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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C12G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12G |
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管理番号 | 1333226 |
異議申立番号 | 異議2016-700838 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-09-08 |
確定日 | 2017-09-07 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5878306号発明「混和蒸留酒」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5878306号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5878306号の請求項1,3及び4に係る特許を維持する。 特許第5878306号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5878306号(以下「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は,平成28年2月5日付けでその特許権の設定登録がされた。 そして,平成28年9月8日に特許異議申立人大隅庸平より全請求項に対して特許異議の申立てがされ,その後の手続の経緯は次のとおりである。 平成28年10月26日 取消理由通知 平成28年12月27日 意見書提出(特許権者) 〃 訂正請求書提出(特許権者) 平成29年 1月27日 訂正拒絶理由通知 平成29年 3月 3日 意見書提出(特許権者) 平成29年 3月29日 取消理由通知(決定の予告) 平成29年 5月25日 意見書提出(特許権者) 〃 訂正請求書提出(特許権者) 平成29年 7月 7日 意見書提出(異議申立人) なお,平成28年12月27日に提出された訂正請求書による訂正請求については,特許法第120条の5第7項の規定により,取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 特許権者が平成29年5月25日に提出した訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また,本件訂正請求書による訂正を以下「本件訂正」という。)における請求の趣旨は,本件特許の明細書及び特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,一群の請求項1ないし4について訂正することを求めるものであり,その内容は,本件訂正請求書によれば,それぞれ次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) (1)訂正事項1 本件特許の特許請求の範囲の請求項1に 「【請求項1】 パルミチン酸エチルを含有し,さらにリノレン酸エチル,オレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有し, 高級脂肪酸エステルの濃度が0.1ppm以上であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.03ppm以上である,混和蒸留酒。」 とあるのを, 「【請求項1】 パルミチン酸エチルを含有し,さらにオレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有し, 高級脂肪酸エステルの濃度が0.1ppm以上であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.03ppm以上である,混和蒸留酒。」 と訂正する。 (2)訂正事項2 本件特許の特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 本件特許の特許請求の範囲の請求項3に 「【請求項3】 前記混和蒸留酒が麦焼酎であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.04ppm以上である,請求項1または2記載の混和蒸留酒。」 とあるのを, 「【請求項3】 前記混和蒸留酒が麦焼酎であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.04ppm以上である,請求項1記載の混和蒸留酒。」 と訂正する。 (4)訂正事項4 本件特許の特許請求の範囲の請求項4に 「【請求項4】 前記混和蒸留酒が芋焼酎であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.3ppm以上である,請求項1または2記載の混和蒸留酒。」 とあるのを, 「【請求項4】 前記混和蒸留酒が芋焼酎であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.3ppm以上である,請求項1記載の混和蒸留酒。」 と訂正する。 (5)訂正事項5 本件特許明細書の【0032】の【表1】に「リノレン酸エチル」とあるのを,「リノール酸エチル」と訂正する。 (6)訂正事項6 本件特許明細書の【0036】の【表2】及び【0037】の【表3】に「リノレン酸エチル」とあるのを,「リノール酸エチル」と訂正する。 (7)訂正事項7 本件特許明細書の【0043】の【表4】及び【0046】の【表6】に「リノレン酸エチル」とあるのを,「リノール酸エチル」と訂正する。 2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,及び一群の請求項 (1)訂正事項1について 訂正事項1は,訂正前の請求項1の選択的事項の一つであった「リノレン酸エチル」を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,これは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は,訂正前の請求項2を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,これは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。 (3)訂正事項3及び4について 訂正事項3及び4はいずれも,訂正事項2により訂正前の請求項2が削除されたことに伴い,それと整合させるように訂正前の請求項3及び4において訂正前の請求項2を引用することを削除するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,これらは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。 (4)訂正事項5について 訂正事項5は,本件特許明細書の【0032】の【表1】に「リノレン酸エチル」とあるのを,「リノール酸エチル」と訂正するものであるところ,上記【表1】は,「油性成分中の高級脂肪酸エステル組成」を示すものであり,これは,同【0028】及び【0029】に記載される実施例1で製造した麦焼酎及び芋焼酎に対して,実施例2として同【0030】及び【0031】で示される手順に従って油性成分を回収・分析した結果である。 そして,上記実施例1のような定法に従って製造された麦焼酎及び芋焼酎の油性成分中に,高級脂肪酸エステルとしてリノレン酸エチルがほとんど含まれないことは技術常識であり,また,上記【表1】には,リノレン酸エチル以外に,パルミチン酸エチル,オレイン酸エチル,ステアリン酸エチルが示されているが,これら3つの高級脂肪酸エステル以外に,16.4重量%(芋焼酎由来),18.5重量%(麦焼酎由来)もの含有量となる高級脂肪酸エステルは,リノール酸エチル以外あり得ないことも当業者にとって明らかである。(甲第2,4,16及び19号参照。) よって,訂正事項5は,誤記の訂正を目的とするものである。そして,これは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。 (5)訂正事項6について 訂正事項6は,本件特許明細書の【0036】の【表2】及び【0037】の【表3】に「リノレン酸エチル」とあるのを,「リノール酸エチル」と訂正するものであるところ,上記【表2】及び【表3】はそれぞれ,「甲乙混和麦焼酎の高級脂肪酸エステル濃度」,「甲乙混和芋焼酎の高級脂肪酸エステル濃度」を示すものであり,これらは,市販の甲乙混和麦焼酎及び甲乙混和芋焼酎の高級脂肪酸エステルの濃度を分析した結果である。 そして,上記「(4)訂正事項5について」で示したように,通常の麦焼酎及び芋焼酎に高級脂肪酸エステルとして含有されるのは,リノレン酸エチルではなく,リノール酸エチルであることは技術常識であり,濃度分析の技術的意義からしても,また,上記訂正事項5で訂正される【表1】との整合からしても,【表2】及び【表3】のリノレン酸エチルが誤りで,正しくはリノール酸エチルであることは当業者にとって明らかである。 よって,訂正事項6は,誤記の訂正を目的とするものである。そして,これらは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。 (6)訂正事項7について 訂正事項7は,本件特許明細書の【0043】の【表4】及び【0046】の【表6】に「リノレン酸エチル」とあるのを,「リノール酸エチル」と訂正するものであるところ,上記【表4】及び【表6】はそれぞれ,「甲乙混和麦焼酎における油性成分添加試験(測定結果)」,「甲乙混和芋焼酎における油性成分添加試験(測定結果)」を示すものであり,これらは,同【0030】?【0032】に示される実施例2で得られた油性成分を,甲乙混和麦焼酎,甲乙混和芋焼酎に添加し濃度を測定した結果である。 そして,上記「(4)訂正事項5について」で示したように,上記実施例2で得られた油性成分中に高級脂肪酸エステルとして含まれるのは,リノレン酸エチルではなく,リノール酸エチルであるから,【表4】及び【表6】のリノレン酸エチルが誤りで,正しくはリノール酸エチルであることは当業者にとって明らかである。 よって,訂正事項7は,誤記の訂正を目的とするものである。そして,これらは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。 (7)訂正事項1?7は,訂正前の請求項1?4からなる一群の請求項に対してなされたものである。 3 小括 以上のとおりであるから,本件訂正請求の訂正事項1及び2は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を,同訂正事項3及び4は,同項ただし書第3号に掲げる事項を,また,同訂正事項5?7は,同項ただし書第2号に掲げる事項を,それぞれ目的とするものであり,かつ,同訂正事項1?7は,同条第4項,及び同条第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり本件訂正は認められるから,請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」等という。また,本件発明1,3,4をまとめて「本件発明」という。)は,請求項1?4に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 パルミチン酸エチルを含有し,さらにオレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有し, 高級脂肪酸エステルの濃度が0.1ppm以上であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.03ppm以上である,混和蒸留酒。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 前記混和蒸留酒が麦焼酎であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.04ppm以上である,請求項1記載の混和蒸留酒。 【請求項4】 前記混和蒸留酒が芋焼酎であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.3ppm以上である,請求項1記載の混和蒸留酒。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1?4に係る特許に対し,平成29年3月29日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。 本件特許の請求項1において「リノレン酸エチル」を選択した発明,及び,本件特許の請求項2に係る発明は,課題を解決することができる発明として,発明の詳細な説明に記載されていない。また,これは,本件特許の請求項1,2に係る発明を直接ないし間接に引用する請求項3,4に係る発明についても同様である。 よって,本件特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。 