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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1333214
異議申立番号 異議2016-700980  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-11 
確定日 2017-09-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5905167号発明「ポリオレフィン樹脂水性分散体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5905167号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5905167号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5905167号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願は、2014年12月3日(優先権主張、2013年12月4日及び2014年5月21日)を国際出願日とする出願であって、平成28年3月25日に設定登録がされ、同年4月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成28年10月11日付け(受理日:同年10月12日)で特許異議申立人 安藤慶治(以下、単に「特許異議申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、同年10月20日付け(受理日:同年10月21日)で特許異議申立人 豊田英徳(以下、単に「特許異議申立人2」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年12月14日付けで取消理由が通知され、平成29年2月14日付け(受理日:同年2月15日)で意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年3月24日付け(受理日:同年3月27日)で特許異議申立人2から意見書が提出され、平成29年3月27日付け(受理日:同年3月28日)で特許異議申立人1から意見書が提出され、同年4月19日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年6月19日付け(受理日:同年6月20日)で意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年8月1日付け(受理日:同年8月3日)で特許異議申立人2により意見書の提出がされたものである。
なお、平成29年2月14日付け(受理日:同年2月15日)の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものと見なす。

第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
特許請求の範囲の請求項1に、
「ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを含有するポリオレフィン樹脂水性分散体であって、
ポリオレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを共重合体成分として含有し、
オレフィン成分が、プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)とからなり、
プロピレン以外のオレフィン(B)がブテンを含み、エチレンを含まず、
プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との質量比(A/B)が、60/40?95/5であり、
プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との合計100質量部に対し、
共重合体成分としての不飽和カルボン酸成分の含有量が、1質量部以上であり、かつ、
水性分散体の乾燥残渣における、不飽和カルボン酸モノマー量が5,000ppm以下であることを特徴とするポリオレフィン樹脂水性分散体。」
と記載されているのを、
「ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを含有するポリオレフィン樹脂水性分散体であって、
ポリオレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを共重合体成分として含有し(ただし、親水性高分子が結合したポリオレフィン樹脂を除く)、
オレフィン成分が、プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)とからなり、
プロピレン以外のオレフィン(B)がブテンを含み、エチレンを含まず、
プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との質量比(A/B)が、60/40?95/5であり、
プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との合計100質量部に対し、
共重合体成分としての不飽和カルボン酸成分の含有量が、1質量部以上であり、
水性分散体の乾燥残渣における、不飽和カルボン酸モノマー量が1,000ppm以下であり、かつ
ポリオレフィン樹脂水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂粒子の重量平均粒子径が0.001?0.05μmであることを特徴とするポリオレフィン樹脂水性分散体。」として訂正し(下線は合議体が付与。)、併せて、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2?4についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正することを請求する。(以下、「訂正事項1」という。)

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では、ポリオレフィン樹脂を、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを共重合体として含有するものとしている。
これに対して、訂正後の請求項1では上記ポリオレフィン樹脂を、親水性高分子が結合したポリオレフィン樹脂を除いたものに特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
また、訂正前の請求項1に係る発明では、水性分散体の乾燥残渣における、不飽和カルボン酸モノマー量が5,000ppm以下であるとしている。
これに対して、訂正後の請求項1では上記不飽和カルボン酸モノマー量を1,000ppm以下に特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
さらに、訂正前の請求項1に係る発明では、ポリオレフィン樹脂水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂粒子の重量平均粒子径を特定していない。
これに対して、訂正後の請求項1では上記ポリオレフィン樹脂粒子の重量平均粒子径を0.001?0.05μmに特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(1)の理由から明らかなように、訂正事項1は、ポリオレフィン樹脂の構成成分、水性分散体の乾燥残渣における、不飽和カルボン酸モノマー量、および、ポリオレフィン樹脂水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂という発明特定事項をより減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(3)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
「ポリオレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを共重合体成分として含有し(ただし、親水性高分子が結合したポリオレフィン樹脂を除く)」旨の構成については、願書に添付した明細書の実施例2、3、6、7、10、12、20、21、24において、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを共重合体成分として含有し、親水性高分子が結合していない、ポリオレフィン樹脂を含有するポリオレフィン樹脂水性分散体が具体的に示されているから、願書に添付した明細書に記載されている。
また、「不飽和カルボン酸モノマー量が1,000ppm以下である」旨の構成については、願書に添付した明細書の段落【0045】に「ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体においては、水性分散体の乾燥残渣における不飽和カルボン酸モノマー量が10,000ppm以下であることが必要である。また、・・・・1,000ppm以下であることがさらに好ましく」と記載されている。
さらに、「ポリオレフィン樹脂水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂粒子の重量平均粒子径が0.001?0.05μmである」旨の構成については、願書に添付した明細書の段落【0035】に「本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体において、水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂粒子の粒子径は、特に限定されないが、低温造膜性、塗膜の緻密性や透明性、他材料との混合安定性の観点から、重量平均粒子径が0.15μm以下であることが好ましく、・・・0.001?0.05μmであることが特に好ましい。」と記載されている。
したがって、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(4)訂正事項1は、訂正後の請求項1ないし4についての訂正であるが、訂正前の請求項1ないし4は一群の請求項であるから、一群の請求項ごとにされている。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正請求による訂正を認める。

