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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) H05F
管理番号 1333276
判定請求番号 判定2017-600022  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 判定 
判定請求日 2017-05-17 
確定日 2017-10-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第5194045号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件の「ルームイオナイザ(SRBシリーズ+SRC-2P)」は、特許第5194045号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号物件のルームイオナイザ(SRBシリーズ+SRC-2P)は、特許第5194045号(以下、「本件特許」という。)発明の技術的範囲に属する、との判定を求めたものである。

第2 本件特許発明
1 本件特許の特許請求の範囲の記載
本件特許発明は、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものであって、請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)、及び請求項2に係る発明(以下、「本件特許発明2」という。)について各構成要件(以下、「構成要件A」などという。)ごとに分説すると、次のとおりである。

(1)本件特許発明1
構成要件A:
一列に配置され、かつイオンが一方向に放射されるように配置された第1の複数の放電電極と、

構成要件B:
一列に配置され、かつ前記第1の複数の放電電極の各放電電極によるイオンの放射方向に向かってイオンがそれぞれ放射されるように配置された第2の複数の放電電極と、を有し、

構成要件C:
前記第1の複数の放電電極および前記第2の複数の放電電極の各放電電極から放射されたイオンが各放電電極付近ではクーロンの反発力でさらに飛ぶように、かつ飛び出したイオン同士が接近したとき吸引し合ってさらに飛ぶように、各放電電極に印加される直流電圧の極性が切り替えられて前記第1の複数の放電電極および前記第2の複数の放電電極の間に除電空間を形成する距離間隔で前記第1の複数の放電電極および前記第2の複数の放電電極が配置されていることを特徴とする

構成要件D:
バータイプ除電器。

(2)本件特許発明2
構成要件E:
請求項1記載のバータイプ除電器において、

構成要件F:
前記第1の複数の放電電極の各放電電極と前記第2の複数の放電電極の各放電電極は逆極性となるように直流電圧の極性が切り替えられることを特徴とする

構成要件G:
バータイプ除電器。

2 本件特許の明細書及び図面の記載
本件特許の明細書及び図面には、下記の事項が記載されている。
(1)「【0001】
本発明は、バータイプ除電器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の除電器ではイオンの飛距離が短い。特に交流式では+イオンと一イオンが直ぐに再結合してしまうので、飛距離は非常に短く、したがって送風機でもってイオンを飛ばしている。これに対し、直流除電器は送風機無しでもある程度は飛距離を確保できる。しかし、それでも高々70cmほどしか飛ばない。そのため実際の使用場面では、飛距離が不足し、十分な除電効果が得られず、困っている。
【0003】
図1に飛距離が不足し中間部にイオンがなく除電できない領域がある例を示す。図2に例えば半導体のクリーンルーム内での除電状況を示す。天井22に取り付けられた除電器1からのイオン20は天井22から1m程度しか届かないので肝心な人24や設備、ワーク26が除電できない。
【0004】
図3にゲート状に除電器を配置した場合を示す。ゲート28,28の中央部にイオン20が届かないので除電不可能領域が存在している。従ってゲート28,28の間隔を狭くしなければならないので実用的でない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の除電器ではイオンの飛距離が不足し、広い範囲にわたって十分な除電効果が得られず、困っている。
【0006】
したがって、本発明の目的は、イオンの飛距離を延ばし、広い範囲にわたって十分な除電効果が得られる除電器を提供する事にある。」