2 取消理由についての判断 上記取消理由について検討するに,上記訂正事項1により請求項1から「リノレン酸エチル」が削除され,また,上記訂正事項2により請求項2が削除された。 そうすると,本件発明は,「パルミチン酸エチルを含有し,さらにオレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有」することを発明特定事項とするものの,「リノレン酸エチル」を含有することについては発明特定事項としないものである。 そして,「パルミチン酸エチルを含有し,さらにオレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有」することを発明特定事項とする本件発明は,課題を解決することができる発明として,発明の詳細な説明に記載されている。 よって,本件発明に係る特許は,上記取消理由によって取り消されるべきものであるとすることはできない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 採用しなかった申立理由の概要 平成29年3月29日付けで通知した取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由の概要は,次のとおりである。(各甲号証については,以下の「甲号証一覧」を参照のこと。) (1)申立理由1(新規性) 本件特許の請求項1,2,及び4に係る発明は,その出願前に日本国内において,頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから,また,本件特許の請求項1及び2に係る発明は,その出願前に日本国内において,頒布された刊行物である甲第6号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない (2)申立理由2(進歩性) 本件特許の請求項1?4に係る発明は,その出願前に日本国内において,頒布された刊行物である甲第6号証及び甲第7号証に記載された発明に基いて,本件特許の請求項1,3及び4に係る発明は,その出願前に日本国内において,頒布された刊行物である甲第6号証及び甲第10号証に記載された発明に基いて,また,本件特許の請求項1?4に係る発明は,日本国内において,頒布された刊行物である甲第6号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (3)申立理由3(実施可能要件) 本件特許の請求項1で「リノレン酸エチル」を選択した場合の混和蒸留酒,及び,本件特許の請求項2の「リノレン酸エチル」を必ず含む混和蒸留酒について,発明の詳細な説明は,当業者が実施することができる程度に記載されていないから,本件特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 (4)申立理由4(明確性要件) 本件特許の請求項1,2の「リノレン酸エチル」は,真にリノレン酸エチルを意図してものであるのか,リノール酸エチルを意図したものであるのか明確でないから,本件特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 <甲号証一覧> 甲第1号証 特開2010-207217号公報 甲第2号証 醸造成分・本格焼酎 第2章 製品成分,日本醸造協会雑誌,第72巻,第6号,p.415-432,昭和52年度 甲第3号証 J.Soc.Brew.Japan,1971年,Vol.66,No.2,p.173-175 甲第4号証 焼酎の色,日本醸造協会雑誌,第75巻,第5号,p.371-374,昭和55年度 甲第5号証 朝日新聞,2009年6月11日朝刊,p.15 甲第6号証 J.Brew.Soc.Japan,Vol.80,No.6,p.415-417,1985年 甲第7号証 特開平11-196851号公報 甲第8号証 2005年11月15日付けサントリー株式会社ニュースリリースのウェブページの出力物,http://www.suntory.co.jp/news/2005/9302.html 甲第9号証 本格焼酎製造技術,財団法人日本醸造協会,平成3年12月10日発行,p.236-241 甲第10号証 特開昭58-158174号公報 甲第11号証 日本醸造協会雑誌,第47巻,第7号,p.334-332,昭和27年度 甲第12号証 特開平6-153898号公報 甲第13号証 特開平9-299075号公報 甲第14号証 日経産業新聞,2005年8月25日,018頁 甲第15号証 日本食糧新聞,2001年9月3日,第3面 甲第16号証 本格焼酎・泡盛,第II編,技術者養成研修基礎過程テキスト,日本酒造組合中央会,p.68,平成3年8月 甲第17号証 特開平8-116958号公報 甲第18号証 特開昭58-126779号公報 甲第19号証 旧式しょうちゅうの工業的製造について,日本醸造協会雑誌,第61巻,第8号,p.663-666,昭和41年度 2 当審の判断 (1)申立理由1(新規性)について 甲第1号証記載の発明(以下「甲1発明」という。)及び甲第6号証記載の発明(以下「甲6発明」という。)と,本件発明1とを対比すると,甲1発明及び甲6発明はいずれも,少なくとも,本件発明1の「パルミチン酸エチルを含有し,さらにオレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有し,高級脂肪酸エステルの濃度が0.1ppm以上であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.03ppm以上である」という事項に相当する事項を備えていない点で,本件発明1と相違する。 そして,甲1発明又は甲6発明をして,上記相違点に係る事項を備えることが自明であるとか技術常識であるという証拠は,特許異議申立人が提示した全甲号証を参酌しても見出せない。 したがって,本件発明1は,甲第1号証又は甲第6号証に記載された発明とは認められない。また,本件発明4は,本件発明1を更に減縮したものであるから,本件発明1についての判断と同様の理由により,甲第1号証又は甲第6号証に記載された発明とは認められない。 よって,上記申立理由1によって本件発明1及び4に係る特許を取り消されるべきものであるとすることはできない。 なお,特許異議申立人は,特許異議申立書の「ウ 無効理由1」及び「エ 無効理由2-1」や,平成29年7月7日に提出した意見書において,甲第2号証ないし甲第4号証に記載される鑑評会出品酒である本格焼酎の高級脂肪酸エチル含量を根拠に,甲1発明や甲6発明においても上記相違点に係る事項を備える蓋然性が高い旨主張している。 