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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B60C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60C
管理番号 1333267
異議申立番号 異議2017-700611  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-15 
確定日 2017-10-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6050568号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6050568号の請求項1ないし17に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6050568号の請求項1ないし17に係る特許についての出願は、平成23年6月20日に特許出願され、平成28年12月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 佐藤雅彦(以下「申立人」という)により特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件特許発明
特許第6050568号の請求項1ないし17の特許に係る発明(以下「本件特許発明1ないし17」という。また、まとめて「本件特許発明」という場合もある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
1対のビード部間にトロイダル状に跨る少なくとも1層のカーカスを骨格として、該カーカスのクラウン部の径方向外側に少なくとも1層のベルト層とトレッドを配置した空気入りタイヤであって、
該タイヤを適用リムに装着した状態のタイヤ幅方向断面において、
トレッド接地幅TWの90%以上の幅を持つベルト層のなかで径方向最内側にあるベルト層である最内側層の幅BWに対する、当該最内側層の幅方向中心部と幅方向端部との径差BDの比BD/BWが0.01以上0.04以下であり、
トレッド接地幅TWに対する、トレッド踏面の幅方向中心部とトレッド端部との径差TDの比をTD/TWとした場合、BD/BW<TD/TWである、
ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
トレッド中央部におけるトレッドゲージTGcに対する、トレッド端部におけるトレッドゲージTGhの比TGh/TGcが0.5以上0.9以下であり、
トレッド中央部におけるトレッドゲージTGcに対する、前記最内側層の幅方向端部におけるトレッドゲージTGeの比TGe/TGcが0.2以上0.6以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記カーカスの径方向最外側とビードトゥとの間のタイヤ径方向の距離CSHに対する、前記カーカスの最大幅位置にタイヤの回転軸と平行に引いた線分とビードトゥにタイヤの回転軸と平行に引いた線分との最短距離CSWhの比CSWh/CSHが0.6以上0.9以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記タイヤの断面高さSHに対する、タイヤの最大幅位置にタイヤの回転軸と平行に引いた線分とビードトゥにタイヤの回転軸と平行に引いた線分との最短距離SWhの比SWh/SHが0.5以上0.8以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記カーカスの最大幅CSWに対する、前記最内側層の幅BWの比BW/CSWが0.8以上0.94以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記カーカスにおける、前記最内側層の幅方向中心部に対応する位置からビードコア直下までの経路長CSPに対する、前記最内側層の幅方向端部に対応する位置から前記カーカスの最大幅位置までの経路長CSLの比CSL/CSPが0.1以上0.25以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
少なくとも1層のカーカスプライの折り返し部の先端と、ビードトゥにタイヤの回転軸と平行に引いた線分との最短距離CSEhが、前記最短距離SWhよりも大きいことを特徴とする請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記最内側層の幅方向端部におけるトレッドゲージTGeと、トレッド端部におけるトレッドゲージTGhとが、TGe≦TGhの関係を満たす、請求項1?7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記比CSWh/CSHが0.65以上0.8以下である、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記SWh/SHが0.6以上0.75以下である、請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記BW/CSWが0.84以上0.93以下である、請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記トレッド接地幅TWと、前記BWとが、TW≦BWの関係を満たす、請求項1?11のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
前記トレッド接地幅TWと、前記BWとが、1.1≦BW/TW≦1.6の関係を満たす、請求項12に記載の空気入りタイヤ。
【請求項14】
前記CSL/CSPが0.12以上0.18以下である、請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項15】
少なくとも1層のカーカスプライの折り返し部の先端と、ビードトゥにタイヤの回転軸と平行に引いた線分との最短距離CSEhと、前記最短距離SWhとが、CSEh/SWhが1.0の関係を満たす、請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項16】
前記CSEhと前記SWhとの比CSEh/SWhが、1.02以上2.0以下である、請求項7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項17】
前記CSEh/SWhが、1.02以上1.24以下である請求項16に記載の空気入りタイヤ。」

第3.申立理由の概要
【申立理由1】特許法29条第1項3号について(同法第113条第2号)
本件特許発明1、3-6、9-12、14は、甲第1号証に記載された発明である。

【申立理由2】特許法29条第2項について(同法第113条第2号)
・本件特許発明1、3-6、9-12、14は、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に想到することができる。
・本件特許発明2、8は、甲第1、2、4号証に記載された発明から当業者が容易に想到することができる。
・本件特許発明7、15-17は、甲第1、3号証に記載された発明から当業者が容易に想到することができる。
・本件特許発明13は、甲第1、2号証に記載された発明から当業者が容易に想到することができる。

