ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N |
---|---|
管理番号 | 1333113 |
審判番号 | 不服2016-14174 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-09-21 |
確定日 | 2017-10-05 |
事件の表示 | 特願2011-276111「多能性幹細胞培養用組成物およびその用途」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 2日出願公開、特開2012-143229〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年12月16日(優先権主張平成22年12月24日)の出願であって、平成28年2月1日に手続補正がなされ、同年6月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月21日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成28年9月21日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成28年9月21日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正することを含むものである。 補正前: 「【請求項1】 多能性幹細胞の未分化状態を維持させつつ、多能性幹細胞を増殖または樹立するための多能性幹細胞の培養方法であって、3?30ng/mLの濃度のアクチビンAを含む培地中で前記多能性幹細胞を培養することを含む、培養方法。」 補正後: 「【請求項1】 ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の未分化状態を維持させつつ、ヒトiPS細胞を増殖または樹立するためのヒトiPS細胞の培養方法であって、3?30ng/mLの濃度のアクチビンAを含む培地中で前記ヒトiPS細胞を培養することを含む、培養方法。」 2 本件補正についての判断 本件補正は、補正前の請求項1の「多能性幹細胞」を「ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)」に限定するものであって、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本願補正発明が独立して特許を受けることができるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。 (1)引用文献に記載された事項 ア 引用文献1 原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願優先日前の2006年6月に頒布された刊行物である、Stem Cells. 2006 Jun;24(6):1476-86.(以下、引用文献1という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、原文は英語のため、当審による翻訳文を示す。以下引用文献2?5についても同様。) (1-a)「ヒト胚性幹細胞(hESCs)は、多能性を維持しながら無期限に自己複製する。」(第1476頁要約左欄第1-2行) (1-b)「実験的に、我々は、アクチビンAがhESCの自己複製と多能性の維持に必要かつ十分であり、無フィーダーかつ無血清でのhESCの長期の増殖を支持することを発見する。」(第1476頁要約右欄第3-6行) (1-c)「Non-CMは80%DMEM/F12培地、20%ノックアウト血清代替物(インヴィトロジェン)、1mM L-グルタミン、0.1mM β-メルカプトエタノール、1%非必須アミノ酸を含む。長期の無フィーダー培養のために、Non-CMに5ng/mlのアクチビンAを添加した。」(第1477頁左欄第29-32行) (1-d)「アクチビンAは、hESCの長期無フィーダー培養をサポートする フィーダー細胞なしでhESC増殖を最も良くサポートするアクチビンAの濃度を決定するために、bFGFを含まないhESC培地中で異なる濃度のアクチビンAを使用した。5ng/mlのアクチビンAを含有する培地は、フィーダー細胞または馴化培地を含まないマトリゲル被覆フラスコ上で未分化状態でhESCを維持するのに十分であった(図3)。マトリゲル被覆フラスコ中の5ng/mlのアクチビンAで培養したH1hESCは、馴化培地中で増殖する細胞と類似の外観を示した。アクチビンAで15回継代培養した後、H1細胞はhESCマーカーであるOct4、Nanog、SSEA3、SSEA4、Tra-1-60、およびTra-1-81について依然として強く陽性であることが判明した(図3A-3F)。Oct4およびNanogは、アクチビンAにおける長期間の培養中、安定して維持された(図3G)。分化のマーカーは、アクチビンAによって安定に阻害された(補足オンライン図2)。アクチビンAに維持されたH1細胞は、高レベルのテロメラーゼ活性を示した(図3H)。hESCのインビボでの分化の可能性を調べるために、我々は、アクチビンAにおいて10回継代維持されたH1hESCをNOD/SCIDマウスに注射し、奇形腫形成能を試験した。フィーダー細胞上に維持された細胞のように、アクチビンA中で培養された細胞は、3つの胚葉全てを含む様々な分化組織型を有する複雑な奇形腫を生成した(図4;データは示さず)。H1hESCは、5ng/mlのアクチビンAを添加したNon-CMで、無フィーダー条件で、150日以上および20継代以上培養されている。G分染法による核型分析を行った。アクチビンAで培養した細胞は、正常な核型を示した(補足オンライン図4)。」(第1481頁左欄31-最終行) (1-e)「図3。