特許異議申立人が述べるように,たしかに甲第2号証ないし甲第4号証には,例えば,パルミテート(パルミチン酸エチル)1.2ppm,オレート(オレイン酸エチル)0.7ppm,リノレート(リノール酸エチル)1.3ppmを含有する米焼酎や,パルミテート5.4ppm,オレート2.0ppm,リノレート1.5ppmを含有する芋焼酎や,パルミテート1.8ppm,オレート0.9ppm,リノレート2.0ppmを含有する芋焼酎が開示されている。 しかしながら,甲第2号証ないし甲第4号証に記載される本格焼酎はいずれも鑑評会出品酒であり,当然に鑑評会への出品に適したある特定の本格焼酎であるところ,上記芋焼酎等の高級脂肪酸エチルの含量は,鑑評会に実際に出品された特定の本格焼酎のものである。そして,この特定の本格焼酎の高級脂肪酸エチルの含量が,一般的な本格焼酎(単式蒸留酒)におけるそれと同程度であるという証拠は,特許異議申立人が提示した全甲号証を参酌しても見出せない。 したがって,甲第2号証ないし甲第4号証を踏まえても,甲第1号証の甲類乙類混和焼酎を作成するのに用いる「一般的な乙類芋焼酎製品A」(【0064】)に,高級脂肪酸エチルが含まれているとは必ずしもいえず,甲1発明が上記相違点に係る事項を備える蓋然性が高いとは認められない。これは,甲6発明についても同様である。 (2)申立理由2(進歩性)について 上記(1)でも示したように,甲6発明は少なくとも,「パルミチン酸エチルを含有し,さらにオレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有し,高級脂肪酸エステルの濃度が0.1ppm以上であり,パルミチン酸エチルの濃度が0.03ppm以上である」という事項に相当する事項を備えていない点で,本件発明1と相違する。 そして,特許異議申立人は,上記相違点については,甲6発明と甲第7号証,甲第10号証又は甲第9号証記載の事項とに基いて当業者が容易に想到し得た旨主張しているので,以下検討する。 ア 甲6発明と甲第7号証記載の技術的事項とに基づく進歩性について 甲第7号証には,呈味成分でもある油性成分を高濃度で安定させた濁り焼酎を提供するために,乙類焼酎から分離された油性成分を5?10分間かけて超音波処理し,処理後の油性成分を焼酎に添加すること,及び,当該油性成分にパルミチン酸エステル,リノール酸エチルなどの高級脂肪酸エステルが含有されることが記載されている。(特許異議申立書の「オ 無効理由2-2」の「○4(○の中に数字の4が入った記号を示す。以下同様)」参照。) そして,特許異議申立人は,上記記載事項によれば,当業者は,パルミチン酸エチル等を含有する油性成分を添加することにより,乙類焼酎を濃醇にすることをにすることを認識でき,甲第8号証や甲第5号証の記載から,混和蒸留酒に使用される乙類焼酎には原料由来の特有の風味が求められていたといえるから,甲6発明に甲第7号証に記載された濁り焼酎を用いることは,当業者にとって容易である旨主張している。(特許異議申立書の「オ 無効理由2-2」の「○4」?「○7」参照。) しかしながら,甲第7号証は,上述のように,濁り焼酎に係る事項を示すものである。そして,甲類乙類混和製品において,濁り焼酎を用いることがあることについて,特許異議申立人は何ら証拠を示しておらず,甲6発明の甲類乙類混和製品に,甲第7号証の濁り焼酎に係る上記事項を適用する動機付けは認められない。 さらに,甲第8号証は,「やわらか芋焼酎 はないも」という特定の製品の新発売のニュースリリースに係るものであり,その「原料由来の特有の風味をもつ乙類焼酎とすっきりとした味わいが特長の甲類焼酎をブレンドした“焼酎甲類乙類混和”の人気が高まっています。」という記載は,一般的な甲類乙類混和焼酎の特徴を示したものにすぎず,甲6発明の甲類乙類混和製品において,乙類焼酎の原料由来の特有の風味をさらに向上させるという課題があることを示唆するものとはいえない。したがって,甲第8号証を参酌しても,甲6発明に甲第7号証記載の上記技術的事項を適用する動機付けは認められない。これは,甲第5号証についても同様である。 よって,特許異議申立人の上記主張は採用できず,本件発明1は,甲6発明と甲第7号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。また,本件発明3及び4は,本件発明1を更に減縮したものであるから,本件発明1についての判断と同様の理由により,甲6発明と甲第7号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 イ 甲6発明と甲第10号証記載の技術的事項とに基づく進歩性について 甲第10号証には,風味多様な古酒焼酎を得るために,乙類焼酎からろ過により分離される油性成分を,分解及びエステル化した上で,油性成分を除去した乙類焼酎に添加すること,及び,その添加は,パルミチン酸エチル,ステアリン酸エチル及びオレイン酸エチルを含む画分を2?5%程度の添加量で使用することが記載されている。(特許異議申立書の「カ 無効理由2-3」の「○2」参照) そして,特許異議申立人は,当業者は,甲第8号証や甲第5号証の記載から,混和蒸留酒に使用される乙類焼酎には風味に富んでいることがことが求められていたことを認識できるから,上記記載事項を踏まえれば,甲6発明に甲第10号証に記載された古酒と同種類の香味を有する焼酎,すなわち,パルミチン酸エチル等を含む焼酎を用いることは,当業者にとって容易である旨主張している。(特許異議申立書の「カ 無効理由2-3」の「○2」?「○4」参照。) しかしながら,甲第10号証は,上述のように,古酒に係る事項を示すものであり,古酒を離れてパルミチン酸エチル等を含む乙類焼酎一般を示唆するものではない。そして,甲類乙類混和製品において,古酒を用いることがあることについて,特許異議申立人は何ら証拠を示しておらず,甲6発明の甲類乙類混和製品に,甲第10号証の古酒に係る上記事項を適用する動機付けは認められない。 さらに,甲第8号証や甲第5号証を参酌しても,甲6発明に甲第10号証記載の上記技術的事項を適用する動機付けが認められないことは,上記アで示したのと同様である。 よって,特許異議申立人の上記主張は採用できず,本件発明1は,甲6発明と甲第10号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。また,本件発明3及び4は,本件発明1を更に減縮したものであるから,本件発明1についての判断と同様の理由により,甲6発明と甲第10号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 ウ 甲6発明と甲第9号証記載の技術的事項とに基づく進歩性について 甲第9号証には,焼酎製品中には原料に由来する油性物質が含有され,その大部分はパルミチン酸,オレイン酸及びリノール酸の各エチルエステルであること,焼酎中の油性物質は製品に対して悪影響を及ぼす場合もあるが,一方で,幅,丸味を与える効果があり,その除去の程度については,品質設計等を考慮する必要があること,移し替え法では,過度の処理を行っていないため原料特有の風味が残って白濁し,ろ過法ではろ過の程度により除去される油性物質の量が違いが,軽いろ過を採用すると原料の風味が残ること,及び,ろ過法において,完全に油性物質を除去すると,味が荒くなり,焼酎の特性が失われやすくなることが記載されている。