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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1333240 |
異議申立番号 | 異議2017-700121 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-02-08 |
確定日 | 2017-09-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5968128号発明「歯科用光重合性組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5968128号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第5968128号の請求項1、2及び5に係る特許を維持する。 特許第5968128号の請求項3、4及び6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5968128号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成24年7月6日に出願され、平成28年7月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 松村朋子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年4月17日付けで取消理由が通知され、同年6月20日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、これに対して、申立人から同年8月1日に意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求は、一群の請求項である請求項1?6について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は、次のとおりである。 (1)訂正事項1 請求項1に、 「(A)ラジカル重合性単量体、 (B)可視光重合開始剤、 (C)フタル酸エステル系蛍光剤、および (D)ベンゾトリアゾール化合物 を含有してなる歯科用光重合性組成物(カチオン重合性単量体を含むものを除く)。」 とあるのを、 「(A)ラジカル重合性単量体、 (B)可視光重合開始剤、 (C)フタル酸エステル系蛍光剤、および (D)ベンゾトリアゾール化合物 を含有し、 (A)ラジカル重合性単量体100質量部当たり、 (B)可視光重合開始剤0.01?10質量部、 (C)フタル酸エステル系蛍光剤0.01?0.1質量部、および (D)ベンゾトリアゾール化合物0.01?10質量部 を含有し、(D)ベンゾトリアゾール化合物の配合割合が、(C)フタル酸エステル系蛍光剤1質量部に対して3?20質量部であって、 (D)ベンゾトリアゾール化合物が下記一般式(2)で表される化合物である歯科用光重合性組成物(カチオン重合性単量体、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを含むものを除く)。 【化3】 (式中、R^(5)は水素原子又はアルキル基、R^(6)はアルキル基であり、R^(7)はアルキル基又はハロゲン原子であり、mは0?4の整数である。)」 に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び5も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 請求項3を削除する。 (3)訂正事項3 請求項4を削除する。 (4)訂正事項4 請求項5に「請求項1?4のいずれか一項に記載の歯科用光重合性組成物からなる歯科用修復材料。」とあるのを、「請求項1又は2に記載の歯科用光重合性組成物からなる歯科用修復材料。」に訂正する。 (5)訂正事項5 請求項6を削除する。 (6)訂正事項6 願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0010】に「 即ち、本発明は、(A)ラジカル重合性単量体、(B)可視光重合開始剤、(C)フタル酸エステル系蛍光剤、および(D)ベンゾトリアゾール化合物を含有してなる歯科用光重合性組成物(カチオン重合性単量体を含むものを除く)である。」とあるのを、「 即ち、本発明は、(A)ラジカル重合性単量体、(B)可視光重合開始剤、(C)フタル酸エステル系蛍光剤、および(D)ベンゾトリアゾール化合物を含有し、(A)ラジカル重合性単量体100質量部当たり、(B)可視光重合開始剤0.01?10質量部、(C)フタル酸エステル系蛍光剤0.01?0.1質量部、および(D)ベンゾトリアゾール化合物0.01?10質量部を含有し、(D)ベンゾトリアゾール化合物の配合割合が、(C)フタル酸エステル系蛍光剤1質量部に対して3?20質量部であって、(D)ベンゾトリアゾール化合物が下記一般式(2)で表される化合物である歯科用光重合性組成物(カチオン重合性単量体、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを含むものを除く)。である。 【化4】 (式中、R^(5)は水素原子又はアルキル基、R^(6)はアルキル基であり、R^(7)はアルキル基又はハロゲン原子であり、mは0?4の整数である。)」に訂正する (7)訂正事項7 本件特許明細書の段落【0043】に 「【化3】 」 とあるのを、 「【化3】 」 に訂正する。 (8)訂正事項8 本件特許明細書の段落【0046】に「 上記R^(5)及びR^(6)としては、炭素数1?12のアルキル基であることが好ましく、炭素数1?8の非置換のアルキル基がより好ましい。このようなアルキル基を再度具体的に例示すると、メチル基、エチル基、n-プロピル基、t-ブチル基等が挙げられる。また該R^(5)及びR^(6)の結合位置としては、これらが共にアルキル基である場合には3位及び5位が一般的であり、R^(5)が水素原子である場合には、R^(6)が5位に結合しているのが一般的である。」とあるのを、「 上記R^(5)及びR^(6)としては、炭素数1?12のアルキル基であることが好ましく、炭素数1?8の非置換のアルキル基がより好ましい。このようなアルキル基を再度具体的に例示すると、メチル基、エチル基、n-プロピル基、t-ブチル基等が挙げられる。」に訂正する。 (9)訂正事項9 本件特許明細書の段落【0070】に「実施例1?12、比較例1?5、参考例1」とあるのを、「実施例1?4、7?10、比較例1?5、参考例1」に訂正する。 (10)訂正事項10 本件特許明細書の段落【0072】の【表1】を差し替える。 (差し替えた【表1】は以下のとおりである。 ) 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1に係る発明の構成成分(A)?(D)について、(A)に対する(B)?(D)の配合割合が特定されていなかったものを特定の配合割合であるものに限定し、更に、(D)ベンゾトリアゾール化合物を一般式(2)で表される化合物に限定し、請求項1に係る発明の「歯科用光重合性組成物」が更に2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを含むものを除くことを明らかにするものであって、各成分の配合割合については、本件特許明細書の段落【0020】、【0039】、【0049】、【0050】に記載され、(D)ベンゾトリアゾール化合物については、本件特許明細書の段落【0042】?【0046】に記載されている。 また、「2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを含むものを除く」との事項は、いわゆる「除くクレーム」であって、新たな技術的事項を導入するものではない。 請求項1の記載を引用する請求項2及び5についても、請求項1と実質的に同様の限定を付すものである。 そうすると、上記訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2、3及び5について 訂正事項2、3及び5は、訂正前の請求項3、4及び6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (3)訂正事項4について 訂正事項4は、請求項5において、上記訂正事項2、3による訂正に伴い、削除されて存在しなくなった請求項3、4を引用する不合理を正すものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項6?8について 訂正事項6?8は、上記訂正事項1による訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、訂正事項6?8は、一群の請求項である請求項1?6の全てを対象として請求されたものである。 (5)訂正事項9、10について 訂正事項9、10は、上記訂正事項1による訂正に伴い、訂正後の請求項1、2又は5に係る発明の実施例には該当しなくなった実施例5、6、11、12を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、訂正事項9、10は、一群の請求項である請求項1?6の全てを対象として請求されたものである。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?6]について訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1、2及び5に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1、2及び5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 【請求項1】 (A)ラジカル重合性単量体、 (B)可視光重合開始剤、 (C)フタル酸エステル系蛍光剤、および (D)ベンゾトリアゾール化合物 を含有し、 (A)ラジカル重合性単量体100質量部当たり、 (B)可視光重合開始剤0.01?10質量部、 (C)フタル酸エステル系蛍光剤0.01?0.1質量部、および (D)ベンゾトリアゾール化合物0.01?10質量部 を含有し、(D)ベンゾトリアゾール化合物の配合割合が、(C)フタル酸エステル系蛍光剤1質量部に対して3?20質量部であって、 (D)ベンゾトリアゾール化合物が下記一般式(2)で表される化合物である歯科用光重合性組成物(カチオン重合性単量体、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを含むものを除く)。 【化3】 (式中、R^(5)は水素原子又はアルキル基、R^(6)はアルキル基であり、R^(7)はアルキル基又はハロゲン原子であり、mは0?4の整数である。) 