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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G06Q 審判 全部申し立て 2項進歩性 G06Q |
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管理番号 | 1333188 |
異議申立番号 | 異議2017-700020 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-01-12 |
確定日 | 2017-08-25 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5951070号発明「徘徊防止システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5951070号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4、7?9〕、5、6について、訂正することを認める。 特許第5951070号の請求項1、5、6、7、8に係る特許を維持する。 特許第5951070号の請求項2?4及び9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第5951070号に係る出願は、平成26年7月30日に特許出願された特願2014-536814号の一部を平成27年5月12日に新たな特許出願としたものであって、平成28年6月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年1月12日にその特許に対して特許異議申立人 浅野典子 により特許異議の申立てがされたものである。 その後、当審において平成29年3月30日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、平成29年6月2日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求による訂正を「本件訂正」という。)を行い、その訂正の請求に対して特許異議申立人 浅野典子 から平成29年7月11日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。 (1)訂正事項1 請求項1に係る「前記各発信装置は、それぞれ、被介護者に保持され、」と記載されているのを、「前記各発信装置は、それぞれ、前記被介護者に保持され、光センサを有し、前記光センサにより取得した光量が所定のレベルより少ない場合に前記ブロードキャスト信号における電波出力を大きくし、」に訂正する。 (2)訂正事項2 請求項1に係る「その固有情報および前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、」と記載されているのを、「その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、」に訂正する。 (3)訂正事項3 請求項2を削除する。 (4)訂正事項4 請求項3を削除する。 (5)訂正事項5 請求項4を削除する。 (6)訂正事項6 訂正事項2の内容を反映させた上で、請求項5を独立形式に改め、 「BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)による通信を用いて被介護者の所在を把握する徘徊防止システムであって、 BLE通信におけるスレーブとしての機能を有し、ブロードキャスト信号を発信する1つ以上の発信装置と、 BLE通信におけるマスタとしての機能を有する携帯端末と、を有し、 前記発信装置は、前記携帯端末からBLE通信により受信したコマンドに基づいて時刻の情報を取得し、予め設定された時間帯毎の設定条件に応じて前記ブロードキャスト信号に係る設定内容を変更し、 前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、前記固有情報に基づいて前記第1の発信装置を保持する第1の被介護者を特定する情報を取得し、前記第1の被介護者が所定の領域に所在する旨を示す情報、および前記携帯端末と前記第1の被介護者が保持する前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記携帯端末の画面上に出力する、徘徊防止システム。」 に訂正する。 (7)訂正事項7 訂正事項2の内容を反映させた上で、請求項6を独立形式に改め、 「BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)による通信を用いて被介護者の所在を把握する徘徊防止システムであって、 BLE通信におけるスレーブとしての機能を有し、ブロードキャスト信号を発信する1つ以上の発信装置と、 BLE通信におけるマスタとしての機能を有する携帯端末と、を有し、 前記発信装置は、前記携帯端末からBLE通信により受信したコマンドに基づいて前記ブロードキャスト信号に係る設定内容を変更し、 前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、前記固有情報に基づいて前記第1の発信装置を保持する第1の被介護者を特定する情報を取得し、前記第1の被介護者が所定の領域に所在する旨を示す情報、および前記携帯端末と前記第1の被介護者が保持する前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記携帯端末の画面上に出力する、徘徊防止システム。」 に訂正する。 (8)訂正事項8 請求項9を削除する。 2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的の適否 訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る「前記各発信装置は、それぞれ、被介護者に保持され、」を「前記各発信装置は、それぞれ、前記被介護者に保持され、光センサを有し、前記光センサにより取得した光量が所定のレベルより少ない場合に前記ブロードキャスト信号における電波出力を大きくし、」とすることにより、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2および訂正前の請求項2を引用する請求項3に記載されていた発明特定事項を訂正後の請求項1の発明特定事項とするものであるから、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 上記アから明らかなように、上記訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項の有無 