(特許異議申立書の「キ 無効理由2-4」の「○2」参照。) そして,特許異議申立人は,当業者は,上記記載事項によれば,原料風味を残すためには,完全に油性物質を除去するのではなく,移し替え法を採用するか,又は,ろ過の程度を軽くし,パルミチン酸エチル等を含有する油性物質を残せばよいことを理解でき,甲第8号証や甲第5号証の記載から,混和蒸留酒に用いる乙類焼酎として,原料由来の特有の風味を持つ焼酎を使用する動機付けを得る旨主張している。(特許異議申立書の「キ 無効理由2-4」の「○2」?「○4」参照。) しかしながら,甲第9号証は,上述のように,乙類焼酎の油性成分について知られている知見を示すものであり,実際に甲第9号証に示される油性成分を含む乙類焼酎が一般的であることや,甲類乙類混和製品で用いる乙類焼酎としてそのような油性成分を含む乙類焼酎をそのまま使用することがあることについて,特許異議申立人は何ら証拠を示していない。 さらに,甲第8号証や甲第5号証を参酌しても,甲6発明に甲第9号証記載の上記技術的事項を適用する動機付けが認められないことは,上記アで示したのと同様である。 よって,特許異議申立人の上記主張は採用できず,本件発明1は,甲6発明と甲第9号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。また,本件発明3及び4は,本件発明1を更に減縮したものであるから,本件発明1についての判断と同様の理由により,甲6発明と甲第9号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 エ 小括 以上より,本件発明1,3及び4は,甲6発明と甲第7号証,甲第10号証又は甲第9号証記載の事項とに基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないので,上記申立理由2によってこれらの発明に係る特許は取り消されるべきものであるとすることはできない。 (3)申立理由3(実施可能要件)及び申立理由4(明確性要件)について 申立理由3及び4はいずれも,訂正前の請求項1及び2に記載される「リノレン酸エチル」を記載不備の原因とするものであるが,本件訂正請求の訂正事項1により,本件特許の請求項1から「リノレン酸エチル」が削除され,また,同訂正事項2により,本件特許の請求項2が削除された。 よって,本件発明に係る特許は,上記申立理由3又は4によって取り消されるべきものであるとすることはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから,平成29年3月29日付けで通知した取消理由に記載した取消理由,及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,請求項1,3及び4に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に請求項1,3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また,上記第2のとおり本件訂正が認められることにより,請求項2は削除され,その特許に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しないものとなったため,本件特許の請求項2に対しての特許異議の申立ては不適法であって,その補正をすることができないものであるから,特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 混和蒸留酒 【技術分野】 【0001】 本発明は、単式蒸留酒と連続式蒸留酒を混和した混和蒸留酒に関する。詳しくは、高級脂肪酸エステルを含有し、香りや旨味が増強された混和蒸留酒に関する。 【背景技術】 【0002】 蒸留酒は醸造酒を蒸留することにより製造され、単式(回分式)蒸留器で造られる単式蒸留酒と、連続式蒸留器で造られる連続式蒸留酒に大きく分けられる。 単式蒸留酒は、連続式蒸留酒に比べて原料由来の香味を有している(非特許文献1)。単式蒸留酒は、パルミチン酸エチル、リノール酸エチルなどの高級脂肪酸エステルを含んでいるため、その味わいに濃醇さが付与されている。しかし、これら高級脂肪酸エステルの含有量が多過ぎると浮上して空気酸化され、さらに分解して油様の異臭を発生するという問題を有している。また気温が低下すると溶解度が低下するため、オリとなって析出し、商品価値が著しく低下することが知られている。そのため、広く普及している単式蒸留酒は、濾過等の処理をして上記成分を除去した後に出荷されている(非特許文献2)。 【0003】 また、冷却することで油性物質を析出させて除去する技術や(特許文献1)、高級脂肪酸エステルを超音波で分散させて濁った状態を安定化させることにより、焼酎中の香味成分である高級脂肪酸エステルを高濃度で含有する単式蒸留焼酎の製造方法が報告されている(特許文献2および3)。 【0004】 一方、連続式蒸留酒は、多段の蒸留により大部分の不純物は除かれるため、得られる蒸留酒はほぼ純粋なエタノール溶液となり、単式蒸留酒に含まれる香り成分や呈味成分はほとんど含まれていない。そのため、アルコールの刺激感が強く、味わいが少ないという問題がある。この問題に対処するため、連続式蒸留酒に単式蒸留酒を混和して味わいを付与した混和蒸留酒とすることで、コクを求める消費者の要望を満たすものが提供されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】 特開平11-127841号公報 【特許文献2】 特開平3-108473号公報 【特許文献3】 特開平11-196851号公報 【非特許文献】 【0006】 【非特許文献1】 絵とき蒸留技術基礎のきそ 大江修造著 【非特許文献2】 本格焼酎製造技術 (財)日本醸造協会 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 上記したように、連続式蒸留酒を単式蒸留酒と混和することにより香味が付与された混和蒸留酒が提供されているが、蒸留酒の香味を高める目的で単式蒸留酒の混合比率を高めると、連続式蒸留酒の有するキレが失われてしまうという問題がある。 