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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01R 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G01R |
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管理番号 | 1333086 |
審判番号 | 不服2016-19272 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-12-22 |
確定日 | 2017-10-30 |
事件の表示 | 特願2015-517165「混合正極材を含む二次電池の充電状態推定装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月19日国際公開、WO2013/187581、平成27年 9月24日国内公表、特表2015-528101、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年3月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年6月13日、2013年3月15日、いずれも大韓民国)を国際出願日とする出願であって、平成28年2月3日付けで拒絶理由通知がされ、同年5月9日付けで手続補正がされ、同年8月17日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月22日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成28年8月17日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。 拒絶査定時における請求項1?3、9、10、17、21、35?38、42、43、57、59に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 また、拒絶査定時における請求項4?8、11?16、18?20、22?34、39?41、44?56、58に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2006-351418号公報 第3 本願発明 本願請求項1-16に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明16」という。)は、平成28年12月22日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-16に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 作動イオンと反応する電圧範囲が相異なる第1正極材及び第2正極材を含む混合正極材が含まれている正極、負極材を含む負極、及び前記正極と負極とを分離させる分離膜を含む二次電池の充電状態を推定する装置であって、 前記二次電池の充電中に、時間に対する前記二次電池の動的電圧を繰り返して測定するセンサーと、 前記センサーにより、前記二次電池の充電中に繰り返して測定された、前記時間に対する二次電池の動的電圧プロファイルを前記作動イオンと反応する正極材の種類が変わる充電状態区間である転移区間で生じる転移区間電圧パターンとして識別して、前記転移区間電圧パターンのパラメータを計算し、前記転移区間内に含まれる複数の充電状態と各充電状態に対応するパラメータとの間の予め定義された相関関係を用いて前記計算されたパラメータから二次電池の充電状態を推定する制御ユニットと、 を含む、二次電池の充電状態推定装置。」 なお、本願発明2-16の概要は以下のとおりである。 本願発明2-4は、本願発明1を引用して減縮した発明である。 本願発明5は、本願発明1を減縮した発明である。 本願発明6-9は、本願発明5を引用して減縮した発明である。 本願発明10は、本願発明1に対応する方法の発明である。 本願発明11-13は、本願発明10を引用して減縮した発明である。 本願発明14は、本願発明10を減縮した発明である。 本願発明15、16は、本願発明14を引用して減縮した発明である。 第4 引用文献、引用発明等 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図とともに次の事項が記載されている。(下線は、当審による。) ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 電気化学素子と、負荷部と、発電部とを含む電力管理システムであって、 前記電気化学素子は、正極と、負極と、電解液または固体電解質とを有し、 前記電気化学素子の充放電曲線は、複数の段差を有し、 前記複数の段差のうち、任意の第1の段差において、変曲点もしくはその近傍点に対応する電圧の第1の閾値が設定されており、 前記第1の段差よりも低電圧側の第2の段差において、変曲点もしくはその近傍点に対応する電圧の第2の閾値が設定されており、 (a)前記電気化学素子の電圧が、前記第1の閾値もしくは前記第2の閾値付近であることを検知する電圧判定部と、 (b)前記電気化学素子から流出または前記電気化学素子へ流入する電流を検出する電流検出部と、 (c)前記電圧判定部が、前記電気化学素子の電圧が前記第1の閾値もしくは前記第2の閾値付近であることを検知した時点から、前記電流検出部の出力を積算し、充放電電流の積算値に対する電圧変化率を検出する傾き検出部と (d)前記傾き検出部の出力が、予め決めておいた所定の傾き以上になった場合、前記電気化学素子の残存容量が前記第1の段差に相当する残存容量以上になったと判断し、前記電気化学素子を放電し、もしくは、前記電気化学素子の残存容量が前記第2の段差に相当する残存容量以下になったと判断し、前記電気化学素子を充電する制御を行う充放電制御部と、を有する電力管理システム。」 イ 「【0074】 電気化学素子2の充放電曲線における変曲点と残存容量との相関関係は、電気化学素子の設計により、任意に設定することができる。例えば、電気化学素子を構成する正極および/または負極の活物質として、前述した一般式(1)で表される材料を、単独で、もしくは2種以上を組み合わせて用いることにより、充放電曲線に任意の段差を持たせることができる。」 上記ア及びイによれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「電気化学素子と、負荷部と、発電部とを含む電力管理システムであって、 前記電気化学素子は、材料を2種以上組み合わせて用いることにより充放電曲線に段差を持たせた正極と、負極と、電解液または固体電解質とを有し、 前記電気化学素子の充放電曲線は、複数の段差を有し、 前記複数の段差のうち、任意の第1の段差において、変曲点もしくはその近傍点に対応する電圧の第1の閾値が設定されており、 前記第1の段差よりも低電圧側の第2の段差において、変曲点もしくはその近傍点に対応する電圧の第2の閾値が設定されており、 (a)前記電気化学素子の電圧が、前記第1の閾値もしくは前記第2の閾値付近であることを検知する電圧判定部と、 (b)前記電気化学素子から流出または前記電気化学素子へ流入する電流を検出する電流検出部と、 (c)前記電圧判定部が、前記電気化学素子の電圧が前記第1の閾値もしくは前記第2の閾値付近であることを検知した時点から、前記電流検出部の出力を積算し、充放電電流の積算値に対する電圧変化率を検出する傾き検出部と (d)前記傾き検出部の出力が、予め決めておいた所定の傾き以上になった場合、前記電気化学素子の残存容量が前記第1の段差に相当する残存容量以上になったと判断し、前記電気化学素子を放電し、もしくは、前記電気化学素子の残存容量が前記第2の段差に相当する残存容量以下になったと判断し、前記電気化学素子を充電する制御を行う充放電制御部と、を有する電力管理システム。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明を対比する。 ア 引用発明の「材料を2種以上組み合わせて用いることにより充放電曲線に段差を持たせた正極」は、本願発明1の「作動イオンと反応する電圧範囲が相異なる第1正極材及び第2正極材を含む混合正極材が含まれている正極」に相当する。 イ 引用発明の「負極」は、本願発明1の「負極材を含む負極」に相当する。 ウ 引用発明の「電力管理システム」は、「電気化学素子の残存容量が前記第1の段差に相当する残存容量以上になったと判断し、前記電気化学素子を放電し、もしくは、前記電気化学素子の残存容量が前記第2の段差に相当する残存容量以下になったと判断し、前記電気化学素子を充電する制御を行う充放電制御部」を有するものであるから、本願発明1の「二次電池の充電状態を推定する装置」もしくは「二次電池の充電状態推定装置」に相当する。 エ 引用発明の「前記電気化学素子の電圧が、前記第1の閾値もしくは前記第2の閾値付近であることを検知する電圧判定部」と、本願発明1の「前記二次電池の充電中に、時間に対する前記二次電池の動的電圧を繰り返して測定するセンサー」とは、「前記二次電池の充電中に、前記二次電池の動的電圧を繰り返して測定するセンサー」である点で共通する。 オ 引用発明の「前記傾き検出部の出力が、予め決めておいた所定の傾き以上になった場合、前記電気化学素子の残存容量が前記第1の段差に相当する残存容量以上になったと判断し、前記電気化学素子を放電し、もしくは、前記電気化学素子の残存容量が前記第2の段差に相当する残存容量以下になったと判断し、前記電気化学素子を充電する制御を行う充放電制御部」と、本願発明1の「前記センサーにより、前記二次電池の充電中に繰り返して測定された、前記時間に対する二次電池の動的電圧プロファイルを前記作動イオンと反応する正極材の種類が変わる充電状態区間である転移区間で生じる転移区間電圧パターンとして識別して、前記転移区間電圧パターンのパラメータを計算し、前記転移区間内に含まれる複数の充電状態と各充電状態に対応するパラメータとの間の予め定義された相関関係を用いて前記計算されたパラメータから二次電池の充電状態を推定する制御ユニット」とは、「二次電池の充電状態を推定する制御ユニット」である点で共通する。 してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 (一致点) 「作動イオンと反応する電圧範囲が相異なる第1正極材及び第2正極材を含む混合正極材が含まれている正極、負極材を含む負極を含む二次電池の充電状態を推定する装置であって、 前記二次電池の充電中に、前記二次電池の動的電圧を繰り返して測定するセンサーと、 二次電池の充電状態を推定する制御ユニットと、 を含む、二次電池の充電状態推定装置。」 (相違点) 相違点1:本願発明1の「二次電池」は、「正極と負極とを分離させる分離膜」を備えるのに対し、引用発明の「電気化学素子」がそのような分離膜を備えるか否かは不明である点。 相違点2:本願発明1においては、「時間に対する」電圧の測定が行われるのに対し、引用発明においては「前記電気化学素子の電圧が、前記第1の閾値もしくは前記第2の閾値付近であることを検知する電圧判定部」を備えるものの、「前記電圧判定部が、前記電気化学素子の電圧が前記第1の閾値もしくは前記第2の閾値付近であることを検知した時点から、前記電流検出部の出力を積算し、充放電電流の積算値に対する電圧変化率を検出する」とされており、時間に対する電圧の測定が行われるとはされていない点。 相違点3:本願発明1においては「前記センサーにより、前記二次電池の充電中に繰り返して測定された、前記時間に対する二次電池の動的電圧プロファイルを前記作動イオンと反応する正極材の種類が変わる充電状態区間である転移区間で生じる転移区間電圧パターンとして識別して、前記転移区間電圧パターンのパラメータを計算し、前記転移区間内に含まれる複数の充電状態と各充電状態に対応するパラメータとの間の予め定義された相関関係を用いて前記計算されたパラメータから」二次電池の充電状態を推定するのに対し、引用発明は「電圧判定部が、前記電気化学素子の電圧が前記第1の閾値もしくは前記第2の閾値付近であることを検知した時点から、前記電流検出部の出力を積算し、充放電電流の積算値に対する電圧変化率を検出する傾き検出部」による判断を行うものであって、本願発明1のように「時間に対する二次電池の動的電圧プロファイル」から「相関関係を用いて」推定するものではない点。 (2)相違点についての判断 本願発明1の内容に鑑み、上記相違点3について検討する。 相違点3に係る本願発明1の「前記センサーにより、前記二次電池の充電中に繰り返して測定された、前記時間に対する二次電池の動的電圧プロファイルを前記作動イオンと反応する正極材の種類が変わる充電状態区間である転移区間で生じる転移区間電圧パターンとして識別して、前記転移区間電圧パターンのパラメータを計算し、前記転移区間内に含まれる複数の充電状態と各充電状態に対応するパラメータとの間の予め定義された相関関係を用いて前記計算されたパラメータから」二次電池の充電状態を推定するという構成は、引用文献1に記載も示唆もなく、また、周知であるとも認められない。 したがって、本願発明1は、引用文献1に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 2 本願発明2-9について 本願発明2-9は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3 本願発明10-16について 本願発明10は、本願発明1に対応する方法の発明であり、上記相違点3に係る本願発明1の構成に対応する構成を備えるものであり、また、本願発明11-16は、本願発明10を減縮した発明であるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 原査定について 審判請求時の補正により、本願発明1-16は「前記センサーにより、前記二次電池の充電中に繰り返して測定された、前記時間に対する二次電池の動的電圧プロファイルを前記作動イオンと反応する正極材の種類が変わる充電状態区間である転移区間で生じる転移区間電圧パターンとして識別して、前記転移区間電圧パターンのパラメータを計算し、前記転移区間内に含まれる複数の充電状態と各充電状態に対応するパラメータとの間の予め定義された相関関係を用いて前記計算されたパラメータから」二次電池の充電状態を推定するという構成を有するものとなっており、本願発明1-16は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者が引用文献1に基づいて容易に発明できたものでもない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-10-16 |
出願番号 | 特願2015-517165(P2015-517165) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G01R)
P 1 8・ 113- WY (G01R) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 荒井 誠 |
特許庁審判長 |
清水 稔 |
特許庁審判官 |
須原 宏光 中塚 直樹 |
発明の名称 | 混合正極材を含む二次電池の充電状態推定装置及び方法 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 渡部 崇 |