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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A62C |
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管理番号 | 1333238 |
異議申立番号 | 異議2016-701095 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-11-24 |
確定日 | 2017-09-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5922711号発明「消火ガス噴射装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5922711号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕について訂正することを認める。 特許第5922711号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5922711号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成22年7月15日(優先権主張平成21年10月23日、平成22年2月4日、平成22年4月2日)に出願された特願2010-161096号の一部を平成23年12月6日に新たな特許出願とした特願2011-267400号の一部を、平成25年10月7日に新たな特許出願とした特願2013-210605号の一部を、平成26年2月26日に新たな特許出願とした特願2014-35425号の一部を、さらに平成26年6月18日に新たな特許出願としたものであって、平成28年4月22日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成28年11月24日に特許異議申立人株式会社コーアツ(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年1月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年3月17日に特許権者エア・ウォーター防災株式会社(以下、単に「特許権者」という。)より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して、平成29年5月12日に申立人より意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は次の(1)のとおりである。 (1)一群の請求項〔1ないし6〕に係る訂正 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「空気を切り裂くような大音響の発生を抑制する消火ガス噴射装置であって、」とあるところを、「空気を切り裂くような大音響の発生を抑制する、消火対象区画内のO_(2)濃度を低下させて消火する消火ガス噴射装置であって、」に訂正する。 2 訂正の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。 ア 「【0002】 従来から、消火剤としてCO_(2)ガスおよびN_(2)ガスおよびハロゲン化物などの消火ガスを消火対象区画内に放出して、その消火対象区画内のO_(2)濃度を低下させることによって消火を行うガス消火設備が各種の建物に装備されている。」(段落【0002】) イ 「【0012】 図1は、本発明の実施の一形態のガス消火設備に備えられる消火ガス噴射部11を示す斜視図である。本実施形態のガス消火設備は、建物の消火対象区画内に設けられ、高圧の消火ガスを前記消火対象区画内の空間に向けて噴射するノズル部12を有する噴射ヘッド13と、噴射ヘッド13が接続され、噴射ヘッド13に高圧の消火ガスを導く導管14と、導管14に高圧の不活性ガスを供給する消火ガス供給源15と、噴射ヘッド13に設けられ、ノズル部12に形成されるノズル孔16から噴射される消火ガスの噴射による噴射音などに起因して発生する音響を減衰させる消音装置17とを含む。 【0013】 前記消火ガスは、N_(2)ガスおよびCO_(2)ガスなどの不活性ガスまたはハロゲン化物ガスなどの活性ガスによって実現され、このような消火ガスを消火剤として放出することによって、消火対象区画内のO_(2)濃度を低下させて消火することができる。」(段落【0012】及び【0013】) 上記ア及びイから、訂正事項1の「消火対象区画のO_(2)濃度を低下させて消火する」という事項を備えた消火ガス噴射装置は、願書に添付した明細書に記載されているといえる。 そうすると、訂正事項1は、願書に添付された明細書の範囲内において、消火ガス噴射装置を限定するものといえるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加にも該当しない。さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、訂正事項1は、一群の請求項に対して請求されたものである。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するので、請求項〔1ないし6〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立について 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件特許発明1」等という。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 (1)本件特許発明1 「空気を切り裂くような大音響の発生を抑制する、消火対象区画のO_(2)濃度を低下させて消火する消火ガス噴射装置であって、 高圧の消火ガス供給源に接続される枝管に螺合し、消火ガスをノズル孔から噴出させる噴射ヘッドと、 前記ノズル孔と対面して設置される吸音材とを備え、前記ノズル孔から前記吸音材の出口まで前記吸音材は隙間なく詰めて充填されており、 前記ノズル孔の内径は前記枝管の内径よりも小さく、前記ノズル孔から噴射された消火ガスは前記吸音材を経由して建物の消火対象区画内に放出され、前記枝管側には消火ガスが前記噴射ヘッドから放出されず、消火ガスが前記吸音材を通過する間に消火ガスが減圧されて噴射音の発生が抑制される、消火ガス噴射装置。」 (2)本件特許発明2 「前記ノズル孔から前記吸音材の出口まで消火ガスは軸線方向に沿って流れることが可能である、請求項1に記載の消火ガス噴射装置。」 (3)本件特許発明3 「前記ノズル孔から前記吸音材の出口までの消火ガスの軸線方向の流路は前記吸音材のみで構成される、請求項1または2に記載の消火ガス噴射装置。」 (4)本件特許発明4 「前記吸音材は積層構造を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の消火ガス噴射装置。」 (5)本件特許発明5 「前記吸音材は、ノズル孔と対面する第一面と、前記第一面と反対側に位置する第二面とを有し、前記第二面側に配置されて複数の通気口が設けられた多孔体の端壁をさらに備える、請求項1から4のいずれか1項に記載の消火ガス噴射装置。」 (6)本件特許発明6 「前記吸音材は、ノズル孔と対面する第一面と、前記第一面と反対側に位置する第二面とを有し、少なくとも前記第二面側から消火ガスが放出され、前記第一面側から消火ガスが放出されない、請求項1から5のいずれか1項に記載の消火ガス噴射装置。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし6に対して平成29年1月20日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術1ないし4に基いて、また本件特許の請求項4ないし6に係る発明は、引用発明及び周知技術1ないし5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 3 甲号証の記載等 (1)甲第1号証(欧州特許出願公開第1151800号明細書) ア 甲第1号証の記載 甲第1号証には、「Silenced nozzle for discharge of extinguishing gas」に関し、図面とともに次の記載がある(なお、括弧内は申立人が提出した甲第1号証抄訳文及び特許権者が提出した乙第1号証を参考に当審で作成した仮訳である。)。 (ア)「[0001] The present invention refers to … that work with a gaseous-type extinguishing fluid. [0002] ・・・(中略)・・・ [0003] The dispensing nozzles of fire extinguishing systems … when a discharge of high-pressure extinguishing gas passes through them. [0004] During a discharge of gas through the nozzles … greater than 100 dB are reached. [0005] The maximum recommended threshold for noise measured in a working environment is 90 dB. (後略)」(段落[0001]ないし[0005]) ([0001] 本発明は、消火ガス放出用消音ノズルに関し、特に、ガス方式消火用流体で稼働する消火システム式に好適に適用されるためのものである。[0002]・・・(中略)・・・ [0003] 先行技術による消火システムの分配ノズルは、重大な欠点を持っている。