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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1333166
異議申立番号 異議2016-700761  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-23 
確定日 2017-08-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5871526号発明「アラビノキシラン及びα-グルカンを含む飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5871526号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について、訂正することを認める。 特許第5871526号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5871526号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成28年1月22日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、平成28年8月23日付けで特許異議申立人荒井夏代により全請求項に対して特許異議の申立てがされ、平成28年11月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内の平成28年12月27日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年2月7日付けで特許異議申立人から意見書が提出され、平成29年3月30日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内の平成29年5月19日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正請求がされた後、平成29年6月5日付けで当審から特許異議申立人に対し通知書を送付して期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人から意見書の提出がなされなかったものである。
なお、平成28年12月27日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成29年5月19日付けの訂正請求書による訂正請求の内容は、特許請求の範囲の記載を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであって、具体的な訂正事項1は次のとおりである。
(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1ないし4に「飲料」と記載されているのを、「発泡性アルコール飲料」に訂正する。

2 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否等
上記訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
また、上記訂正請求は一群の請求項1ないし4について請求するものであるから、特許法第120条の5第4項の規定についても適合するものである。

3 むすび
したがって、上記訂正請求による訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項の規定に適合し、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について、訂正することを認める。

第3 当審の判断
1 特許第5871526号の請求項1ないし4に係る発明
特許第5871526号(以下、「本件特許」という)の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「特許発明1ないし4」といい、それらを総合して「特許発明」という。)は、それぞれ、上記訂正請求により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
500ppm以上のアラビノキシランと、23000ppm以上のα-グルカンとを含み、
20℃の粘度が2.0mPa・s以下である
ことを特徴とする発泡性アルコール飲料。
【請求項2】
前記アラビノキシランは、分子量が9000Da以上のアラビノキシランを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の発泡性アルコール飲料。
【請求項3】
500ppm以上のβ-グルカンをさらに含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡性アルコール飲料。
【請求項4】
前記β-グルカンは、分子量が1000Da以下のβ-グルカンを含む
ことを特徴とする請求項3に記載の発泡性アルコール飲料。」

2 特許異議申立に係る各甲号証及び記載事項等
(1) 特許異議申立書の各甲号証
甲第1号証:特開2009-142184号公報
甲第2号証:特表2001-523104号公報
甲第3号証:特開2008-237032号公報
甲第4号証:文部科学省、「五訂増補日本食品標準成分表」
<URL:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802/002/002.pdf>
甲第5号証:特表2012-525840号公報
甲第6号証:国際公開第2008/136331号
甲第7号証:特開2002-330735号公報
甲第8号証:特開平10-191944号公報
甲第9号証:国立健康・栄養研究所、「健康食品の安全性・有効性情報 特定保健用食品:商品詳細 商品名:タケダ せんい&ピーチ」
<URL:http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail396.html>
甲第10号証:国立健康・栄養研究所、「健康食品の安全性・有効性情報 特定保健用食品:商品詳細 商品名:ファイブミニ」
<URL:http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail417.html>
甲第11号証:「繊維質と食物繊維」、日本食品科学工学会誌、Vol.58(2011)、No.4、P186、平成23年4月15日
甲第12号証:特開2001-145472号公報
甲第13号証:AMERICAN BIOSYSTEMS、「Fungal Amylase」
<URL:http://www.americanbiosystems.com/products/agricultural-enzymes/fungal-amylase/>
(平成29年2月7日付け意見書(特許異議申立人)添付)
甲第14号証:特開2009-50231号公報
(平成29年2月7日付け意見書(特許異議申立人)添付)


(2) 各甲号証の記載事項等
ア 甲第1号証には、次の事項が記載されている。
・「【0021】
本発明の飲料における本製造方法によるβ-グルカン含有糖化物タンパク質分解反応・液化・糖化・固液分離・乾燥して製造したβ-グルカン含有糖化物の含有量は、特に制限されないが、飲料に対して0.1?30質量%となるように配合するのが好ましい。0.1質量%より低いとβ-グルカンの効果が低く、30質量%より高いとゲル化してしまい、飲料の形態をなさないためである。また、添加量10質量%を超えるとゲル化はしないものの著しく粘度が上がるため、低粘度の飲料とするには、0.1?10質量%が好ましい。」

