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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1333521
審判番号 不服2016-8015  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-01 
確定日 2017-10-12 
事件の表示 特願2013-542093「農薬調製物のための低毒性、低臭気、低揮発性溶媒」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月 7日国際公開、WO2012/074975、平成25年12月12日国内公表、特表2013-544284〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2011年11月29日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2010年12月3日 米国(US))を国際出願日とする出願であって,平成27年6月1日付けで拒絶理由が通知され,同年9月29日に意見書及び手続補正書が提出されたところ,平成28年2月12日付けで拒絶査定がされ,同年6月1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年6月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年6月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成28年6月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,平成27年9月29日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり補正する補正を含むものである。

補正前の請求項1である
「ピレスロイド、有糸分裂阻害剤、プロトポルフィリノーゲン-IXオキシダーゼ阻害剤、ブリーチャー除草剤、トリアゾール、ミトコンドリア電子伝達系阻害(METI)化合物、光合成阻害剤、殺虫剤、ニコチン受容体アゴニスト/アンタゴニスト化合物、殺菌・殺カビ剤、ストロビルリン、カルボキシアニリド、ALS阻害剤、植物成長調節剤、軟体動物防除剤、殺線虫剤、殺ダニ剤及びそれらの組み合わせより成る群から選ばれる型の1種もしくはそれより多い化合物を含んでなる5重量%?70重量%の農薬部分;ならびに
一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物を含んでなる30重量%?80重量%のエステル部分
を含んでなる農薬調製物。」を,
補正後の請求項1である
「ピレスロイド、有糸分裂阻害剤、プロトポルフィリノーゲン-IXオキシダーゼ阻害剤、ブリーチャー除草剤、トリアゾール、ミトコンドリア電子伝達系阻害(METI)化合物、光合成阻害剤、殺虫剤、ニコチン受容体アゴニスト/アンタゴニスト化合物、殺菌・殺カビ剤、ストロビルリン、カルボキシアニリド、ALS阻害剤、植物成長調節剤、軟体動物防除剤、殺線虫剤、殺ダニ剤及びそれらの組み合わせより成る群から選ばれる型の1種もしくはそれより多い化合物を含んでなる5重量%?70重量%の農薬部分;ならびに
一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物からなる30重量%?80重量%のエステル部分
を含んでなる農薬調製物」と補正する。

2 補正の適否
(1)補正の目的
上記補正は,補正前の請求項1の「エステル部分」が「一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物を含んでなる」ものから,「一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物からなる」ものとしたものであるから,上記「エステル部分」が限定されたものといえる。
そうすると,上記補正は,特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するための事項を限定するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件
請求項1に係る補正は,特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから,補正後の請求項1に記載されている事項により特定された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものでなければならないので以下検討する。

ア 刊行物1の記載事項