(2)「【0009】
本発明によれば、イオンを遠く飛ばすことが出来るようになり、従来不可能だった広域除電ができる新しい除電器が得られる。」

(3)「【0011】
図4に実施例を示す。1対の放電電極AとBを持つ除電器を示す。Aが例えば+のイオンを出す時はBは-のイオンを出す。そして次の瞬間にはAは一のイオンを出し、Bは+のイオンを出すというように、お互いに逆極性のイオンを出しつつ、順次各々の極性を切り替えていく(このように、1対の放電電極が逆極性のイオンを出し、順次各々の極性が切り替えられるので、PUSH-PULL式除電器ということができる)。すると極性の違うイオン同志が引き合うので、AとBから出てきたイオン同志がお互いに引き付け合って通常のイオン領域70、70まで飛んでいく。図中、通常のイオン領域は横に広がって距離が出ないのに対し、この方式のイオン領域は縦に距離が伸びてイオンのない領域をなくしている。時間軸上、次の瞬間にA、B両者のイオンの極性が変わるので、この間の領域に存在する除電対象物は+と-の両極性のイオンをあび、除電される事になる。
【0012】
図5はA、B間の領域の時間軸上の空間電位を示す。図5aは時刻T1におけるA、B間の空間電位を示す。即ち、Aからほぼ中央付近まで+のイオンが飛んでいき、逆にBからほぼ中央付近まで-のイオンが飛んでくる。中央付近で両極性のイオン同志が再結合し消滅する。図5bは時刻T2におけるA、B間の空間電位を示す。即ちAからほぼ中央付近まで-のイオンが飛んでいき、逆にBからほぼ中央付近まで+のイオンが飛んでくる。中央付近で両極性のイオン同志が再結合し消滅する。
【0013】
図5cは時刻T1と時刻T2におけるA、B間の空間電荷の積分値を示す。即ち、Aからほぼ中央付近まで+と-のイオンが飛んでいき、逆にBからほぼ中央付近まで-と+のイオンが飛んでいる。このようにこの空間は+、一中性のイオンで満たされていた事と同等であり、除電可能な領域を形成している。」

(4)「【0015】
図8に本案のゲート式除電システムを示す。十分に広い除電ゲートを実現できる。図9に本案による新しいクリーンルーム内の除電システムを示す。即ち、天井と床面からお互いに引き合うイオンを出し合う事で、天井から床まで完全に中性イオン空間を形成でき、除電領域とすることが出来る。」

(5)「【0017】
一方、本発明では、図10から図12に示すように、好ましくは、パルス状の電圧が向き合った電極14に印可される。そして、放電電極間の距離は、放電電極付近ではクーロンの反発力で空間に放出され(約2m飛び)、互いに接近したとき、吸引し合ってさらに飛ぶ(さらに約0.5m飛ぶ)距離に選ばれる(例えば、印可電圧の大きさに依存するが、30cm以上で、5m以下)。この場合、従来例で用いたファンは必要ない。」

(6)図1、図3、図4、図6?図10、図12、及び図13を参照すると、従来例の除電器、及び本発明の除電器では、いずれも一対の除電器の放電電極を対向させていることが看取される。

第3 イ号物件
1 甲第3号証?甲第8号証について
判定請求書には、甲第3号証としてイ号マニュアル、甲第4号証としてイ号パンフレットが、それぞれ添付されている。
また、判定請求人は、上記イ号マニュアル及びイ号パンフレットを基に、甲第5号証としてイ号模式図、甲第7号証としてイ号正投象図、及び甲第8号証としてイ号分解斜視図を、それぞれ作製するとともに、甲第6号証(#01ソンジェルームイオナイザ(SRB-1500)動作動画1、及び#02ソンジェルームイオナイザ(SRB-1500)動作動画2)としてイ号動作動画を作製し、これらを判定請求書に添付している。

2 甲第3号証?甲第8号証により示される事項
甲第3号証?甲第8号証から、イ号物件に関して以下の事項が認められる。
(1)イ号物件は、イオナイザ(除電器)についてのものであり、帯電物の除電を目的としていること(甲第3号証6ページ6行?9行、及び12ページ9行?11行を参照。)。

(2)イ号物件は、イオンバーを含み、イオンバーは棒状であること(甲第3号証9ページの図面を参照。)。

(3)イ号物件は、パワーコントローラを含み、1台のパワーコントローラに対して2本のイオンバーを接続していること(甲第3号証10ページ5行を参照。)。

(4)イオンバーの本体には、同一方向を向いて一列に配置された複数の放電針8が設けられ、放電針8の先端からイオンが発生すること(甲第3号証9ページ20行?21行、及び9ページの図面を参照。)。