【0008】 本発明は、上記問題点に鑑みて、優れた香味を有し、連続式蒸留酒由来のキレを有し、かつアルコールの刺激感もなく、その上、狙いとする酒質の製品を効率的に製造することができる混和蒸留酒を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、驚くべきことに、単式蒸留酒から分離・回収した高級脂肪酸エステルを含有する油性成分を混和蒸留酒に添加することにより、味わいとまろやかさが増すことを見出した。また、添加する高級脂肪酸エステルの濃度を特定範囲とすることで顕著な効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。 【0010】 すなわち、本発明は、限定的ではないが以下を含むものである。 [1]パルミチン酸エチル、リノレン酸エチル、オレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される成分の少なくとも1つを含み、これら成分の合計濃度が0.1ppm以上である、混和蒸留酒。 [2]パルミチン酸エチルの濃度が0.03ppm以上である、[1]に記載の混和蒸留酒。 [3]前記混和蒸留酒が麦焼酎であり、パルミチン酸エチルの濃度が0.04ppm以上である、[1]または[2]に記載の混和蒸留酒。 [4]前記混和蒸留酒が芋焼酎であり、パルミチン酸エチルの濃度が0.3ppm以上である、[1]または[2]に記載の混和蒸留酒。 [5]アルコール含有物から得られる油性成分を含む香味付与剤であって、該油性成分がパルミチン酸エチル、リノレン酸エチル、オレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される成分の少なくとも1つであり、それらの成分の含有量の合計が油性成分中10重量%以上である、前記香味付与剤。 [6]パルミチン酸エチルの含有量が油性成分中1重量%以上である、[5]に記載の香味付与剤。 [7]前記アルコール含有物が、酒類を単式蒸留することにより得られる蒸留液または残留液である、[5]または[6]に記載の香味付与剤。 [8]前記アルコール含有物の発酵原料が米、麦、サツマイモ、そば、ジャガイモ、とうもろこし、あわ、ひえ、きびおよびこうりゃんからなる群から選択される穀類;ナツメヤシ、ブドウ、デーツおよびアガベからなる群から選択される果実;砂糖、糖蜜、蜂蜜および果糖からなる群から選択される含糖質物;およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、[5]?[7]のいずれかに記載の香味付与剤。 [9][5]?[8]のいずれかに記載の香味付与剤を含む、焼酎、ウイスキー、ブランデー、原料用アルコール、スピリッツ、アクアビット、アラック、アルヒ、スピリタス、オコレハオ、カシャッサ、コルン、シュナップス、ソジュ、パイチュウ、マオタイ酒、コニャック、アルマニャック、カルヴァドス、グラッパ、シンガニ、ピスコ、メスカル、テキーラおよびラクから選択される、混和蒸留酒。 【発明の効果】 【0011】 本発明により、連続式蒸留酒に特徴的なピリピリとした刺激感が減少し、単式蒸留酒のように香り高く、まろやかさや重厚感が付与された混和蒸留酒を提供することができる。 【発明を実施するための形態】 【0012】 上記の通り、本発明は、混和蒸留酒および香味付与剤に関する。 1.混和蒸留酒 本発明の混和蒸留酒は、高級脂肪酸エステルを含有することにより、連続式蒸留酒に特徴的なピリピリとした刺激感が減少し、単式蒸留酒のように香り高く、まろやかさや重厚感が付与されるという優れた効果を有する。 i)「混和蒸留酒」 本明細書において混和蒸留酒とは、単式蒸留酒と連続式蒸留酒を混合したものをいい、単式蒸留酒、連続式蒸留酒ともにそれぞれ1種類ずつを混和することができる。また、1種類の単式蒸留酒と複数の連続式蒸留酒を混和することもできるし、その逆も可能である。さらには、複数の単式蒸留酒と複数の連続式蒸留酒を混和することもできる。混合割合も任意に選択することができる。尚、焼酎の混和酒の場合、連続式蒸留酒である甲類焼酎と単式蒸留酒である乙類焼酎を混和した混和蒸留酒は、乙類を50%以上95%未満混和したものを「乙甲混和焼酎」、乙類を5%以上50%未満混和したものを「甲乙混和焼酎」という。 【0013】 ここで、単式蒸留は一般的に処理能力が低いのに対し、連続式蒸留は大量の処理に適していることから、連続式蒸留酒の混合割合を高めることができれば混和蒸留酒を効率的に製造できる。その点、本発明の混和蒸留酒では、高級脂肪酸エステルにより香味が付与されるため単式蒸留酒の混合割合を低く抑えることが可能であり、狙いとする酒質の製品を効率的に製造することができる。 ii)「単式蒸留酒」と「連続式蒸留酒」 単式蒸留によって得られる蒸留酒を単式蒸留酒といい、連続式蒸留によって得られる蒸留酒を連続式蒸留酒という。なお、単式蒸留を繰り返すことによって得られる蒸留酒はここでは連続式蒸留酒という。 【0014】 本明細書において「蒸留酒」とは、穀類などの原料をアルコール発酵させた醪を蒸留して得られるアルコール類のことをいい、蒸留工程を経て製造されるすべての蒸留酒を含む。蒸留酒の例としては、焼酎(泡盛)、ウイスキー、ブランデー、原料用アルコール、スピリッツ(ジン、ウォッカ、ラムなど)、アクアビット、アラック、アルヒ、スピリタス、オコレハオ、カシャッサ、コルン、シュナップス、ソジュ、パイチュウ、マオタイ酒、コニャック、アルマニャック、カルヴァドス、グラッパ、シンガニ、ピスコ、メスカル、テキーラ、ラクなどが挙げられるがこれらに限定されない。なお、酒税法においては、酒類は、発泡性酒類、醸造酒類、蒸留酒類及び混成酒類の4種類に分類され、蒸留酒類としては、連続式蒸留しようちゆう(旧甲類)、単式蒸留しようちゆう(旧乙類)、ウイスキー、ブランデー、原料用アルコール、スピリッツが含まれるが、本発明の蒸留酒は酒税法上の分類等に必ずしも制限されない。 【0015】 蒸留酒の一次原料(糖質としての原料)としては、米、麦、サツマイモ、そば、ジャガイモ、とうもろこし、あわ、ひえ、きび、こうりゃんなどの穀類、ナツメヤシ、ブドウ、デーツ、アガベなどの果実、砂糖、糖蜜、蜂蜜、果糖などの含糖質物などが挙げられるがこの限りでない。 iii)混和蒸留酒中の香味成分 本発明の混和蒸留酒は、高級脂肪酸エステルを含有することを特徴とする。「高級脂肪酸エステル」とは、炭素数が多い脂肪酸エステル、一般には炭素数が12以上のものをいい、例えば、パルミチン酸エチル、リノレン酸エチル、オレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルが挙げられる。 【0016】 また、高級脂肪酸エステルは、蒸留原酒由来の油性物質に含まれている高級脂肪酸エステルを添加してもよく、また市販品または合成品の高級脂肪酸エステルを添加してもよい。 