【請求項2】 (C)フタル酸エステル系蛍光剤が下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1記載の歯科用光重合性組成物。 【化1】 (式中、R^(1)及びR^(2)は各々独立に、アルキル基であり、R^(3)は水素原子、アミノ基、又は水酸基であり、R^(4)はアミノ基、又は水酸基である。) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 請求項1又は2に記載の歯科用光重合性組成物からなる歯科用修復材料。 【請求項6】 (削除) 第4 特許異議の申立てについて 1 申立人による特許異議申立ての理由の概要 申立人は、以下に示す甲第1号証?甲第10号証(以下、「甲1」等という。)を提出して、概要、次のとおり主張している。 [申立理由ア]特許法第29条第1項第3号(同法113条第2号)について ・請求項1ないし6に係る発明は、甲1に記載された発明である。 ・請求項1、2、4ないし6に係る発明は、甲2に記載された発明である。 ・請求項1ないし6に係る発明は、甲5に記載された発明である。 [申立理由イ]特許法第29条第2項(同法113条第2号)について ・請求項1ないし6に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 ・請求項1、2、4ないし6に係る発明は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 ・請求項1ないし6に係る発明は、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 [申立理由ウ]特許法第36条第6項第1号(同法113条第4号)について 請求項1及び3に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。 (証拠方法) 甲1:米国特許出願公開第2003/0212194号明細書 甲2:米国特許出願公開第2010/0297588号明細書 甲3:特開平9-100208号公報 甲4:国際公開第2011/006552号 甲5:米国特許出願公開第2002/0152930号明細書 甲6:特開2012-31155号公報 甲7:特表2007-514660号公報 甲8:特表2002-520347号公報 甲9:米国特許第6242505号明細書 甲10:商公昭59-48208号公報 2 当合議体から通知した取消理由の概要 請求項1?6に係る特許に対して平成29年4月17日付けで当合議体から特許権者に通知した取消理由は、概要、次のとおりである。 [取消理由1]請求項1?6に係る発明は、甲1に記載された発明、甲2に記載された発明、又は甲5に記載された発明であるから、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。 刊行物1:米国特許出願公開第2003/0212194号明細書(甲1)刊行物2:米国特許出願公開第2010/0297588号明細書(甲2) 刊行物3:米国特許出願公開第2002/0152930号明細書(甲5) 周知文献として 周知A:特開平3-160001号公報 周知B:特開2011-124259号公報 周知C:特開2012-31155号公報(甲6) 周知D:特開平9-100208号公報(甲3) 周知E:特開平2-11607号公報 周知F:特開昭60-132909号公報 周知G:国際公開第2011/006552号(甲4) 周知H:特開2001-139411号公報 周知I:特開平10-298021号公報 周知J:特表2007-514660号公報(甲7) 周知K:特開2002-338422号公報 周知L:特開2008-239599号公報 [取消理由2]請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。 具体的には、以下を理由とするものである。 本件発明の課題は「太陽光安定性に優れ、さらに十分な蛍光性を示す歯科用光重合性組成物を得ること」であるところ、本件明細書には、【0041】に「当該ベンゾトリアゾール化合物は、トリアゾール構造の窒素原子に結合した芳香環の2位の位置にヒドロキシル基が結合していればよく、公知のものが特に制限なく使用できる。」と記載され、【0042】に「代表的なベンゾトリアゾール化合物としては下記一般式(2)で表されるものが挙げられる。」として、実施例ではもっぱら、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(BT1)、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(BT2)の2つの化合物のみが用いられており、歯科用修復材料において蛍光性と太陽光安定性(色調変化)、表面未重合量を実際に確認しているのはこの2つの化合物を用いた場合のみである。これに対し、請求項1の記載では、トリアゾール構造の窒素原子に結合した芳香環の2位の位置にヒドロキシル基が結合されていることは特定されておらず、紫外線吸収特性を有するか否かさえ明らかでない化合物まで包含されており、このようなベンゾトリアゾール化合物を用いた場合に、上記課題が解決できたことを当業者が認識することはできない。 また、本願明細書【0046】には「R^(5)及びR^(6)の結合位置としては、これらが共にアルキル基である場合には3位及び5位が一般的であり、R^(5)が水素原子である場合には、R^(6)が5位に結合しているのが一般的である。」と記載されるのに対して、請求項3ではR^(5)及びR^(6)の結合位置が特定されていない。本件明細書には、一般式(2)の化合物のうち、置換基の位置が3位及び5位、または置換基が5位のみの化合物以外のものを用いた場合にも、BT1やBT2と同様に、(A)ラジカル重合性単量体、(B)可視光重合開始剤、(C)フタル酸エステル系蛍光剤を含む系において太陽光安定性と十分な蛍光性を示すといえる技術的な根拠が示されていない。 したがって、請求項1及び3の記載はいわゆるサポート要件を満たさない。これらの請求項を引用する請求項2、4?6の記載についても同様である。 3 甲各号証の記載事項及び引用発明 (1)甲1:米国特許出願公開第2003/0212194号明細書 甲1は、修復歯科で有用な、充填され、流動性があり、光重合性のポリマー組成物に関する技術を開示するもの(甲1の[0002])であるが、甲1の[0029]、表1には、サンプルAとして、以下の組成(重量%)の樹脂を含む流動性歯科修復用組成物を調製したことが記載されている。 サンプルA Bis-GMA 22.65 EBP-DMA 44.31 PCDMA 31.51 カンファーキノン 0.10 EDMAB 0.20 Lucirin TPO 0.49 UV-5411 0.73 Uvitex OB 0.01 LUMILUX Blue LZ 0.02 そして、[0008][0023][0030]によれば、サンプルAは、重合性のエチレン性不飽和樹脂としてBis-GMA(2,2'-[4-(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)-フェニル]-プロパン)、EBP-DMA(エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート)、PCDMA(ポリカーボネートジメタクリレート)を含み、カンファーキノン又はLucirin TPOは重合開始剤として用いられ、UV-5411は紫外線吸収剤であり、EDMAB(4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル)は光硬化を促進するために用いられ、LAMILUX Blue LZ(当合議体注:LUMILUX Blue LZの誤記と認められる)は歯科用修復組成物の色の調整に用いられ、Uvitex OBは増白剤として用いられるものである。 そうすると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」)という。)が記載されているといえる。 「以下の組成(重量%)の樹脂を含む流動性歯科修復用組成物 Bis-GMA 22.65 EBP-DMA 44.31 PCDMA 31.51 カンファーキノン 0.10 EDMAB 0.20 Lucirin TPO 0.49 UV-5411 0.73 Uvitex OB 0.01 LUMILUX Blue LZ 0.02 ここで、Bis-GMA(2,2'-[4-(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)-フェニル]-プロパン)、EBP-DMA(エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート)、及びPCDMA(ポリカーボネートジメタクリレート)は重合性のエチレン性不飽和樹脂であり、カンファーキノン又はLucirin TPOは重合開始剤、UV-5411は紫外線吸収剤であり、EDMAB(4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル)は光硬化を促進するために用いられ、LUMILUX Blue LZは歯科用修復組成物の色の調整に用いられ、Uvitex OBは増白剤である。」 (2)甲2:米国特許出願公開第2010/0297588号明細書 甲2は、硬化された際に自然の歯の蛍光を有する硬化性歯科用組成物に関する技術を開示するもの(甲2の[0006])であるが、甲2の[0135]、[0146]、表9、[0147]には、以下に示す表9に実施例6の重合性樹脂混合物の組成として列挙される成分を混合し、次いで2,5-ジメトキシテレフタル酸ジエチルを0.465重量%を混合して得た2,5-ジメトキシテレフタル酸ジエチル含有重合性樹脂混合物に、ジルコニア充填剤、シリカ充填剤、及びZr-Si充填剤を添加して充填剤混合物を含む硬化性歯科用組成物を提供したことが記載されている。 表9 --------------------------------- 実施例6の重合性樹脂混合物の組成. --------------------------------- 成分 樹脂中の成分重量パーセント --------------------------------- bisGMA 24.20 UDMA 33.88 bisEMA6 33.88 TEGDMA 4.84 CPQ 0.16 DPIHFP 0.48 EDMAB 0.97 BHT 0.15 TINUVIN 1.45 更に、比較例3として、2,5-ジメトキシテレフタル酸ジエチルをLUMILUX BLUE LZに置き換えたことを除いて、実施例6に記載のように調製した硬化性組成物が記載されている。 