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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01J 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01J |
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管理番号 | 1333076 |
審判番号 | 不服2016-13319 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-09-06 |
確定日 | 2017-10-24 |
事件の表示 | 特願2015-529972「シリコン含有ドーパント組成、シリコン・イオン注入中にイオン・ビーム電流及び性能を改善するために同組成を用いるシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月 6日国際公開、WO2014/036064、平成27年 9月10日国内公表、特表2015-526876、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年8月28日(パリ条約による優先権主張 2012年8月28日 米国、2013年8月28日 米国)を国際出願日とする出願(特願2015-529972号)であって、平成27年8月19日付けで拒絶理由が通知され、平成28年4月25日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年9月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において、平成29年3月9日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年9月11日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし10に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明10」という。)は、平成29年9月11日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は次のとおりである。 「【請求項1】 第1のシリコンベースの種及び第2のシリコンベースの種からなるシリコンベースのドーパント・ガス組成であって、第1のシリコンベース種がSiF4であり、第2のシリコンベース種が全体組成の2.5vol%から5vol%のSi2H6であるシリコンベースのドーパント・ガス組成。」 第3 引用文献、引用発明等 1 引用文献 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2010-522966号公報)には、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付されたものである。) a「【技術分野】 【0001】 本開示は概して、半導体製造設備に関する。特に、ガスを混合させることによってイオン源の性能を向上させると共にイオン源を長寿命化する技術に関する。 【背景技術】 【0002】 イオン注入は、エネルギーが与えられたイオンを基板に直接衝突させることによって、基板に化学種を堆積させる処理である。半導体製造では、イオン注入装置は主に、ターゲット材料の伝導性の種類およびレベルを変化させるドーピング処理に用いられる。集積回路(IC)の基板および該基板の薄膜構造においてドーピングプロファイルの精度を高めることは通常、ICの性能を適切なものとする上で重要である。所望のドーピングプロファイルを得るには、1種類以上のイオン種を、ドーズ量およびエネルギーレベルを互いに異ならせて、注入するとしてよい。」 b「【0015】 イオン源の故障の原因として一般的な別の理由を挙げると、イオン源の動作中において陰極208から材料がストリッピング(またはスパッタリング)されてしまうことがある。例えば、陰極208から金属材料(例えば、タングステン(W)、モリブデン(Mo)等)が、プラズマ20からのイオンがアークチャンバ206内で陰極208に向けて加速されて衝突することによって、除去されてしまいがちである。スパッタリング率はプラズマ20内のイオンの質量によって決まるので、イオン質量が大きくなるほど、スパッタリング効果が悪化し得る。実際、材料に対するスパッタリングが継続すると、陰極208が「薄く」なってしまい、最終的には陰極208内に孔または開口が形成されてしまう可能性がある。このため、ホウ素(B)または炭素(C)のようなより軽い元素を用いる場合に比べて、例えばゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、キセノン(Xe)、インジウム(In)、アンチモン(Sb)等の重い元素を含有するドーパントガスを利用する場合、イオン源102の性能および寿命が大幅に低減してしまう。このような悪影響は、水素化物(例えば、AsH3、PH3、CH4等)、不活性ガス(Ar、Xe等)、またはこれらの混合物を、所望の種の注入の原材料として利用する場合に特に顕著である。 【0016】 以上を鑑みると、上述した欠点および不備を克服するような、イオン源の性能を改善すると共にイオン源を長寿命化する技術を提供することが望まれている。 【発明の概要】 【課題を解決するための手段】 【0017】 ガスを混合させることによってイオン源の性能を向上させると共にイオン源を長寿命化する技術を開示する。1つの具体的な実施形態例によると、当該技術は、イオン注入装置のイオン源の性能を向上させると共にイオン源を長寿命化する方法として実現されるとしてよい。当該方法は、イオン源チャンバに所定量のドーパントガスを放出する段階を備えるとしてよい。ドーパントガスは、一のドーパント種を含むとしてよい。当該方法はさらに、イオン源チャンバに所定量の希釈ガスを放出する段階を備えるとしてよい。希釈ガスは、ドーパントガスを希釈して、イオン源の性能を向上させると共にイオン源を長寿命化するとしてよい。 