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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1333030
審判番号 不服2016-12225  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-12 
確定日 2017-10-24 
事件の表示 特願2013-506003「光学素子、照明装置、測定装置、フォトマスク、露光装置、露光方法、及びデバイス製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月27日国際公開、WO2012/128323、請求項の数(34)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月22日(優先権主張 平成23年3月22日、日本)を国際出願日とする出願であって、平成27年11月20日付けで拒絶理由が通知され(発送日同年12月1日)、平成28年1月29日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年5月12日付けで拒絶査定がされ(謄本送達日 同年同月17日、以下「原査定」という。)、これに対し、同年8月12日に拒絶査定不服審判請求がされ、同年8月31日付け手続補正で請求の理由が補充され、当審より平成29年6月23日付けで拒絶理由通知がされ(発送日同年同月27日。以下「当審拒絶理由」という。)、同年8月24日に意見書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
理由1 (新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:国際公開第2009/141353号
引用文献2:特開2001-256664号公報

1 平成28年1月29日付け手続補正書における補正後の本願請求項1-5、9、12-13、17、19-26、29-32に係る発明は引用文献1に記載された発明とは差異がないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
また、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 平成28年1月29日付け手続補正書における補正後の本願の請求項6、14、18に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 平成28年1月29日付け手続補正書における補正後の本願の請求項16に係る発明は、引用文献1-2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
[理由1]本件出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(1)本願請求項31ないし34について
本願請求項31は「露光装置の投影光学系の波面収差の計測に用いられる光学素子であって、・・・前記面の距離をL、前記表面プラズモンの波長をλspとしたとき、L=m・λsp/2(mは、正の整数)の条件を満たす、光学素子」の発明であり、本願請求項33は「露光装置の投影光学系の波面収差の計測に用いられる光学素子であって、・・・前記2つのコーナー間の距離をL、前記表面プラズモンの波長をλspとしたとき、L=m・λsp/2(mは、正の整数)の条件を満たす、光学素子」の発明であり、本願請求項33は「請求項31又は32記載の光学素子を用いて所定の光学特性を計測することと、前記光学特性の計測結果に基づいて、パターンの像を基板に転写することと、を含む、露光方法」の発明であり、さらに、本願請求項34は「請求項33記載の露光方法を用いて基板を露光することと、露光された前記基板を現像することと、を含むデバイス製造方法」の発明であって、いずれも「投影光学系の波面収差の計測」ないしは「光学素子を用いて所定の光学特性を計測」するものであるところ、特に、露光装置が本願明細書の段落【0241】?【0255】に記載されたような、水などの液体が充填される液浸型露光装置である場合には、「表面プラズモンとの干渉により前記孔から前記射出面側に射出される光の強度が高くなるよう」構成された光学素子が、図30で示されるように、液体中でどのようにして「表面プラズモンとの干渉」を実現し、その結果として、「投影光学系の波面収差を計測する計測用レチクル」として用いる、あるいは、「所定の光学特性を計測する」ことができるのか不明確であり、また、本願明細書の記載を見ても理解できない。

[理由2]本件出願の請求項1?34に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・引用文献1 国際公開第2009/141353号(参考 特表2011-521291号公報)