第3 本件特許に係る発明
上記第2 3のとおり、本件訂正請求による訂正は認容されるので、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。)は、平成29年6月19日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを含有するポリオレフィン樹脂水性分散体であって、
ポリオレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを共重合体成分として含有し(ただし、親水性高分子が結合したポリオレフィン樹脂を除く)、
オレフィン成分が、プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)とからなり、
プロピレン以外のオレフィン(B)がブテンを含み、エチレンを含まず、
プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との質量比(A/B)が、60/40?95/5であり、
プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との合計100質量部に対し、
共重合体成分としての不飽和カルボン酸成分の含有量が、1質量部以上であり、
水性分散体の乾燥残渣における、不飽和カルボン酸モノマー量が1,000ppm以下であり、かつ
ポリオレフィン樹脂水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂粒子の重量平均粒子径が0.001?0.05μmであることを特徴とするポリオレフィン樹脂水性分散体。
【請求項2】
さらに、架橋剤および/またはポリウレタン樹脂を含有することを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン樹脂水性分散体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリオレフィン樹脂水性分散体を含有することを特徴とする、コーティング剤、プライマー、塗料、インキおよび接着剤から選ばれる水性分散体含有物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のポリオレフィン樹脂水性分散体から得られる塗膜。」

第4 平成29年4月19日付けの取消理由(決定の予告)の概要
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明であるから第29条第1項第3号に該当し、また、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、第29条の規定に違反してされたものであり、第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

刊行物1:特開2008-137273号公報
(刊行物1は、平成28年10月20日に特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に甲1号証として添付されたものである。)

第5 平成29年4月19日付けの取消理由(決定の予告)についての判断
1 刊行物1の記載
刊行物1には、「積層体の製造方法及びこれに用いる水性塗料」に関して、次の記載がある。

ア「【請求項6】
ポリオレフィン系樹脂成形体を含む積層体の最表面層を形成するための水性塗料であって、
該水性塗料が非塩素変性ポリオレフィンの水性分散体を含み、かつ該非塩素変性ポリオレフィン水性分散体の乾燥塗膜を40℃の水で抽出した際の抽出物が、該乾燥塗膜の重量の10重量%以下であることを特徴とする水性塗料。
【請求項9】
該非塩素変性ポリオレフィンは、ポリオレフィン(A)に親水性高分子(B)又は酸性基が結合してなる重合体(C)である、請求項6?8のいずれか1項に記載の水性塗料。
【請求項10】
該ポリオレフィン(A)が、プロピレンの含有率が50モル%以上のプロピレン系重合体である、請求項9記載の水性塗料。」(特許請求の範囲 請求項6、9及び10)

イ「【0005】
即ち本発明は、外観、密着性及び耐湿性、耐薬品性に優れたポリオレフィン系樹脂積層体を製造しうる、優れた水性塗料及び積層体の製造方法を提供することを目的とする」(段落【0005】)

ウ「【0016】
[40℃の水への抽出量(重量%)]=[抽出後の水を乾燥し残った固形重量(Wグラム)]/[使用した変性ポリオレフィン乾燥塗膜の重量(1グラム)]×100 ・・・(1)
この抽出量が10重量%より多い場合は、耐湿性、耐水性、耐薬品性が悪く、またべたつきが起こりやすい。水溶性や親水性の低分子量成分が多いため、湿度や水分等と親和性が高く、またこれら成分がブリードアウトを起こしやすいものと推定される。従って、抽出量は10重量%以下とする。好ましくは5重量%以下とし、更に好ましくは3重量%以下、なかでも好ましくは2重量%以下、最も好ましくは1重量%以下とする。抽出量は低いほど好ましいが、0%とするのは困難であり、通常、0.01重量%以上である。」(段落【0016】)

エ「【0017】
・・・
変性ポリオレフィンとしては本発明の目的を達成しうるものであれば特に限定されないが、好ましくは、変性ポリオレフィンは、ポリオレフィン(A)に親水性高分子(B)又は酸性基が結合してなる重合体(C)である。このような重合体(C)は水への分散性に非常に優れるので、低分子量で水溶性・親水性の高い界面活性剤を全く用いないかごく少量用いるだけで、分散粒子径が細かく、かつ粒径分布が狭く、粒子が安定的に分散した水性分散体を得ることができる。」(段落【0017】)