これらの公知の分配ノズルは、高圧の消火ガスがそれらを通り抜けて放出される際に、非常に騒々しい。 [0004] 先行技術のノズルによるガスの放出中に、まわりの騒音レベルは、最大で130-140dB、平均で100dBを超える値に到達する。 [0005] 作業環境の中で測定された最大の雑音のしきい値は、90dBであるように勧められている。) (イ)「[0007] In accordance with current regulations, …nozzles according to the prior art have a particular shape.」(段落[0007]) ([0007] 現行の規則によれば、消火システムによって保護された区域への放出時間は、化学ガスの場合は10秒以内に、不活性ガスの場合は60秒以内に保つ必要がある。これらの放出時間を保証するために、従来技術によるノズルは特定の形状を有する。) (ウ)「[0008] Figure 5 shows a nozzle… having a smaller diameter than the upper part 101. [0009] In the upper part 101 … The diameter of the hole 102 is about 30 mm. [0010] The axial hole 102 then narrows … the nozzle 100 has fifteen outlet holes 105 for the extinguishing gas. [0011] On entering the hole 102 … during discharge of the gas through the holes 105.」(段落[0008]ないし[0011]) ([0008] 図5は、参照番号100で全体として示される、従来技術によるノズルを示す。ノズル100は、実質的に円筒形の金属材料の単一の本体によって形成される。ノズル100は上部101を有し、上部101に、テーパする中間体103が続き、中間部103は、上部101よりも小さな直径を有する、より低い円筒部104で終る。 [0009] 上部101には、消火ガスの流入のための軸方向に配置された円形の孔102が設けられている。孔102の直径は約30mmである。 [0010] 次に、軸方向孔102は、中間部103で狭くなり、下部104においては約24mmの直径を取る。径方向ガス出口孔105が、テーパ状中間部103および下側円筒部分104に形成される。孔105は2?15mmまでの範囲であり得る直径を有し、好ましくは5mmの直径を有し、90°から360°までの円周の円弧に沿ってノズルの側面に配置することができる。図5に示すように、ノズル100は、消火ガス用に15個の出口孔105を有する。 [0011] 孔102に入ると、消火ガスは706mm^(2)の侵入面積に遭遇する。ガスが中間部103および下部104に伝播すると、ガスは入口領域に対してより小さい領域に遭遇する。ガスがノズル100内に伝播する際にガスが遭遇する空気の断面積が小さくなることにより、ガスが圧力上昇し、その結果ガスが孔105を通って放出される間に高い騒音レベルが生じる。) (エ)「[0013] The object of the invention is … below 90 dB during discharge.」(段落[0013]) ([0013] 発明の目的は、雑音を低減し、特に、消火ガスの放出中の騒音レベルを90dB以下に維持することができる、消火ガス放出用消音ノズルを提供して、従来技術の欠点を除去することにある。) (オ)「[0019] The particular structure of the nozzle …on the lower surface and on the upper surface of the nozzle according to the invention.」(段落[0019]) ([0019] 本発明によるノズルの特定の構造は、従来技術のノズルよりも実質的に大きい消火ガスのための出口孔の形成に利用可能な表面を有する可能性をさらに提供する。さらに、ガス出口孔は、本発明によるノズルの下面及び上面の両方に配置することができる。) (カ)「[0034] The filter assembly 4 provides … caused by discharge of extinguishing gas can be considerably attenuated. [0035] A metal baffle is provided between the two filters 31 and 32 to deflect the flow of extinguishing gas. [0036] The filter assembly 4, … which protrudes downward from the base body 2. [0037] The height of the filter assembly 4 is … assembled nozzle is about 100 mm.」