本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1である特開平10-130104号公報(原査定の引例1)には,以下の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】(a)ピリプロキシフェン及びピレスロイド化合物からなる群より選ばれる一種以上の農薬活性成分化合物1?60重量%、(b)界面活性剤2?15重量%、(c)一般式
【化1】Ar-X-COOR
又は一般式
【化2】RCOO-X-Ar
〔式中、Rは炭素数1?6の非芳香族基を表わし、Arは芳香族基を表わし、Xは単結合又は炭素数1?6のアルキレン基を表わす。〕で示される芳香族エステル溶媒の一種以上15?90重量%を含有することを特徴とする農薬乳剤。」
(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水で希釈して使用する際に乳化安定性に優れた乳濁液とすることのできる低刺激性の農薬乳剤に関するものである。」
(1c)「【0012】本発明において用いられる芳香族エステル溶媒において、化7及び化8におけるArは、通常、メチル基で置換されていてもよいフェニル基等であり、Xは、通常、単結合、メチレン基又はエチレン基等であり、Rは、通常、炭素数1?6のアルキル基等である。該芳香族エステル溶媒の好ましい具体例としては、酢酸ベンジル等のベンジルエステル、酢酸フェニル等のフェニルエステル、酢酸p-トリル等のトリルエステル、酢酸4-フェニルブチル等の4-フェニルブチルエステル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸イソアミル等の安息香酸エステル、2-メチル安息香酸エチル、2-メチル安息香酸メチル、3-メチル安息香酸エチル、4-メチル安息香酸エチル等のメチル安息香酸エステル、フェニルプロピオン酸エチル等のフェニルプロピオン酸エステル、フェニル酢酸エチル等のフェニル酢酸エステルなどが挙げられる。」
(1d)「【0013】本発明の農薬乳剤は、(a)農薬活性成分化合物、(b)界面活性剤、(c)芳香族エステル溶媒の他に、さらに、必要によりその他の溶媒、添加剤等を含有してもよい。該溶媒としては、例えば、キシレン、テトラメチルベンゼン等のアルキルベンゼン、メチルナフタレン等のアルキルナフタレン、ジフェニルエタン、ジキシリルエタン、フェニルキシリルエタンなどの芳香族炭化水素溶媒、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、カプリン酸メチル、オレイン酸メチル、オレイン酸イソブチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソアミル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸イソアミル、イソ吉草酸イソアミル、乳酸アミル、リノール酸メチル、リノレン酸メチル、ヤシ脂肪酸メチルなどの非芳香族エステル溶媒、大豆油、コーンオイル、菜種油、亜麻仁油、ヒマシ油、綿実油、落花生油、胡麻油などの植物油、脂肪族炭化水素溶媒、2-エチルヘキサノール等のアルコール溶媒、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン溶媒等が挙げられる。また、添加剤としては、例えば、3-/2-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソールやブチレイティドヒドロキシトルエン等の酸化防止剤、着色剤等が挙げられる。」
(1e)「【0015】
【実施例】本発明を実施例をあげてより具体的に示す。まず、本発明の農薬乳剤の製剤例を示す。尚、以下の例において、部は重量部を表わす。
製剤例1
ピリプロキシフェン11部、Soprophor 796/P (ローヌプーラン社製界面活性剤; HLBが13.5のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリアリールエーテル)1.25部、Geronol FE-4-E(ローヌプーラン社製界面活性剤;ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム50重量%を含有)3.75部、酢酸ベンジル22部及び Solvesso 150 (Exxon製;炭素数9?11の芳香族炭化水素溶媒)残部で全体を100部とし、よく混合して本発明の農薬乳剤を得た。
【0016】製剤例2
製剤例1において、酢酸ベンジル22部にかえて酢酸ベンジル44部を用いた以外は全て製剤例1と同様にして本発明の農薬乳剤を得た。
【0017】製剤例3
ピリプロキシフェン11部、Sorpol 3816 (東邦化学製界面活性剤)10部、酢酸ベンジル22部及び Solvesso 150 残部で全体を100部とし、よく混合して本発明の農薬乳剤を得た。
【0018】製剤例4
ピリプロキシフェン11部、Sorpol 3816 7部、酢酸ベンジル44部及び Solvesso 150 残部で全体を100部とし、よく混合して本発明の農薬乳剤を得た。
【0019】製剤例5