オ「【0021】
ポリオレフィン(A)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリオレフィン(A)としては、・・・より好ましくは、プロピレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン共重合体、更に好ましくはプロピレン単独重合体、プロピレン-ブテン共重合体である。
【0022】
好ましくはポリオレフィン(A)のプロピレンの含有率が50モル%以上であるプロピレン系重合体である。特に、ホモポリプロピレン又はプロピレン-α-オレフィン共重合体が好ましい。より好ましくはプロピレンの含有率が70モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上であり、最も好ましくは100モル%である。通常、プロピレンの含量が高いほどポリプロピレン基材への密着性が増す傾向がある。」(段落【0021】?【0022】)

カ「【0031】
[1-2]ポリオレフィン(A)に酸性基が結合してなる重合体(C1)
本発明における酸性基とは電子対受容性の基を指し、特に限定されないが例えば、カルボン酸基(-COOH)、スルホ基(-SO_(3)H)、スルフィノ基(-SO_(2)H)、ホスホノ基(-PO_(2)H)などが挙げられる。中でもカルボキシル基が好ましい。カルボン酸基は、水に分散される前はジカルボン酸無水物基(-CO-O-OC-)の状態でもよい。カルボン酸基としては、例えば、(メタ)アクリル酸基、フマル酸基、マレイン酸基又はその無水物基、イタコン酸基又はその無水物基、クロトン酸基などが挙げられる。
【0032】
酸性基の結合量は、ポリオレフィン(A)1g当たり0.4?5mmol、即ち0.4?5mmol/gの範囲にある事が好ましい。・・・下限値より高いほど重合体(C1)の極性が増し親水性が増すため分散粒子径が小さくなる傾向にあり、上限値より低いほど基材である結晶性のポリオレフィンに対する密着性が増す傾向にある。なお、ジカルボン酸無水物基は基中にカルボン酸基を2つ含むとみなせるので、ジカルボン酸無水物基1モルは反応性基2モルと数える。」(段落【0031】?【0032】)

キ「【0034】
[1-3]ポリオレフィン(A)に親水性高分子(B)が結合してなる重合体(C2)
ポリオレフィン(A)と親水性高分子(B)の比率は(A):(B)=100:1?100:500(重量部)であることが好ましい。(B)を1重量部以上とすることで、重合体(C)の水中での分散性を高め、凝集や分離を起こさず分散粒子径を小さくすることができる。(B)を500重量部以下とすることで、ポリオレフィン基材との密着性を高めることができる。より好ましくは(A):(B)=100:5?100:500(重量部)である。
【0035】
ポリオレフィン(A)と親水性高分子(B)を結合させ重合体(C2)を製造する方法としては、・・・以下に述べるポリオレフィン(A)に反応性基が結合してなる重合体(A2)を用い、これに親水性高分子(B)を結合させてもよい。
【0036】
[1-3-1]ポリオレフィン(A)に反応性基が結合してなるポリオレフィン(A2)
反応性基を有するポリオレフィン(A2)としては、例えば、重合時に反応性基を有しない不飽和化合物と反応性基を有する不飽和化合物とを共重合した共重合体(A2a)、又は、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をポリオレフィン(A)にグラフト重合した重合体(A2b)、不飽和末端基を持つプロピレン-α-オレフィン共重合体を13族?17族の元素基等に変換した重合体(A2c)を用いることができる。
・・・
【0038】
重合体(A2b)は、予め重合したポリオレフィンに、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をグラフト重合して得られ、反応性基を有する不飽和化合物は主鎖にグラフトされている。・・・
【0039】
本反応のポリオレフィンとしては、上述のポリオレフィン(A)を使用することができる。
重合体(A2b)として具体的には、例えば無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びその塩素化物、無水マレイン酸変性プロピレン-エチレン共重合体およびその塩素化物、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体、アクリル酸変性プロピレン-エチレン共重合体およびその塩素化物、アクリル酸変性プロピレン-ブテン共重合体などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」(段落【0034】?【0039】)