そして、[0135]の略号と材料の説明及び供給元の表によれば、bisGMA(2,2'-[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン)、UDMA(ジウレタンジメタクリレート)、bisEMA6(エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、CPQ(カンファーキノン)、DPIHFP (ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート)、EDMAB(4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル)、BHT(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、TINUVIN(TINUVIN R 796の商品名で照会される重合性紫外線安定剤)であることがわかる。 そうすると、甲2には、比較例3として、以下の発明(以下、「甲2発明」)という。)が記載されているといえる。 「以下の組成(重量パーセント)の重合性樹脂混合物 bisGMA 24.20 UDMA 33.88 bisEMA6 33.88 TEGDMA 4.84 CPQ 0.16 DPIHFP 0.48 EDMAB 0.97 BHT 0.15 TINUVIN 1.45 に、 LUMILUX BLUE LZ 0.465重量パーセント を混合して得たLUMILUX BLUE LZ含有重合性樹脂混合物に 更に、ジルコニア充填剤、シリカ充填剤、及びZr-Si充填剤からなる充填剤混合物を添加した充填剤混合物を含む硬化性歯科組成物。 ここで、bisGMA(2,2'-[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン)、UDMA(ジウレタンジメタクリレート)、bisEMA6(エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、CPQ(カンファーキノン)、DPIHFP (ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート)、EDMAB(4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル)、BHT(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、TINUVIN(TINUVIN R 796の商品名で照会される重合性紫外線安定剤)、LUMILUX BLUE LZ(2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル)である。」 (3)甲5:米国特許出願公開第2002/0152930号明細書 甲5は20?50μmの平均粒子サイズを有する粒子複合材料に関する技術を開示するもの(甲5の請求項1)であるが、請求項10、27には、 「10. 少なくとも1つの重合可能モノマーおよび/またはプレポリマー、少なくとも1つの重合開始剤、および前記する少なくとも1つの請求項に記載の粒子複合材料を含む、組成物。」 「27.歯科材料、特に、歯科用充填材料、インレーまたはアンレーのための材料、歯科用セメント、歯冠およびブリッジのための前装材料、義歯のための材料として使用するための、請求項10?26に記載の組成物。」 と記載されており、実施例2([0072][0073])として 「実施例2 複合フィラーに基づく光硬化歯科材料(コンポジット) 実施例1に従う39.5重量%の粒子複合材料を、1.5μmの平均粒径を有する39.5重量%のバリウムガラス粉末、以下に述べる組成を有する15.5重量%のモノマー混合物および2.5重量%のベントナイトペーストを含む均一なペーストに混合した。このベントナイトペーストは、12.5重量%のベントナイト(層状シリケート)および87.5重量%のモノマー混合物を含む。膨張計を使用して重合収縮を測定するために、0.1gのペーストを、小さいガラスプレートに固定し、水銀でコーティングし、そして距離記録計を水銀上に浮かせて配置した。このペーストを、光重合装置(500mW/cm^(2))で小ガラスプレートを通して60秒間光照射した。1.6%の重合収縮を測定した。 歯科材料の調製のためのモノマー混合物 --------------------------------- 重合可能モノマー: UDMA 45重量% ビスフェノール-A-ジメタクリレート 33.32重量% エトキシル化ビスフェノール-A ジメタクリレート 20重量% 開始材混合物/安定化剤: カンファーキノンDL(光開始剤) 0.33重量% 4-ジメチルアミノ-安息香酸-エチルエステル(急結剤) 0.6重量% 2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド (共開始剤(coinitiator)) 0.4重量% 2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシド 0.012重量% 添加剤: 青色蛍光色素 0.04重量% (Lumilux Flu blue) 2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)-ベンゾトリアゾール(UV安定剤) 0.3重量% コンポジット: モノマー混合物 15.5重量% バリウムガラス粉末 39.5重量% (平均粒径1.5μm) 複合フィラー 39.5重量% 層状シリケートペースト 2.5重量% (モノマー混合物中12.5重量%分散) 三フッ化イッテルビウム 3.0重量% が記載され、[0024]には、ウレタンジメタクリレート(UDMA)」と記載されている。 そうすると、甲5には、以下の発明(以下、「甲5発明」)という。)が記載されているといえる。 「複合フィラーに基づく光硬化歯科材料(コンポジット)を調製するためのモノマー混合物であって、 以下の組成(重量%)のモノマー混合物 重合可能モノマー: ウレタンジメタクリレート(UDMA) 45重量% ビスフェノール-A-ジメタクリレート 33.32重量% エトキシル化ビスフェノール-Aジメタクリレート 20重量% 開始材混合物/安定化剤: カンファーキノンDL(光開始剤) 0.33重量% 4-ジメチルアミノ-安息香酸-エチルエステル(急結剤) 0.6重量% 2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド(共開始剤) 0.4重量% 2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシド 0.012重量% 添加剤: 青色蛍光色素 0.04重量% (Lumilux Flu blue) 2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)-ベンゾトリアゾール(UV安定剤) 0.3重量%」 4 当合議体の判断 当合議体は、平成29年4月17日付けで通知した取消理由1、2、及び、申立人の主張する申立理由ア?ウのいずれにも理由がないと判断する。 その理由は、以下のとおりであるが、まずは当合議体から通知した取消理由2、1の順に検討し、次いで、取消理由に採用しなかった申立理由について検討する。 (1)取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について 上記「第2 2(1)」で検討したとおりの本件訂正請求における訂正事項1に係る訂正によって、「(D)ベンゾトリアゾール化合物」が一般式(2)で表される化合物に限定され、本件訂正発明1は、本件特許明細書において発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲内のものとなった。 そして、それに伴い、請求項3は削除された(訂正事項2)。 したがって、取消理由2は解消された。 なお、申立人による申立理由ウは、上記取消理由2と同旨である。 (2)取消理由1(特許法第29条第1項第3号)について (2-1)甲1に基づく新規性 ア 本件訂正発明1について (ア)本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。 ここで、甲1発明の成分である「Lucirin TPO」は、BASF社の商標名であって、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを成分とする周知の光重合開始剤である(必要であれば、周知Aの12頁左下欄20行?右下欄2行、及び、周知Bの【0047】参照)。 そうすると、本件訂正発明1と引用発明1とは、少なくとも次の点で相違する。 <相違点1>: 本件訂正発明1の歯科用光重合性組成物は、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを含むものを除く、すなわち、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを含まないものであるのに対して、甲1発明は、Lucirin TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド)を含む点。 (イ) <相違点1>についての検討 Lucirin TPOは上記(ア)のとおり、光重合開始剤であって、甲1発明の流動性歯科修復用組成物の構成成分として必須のものである。 したがって、<相違点1>は実質的な相違点であって、本件訂正発明1は、甲1発明と同一であるとはいえない。 イ 本件訂正発明2、5について 本件訂正発明2及び5はいずれも請求項1を引用するものであって、甲1発明との対比において、少なくとも上記<相違点1>において、甲1発明と相違する。 そして、上記ア(イ)で述べたとおり、<相違点1>は実質的な相違点であるから、本件訂正発明2及び5は、甲1発明と同一であるとはいえない。 (2-2)甲2に基づく新規性 ア 本件訂正発明1について (ア)本件訂正発明1と甲2発明とを対比する。 (ア1)本件特許明細書【0013】の記載からみて、甲2発明の「bisGMA」「UDMA」「bisEMA6」及び「TEGDMA」は、本件訂正発明1の(A)成分の「ラジカル重合性単量体」に相当する。 ・甲2発明の「CPQ」は本件訂正発明1の(B)成分の「可視光重合開始剤」に相当する。 ・甲2発明の「LUMILUX BLUE LZ」は、蛍光性化合物として周知の2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチルであるから、本件訂正発明1の(C)成分の「フタル酸エステル系蛍光剤」に相当する。 (ア2)周知G(甲4)の38頁、表1の説明によれば、Tinuvin(登録商標)R796は、市場で入手可能なUV-反応性アクリレート官能基を有するUV-吸収剤(2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール)であって、本件特許明細書の一般式(2)において、R^(6)がメタクリロキシエチル基である化合物である。 一方、本件特許明細書【0044】には、「R^(5)、R^(6)及びR^(7)におけるアルキル基としては置換基を有しているものでもよく」と記載されていることから本件訂正発明1の「(D)ベンゾトリアゾール化合物」にはR^(6)が置換基を有するアルキル基である場合が包含されるといえるので、甲2発明の「TINUVIN」は、本件訂正発明1の(D)成分に相当するといえる。 (ア3)また、質量と重量とは同等であるとの前提のもと、甲2発明の各成分の配合割合を算定すると、 「bisGMA」「UDMA」「bisEMA6」及び「TEGDMA」の合計量24.20+33.88+33.88+4.84=96.80重量%に対して、 「CPQ」が0.16重量%、 「LUMILUX BLUE LZ」が0.465重量%、 「TINUVIN」が1.45重量%であるから、 これを、「bisGMA」「UDMA」「bisEMA6」及び「TEGDMA」の合計量100質量部当たりに換算すると、おおよそ、 「CPQ」の量は0.17質量部、 「LUMILUX BLUE LZ」は0.48質量部、 「TINUVIN」は1.50質量部となる。 そして、「TINUVIN」の配合割合は、「LUMILUX BLUE LZ」1質量部に対して3.1質量部となる。 (ア4)甲2発明は硬化性歯科用組成物であり、上記(ア1)のとおり、ラジカル重合性単量体と光重合開始剤を含む組成物であるから、「歯科用光重合性組成物」ということができる。そして、甲2発明には、カチオン重合性単量体、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドは含まれていない。 そうすると、本件訂正発明1と甲2発明とは、少なくとも次の点で相違する。 <相違点2>: ラジカル重合性単量体100質量部当たりのフタル酸エステル系蛍光剤の配合割合が、本件訂正発明1は0.01?0.1質量部であるのに対して、甲2発明は、0.48質量部である点。 (イ)<相違点2>についての検討 歯科用組成物において、構成成分の配合割合が異なることは実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は、甲2発明と同一であるとはいえない。 イ 本件訂正発明2、5について 本件訂正発明2及び5はいずれも請求項1を引用するものであるから、甲2発明との対比において、少なくとも上記<相違点2>において、甲2発明と相違する。 そして、上記ア(イ)で述べた理由により、上記相違点は実質的な相違点であるから、本件訂正発明2及び5は、甲2発明と同一であるとはいえない。 (2-3)甲5に基づく新規性 ア 本件訂正発明1について (ア) 本件訂正発明1と甲5発明とを対比すると、本件訂正発明1と甲5発明とは、少なくとも次の点で相違する。 <相違点3>: 本件訂正発明1の歯科用光重合性組成物は、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを含むものを除く、すなわち、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを含まないものであるのに対して、甲5発明は、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを含む点。 (イ)<相違点3>についての検討 甲5発明において、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドは共開始剤であるから、甲5発明の複合フィラーに基づく光硬化歯科材料(コンポジット)を調製するためのモノマー混合物の構成成分として必須のものと解される。 したがって、<相違点3>は実質的な相違点であって、本件訂正発明1は、甲5発明と同一であるとはいえない。 イ 本件訂正発明2、5について 本件訂正発明2及び5はいずれも請求項1を引用するものであるから、甲5発明との対比において、少なくとも上記<相違点3>において、甲5発明と相違する。 そして、上記ア(イ)で述べたとおり、<相違点3>は実質的な相違点であるから、本件訂正発明2及び5は、甲5発明と同一であるとはいえない。 (2-4) 小括 以上のとおり、本件訂正発明1、2及び5は、いずれも、甲1に記載された甲1発明、又は、甲2に記載された甲2発明、或いは、甲5に記載された甲5発明であるとはいえないので、本件訂正発明1、2及び5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明に対してされたものであるとの取消理由1には理由がない。 なお、申立人による申立理由アは、上記取消理由1と同旨である。 (3)取消理由通知において採用しなかった申立理由イ(特許法第29条第2項)について (3-1)甲1に基づく容易想到性 ア 上記(2-1)ア(イ)で検討した本件訂正発明1と甲1発明との<相違点1>について更に検討する。 甲1発明は、サンプルAとして完成された処方であって、そもそも、この処方の中から必須の構成成分の1つを除こうとする動機付けがない。すなわち、Lucirin TPOを成分から除くことは当業者が容易になし得ることとはいえない。 したがって、本件訂正発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 イ 本件訂正発明1の特定事項をすべて含み、さらに技術的限定を加えて特定したものである本件訂正発明2及び5は、上記アで述べたのと同様の理由により、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (3-2)甲2に基づく容易想到性 ア 上記(2-2)ア(イ)で示した、本件訂正発明1と甲2発明との<相違点2>について検討する。 甲2に開示される技術は、硬化された際に自然の歯の蛍光を有する新規な硬化性歯科用組成物の提供を目的として、蛍光剤として特定のテレフタル酸誘導体を用いることに着目したもの(甲2の[0006])であって、蛍光剤の配合量(配合割合)を調整することに関する特段の記載は見当たらない。 そうすると、甲2発明において、蛍光剤である「LUMILUX BLUE LZ(2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル)」の配合割合を本件訂正発明1で特定される数値範囲程度に少なくしようとする動機付けがない。 したがって、本件訂正発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 イ 本件訂正発明1の特定事項をすべて含み、さらに技術的限定を加えて特定したものである本件訂正発明2及び5は、上記アで述べたのと同様の理由により、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (3-3)甲5に基づく容易想到性 ア 上記(2-3)ア(イ)で検討した本件訂正発明1と甲5発明との<相違点3>について更に検討する。 甲5に開示される技術は、微粒子複合材料に関するものであり、微粒子複合材料の用途として複合フィラーに基づく光硬化歯科材料(コンポジット)が挙げられ、その実施例2として甲5発明の組成が示されているものである。このような甲5発明の組成から、光硬化に必要な成分と解される共開始剤である2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを含まないものとすることは、光硬化歯科材料(コンポジット)としての所期の機能を奏さなくなるおそれもあり、当業者が通常行なうこととはいえない。 したがって、本件訂正発明1は、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 イ 本件訂正発明1の特定事項をすべて含み、さらに技術的限定を加えて特定したものである本件訂正発明2及び5は、上記アで述べたのと同様の理由により、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (3-4) 小括 以上のとおり、本件訂正発明1、2及び5は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも、また、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないので、本件訂正発明1、2及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとの申立人の主張する申立理由イには理由がない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、 取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1、2及び5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1、2及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項3、4及び6に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項3、4及び6に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 歯科用光重合性組成物 【技術分野】 【0001】 本発明は、歯科用光重合性組成物、特に歯科用修復材料として有用な歯科用光重合性組成物に関するものである。 【背景技術】 【0002】 歯科治療において、種々の歯科用修復材料が使用されている。例えば、 齲蝕や破折等により損傷をうけた歯牙の修復においては、一般にコンポジットレジンと呼ばれるペースト状の光硬化型の充填修復材料が、操作の簡便さや審美性の高さから汎用されている。このようなコンポジットレジンは、通常、重合性単量体、充填材、及び光重合開始剤の各成分が配合されてなる。 【0003】 歯科治療分野においては、生体への為害性のために紫外線領域に活性を有する光重合開始剤の使用は困難であり、そのため可視光域に活性を有する光重合開始剤が主に使用されている。該光重合開始剤としては、α-ジケトンやアシルホスフィンオキサイド等の光を吸収しそれ自身が分解して重合活性種を生成する化合物や、さらにこれに第3級アミン化合物などの適当な増感剤を組み合わせた系が広く検討され、使用されている。光重合型の歯科用修復材料を用いた治療手法は、光重合型の充填修復材料を修復すべき歯牙の窩洞に充填して歯牙の形に成形した後に、専用の光照射器を用いて活性光を照射して重合硬化させて歯の修復が行われている(以下、このような重合硬化させるために照射する光を「活性光」と呼ぶことがある)。一般に、このような活性光は、約380?500nm程度の波長域(α-ジケトン化合物の主たる吸収域である)における光強度が100?1500mW/cm^(2)程度の出力の光源を用い、0?10mm程度の距離から照射される。 【0004】 前記歯科用修復材料は、患者の口腔内に充填した後、光照射を行って重合、硬化させる。そのため、重合のための活性光の照射時間を長く取ると、操作に時間がかかるだけではなく、患者にも多大な負担を強いるという問題があり、活性光の照射時間(硬化時間)の短縮が要望されている。硬化時間を短縮するための手法の一つとして、光重合開始剤の配合量を多くすることがある。