ピリプロキシフェン11部、T-MULZ PB High(Harcros 製界面活性剤)10部、酢酸ベンジル50部及び Solvesso 150 残部で全体を100部とし、よく混合して本発明の農薬乳剤を得た。
【0020】製剤例6
ピリプロキシフェン11部、Geronol FE-6-E(ローヌプーラン社製界面活性剤)7部、Geronol FE-4-E 3部、酢酸ベンジル50部及び Solvesso 150 残部で全体を100部とし、よく混合して本発明の農薬乳剤を得た。
【0021】製剤例7
ピリプロキシフェン11部、Geronol FE-6-E 7部、Geronol FE-4-E 3部及び酢酸ベンジル79部をよく混合して本発明の農薬乳剤を得た。
【0022】製剤例8
フェンバレレート5部、Soprophor 796/P 1.25部、Geronol FE-4-E 3.75部、酢酸ベンジル25部及び Solvesso 150 残部で全体を100部とし、よく混合して本発明の農薬乳剤を得た。
【0023】製剤例9
製剤例8において、フェンバレレート5部にかえてフェンバレレート11部を用いた以外は全て製剤例8と同様にして本発明の農薬乳剤を得た。
【0024】製剤例10
製剤例8において、フェンバレレート5部にかえてペルメトリン5部を用いた以外は全て製剤例8と同様にして本発明の農薬乳剤を得た。
【0025】製剤例11
製剤例5において、ピリプロキシフェン11部にかえてシペルメトリン11部を用いた以外は全て製剤例5と同様にして本発明の農薬乳剤を得た。
【0026】製剤例12
製剤例1において、酢酸ベンジル22部にかえて酢酸p-トリル22部を用いた以外は全て製剤例1と同様にして本発明の農薬乳剤を得た。
【0027】製剤例13
製剤例1において、酢酸ベンジル22部にかえて安息香酸プロピル22部を用いた以外は全て製剤例1と同様にして本発明の農薬乳剤を得た。」
(1f)「【0028】次に、本発明の農薬乳剤の水希釈時における安定性を試験例で示す。
試験例1
上記の製剤例1?7で得られた各々の本発明の農薬乳剤を、500ppm硬水を満たした 100ml有栓メスシリンダー内に 0.1ml入れた。次いで、各メスシリンダーを1分間に30回の速さで転倒し、内容液を均一に混合して静置した。静置後1時間経過した時点において、液の分離の有無を観察したところ、いずれの農薬乳剤においても液の分離は認められなかった。また、静置後2時間経過した時点においても同様に液の分離が認められなかった。
【0029】さらに、本発明の農薬乳剤の眼に対する刺激性試験を示す。
試験例2
上記の製剤例5で得られた本発明の農薬乳剤 0.1mlをウサギの眼に処理し、1秒間眼瞼を軽く閉じさせた後、約30秒後に 300mlのぬるま湯を噴射して1分間洗眼した。1週間後、角膜混濁の強さと広さとを調査したところ角膜の混濁は認められなかった。」

イ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には,「(a)ピリプロキシフェン及びピレスロイド化合物からなる群より選ばれる一種以上の農薬活性成分化合物1?60重量%、(b)界面活性剤2?15重量%、(c)一般式
【化1】Ar-X-COOR
又は一般式
【化2】RCOO-X-Ar
〔式中、Rは炭素数1?6の非芳香族基を表わし、Arは芳香族基を表わし、Xは単結合又は炭素数1?6のアルキレン基を表わす。〕で示される芳香族エステル溶媒の一種以上15?90重量%を含有することを特徴とする農薬乳剤。」がその請求項1に記載されている(摘記1a参照)。
そして,刊行物1には,この請求項1に記載される農薬乳剤の具体的な製造例として,
農薬活性成分化合物については, ピリプロキシフェンを11重量部用いた製造例1?7,12,13,ピレスロイド化合物であるフェンバレレートを5重量部用いた製造例8,フェンバレレートを11重量部用いた製造例9,ピレスロイド化合物であるペルメトリンを5重量部用いた製造例10,同じくピレスロイド化合物であるシペルメトリンを5重量部用いた製造例11が記載されている(摘記1e参照)。
また,界面活性剤については,それを5重量部用いた製造例1,2,8?10,12,13,それを10重量部用いた製造例3,5,6,7,11がそれぞれ記載されている(摘記1e参照)。
さらに,芳香族エステル溶媒については,酢酸ベンジル(RCOO-X-Arにおいて,Rが炭素数1の非芳香族(メチル)基,Arがフェニル基,Xが炭素数1のアルキレン基)を22重量部用いた製造例1,3,酢酸ベンジルを44重量部用いた製造例2,4,酢酸ベンジルを50重量部用いた製造例5,6,11,酢酸ベンジルを79重量部用いた製造例7,酢酸ベンジルを25重量部用いた製造例8?10,酢酸p-トリル(RCOO-X-Arにおいて,Rが炭素数1の非芳香族(メチル)基,Arがp-メチルフェニル基,Xが単結合)を22重量部用いた製造例12,安息香酸プロピル(Ar-X-COORにおいて,Rが炭素数3の非芳香族(プロピル)基,Arがフェニル基,Xが単結合)を22重量部用いた製造例13が記載されている(摘記1e参照)。