(5)イオンバーの本体の側面には、(+)高電圧を出力していることを示すPOS(Positive)LED3、(-)高電圧を出力していることを示すNEG(Negative)LED4が設けられていること(甲第3号証9ページ8行?11行、及び9ページの図面を参照。)。

(6)イオンバーの(+)の直流電圧の出力時間及び出力電圧を、出力時間が1?10秒、出力電圧が(+)4?11kVで、また、イオンバーの(-)の直流電圧の出力時間及び出力電圧を、出力時間が1?10秒、出力電圧が(-)4?11kVで、それぞれ調整することができること(甲第3号証20ページ?22ページを参照。)。

(7)1台のパワーコントローラに接続された2本(一対)のイオンバー(SRB-1500)には、それぞれ逆極性の高電圧が出力され、約3秒毎に極性が切り替わるように設定可能であること(甲第6号証を参照。)。
ここで、「SRB-1500」は、イオンバーの複数あるモデルナンバーのうちの一つであること(甲第3号証の14ページの「モデル別ミドルブラケット数量」の表、34ページの「10.1 SRB Series Line-UP」の欄、及び36ページの表を参照。)。

(8)イオンバーの本体は、軸方向の両端に設けられたサイドブラケット7、及び中央に設けられたミドルブラケット6によって、帯電物の上方に設置固定が可能であること、及び高所に設置された各イオンバーの各放電針はイオンを帯電物に対して放射するために斜め下方に向けられていること(甲第3号証の1ページの図面、9ページの図面、12ページの図面、及び32ページの図面を参照。)。

(9)イ号物件は、2本のイオンバー(以下、一方を「一方のイオンバー」といい、他方を「他方のイオンバー」という。)を備えており、
一方のイオンバーは、一列に配置され、かつイオンが、2本のイオンバーの間の所定距離だけ下方の地点の方向に向かって、それぞれ放射されるように配置された複数の放電針を備えており、
他方のイオンバーは、一列に配置され、かつイオンが、2本のイオンバーの間の所定距離だけ下方の地点の方向に向かって、それぞれ放射されるように配置された複数の放電針を備えており、
一方のイオンバーの所定距離だけ下方の地点と、他方のイオンバーの所定距離だけ下方の地点との間の領域に、帯電物が存在するようにしていること(甲第3号証の1ページの図面、12ページの図面、17ページの図面、32ページの図面、及び33ページの2つの図面、並びに甲第4号証の10ページの「特徴」の欄に記載の図面、及び11ページの「性能」の欄に記載の3つの図面を参照。)。

(10)イ号物件が除電器であることに鑑みれば、イオンバーは、高電圧が出力されている間、放電針に高電圧が印加されイオンが発生していること。

(11)一方のイオンバーの所定距離だけ下方の地点と、他方のイオンバーの所定距離だけ下方の地点との間の領域に、帯電物が存在するようにしているから、当該帯電物を除去するように、前記一方のイオンバーの複数の放電針および他方のイオンバーの複数の放電針が配置されていること。

3 イ号物件
上記各事項より、イ号物件は、各構成(以下、「構成a」などという。)ごとに分節して記載すると、次のとおりである。

構成a:
一列に配置され、かつイオンが2本のイオンバーの間の所定距離だけ下方の地点の方向に向かって放射されるように配置された一方のイオンバーの複数の放電針と、

構成b:
一列に配置され、かつ2本のイオンバーの間の所定距離だけ下方の地点の方向に向かってイオンが放射されるように配置された他方のイオンバーの複数の放電針と、を有し、

構成c:
各放電針に印加される直流電圧の極性が切り替えられて一方のイオンバーの所定距離だけ下方の地点と、他方のイオンバーの所定距離だけ下方の地点との間の帯電物を除電するように、前記一方のイオンバーの複数の放電針および他方のイオンバーの複数の放電針が配置されている