上記アから明らかなように、上記訂正事項1は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的の適否 訂正事項2は、訂正前の請求項1の「その固有情報および前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、」という記載について、「固有情報」については「前記ブロードキャスト信号の内容から取得」し、「発信装置との間の距離の情報」については、訂正前は出願時の技術常識である方法により取得するか否かが不明瞭であったところを訂正後は「前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得」する旨を明らかにして、これが明瞭である記載とするものであるから、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 訂正前の「その固有情報および前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、」も技術常識を踏まえれば、「その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、」と同旨を示すものであるから、上記訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項の有無 訂正前の「その固有情報および前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、」も技術常識を踏まえれば、「その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、」と同旨を示すものであるから、上記訂正事項2は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 (3)訂正事項3、4、5について ア 訂正の目的の適否 訂正事項3、4、5は、請求項2、3、4をそれぞれ削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 訂正事項3、4、5は、請求項2、3、4をそれぞれ削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項追加の有無 訂正事項3、4、5は、請求項2、3、4をそれぞれ削除するというものであるから、本願特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 (4)訂正事項6について ア 訂正の目的の適否 訂正事項6は、訂正前の請求項5の記載が訂正前の請求項4の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項4の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 また、訂正事項6において、訂正前の請求項1に係る記載に対して上記訂正事項2と同様の訂正を行っているが、訂正事項2については、上記「(2)訂正事項2について」で言及したとおりである。 イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 訂正事項6は、上記アから明らかなように、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項追加の有無 訂正事項6は、上記アから明らかなように、本願特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 (5)訂正事項7について ア 訂正の目的の適否 訂正事項7は、訂正前の請求項6の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 また、訂正事項7において、訂正前の請求項1に係る記載に対して上記訂正事項2と同様の訂正を行っているが、訂正事項2については、上記「(2)訂正事項2について」で言及したとおりである。 イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 訂正事項7は、上記アから明らかなように、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項追加の有無 訂正事項7は、上記アから明らかなように、本願特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 (6)訂正事項8について ア 訂正の目的の適否 訂正事項8は、請求項9を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 訂正事項8は、請求項9を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項追加の有無 訂正事項8は、請求項9をそれぞれ削除するというものであるから、本願特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 (7)一群の請求項の適否 訂正事項1?8に係る訂正前の請求項1?9について、請求項2?9はすべて直接的又は間接的に「請求項1」を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1?9に対応する訂正後の請求項1?9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 そして、訂正事項1?8による訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項ごとに」適法に請求されたものである。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4、7?9〕、5、6について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件訂正発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?9に係る発明(削除された請求項を含む。