• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
管理番号 1333176
異議申立番号 異議2016-700407  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-10 
確定日 2017-08-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5807701号発明「眼底撮影装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5807701号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第5807701号の請求項1?4及び6に係る特許を維持する。 特許第5807701号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5807701号の請求項1?6に係る特許についての出願は,平成26年5月28日に特許出願され,平成27年9月18日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人箕浦裕美子(以下,「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ,平成28年7月11日付けで取消理由が通知され,同年9月2日に特許権者と面接を行い,その取消理由通知の指定期間内である同年9月9日に意見書の提出及び訂正の請求があり,その訂正の請求に対して同月28日付けで訂正拒絶理由が通知され,特許権者から同年11月2日付けで訂正請求書に対する手続補正及び意見書の提出があり,その手続補正がなされた訂正の請求に対して申立人から同年12月21日付けで意見書が提出されたものである。
さらに,平成29年1月30日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ,同年3月10日に特許権者と面接を行い,その取消理由通知(決定の予告)の指定期間内である同年3月30日に意見書の提出及び訂正の請求があり,その訂正の請求に対して申立人から同年6月7日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)?(4)のとおりである(訂正箇所を示す下線を当審が付した。)。

(1)訂正事項1及び6
請求項1及び4に係る「光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズと,」を,「被験者眼の視度に応じたフォーカス調整を行うために光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズと,前記フォーカシングレンズを光軸方向に移動させるモータと,」に訂正する。

(2)訂正事項2?5
請求項1に係る「前記フォーカス検出手段による前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果に基づいて,前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に前記フォーカシングレンズを移動させるフォーカス調整手段」を,「前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の撮影のトリガ信号を入力するよりも前に,前記フォーカス検出手段による前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果に基づいて前記モータを駆動することで,前記第1の波長の光による前記眼底観察像の前記撮像素子上でのフォーカスがずれる位置であり且つ前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の前記撮像素子上でのフォーカスが合う位置である前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に,前記フォーカシングレンズを自動的に移動させるフォーカス調整手段」に訂正する。

(3)訂正事項7?10
請求項4に係る「前記フォーカス検出手段による前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果と,前記第1の波長の光による眼底観察の際と第2の波長の光による眼底撮影の際との光学的な光路差とを考慮して,前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に前記フォーカシングレンズを移動させるフォーカス調整手段」を,「前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の撮影のトリガ信号を入力するよりも前に,前記フォーカス検出手段による前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果と,前記第1の波長の光による眼底観察の際と第2の波長の光による眼底撮影の際との光学的な光路差とを考慮して前記モータを駆動することで,前記第1の波長の光による前記眼底観察像の前記撮像素子上でのフォーカスがずれる位置であり且つ前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の前記撮像素子上でのフォーカスが合う位置である前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に,前記フォーカシングレンズを自動的に移動させるフォーカス調整手段」に訂正する。

(4)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

2 訂正の目的の適否,一群の請求項,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)上記1(1)の訂正事項1及び6に関連する記載として,段落0024,0025,0036,0037,0040等には,被験者眼の「眼底観察」する際に「フォーカス調整」が行われることが記載されており,その際には角膜,水晶体のような各被験者眼の「視度」に密接に関係する眼球組織を入射光,反射光が通過することは明らかであるところ,当該「フォーカス調整」が各被験者眼の「視度」の影響を加味したもの,すなわち,「被験者眼の視度に応じたもの」であることは明細書の記載から自明な事項であるといえる。
また,段落0014,0020,0037には,「フォーカシングレンズを光軸方向に移動させるモータ」が記載されている。
したがって,上記1(1)の訂正事項1及び6は,明細書に記載された事項の範囲内において眼底撮影装置を限定したものといえるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)上記1(2)の訂正事項2に関連する記載として,請求項5に「前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の撮影のトリガ信号を入力するよりも前に,前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果に基づいて,前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に前記フォーカシングレンズを移動させる」ことが記載されている。その他にも,段落0040にも同様の事項が記載されている。
また,上記1(2)の訂正事項3?5に関連する記載として,段落0024には「無散瞳撮影(赤外光)の眼底観察では,ダイクロイックミラー24が光路上に挿入されているため,散瞳撮影に対してフォーカスの合致点に光学的なずれが生じることになる。そこで,ダイクロイックミラー24が離脱しているときにフォーカスが合った(スプリット指標が合致する)状態で,ダイクロイックミラー24が挿入されることによるスプリット指標S1・S2の分離(ずれ)量を予め合致基準情報としてメモリ85に記憶させておき,ダイクロイックミラー24が挿入された状態でフォーカス調整を行う場合に,メモリ85に記憶された合致基準情報に基づいてフォーカス調整の完了を判断できるようにする」ことが記載され,段落0037には,「撮像素子35で光学的なスプリット指標S1・S2が検出されると,制御部80は,スプリット指標像S1・S2の分離状態とメモリ85に記憶されている合致基準情報とを比較することによりフォーカス状態を得る。そして制御部80はスプリット指標S1・S2のずれ量が合致基準情報と同じずれ量となるように移動機構49の駆動によりフォーカシングレンズ32を光軸L1上で移動させて,フォーカス調整を自動的に行う。」が記載されており,段落0014の「モータ(ステッピングモータ等)を備える移動機構49」との記載を併せて参酌すると,明細書には,「赤外光を用いたフォーカス状態の検出結果に基づく,可視光による前記眼底撮影像の合焦位置へのフォーカシングレンズの移動」は,「モータを備える移動機構49」の駆動により「自動的に」行われることが記載されているといえる。
したがって,上記1(2)の訂正事項2?5は,明細書に記載された事項の範囲内において眼底撮影装置を限定したものといえるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(3)上記(2)と同様の理由により,上記1(3)の訂正事項7?10は,明細書に記載された事項の範囲内において眼底撮影装置を限定したものといえるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(4)上記1(4)の訂正事項11は,特許請求の範囲の請求項5の削除であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(5)訂正事項1?11に係る訂正前の請求項1?6について,請求項2,3,5,6は直接的又は間接的に「請求項1」または「請求項4」を引用しているものであって,訂正事項1?10によって記載が訂正される「請求項1」または「請求項4」に連動して訂正されるものである。
したがって,訂正前の請求項1?6に対応する訂正後の請求項1?6は,特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして,訂正事項1?11による訂正は,特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項ごとに」適法に請求されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び,同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正後の請求項〔1?6〕について訂正を認める。