構成d:
2本の棒状のイオンバーを備えたイオナイザ。

第4 充足性の判断
1 本件特許発明1についての判断
(1)構成要件Aについて
イ号物件の「イオンバーの複数の放電針」は、本件特許発明1の「複数の放電電極」に相当する。
そして、イ号物件における「一方のイオンバーの複数の放電針」は、本件特許発明1の「第1の複数の放電電極」に相当する。
また、イ号物件の構成aにおける、「2本のイオンバーの間の所定距離だけ下方の地点の方向」は、「一方向」ということができる。
そうすると、本件特許発明1の構成要件Aとイ号物件の構成aとは、「一列に配置され、かつイオンが一方向に放射されるように配置された第1の複数の放電電極」である点で一致する。
したがって、イ号物件は本件特許発明1の構成要件Aを充足する。

(2)構成要件B及びCについて
構成要件B及び構成要件Cについてまとめて検討する。
ア 本件特許発明1の構成要件Bの「一列に配置され、かつ前記第1の複数の放電電極の各放電電極によるイオンの放射方向に向かってイオンがそれぞれ放射されるように配置された第2の複数の放電電極と、を有し」との事項は、第2の複数の放電電極の配置を、第1の複数の放電電極から放射されるイオンの放射方向との関係で特定するものである。
他方で第1の複数の放電電極、及び第2の複数の放電電極から放射されたイオンに関して、構成要件Cに、「第1の複数の放電電極および前記第2の複数の放電電極の各放電電極から放射されたイオンが各放電電極付近ではクーロンの反発力でさらに飛ぶように、かつ飛び出したイオン同士が接近したとき吸引し合ってさらに飛ぶように」と特定されており、当該特定事項は、第1の複数の放電電極、第2の複数の放電電極からそれぞれ反発力で飛び出たイオン同士が接近したとき吸引し合うことを特定している。
以上を併せみれば構成要件Bの第2の複数の放電電極の配置は、第2の複数の放電電極から放射されたイオンが、第1の複数の放電電極から放射されたイオンと吸引し合ってさらに飛ぶことを意図していると理解できる。
これに対して、イ号物件の構成bの「一列に配置され、かつ2本のイオンバーの間の所定距離だけ下方の地点の方向に向かってイオンが放射されるように配置された他方のイオンバーの複数の放電針と、を有し」は、2本のイオンバーと帯電物との配置からみて、高所に設置された各イオンバーの各放電針はイオンを帯電物に対して放射するために斜め下方に向けられていると解釈できる(前記「第3 2(8)及び(9)」を参照。)。
そして、イ号物件における2本のイオンバーの各放電針の配置又は向きは、帯電物との位置関係において定められていると理解するのが自然であり、少なくとも甲第3号証?甲第8号証の記載からは、イ号物件の構成bは、各イオンバーから放射されるイオン同士の吸引力が作用することを前提に、他方のイオンバーの複数の放電針のイオンの放射方向を特定したものとはいえない。
以上のことから、本件特許発明1の構成要件Bと、イ号物件の構成bとを比較すると、第2の複数の放電電極(イ号物件の「他方のイオンバーの複数の放電針」に相当。)のイオンの放射方向に関して、本件特許発明1の構成要件Bでは、放射されたイオンが第1の複数の放電電極から放射されたイオンに接近したとき吸引し合ってさらに飛ぶようなイオンの放射方向を意図したものであるのに対して、イ号物件の構成bでは、イオン同士の吸引力が作用することを前提としたものではない点で、両者は異なる。
したがって、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件Bを備えるものではない。