以下、それぞれ「本件訂正発明1?9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)による通信を用いて被介護者の所在を把握する徘徊防止システムであって、 BLE通信におけるスレーブとしての機能を有し、ブロードキャスト信号を発信する1つ以上の発信装置と、 BLE通信におけるマスタとしての機能を有する携帯端末と、を有し、 前記各発信装置は、それぞれ、前記被介護者に保持され、光センサを有し、前記光センサにより取得した光量が所定のレベルより少ない場合に前記ブロードキャスト信号における電波出力を大きくし、 前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、前記固有情報に基づいて前記第1の発信装置を保持する第1の被介護者を特定する情報を取得し、前記第1の被介護者が所定の領域に所在する旨を示す情報、および前記携帯端末と前記第1の被介護者が保持する前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記携帯端末の画面上に出力する、徘徊防止システム。 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】(削除) 【請求項5】 BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)による通信を用いて被介護者の所在を把握する徘徊防止システムであって、 BLE通信におけるスレーブとしての機能を有し、ブロードキャスト信号を発信する1つ以上の発信装置と、 BLE通信におけるマスタとしての機能を有する携帯端末と、を有し、 前記発信装置は、前記携帯端末からBLE通信により受信したコマンドに基づいて時刻の情報を取得し、予め設定された時間帯毎の設定条件に応じて前記ブロードキャスト信号に係る設定内容を変更し、 前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、前記固有情報に基づいて前記第1の発信装置を保持する第1の被介護者を特定する情報を取得し、前記第1の被介護者が所定の領域に所在する旨を示す情報、および前記携帯端末と前記第1の被介護者が保持する前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記携帯端末の画面上に出力する、徘徊防止システム。 【請求項6】 BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)による通信を用いて被介護者の所在を把握する徘徊防止システムであって、 BLE通信におけるスレーブとしての機能を有し、ブロードキャスト信号を発信する1つ以上の発信装置と、 BLE通信におけるマスタとしての機能を有する携帯端末と、を有し、 前記発信装置は、前記携帯端末からBLE通信により受信したコマンドに基づいて前記ブロードキャスト信号に係る設定内容を変更し、 前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、前記固有情報に基づいて前記第1の発信装置を保持する第1の被介護者を特定する情報を取得し、前記第1の被介護者が所定の領域に所在する旨を示す情報、および前記携帯端末と前記第1の被介護者が保持する前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記携帯端末の画面上に出力する、徘徊防止システム。 【請求項7】 請求項1に記載の徘徊防止システムにおいて、 前記携帯端末は、前記第1の発信裝置からの前記ブロードキャスト信号が受信できなくなったことを検知した場合に、前記第1の被介護者が前記所定の領域から外出し、もしくは徘徊を開始したものと判断する、徘徊防止システム。 【請求項8】 請求項1に記載の徘徊防止システムにおいて、 前記携帯端末は、前記第1の発信裝置からの前記ブロードキャスト信号を受信していない状況で、新たに前記第1の発信裝置からの前記ブロードキャスト信号を受信したことを検知した場合に、前記第1の被介護者が前記所定の領域に入ってきたものと判断する、徘徊防止システム。 【請求項9】(削除) 」 2.取消理由の概要 訂正前の請求項1?9に係る特許に対して平成29年3月30日付けで当審から特許権者に通知した取消理由は、概略以下のとおりである。 (1)取消理由1(進歩性) 訂正前の請求項1、2、4、7、8に係る発明は、下記の刊行物1及び刊行物2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 刊行物1:特開2014-99857号公報 (異議申立人により提出された甲第2号証) 刊行物2:特開2013-143123号公報 (2)取消理由2(サポート要件) (2-1) 訂正前の請求項1には、「前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報および前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、」と記載されており、前記下線部の記載は、第1の発信装置から発せられるブロードキャスト信号の中に「携帯端末と第1の発信装置との間の距離の情報」が含まれていると解することが可能である。 してみると、「第1の発信装置」が携帯端末との間の距離を「算出もしくは検出」し、その結果である「距離情報」がブロードキャスト信号に含まれていることになる。 しかしながら、本件特許の明細書中には、第1の発信装置がどの様な手段を用いて携帯端末との距離を算出もしくは検出しているのか開示されていない。 よって、上記下線部の事項を含む訂正前の請求項1に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められない。 なお、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2から9に係る特許についても同様である。 (2-2) 訂正前の請求項9は、その記載の通り「3つ以上の前記携帯端末が、それぞれ所定の位置に固定的に配置され、」た状態で「第1の被介護者の座標位置の情報を算出する」ものであるが、明細書の発明の詳細な説明には、「携帯端末を所定の位置に固定的に配置した」場合に関する記載を見いだせない。(段落【0043】?段落【0045】の記載は、発信装置を各部屋などに固定的に配置した場合の携帯端末の所在を把握することに関するものである。) したがって、訂正前の請求項9に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められない。 3.刊行物の記載 (1)刊行物1(特開2014-99857号公報) 上記刊行物1には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【課題】無線信号を送受信するように構成される無線通信構成要素を提供するためのデバイス、システム、及び方法を提供する。」(【要約】) (イ)「本発明は、Bluetooth(登録商標)通信能力を備えた、及び好ましくはBluetooth低エネルギー(Low Energy)(BLE)通信能力を備えた、コインの大きさの取り付け自在のビーコン(本明細書では、「Stick-N-Find」、「Stick-N-Find Beacon」、「ステッカービーコン」、「bluetoothステッカー」、「ビーコン」、又は「ステッカー」としても称される)に関するものである。