【申立理由3】特許法第36条第6項第1号について(同法第113条第4号)
本件特許発明15は、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、本件特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

〈申立人が提出した証拠〉
甲第1号証:特開2009-166819号公報
甲第2号証:特開2003-146015号公報
甲第3号証:特開2011-84152号公報
甲第4号証:特開2009-262808号公報

第4.甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
1.甲第1号証の記載事項
甲第1号証には以下の事項が図面とともに記載されている。(下線は当審で付与。以下同様。)

ア.「【請求項1】
一対のビード部間にトロイダル状に跨るカーカスを骨格として、該カーカスのクラウン部の径方向外側に、タイヤの赤道面に対して傾斜した向きに延びるコードの多数本をゴムで被覆した、少なくとも2層の傾斜ベルト層とを順に配置して成るベルトを有し、該ベルトの径方向外側にトレッドを配置した空気入りタイヤであって、
該タイヤを適用リムに装着した状態のタイヤ幅方向断面において、前記傾斜ベルト層の最外側層の幅BWに対する、当該最外側層の幅方向中心部と幅方向端部との径差BDの比BD/BWが0.01以上0.04以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。」

イ.「【請求項9】
前記傾斜ベルト層の最外側層の半幅HBWに対する、前記トレッドの幅方向中心部と幅方向端部との径差TDの比TD/HBWが、0.06以上0.145以下であることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の空気入りタイヤ。」

ウ.「【0005】
そこで、本発明の目的は、耐摩耗性能に優れかつ転がり抵抗の少ないタイヤを提供するための、タイヤ形状の詳細について提案することにある。
さらに、本発明では、タイヤの基本的性能である、耐久性能およびウェット性能にも着目し、特に乗用車用タイヤにおいて希求される、優れた高速耐久性能およびウェット性能を、上記した耐摩耗性能及び転がり抵抗の改善に併せて実現することを目的とする。」

エ.「【0008】
ここで、前記タイヤを適用リムに装着した状態とは、日本自動車タイヤ協会規格(JATMA)に規定の標準リムまたはその他の適用リムに組み込んだ状態にて、内圧を付加せずに若しくは、30kPa程度までの極低内圧を付加した状態を意味する。
【0009】
また、傾斜ベルト層の最外側層とは、接地時に略接地域に対応した幅を持った、複数層の角度が異なった傾斜ベルト層のうち径方向外側のものをいう。接地域とは規定リム、規定内圧、規定荷重の80%荷重をかけたときに路面に接する範囲のことをいう。」

オ.「【0023】
以下、図面を参照して、本発明を具体的に説明する。
図1に、本発明に従うタイヤについて、その幅方向断面を示す。同図において、符号1は一対のビードコアであり、これらビードコア1間にトロイダル状に跨る、コードのラジアル配列プライからなるカーカス2を骨格として、該カーカス2のクラウン部の径方向外側に、タイヤの赤道面CLに対して傾斜した向きに延びるコードの多数本をゴムで被覆した、少なくとも2層、図示例で2層の傾斜ベルト層3aおよび3bを配置し、さらに傾斜ベルト層3aの径方向外側に、タイヤの赤道面CLに沿って延びるコードの多数本をゴムで被覆した、少なくとも1層、図示例で1層の周方向ベルト層4を配置し、これらベルトの径方向外側にトレッド5を配置してなる。」

カ.「【0025】
この規定は、傾斜ベルト層3について、その幅方向における径差が少ないことを意味する。つまり、ベルトがフラットに近い状態であることを示す。すなわち、転がり抵抗は、前述したように、タイヤトレッド部のゴム中で発生するエネルギーロスが支配的であり、その変形の一つである幅方向断面内のせん断変形を抑えることが、転がり抵抗の低減に有効である。このせん断変形が起こる原因は、接地時に湾曲したベルトが平らに伸ばされる変形である。さらに、通常のラジアルタイヤでは、タイヤセンター対比ショルダーの半径が小さく径差を持っているため、ショルダー付近のベルトはタイヤ周方向に伸ばされる。すると、コードが交差して配置された傾斜ベルト層はパンタグラフ状に変形して周方向に伸びる結果として幅方向に縮むことになるため、上記せん断変形を助長することになる。この変形を、タイヤの形状面から最も簡便に抑制するには、ベルトをなるべく平坦にする必要がある。しかしながら、実際のタイヤ設計では、サイド部の変形に伴った変形成分や、偏摩耗を起こさないための接地形状並びに接地圧分布を考慮しなければいけないことから、完全に平坦にすることなく適正な範囲に設定することが肝要である。この適正な範囲について鋭意究明したところ、上記した比BD/BWが0.01以上0.04以下であることが判明した。
特に、トレッドの形状から上記のせん断変形を抑制する改良を行った場合、接地面内のせん断力やすべり分布も縮小される方向に変化するため、耐摩耗性能を同時に改良することができることも解明するに到った。」

キ.「【0038】
さらに、図1に示すように、前記カーカスの最大幅CSWに対する、前記傾斜ベルト層の最外側層3aの幅BWの比BW/CSWが0.8以上0.94以下であることが好ましい。さらに望ましくは、0.84以上0.93以下である。
すなわち、本発明のタイヤではクラウン部が平坦な形状になる。このとき、当然ながら接地形状も幅方向に広がる傾向となり、それに見合った補強層の構成が必要になる。特に、偏摩耗を防ぐ意味合いから、接地幅は複数の補強層が存在する幅以下であることが望ましい。このため、本発明に従うタイヤ形状を採用した場合のベルト幅は通常よりも広く設定する必要があり、その幅は上記に規定に従うとよいことが分かった。一方、上記断面内のせん断変形に関して述べたとおり、接地面外に余分なベルトがあればそれは転がり抵抗に対して悪化方向に作用する。このため、偏摩耗のために規制する下限値と、転がり抵抗のために規制する上限値の両方が大切である。」

ク.「【0041】
図1に示すように、前記傾斜ベルト層の最外側層3aの半幅HBWに対する、トレッド5の幅方向中心部(タイヤ赤道面CL)と幅方向端部との径差TDの比TD/HBWが、0.06以上0.11以下であることが好ましい。さらに望ましくは、0.075以上0.095以下である。
これは、傾斜ベルト層直上のトレッド表面位置についての規定である。前述のせん断変形のためにベルトを平坦にしたのは既述のとおりであるが、このとき同時にトレッド外表面も適切な位置に設定することが好ましい。トレッド表面にクラウン形状(図2参照)を残すように、ゴム厚さを分布させると、接地時の径差に起因した偏摩耗が発生するばかりか、ゴムの薄い部分が完全に摩耗することによって摩耗ライフが短くなる。そのため。ベルトと同様にトレッド落ち高である比TD/HBWも明確に規定することが好ましく、所定の範囲とするとよい。」

2.甲第1号証に記載された発明
上記1.の各記載事項から、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものといえる。
「一対のビード部間にトロイダル状に跨るカーカスを骨格として、該カーカスのクラウン部の径方向外側に、タイヤの赤道面に対して傾斜した向きに延びるコードの多数本をゴムで被覆した、少なくとも2層の傾斜ベルト層とを順に配置して成るベルトを有し、該ベルトの径方向外側にトレッドを配置した空気入りタイヤであって、
該タイヤを適用リムに装着した状態のタイヤ幅方向断面において、前記傾斜ベルト層の最外側層の幅BWに対する、当該最外側層の幅方向中心部と幅方向端部との径差BDの比BD/BWが0.01以上0.04以下であり、
前記傾斜ベルト層の最外側層の半幅HBWに対する、前記トレッドの幅方向中心部と幅方向端部との径差TDの比TD/HBWが、0.06以上0.145以下である空気入りタイヤ。」

第5.当審の判断
1.【申立理由1】及び【申立理由2】について
ア.対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
後者の「カーカス」は前者の「少なくとも1層のカーカス」に相当し、後者の「タイヤの赤道面に対して傾斜した向きに延びるコードの多数本をゴムで被覆した、少なくとも2層の傾斜ベルト層とを順に配置して成るベルト」は前者の「少なくとも1層のベルト層」に相当し、後者の「該ベルトの径方向外側にトレッドを配置した」ことは前者の「トレッドを配置した」ことに相当する。

したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、
「1対のビード部間にトロイダル状に跨る少なくとも1層のカーカスを骨格として、該カーカスのクラウン部の径方向外側に少なくとも1層のベルト層とトレッドを配置した空気入りタイヤ」
の点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
本件特許発明1は、「該タイヤを適用リムに装着した状態のタイヤ幅方向断面において、トレッド接地幅TWの90%以上の幅を持つベルト層のなかで径方向最内側にあるベルト層である最内側層の幅BWに対する、当該最内側層の幅方向中心部と幅方向端部との径差BDの比BD/BWが0.01以上0.04以下であ」るところ、該比BD/BWは、「トレッド接地幅TWの90%以上の幅を持つベルト層のなかで径方向最内側にあるベルト」を対象とするものであり、かつ「トレッド接地幅TWに対する、トレッド踏面の幅方向中心部とトレッド端部との径差TDの比をTD/TWとした場合、BD/BW<TD/TWである」のに対し、
甲1発明は、「該タイヤを適用リムに装着した状態のタイヤ幅方向断面において、前記傾斜ベルト層の最外側層の幅BWに対する、当該最外側層の幅方向中心部と幅方向端部との径差BDの比BD/BWが0.01以上0.04以下である」ところ、該比BD/BWは、「前記傾斜ベルト層の最外側層」を対象とするものであり、かつ「前記傾斜ベルト層の最外側層の半幅HBWに対する、前記トレッドの幅方向中心部と幅方向端部との径差TDの比TD/HBWが、0.06以上0.145以下である」点。

イ.判断
イ-1.【申立理由1】について
本件特許発明1と甲1発明との間には、上記相違点が存在するから、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえない。
なお、申立人は特許異議申立書の(4)ウ(ア)において、「本件特許発明1では『少なくとも1層のベルト層』を必須要件としているため、ベルト層が1層である場合、『最内側層』は『最外側層』に相当する。」旨主張しているが、仮に本件特許発明1が1層とした場合、甲1発明は「少なくとも2層」であるので、この点が少なくとも相違点となるから、特許発明1は甲1発明であるとはいえない。

本件特許発明3-6、9-12、14は、本件特許発明1を減縮する発明であり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件特許発明3-6、9-12、14と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点で相違するから、本件特許発明3-6、9-12、14は、甲1発明であるとはいえない。

イ-2.【申立理由2】について
上記[相違点]について検討する。
甲1発明において、「比BD/BWが0.01以上0.04以下」になるのは、「少なくとも2層の傾斜ベルト層」のうち「最外側層」を対象とした場合であるから、該対象を「トレッド接地幅TWの90%以上の幅を持つベルト層のなかで径方向最内側にあるベルト層である最内側層」とした場合の比BD/BWは不明であり、その比が0.01以上0.04以下であるとはいえない。
最外側層、最内側層を問わず、ベルト層の比BD/BWが「0.01以上0.04以下」という意味においては一致するので、以下、上記相違点に係る本件特許発明1の「トレッド接地幅TWに対する、トレッド踏面の幅方向中心部とトレッド端部との径差TDの比をTD/TWとした場合、BD/BW<TD/TWである」点について検討を加える。
まず、甲第1号証には、比BD/BWと比TD/TWの大小関係を設定することは記載も示唆もされていない。
これに関し、申立人は、特許異議申立書の(4)ウ(ア)において、本件特許発明1の「トレッド接地幅TWに対する、トレッド踏面の幅方向中心部とトレッド端部との径差TDの比をTD/TWとした場合、BD/BW<TD/TWである」との構成を「構成C」とした上で、「上記構成Cについて、甲第1号証の請求項9には、『前記傾斜ベルト層の最外側層の半幅HBWに対する、前記トレッドの幅方向中心部と幅方向端部との径差TDの比TD/HBWが、0.06以上0.145以下である』ことが記載されている。上述のように『少なくとも2層の傾斜ベルト層』の幅はトレッド接地幅TWの100%となり得るので、HBWの2倍をトレッド接地幅TWと置き換えることができる。そのような置き換えを行ったとき、TD/TWは0.03以上0.07以下となる。してみると、『比BD/BWが0.01以上0.04以下』であることに鑑みて、BD/BW<TD/TWの関係を満足する。従って、甲第1号証は本件特許発明1の上記構成Cを実質的に開示している。」旨主張している。
しかしながら、「比TD/BW」が、「0.03以上0.07以下となる」としても、甲第1号証の記載事項キ.の「接地幅は複数の補強層が存在する幅以下であることが望ましい。」との記載によれば、TW(トレッド接地幅)がBW(傾斜ベルト層の最外側層の幅)より小さい場合もあり、その場合におけるTD(トレッドの幅方向中心部と幅方向端部との径差)の値は不明であるから、TD/TWの値も求められない。
仮に、TW=BWとして、比TD/TWは0.03以上0.07以下となるにしても、比BD/BW(0.01以上0.04以下)より大きい数値を上記数値範囲から選択しなくてはならないが、TDに関し、甲第1号証の記載事項ク.には「トレッド表面にクラウン形状(図2参照)を残すように、ゴム厚さを分布させると、接地時の径差に起因した偏摩耗が発生するばかりか、ゴムの薄い部分が完全に摩耗することによって摩耗ライフが短くなる。」と記載され、さらに図2(従来タイヤの幅方向断面を示す図)を参酌すると、図1(本発明に従うタイヤの幅方向断面を示す図)に示されたクラウン部の形状に比べてTDが大きいクラウン部の形状が示されているから、TDを大きくすると接地時の径差に起因した偏摩耗が発生する等の不具合が生じるという知見が示されていることになる。加えて、同記載事項ク.には「比TD/HBWが、」「さらに望ましくは、0.075以上0.095以下である。」と記載され、比TD/BWが約0.048以下とすることが望ましいとされているから、TD/TWを0.03以上0.07以下の数値範囲中で大きい値を採ることは、上記知見に反することとなる。また、このことは、同記載事項キ.の「本発明のタイヤではクラウン部が平坦な形状になる。」との記載からも裏付けられている。
以上のことから、甲1発明の「比TD/HBWが、0.06以上0.145以下」と「比BD/BWが0.01以上0.04以下」との事項から、BD/BW<TD/TWの関係を導き出すことには困難性があるので、申立人の上記主張は採用できない。
したがって、甲1発明において、上記相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたということはできない。
よって、本件特許発明1は、甲第1発明から当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