・「【0022】
本発明の飲料には、乳化剤、ゲル化剤、増粘剤、安定剤等の食品添加物や食品を添加しても構わない。これらは食用であれば特に限定されず、乳化剤としては、例えば、レシチン、脂肪酸モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、シュガーエステル等が挙げられ、増粘剤・安定剤としては、例えば、プルラン、サイリウム、アラビアガム、ジェランガム、グルコマンナン、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、アルギン酸塩、ファーセルラン、ローカストビーンガム、ペクチン、カードラン、およびそれらの低分子化物、澱粉、化工加工澱粉、各種α化デンプン、結晶セルロース、ゼラチン、デキストリン、寒天、デキストラン等が挙げられる。その他、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム等の糖類がある。これら上記に挙げた添加物の2種以上の併用、もしくは、それらの複合化物の併用も可能である。これらの添加剤の添加量は特に限定されず、一般的な量であることができ、節食時の飲料全量に対して、例えば、0.01?15質量%である。」

・「【0025】
[合成例1]β-グルカン含有糖化物
実施例に使用する、本製造方法によるβ-グルカン含有糖化物タンパク質分解反応・液化・糖化・固液分離・乾燥して製造したβ-グルカン含有糖化物の製造例を以下に示す。大麦(栽培品種:CDCファイバーCDCファイバー)の粉砕物50gを純水950gに分散させる。これに苛性ソーダを加えて、pHを6.0に調整する。これに、スミチームP(新日本化学工業製、Bacillus Subtilis由来プロテアーゼ)を15000U添加し、55℃で1時間反応する。この後、クライスターゼT10S(大和化成製、Bacillus Subtilis由来α-アミラーゼ)を2500U添加した後、加熱して1時間かけて90℃に昇温し、90℃で1時間反応する。次に、60℃まで冷却し、pHを変えずに糖化酵素としてβアミラーゼ#1500S(ナガセケムテックス製、大豆由来)先願の実施例1と同じならば:ハイマルトシン(阪急共栄物産製、小麦由来β?アミラーゼ)を500U、プルラナーゼ「アマノ」3(天野エンザイム製、Klebsiella pneumonial由来)を500U添加し、60℃で24時間反応する。反応液を70℃に加熱し、これをろ紙No.5C(東洋濾紙製)上に10gの珪藻土#800S(昭和化学工業製)をコートしたヌッチェに通液する。この濾過液を孔径5μのニトロセルロースタイプメンブランフィルター(東洋濾紙製)に通液した後、スプレードライ試験装置L-8i(大川原化工機製)にかけた。運転条件は、原液温度80℃、ディスクMC-50、回転数25000rpm、入口温度150℃で行い、粉体状の糖化物が得られた。β-グルカン含有量を[β-グルカンの定量方法]で測定したところ、10.0%であった。」

・「【0032】
[実施例2]果汁飲料
ピーチ果汁、果糖ぶどう糖液糖、有機酸、香料、水の全量に対し、4.2質量%の合成例1で得られたタンパク質分解反応・液化・糖化・固液分離・乾燥して製造したβ-グルカン含有糖化物を配合・攪拌混合し、UHT殺菌機で殺菌、冷却をして、β-グルカン含有果汁飲料を得た。果汁飲料は均一に溶解・分散し、食味・食感に優れていた。」

・「【0033】
[実施例3]健康飲料
果糖ぶどう糖液糖、マルトース、アスタキサンチン製剤、酸味料、安定剤、香料、水の全量に対し、6.0質量%の合成例1で得られたタンパク質分解反応・液化・糖化・固液分離・乾燥して製造したβ-グルカン含有糖化物を配合・攪拌混合し、UHT殺菌機で殺菌、冷却をして、健康飲料を得た。健康飲料は均一に溶解・分散し、食味・食感に優れていた。」