ビーコンは、任意のデバイス、ヒト、動物などに接着又は付着され得、補助的なアプリケーションを動かすモバイルコンピュータ及び通信デバイスを使用して位置を特定され得る。」(【0001】) (ウ)「他の実施形態において、モバイルデバイスは、短距離又はローカルエリアの無線機能を有するか、又はそれしか有していない。前記モバイルデバイスの例は、次のものを含む:携帯電話(スマートフォン)、PDA、タブレットコンピュータ、小型タブレット、ラップトップ、小型ラップトップなど。」(【0005】) (エ)「また更なる機能に従い、モバイルアプリケーションは、レーダー画面機能を含み、ここで、ビーコンがモバイルデバイスに無線で繋がれる場合、モバイルアプリケーションは、モバイルデバイスからのビーコンの距離に対する、モバイルデバイス上のビーコンの描写(representation)を表示する。 また更なる機能に従い、モバイルデバイスからのビーコンの距離は、ビーコンから少なくとも1つの受信信号強度インジケータ(RSSI)の値を受信する際に計算され、ここで、少なくとも1つのRSSI値は、ビーコン上で計算される。更なる機能に従い、距離は、モバイルデバイス上で測定された少なくとも1つのRSSI値に基づいて更に計算される。」(【0011】?【0012】) (オ)「モバイルアプリケーション モバイルアプリケーションは、好ましくは、スマートフォンなどのセルラー移動通信デバイスへの使用に適している。より好ましくは、アプリケーションは、Bluetooth技術により利用可能にされるスマートフォンのへの使用に適し、もっとも好ましくはBluetooth低エネルギー(BLE)機能により利用可能にされるモバイルデバイスへの使用に適している。もちろん、モバイルアプリケーションは、インストールされ、モバイルアプリケーション(例えば、iPad(商標)、iPod(商標)、mini-iPad(商標)、タブレットコンピュータ、PDAなど)を支持するように設計及び構成される、任意のモバイル/手持ちのデバイスを動かすことができる。」(【0063】) (カ)「レーダー画面 第1の機能は、単純なレーダー画面である。図5は、本発明のモバイルアプリケーションの「レーダー画面」機能を動かすスマートフォンの部分的なスクリーンショットである。革新的なアプリケーションを動かすモバイルデバイス(60)の上でレーダー画面機能を起動させると、ビーコン/物品の幾つか又は全ては、レーダー型の画面(62)の範囲内にある。もちろん、Bluetoothは方向を示すことができないため、レーダー画面(62)は、モバイルデバイスからStick-N-Find(10)までの距離を見積るが、方向を見積はしない。それ故、一旦求められる物品のビーコンがレーダー画面(62)の上に現れ、その後特定の方向に進むと、電話(60)がビーコンに近づく又は遠くに離れていくという何れかの指示を与える。この方法において、ユーザーは、ビーコン/物品の位置が特定されるまで、どれが適切な方向に従う及び移動するための正確な方向であるかを推定することができる(このことは、子どもが遊ぶホット/コールドゲーム(hot/cold game)に良く似ており、そこでは、物品を隠し、探す人は、周知なように、ガイド(温かい、暖かいと近い、及び冷たい、冷たいと遠い)として様々な温度の携帯のヒントを使って、物品へと「導かれる」)。電話(60)と対になる各ビーコン(10)は、容易な認識のためネームタグ(66)によりラベル付けされ得る。 Bluetoothステッカー(10)と電話(60)との間の距離は、受信信号強度インジケータ(RSSI)値を使用して測定される。RSSIは、受信したラジオ信号に存在する電力の測定値である。1つの実施形態において、電話(60)のRSSI値は、距離の測定値を提供する。電話の信号受信が最適でないため、これは、あまり好ましい実施形態ではない。他のより好ましい実施形態において、ステッカー(10)のRSSIレベルは、距離値のために測定される。ステッカー(10)は、電話(60)と対になり、ステッカー(10)から電話(60)までのRSSIレベルを測定する。ステッカー(10)はその後、bluetoothにより電話(60)へとデータを送信する。それ故、電話(60)が、ステッカー(10)と電話(60)との間のおよその距離を表示すると、レーダー画面(62)は、ステッカーにて測定されるRSSI値を実際に表示し、その後、電話に送信する。RSSI値は電話にて測定されない。他の実施形態において、電話とステッカーの両方からのRSSI値の任意の組み合わせは、より正確な結果を提供するために処理され得る。」(【0067】?【0068】) (キ)「FIND IT 図6は、革新的なモバイルアプリケーションの「Find It」機能を動かすスマートフォン(60)のスクリーンショットである。「Find IT」機能は、紛失したステッカー(10)を探す時、即ち、ビーコンが電話(60)の範囲内に無い時に使用される。ユーザーは、タグを付けた物品に関してスイッチ(70)を選択することにより、所望の物品/ビーコン(68)に関するfind機能を起動する。一旦所望のビーコンが範囲内に戻ると、電話(60)は警報を発する。警報は、ビーコンが範囲内に戻ったことをユーザーに知らせる。」(【0085】) (ク)「バーチャルリード 図7は、革新的なモバイルアプリケーションの「バーチャルリード」機能を動かす、スマートフォンの部分的なスクリーンショットである。バーチャルリード機能は、ユーザーに、選択したビーコン(10)上に「バーチャルリード」を作らせることを可能にし、そのため、ビーコン(例えば、子どもの編み上げ靴に装着されたステッカー)が、電話(60)から選択された近似距離(72)から離れる場合、アプリケーションは電話から警報を発する。本質的に、バーチャルリード機能は、Find It機能とは対極にある。」(【0087】) (ケ)「本明細書にて言及される例示的なデバイスは、単に本発明の可能な実施形態を提供するためのものであり、制限するようには意図されておらず、前記デバイスは、Bluetooth低エネルギー近接/追跡タグであり、それは、スーツケース/荷物に作られるか、又は、修正されたロケータービーコンである荷物タグの形態などで、外部に取り付けられる。 ・・・・途中省略・・・・ 別の提案された方法は、荷物タグの内部に位置する光検知器を使用することである。一旦バッグが飛行機の貨物室に搭載されると、完全に真っ暗になる。典型的に、この暗闇を測定する20分のタイマーは、プロセッサーに任意のBluetooth伝達をシャットダウンさせる。」(【0119】?