第4 本願発明
本願請求項1ないし34に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明34」という。)は、平成28年1月29日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし34に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし34は以下のとおりである。
「【請求項1】
照射光が照射される入射面と、
少なくとも一部が前記入射面の反対方向を向く射出面と、
前記入射面と前記射出面とを結ぶように形成された孔を有する金属膜と、を備え、
前記入射面は、前記入射面側の前記孔の端部の周囲に配置され前記孔の内面と結ばれる内側エッジを有する第1面と、前記第1面の周囲に配置され前記第1面の外側エッジとの間に不連続部を形成する第2面とを含み、
前記照射光の照射により前記内側エッジで励起され前記孔に向かう表面プラズモンと前記不連続部から前記孔に向かう表面プラズモンとの干渉により前記孔から前記射出面側に射出される光の強度が高くなるように、前記内側エッジと前記外側エッジとの距離が前記表面プラズモンの波長に応じて定められ、
前記内側エッジと前記外側エッジとの距離をL、前記表面プラズモンの波長をλspとしたとき、
L=m・λsp/2 (mは、正の整数)の条件を満たす、光学素子。
【請求項2】
前記内側エッジは、前記第1面と前記孔の内面とで形成される第1の角部を含む請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
前記不連続部は、前記第1面と前記第2面とで形成される第2の角部を含む請求項1又は2記載の光学素子。
【請求項4】
前記不連続部から前記孔に向かう表面プラズモンは、前記照射光の照射により前記内側エッジで励起され前記不連続部で反射した表面プラズモンを含む請求項1?3のいずれか一項記載の光学素子。
【請求項5】
前記第2面は、前記孔の中心に対する放射方向に関して内側を向くように前記第1面の周囲に配置され、
前記内側エッジで励起された表面プラズモンの少なくとも一部は、前記第1面の外側エッジと前記内側を向く前記第2面との間の前記不連続部で反射する請求項4記載の光学素子。
【請求項6】
L=m・λsp/2 (mは、正の奇数)
の条件を満たす請求項5記載の光学素子。
【請求項7】
前記第2面は、前記孔の中心に対する放射方向に関して外側を向くように前記第1面の周囲に配置され、
前記内側エッジで励起された表面プラズモンの少なくとも一部は、前記第1面の外側エッジと前記外側を向く前記第2面との間の前記不連続部で反射する請求項4記載の光学素子。
【請求項8】
L=m・λsp/2 (mは、正の偶数)
の条件を満たす請求項7記載の光学素子。
【請求項9】
前記不連続部から前記孔に向かう表面プラズモンは、前記照射光の照射により前記不連続部で励起された表面プラズモンを含む請求項1?3のいずれか一項記載の光学素子。
【請求項10】
前記第2面は、前記孔の中心に対する放射方向に関して外側を向くように前記第1面の周囲に配置され、
前記照射光の照射により前記第1面の外側エッジと前記外側を向く前記第2面との間の前記不連続部で前記表面プラズモンが励起される請求項9記載の光学素子。
【請求項11】
L=m・λsp/2 (mは、正の偶数)
の条件を満たす請求項10記載の光学素子。
【請求項12】
前記入射面は、前記第2面の周囲に配置され、前記第1面と実質的に平行な第3面を含む請求項1?11のいずれか一項記載の光学素子。
【請求項13】
前記照射光を透過可能であり、前記金属膜が形成される表面を有する透明部材を備え、
前記透明部材を介して前記金属膜に前記照射光が照射される請求項1?12のいずれか一項記載の光学素子。
【請求項14】
波長193nmの照射光が照射される入射面、少なくとも一部が前記入射面の反対方向を向く射出面、及び前記入射面と前記射出面とを結ぶように形成された孔を有する金属膜を備える光学素子であって、
前記入射面は、前記入射面側の前記孔の端部の周囲に配置され前記孔の内面と結ばれる内側エッジを有する第1面と、前記第1面の周囲に配置され前記第1面の外側エッジとの間に不連続部を形成する第2面とを含み、
前記内側エッジは、前記第1面と前記孔の内面とで形成される第1の角部を含み、
前記不連続部は、前記第1面と前記第2面とで形成される第2の角部を含み、
前記第2面は、前記孔の中心に対する放射方向に関して内側を向くように前記第1面の周囲に配置され、
前記照射光を透過可能であり、前記金属膜が形成される表面を有する透明部材を備え、
前記金属膜がアルミニウムからなり、
前記透明部材が石英ガラスからなり、
前記内側エッジと前記外側エッジとの距離をLとしたとき、
L=m・43(nm) (mは、正の奇数)
の条件を満たし、
前記透明部材を介して前記金属膜に前記照射光が照射される光学素子。
【請求項15】
波長193nmの照射光が照射される入射面、少なくとも一部が前記入射面の反対方向を向く射出面、及び前記入射面と前記射出面とを結ぶように形成された孔を有する金属膜を備える光学素子であって、
前記入射面は、前記入射面側の前記孔の端部の周囲に配置され前記孔の内面と結ばれる内側エッジを有する第1面と、前記第1面の周囲に配置され前記第1面の外側エッジとの間に不連続部を形成する第2面とを含み、
前記内側エッジは、前記第1面と前記孔の内面とで形成される第1の角部を含み、
前記不連続部は、前記第1面と前記第2面とで形成される第2の角部を含み、
前記第2面は、前記孔の中心に対する放射方向に関して外側を向くように前記第1面の周囲に配置され、
前記照射光を透過可能であり、前記金属膜が形成される表面を有する透明部材を備え、
前記金属膜がアルミニウムからなり、
前記透明部材が石英ガラスからなり、
前記内側エッジと前記外側エッジとの距離をLとしたとき、
L=m・43(nm) (mは、正の偶数)
の条件を満たし、
前記透明部材を介して前記金属膜に前記照射光が照射される光学素子。
【請求項16】
前記透明部材は、固体液浸レンズであり、