しかし、光重合開始剤の配合量を多くした歯科用修復材料の硬化体は、太陽光等の紫外光に暴露された時に比較的短時間で大きく着色(変色)してしまう。硬化体が変色すると、修復時にあわせた色調からずれてしまうため、初期の審美性が失われてしまい、歯科用修復材料として必要な要求を満たすことができない。例えば、JIS T 6514では、硬化体を太陽光に10時間暴露しても、その変色が肉眼で容易に検出できないことを要求している。従来、上記問題に対しては、歯科用修復材料に紫外線吸収剤を配合することが行なわれている。 【0005】 また、歯科用コンポジットレジンを用いた修復は、天然歯と見分けがつかないほどに周囲と調和し、審美性の高い修復が可能であるが、紫外光または短波長の可視光などを発する環境下においては、修復部位が黒く見え、精神的な負担を強いていた。この欠点を改良すべく、上記紫外線吸収剤に加え、蛍光剤をさらに配合することが提案されている。そして、この際に用いる蛍光剤の中でも、フタル酸エステル系のものは入手し易く、天然歯に似た蛍光を発し、格別に審美性に優れる特長を有しているため、有利に使用されている。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤とフタル酸エステル系蛍光剤を組み合わせて使用することはその代表例である(例えば、特許文献1)。 【0006】 しかしながら、本発明者等が検討すると、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤とフタル酸エステル系蛍光剤が組み合わさった歯科用光重合性組成物は、太陽光に対する安定性と蛍光性を両立することが困難であることがわかった。具体的には、太陽光に対する安定性を高めるためにその配合量を多くした場合、十分な蛍光性が得られず、逆に十分な蛍光性を得るためにフタル酸エステル系蛍光剤の配合量を多くした場合、十分な太陽光に対する安定性が得られないことが分かった。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】 特表2002-520347号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 以上の状況にあって本発明は、硬化体を太陽光に長時間さらしても、審美性に影響を与えるほどの変色のない(太陽光安定性に優れる)硬化体を与え、さらに十分な蛍光性を示す歯科用光重合性組成物を得ることを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール化合物を用い、蛍光剤としてフタル酸エステル系蛍光剤を用いることで、前記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。 【0010】 即ち、本発明は、 (A)ラジカル重合性単量体、(B)可視光重合開始剤、(C)フタル酸エステル系蛍光剤、および(D)ベンゾトリアゾール化合物を含有し、(A)ラジカル重合性単量体100質量部当たり、(B)可視光重合開始剤0.01?10質量部、(C)フタル酸エステル系蛍光剤0.01?0.1質量部、および(D)ベンゾトリアゾール化合物0.01?10質量部を含有し、(D)ベンゾトリアゾール化合物の配合割合が、(C)フタル酸エステル系蛍光剤1質量部に対して3?20質量部であって、(D)ベンゾトリアゾール化合物が下記一般式(2)で表される化合物である歯科用光重合性組成物(カチオン重合性単量体、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを含むものを除く)である。 【化4】 (式中、R^(5)は水素原子又はアルキル基、R^(6)はアルキル基であり、R^(7)はアルキル基又はハロゲン原子であり、mは0?4の整数である。) 【発明の効果】 【0011】 本発明の歯科用光重合性組成物は、太陽光等の紫外光に暴露しても硬化体の着色が少なく、且つ十分な蛍光性を示す歯科用修復物を得ることができる。したがって、歯科用コンポジットレジン、硬質レジン等の歯科用修復材料に用いる歯科用光重合性組成物として極めて有用である。 【0012】 さらに、本発明の歯科用光重合性組成物に含有される(C)フタル酸エステル系蛍光剤、(D)ベンゾトリアゾール化合物を適量に制御することにより、太陽光安定性、及び蛍光性のバランスに優れ、かつ硬化させた場合の表面未重合量が低減され得る。 【発明を実施するための形態】 【0013】 以下、本発明の歯科用光重合性組成物の各成分について説明する。 〔(A)ラジカル重合性単量体〕 ラジカル重合性単量体としては、公知のものが特に制限なく使用できる。一般に好適に使用されるものを例示すれば、下記(I)?(III)に示されるものが挙げられる。 (I)二官能ラジカル重合性単量体 (i)芳香族化合物系の二官能ラジカル重合性単量体 2,2-ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(3-メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル]プロパン(以下、bis-GMAと略記する)、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(以下、D-2.6Eと略記する)、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2(4-メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらメタクリレートに対応するアクリレートのような-OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4‘-ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。 【0014】 (ii)脂肪族化合物系の二官能ラジカル重合性単量体 エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(以下、3Gと略記する)、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような-OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加体から得られるジアダクト;1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エチル等。 (II)三官能ラジカル重合性単量体 トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレート及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等。 (III)四官能ラジカル重合性単量体 ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加反応により得られるジアダクト等。 【0015】 これら多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。 【0016】 さらに、必要に応じて、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等の単官能の(メタ)アクリレート系単量体や、上記(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を用いても良い。 〔(B)可視光重合開始剤〕 本発明の歯科用光重合性組成物における(B)成分の可視光重合開始剤としては公知の化合物が何ら制限なく使用できる。 【0017】 本発明において可視光とは、380nm?780nmの波長領域の光線を意味し、可視光重合開始剤とは、可視光領域に感光性を有する化合物を意味する。 【0018】 可視光重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類、ベンゾフェノン、アントラキノン、チオキサントン等のジアリールケトン類、カンファーキノン、カンファーキノンカルボン酸、カンファーキノンスルホン酸、ベンジル、ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα-ジケトン類、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドなどのビスアシルホスフィンオキサイド類等が使用できる。 【0019】 これらの可視光重合開始剤の中でも、表面未重合量を低減させるためには、α-ジケトン類を用いることが好ましい。この理由は、本発明の(C)フタル酸エステル系蛍光剤の蛍光波長380?600nmとα-ジケトン類の吸収波長380?500nmが比較的近接しており、(C)フタル酸エステル系の蛍光が、α-ジケトン類を活性化しやすく、結果、表面未重合量の低減に資するからと推測される。 【0020】 可視光重合開始剤の使用量は、(A)ラジカル重合性単量体100質量部当り、0.01?10質量部、特に0.02?5質量部の範囲で使用するのがより好ましい。 【0021】 上記可視光重合開始剤は、還元性化合物と組合せて用いるのが好ましい。還元性化合物としては、芳香族アミン化合物、脂肪族アミン化合物などのアミン化合物、2-メルカプトベンゾオキサゾール、1-デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などの含イオウ化合物、テトラフェニルホウ酸、テトラキス(p-フロルオロフェニル)ホウ酸、ブチルトリフェニルホウ酸等のナトリウム塩、トリエタノールアミン塩等のテトラアルキルホウ酸塩化合物、N-フェニルアラニンなどを挙げることができる。好適には、重合活性が高く、保存安定性に優れる等の点から、アミン化合物であることが好ましい。 【0022】 本発明における芳香族アミン化合物としては、窒素原子に結合した有機基のうちの少なくとも一つが芳香族基であるアミン化合物が該当し、この構造を満足する公知のものが特に制限なく使用できる。重合活性がより高く、また揮発性が低いため臭気が少なく、さらには入手が容易な点で、窒素原子に一つの芳香族基と、2つの脂肪族基が結合したアミン化合物(以下、第3級芳香族アミン化合物とも称す)であることが好ましい。代表的な第3級芳香族アミン化合物としては下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。 【0023】 【化1】 【0024】 (式中、R^(8)及びR^(9)は、各々独立に、アルキル基であり、R^(10)は水素原子、炭化水素基、アルコキシ基、又はアルキルオキシカルボニル基である。) 上記R^(8)及びR^(9)のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基等の炭素数1?6のものが例示される。