ク「【0052】
[1-3-2]親水性高分子(B)
・・・
【0061】
ポリエーテルアミンは、ポリエーテル骨格を有する樹脂の片末端又は両末端に、反応性基としての1級アミノ基を有する化合物である。ポリエーテルポリオールはポリエーテル骨格を有する樹脂の両末端に、反応性基としての水酸基を有する化合物である。
・・・
【0062】
又はポリエーテルアミンとしては、ハンツマン社製ジェファーミンMシリーズ、Dシリーズ、EDシリーズなどを使用してもよい。
本発明に用いる親水性高分子(B)はポリオレフィン(A)との結合前に、これと反応しうる反応性基を1以上有しているのが好ましい。反応性基としては、例えばカルボン酸基、ジカルボン酸無水物基、及びジカルボン酸無水物モノエステル基、水酸基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基などが挙げられるが、好ましくは少なくともアミノ基を有する。アミノ基はカルボン酸基、無水カルボン酸基、グリシジル基、イソシアネート基など多種の反応性基と反応性が高いのでポリオレフィンと親水性高分子を結合させることが容易である。アミノ基は1級、2級、3級のいずれでもよいが、より好ましくは1級アミノ基である。」(段落【0052】?【0062】

ケ「【0094】
本発明の水性分散体には、本発明の効果を著しく損なわない限り、必要に応じて酸性物質や塩基性物質を添加することができる。酸性物質としては例えば塩酸、硫酸などの無機酸、酢酸などの有機酸が挙げられる。塩基性物質として例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジエチルエタノールアミン、2-メチル-2-アミノ-プロパノール、モルホリンなどが挙げられる。また酸性基、塩基性基を含んだ高分子化合物であってもよい。」(段落【0094】)

コ「【0096】
また、変性ポリオレフィンにおいては、変性量が非常に高いと水に抽出される可能性が高まる。前記重合体(C)においては、ポリオレフィン(A)100重量部に対して、親水性高分子(B)は500(重量部)以下が好ましく、300重量部以下がより好ましく、100重量部以下が更に好ましい。であることが好ましい
また水性分散体中に、変性に用いた親水性高分子(B)がフリーの状態で多く含まれると、水に抽出される可能性が高い。従って、親水性高分子(B)の反応率を上げ、フリーの親水性高分子の残留量を少なくすることが望ましい。」(段落【0096】)

サ「【0099】
更には、変性ポリオレフィンの製造において精製を十分に行い、フリーの親水性高分子や酸類をできるだけ除去することが好ましい。例えば、無水マレイン酸であれば変性ポリオレフィン100gあたり残存フリー無水マレイン酸を1g以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5g以下、更に好ましくは0.3g以下に低減する。」(段落【0099】)

シ「【0100】
また、水性分散体中に水以外の有機溶媒、特に沸点の高い親水性・両親媒性溶媒が含まれると、乾燥塗膜に残留し、水への抽出量が増加する虞がある。」(段落【0100】)

ス「【0102】
[2]水性塗料
本発明の水性塗料は、前述の変性ポリオレフィンの水性分散体を含むことを特徴とする。・・・
本発明の水性塗料としては、顔料の添加が必要ないクリアコート等の場合は前述の水性分散体をそのまま用いてもよいが、目的に応じて、水性分散体に他の樹脂や顔料、各種添加剤などを添加することができる。」(段落【0102】)

セ「【0103】
[2-1]他の樹脂の併用
本発明の水性塗料には、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、必要に応じて水溶性樹脂又は水に分散しうる樹脂を混合し使用することができる。・・・
【0104】
水に分散しうる樹脂としては例えば、アクリル樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂等が挙げられる。」(段落【0103】?【0104】)

ソ「【0135】
[2-3]その他の添加物
本発明の水性塗料には、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、必要に応じて種々の添加剤を含有させることができる。・・・
【0136】
・・・
また耐水性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために。架橋剤を水性塗料中の樹脂100重量部に対して0.01?100重量部添加することができる。」(段落【0135】?【0136】)