以上のことを総合すると、甲第1号証には、特に、実施例2の記載(【0032】及び【0025】)に着目すると、次の「甲1発明」が記載されていると認められる。

「ピーチ果汁、果糖ぶどう糖液糖、有機酸、香料、水の全量に対し、大麦からタンパク質分解反応・液化・糖化・固液分離・乾燥して製造した、β-グルカン含有量が10.0%のβ-グルカン含有糖化物を、4.2質量%配合・攪拌混合したβ-グルカン含有果汁飲料。」

イ 甲第2号証には、次の事項が記載されている。
・「これらの穀粒はほぼ同レベルの水抽出可能なアラビノキシランをも含む。つまり大麦については0.24-0.80%(w/w)であり、小麦については0.25-1.18%である」(7ページ11-13行)

・「大麦は1.7-4.1%(w/w)の水抽出可能なβ-グルカン及び3.6-6.4%(w/w)の総β-グルカンを含む」(7ページ22-23行)

ウ 甲第3号証には、次の事項が記載されている。
・「【0090】
本明細書中では『α-グルカン』とは、D-グルコースを構成単位とする糖であって、α-1,4-グルコシド結合によって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。α-グルカンは、直鎖状、分岐状または環状の分子であり得る。直鎖状α-グルカンとα-1,4-グルカンとは同義語である。直鎖状α-グルカンでは、α-1,4-グルコシド結合によってのみ糖単位の間が連結されている。α-1,6-グルコシド結合を1つ以上含むα-グルカンは、分岐状α-グルカンである。α-グルカンは、好ましくは、直鎖状の部分をある程度含む。本発明で使用されるα-グルカンは、好ましくは、アミロース、環状構造を有するグルカンまたは分岐構造を有するグルカンであり、より好ましくは環状構造を有するグルカンである。1分子のα-グルカンに含まれる糖単位の数を、このα-グルカンの重合度という。」

・「【0095】
α-グルカンの例としては、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉、環状グルカン(例えば、低分子グルカン、高分子グルカンおよび高度分岐環状グルカン)およびこれらの誘導体が挙げられる。」

エ 甲第4号証には、次の事項が記載されている。
・「食品名」が「おおむぎ」について、可食部100g当たりの「炭水化物(g)」の値として、「食品番号」が「01005」の「食品名」が「七分つき押麦」では「72.1」、「食品番号」が「01006」の「食品名」が「押麦」では「77.8」及び「食品番号」が「01007」の「食品名」が「米粒麦」では「76.2」である点。(1ページ)

オ 甲第5号証には、次の事項が記載されている。
・「【0006】
ポリデキストロースは、すべてのタイプのグリコシド結合を有する、ランダムに架橋されたグルコース単位からなる多糖である。ライテス(Litesse)ポリデキストロースは、グリコシド結合のユニークな配列により消化に抵抗性である。分子的に見ると、(α1→6)結合が優勢であるが、ポリマーの約13%は、ヒト小腸内の酵素によって加水分解され得る(α1→4)結合を有している。ライテスポリデキストロースは、結腸全体にわたって発酵し、遠位結腸中のプレバイオティック効果を媒介する上で特に効率が良い。ヒト介入研究により、ライテスポリデキストロースがビフィズス菌および乳酸桿菌の両方を用量依存的に強化することが実証されてきた。」

カ 甲第6号証には、次の事項が記載されている。
・「一方、低粘度の水溶性食物繊維として、ポリデキストロース(米国ファイザー社が開発)や難消化性デキストリンが食品分野で広く利用されている。」(明細書2ページ12-14行)

キ 甲第7号証には、次の事項が記載されている。
・「【請求項1】炭酸飲料中にDE6?30の澱粉分解物を0.5?5質量%添加することを特徴とする炭酸飲料の製造法。」

