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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D06N
審判 全部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正  D06N
管理番号 1333170
異議申立番号 異議2016-701097  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-24 
確定日 2017-08-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5924763号発明「人工皮革及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5924763号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5924763号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5924763号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成21年12月31日(パリ条約による優先権主張2008年12月31日 韓国)に国際出願され、平成28年4月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人成田忍(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年1月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年4月11日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)があり、本件訂正請求に対して申立人から平成29年5月10日に意見書が提出されたものである。

第2.本件訂正の適否についての判断

1.本件訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付しつつ示すと、以下の訂正事項1及び2からなるものである。

(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1の
「溶剤に溶解される特性が互いに異なる、海成分の第1ポリマー及び島成分の第2ポリマーからなる海島型繊維を製造する工程と、
前記海島型繊維を用いて、密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲の不織布を製造する工程、ただし、前記不織布は、250?400g/m^(2)の範囲の単位重量、及び1.5?2.5mmの範囲の厚さを有する、と、
前記不織布を高分子弾性体溶液に浸漬して、前記不織布に高分子弾性体を含浸する工程と、
前記高分子弾性体が含浸された前記不織布において海成分である第1ポリマーを溶解させて除去する工程と、を含んでなり、前記第1ポリマーを溶解させて除去した後、人工皮革中の前記高分子弾性体が20?25重量%で含まれることを特徴とする、人工皮革の製造方法。」との記載において、
「・・・前記海島型繊維を用いて、密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲の不織布を製造する工程、ただし、前記不織布は、250?400g/m^(2)の範囲の単位重量、及び1.5?2.5mmの範囲の厚さを有する、と、・・・」とあるのを、「・・・前記海島型繊維を用いて、不織布を製造する工程、ただし、前記不織布は、250?400g/m^(2)の範囲の単位重量、及び1.5?2.5mmの範囲の厚さを有する、と、・・・」と、訂正する。(この訂正事項を、以下、「訂正事項1-1」という。)
そして、本件訂正前の請求項1に「・・・前記第1ポリマーを溶解させて除去した後、人工皮革中の前記高分子弾性体が20?25重量%で含まれることを特徴とする、人工皮革の製造方法。」とあるのを、「・・・前記第1ポリマーを溶解させて除去した後、人工皮革中の前記高分子弾性体が20?25重量%で含まれ、前記人工皮革中の不織布の密度が0.160?0.200g/cm^(3)であることを特徴とする、人工皮革の製造方法。」と訂正する。(この訂正事項を以下、「訂正事項1-2」という。)

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項4に、「前記製造された人工皮革において、前記不織布の密度は、0.180?0.196g/cm^(3)の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の人工皮革の製造方法。」とあるのを、「前記製造された人工皮革において、前記人工皮革中の不織布の密度は、0.180?0.196g/cm^(3)の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の人工皮革の製造方法。」

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項

(1)訂正事項1について

ア.本件訂正前の請求項1の不織布の密度の解釈について
本件特許明細書には以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、人工皮革に係り、より具体的には、最適の伸度特性を具備した人工皮革に関するものである。」

「【0003】
・・・人工皮革に要求される高機能性のうち、伸度特性は、屈曲がある製品において特に要求される。これは、屈曲のある製品に伸度特性が劣る人工皮革を適用する場合、成形工程時に人工皮革にシワが多く発生するからである。
【0004】
・・・自動車ヘッドライナーのように屈曲部位が多く存在する製品に使用するための人工皮革は、基本的に、優れた伸度特性を有さなければならない。ただし、人工皮革の伸度が大きすぎると成形時に人工皮革が過度に伸び、それによってシワが生じるという同様の問題が発生する。したがって、基本的に、優れた伸度特性を有する上、成形に最適化された伸度特性を有する、人工皮革が要求されている。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、屈曲部位が多く存在する製品に容易に適用可能な、最適化された伸度特性を具備した、人工皮革及びその製造方法を提供することを目的とする。」
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、成形に最適化された伸度特性を具備した人工皮革を得るための多数の繰り返し試験を通じて、最適の伸度特性の範囲を確認したし、そのような人工皮革の伸度特性は、不織布に含浸される高分子弾性体の含量によって大きく影響を受けることが分かった。」