タ「【0186】
<変性ポリオレフィン水性分散体の製造>
[製造例1]
(1-1)ポリオレフィンの製造
・・・
【0189】
(1-2)無水マレイン酸変性ポリプロピレンの製造
・・・
【0190】
(1-3)変性ポリオレフィン水性分散体の製造法
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、(1-2)で合成した無水マレイン酸変性ポリプロピレン30g(無水マレイン酸基の含量4.5mmol)とトルエン60gを加え、温度を110℃に昇温し完全に溶解した。次いでメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミン(ハンツマン社製ポリエーテルアミン;ジェファーミンM-1000、分子量1000(公称値))4.5g(4.5mmol、ポリオレフィン(A)100重量部に対し親水性高分子(B)15重量部に相当)をトルエン10gに溶解した溶液を加え70℃で1時間反応させた。
・・・
【0193】
[製造例2]
(溶融変性工程)
プロピレン-ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーXM7070、重量平均分子量240,000(ポリプロピレン換算)、Mw/Mn=2.2、プロピレン含有量74モル%)200kgと無水マレイン酸5kgをスーパーミキサーでドライブレンドした後、2軸押出機(日本製鋼所社製TEX54αII)を用い、プロピレン-ブテン共重合体100重量部に対し1重量部となるようにパーブチルIを液添ポンプで途中フィードしながら、ニーディング部のシリンダー温度200℃、スクリュー回転数125rpm、吐出量80kg/時間の条件下で混練し、ペレット状の製品を得た。
【0194】
このようにして得られた無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体の無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は0.8重量%(無水マレイン酸基として0.08mmol/g、カルボン酸基として0.16mmol/g)であった。また重量平均分子量は156,000、数平均分子量は84,000(ともにポリスチレン換算)であった。
【0195】
(溶液変性工程)
次に、底抜き出し弁とオイル循環式ジャケットヒーターのついた2Lガラスフラスコに還流冷却管、温度計、窒素ガス吹込み管、攪拌機を設置した後、上記無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体150gとトルエン150gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら110℃になるまで加温、撹拌した。
【0196】
昇温後、無水マレイン酸2.25gを加えて溶解させた後、パーブチルIを0.75g加え、7時間同温度で撹拌を続けた。そののち溶液0.5gを抜き出し、アセトンを加えて、沈殿したポリマーを濾別し、更にアセトンで沈殿・濾別を繰り返し、最終的に得られたポリマーを減圧乾燥した。この変性ポリマーの無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は1.5重量%(無水マレイン酸基として0.15mmol/g、カルボン酸基として0.30mmol/g)であった。また重量平均分子量は146,000、数平均分子量は77,000(ともにポリスチレン換算)であった。
【0197】
(乳化工程)
次に、溶液にトルエン129gを加え希釈した後、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバスペシャリティケミカル社製 イルガノックス1010)0.075g加えた。ジャケット温度(外温)を75℃に下げ、更にイソプロパノール15gを加えて1時間撹拌した後、70℃の温水600gを加え撹拌した。15分撹拌を続けた後、静置すると上部にトルエン溶液相、下部に温水相と二相に分離するので、底抜き出し弁より温水を抜き出した。温水での洗浄操作をもう1回繰り返した後、トルエン溶液に、ジェファーミンM-1000の15g(15mmol)をイソプロパノール390gに溶解した溶液を、1時間かけて滴下した。更に、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールの90%水溶液(AMP90)1.5g(15mmol)を水90gに溶解した水溶液を加えた。
【0198】
還流冷却管とフラスコとの間にディーン・スターク管を設置し、得られた液体を減圧して溶媒を90g留去し、水90gを加える工程を5回繰り返した。その後さらに水60g加え、固形分が30重量%になるまでトルエンとイソプロパノールと水を減圧留去し、白色の水性分散体を得た。分散粒子径を測定した結果、50%粒子径は42nm、90%粒子径は80nmであった。
【0199】
[製造例3]
製造例2と同様に溶融変性を行い、無水マレイン酸基の含量0.8重量%、重量平均分子量156,000の無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体を得た。
次に、1Lガラスフラスコに還流冷却管、温度計、窒素ガス吹込み管、攪拌機を設置した後、上記無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体200gとトルエン200gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら110℃になるまで加温、撹拌した。
昇温後、無水マレイン酸10gとパーブチルI 3.0gを加え、その後30分ごとにこの操作を3回繰り返した(計4回)のち、7時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。
【0200】
反応終了後、内温を50℃まで冷却し、アセトン600gを約1時間かけて滴下すると、薄赤色の懸濁液が得られた。吸引ろ過器で液体を除去した後、残った白色固体をアセトン500gに懸濁させ30分撹拌した。再度吸引ろ過器で液体を除去した後、テフロン(登録商標)コーティングしたバットに入れ、60℃の減圧乾燥器中で乾燥し変性ポリマーを得た。
この変性ポリマーの無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は5.8重量%(無水マレイン酸基として0.58mmol/g、カルボン酸基として1.16mmol/g)であり、重量平均分子量は89,000、数平均分子量は44,000(ともにポリスチレン換算)であった。
【0201】
この無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体150gとTHF500gを還流冷却管、温度計、攪拌機を設置した2Lガラスフラスコに仕込み、昇温し、65℃にて完全に溶解させた。得られた溶液にモルホリン33g(0.37mol)を加え、同温度で30分撹拌した。次に水500gを2時間かけて加え、淡黄色の溶液を得た。
ジャケット温度(外温)60℃で、得られた液体を減圧してTHFと一部の水を減圧留去し、固形分が30重量%の水性分散体を得た。分散粒子径を測定した結果、50%粒子径は41nm、90%粒子径は63nmであった。
【0202】
<実施例>
[実施例1]
自動車外装用グレードのポリプロピレンを、70mm×150mm×3mmにインジェクション成型した基板を作成し、基板表面をイソプロピルアルコールで清拭した。ここに、水性塗料として、製造例1で得られた変性ポリオレフィン水分散液を、塗布量約30g/m^(2)となるように噴霧塗布した。塗布後の基板をセーフベンドライヤー中80℃で30分乾燥し、積層体を製造した。
密着性、ブリードアウト、耐湿性の評価を行った。結果を表-1に示す。
【0203】
[実施例2及び3]
水性塗料として製造例2及び3の水性分散体を使用した以外は実施例1と同様にして積層体の製造を行った。評価結果を表-1に示す。」(段落【0186】?【0203】)