【0122】) (コ)「好ましい実施形態において、ビーコンは、非作動時間中にシャットダウンし、それにより節約を行うために、作動時間及び非作動時間の間に異なって、プログラム化された行動を取り得る。」(【0156】) (サ)「実際の暗号化及びサーバーの動作がどのようなものかに関する追加情報: どのステッカーも、特有のMACアドレスとUUIDの組み合わせである、特有のIDを有する。アプリケーションがステッカーに接続すると、アプリケーションは、ステッカーIDの暗号化したバージョンを読み取ることができる。ユーザーが特定のステッカーを追跡できるようにするため、ユーザーは、自身のアカウントにログインし、ステッカーに接続し、その後、自身のアカウントをステッカーに登録又は結合しなければならない。ステッカーの結合又は登録の手順は、以下の手順から成る:」(【0173】) 上記(ア)から(サ)の記載より、刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。(以下、「刊行物発明」という。) 「無線信号を送受信するシステムであって、 Bluetooth低エネルギー(Low Energy)(BLE)通信能力を備えた、コインの大きさの取り付け自在のビーコン(「Stick-N-Find」、「Stick-N-Find Beacon」、「ステッカービーコン」、「bluetoothステッカー」、「ビーコン」、又は「ステッカー」としても称される)であって、ビーコンは、任意のデバイス、ヒト、動物などに接着又は付着され得、補助的なアプリケーションを動かすモバイルコンピュータ及び通信デバイスを使用して位置を特定され、 モバイルデバイスは、短距離又はローカルエリアの無線機能を有し、前記モバイルデバイスの例は、携帯電話(スマートフォン)、PDA、タブレットコンピュータ、小型タブレット、ラップトップ、小型ラップトップなどであり、ビーコンがモバイルデバイスに無線で繋がれる場合、モバイルアプリケーションは、モバイルデバイスからのビーコンの距離に対する、モバイルデバイス上のビーコンの描写(representation)を表示し、モバイルデバイスからのビーコンの距離は、ビーコンから少なくとも1つの受信信号強度インジケータ(RSSI)の値を受信する際に計算され、モバイルアプリケーションは、Bluetooth低エネルギー(BLE)機能により利用可能にされるモバイルデバイスへの使用に適しており、電話(60)と対になる各ビーコン(10)は、容易な認識のためネームタグ(66)によりラベル付けされ、Bluetoothステッカー(10)と電話(60)との間の距離は、受信信号強度インジケータ(RSSI)値を使用して測定され、電話(60)が、ステッカー(10)と電話(60)との間のおよその距離を表示し、どのステッカーも、特有のMACアドレスとUUIDの組み合わせである、特有のIDを有し、 「Find IT」機能は、紛失したステッカー(10)を探す時、即ち、ビーコンが電話(60)の範囲内に無い時に使用されるものであり、一旦所望のビーコンが範囲内に戻ると、電話(60)は警報を発し、ビーコンが範囲内に戻ったことをユーザーに知らせ、 「バーチャルリード」機能は、ビーコン(例えば、子どもの編み上げ靴に装着されたステッカー)が、電話(60)から選択された近似距離(72)から離れる場合、アプリケーションは電話から警報を発するものであり、 Bluetooth低エネルギー近接/追跡タグが荷物タグの形態などで、外部に取り付けられバッグが飛行機の貨物室に搭載される場合、荷物タグの内部に位置する光検知器を使用し、暗闇を測定する20分のタイマーは、プロセッサーに任意のBluetooth伝達をシャットダウンさせ、 ビーコンは、非作動時間中にシャットダウンし、それにより節約を行うために、作動時間及び非作動時間の間に異なって、プログラム化された行動を取り得る、システム。」 (2)刊行物2(特開2013-143123号公報) 上記刊行物2には、以下の事項が記載されている。 (シ)「本発明は、老人のいる病棟や老人ホーム、個人宅等において、痴呆症状のある老人が施設から無断外出し、徘徊したり迷子になったりすることを未然に防止し、保護することを目的とするブルートゥース無線通信を用いて行なうブルートゥース信号の送受信による痴呆症状のある徘徊老人保護システムに関する。」(【0001】) (ス)「この発明によれば、痴呆症状のある徘徊老人に持たせる無線通信端末子機はブルートゥース通信端末9である。本ブルートゥース通信端末9は、老人の負担にならないように軽量かつ防水性に優れ、充電機能を持つものである。老人が自室から外へ出た段階でBDアドレスを自室の出入口に設置した親機であるブルートゥース受信機2のひとつが受信し、自室からの外出を認識する。その後、老人は例えば病棟の各階の出入口や病棟の出入口付近にさしかかり、外出しそうな状態になると出入口に設置した親機のひとつであるブルートゥース受信機2は管理者や介護者にBDアドレスを提示し、どの老人かを認識させると共に老人の動きに注意することを促す。・・・以下省略・・・。」(【0012】) 4.対比・判断 ア 取消理由通知に記載した取消理由について (1)特許法第29条第2項について(進歩性) (1-1)本件訂正発明1について <対比> 本件訂正発明1と刊行物発明とを対比する。 (1-1-1) 刊行物発明は、「無線信号を送受信するシステム」であって、「Bluetooth低エネルギー(Low Energy)(BLE)通信能力を備えた、コインの大きさの取り付け自在のビーコン(「Stick-N-Find」、「Stick-N-Find Beacon」、「ステッカービーコン」、「bluetoothステッカー」、「ビーコン」、又は「ステッカー」としても称される)であって、ビーコンは、任意のデバイス、ヒト、動物などに接着又は付着され得、補助的なアプリケーションを動かすモバイルコンピュータ及び通信デバイスを使用して位置を特定され」るものであるから、本件訂正発明1とは『BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)による通信を用いてヒトの所在を把握するシステム』という点において一致しているといえる。 (1-1-2) 刊行物発明に係る「ビーコン(本明細書では、「Stick-N-Find」、「Stick-N-Find Beacon」、「ステッカービーコン」、「bluetoothステッカー」、「ビーコン」、又は「ステッカー」としても称される)」(以下、「ビーコン等」という。)は、本件訂正発明1でいうところの『発信装置』、また、刊行物発明に係る「モバイルコンピュータ」又は「モバイルデバイス」(以下、「モバイルコンピュータ」又は「モバイルデバイス」を「モバイルデバイス等」という。)