第3 本件訂正発明について
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?6に係る発明(以下,「本件訂正発明1」?「本件訂正発明6」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
被検者眼眼底を撮影する眼底撮影装置において,
被験者眼の視度に応じたフォーカス調整を行うために光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズと,前記フォーカシングレンズを光軸方向に移動させるモータと,可視域及び赤外域に感度を有する撮像素子とを備え,第1の波長の光による眼底観察像と前記第1の波長とは異なる第2の波長の光による眼底撮影像の両方を前記撮像素子により取得する眼底観察・撮影光学系と,
前記撮像素子に対する被検者眼眼底のフォーカス状態を,前記第1の波長の光による眼底観察の際に前記撮像素子から出力される信号を用いて検出するフォーカス検出手段と,
前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の撮影のトリガ信号を入力するよりも前に,前記フォーカス検出手段による前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果に基づいて前記モータを駆動することで,前記第1の波長の光による前記眼底観察像の前記撮像素子上でのフォーカスがずれる位置であり且つ前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の前記撮像素子上でのフォーカスが合う位置である前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に,前記フォーカシングレンズを自動的に移動させるフォーカス調整手段と,
を備えることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項2】
請求項1の眼底撮影装置において,
前記第1の波長の光は赤外光であり,前記第2の波長の光は可視光であることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項3】
請求項1又は2の眼底撮影装置において,
前記第2の波長の光による前記眼底撮影像は,可視光の蛍光による眼底撮影像であることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項4】
被検者眼眼底を撮影する眼底撮影装置において,
被験者眼の視度に応じたフォーカス調整を行うために光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズと,前記フォーカシングレンズを光軸方向に移動させるモータと,可視域及び赤外域に感度を有する撮像素子とを備え,第1の波長の光による眼底観察像と前記第1の波長とは異なる第2の波長の光による眼底撮影像の両方を前記撮像素子により取得する眼底観察・撮影光学系と,
前記撮像素子に対する被検者眼眼底のフォーカス状態を,前記第1の波長の光による眼底観察の際に前記撮像素子から出力される信号を用いて検出するフォーカス検出手段と,
前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の撮影のトリガ信号を入力するよりも前に,前記フォーカス検出手段による前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果と,前記第1の波長の光による眼底観察の際と第2の波長の光による眼底撮影の際との光学的な光路差とを考慮して,前記第1の波長の光による前記眼底観察像の前記撮像素子上でのフォーカスがずれる位置であり且つ前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の前記撮像素子上でのフォーカスが合う位置である前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に,前記フォーカシングレンズを移動させるフォーカス調整手段と,
を備えることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項5】
削除
【請求項6】
請求項1?4のいずれかの眼底撮影装置において,
前記フォーカス調整手段によって前記フォーカシングレンズが前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に移動された場合に,前記第2の波長による前記眼底撮影像の撮影を自動で実行する自動撮影手段をさらに備えたことを特徴とする眼底撮影装置。」

第4 特許異議の申立てについて
1 取消理由通知及び取消理由通知(決定の予告)の概要
訂正前の請求項1?6に係る特許,および,訂正後の請求項1?4,6に係る特許は,いずれも,甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2 判断
(1)甲号証の記載事項
ア 甲第1号証(特開平2-99032号公報)の記載事項
取消理由通知において引用した甲第1号証には,次の事項が記載されている(下線は,当審により付加したもの。)。
(ア)特許請求の範囲
「【特許請求の範囲】
(1)被検眼観察時に,被検眼に赤外光を照射して得られる赤外光の被検眼像とこの赤外光の被検眼像のアライメントを調整するための基準指標像とを光電変換装置に投影させる結像光学系と,前記被検眼観察時に,前記光電変換装置からの信号により前記赤外光の被検眼像と前記基準指標像とを可視像として表示する表示部を有する眼科検査装置において,
前記被検眼に可視光を照射して得られる可視光の被検眼像を前記結像光学系を介して撮影する被検眼撮影時に,前記光電変換装置に投影される前記可視光の被検眼像を電子画像として記録可能な記録部と,
前記結像光学系に設けられ,前記被検眼撮影時に赤外光の被検眼像と可視光の被検眼像との各焦点位置のずれを補正する合焦位置補正手段と,前記被検眼撮影時に前記基準指標像を無効化するための指標像解消手段と,
を有することを特徴とする眼科検査装置。」