チ「【表1】

」(段落【0206】【表1】)

2 刊行物1に記載された発明
(1)上記摘示タ、チの実施例2より、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「プロピレン-ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーXM7070、重量平均分子量240,000(ポリプロピレン換算)、Mw/Mn=2.2、プロピレン含有量74モル%)を無水マレイン酸で溶融変性及び溶液変性した、無水マレイン酸基の含量(グラフト率)が1.5重量%の変性ポリマーの溶液に、ジェファーミンM-1000、更に、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールを加えた溶液から得られた、水を含む水性分散体であって、該水性分散体の乾燥塗膜を40℃の水で抽出した際の抽出物が、該乾燥塗膜の0.2重量%であり、該水性分散体中の分散粒子の50%粒子径が42nmである、水性分散体。」

(2)引用発明2
上記摘示タ、チの実施例3より、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

「プロピレン-ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーXM7070、重量平均分子量240,000(ポリプロピレン換算)、Mw/Mn=2.2、プロピレン含有量74モル%)を無水マレイン酸で溶融変性及び溶液変性した、無水マレイン酸基の含量(グラフト率)が5.8重量%(無水マレイン酸基として0.58mmol、カルボン酸基として1.16mmol)の変性ポリマー150g、モルホリン33g(0.37mol)及び水を含む水性分散体であって、該水性分散体の乾燥塗膜を40℃の水で抽出した際の抽出物が、該乾燥塗膜の1.1重量%であり、該水性分散体中の分散粒子の50%粒子径が41nmである、水性分散体。」

3 対比・判断
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と引用発明1との対比・判断
(ア)対比
引用発明1の「変性ポリマー」は、プロピレン-ブテン共重合体に無水マレイン酸がグラフトしたポリマーであって、また、上記摘示クおよびタの【0190】によると、ジェファーミンM-1000は親水性高分子であるポリエーテルアミンであって変性ポリマー中の無水マレイン酸基と反応する。そして、「プロピレン-ブテン共重合体」は、プロピレンとブテンとからなる共重合体であることは明らかであって、プロピレンと、プロピレン以外のオレフィンとしてブテンを含み、エチレンを含まないから本件特許発明1の「オレフィン成分」に相当し、引用発明1の「無水マレイン酸」は本件特許発明1の「不飽和カルボン酸」であるから、引用発明1の変性ポリマーの溶液にジェファーミンM-1000を加えた溶液中のポリマーは、本件特許発明1のポリオレフィン樹脂に相当する。
また、引用発明1の「水」は本件特許発明1の「水性媒体」に、同じく「水性分散体」は「ポリオレフィン樹脂水性分散体」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明1の共重合体の成分のモル比を質量比に換算すると、プロピレン/ブテン=74モル%/26モル%=42×74/56×26≒68/32であるから、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとの質量比について、本件特許発明1と引用発明1とは重複一致する。
また、引用発明1の無水マレイン酸基の含量をプロピレン-ブテン共重合体100質量部に対する比に換算すると、1.5重量%×(100/(100-1.5))≒1.52質量部であるから、不飽和カルボン酸の含有量について、本件特許発明1と引用発明1とは重複一致する。

以上の点からみて、本件特許発明1と引用発明1とは、

[一致点]
「ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを含有するポリオレフィン樹脂水性分散体であって、
ポリオレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを共重合体成分として含有し、
オレフィン成分が、プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)とからなり、
プロピレン以外のオレフィン(B)がブテンを含み、エチレンを含まず、
プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との質量比(A/B)が、60/40?95/5であり、
プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との合計100質量部に対し、
共重合体成分としての不飽和カルボン酸成分の含有量が、1質量部以上である、ポリオレフィン樹脂水性分散体。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点1]
ポリオレフィン樹脂について、本件特許発明1では「ただし、親水性高分子が結合したポリオレフィン樹脂を除く」と特定するのに対して、引用発明1では、そのような特定がない点。