は、「前記モバイルデバイスの例は、携帯電話(スマートフォン)、PDA、タブレットコンピュータ、小型タブレット、ラップトップ、小型ラップトップなど」であるから、本件訂正発明1でいうところの『携帯端末』に対応することは明らかである。 そして、当該「ビーコン等」と「モバイルデバイス等」との間でBLEによる通信を行うシステムである刊行物発明に係る「モバイルデバイス等」は、「モバイルデバイスからのビーコンの距離に対する、モバイルデバイス上のビーコンの描写(representation)を表示し、モバイルデバイスからのビーコンの距離は、ビーコンから少なくとも1つの受信信号強度インジケータ(RSSI)の値を受信する際に計算され、」や「Bluetoothステッカー(10)と電話(60)との間の距離は、受信信号強度インジケータ(RSSI)値を使用して測定され、」や「電話(60)が、ステッカー(10)と電話(60)との間のおよその距離を表示し、」や「 「Find IT」機能」や「「バーチャルリード」機能」を実行することを鑑みると、刊行物発明に係る「モバイルデバイス等」は、本件訂正発明1でいうところの『BLE通信におけるマスタとしての機能を有する』といえる。 また、「ビーコン等」と「モバイルデバイス等」との間でBLEによる通信を行うシステムである刊行物発明に係る「ビーコン等」は、上記した様にマスタである「モバイルデバイス等」に対する通信相手であり、そして、当該「ビーコン等」はビーコン信号を『ブロードキャスト』することは明らかであるから、本件訂正発明1でいうところの『BLE通信におけるスレーブとしての機能を有し、ブロードキャスト信号を発信する』ものであるといえる。 (1-1-3) 刊行物発明に係る「ビーコン等」は、「電話(60)と対になる各ビーコン(10)は、容易な認識のためネームタグ(66)によりラベル付けされ得る。」や「どのステッカーも、特有のMACアドレスとUUIDの組み合わせである、特有のIDを有する。」のであるから、本件訂正発明1でいうところの『固有情報』を有しているといえる。 そして、刊行物発明に係る「モバイルデバイス等」は、「ビーコンがモバイルデバイスに無線で繋がれる場合、モバイルアプリケーションは、モバイルデバイスからのビーコンの距離に対する、モバイルデバイス上のビーコンの描写(representation)を表示」するのであるから、「ビーコン等」が有している「ネームタグ」や「特有のID」である固有情報を取得していることも明らかである。さらに、「ビーコン等」が有している「ネームタグ」や「特有のID」である固有情報は、「ビーコン等」を保持するヒトを特定する情報であることは明らかである。 また、刊行物発明に係る「モバイルデバイス等」は、「ビーコン等」と「モバイルデバイス等」との間の距離を「受信信号強度インジケータ(RSSI)値を使用して測定」するのであり、当該「RSSI値」は「ビーコン等」がブロードキャストするビーコン信号に含まれている情報であることは明らかである。 してみると、刊行物発明に係る「モバイルデバイス等」は、本件訂正発明1でいうところの『受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、』に対応する機能を備えており、そして、本件訂正発明1と刊行物発明とは、『前記固有情報に基づいて前記第1の発信装置を保持する第1のヒトを特定する情報を取得し、』という点において一致しているといえる。 (1-1-4) 刊行物発明は、「ビーコンがモバイルデバイスに無線で繋がれる場合、モバイルアプリケーションは、モバイルデバイスからのビーコンの距離に対する、モバイルデバイス上のビーコンの描写(representation)を表示する。」機能を有しており、更に、「電話(60)が、ステッカー(10)と電話(60)との間のおよその距離を表示する」機能も有している。 してみると、本件訂正発明1と刊行物発明とは、『第1のヒトが所定の領域に所在する旨を示す情報、および前記携帯端末と前記第1のヒトが保持する前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記携帯端末の画面上に出力する、』という点において一致しているといえる。 (1-1-5) 上記(1-1-1)から(1-1-4)で対比した様に、本件訂正発明1と刊行物発明とは、 「BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)による通信を用いてヒトの所在を把握するシステムであって、 BLE通信におけるスレーブとしての機能を有し、ブロードキャスト信号を発信する1つ以上の発信装置と、 BLE通信におけるマスタとしての機能を有する携帯端末と、を有し、 前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、前記固有情報に基づいて前記第1の発信装置を保持する第1のヒトを特定する情報を取得し、前記第1のヒトが所定の領域に所在する旨を示す情報、および前記携帯端末と前記第1のヒトが保持する前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記携帯端末の画面上に出力する、システム。」 で一致しており、以下の点で相違している。 【相違点1】 本件訂正発明1は、「BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)による通信を用いて被介護者の所在を把握する徘徊防止システム」であるのに対し、刊行物発明は、その旨の限定がない点。 【相違点2】 本件訂正発明1は、「各発信装置は、それぞれ、前記被介護者に保持され、光センサを有し、前記光センサにより取得した光量が所定のレベルより少ない場合に前記ブロードキャスト信号における電波出力を大きくし、」との発明特定事項を備えているのに対し、刊行物発明には、かかる発明特定事項を備えていない点。 <判断> 上記「相違点」について判断する。 【相違点1】について 刊行物2には、上記(シ)及び(ス)で摘記した様に、「ブルートゥース無線通信を用いて行なうブルートゥース信号の送受信による痴呆症状のある徘徊老人保護システム」や「痴呆症状のある徘徊老人に持たせる無線通信端末子機はブルートゥース通信端末9である。」との事項が開示されており、本件特許の出願日前において、「ブルートゥース通信端末を徘徊老人に持たせた徘徊老人保護システム」は公知であるといえる。 してみると、刊行物発明に開示された「BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)による通信を用いてヒトの所在を把握するシステム」を徘徊防止システムに適用することは当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。 