(イ)第2頁左上欄第1-4行
「(産業上の利用分野)
本発明は,赤外光により被検眼のアライメント等の調整を行った後に,可視光により被検眼像の撮影を行う眼科検査装置に関する。」

(ウ)第2頁左上欄第6行-右上欄第16行
「 従来から,眼科検査装置には,赤外光を被検眼に照射して被検眼のピント合せ及びアライメント調整を行った後に,可視光を被検眼に照射して撮影を行うものが知られている。
この種の眼科検査装置としては,散瞳剤を使わずに被検眼を自然な無散瞳状態としたまま,フィルムにより撮影する無散瞳眼底カメラが知られている。
この無散瞳眼底カメラは,被検眼の観察時には赤外光により被検眼を照明するため,可視域だけでなく赤外域まで感度があるテレビカメラを使用しており,テレビカメラで得られた被検眼の観察像をテレビモニター上で可視像とし,これによってアライメント等の調整をした後,被検眼眼底に可視光を照射してフィルム上に眼底像を撮影するように構成されている。
一方,近年,画像処理技術,コンピュータ技術の発達,光ディスクなど大容量の記憶装置の発達に伴い,画像を従来のフィルム撮影でなくディジタル又はアナログの電子画像情報として記憶させて利用する試みがなされている。眼科医科用の写真についても同様で,赤外光で被検眼を観察して可視光で撮影を行う従来の眼科検査装置において,フィルムの代りに電子画像として撮影を行う場合,観察時に用いるテレビカメラを可視光の撮影の際にも利用することが考えられる。
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら,この場合,赤外光と可視光とでは眼底像の結像位置が異なるため,赤外光で観察してピント合せを行っても,可視光の撮影の場合にピントが合わなくなる問題がある。」

(エ)第2頁左下欄第7-12行
「可視光と赤外光との波長の差により生ずるピントずれの問題及び撮影時に指標像が写し込まれる問題を解決することにより,観察時に用いるテレビカメラを撮影時にも共用出来る眼科検査装置を提供することを目的とする。」

(オ)第3頁左上欄第11行-右上欄第13行
「(作用)
本発明の請求項1にかかる眼科検査装置によれば,被検眼の観察時に赤外光を被検眼に照射して得られる赤外光の被検眼像は,結像光学系を介して光電変換装置に投影される。このとき光電変換装置には赤外光の被検眼像とアライメント用の基準指標像が投影される。光電変換装置に投影されたこれらの像は表示部により可視像として表示される。これによって,被検眼のアライメント調整を行うことができる。被検眼のアライメント調整後には,指標像解消手段により基準指標像を解消し,可視光を照射して可視光による被検眼像を撮影する。この被検眼撮影の際には,可視光の被検眼像は結像光学系を介して光電変換装置に投影されるが,このとき,合焦位置補正手段により赤外光の合焦位置と可視光の合焦位置のズレが補正され,可視光による被検眼像は光電変換装置上に結像する。アライメント用の基準指標像は解消されているので,光電変換装置には可視光の被検眼像のみが投影され,この可視光の被検眼像は表示部に表示される。また,光電変換装置に投影された可視光の被検眼像は記憶部により記憶され,被検眼の画像情報として利用される。」

(カ)第3頁左下欄第3行-右下欄第7行
「第1図は,本実施例にかかる眼底カメラ1の構成を示しており,眼底カメラ1は,被検眼2を観察,撮影する結像光学系10と,被検眼2に照明光を照射する照明光学系20と,結像光学系10からの像を受像するテレビカメラ30(光電変換装置)と,テレビカメラ30で受像した像を記憶可能なコントローラ40(記憶部)と,テレビカメラ30で受像した像を可視像として表示するテレビモニター(表示部)と,被検眼像を撮影するフィルム式カメラ60と,合焦位置補正手段としてのガラス板70と,観察時のアライメント指標を解消する指標像解消手段としてのレチクル/ガラス板駆動部80と,被検眼2に対する眼底カメラ1の作動距離を調整するための作動距離調整指標を照射する作動距離指標投影系90とを備えている。
結像光学系10は,被検眼に臨む対物レンズ系11と,照明光学系20からの照明光を対物レンズ系11を介して被検眼2に反射する孔あきミラー12と,作動距離指標投影系90からの作動距離調整指標を被検眼2に照射する小ミラー13と,合焦レンズ系14と,結像レンズ系15と,クイックリターンミラー16と,レチクル17と,反射ミラー18と,リレーレンズ19とを有している。」

(キ)第4頁左上欄第11行-右上欄第2行
「照明光学系20は,観察時の照明光源21と,撮影時の照明光源としてのストロボ管22と,照明光源21からの光を集光する観察用コンデンサレンズ系23と,ストロボ管22からの光を集光する撮影用コンデンサレンズ系24と,観察用コンデンサレンズ系23からの光の赤外成分のみを反射し,撮影用コンデンサレンズ系24からの光の可視成分を透過させるホットミラー25と,ホットミラー25からの光をリング状に形成するリング絞り26と,リング絞り26からのリング光を結像光学系10の孔あきミラー12に導く照明用リレーレンズ系27とを有している。」