「【0008】
また、人工皮革を構成する不織布の密度が、人工皮革の伸度特性に影響を与えることが分かった。すなわち、不織布の密度が大きくなりすぎると伸長しにくいので、不織布の密度を減らすことが好ましいが、不織布の密度が小さくなりすぎると伸長時に繊維組織が破壊されて、伸長後に回復されないという問題点が発生する。それに加えて、不織布に含浸される高分子弾性体が、その機能を発揮するためにも、不織布の密度が非常に重要であることが分かった。すなわち、不織布は、その内部に含浸される高分子弾性体の支持体の役割を果たす。不織布の密度が小さいと、高分子弾性体が不均一に分布し、その内部に穴が多く存在することになって、伸長時に不均一な部分に力が集中されて破断しやすくなる。したがって、最適化された伸度特性を有する人工皮革を得るためには、不織布の密度を最適化する必要があり、特に、高分子弾性体の含量の範囲を考慮して、不織布の密度を最適化することが好ましい。そこで、多数の実験を通じて、最適の不織布の密度範囲を設定することになった。」

「【0072】
3.実験例
高分子弾性体の含量測定、及び不織布の密度測定」

「【0073】
まず、10cm×10cmの大きさで人工皮革サンプルを準備した後、人工皮革サンプルの重量及び密度を測定する。
【0074】
前記人工皮革サンプルの密度(g/cm^(3))は、ピーコック(Peacock)厚度計を用いて、サンプルの5支点の厚さを測定して平均を求め、前記測定した重量及び面積から、まず単位重量を求め、その単位重量値を前記厚さ平均値で割って求める。
【0075】
次に、100%濃度のジメチルホルムアミド(DMF)溶液1000mlが入っているビーカーにサンプルを浸漬し、70℃で2時間加熱した後、マングルロールを用いてスクイージングして高分子弾性体を人工皮革サンプルから十分に除去する。この工程を3回繰り返して、人工皮革サンプルから高分子弾性体を完全に除去する。
【0076】
次に、複数回、人工皮革サンプルを流れる水に水洗し、マングルロールによってスクイージングして不織布シートのみを抽出した後、乾燥して、該抽出した不織布シートの重量を測定する。」

「【0079】
2)不織布の密度測定
下記式2の方法によって不織布の密度を計算する。
【0080】
【数2】



以上の摘記から、本件特許明細書には、最適の伸度特性を具備した人工皮革に関する発明(段落【0001】)が記載されていて、特に、屈曲部位が多く存在する製品に容易に適用可能な、最適化された伸度特性を具備した、人工皮革及びその製造方法を提供することをその課題とするものである(段落【0007】)。そして、人工皮革を構成する不織布の密度が人工皮革の伸度特性に影響を与えるという知見を得たこと、上記課題を解決するために、最適の不織布の密度範囲を設定し、最適化された伸度特性を有する人工皮革を得ようとしたものである。(段落【0008】)
また、本件特許明細書には、不織布の密度を、上記に摘記した段落【0080】の[式2]によって計算した実施例が記載されている。式2をみると、左辺の不織布の密度(g/cm^(3))を計算するために、右辺は、人工皮革サンプルの密度(g/cm^(3))に対して、分母を人工皮革サンプルの重量、分子を人工皮革サンプルから高分子弾性体を完全に除去して得られた不織布シートの重量とした分数を乗じている。式2において、不織布の密度は、人工皮革の全重量のうちの不織布シートが占める割合を、人工皮革サンプルの密度に掛けて計算されている。
そうすると、本件特許明細書には、不織布の密度として、海島型繊維から海成分を溶出させた後の、人工皮革中の不織布の密度が記載されており、それ以外の不織布の密度の定義は本件特許明細書に記載されていないし、示唆する記載もない。
したがって、本件訂正前の請求項1に記載された「前記海島型繊維を用いて、密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲の不織布」の「密度」とは、人工皮革中の不織布の密度であると解するのが相当である。

