は、1.1Odl/gであり、融点は320℃であった。得られたプレポリマーの、式(i)に示すフェニル末端基数の割合は、15%であった。ペレット状プレポリマーを常圧固相重合用オーブンに入れて、毎分12リットルの窒素気流中で2時間を要して室温から280℃へ昇温し、280℃で15時間、固相重合反応を行った。得られた液晶性ポリエステルはラクガン(落雁)状を呈していたが、固く融着することなく、簡単に固相重合前のペレット状にほぐすことができた。このポリエステルの極限粘度[η]は7.38(dl/g)であり、溶融粘度(360℃)は41Pa・secであり、DSC測定による融点は341℃であり、ガラス転移温度(Tg)は検出されなかった。この内容物をヒートステージ付偏光顕微鏡で観察したところ溶融時に異方性を示すものであった。」

(2)引用文献3に記載された発明
引用文献3には、摘示ア3?エ3、特に、摘示エ3における実施例1の記載と、摘示イ3におけるポリエステルアミドの記載から、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認める。

「トルク計付撹拌装置、温度調節指示計、アルゴンガス導入管、コンデンサー付の内容積6リットルの反応器に、パラヒドロキシ安息香酸1379g、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸188g、テレフタル酸470g、4,4’-ジヒドロキシビフェニル372g、p-アセチルアミノフェノール126gと、無水酢酸1711gおよび触媒として酢酸カリウム0.33gを仕込み、系内をアルゴンガスで置換した後、140℃に昇温し、1時間アセチル化した後、約毎分2℃で昇温させて、副生する酢酸を留出、除去しながら340℃まで昇温させ、減圧下1時間その状態に保ち、撹拌トルクの上昇が認められ、所定トルクに達した後、温度条件を保って、撹拌を停止し、リアクター内に窒素を導入し減圧状態から常圧状態に移行した後、O.5時間静止させて熟成を行った後、反応器から内容物を取り出しプレポリマーのペレットを得て、ペレット状プレポリマーを常圧固相重合用オーブンに入れて、毎分12リットルの窒素気流中で2時間を要して室温から280℃へ昇温し、280℃で15時間、固相重合反応を行う、液晶性ポリエステルアミドの製造方法。」

(3)本願発明と引用発明3との対比・判断
本願発明と引用発明3とを対比する。
引用発明3における「p-アセチルアミノフェノール」、「無水酢酸」、「テレフタル酸」、「液晶性ポリエステルアミド」は、それぞれ、本願発明における「水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体」、「カルボン酸無水物」、「芳香族ジカルボン酸」、「液晶ポリエステルアミド樹脂」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明3とは、

「水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体と、カルボン酸無水物と、芳香族ジカルボン酸とを反応させる段階、を含む液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。」

の点で一致し、以下の点で一応相違している。

<相違点1B>
本願発明においては、液晶ポリエステルアミド樹脂が「全芳香族」と特定されているのに対して、引用発明3においては、液晶性ポリエステルアミドが「全芳香族」と特定されていない点。

<相違点2B>
本願発明においては、「水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体をカルボン酸無水物と反応させてアセチル化する段階」を含むと特定されているのに対して、引用発明3においては、そのような特定はされていない点。

<相違点3B>
本願発明においては、「前記アセチル化された第1単量体と芳香族ジカルボン酸とを重縮合反応させ、全芳香族液晶ポリエステルアミド・プレポリマーを合成する段階」を含むと特定されているのに対して、引用発明3においては、そのような特定はされていない点。

<相違点4B>
本願発明においては、モノマー原料として「水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体」、「芳香族ジカルボン酸」を使用するのに対して、引用発明3においては、本願発明のそれらのモノマー原料に相当する、「p-アセチルアミノフェノール」、「テレフタル酸」を使用するとともに、さらに「パラヒドロキシ安息香酸」、「6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸」、「4,4’-ジヒドロキシビフェニル」も使用する点。

相違点1Bについて検討すると、引用発明3においては、液晶性ポリエステルアミドの原料モノマーであるパラヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、テレフタル酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、p-アセチルアミノフェノールがいずれも芳香族化合物であるから、それらから製造される液晶性ポリエステルアミドは「全芳香族」であるといえる。
したがって、相違点1Bは実質的な相違点ではない。

次に、相違点2Bについて検討すると、引用発明3においては、「1時間アセチル化し」ており、本願発明にいう「アセチル化する段階」が含まれているといえる。また、無水酢酸によってモノマー中の水酸基がアシル化する旨が引用文献3に記載されている(摘示ウ3)ように、当該アセチル化においては、p-アセチルアミノフェノールが無水酢酸と反応するものと認められる。
したがって、相違点2Bも実質的な相違点ではないし、仮にそうでないとしても、当業者が容易に想到しうることである。

次に、相違点3Bについて検討すると、引用発明3においては、1時間アセチル化した後、昇温を経て「プレポリマーのペレットを得て」おり、本願発明にいう「プレポリマーを合成する段階」が含まれているといえる。また、重縮合反応する旨が引用文献3に記載されている(摘示ウ3)ように、当該プレポリマーのペレットを得るにあたっては、テレフタル酸と、アセチル化されているp-アセチルアミノフェノールとの重縮合反応が行われるものと認められる。そして、相違点1Bについて検討したように、引用発明3における液晶性ポリエステルアミドは「全芳香族」であるといえる。
したがって、相違点3Bも実質的な相違点ではないし、仮にそうでないとしても、当業者が容易に想到しうることである。

次に、相違点4Bについて検討すると、本願発明は、所定の2つの段階「を含む全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法。」であるから、当該2つの段階を「含」んでいればよく、「水酸基とアセチルアミノ基とをいずれも有するが、アミノ基を含まない第1単量体」、「芳香族ジカルボン酸」以外のモノマー原料を使用することを排除していないものと認められる。
したがって、相違点4Bも実質的な相違点ではない。

よって、本願発明は、引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。仮にそうでないとしても、引用文献3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明、すなわち平成27年11月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、引用文献1又は引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。仮にそうでないとしても、引用文献1又は引用文献3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-25 
結審通知日 2017-05-02 
審決日 2017-05-15 
出願番号 特願2013-540883(P2013-540883)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08G)
P 1 8・ 113- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 裕介海老原 えい子安田 周史  
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 西山 義之
橋本 栄和
発明の名称 全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法、及び全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂コンパウンドの製造方法  
代理人 伊藤 寛之  
代理人 SK特許業務法人  
代理人 奥野 彰彦  

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