(ク)第4頁左下欄第10行-第5頁左上欄第8行
「 先ず,眼底カメラ1の図示しないメインスイッチをオンさせると,CPU43,テレビカメラ30,テレビモニタ50が立上り, 観察用の照明光源21が点灯すると共に,作動距離調整装置90が作動可能な状態になり,眼底カメラ1が被検眼2を観察するための観察状態になる。
観察状態のとき,CPU43からの信号により,レチクル/ガラス板駆動部80はレチクル17を結合光学系10の光路l上に挿入し,クイックリターンミラー駆動部16aはクイックリターンミラー16を上昇位置に位置するように制御される。この状態にあるとき,テレビカメラ30に投影された被検眼像は,フレームメモリ41をこの状態にあるとき,テレビカメラ30に投影された被検眼像は,フレームメモリ41を介してテレビモニタ50に表示される。テレビモニタ50に表示された被検眼像を観察する観察者の操作により,作動距離調整装置90からの作動距離調整指標に基づいて眼底カメラ1の作動距離が調整され,被検眼2の眼底像がレチクル17のアライメント指標の中心位置に位置してテレビカメラ30に表示されるようにアライメント調整とピント合せが行われると,眼底カメラ1は撮影可能な状態となる。
次に,モード設定スイッチ44でテレビカメラ撮影モードを設定し,撮影スイッチであるトリガスイッチ22bをオンさせると,このトリガスイッチ22bのオン信号がインターフェイス42を介してCPU43に入力されると同時にCPU43からの指令により,インターフェイス42を介してレチクル/ガラス板駆動部80を駆動させ,レチクル17のあった位置にガラス板70を位置させた後に,ストロボ駆動部22aを駆動してストロボ管22を発光させる。このストロボ管22の発光はビデオ同期分離部41aからの信号に基づきテレビカメラ30の受像タイミングに合わせて行われる。ストロボ管22の発光により得られた被検眼2の眼底像は,ガラス板70を介してテレビカメラ30の受光面上に結像し,テレビカメラ30で光電変換された後フレームメモリ41に新たに記憶される。」

(ケ)第5頁左下欄第14-17行
「第3図,第4図は,結像光学系10の光路lを通る赤外光の合焦位置と可視光の合焦位置とのずれを補正する合焦位置補正手段としてのガラス板70の作用を示している。」

(コ)第5頁右下欄第8-19行
「第3図はガラス板70がないときの赤外光IRの合焦位置A1と可視光Rの合焦位置A2とのずれを示したものであり,結像レンズ系15及びリレーレンズ系19を透過した可視光Vの被検眼像は,赤外光IRの合焦位置A1よりリレーレンズ系19に近い合焦位置A2に結像するが,第4図に示すように,ガラス板70を光路l上に挿入すると,可視光Vの合焦位置A2は赤外光IRの合焦位置A1に一致して合焦位置A1,A2とのずれが補正される。 これによって,テレビカメラ30の受光面には赤外光IR被検眼像と同様に可視光Vの被検眼像が結像する。」

(サ)第6頁左上欄第9-17行
「尚,赤外光IRの被検眼像の合焦位置と可視光Vの被検眼像の合焦位置とのずれを補正する方法としては,上記の他に,ガラス板70の代りにレンズを挿入する方法,ピエゾ素子若しくはソレノイドを使用して孔あきミラー12以後の何れかのレンズ若しくはテレビカメラ30の受光面を移動させる方法,或いは,孔あきミラー12からテレビカメラ30までの何れかのレンズを液晶レンズとしてピント調整を行う方法で行っても良い。」

(シ)図1



(ス)図3



(セ)図4



イ 甲1発明
(ア)上記ア(イ)の「眼科検査装置」は,実施例の上記ア(カ)の「眼底カメラ1」を含むものである。そうすると,上記ア(イ)の「眼科検査装置」である「眼底カメラ1」が撮影する「被検眼像」とは,上記ア(ク)の「被検眼2の眼底像」ということになる。
よって,上記点を踏まえると,上記ア(イ),上記ア(カ)及び上記ア(ク)から,甲第1号証には,「被検眼2の眼底像を撮影する眼底カメラ1」が記載されているといえる。

(イ)上記ア(ク)に摘記したとおり,第4頁左下欄第10行-第5頁左上欄第8行には,被検眼2の眼底像の観察をする際に「ピント合せ」が行われることが記載されており,その際には角膜,水晶体のような各被験眼の「視度」に密接に関係する眼球組織を入射光,反射光が通過することは明らかであるところ,当該「ピント合せ」が各被験眼の「視度」の影響を加味したもの,すなわち,「被験眼の視度に応じたもの」であることは明細書の記載から自明な事項であるといえる。また,「合焦レンズ14」は,合焦のために用いられるレンズであるところ,当該「ピント合せ」に用いられることは明らかである。

(ウ)上記ア(シ)の図1から,「合焦レンズ14」は,「光軸方向に移動させられること」が見て取れる。

(エ)上記イ(ウ)及び(エ)を踏まえると,上記ア(カ),上記ア(ク)及び上記ア(シ)から,甲第1号証には,「被検眼2の視度に応じたピント合せを行うために光軸方向に移動させられる合焦レンズ14」が記載されているといえる。

(オ)上記上記ア(ウ)で「テレビカメラ」と,上記ア(オ)で「光電変換装置」と,上記ア(カ)で「テレビカメラ30(光電変換装置)」とそれぞれ記載されているが,上記ア(カ)において「テレビカメラ30(光電変換装置)」と「テレビカメラ」と「光電変換装置」が括弧書きにより同じものを指すことが示されているから,各用語が同じものを指すことは明らかである。
してみると,上記ア(ウ),上記ア(オ),上記ア(カ)及び上記ア(ク)から,甲第1号証には,「可視域だけでなく赤外域まで感度があり,赤外光で観察時の被検眼2の眼底像と可視光で撮影時の被検眼2の眼底像とが結像光学系10を介して投影されるテレビカメラ30」が記載されているといえる。