前記金属膜が形成される前記固体液浸レンズの表面は、前記固体液浸レンズの焦点面である請求項13?15のいずれか一項記載の光学素子。
【請求項17】
請求項1?16のいずれか一項記載の光学素子と、
前記光学素子の前記入射面に前記照射光を照射する光学系と、を備え、
前記光学素子の前記孔から射出された光で物体を照明する照明装置。
【請求項18】
請求項17記載の照明装置と、
前記照明装置から射出され物体の表面に照射された球面波の反射光を検出する検出装置と、
前記検出装置の検出結果に基づいて前記物体の表面の波面収差を算出する演算装置と、を備える測定装置。
【請求項19】
請求項17記載の照明装置と、
前記照明装置から射出され物体を経由した測定光を検出する検出装置と、
前記検出装置の検出結果に基づいて前記物体の光学特性を算出する演算装置と、を備える測定装置。
【請求項20】
露光光が照射される入射面、少なくとも一部が前記入射面の反対方向を向く射出面、及び前記入射面と前記射出面とを結ぶように形成された孔を有する金属膜を備えるフォトマスクであって、
前記入射面は、前記入射面側の前記孔の端部の周囲に配置され前記孔の内面と結ばれる内側エッジを有する第1面と、前記第1面の周囲に配置され前記第1面の外側エッジとの間に不連続部を形成する第2面とを含み、
前記露光光の照射により前記内側エッジで励起され前記孔に向かう表面プラズモンと前記不連続部から前記孔に向かう表面プラズモンとの干渉により前記孔から前記射出面側に射出される露光光の強度が高くなるように、前記内側エッジと前記外側エッジとの距離が前記表面プラズモンの波長に応じて定められ、
前記内側エッジと前記外側エッジとの距離をL、前記表面プラズモンの波長をλspとしたとき、
L=m・λsp/2 (mは、正の整数)
の条件を満たす、フォトマスク。
【請求項21】
前記内側エッジは、前記第1面と前記孔の内面とで形成される第1の角部を含む請求項20記載のフォトマスク。
【請求項22】
前記不連続部は、前記第1面と前記第2面とで形成される第2の角部を含む請求項20又は21記載のフォトマスク。
【請求項23】
前記不連続部から前記孔に向かう表面プラズモンは、前記露光光の照射により前記内側エッジで励起され前記不連続部で反射した表面プラズモンを含む請求項20?22いずれか一項記載のフォトマスク。
【請求項24】
前記不連続部から前記孔に向かう表面プラズモンは、前記露光光の照射により前記不連続部で励起された表面プラズモンを含む請求項20?23のいずれか一項記載のフォトマスク。
【請求項25】
請求項23又は24記載のフォトマスクを露光光で照明することと、
前記フォトマスクからの前記露光光で基板を露光することと、を含む露光方法。
【請求項26】
請求項25記載の露光方法で基板を露光することと、
露光された前記基板を現像することと、を含むデバイス製造方法。
【請求項27】
パターンの像を基板に転写する露光装置であって、
投影光学系の波面収差を計測する計測用レチクルと、
前記計測用レチクルに光を照射する光学系と、
前記計測用レチクルを介して前記投影光学系を透過した光を検出する検出部と、を備え、
前記計測用レチクルとして、請求項1?16のいずれか一項記載の光学素子を用いる露光装置。
【請求項28】
請求項1?16のいずれか一項記載の光学素子を用いて所定の光学特性を計測することと、
前記光学特性の計測結果に基づいて、パターンの像を基板に転写することと、
を含む、露光方法。
【請求項29】
光源と、
投影光学系と、
前記光源からの光が照射され、前記投影光学系の波面収差の計測に用いる計測用レチクルと、を備え、
前記計測用レチクルは、
前記光が通過する孔と、
前記孔を囲み、前記孔の軸方向と交差する面と、
前記孔の近傍に配置され、前記面で結ばれる2つのコーナーであり、前記光に照射され、各々で励起した表面プラズモンが、前記孔から射出される光の強度を高くするように、互いに干渉する、前記2つのコーナーと、を有し、
前記面の距離をL、前記表面プラズモンの波長をλspとしたとき、
L=m・λsp/2 (mは、正の整数)
の条件を満たす、露光装置。
【請求項30】
光源と、
投影光学系と、
前記光源からの光が照射され、前記投影光学系の波面収差の計測に用いる計測用レチクルと、を備え、
前記計測用レチクルは、
前記光が通過する孔と、
前記孔の近傍に配置され、各々が前記孔を囲み、前記光に照射される2つのコーナーを有する段差構造であり、前記2つのコーナーで励起した表面プラズモンが、前記孔から射出される光の強度を高くするように、互いに干渉する、前記段差構造と、を有し、
前記2つのコーナー間の距離をL、前記表面プラズモンの波長をλspとしたとき、
L=m・λsp/2 (mは、正の整数)
の条件を満たす、露光装置。
【請求項31】
露光装置の投影光学系の波面収差の計測に用いられる光学素子であって、
光が通過する孔と、
前記孔を囲み、前記孔の軸方向と交差する面と、
前記孔の近傍に配置され、前記面で結ばれる2つのコーナーであり、前記光に照射され、各々で励起した表面プラズモンが、前記孔から射出される光の強度を高くするように、互いに干渉する、前記2つのコーナーと、を有し、
前記面の距離をL、前記表面プラズモンの波長をλspとしたとき、
L=m・λsp/2 (mは、正の整数)
の条件を満たす、光学素子。
【請求項32】
露光装置の投影光学系の波面収差の計測に用いられる光学素子であって、
光が通過する孔と、
前記孔の近傍に配置され、前記孔を囲み、前記光に照射される2つのコーナーを有する段差構造であり、前記2つのコーナーの励起した表面プラズモンが、前記孔から射出される光の強度を高くするように、互いに干渉する、前記段差構造と、を備え、
前記2つのコーナー間の距離をL、前記表面プラズモンの波長をλspとしたとき、
L=m・λsp/2 (mは、正の整数)
の条件を満たす、光学素子。
【請求項33】
請求項31又は32記載の光学素子を用いて所定の光学特性を計測することと、
前記光学特性の計測結果に基づいて、パターンの像を基板に転写することと、
を含む、露光方法。
【請求項34】
請求項33記載の露光方法を用いて基板を露光することと、
露光された前記基板を現像することと、を含むデバイス製造方法。」