イ.訂正事項1についての判断
上記ア.に示したとおり、本件訂正前の請求項1に記載された「前記海島型繊維を用いて、密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲の不織布」の「密度」とは、人工皮革中の不織布の密度であると解するのが相当である。
そして、訂正事項1は、訂正事項1-1により、本件訂正前の請求項1の「・・・前記海島型繊維を用いて、密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲の不織布を製造する工程・・・」との記載のうち、「密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲」を「海島型繊維を用いて、・・・不織布を製造する工程」についての記載から削除するとともに、訂正事項1-2により、「不織布の密度」が「人工皮革中の」ものであることを明記しつつ、「人工皮革中」の成分について記載している段落に「前記人工皮革中の密度が0.160?0.200g/cm^(3)」との構成を挿入するものである。
したがって、訂正前は、不織布の密度を特定する記載が、海島型繊維を用いて不織布を製造する工程に記載されていたため、わかり難い記載となっていたものを、訂正事項1により、正しい製造工程の箇所に記載するように訂正するものであって、人工皮革中の不織布の密度であることを明瞭とするためのものであるから、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、本件訂正前の請求項1には、「密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲の不織布」との記載があり、上記ア.に示したように「密度」は、人工皮革中の不織布の密度であると解することが相当であるから、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
上記(1)ア.に示したように、不織布の密度とは、人工皮革中の不織布の密度であると解するのが相当である。そして、訂正事項2は、本件訂正前の「不織布の密度」との記載に対し、「人工皮革中の」との語句を追加して「不織布の密度」が、人工皮革中の不織布の密度であることを明瞭とする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)一群の請求項について
本件訂正は、本件特許の請求項1と請求項1を直接あるいは間接に引用する請求項2?5を対象とする訂正であるから、一群の請求項に対して請求されたものである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。

第3.特許異議の申立てについて

1.本件発明
本件訂正後の訂正請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
溶剤に溶解される特性が互いに異なる、海成分の第1ポリマー及び島成分の第2ポリマーからなる海島型繊維を製造する工程と、
前記海島型繊維を用いて、不織布を製造する工程、ただし、前記不織布は、250?400g/m^(2)の範囲の単位重量、及び1.5?2.5mmの範囲の厚さを有する、と、
前記不織布を高分子弾性体溶液に浸漬して、前記不織布に高分子弾性体を含浸する工程と、
前記高分子弾性体が含浸された前記不織布において海成分である第1ポリマーを溶解させて除去する工程と、を含んでなり、前記第1ポリマーを溶解させて除去した後、人工皮革中の前記高分子弾性体が20?25重量%で含まれ、前記人工皮革中の不織布の密度が0.160?0.200g/cm^(3)であることを特徴とする、人工皮革の製造方法。
【請求項2】
前記高分子弾性体溶液は、5?20重量%の濃度範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項3】
前記不織布を高分子弾性体溶液に浸漬する工程は、前記高分子弾性体溶液の温度を10?30℃の範囲に維持した状態で、0.5?15分間、前記不織布を浸漬する工程からなることを特徴とする、請求項2に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項4】
前記製造された人工皮革において、前記人工皮革中の不織布の密度は、0.180?0.196g/cm^(3)の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項5】
前記海島型繊維を製造する工程は、前記第1ポリマーは10?60重量%で含まれ、前記第2ポリマーは40?90重量%で含まれるようにし、第1ポリマーには共重合ポリエステルを利用し、前記第2ポリマーにはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、又はポリブチレンテレフタレートを利用することを特徴とする、請求項1に記載の人工皮革の製造方法。」