(カ)上記ア(ス)の図3及び上記ア(セ)の図4から,「赤外光と可視光とが互いに異なる光路を通ることにより,赤外光で観察時の被検眼2の眼底像の合焦位置A1と,可視光で撮影時の被検眼2の眼底像の合焦位置A2とがずれること」が見て取れる。

(キ)上記ア(サ)に摘記したとおり,第4頁左下欄第10行-第5頁左上欄第8行には,上記ア(ケ)の「ガラス板70」を用いた「合焦位置補正手段」の代わりに,「孔あきミラー12以後の何れかのレンズ」を移動させてもよいことが記載されており,上記ア(シ)の図1に図示されるとおり,「孔あきミラー12以後の何れかのレンズ」に,「合焦レンズ14」も包含されるものである。
してみると,上記ア(ケ),上記ア(サ)及び上記ア(シ)から,甲第1号証には,「合焦レンズ14」を用いた「合焦位置補正手段」が記載されているといえる。

(ク)上記イ(カ)及び(キ)を踏まえると,上記ア(ウ),上記ア(ク),上記ア(ケ),上記ア(サ),上記ア(シ),上記ア(ス)及び上記ア(セ)から,甲第1号証には,「赤外光で観察してピント合せを行っても,可視光の撮影の場合にピントが合わなくなる問題を解決するために,テレビモニタ50に表示された被検眼2の眼底像を観察する観察者の操作によりピント合せが行われた状態から,ピエゾ素子若しくはソレノイドを使用して合焦レンズ14を移動させることにより,赤外光と可視光とが互いに異なる光路を通ることによる赤外光で観察時の被検眼2の眼底像の合焦位置と,可視光で撮影時の被検眼2の眼底像の合焦位置とのずれを補正する合焦位置補正手段」が記載されているといえる。

(ケ)上記イ(ア)?(ク)を踏まえつつ,上記ア(ア)?(セ)の記載内容を総合すると,甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「 被検眼2の眼底像の撮影を行う眼底カメラ1であって,
被検眼2の視度に応じたピント合せを行うために光軸方向に移動させられる合焦レンズ14と,
被検眼2の眼底像を観察,撮影する結像光学系10と,
可視域だけでなく赤外域まで感度があり,赤外光で観察時の被検眼2の眼底像と可視光で撮影時の被検眼2の眼底像とが結像光学系10を介して投影されるテレビカメラ30と,
テレビカメラ30で受像した像を可視像として表示するテレビモニタ50とを備え,
赤外光で観察してピント合せを行っても,可視光の撮影の場合にピントが合わなくなる問題を解決するために,テレビモニタ50に表示された被検眼2の眼底像を観察する観察者の操作によりピント合せが行われた状態から,ピエゾ素子若しくはソレノイドを使用して合焦レンズ14を移動させることにより,赤外光と可視光とが互いに異なる光路を通ることによる赤外光で観察時の被検眼2の眼底像の合焦位置と,可視光で撮影時の被検眼2の眼底像の合焦位置とのずれを補正する合焦位置補正手段をさらに備えた眼底カメラ1。」

ウ 甲第2号証(特開2000-116602号公報)の記載事項
取消理由通知及び取消理由通知(決定の予告)において引用した甲第2号証(以下,「甲2」という。)には,「眼底カメラ」に関する技術事項が記載されている。

エ 甲第3号証(特開2006-280477号公報)の記載事項
取消理由通知及び取消理由通知(決定の予告)において引用した甲第3号証(以下,「甲3」という。)には,「眼底カメラ」に関する技術事項が記載されている。

オ 甲第4号証(特開2000-271088号公報)の記載事項
取消理由通知及び取消理由通知(決定の予告)において引用した甲第4号証(以下,「甲4」という。)には,「眼底撮影装置」に関する技術事項が記載されている。

カ 甲第5号証(特開平10-182号公報)の記載事項
取消理由通知及び取消理由通知(決定の予告)において引用した甲第5号証(以下,「甲5」という。)には,「眼科撮影装置」に関する技術事項が記載されている。

キ 甲第6号証(特開平9-289973号公報)の記載事項
取消理由通知及び取消理由通知(決定の予告)において引用した甲第6号証(以下,「甲6」という。)には,「眼底カメラ」に関する技術事項が記載されている。

ク 甲第7号証(特開2009-172154号公報)の記載事項
取消理由通知及び取消理由通知(決定の予告)において引用した甲第7号証(以下,「甲7」という。)には,「眼科撮影装置」に関する技術事項が記載されている。

(2)対比・判断
本件訂正請求により,請求項5に係る特許は削除されたため,本件特許の請求項5に対して申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しないものとなった。
そこで,本件訂正発明1?4及び6について以下に検討する。

ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
a 甲1発明の「被検眼2」「眼底カメラ1」は,それぞれ,本件訂正発明1の「被検者眼」,「眼底撮影装置」に相当する。
したがって,甲1発明の「被検眼2の眼底像の撮影を行う眼底カメラ1」は,本件訂正発明1の「被検者眼眼底を撮影する眼底撮影装置」に相当する。

b 甲1発明の「ピント合せ」,「合焦レンズ14」は,それぞれ,本件訂正発明1の「フォーカス調整」,「フォーカシングレンズ」に相当する。
したがって,甲1発明の「被検眼2の視度に応じたピント合せを行うために光軸方向に移動させられる合焦レンズ14」は,本件訂正発明1の「被験者眼の視度に応じたフォーカス調整を行うために光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズ」に相当する。

c 甲1発明の「テレビカメラ30」は,本件訂正発明1の「撮像素子」に相当する。
したがって,甲1発明の「可視域だけでなく赤外域まで感度があ」る「テレビカメラ30」は,本件訂正発明1の「可視域及び赤外域に感度を有する撮像素子」に相当する。

d 甲1発明の「被検眼2の眼底像を観察,撮影する結像光学系10」,「赤外光」,「可視光」は,それぞれ,
本件訂正発明1の「眼底観察・撮影光学」,「第1の波長の光」,「第1の波長とは異なる第2の波長の光」に相当する。
したがって,甲1発明の「赤外光で観察時の被検眼2の眼底像と可視光で撮影時の被検眼2の眼底像」を,「受像する」「テレビカメラ30」に,「投影」する「被検眼2の眼底像を観察,撮影する結像光学系10」は,本件訂正発明1の「第1の波長の光による眼底観察像と前記第1の波長とは異なる第2の波長の光による眼底撮影像の両方を前記撮像素子により取得する眼底観察・撮影光学系」に相当する。

e 甲1発明は,「テレビモニタ50に表示された被検眼2の眼底像を観察する観察者の操作によりピント合せが行われ」るものであるところ,赤外光で観察する時に,観察者はピントが合っているか否かを観察,確認しながらピント合せの操作を行い,最終的に赤外光で「ピント合せが行われた状態(上記eの解釈によれば,本件訂正発明1の「フォーカス状態」に包含される)」を認識した上で,ピント合せを完了すると解される。
そうすると,甲1発明は,観察者の「ピント合せが行われた状態との認識結果」に基づき,赤外光でのピント合せを完了して,合焦レンズ14を移動可能な状態とするものであるから,甲1発明は,「ピント合せが行われた状態との認識結果(本件訂正発明1の「フォーカス状態の検出結果」に相当)」に基づき,合焦レンズ14を移動させるものといえる。
また,甲1発明の「合焦位置補正手段」は,「赤外光で観察してピント合せを行っても,可視光の撮影の場合にピントが合わなくなる問題を解決するために,」「赤外光と可視光とが互いに異なる光路を通ることによる赤外光で観察時の被検眼2の眼底像の合焦位置と,可視光で撮影時の被検眼2の眼底像の合焦位置とのずれを補正する」ものであるから,合焦レンズ14は,「可視光の撮影の場合にピントが合うときの合焦レンズ14の位置(本件訂正発明1の「合焦位置」に相当。)」に移動させられるものと解される。
さらに,甲1発明の「ピエゾ素子若しくはソレノイド」のような駆動手段を「使用し」た「合焦レンズ14」の「移動」は,「手動」ではなく,「自動的な」移動といえる。

してみると,甲1発明の「赤外光で観察してピント合せを行っても,可視光の撮影の場合にピントが合わなくなる問題を解決するために,テレビモニタ50に表示された被検眼2の眼底像を観察する観察者の操作によりピント合せが行われた状態から,ピエゾ素子若しくはソレノイドを使用して合焦レンズ14を移動させることにより,赤外光可視光ととが互いに異なる光路を通ることによる赤外光で観察時の被検眼2の眼底像の合焦位置と,可視光で撮影時の被検眼2の眼底像の合焦位置とのずれを補正する合焦位置補正手段」と,
本件訂正発明1の「 前記撮像素子に対する被検者眼眼底のフォーカス状態を,前記第1の波長の光による眼底観察の際に前記撮像素子から出力される信号を用いて検出するフォーカス検出手段と, 前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の撮影のトリガ信号を入力するよりも前に,前記フォーカス検出手段による前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果に基づいて前記モータを駆動することで,前記第1の波長の光による前記眼底観察像の前記撮像素子上でのフォーカスがずれる位置であり且つ前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の前記撮像素子上でのフォーカスが合う位置である前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に前記フォーカシングレンズを自動的に移動させるフォーカス調整手段」とは,
「駆動手段を駆動することで,前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に前記フォーカシングレンズを自動的に移動させるフォーカス調整手段」という点で共通する。

g 以上のとおりであるから,本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明が少なくとも「フォーカス検出手段による前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果に基づいて」「前記第1の波長の光による前記眼底観察像の前記撮像素子上でのフォーカスがずれる位置であり且つ前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の前記撮像素子上でのフォーカスが合う位置である前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に」「前記フォーカシングレンズを移動させるフォーカス調整手段」を備えていない点で相違する。

(イ)判断
「フォーカス検出手段による前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果に基づいて」「前記第1の波長の光による前記眼底観察像の前記撮像素子上でのフォーカスがずれる位置であり且つ前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の前記撮像素子上でのフォーカスが合う位置である前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に」「前記フォーカシングレンズを移動させるフォーカス調整手段」は,甲2?甲7のいずれにも記載されてなく,また周知技術ともいえない。
したがって,甲2?甲7記載の技術事項及び周知技術から,相違点を容易に想到し得るということはできない。

