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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B |
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管理番号 | 1333510 |
審判番号 | 不服2016-16385 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-11-02 |
確定日 | 2017-10-31 |
事件の表示 | 特願2013-541456「nリード式ECGシステムの作動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月 7日国際公開、WO2012/073179、平成26年 2月13日国内公表、特表2014-503251、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2011年(平成23年)11月28日(パリ条約による優先権主張 平成22年12月1日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年9月14日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月22日付けで手続補正がされ、平成28年6月30日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年11月2日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成28年6月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1、3?4、6?14に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?5に記載された周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特表2002-529873号公報 2.森 博愛 心電図法による心筋梗塞の部位診断 日本臨牀 Vol.44(6) 1986年6月1日 第44巻6号 p.1372-1378(周知技術を示す文献) 3.平井 忠和、井上 博 心電図診断 日本臨牀 Vol.56(10) 1998年10月1日 第56巻10号 p.2561-2568(周知技術を示す文献) 4.特表2010-535570号公報(周知技術を示す文献) 5.国際公開第2009/077915号(周知技術を示す文献) 第3 本願発明 本願請求項1?14に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明14」という。)は、平成27年12月22日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 虚血イベントに関する責任冠動脈の閉塞の位置を特定するための、nリード式ECGシステムの作動方法であって: nリードのECGリード信号を受信するステップ; 前記ECGリード信号をST上昇に関して分析するステップ; 分析されたST上昇を用いて、責任冠動脈及びその閉塞の位置の分類に有用な複数のECG測定結果を計算するステップ; 前記ECG測定結果を用いて、異なる複数の冠動脈位置での前記閉塞の位置の確率の分類器を作り出すステップ; 前記分類器を動作させて、最も高い確率を有する閉塞の位置を特定するステップ;及び 閉塞部位でありそうな特定の冠動脈位置をユーザに対して特定するステップ; を有する、nリード式ECGシステムの作動方法。」 また、本願発明2?14は、本願発明1を減縮した発明である。 第4 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。 (引1-ア) 「 【0012】 ・・・ 好適な実施形態の説明 図1を参照すると、本発明に従って構成される予測機器は、12リード心電計10、波形アナライザ12、プログラムされたプロセッサ・モジュールを含む。心電計10は患者18へ接続され、患者に関しての一組のECG波形を生成する。波形アナライザ12は、ECG波形を分析し、患者の心臓の病気を特定的に示す特定の特徴の存在、例えば、S-T区間の存在および高さ又は沈下、Q波の存在、および高くなったか沈下したか反転したT波の存在を認識するようにプログラムされている。波形アナライザが認識するようにプログラムされている特定の特徴は、予測機器によに実行される機能に依存するものであり、予測機器は、その機能を行うために必要な一組の臨床的変数を決定する。プロセッサ・モジュール14は、波形アナライザ12の出力を、キーボード22から医師が入力した患者についての他の臨床的情報と関連して使用するものであり、患者が生命を脅かされる心臓の病気を有する確率を計算するようにプログラムされている。この実施形態の重要な面によると、プロセッサ・モジュール14はまた、階層的な多数の条件付き確率を生成して表示するようにプログラムされており、これは、医療診断の確実性を向上させるために、患者に対して行う最適の診断テストまたは一連のテストを選択する際に医師を手引きする。」 (引1-イ) 「 【0019】 心電計10と波形アナライザ12とは別個のユニットとして示されているが、これらは1つのユニットとして商業的に入手可能である。例えば、ヒューレット・パッカード社は、患者から患者へと移動可能なモバイル・ユニットであるHP Pagewriter XLiを製造している。このPagewriter XLiは、適当な波形分析を行うようにプログラムできる内部コンピュータを含む。例えば、これは、ECG波形内の手掛かりとなる特徴の存在を認識して定量化するように、プログラムすることができる。また、これは、12の監視用リードにより生成された一組の信号の特徴に基づいて心筋梗塞(MI)の位置を識別するようにプログラムすることができる。波形分析機能を行う他に、このユニット内のコンピュータはまた、システム内の他のコンポーネントやモジュールの機能、例えば、予測機器の計算を行うようにプログラムすることができる。 【0020】 この説明される実施形態において、プロセッサ・モジュール14は、ロジスティック回帰に基づく式を用いて、患者が急性心臓イシェミーを起こしている確率を計算する。」 (引1-ウ) 「 【0031】 システムは、以下の様式で動作する。最初に患者がシステムへ接続されると、医師または他のユーザは、患者についての関連する臨床的情報を入力する。例えば、予測機器が、上記のモデルに従って急性心臓イシェミーの確率を計算するようにプログラムされている場合、医師は、患者についての以下の情報、即ち、(1)名前、(2)年齢、(3)性別、(4)患者が胸部または左腕の痛みを経験しているか、(5)患者の主な病訴が胸部または左腕の痛みであるか、を入力する。医師が特定の患者に対してシステムを設定し、心電計のリードを患者へ接続した後に、医師は、患者に対しての初期ECGをシステムに行わせる。それに応答して、波形アナライザは、患者のECG波形の現在のセグメント(区間)を獲得して分析する。典型的に、波形アナライザは、波形分析機能を行うために患者のECGの10?20秒の区間を必要とする。この実施形態において、波形アナライザの出力は、(1)何れかのQ波が存在するか否か、(2)S-T区間が高められているか又は押し下げられているか、およびその高められているか又は押し下げられている量はどれだけか、(3)T波が高められているか又は内向き(反転、invert)にされているか又は平らか、(4)T波が高められている場合に、その高められた量はどれだけか、(5)STDEPおよびTWINVのリードの両方が非零であるか、を報告(レポート)する。 