イ 本件特許発明1では、除電空間を形成する場所は、構成要件Cに特定される「前記第1の複数の放電電極および前記第2の複数の放電電極の間」であるところ、上記「ア」で述べたとおり、構成要件Cは「第1の複数の放電電極および前記第2の複数の放電電極の各放電電極から放射されたイオンが各放電電極付近ではクーロンの反発力でさらに飛ぶように、かつ飛び出したイオン同士が接近したとき吸引し合ってさらに飛ぶように」と特定されており、これを併せみれば、「前記第1の複数の放電電極および前記第2の複数の放電電極の間」とは、第2の複数の放電電極から放射されたイオンが、第1の複数の放電電極から放射されたイオンと吸引し合ってさらに飛ぶことが発生している場所であることを意図していると理解できる。
これに対して、イ号物件では、構成cにおいて「一方のイオンバーの所定距離だけ下方の地点と、他方のイオンバーの所定距離だけ下方の地点との間の帯電物を除電するように」なっている上、上記「ア」で検討したところから明らかなように、各イオンバーから放射されるイオンが吸引し合ってさらに飛ぶことが発生している場所を設けたものとはいえないから、一方のイオンバーの複数の放電針および他方のイオンバーの複数の放電針の間は、本件特許発明1の構成要件Cでいう除電空間が形成されている場所とはいえない。
そうすると、本件特許発明1とイ号物件とは、除電空間を形成する場所が異なる。
したがって、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件Cのうちの、「前記第1の複数の放電電極および前記第2の複数の放電電極の間に除電空間を形成する」を備えるものではない。

ウ 除電器では、各放電電極によるイオンの放射方向、除電空間を形成する場所、及び放射されたイオンの飛ぶ距離に応じて、第1の複数の放電電極と第2の複数の放電電極との「距離間隔」を定める必要があることは明らかである。
ところで、「ア」で述べたように、本件特許発明1とイ号物件とは、第2の複数の放電電極(他方のイオンバーの複数の放電針)のイオンの放射方向が異なり、また、「イ」で述べたように、本件特許発明1とイ号物件とは、除電空間を形成する場所が異なる。
そうすると、本件特許発明1の構成要件B及びCと、イ号物件の構成b及びcとでは、少なくとも放電電極のイオンの放射方向、及び除電空間を形成する場所に関して異なるから、放射されたイオンの飛ぶ距離の異同にかかわらず、イ号物件における「一方のイオンバーの複数の放電針および他方のイオンバーの複数の放電針」の距離間隔が、本件特許発明1の構成要件Cの、第1の複数の放電電極と第2の複数の放電電極の「距離間隔」と同じであるとはいえない。
したがって、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件Cのうちの、「前記第1の複数の放電電極および前記第2の複数の放電電極の間に除電空間を形成する距離間隔で前記第1の複数の放電電極および前記第2の複数の放電電極が配置されていること」を備えるものではない。

エ 以上のことから、イ号物件は、本件特許発明1の、構成要件Bの「一列に配置され、かつ前記第1の複数の放電電極の各放電電極によるイオンの放射方向に向かってイオンがそれぞれ放射されるように配置された第2の複数の放電電極と、を有し」、及び構成要件Cのうちの少なくとも「前記第1の複数の放電電極および前記第2の複数の放電電極の間に除電空間を形成する距離間隔で前記第1の複数の放電電極および前記第2の複数の放電電極が配置されていること」を備えているとはいえない。
よって、イ号物件は本件特許発明1の構成要件B及びCを充足するとはいえない。

オ なお、構成要件Bの充足について、明細書を参酌して更に検討する。
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の欄を参酌すると、本件特許発明1の目的は、一方の除電器の電極14と他方の除電器の電極14とを対向するように設けたものを背景技術とし、このような技術においては、イオンの飛距離が不足して、二つの除電器の中間部にイオンがない除電不可能領域が存在することに鑑み、イオンの飛距離を延ばし、広い範囲にわたって十分な除電効果が得られる除電器を提供することにある(前記「第2 2(1)、(2)及び(6)」を参照。)。
また、発明の詳細な説明の「実施例」についての記載(前記「第2 2(3)、(4)」を参照。)が参照する図4、8、9には、一方の除電器の電極と他方の除電器の電極とを対向させたものが示されているのみである。
したがって、本件特許発明1では、第1及び第2の電極が対向するように設けることを前提としている。
そして、本件特許発明1では、一方の除電器の電極14と他方の除電器の電極14とを対向するように設け、一対の放電電極が逆極性のイオンを出し、順次各々の極性が切り替えられるので、放電電極付近ではクーロンの反発力で空間に放出され、互いに接近したとき、吸引し合ってさらに飛ぶことにより、一対の除電器の中央付近までイオンが飛ぶようになり、これによりイオンのない領域をなくして、一方の除電器と他方の除電器との間の領域に存在する除電対象物は+と-の両極性のイオンをあび、除電されるようにするものである(前記「第2 2(3)?(5)及び(6)」を参照。)。
そうすると、本件特許発明1の構成要件Bの「第1の複数の放電電極の各放電電極によるイオンの放射方向に向かってイオンがそれぞれ放射されるように配置された第2の複数の放電電極」とは、両電極を対向して設けることにより、結果的に、第2の放電電極から放射されたイオンが、第1の放電電極から放射されたイオンと吸引し合ってさらに飛ぶように第2の放電電極の向きを配置することを意図していると理解できる。
これに対して、イ号物件の構成bでは、「一列に配置され、かつ2本のイオンバーの間の所定距離だけ下方の地点の方向に向かってイオンが放射されるように配置された他方のイオンバーの複数の放電針と、を有し」ており、、上記「ア」で述べたように、各イオンバーの各放電針は斜め下方に向けられているものであるから、一方のイオンバーの複数の放電針と他方のイオンバーの複数の放電針とを対向して設けたものではない。また、上記「ア」で述べたとおり、イ号物件は、イオン同士の吸引力が作用することを前提としたものとはいえない。
よって、イ号物件は本件特許発明1の構成要件Bを充足するとはいえない。