【相違点2】について 刊行物発明において、「ビーコン等」が光検知器を備えることは開示されているものの、本件訂正発明1でいうところの『光センサにより取得した光量が所定のレベルより少ない場合に前記ブロードキャスト信号における電波出力を大きくし、』なる事項については、刊行物発明及び刊行物2には開示されておらず、また、当該事項が当業者にとって自明な事項であるとの合理的な理由も見いだせない。 したがって、【相違点2】に係る発明特定事項を備える本件訂正発明1を刊行物発明及び刊行物2に開示されている事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たとは認められない。 (1-2)本件訂正発明2?4について 取消理由通知の対象であった、訂正前の請求項2?4に係る発明は、本件訂正により削除されたから、当該取消理由は解消された。 (1-3)本件訂正発明7及び8について 本件訂正発明7及び8は、本件訂正により訂正前の請求項1に係る発明が本件訂正発明1に訂正されたことにより、上記「(1-1)本件訂正発明1について」で言及した【相違点2】に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明7及び8は、刊行物発明及び刊行物2に開示されている事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たとは認められない。 (2)特許法第36条第6項第1号について(サポート要件) (2-1)訂正前の請求項1に記載されていた「前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報および前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、」なる事項は、第1の発信装置から発せられるブロードキャスト信号の中に「携帯端末と第1の発信装置との間の距離の情報」が含まれていると解することが可能なものであった。 しかしながら、本件訂正により「前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、」と訂正されたことで、「発信装置との間の距離の情報」の取得方法が「(発信装置から発せられる)ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得」する旨が明らかになり、第1の発信装置から発せられるブロードキャスト信号の中に「携帯端末と第1の発信装置との間の距離の情報」が含まれていると解することはできなくなった。 したがって、取消理由通知で指摘したサポート要件に関する事項は解消されたものと認められる。 (2-2)訂正前の請求項9は、その記載の通り「3つ以上の前記携帯端末が、それぞれ所定の位置に固定的に配置され、」た状態で「第1の被介護者の座標位置の情報を算出する」ものであるが、明細書の発明の詳細な説明には、「携帯端末を所定の位置に固定的に配置した」場合に関する記載を見いだせないから、訂正前の請求項9に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められない、とのサポート要件に関する取消理由については、本件訂正により、訂正前の請求項9が削除されたことにより解消された。 (3)特許異議申立人の意見について (3-1)特許異議申立人 浅野典子 は、上記「訂正事項2」は、「訂正前後において、距離の情報を求める主体が異なっており、主体のみならず処理の内容も変更されたもの」といえるから、実質上特許請求の範囲を変更するもの、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない、旨主張している。 しかしながら、「訂正事項2」は、上記「第2 訂正の適否についての判断」の「(2)訂正事項2について」で言及したとおりであるから、実質上特許請求の範囲を変更するもの、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたもの、のいずれにも該当しない。 (3-2)特許異議申立人 浅野典子 は、「訂正後の請求項6における発明特定事項「前記発信装置は、前記携帯端末からBLE通信により受信したコマンドに基づいて前記ブロードキャスト信号に係る設定内容を変更し、」について、例えば、参考資料1、2、3に記載されているとおり出願時の技術常識であるから、訂正後の請求項6に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載の発明並びに出願時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項(同法第113条第2号)の規定により取り消されるべきものである。」旨主張している。 しかしながら、訂正前の請求項6に係る発明については、平成29年1月12日付けの異議申立書において、申立ての理由(特許法第29条第2項)とはなっていないので、異議申立人によるかかる主張は理由がない。 イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)特許異議申立人 浅野典子 は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、『請求項1-9に記載の「前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報および前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、」は、発明の詳細な説明において、その具体的構成が何ら記載されておらず、かつ周知のものでもないから、いわゆる当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。』として、特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないと主張している。 しかしながら、本件訂正により特許請求の範囲が訂正されたところ、訂正後の「前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得」するに際して、「ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得」することは、明細書等における明示を待つまでもない技術常識であるから、実施可能要件違反の主張は理由がない。 (2)特許異議申立人 浅野典子 は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、『請求項1-9に記載の「前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報および前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、」は、発明の詳細な説明にその定義又は説明が何ら記載されておらず、明細書の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項1-9に係る発明を当業者が理解できるように記載されたものではない』として、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないと主張している。 しかしながら、「ア(2)(2-1)」で上述したとおり、訂正後の請求項1の記載は、「(発信装置から発せられる)ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得」する旨が明らかであるから、明確性要件違反の主張は理由がない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1、5、6、7、8に係る特許を取り消すことはできない。 さらに、他に本件訂正発明1、5、6、7、8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項2?4及び9に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項2?4及び9に対して、特許異議申立人 浅野典子 がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)による通信を用いて被介護者の所在を把握する徘徊防止システムであって、 BLE通信におけるスレーブとしての機能を有し、ブロードキャスト信号を発信する1つ以上の発信装置と、 BLE通信におけるマスタとしての機能を有する携帯端末と、を有し、 前記各発信装置は、それぞれ、前記被介護者に保持され、光センサを有し、前記光センサにより取得した光量が所定のレベルより少ない場合に前記ブロードキャスト信号における電波出力を大きくし、 前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、前記固有情報に基づいて前記第1の発信装置を保持する第1の被介護者を特定する情報を取得し、前記第1の被介護者が所定の領域に所在する旨を示す情報、および前記携帯端末と前記第1の被介護者が保持する前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記携帯端末の画面上に出力する、徘徊防止システム。 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】(削除) 【請求項5】 BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)による通信を用いて被介護者の所在を把握する徘徊防止システムであって、 BLE通信におけるスレーブとしての機能を有し、ブロードキャスト信号を発信する1つ以上の発信装置と、 BLE通信におけるマスタとしての機能を有する携帯端末と、を有し、 前記発信装置は、前記携帯端末からBLE通信により受信したコマンドに基づいて時刻の情報を取得し、予め設定された時間帯毎の設定条件に応じて前記ブロードキャスト信号に係る設定内容を変更し、 前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、前記固有情報に基づいて前記第1の発信装置を保持する第1の被介護者を特定する情報を取得し、前記第1の被介護者が所定の領域に所在する旨を示す情報、および前記携帯端末と前記第1の被介護者が保持する前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記携帯端末の画面上に出力する、徘徊防止システム。 【請求項6】 BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)による通信を用いて被介護者の所在を把握する徘徊防止システムであって、 BLE通信におけるスレーブとしての機能を有し、ブロードキャスト信号を発信する1つ以上の発信装置と、 BLE通信におけるマスタとしての機能を有する携帯端末と、を有し、 前記発信装置は、前記携帯端末からBLE通信により受信したコマンドに基づいて前記ブロードキャスト信号に係る設定内容を変更し、 前記携帯端末は、受信した1つ以上の前記ブロードキャスト信号に対応する第1の発信装置について、それぞれ、その固有情報を前記ブロードキャスト信号の内容から取得し、前記携帯端末と前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記ブロードキャスト信号の受信信号強度の情報に基づいて取得し、前記固有情報に基づいて前記第1の発信装置を保持する第1の被介護者を特定する情報を取得し、前記第1の被介護者が所定の領域に所在する旨を示す情報、および前記携帯端末と前記第1の被介護者が保持する前記第1の発信装置との間の距離の情報を前記携帯端末の画面上に出力する、徘徊防止システム。 【請求項7】 請求項1に記載の徘徊防止システムにおいて、 前記携帯端末は、前記第1の発信装置からの前記ブロードキャスト信号が受信できなくなったことを検知した場合に、前記第1の被介護者が前記所定の領域から外出し、もしくは徘徊を開始したものと判断する、徘徊防止システム。 【請求項8】 請求項1に記載の徘徊防止システムにおいて、 前記携帯端末は、前記第1の発信装置からの前記ブロードキャスト信号を受信していない状況で、新たに前記第1の発信装置からの前記ブロードキャスト信号を受信したことを検知した場合に、前記第1の被介護者が前記所定の領域に入ってきたものと判断する、徘徊防止システム。 【請求項9】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-08-17 |
出願番号 | 特願2015-97034(P2015-97034) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(G06Q)
P 1 651・ 121- YAA (G06Q) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山下 剛史 |
特許庁審判長 |
金子 幸一 |
特許庁審判官 |
佐藤 智康 相崎 裕恒 |
登録日 | 2016-06-17 |
登録番号 | 特許第5951070号(P5951070) |
権利者 | 株式会社日立システムズエンジニアリングサービス |
発明の名称 | 徘徊防止システム |
代理人 | 特許業務法人筒井国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人筒井国際特許事務所 |