(段落[0034]ないし[0037]) ([0034] フィルタ組立体4は、亜鉛メッキを施した金属ワイヤーを、カバー3の穴8の直径と等しいか、それよりわずかに小さな直径の円盤状のフィルタ本体を得るために適切に押圧成型されることによって作られた、2つの焼結フィルタ31及び32からなる。フィルタ31及び32は、高圧及び高温(約500℃)で使用されたときでさえ、寿命を保証する高い機械抵抗を達成することができるために熱拡散処理にさらされる。フィルタ31及び32は、さらに、消火ガスを放出することによって引き起こされる空気の変動による騒音を相当に減ずることができることを保証するために、非常に高い濾過フィールド(10-50ミクロン)を有している。 [0035] 金属製バッフルが、消火ガスの流れを偏向させるために、2つのフィルタ31と32の間に設けられる。 [0036] バッフル33を間に置いて、焼結フィルタ31及び32を含むフィルタ組立体4は、カバーの穴の内部に収容される。また、フィルタ31の下端部は基体の座部20に収容される。そして、ボルト11をそれぞれの穴10及び22に挿通し、基体2から下方へ出るボルト11の終端部に螺合するナット25によって締結される。 [0037] フィルタ組立体4の高さは、フランジの下面6と基体2の上面の間の少なくとも20mmの高さがあるように設計され、フィルタ部材4の外側面は約20mmに亘って覆いがない状態にされている。) (キ)「[0040] Furthermore, the particular structure of the nozzle 1 … the filter assembly 4 which remains uncovered. [0041] With the aid of Figures 6-8 a second embodiment of a nozzle 200 … first embodiment are indicated by the same references. [0042] The nozzle 200 comprises a … in the first embodiment. [0043] The cover 203 comprises a … to a lower cylinder bymeans of the columns 231. [0044] A glass-shaped mouth 233 … communicating with the chamber 208. [0045] A plurality of axial holes 9 … the holes 9 can be eight in number. [0046] In the lower part the cylindrical body 205 … for example seventeen as inthe first embodiment. [0047] For assemblin the nozzle 200, … into the bottom end of the cover 203. [0048] The gas dispensing line is housed in the seat 234 … from the slots 230 and downward from the holes 21. 」(段落[0040]ないし[0048]) ([0040] さらに、本発明によるノズル1の特定の構造は、従来技術のノズルと比較して、ガス出口孔を形成するために、より大きな表面を与える。実際には、本発明によるノズルでは、下面に17個の孔があり、上面に8個の孔があり、合計25個の孔があり得る。さらに、ガスは、覆われていないままであるフィルタ部材4の側面によって表されるさらなる出口領域を有する。 [0041] 図6-図8を参照することによって、本発明のノズル200の別の実施例は記述される。その中で、同様のあるいは対応する部材は、最初の実施例に記述したのと同じ参照数字によって示される。 [0042] ノズル200は基体202、カバー203及び最初の実施例に記述されたそれと本質的に同一のフィルタ組立体4を含む。 [0043] カバー203は、内部にフィルタ組立体4を含んでいる部屋208が位置する凹んだ円筒状部材205を含む。この円筒状部材は、内部の部屋208に連通する長方形のスロット230を持っている。好ましくは、4つのスロット230が、円筒状部材205の上部の部分をそれより低い部分に接続する4つのカラム(図6において3つが見えている。)を形成するために提供される。円筒状部材205は、カラム231によって、上部の円筒状部に下部の円筒状部を接続、一体化して形成することができる。 [0044] ガス分配ラインを受け取るために外方へ開いた座234を有するコップ形状の入口233は、円筒状部材205の上部の表面上に設けられる。座234は、部屋208に連通する開口207を有している。 [0045] 部屋208に連通する複数の軸方向の孔9は、入口233に関しての外側で、円筒状部材205の上部の表面に形成される。最初の実施例のように、孔9は8個設けられる。 [0046] 円筒状部材205の下部には、底面部材202に形成した外ねじ241と螺合する内ねじ240を形成する。底面部材202は、複数の軸方向の孔21、例えば、最初の実施例のように17個を有する円形のプレートである。 [0047] ノズル200の組み立ては、カバー203の部屋208にフィルタ部材4を挿入し、カバー203の下端へ底面部材202をねじで留めることで達成される。 [0048] ガス分配ラインは、入口233の座234に収容され、開口207を通って、部屋208内に広がり、フィルタ4によって空気の変動が減じられる。そして、最初の実施例と同様に、消火ガスは、孔9から上方向、スロット230から横方向、孔21から下方向へ放出される。) イ 甲第1号証記載の事項 上記アから、次の事項が分かる。 ・上記ア(ア)の記載から、甲第1号証には、消火ガス放出用消音ノズルが記載されていることが分かる。 ・上記ア(ア)、(ウ)及び(エ)の記載から、甲第1号証記載の消火ガス放出用消音ノズルは、騒音の抑制を課題としていることが分かる。 ・上記ア(イ)の記載から、甲第1号証記載の消火ガス放出用消音ノズルが用いられる消火システムは、不活性ガスを放出する不活性ガス消火設備であることが分かる。不活性ガス消火設備が、酸素濃度を低下させて消火を行う消火設備であることは技術常識(必要であれば、甲第3号証の表1及び2参照。不活性ガス消火設備が、通常の空気の酸素濃度である21%前後から燃焼限界酸素濃度未満まで低下させ、消火を行う設備であることは技術常識である。)であるから、甲第1号証記載の消火ガス放出用消音ノズルが用いられる消火設備は、消火対象区画内のO_(2)濃度を低下させて消火を行うものであることが分かる。 ・上記ア(ア)及び(キ)の記載から、甲第1号証記載の消火ガス放出用消音ノズル200は、ガス分配ラインを受け取る座234を有し、高圧の消火ガスが開口207から広がるカバー203を備えることが分かる。 ・上記ア(ウ)、(カ)及び(キ)の記載から、甲第1号証記載の消火ガス放出用消音ノズル200は、カバー203の部屋208に配置されるフィルタ組立体4を備え、消火ガスがフィルタ組立体4を通過する間に消火ガスが減圧され、消火ガスが放出される間の騒音の発生が抑制されることが分かる。 ウ 引用発明 上記ア及びイから、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 <引用発明> 「騒音の発生を抑制する、消火対象区画内のO_(2)濃度を低下させて消火する消火ガス放出用消音ノズル200であって、 ガス分配ラインを受け取る開口207が形成された座234を有する入口233を有し、高圧の消火ガスを開口207から広がるカバー203と、開口207と対面して設置されるフィルタ組立体4を備え、開口207から広がる消火ガスはフィルタ組立体4を経由して建物の消火対象区画内に放出され、消火ガスがフィルタ組立体4を通過する間に消火ガスが減圧されて騒音の発生が抑制される、消火ガス放出用消音ノズル。」 (2)甲第2号証(特表2003-530922号公報) 甲第2号証の、請求項12及び段落[0091]ないし[0095]の記載からみて、甲第2号証には、次の技術(「甲第2号証記載技術」という。)が記載されていると認める。 <甲第2号証記載技術> 「防火システムにおいて、火炎抑止剤を放出する気体排出ノズルに、低酸素濃度空気からなる高圧火災抑止剤の放出により生じる騒音を減少させる消音器を備えさせる技術。」 (3)甲第3号証(特開平8-173565号公報) 甲第3号証の、段落【0003】の記載及び図5から、甲第3号証には、次の技術(以下、「甲第3号証記載技術」という。)が記載されていると認める。 <甲第3号証記載技術> 「不活性ガス消火設備において、高圧ガス容器に配管を介して接続した枝管に噴射ヘッドを接続する技術。」 (4)甲第4号証(実願昭55-60387号(実開昭56-161110号)のマイクロフィルム) 甲第4号証の明細書第2ページ第8行ないし第14行及び第2図の記載から、甲第4号証には、次の技術(以下、「甲第4号証記載技術1」という。)が記載されていると認める。 <甲第4号証記載技術1> 「本体に形成された空間に消音部材を充填した消音器。」 また、甲第4号証の明細書第3ページ第10行ないし第4ページ第8行及び図3の記載から、甲第4号証には、次の技術(以下、「甲第4号証記載技術2」という。)が記載されていると認める。 <甲第4号証記載技術2> 「高圧の気体の放出口より消音器の本体の中空部を小さい内径とする技術。」 (5)甲第5号証(実願昭60-41317号(実開昭61-157117号)のマイクロフィルム) 甲第5号証の明細書第2ページ第7行及び第8行、同ページ第19行ないし第3ページ第1行、第7ページ第10行ないし第13行及び図3の記載から、甲第5号証には、次の技術(以下、「甲第5号証記載技術」という。)