・「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、刺激性、クリーミー性、コク味などの味質を改善した炭酸飲料を経済的に安価に製造できる方法を提供することにある。」

・「【0014】本発明に使用する澱粉分解物とは、澱粉を酵素及び/又は酸を用いてDE6?30に分解したものを総称する。DE6?30の澱粉分解物としては、澱粉を水に分散し、これに酵素(例えば、アルファーアミラーゼ)及び/又は酸(例えば、塩酸や蓚酸)を添加し、加熱して糊化してDE6?30、好ましくはDE9?20に加水分解した澱粉分解物、澱粉を酸焙焼して得られるデキストリンにアルファーアミラーゼなどの酵素を作用させて得られる難消化性デキストリン(DE10?14程度)が例示され、必要に応じて脱色、脱イオンなどの精製をし、液状、或は噴霧乾燥、ドラム乾燥などで粉末状にして利用できる。また、これらに水素添加した還元澱粉分解物も同じように効果があるのでこれも包含する。」

・「【0024】
【実施例1】異性化糖65部(固形分80質量%)にクエン酸0.4部、サイダーフレーバ0.5部と松谷化学工業(株)製の澱粉分解物を0.5?30部又は和光純薬工業(株)製のサポニン1部を加え全量を100部し、混合して溶解後300メッシュの篩を通過させてシロップを製造した。澱粉分解物としては、「パインデックス#100」(商品名、DE3.8の澱粉分解物)、「パインデックス#1」(商品名、DE7.5の澱粉分解物)、「パインデックス#2」(商品名、DE11.8の澱粉分解物)、「TK-16」(商品名、DE16.0の澱粉分解物)、「パインデックス#3」(商品名、DE25.2の澱粉分解物)、「パインデックス#6」(商品名、DE40.5の澱粉分解物)及び「ファイバーソル#2」(商品名、DE11.5の難消化性デキストリン)を用いた。
【0025】それぞれのシロップから20部を100ml用の透明ガラス瓶2本に注入し、4℃以下に冷却後、「SUNTORY SODA」(商品名、サントリー株式会社製の炭酸水)80部をゆっくり添加して、直ちに打栓し、充分に混合してから70℃の湯に10分間浸漬(品温約65℃)して加熱、殺菌後、流水中で冷却した。冷却後室温と冷蔵で放置した。別に、異性化糖、クエン酸、サイーダーフレーバと炭酸水からなる対照品の飲料も同様にして製造し、同じように放置した。
【0026】室温放置1日後の飲料を20℃の恒温槽に60分間浸漬し、静かに取出し、ガス内圧計を取付けて針先で王冠を穿孔し、一度活栓を開いてガス抜きし、直ちに活栓を閉じてから激しく振とう(40秒)し、ゲージの指針が一定の値になったときの値を読み取った.読み取り後、ガス内圧計を取り外し液温を測定した.ゲージ圧と液温を炭酸ガス吸収係数に当てこんで飲料のガス内容圧力を測定した結果、実施した飲料は全て、2.2±0.1kg/cm^(2)の範囲に収まっていた。一方、冷蔵で保存した飲料は1週間後に王冠を取り外し、外観と味質を下記の基準で評価した結果を表1に示す。
【0027】尚、表1において、「パインデックス#100」、「パインデックス#1」、「パインデクス#2」、「パインデックス#3」、「パインデックス#6」を「#100」、「#1」、「#2」、「#3」、「#6」と表記し、「ファイバーソル2」は「FS-2」と表記した。
【0028】評価方法
外観
○:製造直後と全く変化なし。
×:白濁などの現象がみられ、製造直後と異なる状態になる。
味質(刺激性、クリーミ感、コク味、切れ、雑味)を対照品と比較する
◎:対照品に比して極めて良好
○:対照品に比べて良好
△:対照品とほぼ同じ
×:対照品より悪い」