2.取消理由の概要
本件訂正前の本件特許の請求項1?5に係る特許に対して、当審が平成29年1月5日付けで通知した取消理由通知の概要は以下のとおりである。

【理由1】
本件特許に係る出願について、平成26年8月29日付け手続補正書でした補正は、以下のa.及びb.により、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

a.平成26年8月29日付け手続補正書による補正は、後に本件特許請求の範囲の請求項1となった出願当初の請求項6に「前記海島型繊維を用いて不織布を製造する工程と、」に対して、「前記海島型繊維を用いて、密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲の不織布を製造する工程と、」との記載を追加した。しかしながら、本件の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲には、海島型繊維の不織布の密度の記載はなく、その下限値の「0.160g/cm^(3)」の数値も、その上限値の「0.200g/cm^(3)」の数値も記載はない。したがって、この補正は、本件特許に係る出願の当初の明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない新たな技術的事項を導入する補正である。

b.本件特許の請求項4の「前記不織布」の「前記」が「海島型繊維の不織布」を指しているならば、0.180?0.196g/cm^(3)の範囲であるような海島型繊維の不織布の密度は、本件特許に係る出願の当初の明細書等に記載されていない。

【理由2】
本件特許の特許請求の範囲の記載は、以下の理由により、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

本件特許の請求項4に係る発明においては、「前記製造された人工皮革において、前記不織布の密度は、0.180?0.196g/cm^(3)の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の人工皮革の製造方法」を特定するが、その「前記不織布」は、「前記製造された人工皮革において、」のように修飾されていることから、海島型繊維の不織布から海成分である第1ポリマーを溶解させて除去する工程を経て、製造された人工皮革中に含まれる、「極細繊維の不織布」を意味するものと解することができる。しかしながら、先行する請求項には海島型繊維の不織布しか存在しない点で、請求項4の「前記不織布」は「海島型繊維の不織布」を指すことになっている点で、本件特許の特許請求の範囲の記載が不明確である。

【理由3】
本件特許の特許請求の範囲の記載は、以下の理由により、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

本件明細書の発明の詳細な説明には、「前記海島型繊維を用いて、密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲の不織布を製造する工程」に関して一切記載されていない。したがって、本件特許の各請求項に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により本件特許の各請求項に係る発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載された範囲を明らかに超えている。

3.当審の判断

(1)理由1について
本件訂正が認められることにより、本件発明1に係る不織布の密度は、「人工皮革中の不織布の密度が0.160?0.200g/cm^(3)である」とされ、当該事項は本件特許に係る出願の当初の明細書等に記載した事項であるから(上記第2の2.(1)参照)、理由1は理由のないものとなった。

(2)理由2について
本件訂正が認められることにより、本件特許の請求項4の記載は、「前記人工皮革中の不織布」となり、当該「不織布」が、「人工皮革中」のものであることが明確となって、請求項1の記載とも整合することとなった。したがって、理由2は理由のないものとなった。

(3)理由3について
本件訂正が認められることにより、本件特許の請求項1の「前記海島型繊維を用いて、不織布を製造する工程」との記載については、本件特許明細書の、段落【0038】?【0055】の、人工皮革の製造方法の記載、特に段落【0045】の、高分子弾性体を含浸させる前段階として、海島型繊維をカーディング工程及びクロスラッピング工程を通じてウェブを形成した後、ニードルパンチを用いて製造する旨の記載に基づくものとなった。そうすると、本件特許明細書には、海島型繊維を用いて、不織布を製造する工程が記載されているものといえる。したがって、理由3は理由がないものとなった。