また、これらのアルキル基は、クロロメチル基、2-クロロエチル基等のハロゲンにより置換されたものや、2-ヒドロキシエチル基等の水酸基により置換されたもの等の置換体であっても良い。 【0025】 また、R^(10)の炭化水素基としては、上記アルキル基の他、アリール基、アルケニル基、アラルケニル基などが挙げられ、これらも置換基を有するものであっても良い。具体的には、フェニル基,p-メトキシフェニル,p-メチルチオフェニル基,p-クロロフェニル基,4-ビフェニリル基等のアリール基、ビニル基,2-プロペニル基等のアルケニル基、2-フェニルエテニル基等のアラルケニル基などの炭素数1?12のものが挙げられる。 【0026】 アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基等の炭素数1?10、より好適には炭素数1?5のもの等が例示され、これらも置換基を有したものであっても良い。また、アルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基等のアルキルオキシ基部分の炭素数が1?10、より好適には炭素数1?5のものが例示され、これらも置換基を有したものであっても良い。 【0027】 なお、R^(10)は、その結合位置がパラ位であることがより好ましい。 【0028】 一般式(3)で示される芳香族アミン化合物を具体的に例示すると、p-ジメチルアミノ安息香酸メチル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸プロピル、p-ジメチルアミノ安息香酸ペンチル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソペンチル、p-ジエチルアミノ安息香酸エチル、p-ジエチルアミノ安息香酸プロピル、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジ(β-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン等が挙げられる。 【0029】 本発明において、上述した芳香族アミン化合物の含有量は、少なすぎると十分な重合活性の向上効果が得られず、多すぎると着色が濃くなる虞があるため、通常、成分(B)の可視光重合開始剤100質量部当り、10?1000質量部、特に50?500質量部の範囲であるのが好ましい。また、(A)ラジカル重合性単量体100質量部当りで示せば、0.01?10質量部、特に0.02?5質量部の範囲で使用するのがより好ましい。 【0030】 脂肪族アミン化合物としては、公知のものが制限なく使用でき、第1級アミン、第2級アミン及び第3級アミンの何れであっても良い。歯科用として用いた場合に臭気等の問題が少ないため、一般に第3級アミン化合物が用いられる。なお、当該脂肪族アミン化合物とは、窒素原子に結合している有機基が、すべて脂肪族基(但し、置換基を有していても良い)である化合物である。 【0031】 このような窒素原子に結合している脂肪族基を具体的に例示すると、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基等の直鎖状または分枝状の炭素数1?6のアルキル基;エテニル基(ビニル基)、アリル基などのアルケニル基が挙げられる。また、脂肪族基に結合している置換基としては、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシブチル基、2,3-ジヒドロキシプロピル基等の水酸基;エテニル基(ビニル基)、1-プロペニル基、エチニル基等の不飽和脂肪族基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;アセチルオキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基などのアシルオキシ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;アルコキシル基;カルボニル基、カルボニルオキシ基又はシアノ基等が挙げられる。 【0032】 本発明で好適に使用される脂肪族アミン化合物を具体的に例示すると、2-エチルヘキシルアミン、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン等の脂肪族第1級アミン化合物;ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジアリルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン、ジ-n-オクチルアミン等の脂肪族第2級アミン化合物;トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリアリルアミン、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-プロピルジエタノールアミン、N-エチルジアリルアミン、N-エチルジベンジルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジプロピルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリ(イソプロパノール)アミン、トリ(2-ヒドロキシブチル)アミン、トリベンジルアミン等の第3級アミン化合物であり、さらに好ましくは、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-プロピルジエタノールアミン、N-エチルジアリルアミン、N-エチルジベンジルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンが挙げられる。 【0033】 これら脂肪族アミン化合物は、1種または2種以上を混合して用いても構わない。また、その一般的な配合量は、(A)ラジカル重合性単量体100重量部に対して0.005?5重量部であり、より好ましくは0.01?3重量部である。 【0034】 また、前記の可視光重合開始剤の活性をより高めるために、光酸発生剤を加えるのも好ましい態様である。光酸発生剤としては、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、およびハロメチル置換-S-トリアジン有導体、ピリジニウム塩系化合物等が挙げられる。光酸発生剤を用いる場合、可視光重合開始剤としてはカンファーキノン等のα-ジケトン類が好ましく、4-ジメチルアミノ安息香酸等の還元性化合物を併用することがさらに好ましい。 〔(C)フタル酸エステル系蛍光剤〕 本発明の歯科用光重合性組成物に配合させるフタル酸エステル系蛍光剤としては、公知のものが何ら制限なく使用できる。特に好ましいフタル酸エステル系蛍光剤を一般式で示すと下記一般式(1)で表される。 【0035】 【化2】 【0036】 (式中、R^(1)及びR^(2)は各々独立に、アルキル基であり、R^(3)は水素原子、アミノ基、又は水酸基であり、R^(4)はアミノ基、又は水酸基である。) 上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基等の炭素数1?3のものが好ましく、特に、炭素数1?2のものがより好ましい。 【0037】 具体的なフタル酸エステル系蛍光剤を例示すると、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジメチル、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル、ジメチルアミノテレフタレート、ジエチルアミノテレフタレートなどが挙げられ、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチルなどの水酸基で置換されたフタル酸エステル系蛍光剤がより好ましい。これらフタル酸エステル系蛍光剤は単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。 【0038】 また、可視光重合開始剤としてα-ジケトンを用いた場合は、表面未重合を低減させる観点から、フタル酸エステル系蛍光剤として2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチルを用いることが好ましい。この理由は、おそらくα-ジケトンの吸収波長と2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチルの蛍光波長との重なり部分が多く、α-ジケトンが活性化され易いためと考えられる。 【0039】 フタル酸エステル系蛍光剤の(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対する配合量は、特に制限されるものではないが、蛍光性の確保のため一定量必要であり、逆に配合量が多すぎると、一定の太陽光安定性が確保しにくくなる傾向がある。太陽光安定性と蛍光性の良好なバランスのためには、0.005?0.5質量部であることが好適であり、0.01?0.1質量部であることがより好適である。 〔(D)ベンゾトリアゾール化合物〕 本発明における最大の特徴は、上記(A)ラジカル重合性単量体、(B)可視光重合開始剤、(C)フタル酸エステル系蛍光剤を含む系において、紫外線吸収剤として、(D)ベンゾトリアゾール化合物を用いることにある。 【0040】 ベンゾトリアゾール化合物以外の紫外線吸収剤、例えば、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系、ヒンダードアミン系などの紫外線吸収剤が知られているが、これらは、重合性単量体に溶解し難く、あるいは溶解しても(C)フタル酸エステル系蛍光剤を含む系においては、充分な変色(着色)防止効果を得ることが困難である。 【0041】 該ベンゾトリアゾール化合物は、一般に紫外線吸収剤として知られており、太陽光などの紫外線により歯科用修復材料の硬化体が変色するのを防止するために用いられている。当該ベンゾトリアゾール化合物は、トリアゾール構造の窒素原子に結合した芳香環の2位の位置にヒドロキシル基が結合していればよく、公知のものが特に制限なく使用できる。 【0042】 代表的なベンゾトリアゾール化合物としては下記一般式(2)で表されるものが挙げられる。 【0043】 【化3】 【0044】 (式中、R^(5)は水素原子又はアルキル基、R^(6)はアルキル基であり、R^(7)はアルキル基又はハロゲン原子であり、mは0?4の整数である。) 上記R^(5)、R^(6)及びR^(7)におけるアルキル基としては置換基を有しているものでもよく、このようなアルキル基を具体的に例示すると、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、アミル基、オクチル基等の非置換のアルキル基;クロロメチル基、2-クロロエチル基等のハロゲンにより置換されたアルキル基;ジメチルベンジル基等のアリール基により置換されたアルキル基;2-ヒドロキシエチル基等の水酸基により置換されたアルキル基等の炭素数1?12のものが挙げられる。 