なお、本願発明14、15は、本願発明1において、「第2の角」、「第2面」の配置、「金属膜」及び「透明部材」の素材を特定する発明である。
本願発明20は、光学素子である本願発明1の構成を備えたフォトマスクの発明である。
本願発明29、30は、光学素子である本願発明1の構成を備えた計測用レチクルを備える露光装置の発明である。
本願発明31、32は、「距離L」を「内側エッジ」と「外側エッジ」の距離で特定する本願発明1にかえて、「2つのコーナー間の距離」で特定する発明である。
また、本願発明2?13、16?19、27及び28は、本願発明1、14、15のいずれかを減縮した発明であり、本願発明21ないし26は、本願発明20を減縮した発明であり、本願発明33、34は、本願発明31、32のいずれかを減縮した発明である。

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた引用文献1には、以下の記載がある(訳は特表2011-521291号公報に基づいて当審が付した。また、下線は当審が付した。なお、アクセント記号等付き文字はそれぞれ「e'」「e`」「e^」「a`」「c,」「i^」のように表記した。)。
ア 「On sait qu'en optique classique, une des limites a` la taille des sources lumineuses est lie'e a` la diffraction de la lumie`re, les sources ayant des dimensions minimales de l'ordre de grandeur de la longueur d'onde. Diffe'rentes techniques permettent de franchir cette barrie`re et de re'aliser des dispositifs de focalisation de lumie`re, qui, lorsqu'ils ge'ne`rent des sources de dimensions de l'ordre de grandeur de quelques nanome`tres ou de quelques dizaines de nanome`tres, sont commune'ment appele's des nanosources.
Une des principales techniques utilise'es consiste a` illuminer un trou de dimension infe'rieure a` la longueur d'onde perce' dans un film me'tallique. On obtient ainsi un spot lumineux en sortie du trou de taille sub- longueur d'onde. Par ce seul moyen, il est difficile d'obtenir une intensite' e'leve'e et une bonne directivite'. Aussi, diffe'rentes techniques de perfectionnement ont e'te' propose'es pour ame'liorer ces parame`tres.
La premie`re de ces techniques est dite a` e'mission renforce'e par excitation de plasmons de surface. Les plasmons sont des solutions particulie`res aux e'quations de Maxwell a` l'interface entre certains milieux, notamment me'talliques. Les dispositifs de focalisation optique selon cette technique comportent comme indique' sur les figures 1 et 2 des re'seaux me'talliques concentriques 2 centre's sur le trou de focalisation 1. Une lentille macroscopique 3 peut comple'ter le dispositif. La figure 1 est une vue en coupe sche'matique du dispositif et la figure 2 une vue de dessus des re'seaux me'talliques 2 du me^me dispositif. Lorsqu'on illumine ce dispositif, des plasmons de surface sont ge'ne're's. La propagation puis le couplage de ces plasmons avec les modes du trou induit alors une augmentation du flux total introduit dans l'ouverture sub-longueur d'onde et permet d'ame'liorer le rendement e'nerge'tique du dispositif. On appelle rendement le rapport entre la puissance lumineuse transmise a` travers l'ouverture sub-longueur d'onde et la puissance lumineuse totale avec laquelle le dispositif est e'claire'.」(1頁14行?2頁7行)
(伝統的な光学において、光源の大きさに対する制限の1つは光の回折に起因し、光源の最小寸法は波長の大きさのオーダーである。様々な技術がこの制限の克服を許容し、集光のための装置の製作を可能にする。それらはおよそ数nm又は数十nmの寸法を有する光源を生成するとき、従来ナノ光源と呼ばれている。
用いられる主な技術の1つは波長よりも小さい穴を照らすことにあり、前記穴は金属膜内に開けられている。従って、光点は穴からの出力として得られ、その点はサブ波長の点の大きさを有する。この手段だけでは高い光強度と良好な指向性を得ることは困難である。従って、これらのパラメータを改善する各種の技術が提案されている。
これらの技術の第1番目は表面プラズモン励起で強化された放射と呼ばれる。プラズモンは一定の媒体、特に金属同士間のインターフェースにおけるマックスウェル方程式の特殊解である。この技術による集光装置は、図1及び2に示すように集光穴1に中心を置く同心の金属格子2を備える。マクロレンズ3が該装置に追加され得る。図1は該装置の概略断面であり、図2は同装置の金属格子2の上面図である。この装置が照らされたとき、表面プラズモンが生成される。これらのプラズモンの伝播及び次に穴のモードとの結合は、そのときサブ波長の開口内へ導入される全ての光束を増加させ、該装置のエネルギー効率を改善する。該効率は、サブ波長の開口を通って伝達される照射力の、装置がそれによって照らされる全照射力に対する比率である。)