アクチビンAは、H1ヒト胚性幹細胞(hESC)の長期フィーダーフリー培養をサポートすることができる。5ng/mlのアクチビンA中で15回継代維持されたH1hESCは未分化マーカーを発現する:Oct4(A)、Nanog(B)、SSEA3(C)、SSEA4(D)、Tra-1-60(E)、Tra-1-81(F)。スケールバーは50μm。(G):アクチビンAで培養されたH1hESCにおけるOct4およびNanogの発現は、9回および15回継代時点でウエスタンブロッティングによって分析され、これら2つの遺伝子の安定した維持を示した。(H):アクチビンAに維持されたH1細胞の9回および15回継代時点におけるテロメラーゼ活性のテロメア反復増幅プロトコル分析。5000個の細胞を各サンプルに使用した。テロメラーゼ陽性細胞(+細胞)を陽性対照として用い、熱失活(HI)試料を陰性対照として用いた。略語:CM、馴化培地;MEF、マウス胚線維芽細胞。」 (1-f)「図4。アクチビンAで培養したヒト胚性幹細胞は多能性を維持した。フィーダーまたは馴化培地を含まない5ng/mlのアクチビンAで10継代維持されたH1細胞は奇形腫を形成することができた。神経組織(A)、骨(B)および肝細胞(C)は、奇形腫において、ヘマトキシリン-エオシン染色によって同定された。免疫組織化学染色により、汎サイトケラチン発現表皮組織(外胚葉)(D)、平滑筋アクチン発現筋組織(中胚葉)(E)、およびα-フェトプロテイン発現肝組織(内胚葉)(F)を同定した。スケールバー=100μm。 イ 引用文献2 原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された、本願優先日前の2009年11月に頒布されたStem Cells. 2009 Nov;27(11):2655-66.(以下、引用文献2という。)には、以下の事項が記載されている。 (2-a)「無フィーダーおよび無血清状態におけるhESCおよびhIPSCの増殖 無フィーダーおよび無血清培養のために、H9細胞(WiCell Research Institute、Madison、WI、http://www.wicell.org)およびhIPSC(表1)を、アクチビン(10ng/ml、Marco Hyvonenから有益に提供された)およびFGF2(12ng/ml、R&D Systems Inc.)を補充したCDM[5,11]で増殖させた。CDMの組成は、7μg/mlインスリン(Roche Diagnostics)、トランスフェリン(Roche Diagnostics)15μg/ml、モノチオグリセロール(Sigma-Aldrich)450μM、および5mg/mlウシ血清アルブミン(Sigma-Aldrich)分画V(Europa Bioproducts、Cambridge、UK、http://www.europa-bioproducts.com)またはポリビニルアルコール(CDM-PVA)(Sigma-Aldrich)を補充した、50%F12 NUT-MIX(Gibco)と50%イスコフ改変ダルベッコ培地(Gibco、Grand Island、NY、http://www.invitrogen.com)である。4日ごとに、細胞を1mg/mlのディスパーゼ(Gibco)を用いて収穫し、次いで15μg/mlのヒトフィブロネクチン(Chemicon)を37℃で20分間被覆し、PBSで2回洗浄したディッシュ(Corning Costar Corp.、Cambridge、MA、http://www.corning.com/index.aspx)に播種した。または、ディッシュはブタゼラチン1mg/ml(Sigma-Aldrich)で15分間?1時間プレコートし、次いでウシ胎児血清含有培地(ダルベッコ変法イーグル培地中5%)で37℃で24時間被覆した。」(第2656頁右欄下から第5行-最終行、第2659頁左欄第1-19行) (2-b)「次いで、フィーダーまたは血清の非存在下で、CDM+アクチビン+FGF2においてhIPSCを直接誘導した(表1)。このアプローチを使用して、我々は血清及びフィーダーの存在下で誘導されたhIPSC(図1A-1C、hIPSC 30および35)と同様のレベルで内在性多能性因子Oct-4、Sox2、Nanog、およびTra-1-60(図1A-1C、hIPSCライン40)を発現する33のhIPSC系統を作製した。さらに、化学的に規定された条件で誘導されたhIPSC系統は、血清含有培地(下記および図3-5、hIPSCライン40参照)中のフィーダー上で誘導されたhIPSCと同じ分化能力を示し、免疫不全マウスの精巣莢膜に注射されたとき(図1D)、3胚葉の誘導体を含む奇形腫を形成する能力を有した。」(第2660頁右欄第3-16行) (2-c)「これらの結果を総合すると、アクチビンおよびFGF2を含有する化学的に規定された培地がhIPSCを生成および増殖させるのに十分であり、hESCおよびhIPSCがそれらの多能性状態を維持するために同じシグナル伝達経路に依存することが示唆される。」(第2660頁右欄第41-45行) ウ 引用文献3 原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された、本願優先日前の2009年7月に頒布されたCell Stem Cell. 2009 Jul 2;5(1):111-23.(以下、引用文献3という。)には、以下の事項が記載されている。 (3-a)「現在まで、iPSCとESCの重要な機能的な差異については誰も著述していない。」(第122頁左欄第6-8行) (3-b)「さらに、hiPSCおよびhESCが未分化状態で異なって機能することを示唆する公表されたデータはない。」(第122頁左欄第22-23行) エ 引用文献4(本願優先日当時の技術常識を示す文献) 本願優先日前の2007年11月に頒布されたCell. 