・【0029】の【表1】には、【0024】ないし【0028】の記載と合わせると、「品名」が「#2」すなわち「『パインデックス#2』(商品名、DE11.8の澱粉分解物)」では、「DE」が「11.5」、「量」が「4.0」(質量部:炭酸飲料100部中の値。)、「外観」が「○」(製造直後と全く変化なし)、「刺激性」が「◎」(対照品に比して極めて良好)、「クリーミー性」が「○」(対照品に比べて良好)、「コク味」が「○」(対照品に比べて良好)等であることが記載されており、DE11.5の澱粉分解物を4.0質量%含有する炭酸飲料は、刺激性、クリーミー性、コク味などが良好なものであることが示されている。

ク 甲第8号証には、次の事項が記載されている。
・「【0011】実施例2
〔ドリンク剤〕
エリスリトール 12.0 g
難消化性デキストリン 5.0 g
カフェイン 0.015 g
アルギニン 0.35 g
生薬エキス 1.0 g
クエン酸 0.38 g
ジベンゾイルチアミン 0.0004g
ビタミンE 0.004 g
ビタミンC 0.1 g
ステビオサイド 0.007 g
香料 0.16 g
全量 100ml
上記の原料を常法に従って配合、調製し、100ml当たり16キロカロリーのコクのあるドリンク剤を製造した。」

ケ 甲第9号証には、次の事項が記載されている。
・「【特定保健用食品:商品詳細】
商 品 詳 細
食品名
タケダ せんい&ピーチ
形態:清涼飲料水
・・・
適切な利用法
1日1本(100ml、難消化性デキストリン(食物繊維として)7g含有)を目安にお飲みください。
・・・
【作用・効果および機序】
難消化デキストリンは上部消化管における消化吸収を免れて大腸に到着し、一部は腸内細菌に資化されて短鎖脂肪酸となり大腸内pHを低下させ、残る一部は糞便容積の増加に寄与するため、難消化性デキストリンの摂取により排便回数、排便量の増加及び便性状や排便感覚の改善等の効果が認められる。」(1ページ)

コ 甲第10号証には、次の事項が記載されている。
・「【特定保健用食品:商品詳細】
商 品 詳 細
食品名
ファイブミニ
形態:炭酸飲料
・・・
1本:100mlポリデキストロース7g
・・・
【関与成分】
ポリデキストロース(PD)
・・・
【作用・効果および機序】
PDは、難消化性の水溶性食物繊維である(1,2,3)。これにより、食物の消化管通過時間の短縮(1)、糞便重量の増加(1,4,5)、排便回数の増加(1,6)、糞便水分含量の増加(1,7)および糞便性状改善(4,5,8)が認められ、便秘改善の効果が期待される。」(1ページ)

サ 甲第11号証には、次の事項が記載されている。
・「水溶性食物繊維は,糖の消化吸収を緩慢にして血糖値の急な上昇を抑える糖尿病予防効果,胆汁酸の再吸収を抑えてコレステロールの産生を減らす脂質異常症の抑制効果が期待できる.また,水分を吸収してゲル化するため,胃腸粘膜の保護や空腹感の抑制作用がある.」(186(50)ページ左欄27-31行)

・「水溶性食物繊維にはガム質,ペクチン,藻類多糖類等が分類される.ガム質は・・・アガロース等がある.この他に,トウモロコシを原料として人工的に合成されるポリデキストロースや難消化性デキストリンも食物繊維として使用されている.」(186(50)ページ右欄12-25行)