【0017】 混和蒸留酒中の高級脂肪酸エステルの含有量は、0.01ppm以上、好ましくは0.1ppm以上、さらに好ましくは1.0ppm以上である。1.5ppm以上含有させることにより、単式蒸留酒に特有の甘みや香りを強化することができる。なお、パルミチン酸エチル、リノール酸エチルなどの高級脂肪酸エステルの各含量は特に限定されないが、パルミチン酸エチルが含まれている場合であれば、パルミチン酸エチルを0.003ppm以上、好ましくは0.1ppm以上、さらに好ましくは0.5ppm以上含むことが好ましい。 【0018】 また、高級脂肪酸エステルの含有量は、蒸留酒の酒類、原料によって適宜調節することが好ましく、例えば、麦焼酎では0.1ppm以上、好ましくは0.3ppm以上、さらに好ましくは1.0ppm以上であり、芋焼酎では1.0ppm以上、好ましくは2.0ppm以上、さらに好ましくは5.0ppm以上が好ましい。さらに、パルミチン酸エチルに着目すると、麦焼酎では0.04ppm以上、好ましくは0.1ppm以上、さらに好ましくは0.5ppm以上、芋焼酎では0.3ppm以上、好ましくは0.5ppm以上、さらに好ましくは1.0ppm以上が好ましい。 【0019】 混和蒸留酒に含まれる高級脂肪酸エステルの分析は、当業者に知られた方法、例えば香味成分を抽出後にガスクロマトグラフ測定を行うことにより、定性・定量分析を行うことができる。 【0020】 本発明の混和蒸留酒には、上記香味成分のほか、蒸留酒に一般的に添加できる公知の成分を含有していてもよく、例えば、香料、甘味料、色素、保存料などの添加物や、果汁などを含んだ公知の香味成分を別途添加することもできる。 iv)混和蒸留酒の製造 本発明の混和蒸留酒は、アルコール含有物、特に単式蒸留酒から分離・回収した高級脂肪酸エステルを含有する油性成分を混和蒸留酒に添加することにより製造することができる。 【0021】 上記油性成分は、例えば単式蒸留酒製造工程で得られる油性成分であって、濾過工程で分離される油性成分、貯蔵中に浮上もしくは沈殿して分離された油性成分のいずれであってもよく、すくい取り法や濾過法により回収することができる。ここで、回収前に油性成分を蒸留液と分離させる方法としては、静置させて重力差により分離する方法があるが、加圧浮上分離法または自然浮上分離法等を採用してもよく、冷却等により油性成分をさらに析出させた後に回収することもできる。回収した油性成分は、そのまま添加用に使用することもできるが、さらに遠心分離、濾過、静置分離などの方法により高級脂肪酸エステルの濃度を高めることで、より少量の使用で香味付与効果が発揮される。 【0022】 あるいは単式蒸留の蒸留条件を適宜設定することで油性成分を豊富に含む蒸留液を調製し、蒸留液から油性成分を分離することなく使用することもできる。 また、油性成分は単式蒸留後の蒸留液から上記の方法により得られたものでも良いが、蒸留時の条件を適宜設定することによって高級脂肪酸エステルの多くが残留するような蒸留を行った後、残留液から高級脂肪酸エステルを分離することもできる。 【0023】 このようにして得られた油性成分は、そのまま連続式蒸留酒に添加することができる。また、回収した油性成分をアルコール含有溶液、例えば原料アルコールや連続式蒸留酒で完全に溶解させたのち、組成分析を行った後に、混和蒸留酒に最終的に含まれる高級脂肪酸エステルが適量となるように連続式蒸留酒に添加することもできる。使用するアルコール含有溶液の量は特に限定されず、油性成分に含まれる高級脂肪酸エステルや使用する酒類により適宜調整することができる。高級脂肪酸エステルの溶解度を高めるために、超音波処理、加熱処理などを適宜行ってもよい。 【0024】 また、これらの操作は、油性成分中に含まれる成分の酸化を予防するため、窒素雰囲気下など、酸素濃度の低い条件で行うことが好ましい。 2.香味付与剤 本発明でいう「香味」とは飲食物の香りと味をいう。したがって、本発明の「香味付与剤」は、飲食物の香りや旨味を付与する作用を有する。本発明の香味付与剤の有効成分は高級脂肪酸エステルであり、例えば、パルミチン酸エチル、リノレン酸エチル、オレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルなどの高級脂肪酸エステルを少なくとも1つ含有し、香味付与効果を発揮する。 【0025】 ここで、香味付与剤に配合されるパルミチン酸エチル、リノレン酸エチル、オレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルなどの高級脂肪酸エステルの合計含有量は特に限定されないが、これらの成分の合計含有量は、油性成分中10重量%以上であり、30重量%以上が好ましく、50重量%以上がさらに好ましい。また、パルミチン酸エチルは必ずしも含まれている必要はないが、典型的な含有量は油性成分中1重量%以上であり、5重量%以上が好ましく、15重量%以上がさらに好ましい。 【0026】 飲食品への添加量は、香味を付与できる範囲で適宜調整することができ、上記に示した高級脂肪酸エステルの合計含有量となるように配合することが好ましい。 本発明の香味付与剤の製造方法は特に限定されず、アルコール含有物由来の油性成分を主成分とし、上記の高級脂肪酸エステルを含有していればよい。例えば、香味付与剤は上記蒸留酒の製造過程で回収・分離して得られる油性成分そのものであってもよく、また得られた油性成分に水、アルコール、添加物などを加えることにより希釈して製造することもできる。また、香味付与剤の製造過程において、乳化剤の添加や超音波処理などを行うことにより、油性成分を均一に分散させてもよい。ここで、アルコール含有物は、酒類の製造過程で得られるアルコール含有液であれば特に限定されないが、例えば、単式蒸留酒の蒸留工程後に得られる蒸留液や残留液を使用することができる。 【0027】 以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 【実施例】 【0028】 <実施例1> 単式蒸留酒の製造 油性成分を回収するため、麦焼酎、芋焼酎の製造を定法に従って行った。すなわち、蒸麦200kgに黒麹菌の種麹200gを添加し、製麹機によって麦麹を製造した後、汲水240Lと混和した後に酒母1Lを添加して発酵させ、一次もろみを製造した。つづいて、掛け原料として蒸した麦400kgを添加したのち、汲水600Lを添加し、20度で8日間発酵させて二次もろみを得た。得られたもろみを単式蒸留し、麦焼酎500Lを得た。 【0029】 また、蒸米200kgに黒麹菌の種麹200gを添加し、製麹機によって米麹を製造した後、汲水240Lと混和した後に酒母1Lを添加して発酵させ、一次もろみを製造した。つづいて、掛け原料として蒸した芋(サツマイモ)1000kgを添加したのち、汲水760Lを添加し、35度で10日間発酵させて二次もろみを得た。