[相違点2]
水性分散体の乾燥残渣における、不飽和カルボン酸モノマー量について、本件特許発明1では1,000ppm以下と特定するのに対して、引用発明1では、そのような特定がない点。

[相違点3]
水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂粒子について、本件特許発明1では「重量平均粒子径が0.001?0.05μmである」と特定するのに対して、引用発明1では、「50%粒子径が42nm」である点。

(イ)判断
相違点1について
引用発明1において、上記摘示クおよびタの【0190】より、ジェファーミンM-1000は親水性高分子であるポリエーテルアミンであって変性ポリマー中の無水マレイン酸基と反応するから、ジェファーミンM-1000(親水性高分子)は変性ポリマー(ポリオレフィン樹脂)と結合している。
そうすると、相違点1において、本件特許発明1と引用発明1とは相違するから、上記相違点2および3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明1、すなわち、刊行物1に記載された発明ではない。

そして、引用発明1の課題は、上記摘示イより外観等に優れたポリオレフィン系樹脂積層体を製造しうる、優れた水性塗料を提供することと認められる。
刊行物1においては、そのような課題を解決するために「非塩素変性ポリオレフィンの水性分散体」を使用することを提案するものであるが、そのような「非塩素変性ポリオレフィン」として刊行物1ではポリオレフィンに親水性高分子が結合してなる重合体、ポリオレフィンに酸性基が結合してなる重合体の2種類を挙げている(請求項9)ところ、引用発明1の水性分散体(プロピレン-ブテン共重合体に無水マレイン酸がグラフトしたポリマーにジェファーミンM-1000を結合させたもの)は、その原料の構成から、ポリオレフィンに親水性高分子が結合してなる重合体の水性分散体の例とすべきものである。この点は、上記摘示キの【0038】、【0039】において、ポリオレフィンには、予め重合したポリオレフィンに、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をグラフト重合して得られる無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体が挙げられていることからも明らかである。
そうしてみると、引用発明1の水性分散体のジェファーミンM-1000は親水性高分子であって、引用発明1の課題を達成するために必須の成分であるから、引用発明1に接した当業者は、引用発明1の「変性ポリマー」にジェファーミンM-1000を加えることを当然に行うものであって、引用発明1からジェファーミンM-1000を除く動機付けは何ら見いだせない。
よって、上記相違点2および3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明1、すなわち、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明1と引用発明2との対比・判断
(ア)対比
引用発明2の「プロピレン-ブテン共重合体」は、プロピレンと、プロピレン以外のオレフィンとしてブテンを含み、エチレンを含まないから本件特許発明1の「オレフィン成分」に相当し、同様に「無水マレイン酸基」は「不飽和カルボン酸成分」に、「変性ポリマー」は「オレフィン樹脂」に、「水」は「水性媒体」に、「水性分散体」は「ポリオレフィン樹脂水性分散体」にそれぞれ相当する。
そして、上記(1)ア(ア)のとおり、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとの質量比について、本件特許発明1と引用発明2とは重複一致する。
また、引用発明2の無水マレイン酸基の含量をプロピレン-ブテン共重合体100質量部に対する比に換算すると、5.8重量%×(100/(100-5.8))≒6.16質量部であるから、不飽和カルボン酸の含有量について、本件特許発明1と引用発明2とは重複一致する。

以上の点からみて、本件特許発明1と引用発明2とは、

[一致点]
「ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを含有するポリオレフィン樹脂水性分散体であって、
ポリオレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを共重合体成分として含有し、
オレフィン成分が、プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)とからなり、
プロピレン以外のオレフィン(B)がブテンを含み、エチレンを含まず、
プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との質量比(A/B)が、60/40?95/5であり、
プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との合計100質量部に対し、
共重合体成分としての不飽和カルボン酸成分の含有量が、1質量部以上である、ポリオレフィン樹脂水性分散体。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点4]
ポリオレフィン樹脂について、本件特許発明1では「ただし、親水性高分子が結合したポリオレフィン樹脂を除く」と特定するのに対して、引用発明2では、そのような特定がない点。

[相違点5]
水性分散体の乾燥残渣における、不飽和カルボン酸モノマー量について、本件特許発明1では1,000ppm以下と特定するのに対して、引用発明2では、そのような特定がない点。

[相違点6]
水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂粒子について、本件特許発明1では「重量平均粒子径が0.001?0.05μmである」と特定するのに対して、引用発明2では、「50%粒子径が41nm」である点。