が記載されていると認める。 <甲第5号証記載技術> 「本体に形成された空間を充たす吸音体を組み込んだ消音器。」 (6)甲第6号証(国際公開第2008/108538号) 甲第6号証の段落[3]及び図1の記載から、甲第6号証には、次の技術(以下、「甲第6号証記載技術」という。)が記載されていると認める。 <甲第6号証記載技術> 「空圧装置の出口に接続される側には空気を放出しないようにした消音器。」 (7)甲第7号証(実願昭57-408号(実開昭58-103100号)のマイクロフィルム) 甲第7号証の明細書第2ページ第17行ないし第4ページ第19行並びに第1及び第3図の記載から、甲第7号証には、次の技術(以下、「甲第7号証記載技術」という。)が記載されていると認める。 <甲第7号証記載技術> 「入力部としてノズル2が設けられ、ノズル2から入力された空気が吸音材7を通って出力部であるキャップ4から出力される消音器。」 4 対比及び判断 (1) 本件特許発明1 本件特許発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「消火ガス」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「消火ガス」に相当し、以下同様に、「消火ガス放出用消音ノズル200」は「消火ガス噴射装置」に、「カバー203」は「噴射ヘッド」に、「フィルタ組立体4」は「吸音材」に、「広がる」ことは、「噴出させる」ことに、「建物の消火対象区画内」は、「建物の消火対象区画内」に、それぞれ相当する。 また、引用発明における「騒音」は、本件特許発明1における「空気を切り裂くような大音響」に相当する。 また、引用発明における「開口207」は、本件特許発明1における「ノズル孔」と、「孔」という限りにおいて共通する。 してみれば、本件特許発明1と引用発明とは、 「空気を切り裂くような大音響の発生を抑制する、消火対象区画内のO_(2)濃度を低下させて消火する消火ガス噴射装置であって、 消火ガスを孔から噴出させる噴射ヘッドと、 前記孔と対面して設置される吸音材とを備え、 前記孔から噴射された消火ガスは吸音材を経由して建物の消火対象区画内に放出され、消火ガスが吸音材を通過する間に消火ガスが減圧されて噴射音の発生が抑制される、消火ガス噴射装置。」 で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1においては、「噴射ヘッド」が「高圧の消火ガス供給源に接続される枝管に螺合」しているのに対し、引用発明においては、「カバー203」の有する「入口233」が、ガス分配ラインを受け取る「座234」を備えるものの、高圧の消火ガス供給源に接続される枝管に螺合しているかどうか不明である点(以下、「相違点1」という。)。 <相違点2> 本件特許発明1においては、「前記ノズル孔から前記吸音材の出口まで前記吸音材は隙間なく詰めて充填」されているのに対し、引用発明においては、「フィルタ組立体4」は、隙間なく詰めて充填されたものではない点(以下、「相違点2」という。)。 <相違点3> 「孔」に関し、本件特許発明1においては「ノズル孔」であるのに対し、引用発明においては「開口207」である点。 <相違点4> 本件特許発明1においては、「前記ノズル孔の内径は前記枝管の内径よりも小さく」とされているのに対し、引用発明においては、「孔」の内径と枝管の内径とが不明である点。 <相違点5> 本件特許発明1においては、「前記枝管側には消火ガスが前記噴射ヘッドから放出」されないのに対し、引用発明においては、かかる構成を備えていない点(以下、「相違点5」という。)。 事案に鑑み、相違点4についてまず検討する。 甲第4号証記載技術2における消音器は、高圧の気体の放出口の内径より小さい内径の中空部を有する本体を備えるものである。 しかし、甲第4号証記載技術2における消音器は、ねじ込まれることにより当該放出口に結合するものであり、それ故、消音器の本体の中空部の内径が、放出口の内径より小さくなるものである。してみると、甲第4号証記載技術2に例示される、ノズル孔の内径を、高圧の気体の放出口側の内径より小さくするという周知技術は、消音器を放出口にねじ込むことを前提とする周知技術である。他方、引用発明においては、入口233の有する座234は、ガス分配ラインを受け取るものであるから、ガス分配ラインが、コップ形状の入口233に入り込むことを前提としたものである。 そうすると、引用発明における消火ガス放出用消音ノズルとガス分配ラインとの接続と、甲第4号証記載技術2に例示される周知技術における放出口と本体との接続は、接続形式が互いに異なるものであるから、引用発明に甲第4号証記載技術2に例示される周知技術を採用することは阻害要因が存在する。 