以上のとおり,本件訂正発明1は,甲1発明及び甲2?甲7記載の技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件訂正発明2?4,6について
また,本件訂正発明2?4,6は,本件訂正発明1をさらに限定したものであるので,本件訂正発明1と同様に,本件訂正発明2?4,6は,当業者が甲1発明及び甲2?甲7記載の技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ まとめ
上記ア?イのとおり,本件訂正発明1?4及び6は,甲1発明及び甲2?甲7の技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第6項第1号について
ア 申立人は,訂正前及び平成28年9月9日付け訂正の請求による訂正後の特許請求の範囲に関し,特許異議申立書及び意見書(平成28年12月21日付け)において,請求項1及び4の「フォーカス調整手段」は,「第1の波長の光による眼底観察の際と第2の波長の光による眼底撮影の際との光学的な光路差に基づかずに,フォーカシングレンズを移動する態様」を包含し,このような態様は発明の詳細な説明に裏付けがないため,特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないと主張している。
しかしながら,本件訂正発明1では「前記フォーカス検出手段による前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果に基づいて前記モータを駆動することで,前記第1の波長の光による前記眼底観察像の前記撮像素子上でのフォーカスがずれる位置であり且つ前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の前記撮像素子上でのフォーカスが合う位置である前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に,前記フォーカシングレンズを自動的に移動させるフォーカス調整手段」と,第1の波長の光による眼底観察の際と第2の波長の光による眼底撮影の際と光学的光路差を有する場合に限定された。
したがって,申立人のかかる主張に理由があるとはいえない。

イ 申立人は,訂正前及び平成28年9月9日付け訂正の請求による訂正後の特許請求の範囲に関し,特許異議申立書及び意見書(平成28年12月21日付け)において,請求項4の「フォーカス調整手段」は,「ダイクロイックミラーが光路上に挿入されている赤外光(第1の波長の光)での眼底観察時とダイクロイックミラーが光路上から離脱している可視光(第2の波長の光)での眼底撮影時との光学的な光路差」以外の「光学的な光路差」に基づき,フォーカシングレンズを移動する態様」を包含し,このような態様は発明の詳細な説明に裏付けがないため,特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないと主張している。
しかしながら,本件訂正発明4は,第1の波長の光による観察と第2の波長の光による撮影を1つの撮像素子で行う場合に,観察と撮影を光学部材によって切換える際に生じる光学的な光路差を調整するものであり,発明の詳細な説明に,観察と撮影を切換える光学部材として「ダイクロイックミラー」が具体的に例示されているに過ぎないのであって,出願時の技術常識に照らせば,観察と撮影を切換える光学部材は,必ずしも「ダイクロイックミラー」である必要はなく,光学的な光路差を生じるものであれば他の光学部材でもよいことは明らかであるから,請求項に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえ,特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないとまではいえない。
したがって,申立人のかかる主張に理由があるとはいえない。

ウ 申立人は,訂正前の特許請求の範囲に関し,特許異議申立書において,請求項1及び4の「フォーカス調整手段」は,「第2の波長の光による眼底撮影像の撮影のトリガ信号を入力した後に,フォーカシングレンズを移動する態様」を包含し,このような態様は発明の詳細な説明に裏付けがないため,特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないと主張しているが,本件訂正発明1及び4の「フォーカス調整手段」は,「第2の波長の光による眼底撮影像の撮影のトリガ信号を入力するよりも前に,フォーカシングレンズを移動する態様」であることが限定されているから,申立人のかかる主張にはもはや理由がない。

エ 申立人は,訂正前及び平成28年9月9日付け訂正の請求による訂正後の特許請求の範囲に関し,特許異議申立書において,訂正前の請求項1及び請求項4の「フォーカス調整手段」は,「『第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果に基づいて』,第1の波長の光による眼底撮影像の合焦位置にフォーカシングレンズを移動させた後に,『第2の波長の光による眼底撮影像の合焦位置にフォーカシングレンズを移動させる』態様」を包含し,意見書(平成28年12月21日付け)において,平成28年9月9日付け訂正の請求による訂正後の請求項1及び請求項4の「フォーカス調整手段」は,「『第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果に基づいて前記モータを駆動することで』,第1の波長の光による眼底撮影像の合焦位置にフォーカシングレンズを自動的に移動させた後に,『第2の波長の光による眼底撮影像の合焦位置にフォーカシングレンズを自動的に移動させる』態様」を包含し,このような態様は発明の詳細な説明に裏付けがないため,特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないと主張している(下線部は当審が付した。)。
しかしながら,上記下線部以外の箇所の間に直接的な修飾関係があると理解するのが通常の日本語の解釈であって,上記下線部のような記載されていない中間の移動処理を含めた形で理解することは通常行われないし,本件訂正発明1及び4の「フォーカス調整手段」は,「前記フォーカス検出手段による前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果」を用いて,「前記モータを駆動することで,前記第1の波長の光による前記眼底観察像の前記撮像素子上でのフォーカスがずれる位置であり且つ前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の前記撮像素子上でのフォーカスが合う位置である前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に,前記フォーカシングレンズを自動的に移動させる」ものであると限定されているから,申立人のかかる主張にはもはや理由がない。