2007 Nov 30;131(5):861-72.(以下、引用文献4という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。 (4-a)「成人HDFからのiPS細胞の作製 ヒトiPS細胞誘導のプロトコルを図1Aに要約する。我々は、ヒトOct3/4、Sox2、Klf4、およびc-Mycを含むレトロウイルスをHDF-Slc7a1に導入した(図1B;100mmディッシュあたり8×10^(5)細胞)。36歳の白人女性の顔面真皮由来のHDF。形質導入の6日後、細胞をトリプシン処理により採取し、マイトマイシンC処理したSNLフィーダー細胞(McMahonおよびBradley、1990)上に100mmディッシュ当たり5×10^(4)細胞または5×10^(5)細胞播種した。翌日、培地(10%FBSを含むDMEM)を、4ng/mlの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を補充した霊長類ES細胞用培地に交換した。 およそ2週間後、形態学的にhES細胞と類似しないいくつかの顆粒化コロニーが現れた(図1C)。約25日後、我々は、平らでhES細胞コロニーに似ている異なるタイプのコロニーを観察した(図1D)。5×10^(4)の線維芽細胞から、?10個のhES細胞様コロニーおよび?100個の顆粒化コロニーを観察した(6回の独立した実験において7/122,8/84,8/171,5/73,6/122および11/213、表1に要約する)。30日目に、hES細胞様コロニーを採取し、酵素消化を行わずにそれらを機械的に小さな塊に分解した。」(第862頁左欄第8行-同右欄第13行) (4-b)「hES様細胞は、bFGFを含有する霊長類ES細胞培地でSNLフィーダー細胞上に拡大した。彼らは緊密に詰まった平らなコロニーを形成した(図1E)。各細胞は、大きなES細胞の核および乏しい細胞質を特徴とするヒトES細胞のものと同様の形態を示した(図1F)。hES細胞の場合と同様に、時にはコロニーの中心に自発的な分化を観察した(図1G)。 これらの細胞はまた、フィーダー依存性においてhES細胞と類似性を示した(図S2)。ゼラチン被覆組織培養プレートに付着しなかった。対照的に、MEF馴化霊長類ES細胞培地中のマトリゲル被覆プレート上で未分化状態を維持したが、非馴化培地では維持しなかった。 これらの細胞は、上記の形態学および他の態様においてhES細胞と類似しているので、本発明者らは、ヒトiPS細胞としてHDFの形質導入後に選択された細胞を参照し、この主張の分子的および機能的証拠を記載する。この研究で確立されたヒトiPS細胞クローンを表S2に要約する。」(第863頁左欄第1-20行) オ 引用文献5(本願優先日当時の技術常識を示す文献) 本願優先日前の2008年11月に頒布されたNat Biotechnol. 2008 Nov;26(11):1276-84.(以下、引用文献5という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。 (5-a)「ヒトケラチノサイトからの効率的で迅速な誘導多能性幹細胞の作成」(表題) (5-b)「方法 細胞培養。ケラチノサイトは子どもの包皮から単離され(2-16歳)、ディスパーゼを用いて表皮から真皮を分離し、トリプシン処理し、無血清低カルシウム培地(エピライフ、インヴィトロジェン)で培養された。FLAGタグ付けされたOCT4、SOX2、KLF4とc-MYCT58Aのレトロウイルスの1:1:1:1混合物を、1μg/mlポリブレンの存在下にケラチノサイト(1-5継代目)に添加し、750gで45分spinfectionを行った。この工程は次の日も繰り返された。新鮮な無血清低カルシウム培地に交換後2日インキュベートし、細胞をトリプシン処理し、400万の放射線照射したマウス又はヒト線維芽細胞とES細胞培地を含む10cmディッシュに播種した。ES細胞とKiPS細胞は放射線照射したマウス又はヒト線維芽細胞上で培養され、機械的に回収されるか、マトリゲル上で培養されトリプシン処理された。ノックアウトDMEM ES細胞培地は20%ノックアウト血清代替物、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノール、ペニシリン/ストレプトマイシン、グルタマックス、bFGF(すべてギブコ)とヒトアルブミン(Grifols)を補充された。」(第1282頁左欄下から第5行-同右欄第10行) (2)引用文献1に記載された発明 上記(1)ア(1-a)?(1-f)より、引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。(以下、「引用発明」という。) 「5ng/mLの濃度のアクチビンAを含む培地中でヒトES細胞を継代培養することを含む、ヒトES細胞の長期培養方法。」 (3)対比及び判断 引用発明の「ヒトES細胞」は、本願補正発明の「ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)」と「ヒト多能性幹細胞」である点で共通する。また、引用発明の「5ng/mL」は、本願補正発明の「3?30ng/mL」に包含される。さらに、引用発明ではES細胞を継代しながら長期培養しており、上記(1)ア(1-d)?(1-f)のデータに照らし、継代培養中に多能性を維持しつつ増殖していることは明らかである。 そうすると、本願補正発明と引用発明は、「ヒト多能性幹細胞の未分化状態を維持させつつ、ヒト多能性幹細胞を増殖するためのヒト多能性幹細胞の培養方法であって、3?30ng/mLの濃度のアクチビンAを含む培地中で前記ヒト多能性幹細胞を培養することを含む、培養方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点:本願補正発明が「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」に関する方法であるのに対し、引用発明は「ES細胞」である点。 