シ 甲第12号証には、次の事項が記載されている。
・「【0038】前記ヘミセルロースB画分の分子量分布の測定結果を表12に示す。表12に示した結果から明らかなように、該ヘミセルロースB画分は、分子量10万以上が微量、分子量3万乃至10万が3%、分子量1万乃至3万が4%、分子量3000乃至1万が16%、分子量1000乃至3000が51%、分子量1000以下が26%である分子量分布を有するものである。一方、従来公知の肝機能改善作用を有する水溶性多糖類を主たる成分とする組成物の分子量に関しては以下のことが記載されている。即ち、特開平4-360835号公報には、アラビノキシランを有効成分とするアルコール性肝障害軽減物質は重量平均分子量が約10 万以上である旨記載されており、特開平3-285653号公報には、穀物ガム質を有効成分とする脂質代謝改善物は重量平均分子量が10万乃至100万である旨記載されている。また、特開平5-112455号公報には、アラビノキシランを主成分とする大腸癌抑制剤は、重量平均分子量が約10万以上であると記載されており、特開平10-237107号公報には、イネ科植物細胞壁由来のアラビノキシランを主な成分とする乳化力の優れた水溶性多糖類は、重量平均分子量が1万乃至100万であると記載されている。更に特開平9-23895号公報には、水溶性多糖体を主成分とする免疫力増強物質は平均分子量が60万または65万であると記載されている。」

ス 甲第13号証には、次の事項が記載されている。
・「Fungal Amylase is an alpha amylase enzyme preparation produced by Aspergillus oryzae. It is available as a liquid or a powder formulation. Side activities present are : hemi-cellulase, beta-glucanase and protease.」(1ページの表の下の段落)
(特許異議申立人提出甲第13号証抄訳文:ファンガルアミラーゼ(Fungal Amylase)はコウジカビ(Aspergillus oryzae)によって製造されたα-アミラーゼ酵素製剤である。ファンガルアミラーゼは液体又は粉体の形態で利用が可能である。存在する副活性は、ヘミセルラーゼ、β-グルカナーゼ及びプロテアーゼである。)

セ 甲第14号証には、次の事項が記載されている。
・「【0042】
[酵素のβ-グルカン分解活性の評価]
各種酵素(プロテアーゼ)におけるβ-グルカン分解活性の有無を調べるため、β-グルカン標準液と各種酵素とを混合し、50℃で16.5時間反応させた後の、β-グルカンの濃度を測定した。」

・「【0050】
図1から、No.4?9及び16のサンプルの酵素を用いた場合には、β-グルカンが多く分解されており、これらの酵素はβ-グルカン分解活性を示す成分を含有することが明らかとなった。これに対して、No.10、13、14及び18の酵素を用いた場合には、β-グルカンがほとんど分解されておらず、これらの酵素はβ-グルカン分解活性を示す成分をほとんど含有しないことが明らかとなった。」(【手続補正書】)

・「【0079】
【図1】プロテアーゼのβ-グルカン分解活性の評価におけるβ-グルカンの濃度を示す棒グラフである。
【図2】大麦の粉砕物の粒径測定を行った結果を示す棒グラフである。」

・【0047】の【表1】には、「No.」と「サンプル」の組合せとして、「4」と「ウマミザイムG」、「5」と「ニューラーゼF3G」、「6」と「プロテアーゼA[アマノ]G」、「7」と「プロテアーゼM[アマノ]G」、「8」と「プロテアーゼN[アマノ]G」、「9」と「プロテアーゼP[アマノ]3G」、「18」と「パパイン」が記載されている。

3 取消理由通知に記載した取消理由について
(1) 取消理由1.特許法第29条第2項
ア 特許発明1について
特許発明1と甲1発明とを対比する。
特許発明1の「発泡性アルコール飲料」と甲1発明の「β-グルカン含有果汁飲料」とは「飲料」の概念で共通している。
また、甲1発明の「ピーチ果汁、果糖ぶどう糖液糖、有機酸、香料、水の全量に対し、大麦からタンパク質分解反応・液化・糖化・固液分離・乾燥して製造した、β-グルカン含有量が10.0%のβ-グルカン含有糖化物を、4.2質量%配合・攪拌混合した」ことは、飲料に対し0.42質量%のβ-グルカンを含有するといえるので、特許発明1の「500ppm以上のアラビノキシランと、23000ppm以上のα-グルカンとを含」むこととは、「多糖類を含む」との概念で共通している。
したがって、両者は、
「多糖類を含む飲料。」
で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1] 多糖類として、特許発明1では「500ppm以上のアラビノキシランと、23000ppm以上のα-グルカンとを含」むのに対し、甲1発明では0.42質量%のβ-グルカンを含むものの、アラビノキシランとα-グルカンの含有量は不明な点。