【0018】 本実施形態例の別の側面によると、ドーパントガスは、ハロゲン含有ガスを含むとしてよく、希釈ガスは、水素含有ガスおよび不活性ガスのうち少なくとも1つを含むとしてよい。 【0019】 本実施形態例の異なる側面によると、ドーパントガスは、水素含有ガスを含むとしてよく、希釈ガスは、ハロゲン含有ガスおよび不活性ガスのうち少なくとも1つを含むとしてよい。」 c「【0035】 図3Aを参照しつつ説明すると、イオン源202aは、1以上の希釈ガス源を備えるとしてよく、該希釈ガス源は、ドーパントガス源260からのドーパントガスを希釈するべくアークチャンバ206に1以上の希釈ガスを放出する。例えば、希釈ガス源262および対応するガス流量コントローラ268は導管280を介してアークチャンバ206に所定量の希釈ガスを供給して、ドーパントガス源260からのドーパントガスを希釈するとしてよい。 【0036】 一実施形態によると、図3Aに図示するように、ドーパントガスおよび1以上の希釈ガスは、アークチャンバ206に対して供給される場合に、同一の導管280を通過させられるとしてよい。このような構成とすることによって、1以上の希釈ガスは、アークチャンバ206に流入する前に、導管280において予めドーパントガスと混合させられるとしてよい。別の実施形態によると、図3Bに図示するように、イオン源202bにおいて、ドーパントガスおよび1以上の希釈ガスは、アークチャンバ206に対して供給される際に、異なる導管280aおよび280bを通過させられるとしてもよい。このような場合は、1以上の希釈ガスとドーパントガスとは、アークチャンバ206内で混合させられる。 【0037】 ドーパントガスは、所望のイオン注入に応じてさまざまなドーパント種(例えば、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、リン光体(P)、ケイ素(Si)、ヒ素(As)等)を含むとしてよい。一実施形態によると、ドーパントガスは、ハロゲン含有ガスとして、ドーパントガス源260から放出されるとしてよい。別の実施形態によると、ドーパントガスは、水素化物(または水素含有)ガスとして、ドーパントガス源260から放出されるとしてよい。例えば、表1は、各ドーパント種について、1以上の水素化物ガスおよび1以上のハロゲン化物ガスを示す。 【表1】 【0038】 別の実施形態によると、ドーパントガスはさらに、不活性ガスを含むとしてよい。例えば、該不活性ガスは、アルゴン(Ar)またはアルゴン含有ガス、キセノン(Xe)またはキセノン含有ガス等であってよい。その他の組み合わせおよびさまざまなドーパントガスも考慮され得る。 【0039】 これに代えて、別の実施形態によると、図3Cに図示するように、ガス素子390が設けられるとしてよい。ガス素子390は、ヒータ(不図示)を有するとしてよく、ドーパント先駆体を蒸発させて、該ドーパント先駆体を(気体状態で)導管280を介してアークチャンバ206に運ぶ。一実施形態によると、ガス素子390は、蒸発源であってよい。この場合、ヒータは、例えば、蒸発源内で固体ソースを加熱して、ドーパント先駆体を蒸発させるとしてよい。別の実施形態によると、ガス素子390は気泡生成器であってよい。この例によると、ヒータは、例えば、気泡生成器内で液体ソースを加熱して、ドーパントガスを蒸発させるとしてよい。さらに、気泡生成器は、導管280を介してアークチャンバ206に気体状のドーパントガスを搬送するべくキャリアガスを含むとしてよい。さらに別の実施形態によると、ガス素子は、ドーパント種の元素形態、例えば、リン光体、金属等そのものを利用するとしてよく、導管280を介してアークチャンバ206にこれらの蒸気を搬送するとしてよい。その他のさまざまな実施形態もまた提供され得る。 【0040】 本開示の一実施形態によると、希釈ガスは、水素(H_(2))または水素含有ガスを含むとしてよい。別の実施形態によると、希釈ガスは、ハロゲンまたはハロゲン含有ガス(例えば、F_(2)、Cl_(2)等)を含むとしてよい。その他の組み合わせおよびさまざまな希釈ガスも利用され得る。」 d「【図3A】 」 2 引用文献1に記載された発明の認定 上記「1」のc(【0037】の【表1】)から、Siをドーパント種とする水素化物としては、SiH_(4),Si_(2)H_(6)があり、また、Siをドーパント種とするハロゲン化物としては、SiF_(4),SiCl_(2)H_(6),HSiCl_(3)がある。 よって上記「1」のa?dの記載から、引用文献1には、 「 ガスを混合させることによってイオン源の性能を向上させると共にイオン源を長寿命化する技術に関し、 ドーパントガスは、1以上の希釈ガスと、アークチャンバ206に流入する前に、又は、アークチャンバ206内で混合させられるものであり、 ドーパントガスは、ケイ素(Si)、を含むとしてよく、 Siをドーパント種とする水素化物としては、SiH_(4),Si_(2)H_(6)があり、また、Siをドーパント種とするハロゲン化物としては、SiF_(4),SiCl_(2)H_(6),HSiCl_(3)があるドーパントガス。」 の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 第4 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、 (一致点) 「シリコンベースの種からなるシリコンベースのドーパント・ガス組成であって、SiF4又はSi2H6を含むシリコンベースのドーパント・ガス組成。」 の発明である点で一致し、一方で (相違点) シリコンベースの種からなるガス組成が、本願発明1においては、「第1のシリコンベースの種及び第2のシリコンベースの種から」なり、「第1のシリコンベース種がSiF4であり、第2のシリコンベース種が全体組成の2.5vol%から5vol%のSi2H6である」のに対し、引用発明においては、そのような特定がない点。 (2)相違点についての判断 上記相違点に係る構成は、引用文献1に記載されておらず、また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2及び引用文献3にも記載されておらず、さらに、他に上記相違点に係る構成を備えたドーパント・ガス組成が記載された文献を発見することはできなかった。 