(2)特許法第36条第6項第2号について
ア 申立人は,訂正前及び平成28年9月9日付け訂正の請求による訂正後の特許請求の範囲に関し,特許異議申立書及び意見書(平成28年12月21日付け)において,請求項1の「フォーカス調整手段」がフォーカシングレンズを移動する際に基づく「フォーカス状態の検出結果」のみでは,「第1の波長の光による眼底撮影像の合焦位置」を求めることはできても,「第2の波長の光による眼底撮影像の合焦位置」を求めることはできないところ,「フォーカス状態の検出結果」と「第2の波長の光による眼底撮影像の合焦位置」の技術的関係が明らかでないため,特許請求の範囲の記載は特許を受けようとする発明が不明確であり,特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないと主張している。
しかしながら,請求項1は,「フォーカス状態の検出結果」のみで「第2の波長の光による眼底撮影像の合焦位置」を求めるとは規定してはいないし,上記(1)アで説示した「第2の波長の光による眼底撮影像の合焦位置を予め記憶しておき当該位置に到達するまでフォーカス調整の制御を行う」といった態様のように,「フォーカス状態の検出結果」と「第2の波長の光による眼底撮影像の合焦位置」とを独立して扱うことも出願時の技術常識から想定できるので,「フォーカス状態の検出結果」と「第2の波長の光による眼底撮影像の合焦位置」の技術的関係は明確であるといえ,特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないとまではいえない。
したがって,申立人のかかる主張に理由があるとはいえない。

イ 申立人は,訂正前及び平成28年9月9日付け訂正の請求による訂正後の特許請求の範囲に関し,特許異議申立書及び意見書(平成28年12月21日付け)において,請求項4の「光学的な光路差」が何を指すのかが明らかでないため,特許請求の範囲の記載は特許を受けようとする発明が不明確であり,特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないと主張している。
しかしながら,発明の詳細な説明を参酌すれば,上記(1)イで説示したとおり,「光学的な光路差」は,「ダイクロイックミラーまたは他の光学部材」によって観察と撮影を切換える際に生じるものであることは明らかであるから,特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないとまではいえない。
したがって,申立人のかかる主張に理由があるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1?4,6に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1?4,6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに,請求項5に係る特許は,訂正により,削除されたため,本件特許の請求項5に対して,申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。

よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者眼眼底を撮影する眼底撮影装置において、
被検者眼の視度に応じたフォーカス調整を行うために光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズと、前記フォーカシングレンズを光軸方向に移動させるモータと、可視域及び赤外域に感度を有する撮像素子とを備え、第1の波長の光による眼底観察像と前記第1の波長とは異なる第2の波長の光による眼底撮影像の両方を前記撮像素子により取得する眼底観察・撮影光学系と、
前記撮像素子に対する被検者眼眼底のフォーカス状態を、前記第1の波長の光による眼底観察の際に前記撮像素子から出力される信号を用いて検出するフォーカス検出手段と、
前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の撮影のトリガ信号を入力するよりも前に、前記フォーカス検出手段による前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果に基づいて前記モータを駆動することで、前記第1の波長の光による前記眼底観察像の前記撮像素子上でのフォーカスがずれる位置であり且つ前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の前記撮像素子上でのフォーカスが合う位置である前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に、前記フォーカシングレンズを自動的に移動させるフォーカス調整手段と、
を備えることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項2】
請求項1の眼底撮影装置において、
前記第1の波長の光は赤外光であり、前記第2の波長の光は可視光であることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項3】
請求項1又は2の眼底撮影装置において、
前記第2の波長の光による前記眼底撮影像は、可視光の蛍光による眼底撮影像であることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項4】
被検者眼眼底を撮影する眼底撮影装置において、
被検者眼の視度に応じたフォーカス調整を行うために光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズと、前記フォーカシングレンズを光軸方向に移動させるモータと、可視域及び赤外域に感度を有する撮像素子とを備え、第1の波長の光による眼底観察像と前記第1の波長とは異なる第2の波長の光による眼底撮影像の両方を前記撮像素子により取得する眼底観察・撮影光学系と、
前記撮像素子に対する被検者眼眼底のフォーカス状態を、前記第1の波長の光による眼底観察の際に前記撮像素子から出力される信号を用いて検出するフォーカス検出手段と、
前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の撮影のトリガ信号を入力するよりも前に、前記フォーカス検出手段による前記第1の波長の光を用いたフォーカス状態の検出結果と、前記第1の波長の光による眼底観察の際と第2の波長の光による眼底撮影の際との光学的な光路差とを考慮して前記モータを駆動することで、前記第1の波長の光による前記眼底観察像の前記撮像素子上でのフォーカスがずれる位置であり且つ前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の前記撮像素子上でのフォーカスが合う位置である前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に、前記フォーカシングレンズを自動的に移動させるフォーカス調整手段と、
を備えることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
請求項1?4のいずれかの眼底撮影装置において、
前記フォーカス調整手段によって前記フォーカシングレンズが前記第2の波長の光による前記眼底撮影像の合焦位置に移動された場合に、前記第2の波長による前記眼底撮影像の撮影を自動で実行する自動撮影手段をさらに備えたことを特徴とする眼底撮影装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-01 
出願番号 特願2014-110512(P2014-110512)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61B)
P 1 651・ 121- YAA (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増渕 俊仁  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 信田 昌男
伊藤 昌哉
登録日 2015-09-18 
登録番号 特許第5807701号(P5807701)
権利者 株式会社ニデック
発明の名称 眼底撮影装置  
代理人 大川 智也  
代理人 水越 邦仁  
代理人 水越 邦仁  
代理人 大川 智也  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