[相違点2] 特許発明1では「20℃の粘度が2.0mPa・s以下である」のに対し、甲1発明では粘度は不明な点。

[相違点3] 「飲料」が、特許発明1では「発泡性アルコール飲料」であるのに対し、甲1発明では「β-グルカン含有果汁飲料」である点。

上記相違点1ないし相違点3について検討する。
[相違点1]について
甲1発明の「β-グルカン含有量が10.0%のβ-グルカン含有糖化物を、4.2質量%配合・攪拌混合した」ことは、飲料に対し0.42質量%、すなわち4200ppmのβ-グルカンを含有するのであるから、甲1発明は「4200ppmのβ-グルカンを含む」といえる。しかしながら、そのことから「500ppm以上のアラビノキシランと、23000ppm以上のα-グルカンとを含」むとはいえないし、又、上記相違点1に係る特許発明1の構成とすることが、当業者が容易に想到し得たことであるともいえないことは、以下のとおりである。
甲1発明の「大麦からタンパク質分解反応・液化・糖化・固液分離・乾燥して製造した、」「β-グルカン含有糖化物」は、甲第1号証の記載(【0025】)からすると、大麦をプロテアーゼ(ペプチド結合加水分解酵素)、α-アミラーゼ(デンプン、グリコーゲンなどのα-1,4結合をランダムに切断するエンド型の酵素であって、デンプン液化酵素、糊精化酵素とも呼ばれる。)で反応後、糖化酵素(β-アミラーゼ:アミロペクチンを分解)とプルラナーゼ(アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルランなどのα-1,6-グリコシド結合を切断するエンド型酵素)を共存させて反応させているから、反応後のアラビノキシラン、α-グルカン及びβ-グルカンの含有量の割合は、それぞれの分解反応の行われ方により自ずと異なるものであるから、大麦の状態での含有量の割合のまま一定に保たれるものとはいえない。そうすると、甲第2号証の記載から大麦に含有される水溶性のアラビノキシラン及び水溶性のβ-グルカンの割合が得られるとしても、甲1発明の「β-グルカン含有糖化物」のアラビノキシラン及びβ-グルカンの含有量の割合は大麦の状態の数値に保たれるものではなく、したがって、β-グルカンの含有量からアラビノキシランの含有量が得られるものではないから、結局、甲1発明の「β-グルカン含有糖化物」のβ-グルカンの含有量が得られてもアラビノキシランの含有量は不明であるというほかない。
そうすると、大麦が水抽出可能なアラビノキシランを0.24-0.80%(w/w)含有し、水抽出可能なβ-グルカンを1.7-4.1%(w/w)含有するとの甲第2号証記載の技術事項から、特許異議申立人が主張する(特許異議申立書16ページ10行-17ページ9行参照。)ように、各含有量の中点である0.52質量%と2.9質量%とを採用することで、仮に、大麦には水溶性β-グルカン1質量部に対し、0.179質量部のアラビノキシランが含まれているといえたとしても、甲1発明におけるβ-グルカンの含有量からアラビノキシランの含有量を特定できるものではない。
したがって、特許異議申立人の主張(特許異議申立書16ページ10行-17ページ918行参照。)に基づいて甲第2号証記載の技術事項を考慮しても、甲1発明が上記相違点1に係る特許発明1の構成を備えるとはいえないし、又、甲1発明をして上記相違点1に係る特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるともいえない。
そして、甲第3号証ないし甲第14号証をみても、甲1発明が上記相違点1に係る特許発明1の構成を備えるとはいえないし、又、甲1発明をして上記相違点2に係る特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるともいえない。