上記相違点について検討する。上記1(1)イのとおり、引用文献2には、ヒトiPS細胞及びES細胞が、無フィーダー及び無血清培地中でアクチビンの存在下という同一の条件下で多能性を維持されることが記載されている。また、ES細胞とiPS細胞が同様の機能及び性質を有することや、iPS細胞の樹立または増殖の際にES細胞用培地で培養し、多能性を維持することは上記1(1)イ?オで示した引用文献2?5等に記載のとおり、本願優先日前に周知であったといえる。 したがって、引用発明のヒトES細胞の培養方法をヒトiPS細胞にも適用できることを期待して、ヒトiPS細胞の増殖又は樹立に適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことといえる。また、本願補正発明の効果については、本願明細書にはアクチビンAの存在下にヒトiPS細胞を12継代培養可能であったことが示されるに留まり、引用発明においてはヒトES細胞が多能性を維持したまま15回継代培養されている点等からみても、本願補正発明が当業者の予測を超える顕著な効果を奏するとはいえない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び本願優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (4)審判請求人の主張について 審判請求人は、平成28年11月4日付手続補正書の審判請求の理由において、本願の当初明細書の段落【0007】に記載されているように、アクチビンAについては、未分化胚細胞を中胚葉や内胚葉へと分化させるという報告、ヒトES細胞でも内胚葉を経由して膵臓のβ細胞への分化誘導に用いられるという報告、アクチビンAがヒトES細胞の未分化能を維持するという報告が存在しており、アクチビンAはヒトES細胞を内胚葉へ分化させるのか、逆にその未分化能を維持する方向に作用するのか、結論は出ていないというのが本願出願時の状況であったこと、ヒトiPS細胞におけるアクチビンAの役割は報告されていなかったのに対し、本願補正発明はアクチビンAがヒトiPS細胞を未分化な状態に維持する主要な因子であることが明確に示されたものであり、新規性及び進歩性を有すると主張する。 しかしながら、本願優先日前にアクチビンAについて複数の知見が存在したとしても、引用文献1にはヒトES細胞を5ng/mLアクチビンAの存在下に培養し、増殖及び多能性を維持することが知られていたのであるから、引用発明をヒトiPS細胞に適用することの容易想到性を検討するにあたり、請求人が主張するアクチビンAについての他の知見は進歩性の判断を左右する事情とはならない。 したがって、請求人の主張は採用できない。 (5)小括 したがって、本願補正発明は引用文献1に記載された発明及び本願優先日の周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条2項の規定により、独立して特許を受けることができないものである。 3 補正の却下の決定のむすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明 本件補正(平成28年9月21日付けの手続補正)は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成28年2月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1に補正前として記載したとおりのものである。 第4 当審の判断 1 引用文献1の記載事項及び引用発明 第2 2(1)アで示した引用文献1には、第2 2(1)アで示したとおりの事項が記載されている。また、引用文献1の記載事項より、引用文献1には、第2 2(2)で示したとおりの引用発明が記載されていると認められる。 2 対比および判断 引用発明の「ヒトES細胞」は、本願発明の「多能性幹細胞」に相当する。また、引用発明の「5ng/mL」は、本願発明の「3?30ng/mL」に包含される。さらに、引用発明ではヒトES細胞を継代しながら長期培養しており、上記(1)ア(1-d)?(1-f)のデータに照らし、継代培養中に多能性を維持しつつ増殖していることは明らかである。 そうすると、本願補正発明と引用発明は、「多能性幹細胞の未分化状態を維持させつつ、多能性幹細胞を増殖するための多能性幹細胞の培養方法であって、3?30ng/mLの濃度のアクチビンAを含む培地中で前記ヒト多能性幹細胞を培養することを含む、培養方法。」である点で一致し、両者に相違点はない。 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 3 小括 よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-08-02 |
結審通知日 | 2017-08-08 |
審決日 | 2017-08-23 |
出願番号 | 特願2011-276111(P2011-276111) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(C12N)
P 1 8・ 113- Z (C12N) P 1 8・ 121- Z (C12N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 崇之 |
特許庁審判長 |
田村 明照 |
特許庁審判官 |
長井 啓子 山本 匡子 |
発明の名称 | 多能性幹細胞培養用組成物およびその用途 |
代理人 | 八田国際特許業務法人 |