イ 「A titre de premiers exemples de re'alisation illustre's en figures 7 et 8, le dispositif de focalisation optique est a` miroirs re'flecteurs de plasmons 7. Le dispositif est compose' d'une ouverture 1 sub-longueur d'onde perce'e dans un film me'tallique 10 a` proximite' duquel on place des re'flecteurs de plasmons 7 forme's par une alternance de couches concentriques entourant l'ouverture et formant un re'seau. Ces couches sont constitue'es alternativement en me'tal et en mate'riau die'lectrique・・・. Ces miroirs cre'ent une cavite' autour de l'ouverture et concentrent le flux lumineux au voisinage de celle-ci, entrai^nant d'une part une diminution des pertes du syste`me et d'autre part une augmentation de la quantite' de champ susceptible de se coupler dans l'ouverture. La conjugaison des deux phe'nome`nes conduit alors a` une augmentation de l'intensite' en sortie du dispositif. Les couches peuvent e^tre dispose'es soit de fac,on syme'trique comme illustre' en figure 7 ou dissyme'triques comme illustre' en figure 8. De la me^me fac,on, elles peuvent e^tre soit centre'es sur l'ouverture comme illustre' en figure 7, soit de'centre'es comme illustre' en figure 8. Le dispositif peut e'galement comporter soit une ouverture (cas des figures 7 et 8), soit plusieurs ouvertures. La longueur d'onde des plasmons est calcule'e par la relation de dispersion suivante :
λ e'tant la longueur d'onde d'illumination, ε_(d) et ε_(d) e'tant les permittivite's respectives du mate'riau die'lectrique et du film me'tallique.
Il est important que les plasmons ge'ne're's par l'ouverture et ceux re'fle'chis par le re'seau soient en phase. Cette condition est remplie lorsque la largeur D de la cavite' est sensiblement e'gale soit a` la longueur d'onde d'illumination, soit a` un nombre entier p de la moitie' de la longueur d'onde λ_(sp) des plasmons qui interfe`rent.」(7頁28行?8頁20行)
(図7及び8に例示される集光装置の第1の実施形態は、プラズモン反射ミラー7を備える。該装置は、その近傍にプラズモン反射器7が置かれている金属膜10内に開けられたサブ波長の開口1からなり、前記反射器は開口を取り囲み格子を形成する同心の、交互に代わる層によって形作られている。これらの層は金属と誘電体で交互に作られる・・・。これらのミラーは開口の周りに空洞共振器を作り出し、該開口の近くに光束を集中させ、システムからの損失を低減し、開口と結合できる領域の量を増加させる。これら2つの現象の組合せは、次に装置の出力強度の増加をもたらす。層は図7に例示されるように対称に配置され得るか、又は図8に例示されるように非対称に配置され得る。同様に、層は図7に例示されるように開口の中心に位置し得るか、図8に例示されるように中心から外れて位置し得る。該装置はまた(図7及び8の場合のように)1つの開口か、又は複数の開口を含み得る。プラズモンの波長は次の分散式から計算される。
λは照明の波長であり、ε_(d)及びε_(m)はそれぞれ誘電体及び金属膜の誘電率である。
開口により生成されるプラズモンと、格子により反射されるプラズモンは同相であることが重要である。この条件は空洞共振器の幅Dが照明の波長か、あるいは干渉するプラズモンの波長λ_(sp)の半分の整数pに実質的に等しいとき、満たされる。)