なお、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(Ralf Basner, "Electron Induced Ionization Of Molecules With Plasma-Technological Relevance", CP680 at the 17th international conference on the application of accelerators in research and Industry, 米国, American Institute of Physics, 2003.8.26, page 73-76.)及び引用文献3(J. Perrin et al, "Dissociation cross sections of silane and disilane by electron impact", Chemical Physics, Elsevier, 1982.12, Volume 73 Issue 3, page 383-394.)からは、Si_(2)H_(6)のイオン化断面積がSiF_(4)のイオン化断面積より大きいことが示唆されているといえるだけであり、「第1のシリコンベース種がSiF4であり、第2のシリコンベース種が全体組成の2.5vol%から5vol%のSi2H6である」「第1のシリコンベースの種及び第2のシリコンベースの種から」なるドーパント・ガス組成については、記載も示唆もされていないといえる。 そして、本願発明1の上記相違点に係る発明特定事項により、本願発明1は、「本発明によって企図されたSiガス混合物の特定の組成で、イオン源を、ビーム電流の顕著な減少を伴うことなく、より低いアーク電圧で動作させることができ、有利なことに、イオン注入操作を通じてイオン源構成要素の劣化がさらに低減され得る」(本願明細書【0023】参照)という顕著な効果を奏するものであるから、上記相違点が引用発明及び引用文献2,3に記載された技術事項に基づいて容易に想到し得たものであるということもできない。 (3)小括 よって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2,3に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。 2 本願発明2ないし10について 本願発明2ないし10は、いずれも、本願発明1を引用するものであり、上記相違点に係る、「第1のシリコンベース種がSiF4であり、第2のシリコンベース種が全体組成の2.5vol%から5vol%のSi2H6である」「第1のシリコンベースの種及び第2のシリコンベースの種から」なる「ドーパント・ガス組成」の発明特定事項を備えるものである。 よって、本願発明2ないし10は、いずれも、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献2,3に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 (1)原査定は、特許請求の範囲に記載された発明について、上記の引用発明及び引用文献2,3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。 しかしながら、平成29年9月11日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された発明は「第1のシリコンベース種がSiF4であり、第2のシリコンベース種が全体組成の2.5vol%から5vol%のSi2H6である」「第1のシリコンベースの種及び第2のシリコンベースの種から」なる「ドーパント・ガス組成」を備えるという発明特定事項を有するものとなっており、引用発明及び引用文献2,3に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。したがって、原査定を維持することはできない。 (2)原査定は、特許請求の範囲に記載された発明について、「SiF4の第1のシリコンベースの種及びSi2H6の第2のシリコンベースの種」以外のシリコンベー種を含むドーパント・ガス組成の発明を含むものであるから、それらの発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではない(特許法第36条第6項第1号違反)、また、「S6H4」は誤記あり、発明が明確でない(特許法第36条第6項第2号違反)というの拒絶理由を有するものであるとする。 しかしながら、平成29年9月11日付けの手続補正における補正の結果、これらの拒絶理由は、いずれも解消した。 第6 当審拒絶理由について 当審では、特許請求の範囲の記載に関して、「Si2H6」の含有量として「2.5?5vol%」以外の範囲のものを含む請求項に係る発明は、発明の詳細な説明によってサポートされたものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものということができないから、本願は特許法第36条第6項第1号及び第2号に違反しているとの拒絶理由を通知している。 しかしながら、平成29年9月11日付けの手続補正における補正の結果、これらの拒絶理由は、いずれも解消した。 第7 むすび 以上のとおりであり、原査定の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に、本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-10-11 |
出願番号 | 特願2015-529972(P2015-529972) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H01J)
P 1 8・ 121- WY (H01J) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小野 健二 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
森林 克郎 松川 直樹 |
発明の名称 | シリコン含有ドーパント組成、シリコン・イオン注入中にイオン・ビーム電流及び性能を改善するために同組成を用いるシステム及び方法 |
代理人 | 特許業務法人浅村特許事務所 |