[相違点2]について
甲第1号証の【0021】の「添加量10質量%を超えるとゲル化はしないものの著しく粘度が上がるため、低粘度の飲料とするには、0.1?10質量%が好ましい」との記載からして、甲1発明は「低粘度」のものといえるが、その具体的な粘度は不明であるところ、例えば特許発明3の「500ppm以上のβ-グルカンをさらに含む」ものであっても「20℃の粘度が2.0mPa・s以下である」ものとし得るとしても、甲1発明は果汁飲料であって、β-グルカン以外にピーチ果汁、果糖ぶどう糖液糖等を含み、特許発明の実施例の発泡性アルコール飲料ほど低糖度でないことは明らかであるから、果汁飲料であること、その糖度と4200ppmのβ-グルカンを含むことからして、甲1発明は20℃の粘度が2.0mPa・s以下であるとまではいえない。したがって、甲1発明の粘度をどの程度とするかについて、飲みやすさ等を考慮したとしても、甲1発明をして上記相違点2に係る特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

[相違点3]について
甲1発明の「β-グルカン含有果汁飲料」は、「発泡性アルコール飲料」とはいえないし、甲第2号証ないし甲第14号証をみても、甲1発明をして発泡性とし、さらにアルコールを添加等して「発泡性アルコール飲料」とすることに動機付けがあるともいえない。そうすると、甲1発明をして、上記相違点3に係る特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

そうすると、甲1発明をして上記相違点1、相違点2及び相違点3に係る特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことでない。
そして、特許発明1は、その構成とすることにより、「飲料のコクを高めることができる」という効果を奏するものである(特許明細書【0009】)。
よって、特許発明1は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

イ 特許発明2ないし4について
特許発明2ないし4は、特許発明1を更に限定したものであって、特許発明2ないし4の上位の技術思想である特許発明1が上記「ア」のとおりであることから、少なくともその理由と同様に、特許発明2ないし4は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

ウ まとめ
以上のとおり、特許発明1ないし4は、甲1発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものということはできないから、特許発明1ないし4についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、取消理由1は理由がない。

(2) 取消理由2.特許法第36条第6項第1号
特許発明の効果は「飲料のコクを高めることができる」というものである(特許明細書【0009】)。また、特許明細書の実施例には、特許発明を発泡性アルコール飲料に適用した例が開示されており、実施例1で得られた発泡性アルコール飲料は顕著なコクを有するものと評価されている(特許明細書【0093】及び図1)。
そして、特許発明はそれぞれ「発泡性アルコール飲料」に係るものであるから、特許異議申立書に記載されているとおり(特許異議申立書22ページ末行から23ページ2行)、特許明細書の実施例1に記載された「発泡性アルコール飲料のコク」と「その他のアルコール飲料のコク」とを同様に扱うことはできないものの、実施例1の発泡性アルコール飲料の評価結果をもって、特許発明の発泡性アルコール飲料に求められているコクが高められることは明らかである。
したがって、特許発明1ないし4は発明の詳細な説明に記載した内容の範囲内のものであるから、訂正特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、取消理由2は理由がない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
上記「3 (1)」に記載したことからして、特許発明1ないし4は、甲第1号証に記載の発明ということはできないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、その特許を取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
500ppm以上のアラビノキシランと、23000ppm以上のα-グルカンとを含み、
20℃の粘度が2.0mPa・s以下である
ことを特徴とする発泡性アルコール飲料。
【請求項2】
前記アラビノキシランは、分子量が9000Da以上のアラビノキシランを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の発泡性アルコール飲料。
【請求項3】
500ppm以上のβ-グルカンをさらに含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡性アルコール飲料。
【請求項4】
前記β-グルカンは、分子量が1000Da以下のβ-グルカンを含む
ことを特徴とする請求項3に記載の発泡性アルコール飲料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-02 
出願番号 特願2011-187632(P2011-187632)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 茜  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 山崎 勝司
田村 嘉章
登録日 2016-01-22 
登録番号 特許第5871526号(P5871526)
権利者 サッポロビール株式会社
発明の名称 アラビノキシラン及びα-グルカンを含む飲料  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  

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