【0045】 R^(7)におけるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、ヨウ素、臭素が挙げられる。 【0046】 上記R^(5)及びR^(6)としては、炭素数1?12のアルキル基であることが好ましく、炭素数1?8の非置換のアルキル基がより好ましい。このようなアルキル基を再度具体的に例示すると、メチル基、エチル基、n-プロピル基、t-ブチル基等が挙げられる。 【0047】 mは0?4の整数であり、即ちベンゾトリアゾール環のベンゼン環にはR^(7)が0?4個結合する。mは0又は1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。該mが0以外の場合には、R^(7)としては、ハロゲン原子であることが好ましく、塩素原子であることがより好ましい。 【0048】 以下、ベンゾトリアゾール化合物を具体的に例示すると、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-エチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-プロピルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-ペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-ヘプチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ヘプチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-di-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-di-tert-ペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-di-tert-ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-di-tert-ヘプチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-di-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ペンチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ヘキシル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ヘプチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-オクチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-エチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-プロピルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-エチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ペンチル-2-ヒドロキシ-5-エチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ヘキシル-2-ヒドロキシ-5-エチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ヘプチル-2-ヒドロキシ-5-エチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-オクチル-2-ヒドロキシ-5-エチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-プロピルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ペンチル-2-ヒドロキシ-5-プロピルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ヘキシル-2-ヒドロキシ-5-プロピルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ヘプチル-2-ヒドロキシ-5-プロピルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-オクチル-2-ヒドロキシ-5-プロピルフェニル)ベンゾトリアゾール等が挙げられる。 【0049】 これらベンゾトリアゾール化合物は、1種または2種以上を混合して用いても構わない。該ベンゾトリアゾール化合物の配合量は本発明の効果を得られる範囲であれば特に限定されることはないが、多すぎると硬化体の強度や色調に影響を与える場合があるので、一般的には(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対して0.01?10質量部であり、より好ましくは0.02?5質量部である。 【0050】 前述したように、本発明における最大の特徴は、上記(A)ラジカル重合性単量体、(B)可視光重合開始剤、(C)フタル酸エステル系蛍光剤を含む系において、紫外線吸収剤として、(D)ベンゾトリアゾール化合物を用いることにあり、太陽光安定性と蛍光性とをバランス良く発現させることにある。蛍光性と太陽光安定性をより高度に両立させる観点から、(C)フタル酸エステル系蛍光剤と(D)ベンゾトリアゾール化合物の配合割合は、(C)フタル酸エステル系蛍光剤が1質量部に対して、(D)ベンゾトリアゾール化合物が1?50質量部であることが好ましく、(C)フタル酸エステル系蛍光剤が1質量部に対して、(D)ベンゾトリアゾール化合物が2?30質量部であることがより好ましく、(C)フタル酸エステル系蛍光剤が1質量部に対して、(D)ベンゾトリアゾール化合物が3?20質量部であることが特に好ましい。 【0051】 蛍光性と太陽光安定性をより高度に両立させ、さらに表面未重合量を少なくする観点においては、上述した(C)フタル酸エステル系蛍光剤と(D)ベンゾトリアゾール化合物の配合割合に加え、(D)ベンゾトリアゾール化合物の配合割合が(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対して0.01?3質量部であることが好ましく、0.1?2質量部以下であることがより好ましく、0.2?1質量部以下であることが特に好ましい。 【0052】 本発明の歯科用光重合性組成物には、上記各成分のほか、歯科用光重合性組成物の配合成分として公知の他の配合成分を配合してもよい。 【0053】 本発明の歯科用光重合性組成物には、高い機械的強度が得られ、重合収縮や熱膨張を低減できる点で充填材(フィラー)、好ましくは無機充填材又は有機-無機充填材、特に無機充填材を配合することが好ましい。 【0054】 該無機充填材としては、歯科用修復材料の充填材として公知の無機充填材が何ら制限なく用いられるが、代表的な無機充填材を例示すれば、石英、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ランタノイド、シリカチタニア、シリカジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等が挙げられる。また必要に応じて、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等の歯科用の無機充填材として公知のカチオン溶出性の無機充填材を配合しても良い。これらは一種または二種以上を混合して用いても何ら差し支えない。 【0055】 また、これら無機充填材に重合性単量体を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕して得られる粒状の有機-無機複合充填材を用いても良い。 【0056】 これら充填材の粒径は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている0.01μm?100μm(特に好ましくは0.01?5μm)の平均粒径の充填材が目的に応じて適宜使用できる。また、該充填材の屈折率も特に制限されず、一般的な歯科用の無機充填材が有する1.4?1.7の範囲のものが制限なく使用でき、目的に合わせて適宜設定すればよい。粒径範囲や平均粒径、屈折率、材質の異なる複数の無機充填材を併用しても良い。 【0057】 さらに、上記フィラーの中でもとりわけ球状の無機充填材を用いると、得られる硬化体の表面滑沢性が増し、優れた歯科用修復材料となり得る。 【0058】 上記無機充填材は、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理することが、ラジカル重合性単量体とのなじみを良くし、機械的強度や耐水性を向上させる上で望ましい。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。 【0059】 これらの充填材の割合は、使用目的に応じて、ラジカル重合性単量体と混合したときの粘度(操作性)や硬化体の機械的物性を考慮して適宜決定すればよいが、一般的にはラジカル重合性単量体100質量部に対して50?1500質量部、好ましくは70?1000質量部の範囲で用いられる。 【0060】 また、歯牙の色調に合わせるために顔料、染料を添加してもよいし、その他、歯科用修復材料の成分として公知の添加剤を、本発明の効果に影響のない範囲で配合しても良い。 【0061】 さらにまた、本発明の歯科用光重合性組成物には本発明の効果を損なわない範囲で、他の公知の重合開始剤を配合しても良い。当該他の重合開始剤成分としては、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類;酸化バナジウム(IV)アセチルアセトナート、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)等の+IV価又は+V価のバナジウム化合物類;テトラフェニルホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩、テトラフェニルホウ素ジメチル-p-トルイジン塩、テトラキス(p-フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム、ブチルトリ(p-フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム等のアリールボレート化合物類;3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノ)クマリン、7-ヒドロキシ-4-メチル-クマリン等のクマリン系色素類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類;2,4-ジエトキシチオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体;ベンゾフェノン、p,p’-ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p’-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体類等が挙げられる。