4.申立人の意見について

(1)申立人は、平成29年5月10日付けで意見書を提出し、「(3)訂正事項1が特許法第120条の5第2項で規定された訂正の目的要件に適合していない理由」において、本件訂正前の請求項1の記載自体は明瞭であるから、訂正事項1-1の訂正は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とすることには当たらない、旨主張する。
しかし、上記第2.の2.(1)ア.に示したように、本件特許の請求項1に記載された不織布の密度とは、本件特許明細書の記載からみて、人工皮革中の不織布の密度と解すべきであるところ、本件訂正前の「前記海島型繊維を用いて、密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲の不織布を製造する工程」との記載は、「密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲」の記載が、「海島型繊維を用いて・・・不織布を製造する工程」中に記載されていることもあり、「密度」の解釈として、上記解釈以外採り得ないことが明瞭である記載とは、必ずしもいえないものであった。
そして、特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載の不備を訂正し、その本来の意味を明らかにすることも、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正といえるところ、訂正事項1-1は、「不織布の密度」について、明細書の記載と、特許請求の範囲の記載との関係で、不合理が生じているために不明瞭となっている記載の不備を訂正し、その本来の意味、すなわち、「不織布の密度」とは「人工皮革中の不織布の密度」であることを明らかにするためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるといえる。よって、申立人の主張を採用することができない。

(2)申立人は、上記意見書の「(4)訂正事項1が特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の特許請求の範囲の実質拡張・変更を禁止する規定に適合しないことについて」において、訂正事項1-1は、海島型繊維の不織布について、「密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲の不織布」を密度に限定されない「不織布」にまで拡大するものであり、直列的要素を一部削除するものであり、「実質上特許請求の範囲を拡張又は変更する訂正」に該当する旨、主張する。
しかし、「密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲」との事項は、本来、海島型繊維の不織布についてではなく、上記第2.の2.(1)ア.に示したように、人工皮革中の不織布の密度であると解するのが相当であり、訂正事項1-2は、請求項1に記載された「人工皮革」に対して、「前記人工皮革中の不織布の密度が0.160?0.200g/cm^(3)である」との限定を施している。そうすると、上記箇所からは省かれた「密度が0.160?0.200g/cm^(3)の範囲の不織布」は、訂正事項1-2によって、「人工皮革中の不織布の密度」を限定する構成として、正しい箇所に付加されているから、訂正事項1-1及び1-2を全体としてみると、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更する訂正であるとはいえない。よって、申立人の主張は採用することができない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特
許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤に溶解される特性が互いに異なる、海成分の第1ポリマー及び島成分の第2ポリマーからなる海島型繊維を製造する工程と、
前記海島型繊維を用いて、不織布を製造する工程、ただし、前記不織布は、250?400g/m^(2)の範囲の単位重量、及び1.5?2.5mmの範囲の厚さを有する、と、
前記不織布を高分子弾性体溶液に浸漬して、前記不織布に高分子弾性体を含浸する工程と、
前記高分子弾性体が含浸された前記不織布において海成分である第1ポリマーを溶解させて除去する工程と、を含んでなり、前記第1ポリマーを溶解させて除去した後、人工皮革中の前記高分子弾性体が20?25重量%で含まれ、前記人工皮革中の不織布の密度が0.160?0.200g/cm^(3)であることを特徴とする、人工皮革の製造方法。
【請求項2】
前記高分子弾性体溶液は、5?20重量%の濃度範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項3】
前記不織布を高分子弾性体溶液に浸漬する工程は、前記高分子弾性体溶液の温度を10?30℃の範囲に維持した状態で、0.5?15分間、前記不織布を浸漬する工程からなることを特徴とする、請求項2に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項4】
前記製造された人工皮革において、前記人工皮革中の不織布の密度は、0.180?0.196g/cm^(3)の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項5】
前記海島型繊維を製造する工程は、前記第1ポリマーは10?60重量%で含まれ、前記第2ポリマーは40?90重量%で含まれるようにし、第1ポリマーには共重合ポリエステルを利用し、前記第2ポリマーにはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、又はポリブチレンテレフタレートを利用することを特徴とする、請求項1に記載の人工皮革の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-04 
出願番号 特願2011-543444(P2011-543444)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (D06N)
P 1 651・ 561- YAA (D06N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮澤 尚之細井 龍史  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 久保 克彦
井上 茂夫
登録日 2016-04-28 
登録番号 特許第5924763号(P5924763)
権利者 コーロン インダストリーズ インク
発明の名称 人工皮革及びその製造方法  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  

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