してみると、甲第4号証技術2に例示される、ノズル孔の内径を、高圧の気体の放出口側の内径より小さくするとの技術が周知であったとしても、引用発明に採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 また、甲第7号証に関し、第1図においては、ノズル2は、孔が先細に形成されることが看取できるが、甲第7号証には、ノズル2へ空気を入力する構成の内径について記載も示唆もされておらず、当該先細の形状により、空気の流量を調節することについても記載も示唆もされていないから、甲第7号証に「ノズル孔の内径は前記枝管の内径よりも小さく」することが開示されているとはいえない。 さらに、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証及び甲第6号証のいずれにも、消火ガス噴射装置において「前記ノズル孔の内径は前記枝管の内径よりも小さく」することで、消火ガスの流量を絞る点は開示も示唆もされていない。 そして、本件特許発明1においては、相違点4に係る構成を備えることにより、消火ガスの噴射装置において、消火ガスの流量を調整し得るという効果を奏するものである。 したがって、相違点1ないし3及び5について検討をするまでもなく、本件特許発明1は、引用発明、甲第2号証記載技術、甲第3号証記載技術、甲第4号証記載技術1、甲第4号証記載技術2、甲第5号証記載技術、甲第6号証記載技術及び甲第7号証記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明2ないし6 本件特許の特許請求の範囲の請求項2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に、構成を置換えることなく引用するものであって、本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1の構成を全て備えるものである。 そうすると、本件特許発明2ないし6についても、上記(1)において検討したとおりであるといえるから、本件特許発明2ないし6は、引用発明、甲第2号証記載技術、甲第3号証記載技術、甲第4号証記載技術1、甲第4号証記載技術2、甲第5号証記載技術、甲第6号証記載技術及び甲第7号証記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 空気を切り裂くような大音響の発生を抑制する、消火対象区画内のO_(2)濃度を低下させて消火する消火ガス噴射装置であって、 高圧の消火ガス供給源に接続される枝管に螺合し、消火ガスをノズル孔から噴出させる噴射ヘッドと、 前記ノズル孔と対面して設置される吸音材とを備え、前記ノズル孔から前記吸音材の出口まで前記吸音材は隙間なく詰めて充填されており、 前記ノズル孔の内径は前記枝管の内径よりも小さく、前記ノズル孔から噴射された消火ガスは前記吸音材を経由して建物の消火対象区画内に放出され、前記枝管側には消火ガスが前記噴射ヘッドから放出されず、消火ガスが前記吸音材を通過する間に消火ガスが減圧されて噴射音の発生が抑制される、消火ガス噴射装置。 【請求項2】 前記ノズル孔から前記吸音材の出口まで消火ガスは軸線方向に沿って流れることが可能である、請求項1に記載の消火ガス噴射装置。 【請求項3】 前記ノズル孔から前記吸音材の出口までの消火ガスの軸線方向の流路は前記吸音材のみで構成される、請求項1または2に記載の消火ガス噴射装置。 【請求項4】 前記吸音材は積層構造を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の消火ガス噴射装置。 【請求項5】 前記吸音材は、ノズル孔と対面する第一面と、前記第一面と反対側に位置する第二面とを有し、前記第二面側に配置されて複数の通気口が設けられた多孔体の端壁をさらに備える、請求項1から4のいずれか1項に記載の消火ガス噴射装置。 【請求項6】 前記吸音材は、ノズル孔と対面する第一面と、前記第一面と反対側に位置する第二面とを有し、少なくとも前記第二面側から消火ガスが放出され、前記第一面側から消火ガスが放出されない、請求項1から5のいずれか1項に記載の消火ガス噴射装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-09-01 |
出願番号 | 特願2014-125348(P2014-125348) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A62C)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 三宅 龍平 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
槙原 進 三島木 英宏 |
登録日 | 2016-04-22 |
登録番号 | 特許第5922711号(P5922711) |
権利者 | エア・ウォーター防災株式会社 |
発明の名称 | 消火ガス噴射装置 |
代理人 | 森 治 |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |