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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
管理番号 1333274
異議申立番号 異議2017-700741  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-28 
確定日 2017-10-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6072898号発明「活性炭からヒ素およびアンチモン浸出の軽減」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6072898号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6072898号の請求項1?4に係る特許についての出願は、2013年4月24日(パリ条約による優先権主張 2012年4月25日 米国、2013年3月15日 米国)に国際出願され、平成29年1月13日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人野田澄子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6072898号の請求項1?4の特許に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、独立項である本件特許発明1は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
活性炭を製造する方法であって、
活性炭を酸中で洗浄する工程と、
リンス水のpHが約1.0?約3.0になるまで、前記活性炭を水中でリンスする工程と、
前記活性炭を乾燥させる工程と
を有する方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、次の甲第1号証?甲第4号証(以下「甲1」?「甲4」という。)を提出し、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから特許法第113条第2号の規定に該当し、特許法第36条第6項第1号に規定する要件及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものであると主張している。
甲1:特開2005-329328号公報
甲2:JIS K1474:2014 活性炭試験方法
甲3:特開平9-225454号公報
甲4:財団法人国際科学振興財団、「科学大辞典」、丸善株式会社、昭和60年3月5日発行、p.894

その具体的理由として、以下の理由を主張している。
1 申立理由1
本件特許発明1?4は、甲1の実施例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明である。

2 申立理由2
本件特許発明1及び4は、甲3の実施例(乾燥品)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明である。

3 申立理由3
本件特許発明1?4は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許された発明である。

4 申立理由4
本件特許発明1及び4は、甲3に記載された発明に基づいて、本件発明2及び3は、甲3に記載された発明、又は、甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許された発明である。

5 申立理由5
(1)本件特許発明1には「活性炭を製造する方法であって、・・・工程と、・・・工程と、・・・工程とを有する方法。」と記載されており、本件特許発明1では、活性炭の製造方法において、リンス水のpHが約1.0?3.0になるよう活性炭を水中でリンスする工程を一旦経ればよく、最終リンス工程におけるリンス水のpH値は規定されていないといえる。よって、本件特許発明1には、リンス水のpHが約1.0?約3.0にまで活性炭を水中でリンスした後、最終リンス水のpHが例えば6.58となる発明も包含されていると解される。
一方、本件特許明細書の実施例においては、最終リンス工程におけるリンス水のpHが約1.0?約3.0の場合に、所望の効果を奏する接触pH6.53?8.36の活性炭が得られることが示されているが、最終リンス水のpHが6.58である場合には、本件特許発明の効果を奏しないことが示されている(【0029】、表1)。そうすると、当業者は、上記工程を有していても、最終リンス工程におけるリンス水のpHが約1.0?約3.0とならない場合にまで、本件特許発明の効果を奏する活性炭を製造することができると推認できない。
したがって、本件特許発明1乃至4は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであり、サポート要件を満たしていない。
(2)甲1の実施例1では、活性炭を酸で中和(洗浄)し、水で洗浄し、乾燥させることにより、JIS K1474に準じて測定したpH値が6.6の活性炭が得られている。 したがって、甲1の実施例1では、本件特許発明の活性炭の製造方法と同様の工程を経て、所定範囲の接触pHを有する活性炭が製造されていると考えられる。もし、甲1の実施例1において、活性炭を塩酸で中和した後、水で洗浄した時の洗浄水のpHが約1.0?約3.0を満たさないのであれば、当業者は、本件特許発明1に記載の工程を経て所定範囲の接触pHを有する活性炭を製造できることを認識することはできない。
したがって、本件特許発明1乃至4は、サポート要件を満たしていない。

6 申立理由6
上記申立理由5と同様の理由から、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1乃至4について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

第4 甲号証の記載事項
1 甲1について
(1)甲1には、以下の事項が記載されている。なお、(2)の甲1発明の認定に関係する部分に当審において下線を付した。
(甲1ア)「【請求項7】
活性炭を酸により中和する工程、
前記中和された活性炭に保持された酸を除去する工程、
を含むことを特徴とする、水処理用活性炭の製造方法。
【請求項8】
酸の除去が、水洗浄、アルカリ洗浄、超音波洗浄、加熱洗浄および乾燥からなる群より選択される少なくとも1種により行われることを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。」

(甲1イ)「【実施例】
【0053】
<実施例1?4>
活性炭(「エバダイヤLG-20」:荏原製作所社製(酸による洗浄を行っていない活性炭))1kgを0.15N塩酸4Lで中和した後、水4Lにより洗浄した。活性炭をろ過後、その一部をJIS K1474によりpH測定したところ、pH=5.5であった。次に、ろ過した活性炭に、80℃の熱水4Lを加えて約20分間洗浄し、さらに活性炭をろ過することにより、本発明の水処理用活性炭を得た。
【0054】
得られた水処理用活性炭について、JIS K1474に従い、乾燥質量換算によりpHを測定したところ、pH=6.8であった。さらに、115℃で3時間乾燥した後、JIS K1474に準じてpHを測定したところ、pH=6.6であった(実施例1)。」

(2)甲1発明について
甲1には、上記摘記事項(下線部参照)から、以下の2つの発明が記載されていると認められる。
「活性炭を酸により中和する工程、前記中和された活性炭に保持された酸を除去する工程、
を含む、水処理用活性炭の製造方法であって、
活性炭1kgを0.15N塩酸4Lで中和した後、
酸の除去として、水4Lにより洗浄し、
活性炭をろ過し、その一部をJIS K1474によりpH測定したところ、pH=5.5である、
水処理用活性炭の製造方法。」(以下「甲1発明A」という。)

「活性炭を酸により中和する工程、前記中和された活性炭に保持された酸を除去する工程、
を含む、水処理用活性炭の製造方法であって、
活性炭1kgを0.15N塩酸4Lで中和した後、
酸の除去として、水4Lにより洗浄し、活性炭をろ過し、ろ過した活性炭に、80℃の熱水4Lを加えて約20分間洗浄し、さらに活性炭をろ過し、115℃で3時間乾燥し、
その乾燥した活性炭を、JIS K1474に準じてpHを測定したところ、pH=6.6である、
水処理用活性炭の製造方法。」(以下「甲1発明B」という。)

2 甲2について
甲2には、以下の事項が記載されている。
「7.11 pH
pHは,次による。
a)要旨 pHは,活性炭の水懸濁液のpHのことをいい,試料に水を加えて煮沸し,冷却した後,pH計で測定する。
b)装置 装置は,次による。
1)pH計 JIS Z 8802に規定する形式0?IIのいずれか。
c)操作 操作は,次のとおり行う。
1)試料を乾燥質量換算で,粉末試料の場合は1.0g,粒状試料の場合は3.0gをはかりとり,100?200mLのビーカー,トールビーカー又は三角フラスコに移し入れる。活性炭は,乾燥すると性状(pH,塩化物など)が変化することがあるため,あらかじめ7.9によって乾燥減量を求め,次の式(23)によって未乾燥試料の採取量を算出する。
S'=S×1/100-W×l00…………………………………(23)
ここに,S':未乾燥試料の採取量(g) S :試料の質量(乾燥質量換算)(g)
W:乾燥減量(質量分率%)
2)1)の試料に水100mLを加えて,静かに沸騰が続くように5分間加熱する。
3)室温まで冷却し,水を加えて100mLとし,よくかき混ぜ,pH計を用いて懸濁液のpHを測定する。pHの測定方法として,ろ紙を用いてろ過し、そのろ液のpHを測定する方法もあるが、その場合には,ろ過した方法であることを明記する。」

3 甲3について
(1)甲3には、以下の事項が記載されている。なお、(2)の甲3発明の認定に関係する部分に当審において下線を付した。
(甲3ア)「【請求項1】活性化ガス又は薬品により賦活された活性炭が、浄水処理時に所望のpHを呈するように予め酸処理され、脱酸処理されてなり、かつ活性炭の含水量が、活性炭に対して少なくとも20wt%である湿潤活性炭。」

(甲3イ)「【0009】脱酸処理は、酸処理を施した活性炭に対して10?100重量倍程度、好ましくは40?70重量倍程度、より好ましくは50重量倍程度の水を用いて、活性炭と水とを、酸処理の場合と同様に接触、混合させるか、あるいは流水に付すことをいう。この際の脱酸処理は、上記量の水を1?5回程度に分けて行ってもよく、処理温度及び接触時間は、上記と同様とすることができる。」

(甲3ウ)「【0013】
【実施例】
活性炭のpH調整方法
まず、表1に示したような種々の濃度の塩酸水溶液を調製する。これら塩酸溶液500mlを、市販の活性化ガス賦活粒状活性炭100gと十分に接触するように攪拌羽根を用いて攪拌した。攪拌(接触)後、60分程度では塩酸水溶液のpH値が安定したが、経時的な塩酸水溶液のpH値変化を測定するため、1?5時間後まで攪拌(接触)させ、1時間毎にそのpH値を測定した。その結果を表1に示す。なお、この際の処理温度は室温であった。
【0014】
【表1】(略)
【0015】
次いで、塩酸水溶液と接触させた活性炭100gを、50重量倍量の水道水、つまり1リットルの水中に入れ、攪拌羽根を用いて攪拌して水洗した。この水洗を5回繰り返し、各水洗後の水のpH値を測定した。なお、ここで使用した活性炭のpH値は、JIS K-1474-1991に基づいて測定した。これらの結果を表2に示す。
【0016】
【表2】

【0017】pHを調整した活性炭を用いた通水試験
通水試験は以下の条件で行った。
活性炭量 50 ml
通水量 300 ml/h
SV 6 l/h
通水カラム φ28mm×160mm
使用した活性炭は、上記で得られた種々の活性炭を含水量40wt%に調整した湿潤活性炭と、乾燥させて含水量5wt%とした活性炭(乾燥品)との2種類について行った。その結果をそれぞれ表3及び図1、表4及び図2に示す。」

(2)甲3発明について
ア 上記【表2】には、0.00?1.26mol/lの塩酸水溶液と接触させた後、水洗を5回繰り返した後の水のpH値が9.8?3.7となっていることが記載されている。

イ してみれば、甲3には、上記摘記事項(下線部参照)から、以下の発明が記載されていると認められる。
「予め酸処理され、脱酸処理されてなる活性炭の調整方法であって、
0.00?1.26mol/lの塩酸水溶液と攪拌羽根を用いて十分に接触するように攪拌した活性炭を、水道水の水中に入れ、攪拌羽根を用いて攪拌して水洗し、この水洗を5回繰り返した後の水のpH値が9.8?3.7であり、
水洗して得られた活性炭を乾燥させて含水量5wt%とした、
活性炭の調整方法。」(以下「甲3発明」という。)

4 甲4について
甲4には、以下の事項が記載されている。
「ちゅうわ 中和[neutralization] 酸と塩基が化学反応して中性になること。たとえば、塩酸と水酸化ナトリウムが反応し、水と塩化ナトリウムを生じることをいう。電気の分野では、正と負の電荷が等量になり、外部に電荷の影響がなくなることを中和したという。」

第5 申立理由についての判断
1 申立理由1について
(1)本件特許発明1について
ア 甲1発明Aの場合
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明Aとを対比する。
a 甲1発明Aの「活性炭1kgを0.15N塩酸4Lで」「中和する工程」は、本件特許発明1の「活性炭を酸中で洗浄する工程」に相当する。
b 甲1発明Aの「水4Lにより洗浄」して「酸を除去する工程」は、本件特許発明1の「活性炭を水中でリンスする工程」に相当する。
c そして、甲1発明Aの「水処理用活性炭の製造方法」は、本件特許発明1の「活性炭を製造する方法」に相当する。

d してみれば、本件特許発明1と甲1発明Aとは、
(一致点)
「活性炭を製造する方法であって、
活性炭を酸中で洗浄する工程と、
前記活性炭を水中でリンスする工程と、
を有する方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
リンスする工程が、本件特許発明1では「リンス水のpHが約1.0?約3.0になるまで」であるのに対し、甲1発明Aでは、洗浄後の水のpHが不明である点。

(相違点2)
本件特許発明1が「活性炭を乾燥させる工程」があるのに対し、甲1発明Aでは乾燥させる工程がない点。

(イ)相違点についての判断
a 相違点1について
相違点1について検討するにあたり、甲1発明Aにおいて、「JIS K1474によりpH測定したところ、pH=5.5」の「活性炭」となるまで「水4Lにより洗浄し」「酸の除去」をした後の水のpHについて推察する。
上記甲3の摘記(甲3ウ)には、酸処理し、水洗した後の活性炭のpH値をJIS K-1474-1991に基づいて測定した結果が表2に示されており、この「JIS K-1474-1991」は上記甲1発明Aの「JIS K1474」と同じpHの測定方法であるから、上記甲3の摘記(甲3ウ)の表2の結果は、甲1発明Aにおいて、「水4Lにより洗浄し」「酸の除去」をした後の水のpHについて推察する際に、参考となるものであるといえる。
この表2を参照するに、活性炭のpHが5.0となる水洗5回目の洗浄水のpHは3.8であり、活性炭のpHが5.6となる水洗5回目の洗浄水のpHは3.9となっている。この結果に鑑みるに、甲1発明Aにおいて「JIS K1474によりpH測定したところ、pH=5.5」の「活性炭」となるまで「水4Lにより洗浄し」「酸の除去」をした後の水のpHは、3.8?3.9程度のものであると推察される。加えて、表2において、前者(活性炭のpHが5.0)は、0.99mol/lの塩酸水溶液で酸処理したものであり、後者(活性炭のpHが5.6)は、0.74mol/lの塩酸水溶液で酸処理したものである一方、甲1発明Aにおいては「0.15N塩酸4L」すなわち0.15mol/lの塩酸水溶液であり、塩酸の濃度のかなり薄いものを用いていることを考慮すると、「水4Lにより洗浄し」「酸の除去」をした後の水のpHは3.8?3.9よりもさらに高くなるものとも推察される。
してみれば、甲1発明Aにおいて、「JIS K1474によりpH測定したところ、pH=5.5」の「活性炭」となるまで「水4Lにより洗浄し」「酸の除去」をした後の水のpHが「約1.0?約3.0」を満たすとはいえない。
よって、相違点1は実質的な相違点である。

b 相違点2について
次に、相違点2について検討するに、甲1発明Aは、摘記(甲1イ)の実施例において水4Lにより洗浄し、活性炭をろ過するまでの工程として認定したことから、乾燥させる工程は実質的な相違点となる。

c 小括
したがって、本件特許発明1は、上記相違点1及び2の点で、甲1発明Aとはいえない。

イ 甲1発明Bの場合
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明Bとを対比する。
a 甲1発明Bの「活性炭1kgを0.15N塩酸4Lで」「中和する工程」は、本件特許発明1の「活性炭を酸中で洗浄する工程」に相当する。
b 甲1発明Bの「水4Lにより洗浄」して「酸を除去する工程」と、本件特許発明1の「リンス水のpHが約1.0?約3.0になるまで、前記活性炭を水中でリンスする工程」とは、「活性炭を水中でリンスする工程」を有するという限りにおいて共通する。
c 甲1発明Bの「活性炭をろ過し、115℃で3時間乾燥」する工程は、本件特許発明1の「活性炭を乾燥させる工程」に相当する。
d そして、甲1発明Bの「水処理用活性炭の製造方法」は、本件特許発明1の「活性炭を製造する方法」に相当する。

e してみれば、本件特許発明1と甲1発明Bとは、
(一致点)
「活性炭を製造する方法であって、
活性炭を酸中で洗浄する工程と、
前記活性炭を水中でリンスする工程と、
活性炭を乾燥させる工程と
を有する方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本件特許発明1では、「リンス水のpHが約1.0?約3.0になるまで」活性炭を水中でリンスするのに対して、甲1発明Bでは、水4Lにより洗浄(すなわち本件特許発明1の「リンス工程」)した後に、活性炭をろ過し、ろ過した活性炭に、さらに「80℃の熱水4Lを加えて約20分間洗浄」する点で相違する。

(イ)相違点についての判断
本件特許発明1の「リンスする工程」について、本件特許明細書には、
「【0006】
他の実施形態は、活性炭を酸中で洗浄する工程と、リンス水のpHが約1.0?約3.0に到達するまで活性炭をリンスする工程と、を含む活性炭の製造方法に関連する。幾つかの実施形態において、前記方法はさらに、洗浄前に前記酸を、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、およびこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されないpH中和剤で部分的に中和する工程を含む。」
「【0017】
さらなる実施形態では、前記方法は中和後に活性炭を水でリンスすることを含み得る。リンスは、例えば、中和した活性炭上に浸漬、噴霧、又は水を流すことを含む、任意の手段によって行う。種々の実施形態ではリンス水が、約1.0?約3.0のpHを有するまで、リンスを行い得る。リンス水のpHは、水が活性炭と接触した後、及び幾つかの実施形態においては、中和された活性炭とイオン濃度平衡に到達した後、pHを測定することによって決定される。」と記載されており、実施例として、
「【実施例1】
【0027】
種々の石炭供給源から調製した活性炭試料を約1%?約3%塩酸を含む酸浴中で洗浄した。この酸洗浄した活性炭の一部は、活性炭のpHを中和するために、炭酸ナトリウムで中和し、次いで、水でリンスした。酸洗浄した活性炭の第二の部分は、酸洗浄し、最小限水でリンス、残留酸を除去したが、中和せず、低接触pHを有する活性炭物質を得た。両試料を平鍋でオーブン乾燥した。
【0028】
前記中和した活性炭と低接触pH活性炭とを、以下の手順を用いて水に浸漬したときのヒ素、アンチモン、アルミニウムの浸出について試験した。・・・・結果を表1に提供する。
【0029】
【表1】

【0030】
これらのデータは、中性及び低pH炭素の浸出特性の比較を示す。最終リンスのpH、乾燥した炭素の接触pHも示されている。最終リンスpHが1?3で、接触pHが6.5?8.5になる炭素の場合、検出限界に達する、ヒ素、アンチモンおよびアルミニウムの有意な減少がある。」と記載されている。
本件特許発明1の「リンス水のpHが約1.0?約3.0になるまで」行うリンスは、上記本件特許明細書の記載によれば、最終のリンスであるといえることから、甲1発明Bの工程に照らすと、「80℃の熱水4Lを加えて約20分間洗浄」する工程に対応するものであるといえる。しかしながら、本件特許発明1の「リンス」は「中和した活性炭上に浸漬、噴霧、又は水を流す」ようなもので「80℃の熱水」を含むものとはいえないことから、「80℃の熱水4Lを加えて約20分間洗浄」する工程が、本件特許発明1の最終の「リンス」に相当するものとはいえない。
また、仮に、甲1発明Bの「80℃の熱水4Lを加えて約20分間洗浄」する工程が、本件特許発明1の最終の「リンス」に相当するものとしても、その熱水(水)のpHが「約1.0?約3.0」とはいえない。
なぜならば、甲1発明Bは、甲1発明Aの「・・・水4Lにより洗浄」する工程の後に、さらに「活性炭をろ過し、ろ過した活性炭に、80℃の熱水4Lを加えて約20分間洗浄」する工程が追加されている発明であり、上記アの「甲1発明Aの場合」における(イ)aで説示したように、甲1発明Aの「水4Lにより洗浄」した後の水のpHは、3.8?3.9程度、さらには、それよりもさらに高くなるものとも推察されるものである。してみれば、その「水4Lにより洗浄」した後に行う「活性炭をろ過し、ろ過した活性炭に、80℃の熱水4Lを加えて約20分間洗浄」する工程によって、洗浄水が中性(アルカリ)側に進むにせよ、さらに酸性側に進むことはないことから、「80℃の熱水4Lを加えて約20分間洗浄」した後の熱水(水)のpHが「約1.0?約3.0」とはいえない。
よって、上記相違点は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、上記相違点の点で、甲1発明Bとはいえない。

(ウ)まとめ
本件特許発明1は、甲1に記載された発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

(2)本件特許発明2?4について
本件特許発明2?4は、上記本件特許発明1を引用してさらに限定した発明であるから、本件特許発明1と同様に、甲1に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

2 申立理由2について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明の「活性炭を」「0.00?1.26mol/lの塩酸水溶液と攪拌羽根を用いて十分に接触するように攪拌」することは、本件特許発明1の「活性炭を酸中で洗浄する工程」に相当する。
(イ)甲3発明の「活性炭を、水道水の水中に入れ、攪拌羽根を用いて攪拌して水洗」することは、本件特許発明1の「活性炭を水中でリンスする工程」に相当する。
(ウ)甲3発明の「活性炭を乾燥させ」ることは、本件特許発明1の「活性炭を乾燥させる工程」に相当する。
(エ)そして、甲3発明の「活性炭の調整方法」は、本件特許発明1の「活性炭を製造する方法」に相当する。
(オ)してみれば、本件特許発明1と甲3発明とは、
(一致点)
「活性炭を製造する方法であって、
活性炭を酸中で洗浄する工程と、
前記活性炭を水中でリンスする工程と、
前記活性炭を乾燥させる工程と
を有する方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
リンスする工程が、本件特許発明1では「リンス水のpHが約1.0?約3.0になるまで」であるのに対し、甲3発明では、「水洗を5回繰り返した後の水のpH値が9.8?3.7である」点。

イ 相違点についての判断
相違点について検討するに、「pHが約1.0?約3.0」と「pH値が9.3?3.7」は重複するものではなく、実質的な相違点である。

ウ まとめ
本件特許発明1は、上記相違点の点で、甲3に記載された発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

(2)本件特許発明4について
本件特許発明4は、上記本件特許発明1を引用してさらに限定した発明であるから、本件特許発明1と同様に、甲3に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

3 申立理由3について
(1)本件特許発明1は、本件特許明細書に、
「【0003】
酸洗浄法は、幾つかの工程を有し、通常、弱塩基溶液での中和、次いで最終的な水洗浄で前記活性炭から生成した塩類の除去を含み得る。通常、炭酸ナトリウムのような中和剤の量は、前記最終リンス水の中性又はわずかに塩基性のpHをもたらすように制御される。前記最終リンス水の中性又はわずかに塩基性のpHは、最終酸洗浄製品乾燥後の、接触pH9?11に近接する接触pHを提供する。本明細書に記載の実施形態は、ろ過用活性炭中の浸出可能なヒ素およびアンチモンの削減を提供するのに有用であり、この削減は、通常酸洗浄によって達成する削減を超えている。」と記載されているように、活性炭からヒ素およびアンチモンの浸出を抑制することを課題としたものであり、その解決手段として「活性炭を水中でリンス」する際に「リンス水のpHが約1.0?約3.0になるまで」行うものであり、それにより上記1「申立理由1について」の(1)イ(イ)で摘記したように、ヒ素及びアンチモンの浸出が著しく抑えられるという格別顕著な効果が得られるものである。
それに対し、甲1発明A及び甲1発明Bにおいて、「リンス水のpHが約1.0?約3.0になるまで」リンスする動機付けはなく、そして、それにより奏さされるヒ素及びアンチモンの浸出が著しく抑えられるという効果は、当業者といえども甲1の記載から予期しうるものではない。
(2)小括
よって、本件特許発明1及びそれを引用した本件特許発明2?4は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえないことから、特許法第29条第2項に違反して特許された発明ではない。。

4 申立理由4について
(1)甲1と同様に甲3にも、甲3発明において、「リンス水のpHが約1.0?約3.0になるまで」リンスする動機付けはなく、そして、それにより奏されるヒ素及びアンチモンの浸出が著しく抑えられるという効果は、当業者といえども甲3の記載から予期しうるものではない。
(2)小括
よって、本件特許発明1及び4は、甲3に記載された発明に基づいて、本件特許発明2及び3は、甲3に記載された発明、又は、甲3に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえないことから、特許法第29条第2項に違反して特許された発明ではない。

5 申立理由5について
(1)本件特許発明1は、「活性炭を水中でリンスする工程」について「リンス水のpHが約1.0?約3.0になるまで」と特定されており、「・・・になるまで」との表現はその工程における最後になることを表しており、本件特許明細書の上記1「申立理由1について」の(1)イ(イ)で摘記した箇所を参照しても、「リンス水のpHが約1.0?約3.0になるまで」「活性炭を水中でリンスする」際の「リンス水」とは、最終リンス工程におけるリンス水と解するのが妥当である。してみれば、本件特許発明1についての申立人の「リンス水のpHが約1.0?3.0になるよう活性炭を水中でリンスする工程を一旦経ればよく、最終リンス工程におけるリンス水のpH値は規定されていないといえる。よって、本件特許発明1には、リンス水のpHが約1.0?約3.0にまで活性炭を水中でリンスした後、最終リンス水のpHが例えば6.58となる発明も包含されていると解される」との主張は採用できない。
そして、本件特許明細書の実施例において、本件特許発明1の「活性炭を水中でリンスする工程」で「リンス水のpHが約1.0?約3.0になるまで」とすることによって、ヒ素及びアンチモンの浸出が著しく抑えられるという効果を奏することが上記本件特許明細書の表2に示されており、十分にサポートされているものである。

(2)申立人は、「甲第1号証の実施例1では、本件特許発明の活性炭の製造方法と同様の工程を経て、本件特許発明の実施例と同様の接触pHを有する活性炭が製造されていると考えられる。もし、甲第1号証の実施例1において、活性炭を塩酸で中和した後、水で洗浄した時の洗浄水のpHが約1.0?約3.0を満たさないのであれば、当業者は、本件特許発明1に記載の工程を経て所定範囲の接触pHを有する活性炭を製造できることを認識することはできない。」と主張しているが、そもそも、甲1の【0005】?【0010】に記載されているJIS K1474のpH(なお、JIS K1474について、申立人は上記甲2を提出しているが、その発行日は平成26年2月20日となっており、甲1の出願日より後であることも付言しておく。)が、本件特許明細書の接触pHと同意であるとの十分な根拠が見いだせない。
むしろ、例えば、甲1の「上水場の活性炭吸着池に用いるpH調整活性炭の納品規格は、pH5.8?8.6(JIS K1474またはJWWA K113)の場合が多い。」(【0004】)、甲3の「浄水施設において使用される場合、JIS K1474-1991の規格(pH5.6?8.6)に適合することが必要とされる。」(【0003】)の記載と、本件特許明細書の「最終リンス水の中性又はわずかに塩基性のpHは、最終酸洗浄製品乾燥後の、接触pH9?11に近接する接触pHを提供する。」(【0003】)、「比較のために、未使用の活性炭又は酸洗浄し、リンス水がほぼ中性(すなわち、pH約7.0)になるまでリンスされた活性炭は、通常、約9.0より高い接触pH、例えば、8.0?約11を有する。」(【0018】)の記載とを対照するに、本件特許明細書の接触pHはJIS K1474の測定方法で測定したpHよりも高い値を示すものと解される。
してみれば、甲1の実施例で製造された活性炭が本件特許発明1の製造方法で製造された活性炭と同じものとはいえず、申立人の「甲第1号証の実施例1において、活性炭を塩酸で中和した後、水で洗浄した時の洗浄水のpHが約1.0?約3.0を満たさないのであれば、当業者は、本件特許発明1に記載の工程を経て所定範囲の接触pHを有する活性炭を製造できることを認識することはできない。」との主張は採用できない。

(3)小括
よって、上記第3の申立理由の概要で記載した申立理由5(1)及び(2)とも理由のあるものではなく、本件特許発明1及びそれを引用した本件特許発明2?4は、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえず、その特許が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

6 申立理由6
申立人は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないことの理由は、申立理由5と同じであるとしか主張しておらず、上記5で説示したように、申立理由5に理由がない以上、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1及びそれを引用する本件特許発明2?4について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえず、その特許が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許が、特許法第113条第2号又は同条第4号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-10-12 
出願番号 特願2015-509105(P2015-509105)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C01B)
P 1 651・ 113- Y (C01B)
P 1 651・ 537- Y (C01B)
P 1 651・ 121- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 神▲崎▼ 賢一今井 淳一  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山崎 直也
三崎 仁
登録日 2017-01-13 
登録番号 特許第6072898号(P6072898)
権利者 カルゴン カーボン コーポレーション
発明の名称 活性炭からヒ素およびアンチモン浸出の軽減  
代理人 矢口 太郎  

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