このように、明細書を参酌してみても、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件Bを充足するとはいえず、これは上記「イ」において検討した結果とも整合する。

(3)構成要件Dについて
イ号物件の構成dの「2本の棒状のイオンバーを備えたイオナイザ」は、構成要件Dの「バータイプ除電器」に一致する。
したがって、イ号物件は本件特許発明1の構成要件Dを充足する。

(4)小括
以上のように、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件B及びCを充足しないから、本件特許発明1の構成要件のすべてを充足するとはいえない。
よって、イ号物件は、本件特許発明1の技術的範囲に属しない。

2 本件特許発明2についての判断
本件特許発明2は、本件特許発明1の構成要件をすべて含み、更に構成要件Fを付加したものであるところ、前記「1」で判断したように、イ号物件は本件特許発明1の構成要件B及びCを充足するものではなく、また、構成要件Fの付加により上記判断が影響されるものではないから、本件特許発明1についての判断と同様に、イ号物件は本件特許発明2の構成要件のすべてを充足するものではない。
よって、イ号物件は、本件特許発明2の技術的範囲に属しない。

3 被請求人の主張について
(1)被請求人は、「(1)甲第3号証及び甲第4号証などに紹介されたイ号物件は日本国内で販売されたことが無く、判定の必要性が欠如されております。」(答弁書の「3.むすび」の欄を参照。)と主張している。
しかしながら、被請求人は、「イ号物件のルームイオナイザ(SRBシリーズ+SRC-2P)は特許第5194045号発明の技術的範囲に属さない。との判定を求める。」(答弁書の「4 答弁の趣旨」を参照。)とも述べており、判定を行うこと自体を否定するものではないから、被請求人の主張は採用できない。

(2)被請求人は、「被請求人はイ号物件を日本国内に販売したことが無いことを先に申し上げます。」及び「即ち、請求人が提出した甲第3号証、甲第4号証などは被請求人が制作した資料ではあるが、これら資料は被請求人が日本国内で被請求人の製品を紹介するため制作した資料に過ぎず、これら資料に紹介された物件が日本国内で実際販売されたことが無いことを改め確認いたします。」(答弁書の「5 答弁の理由 1.」を参照。)と主張している。
しかしながら、被請求人が主張する販売の関係が事実か否かは問わず、本判定は、甲第3号証及び甲第4号証に示されるものをイ号物件として判断するものである。

第5 結論
以上のように、イ号物件は、本件特許発明1及び2の、いずれの技術的範囲にも属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2017-09-28 
出願番号 特願2010-74387(P2010-74387)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (H05F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 学  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 小関 峰夫
滝谷 亮一
登録日 2013-02-08 
登録番号 特許第5194045号(P5194045)
発明の名称 バータイプ除電器  
代理人 山本 誠  

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