本件特許発明3-6、9-12、14は、本件特許発明1を減縮する発明であり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件特許発明3-6、9-12、14と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点で相違するから、本件特許発明3-6、9-12、14は、甲第1発明から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
同様に、本件特許発明2、7、8、13、15-17は、本件特許発明1を減縮する発明であり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、甲第2号証ないし甲第4号証には、上記相違点に係る本件特許発明1の「BD/BW<TD/TW」に関する事項は記載されていないから、
本件特許発明2、8は、甲第1、2、4号証に記載された発明から当業者が容易に想到することができたものとはいえず、
本件特許発明7、15-17は、甲第1、3号証に記載された発明から当業者が容易に想到することができたものとはいえず、
本件特許発明13は、甲第1、2号証に記載された発明から当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

2.【申立理由3】について
ア.【申立理由3】は、「本件特許発明15は、『CSEh/SWhが1.0の関係を満たす』ことを規定する。しかしながら、本件特許公報の発明の詳細な説明(特に、段落0038)には『CSEh/SWhは1.0より大きい』ことが記載されているものの、『CSEh/SWhが1.0の関係を満たす』ことは記載されていない。従って、本件特許発明15は、発明の詳細な説明に記載されたものとは言えない。」というものである。

イ.検討
本件特許発明の課題は、願書に添付した明細書の段落【0006】に記載されているように、転がり抵抗の低減、耐辺摩耗性能の向上、及び軽量化である。
同明細書の段落【0055】の【表2-2】を参酌すると、「発明例29」及び「発明例30」において「CSEh/SWh」が「0.94」及び「0.83」のときに、「転がり抵抗」、「摩耗」及び「重量」いずれにおいても「CSEh/SWh」が1.0より大きい他の発明例と比べて遜色のない所定の効果があるという結果が示されている。
そうすると、「CSEh/SWh」が1.0の場合でも、「転がり抵抗」、「摩耗」及び「重量」において所定の効果があることは、自明なことであり、記載されているのに等しいといえるから、本件特許発明15の、「CSEh/SWhが1.0の関係を満たす」との特定事項は、実質的に発明の詳細な説明に記載されている事項といえる。
よって、本件特許発明15は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしている。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし17に係る特許は、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項及び特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものとはいえないことから、特許法第113条第2号及び4号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-10-05 
出願番号 特願2011-136674(P2011-136674)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B60C)
P 1 651・ 537- Y (B60C)
P 1 651・ 113- Y (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 倉田 和博  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 島田 信一
一ノ瀬 覚
登録日 2016-12-02 
登録番号 特許第6050568号(P6050568)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 杉村 憲司  
代理人 冨田 和幸  
代理人 神 紘一郎  

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