ウ 「A titre de seconds exemples de re'alisation illustre's en figures 9 et 10, le dispositif de focalisation optique est a` cavite' me'tallique re'sonante. Il est compose' essentiellement d'une ouverture sub-longueur d'onde 1 perce'e dans un film me'tallique 10, la cavite' e'tant alors un trou 8 re'alise' dans le fiim me'tallique de'bouchant soit sur une ouverture unique (cas de la figure 9), soit sur plusieurs ouvertures (cas de la figure 10), le diame`tre de la cavite' e'tant d'un ou deux ordres de grandeur supe'rieur aux dimensions des ouvertures et sa profondeur e'tant infe'rieure a` l'e'paisseur du fiim me'tallique. On augmente ainsi l'efficacite' du syste`me pre'ce'dent en remplac,ant l'alternance me'tal/die'lectrique des miroirs re'flecteurs de plasmons par un film me'tallique unique. On obtient ainsi une meilleure re'flectivite', ce qui re'duit les pertes par absorption dans les miroirs. Cette disposition permet ensuite d'augmenter la quantite' de champ susceptible de se coupier et d'e^tre transmise a` travers l'ouverture. Cette cavite' entie`rement me'tallique supporte en effet des modes propres (voir sur ce sujet l'article de Phys. Rev. B 75, 035411 (2007)) dont l'excitation conduit a` concentrer le champ dans celle-ci. La cavite' se comporte a` la fois comme un concentrateur et un re'servoir d'e'nergie pour la transmission a` travers l'ouverture sub-longueur d'onde, ce qui a pour conse'quence d'augmenter l'intensite' du spot lumineux en sortie. La largeur de ia cavite' doit e^tre au moins trois fois supe'rieure aux dimensions de l'ouverture et pre'fe'rentiellement sensiblement e'gale soit a` la longueur d'onde d'illumination, soit a` un nombre entier p de la moitie' de la longueur d'onde λ_(sp) des plasmons qui interfe`rent. Il est pre'fe'rable que p soit e'gal a` 1 ou infe'rieur ou e'gal a` 5.」(9頁7?30行)
(図9及び10に示されている、集光装置の第2の例示的実施形態は、金属の共振空洞を備える。前記装置は本質的に金属膜10内に穴開けされたサブ波長の開口1で作られ、空洞共振器はそのとき金属膜内に作られた穴8であり、空洞共振器は単一の開口(図9に示される場合)内又は複数の開口(図10に示される場合)内へと開いており、空洞共振器の直径は開口の寸法よりも一回りか二回りだけ大きく、その深さは金属膜の厚さよりも小さい。上記システムの効率は、従って交互に並ぶ金属/誘電体のプラズモン反射ミラーを単独の金属膜で置き換えることにより改善される。より良好な反射率が従って得られ、それによりミラーにおける吸収損失を低減する。この配置は、そのとき開口と連結可能で、開口を通って伝達される領域の量を増加させる。この全部が金属の空洞共振器は、実際に固有モード(更なる情報に関してはPhysics Review Bの論文、Phys. Rev. B 75, 035411 (2007)を参照のこと)をサポートし、その励起は、該領域をこの空洞共振器内に集中させるように導く。空洞共振器は同時に、サブ波長の開口を通じた伝達のための集中装置及びエネルギーの貯蔵器として機能し、それにより光点の出力の強さを増加させる。空洞共振器の幅は少なくとも開口寸法よりも3倍は大きくなければならず、実質的に照明の波長、あるいは干渉するプラズモンの波長λ_(sp)の半分の整数pと同じであることが望ましい。pは1に等しいか、又は5以下であることが望ましい。)

エ figures1,2,9(図1、2及び9)は次のものである。
figures1(図1)

figures2(図2)

figures9(図9)


オ 上記アないしウの記載を踏まえて、上記エの図1及び9を見ると、集光装置は、集光装置が照らされる面と、当該照らされる面と反対方向を向く面と、当該照らされる面と当該照らされる面と反対方向を向く面とを結ぶように形成された開口1を有する金属膜10を備え、前記照らされる面は、照らされる面の開口1の周囲に配置され前記開口1の内面とを結ぶ内周の角部を有する開口1の周囲の面と、当該開口1の周囲の面の周囲に配置され前記開口1の周囲の面の外周の角部との間に不連続部を形成する穴8の外周の面とを含むものであることがみてとれる(下記参考図参照)。
参考図