得られたもろみを単式蒸留し、芋焼酎700Lを得た。 <実施例2> 油性成分の回収・分析 実施例1で得られた麦焼酎、芋焼酎を密閉容器にて30日間室温保管したところ、液表面に油性成分が分離浮上した。これをひしゃくですくいとった後容器中で静置し、分離した焼酎部分をスポイトで除去して油性成分10mlを回収した。 【0030】 メスシリンダーにて容量を測定した後、油性成分1mlに9倍容量の95%エタノール(原料アルコール)を添加して完全に溶解させた。その後、順次10倍希釈系列を作成し、1万倍に希釈したものをガスクロマトグラフィーで測定し、高級脂肪酸エステルの定量を行った結果を表1に示す。 【0031】 なお、ガスクロマトグラフィーの分析条件は下記のとおりである。 使用機器:アジレント・テクノロジー社 GC:6890N 使用カラム:HP-ULTRA2(J&W社製) 内径0.32mm、長さ50m、膜厚0.52μm キャリアガス:ヘリウムガス 流速:3.2ml/min 注入口温度:250℃ カラム温度:40℃(9分間保持)?230℃(10分間保持)、昇温速度10℃/min 注入方法:スプリット法(スプリット比15:1) 注入量:2.0μL 検出器:FID 検出温度:260℃ 【0032】 【表1】 【0033】 このように、油性成分中にはパルミチン酸エチルが非常に多く含まれていることが分かった。 <実施例3> 市販酒の分析 焼酎においては、旧甲類焼酎の味わいの少なさを改善するために旧乙類焼酎と混和した甲乙混和酒などが提供されている。そこで、市販甲乙混和酒の高級脂肪酸エステル濃度を測定し、パルミチン酸エチルなどによって味わいが付与されているかを確認した。市販酒は店頭にて各社製品を無作為にサンプリングした(いずれもアルコール度25%)。 【0034】 甲乙混和麦焼酎の測定結果を表2に、甲乙混和芋焼酎の測定結果を表3に示す。油性成分の分析は、実施例2の方法に従って行った。 その結果、全く意外なことに市販の甲乙混和焼酎ではパルミチン酸エチルをはじめとする高級脂肪酸は検出されなかった。その原因として、混和に使用する旧乙類焼酎は、混和前の段階ですでに高級脂肪酸エステルが分離または濾過されるなどしてほとんど除去されていることが考えられる。 【0035】 一般的に甲乙混和焼酎では香りだけでなく味わいも付与されているが、その味わいは高級脂肪酸エステル以外の成分によるものである可能性が高いことが分かった。 【0036】 【表2】 【0037】 【表3】 【0038】 <実施例4> 油性成分の官能閾値測定 麦焼酎、芋焼酎それぞれから得られた油性成分を、それぞれ甲乙混和麦焼酎(旧乙類焼酎15%、高級脂肪酸エステル非検出、アルコール度25%)、甲乙混和芋焼酎(旧乙類焼酎16%、高級脂肪酸エステル非検出、アルコール度25%)に0.01ppm?1ppm添加したサンプルを作成し、三点識別法により官能閾値の測定を行った。具体的には、それぞれから得られた油性成分を0.01、0.05、0.1、0.25、0.5、1ppm添加したサンプルを作成し、官能評価に供した。 【0039】 混和蒸留酒の官能評価は、7名の専門パネラーにより、まろやかさを指標に、次の3点法で行った。 1点:強く識別できる; 2点:識別できる; 3点:ほとんど識別できない。 【0040】 その結果、麦焼酎では油性成分をサンプル中の最終濃度が0.1ppmとなるように添加すると識別可能であり、芋焼酎では1ppmとなるように添加すると識別可能であった。油性成分に含まれる高級脂肪酸エステルのうち、最も多く含まれているパルミチン酸エチルに着目すると、パルミチン酸エチルとして麦焼酎では0.048ppm、芋焼酎では0.37ppm存在すると官能的に影響を与えることが示唆された。 <実施例5> 甲乙混和麦焼酎における添加試験 実施例2で得られた油性成分を95%エタノール(原料アルコール)で1000倍希釈したものを、さらに甲乙混和麦焼酎で希釈したものを添加用に用いた。油性成分の添加量を変えたサンプルを作成し、高級脂肪酸エステル濃度を測定した結果を表4に、官能評価試験を行った結果を表5に示す。 【0041】 混和蒸留酒の官能評価は、7名の専門パネラーにより、次の5点法で行った。 1点:非常に優れている; 2点:優れている; 3点:良い; 4点:やや劣る; 5点:劣る。 【0042】 パネラーの点数を平均し、平均点が3以下のものを好適、2.5以下のものを特に好適であると判定した。 【0043】 【表4】 【0044】 【表5】 【0045】 <実施例6> 甲乙混和芋焼酎における添加試験 実施例5と同様にしてサンプルを作成し、高級脂肪酸エステル濃度を測定した結果を表6に、官能評価試験を行った結果を表7に示す。 【0046】 【表6】 【0047】 【表7】 【産業上の利用可能性】 【0048】 本発明によれば、優れた香味を有し、連続式蒸留酒由来のキレを有し、かつアルコールの刺激感もなく、その上狙いとする酒質の製品を効率的に製造することができる混和蒸留酒を提供することができる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 パルミチン酸エチルを含有し、さらにオレイン酸エチルおよびステアリン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有し、 高級脂肪酸エステルの濃度が0.1ppm以上であり、パルミチン酸エチルの濃度が0.03ppm以上である、混和蒸留酒。 【請求項2】 削除。 【請求項3】 前記混和蒸留酒が麦焼酎であり、パルミチン酸エチルの濃度が0.04ppm以上である、請求項1記載の混和蒸留酒。 【請求項4】 前記混和蒸留酒が芋焼酎であり、パルミチン酸エチルの濃度が0.3ppm以上である、請求項1記載の混和蒸留酒。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-08-29 |
出願番号 | 特願2011-125302(P2011-125302) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C12G)
P 1 651・ 537- YAA (C12G) P 1 651・ 121- YAA (C12G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 西村 亜希子 |
特許庁審判長 |
紀本 孝 |
特許庁審判官 |
中村 則夫 山崎 勝司 |
登録日 | 2016-02-05 |
登録番号 | 特許第5878306号(P5878306) |
権利者 | サントリーホールディングス株式会社 |
発明の名称 | 混和蒸留酒 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 山本 修 |