但し、高い環境光安定性を得るためには、アリールボレート化合物類及び有機過酸化物はできる限り少量にした方が良い。また、クマリン系色素類等の色素類は、重合開始剤として作用するほどの量を配合すると、歯科用光重合性組成物の色調に大きな影響を与え、高い審美性を要求される歯科用修復材料においては、歯と異なる色調となってしまう傾向がある。 【0062】 本発明の可視光重合型の歯科用光重合性組成物を製造する方法は特に限定されず、公知の可視光重合型組成物の製造方法に従えばよい。一般的には、遮光下、配合する各成分を所定量秤とり、均一になるまで混練し、必要に応じて混練時に混入した気泡の脱泡を行えばよい。得られた組成物のペーストは、遮光容器に小分けされその状態で、歯科医院や歯科技工所へ供給される。 【実施例】 【0063】 以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で用いた化合物の略称(かっこ内)を以下に示す。 (1)略称・略号 (A)ラジカル重合性単量体 ・2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン(bis-GMA) ・トリエチレングリコールジメタクリレート(3G) (B)可視光重合開始剤 ・カンファーキノン(CQ)・・極大吸収波長460?480nm (C)蛍光剤 〔フタル酸エステル系蛍光剤〕 ・2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル(DHTP) ・・極大蛍光波長433?453nm (光源:最大吸収波長が360?380nm) ・ジメチルアミノテレフタレート(DATP) ・・極大蛍光波長430?450nm (光源:最大吸収波長が360?380nm) 〔その他の蛍光剤〕 ・2,5ビス(5’-tert-ブチルベンゾオキサゾリル)チオフェン(BOTh) ・・極大蛍光波長405?425、428?448nm (光源:最大吸収波長が360?380nm) 【0064】 (D)紫外線吸収剤 〔ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤〕 ・2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(BT1) ・2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(BT2) 〔その他の紫外線吸収剤〕 ・2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン(BP) (E)その他の成分 ・N,N-ジメチルp-安息香酸エチル(DMBE) ・ハイドロキノンモノメチルエーテル(HQME) (F)無機充填材 ・球状シリカ-ジルコニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.5μm(E-1) ・球状シリカ-チタニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.08μm(E-2) また、歯科用修復材料の調製方法、及び硬化体の物性測定は以下の方法を用いた。 【0065】 (1)歯科用修復材料の調製方法 所定の量比で重合性単量体を混合しておき、赤色光下で、これに対して所定量の可視光重合開始剤及び充填材を加え、均一のペースト状になるまでメノウ製乳鉢中でよく混合、攪拌した。さらにこれを真空脱泡して所定の組成を有する歯科用コンポジットレジンのペーストを得た。 【0066】 (2)蛍光性の評価 7mmφ×3.0mmの孔を有するテフロン(登録商標)製のモールドにペーストを充填してポリプロピレンフィルムで圧接し、歯科用光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマデンタル社;光出力密度600mW/cm^(2)、照射波長400?525nm)をポリプロピレンフィルムに密着して30秒照射し、硬化体を調製した。得られた硬化体を紫外光照射器(MINERALIGHT LAMP、フナコシ薬品社;最大吸収波長366nm)を用いて、その蛍光の発光状態を観察した。特に優れた蛍光が確認できたものを◎、良好な蛍光が確認できたものを○、蛍光は確認できたが十分でなかったものを△、蛍光が確認できなかったものを×で評価した。 【0067】 (3)色調変化(太陽光安定性) 直径15mmの貫通孔を開けた厚さ1mmのポリアセタール製型に歯科用修復材料のペーストを填入し、ポリプロピレンフィルムで圧接して、歯科用光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマデンタル社製;光出力密度700mW/cm^(2)、照射波長400?525nm)で本発明の歯科用修復材料全体に光があたるように5箇所を各10秒づつ光照射した。試験片の半分をアルミ箔で覆い、直射日光に延べ10時間曝露した。アルミ箔で覆った部分(未露光部)と直射日光に曝露した部分(露光部)の色調を、色差計(東京電色社製:TC-1800MKII)を用いて測定し、その差をΔE^(*)で表した。 【0068】 ΔE^(*)={(ΔL^(*))^(2)+(Δa^(*))^(2)+(Δb^(*))^(2)}^(1/2) ΔL^(*)=L1^(*)-L2^(*) Δa^(*)=a1^(*)-a2^(*) Δb^(*)=b1^(*)-b2^(*) なお、L1^(*):未露光部の明度指数、a1^(*),b1^(*):未露光部の色質指数、L2^(*):露光部の明度指数、a2^(*),b2^(*):露光部の色質指数、ΔE^(*):色調変化量である。 【0069】 (4)表面未重合量 直径7mmの貫通孔を開けた厚さ1.5mmのポリアセタール製型に歯科用修復材料のペーストを填入し、上面を空気に暴露した状態で、トクソーパワーライトで10秒間光照射した。照射完了後、硬化体を型から取りだしその重量を秤量した。その後、硬化体をエタノールに浸漬して3分間超音波洗浄を行い、乾燥後、再び秤量を行って単位面積あたりの重量減少量を表面未重合量(μg/mm^(3))とした。 【0070】 実施例1?4、7?10、比較例1?5、参考例1 bis-GMA(60質量部)、3G(40質量部)からなる重合性単量体100質量部に対して、無機充填材E-1を147質量部、E-2を63質量部、重合禁止剤としてHQMEを0.15質量部、及び可視光重合開始剤としてCQを0.3質量部、DMBEを1.0質量部、さらに紫外線吸収剤、蛍光剤を表1に示す通り所定量を配合して歯科用修復材料のペーストを調製した。 【0071】 得られた歯科用修復材料の各種物性を測定した結果を表1に併せて示す。 【0072】 【表1】 【0073】 上記表1から理解されるように、紫外線吸収剤の配合量を増やすほど太陽光安定性は向上する(色調変化量は少なくなる)。一方で蛍光剤の配合量を増やすほど太陽光安定性が低下する。 【0074】 ベンゾトリアゾール化合物を使用した組成においては、良好な蛍光性と太陽光安定性を示すことが分かる。 【0075】 また、紫外線吸収剤の配合量を増やすと、同時に表面未重合量が増加してしまうが、例えば実施例9と比較例4から分かるように、(C)フタル酸エステル系蛍光剤と(D)ベンゾトリアゾール化合物を用いることにより、それぞれより少ない配合量で良好な太陽光安定性と良好な蛍光性がバランス良く得られるために、表面未重合量の増大は、ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤を採用した場合に比べて遥かに少ない(実施例9と比較例4の太陽光安定性は同程度であるが、比較例は蛍光性が低く、さらに表面未重合量が多い)。 【0076】 なお、参考例1で確認された蛍光は歯牙とは異なる蛍光を発し、実施例で用いたものと比較して、相対的に審美性に劣るものであり、また、表面未重合量も多かった。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)ラジカル重合性単量体、 (B)可視光重合開始剤、 (C)フタル酸エステル系蛍光剤、および (D)ベンゾトリアゾール化合物 を含有し、 (A)ラジカル重合性単量体100質量部当たり、 (B)可視光重合開始剤0.01?10質量部、 (C)フタル酸エステル系蛍光剤0.01?0.1質量部、および (D)ベンゾトリアゾール化合物0.01?10質量部 を含有し、(D)ベンゾトリアゾール化合物の配合割合が、(C)フタル酸エステル系蛍光剤1質量部に対して3?20質量部であって、 (D)ベンゾトリアゾール化合物が下記一般式(2)で表される化合物である歯科用光重合性組成物(カチオン重合性単量体、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドを含むものを除く)。 【化3】 (式中、R^(5)は水素原子又はアルキル基、R^(6)はアルキル基であり、R^(7)はアルキル基又はハロゲン原子であり、mは0?4の整数である。) 【請求項2】 (C)フタル酸エステル系蛍光剤が下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1記載の歯科用光重合性組成物。 【化1】 (式中、R^(1)及びR^(2)は各々独立に、アルキル基であり、R^(3)は水素原子、アミノ基、又は水酸基であり、R^(4)はアミノ基、又は水酸基である。) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 請求項1又は2に記載の歯科用光重合性組成物からなる歯科用修復材料。 【請求項6】 (削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-09-01 |
出願番号 | 特願2012-151979(P2012-151979) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K) P 1 651・ 537- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鶴見 秀紀 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
関 美祝 小川 慶子 |
登録日 | 2016-07-15 |
登録番号 | 特許第5968128号(P5968128) |
権利者 | 株式会社トクヤマデンタル |
発明の名称 | 歯科用光重合性組成物 |