(2)引用発明
上記(1)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「集光穴1に中心を置く同心の金属格子2を備え、マクロレンズ3が該装置に追加され、この装置が照らされたとき、表面プラズモンが生成され、これらのプラズモンの伝播及び次に穴のモードとの結合は、そのときサブ波長の開口内へ導入される全ての光束を増加させ、該装置のエネルギー効率を改善する集光装置であって、
前記集光装置は、集光装置が照らされる面と、当該照らされる面と反対方向を向く面と、当該照らされる面と当該照らされる面と反対方向を向く面とを結ぶように形成された開口1を有する金属膜10を備え、前記照らされる面は、照らされる面の開口1の周囲に配置され前記開口1の内面とを結ぶ内周の角部を有する開口1の周囲の面と、当該開口1の周囲の面の周囲に配置され前記開口1の周囲の面の外周の角部との間に不連続部を形成する穴8の外周の面とを含むものであって、
前記集光装置は、金属の共振空洞を備え、前記装置は金属膜10内に穴開けされたサブ波長の開口1で作られ、空洞共振器はそのとき金属膜内に作られた穴8であり、空洞共振器は単一の開口内と開いており、空洞共振器の直径は開口の寸法よりも一回りか二回りだけ大きく、その深さは金属膜の厚さよりも小さく、
前記空洞共振器は同時に、サブ波長の開口を通じた伝達のための集中装置及びエネルギーの貯蔵器として機能し、それにより光点の出力の強さを増加させ、
前記空洞共振器の幅は干渉するプラズモンの波長λ_(sp)の半分の整数pと同じである、
集光装置。」

2 原査定に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-256664号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラズモンを用いた光記録に関する。」

イ 「【0018】このヘッドにおいてレーザ光101を入射すると、金属体104で局在プラズモンが励起され、金属体104近傍の電場強度が増強される。この場合は微小金属体104が円柱形であり、その底面が媒体に面したヘッド平坦面にあるので、増強された電場の広がりは、底面の円の直径程度、すなわち50nm程度である。このヘッドを記録媒体との距離を制御する機能を有する記録再生装置に搭載し、記録媒体に一定距離接近させると、光の広がり程度のスポット径で情報を記録することができる。」

ウ 「【0022】図2はレンズとして固体液浸レンズを用いたヘッドの要部を示した図である。レーザ光101を固体液浸レンズ105を通して絞り込み、図1に示したものと同様の基板103中の微小金属体104に照射する。微小金属体104は、固体液浸レンズ105の端面に直接作成してもよいが、ちょうど集光される位置に金属体を作製するのが難しいので、ここでは基板とレンズを同素材で別に作成し、間に紫外光硬化性の光学接着剤を薄くはさんだ。光強度を測定しながら、最も強くなるような位置に基板とレンズを配置し、紫外光を全体に照射して硬化させてレンズ105と基板103を一体化し、ヘッドの基本部分とした。図では平行光が入射するように描いているが、あらかじめレンズで絞った光を入射してもよい。」

エ 図2は次のものである。


第6 対比・判断
1 請求項1に対して
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「開口1」、「集光装置が照らされる面」、「照らされる面と反対方向を向く面」、「金属膜10」、「内周の角部」、「開口穴1の周囲の面」、「外周の角部」、「穴8の外周の面」及び「集光装置」は、本願発明1の「孔」、「照射光が照射される入射面」、「入射面の反対方向を向く射出面」、「金属膜」、「内側エッジ」、「第1面」、「『外側エッジ』及び『不連続部』」、「第2面」及び「光学素子」にそれぞれ相当するから、両者は
「照射光が照射される入射面と、
少なくとも一部が前記入射面の反対方向を向く射出面と、
前記入射面と前記射出面とを結ぶように形成された孔を有する金属膜と、を備え、
前記入射面は、前記入射面側の前記孔の端部の周囲に配置され前記孔の内面と結ばれる内側エッジを有する第1面と、前記第1面の周囲に配置され前記第1面の外側エッジとの間に不連続部を形成する第2面とを含む、光学素子。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・本願発明1は、「前記照射光の照射により前記内側エッジで励起され前記孔に向かう表面プラズモンと前記不連続部から前記孔に向かう表面プラズモンとの干渉により前記孔から前記射出面側に射出される光の強度が高くなるように」するために、「内側エッジ(内周の角部)と外側エッジ(外周の角部)との距離(L)」を、「前記表面プラズモンの波長に応じて定められ」、「前記表面プラズモンの波長をλspとしたとき、L=m・λsp/2 (mは、正の整数)の条件を満たす」のに対して、引用発明は、「サブ波長の開口を通じた伝達のための集中装置及びエネルギーの貯蔵器として機能し、それにより光点の出力の強さを増加させ」るために、「前記空洞共振器の幅は干渉するプラズモンの波長λspの半分の整数pと同じである」点(以下「相違点」という。)。

(2)判断
上記相違点について検討する。
引用発明の「集光装置」の「空洞共振器」は、「サブ波長の開口を通じた伝達のための集中装置及びエネルギーの貯蔵器として機能し、それにより光点の出力の強さを増加させ」るものであって、開口により生成されるプラズモンと、格子により反射されるプラズモンは同相である(上記「第5」「1」「(1)」「イ」参照。)から、「内周の角部」と「外周の角部」の距離がλspの半分の整数倍であればよいことは明らかである。
ここで、引用発明における「空洞共振器の幅D」は、「内周の角部」と「外周の角部」の距離を2倍したものに「開口1」の大きさを加えたものであるところ、「開口1」の大きさを考慮すれば、「開口1」の大きさを含む「空洞共振器の幅D」がλspの半分の整数倍となる。
そうすると、引用発明は「開口1」を含めた「空洞共振器の幅D」で「表面プラズモンが生成され、これらのプラズモンの伝播及び次に穴のモードとの結合は、そのときサブ波長の開口内へ導入される全ての光束を増加させ、該装置のエネルギー効率を改善する」(上記「第5」「1」「(1)」「ア」)ものであるから、これを、「開口1」を含まない「内側エッジと外側エッジとの距離」を「L」と規定して、「表面プラズモンの波長をλspとしたとき、L=m・λsp/2 (mは、正の整数)の条件を満たす」となすことは想起し得ない。
また、「内側エッジと外側エッジとの距離をL」と表面プラズモンの波長を関連づけることは引用文献1及び2に記載されておらず、示唆もされていない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし34について
本願発明2ないし34も、本願発明1の「前記内側エッジと前記外側エッジとの距離をL、前記表面プラズモンの波長をλspとしたとき、L=m・λsp/2 (mは、正の整数)の条件を満たす」との構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
本願発明1ないし34は、「前記内側エッジと前記外側エッジとの距離をL、前記表面プラズモンの波長をλspとしたとき、L=m・λsp/2 (mは、正の整数)の条件を満たす」との構成を備えるものであるから、上記第6で検討したとおり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1及び2に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由についての判断
1 特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号について
平成29年8月24日付けの意見書の「4. 拒絶理由について」「(1)理由1・・・について」において、
「しかし、液体と金属の界面でも表面プラズモンが励起されることは、科学的常識です。実際、本願明細書の段落[0053]における式(2)において、透明部材の複素誘電率ε_(d)として液体の複素誘電率を用いることで、液体と金属の界面における表面プラズモンの波数k_(SP)が求められ、さらに段落[0054]における式(3)から、当該表面プラズモンの波長λ_(SP)が求められます。よって、『液体中』であっても、当該λ_(SP)を用いて、請求項31,32に記載の構成を有する光学素子の発明を実施し、『表面プラズモンとの干渉』を実現して本願発明の効果を奏することができます。当該光学素子の構成を前提とする、請求項33,34に係る発明についても同様です。」
との説明がなされた結果、この拒絶の理由は解消した。

2 特許法第29条第2項について
平成29年8月24日付けの意見書「4. 拒絶理由について」「(2)理由2・・・について」「イ」において、本願発明1ないし34は、「前記内側エッジと前記外側エッジとの距離をL、前記表面プラズモンの波長をλspとしたとき、L=m・λsp/2 (mは、正の整数)の条件を満たす」との構成を備えるものであるのに対して、引用発明は「開口1」を含めた「空洞共振器の幅D」で「表面プラズモンが生成され、これらのプラズモンの伝播及び次に穴のモードとの結合は、そのときサブ波長の開口内へ導入される全ての光束を増加させ、該装置のエネルギー効率を改善する」(上記「第5」「1」「(1)」「ア」)ものであるから、これを、「開口1」を含まない「内側エッジと外側エッジとの距離」を「L」と規定して、「表面プラズモンの波長をλspとしたとき、L=m・λsp/2 (mは、正の整数)の条件を満たす」となすことは想起し得ない旨の説明がなされた結果、この拒絶の理由は解消した。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-11 
出願番号 特願2013-506003(P2013-506003)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 今井 彰赤尾 隼人  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 松川 直樹
伊藤 昌哉
発明の名称 光学素子、照明装置、測定装置、フォトマスク、露光装置、露光方法、及びデバイス製造方法  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  

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