【0032】 波形アナライザの出力および以前に入力した他の臨床的変数に対しての値を用いて、プロセッサ・モジュールは、患者が急性心臓イシェミーを有する確率と、システムが生成するように構成されている多数の条件付き確率とを計算する。次に、この情報は前述のようにECGプリントアウトの上部にプリントされる。」 (引1-エ) 【図面の簡単な説明】 【図1】 図1は、急性心臓イシェミーの多数の条件付き確率を計算して呈示する診断システムのブロック図である。 【図2】 図2は、図1のシステムからのプリントアウトの一例である。 (引1-オ) (引1-カ) 上記(引1-ウ)に記載された診断システムにおける予測機器が行う動作工程は、当該予測機器自体に備わる機能を経時的に表現したものであるから、「予測機器を備えた診断システムの作動方法」であるといえる。 したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「12リード心電計10、波形アナライザ12、プログラムされたプロセッサ・モジュール14を含む予測機器を備えた診断システムの作動方法であって、 前記プロセッサ・モジュール14は、12の監視用リードにより生成された一組の信号の特徴に基づいて心筋梗塞(MI)の位置を識別するようにプログラムすることができ、また、ロジスティック回帰に基づく式を用いて、患者が急性心臓イシェミーを起こしている確率を計算することもできるものであり、 前記予測機器が、急性心臓イシェミーの確率を計算するようにプログラムされている場合、前記波形アナライザ12は、患者のECG波形の現在のセグメント(区間)を獲得して分析することにより、波形アナライザの出力は、(1)何れかのQ波が存在するか否か、(2)S-T区間が高められているか又は押し下げられているか、およびその高められているか又は押し下げられている量はどれだけか、(3)T波が高められているか又は内向き(反転、invert)にされているか又は平らか、(4)T波が高められている場合に、その高められた量はどれだけか、(5)STDEPおよびTWINVのリードの両方が非零であるか、を報告(レポート)し、 前記波形アナライザ12の出力および以前に入力した他の臨床的変数に対しての値を用いて、前記プロセッサ・モジュール14は、患者が急性心臓イシェミーを有する確率を計算し、次に、この情報はECGプリントアウトの上部にプリントされる、 診断システムの作動方法。」 2.引用文献2?5ついて 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(表4)には、「心筋梗塞の位置と冠動脈の閉塞位置との間には対応した関係がある」という技術的事項が記載されていると認められる。 また、上記引用文献2(表1、表5)及び原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3?5には、「12リード式ECGシステムにより生成される複数のECG測定結果の組み合わせに基づいて、異なる複数の冠動脈位置での閉塞等の可能性を診断できる」という技術事項が記載されていると認められる。 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「12リード心電計10、波形アナライザ12、プログラムされたプロセッサ・モジュール14を含む予測機器を備えた診断システムの作動方法」は、本願発明1の「nリード式ECGシステムの作動方法」に相当する。 イ 引用発明の「患者のECG波形の現在のセグメント(区間)を獲得」することは、本願発明1の「nリードのECGリード信号を受信するステップ」に相当する。 ウ 引用発明の「(1)何れかのQ波が存在するか否か、(2)S-T区間が高められているか又は押し下げられているか、およびその高められているか又は押し下げられている量はどれだけか、(3)T波が高められているか又は内向き(反転、invert)にされているか又は平らか、(4)T波が高められている場合に、その高められた量はどれだけか、(5)STDEPおよびTWINVのリードの両方が非零であるか、」を「分析する」ことは、「(2)S-T区間が高められているか又は押し下げられているか、およびその高められているか又は押し下げられている量はどれだけか、」を「分析する」ことを含むことから、本願発明1の「前記ECGリード信号をST上昇に関して分析するステップ」に相当する。 してみると、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。 (一致点) 「nリード式ECGシステムの作動方法であって: nリードのECGリード信号を受信するステップ; 前記ECGリード信号をST上昇に関して分析するステップ; を有する、nリード式ECGシステムの作動方法。」 (相違点1) nリード式ECGシステムの作動方法が、本願発明1では、「虚血イベントに関する責任冠動脈の閉塞の位置を特定するための」ものであるのに対し、引用発明では、「心筋梗塞(MI)の位置を識別する」ためのものである点。 (相違点2) 本願発明1は、「分析されたST上昇を用いて、責任冠動脈及びその閉塞の位置の分類に有用な複数のECG測定結果を計算するステップ; 前記ECG測定結果を用いて、異なる複数の冠動脈位置での前記閉塞の位置の確率の分類器を作り出すステップ; 前記分類器を動作させて、最も高い確率を有する閉塞の位置を特定するステップ;及び 閉塞部位でありそうな特定の冠動脈位置をユーザに対して特定するステップ;」を有しているのに対し、引用発明は、このようなステップを有していない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑み上記相違点2について検討する。 上記相違点2に係る本願発明1の構成、とりわけ、「前記ECG測定結果を用いて、異なる複数の冠動脈位置での前記閉塞の位置の確率の分類器を作り出すステップ」及び「前記分類器を動作させて、最も高い確率を有する閉塞の位置を特定するステップ」に相当する構成は、上記引用文献2?5(上記「第4 2.」を参照。)に記載も示唆もされていないし、また、周知技術乃至は当業者が適宜行い得る設計的事項とする理由もないことから、当業者といえども、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項から、上記相違点2に係る本願発明1の構成を容易に想到することはできない。 したがって、上記相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 2.本願発明3?4、6?14について 本願発明3?4、6?14は、本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1、3?4、6?14は、当業者が引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-10-16 |
出願番号 | 特願2013-541456(P2013-541456) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A61B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 樋熊 政一 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
▲高▼橋 祐介 ▲高▼見 重雄 |
発明の名称 | nリード式ECGシステムの作動方法 |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 大貫 進介 |
代理人 | 伊東 忠彦 |