(イ)判断
事案に鑑みて、はじめに相違点5から検討する。
引用発明2の乾燥塗膜と本件特許発明1の乾燥残渣とは、いずれも水性分散体を乾燥させて得られるものであるから、引用発明2の乾燥塗膜中の成分の含有量と本件特許発明1の乾燥残渣中の成分の含有量は対応する。
そして、引用発明2においては、水性分散体の乾燥塗膜を40℃の水で抽出した際の抽出物が、該乾燥塗膜の1.1重量%=11,000ppmであって、該抽出物は上記2の摘示イ、カないしケより、未反応の無水マレイン酸、モルホリン、水以外の溶媒等が含まれていることは明らかであるが、それぞれの成分がどれだけ含まれているかは不明である。
ここで、引用発明2において、無水マレイン酸基の含量(グラフト率)が5.8重量%の変性ポリマー150g中のカルボン酸基の含有量は、5.8重量%×150g/98(無水マレイン酸の分子量)×2≒0.178molであって、該変性ポリマー150gが、上記摘示カより塩基性物質であるモルホリン33g(0.37mol)と共に水性化されているから、仕込み量においてカルボン酸基のモル数よりもモルホリンのモル数は過剰である。
そうしてみると、引用発明2においては、カルボン酸基と塩基性物質であるモルホリンとは反応し、過剰のモルホリンが抽出物中に多く抽出されるといえたとしても、カルボン酸基とモルホリンとの反応率は不明であり、また、本件特許の明細書の実施例1と実施例2とを対比すると、ポリオレフィン樹脂P-1の同量に対して塩基性物質であるDMEAを後者では多く添加しているが、表3に示される乾燥残渣中の不飽和カルボン酸のモノマー量について、両者は同程度にあることからすると、異議申立人2が平成29年8月1日付けの意見書第4頁下から5行?第6頁第4行において述べるように、引用発明2において、必ずしも過剰のモルホリンに対してカルボン酸が完全に反応し、抽出物のほとんどがモルホリンであり、無水マレイン酸はほとんど含まれていないとまではいえず、水性分散体の乾燥残渣における不飽和カルボン酸モノマー量は不明と言わざるを得ない。(なお、異議申立人2は、引用発明2について再現実験により上記主張について実証してはいない。)
そして、本件特許発明1の効果について、本件特許の明細書の表2、3より、乾燥残渣中の不飽和カルボン酸のモノマー量を一定量以下に減らすことにより、水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂粒子の重量平均粒子径が小さく、粘度変化の小さい水性分散体を連続生産できることが見てとれる。
ここで、刊行物1には、上記摘示イに、耐湿性、耐水性、耐薬品性の改善、ブリードアウトの防止のためには、水への抽出量が低いほど好ましいことが記載されているが、引用発明2において、さらに水への抽出量を減らすにあたり、主な抽出物であるモルホリン、無水マレイン酸のうち、連続生産における水性分散体の安定性の観点で特に無水マレイン酸に着目し、その抽出量を1,000ppm以下とすることについて、刊行物1には記載も示唆もない。

よって、上記相違点4および6について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明2、すなわち、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし4について
本件特許の請求項2ないし4は、請求項1を引用するものであって、請求項1にさらに限定を付加するものであるので、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2ないし4は、刊行物1に記載された発明ではなく、また、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 まとめ
したがって、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許については、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを含有するポリオレフィン樹脂水性分散体であって、ポリオレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを共重合体成分として含有し(ただし、親水性高分子が結合したポリオレフィン樹脂を除く)、
オレフィン成分が、プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)とからなり、プロピレン以外のオレフィン(B)がブテンを含み、エチレンを含まず、
プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との質量比(A/B)が、60/40?95/5であり、
プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との合計100質量部に対し、共重合体成分としての不飽和カルボン酸成分の含有量が、1質量部以上であり、
水性分散体の乾燥残渣における、不飽和カルボン酸モノマー量が1,000ppm以下であり、かつ
ポリオレフィン樹脂水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂粒子の重量平均粒子径が0.001?0.05μmであることを特徴とするポリオレフィン樹脂水性分散体。
【請求項2】
さらに、架橋剤および/またはポリウレタン樹脂を含有することを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン樹脂水性分散体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリオレフィン樹脂水性分散体を含有することを特徴とする、コーティング剤、プライマー、塗料、インキおよび接着剤から選ばれる水性分散体含有物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のポリオレフィン樹脂水性分散体から得られる塗膜。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-25 
出願番号 特願2015-535901(P2015-535901)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中川 裕文増田 亮子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 上坊寺 宏枝
守安 智
登録日 2016-03-25 
登録番号 特許第5905167号(P5905167)
権利者 ユニチカ株式会社
発明の名称 ポリオレフィン樹脂水性分散体  
代理人 牧野 逸郎  
代理人 特許業務法人森本国際特許事務所  
代理人 特許業務法人森本国際特許事務所  
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