そうすると,上記請求項1に記載された発明である「農薬乳剤」について,その含有成分及びその含有量の範囲のすべてにわたって実際に製造できるように刊行物1に記載されているといえるから,
刊行物1には,請求項1に記載されたとおりの,
「(a)ピリプロキシフェン及びピレスロイド化合物からなる群より選ばれる一種以上の農薬活性成分化合物1?60重量%、(b)界面活性剤2?15重量%、(c)一般式
【化1】Ar-X-COOR
又は一般式
【化2】RCOO-X-Ar
〔式中、Rは炭素数1?6の非芳香族基を表わし、Arは芳香族基を表わし、Xは単結合又は炭素数1?6のアルキレン基を表わす。〕で示される芳香族エステル溶媒の一種以上15?90重量%を含有することを特徴とする農薬乳剤。」の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されているといえる。
また,刊行物1には,製造例7として,
「ピリプロキシフェン11部、Geronol FE-6-E 7部、Geronol FE-4-E 3部及び酢酸ベンジル79部を混合してなる農薬乳剤」の発明(以下「引用発明B」という。)も記載されているといえる。
さらに,刊行物1には,製造例13として,
「ピリプロキシフェン11部、Soprophor 796/P 1.25部、Geronol FE-4-E 3.75部及び安息香酸プロピル22部及びSolvesso 150 残部で全体を100部とし混合してなる農薬乳剤」の発明(以下「引用発明C」という。)も記載されているといえる。

ウ 対比・判断
ウ-1 引用発明Aを主引例とした場合
(ア)対比
引用発明Aの「ピリプロキシフェン」は,殺虫剤として使用されるものであるから,本願補正発明の「殺虫剤」に相当し,また,引用発明Aの「ピレスロイド化合物」は,本願補正発明の「ピレスロイド」に相当し,引用発明Aの「農薬活性成分化合物」は,本願補正発明の「農薬部分」に相当する。
引用発明Aの「一般式
【化1】Ar-X-COOR
〔式中、Rは炭素数1?6の非芳香族基を表わし、Arは芳香族基を表わし、Xは単結合又は炭素数1?6のアルキレン基を表わす。〕で示される芳香族エステル溶媒」は,「Rが,通常,炭素数1?6のアルキル基等」である(摘記1c参照)から,本願補正発明の「一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である」「化合物」であって,「エステル部分」に相当する。
また,引用発明Aの「農薬乳剤」は,調製物であることは明らかであるから,本願補正発明の「農薬調製物」に相当する。
そうすると,本願補正発明と引用発明Aとは,
「ピレスロイド、有糸分裂阻害剤、プロトポルフィリノーゲン-IXオキシダーゼ阻害剤、ブリーチャー除草剤、トリアゾール、ミトコンドリア電子伝達系阻害(METI)化合物、光合成阻害剤、殺虫剤、ニコチン受容体アゴニスト/アンタゴニスト化合物、殺菌・殺カビ剤、ストロビルリン、カルボキシアニリド、ALS阻害剤、植物成長調節剤、軟体動物防除剤、殺線虫剤、殺ダニ剤及びそれらの組み合わせより成る群から選ばれる型の1種もしくはそれより多い化合物を含んでなる農薬部分;ならびに
一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物を含んでなるエステル部分
を含んでなる農薬調製物」である点で一致し,
以下の点で一応相違している。
(i)本願補正発明では,「農薬部分」が「5重量%?70重量%」であるのに対して,引用発明Aでは,「農薬活性成分化合物」が「1?60重量%」である点
(ii)本願補正発明では,「エステル部分」が「一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物からなる」とともに「30重量%?80重量%」であるのに対して,引用発明Aは,「芳香族エステル溶媒」が「15?95重量%」であって,本願補正発明の「エステル部分」に相当する成分がほかに含まれているかが明確ではない点

(イ)相違点の検討
まず,相違点(i)についてみると,本願補正発明の「農薬成分」と引用発明Aの「農薬活性成分化合物」は,「5重量%?60重量%」の範囲でその含有量が重複しており,引用発明Aの具体的な態様である製造例1?13でも,「農薬活性成分化合物」を5,11重量部用いている(摘記1e参照)ことからすれば,本願補正発明の「農薬成分」と引用発明Aの「農薬活性成分化合物」の含有量の範囲が完全に一致するものでないとしても,そのことが実質的な相違点とはならない。
次に,相違点(ii)について検討すると,本願補正発明は,「エステル部分」が「一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物からなる」ものであることと,「エステル部分」が「30重量%?80重量%」であることの2つの構成要件を充足するものであれば,それ以外の溶媒などを含むものもその範囲に含まれるものである。実際,請求項1を引用する請求項5は,「5重量%?50重量%の乳化剤ブレンドをさらに含んでなる」ものであり,その請求項5を引用する請求項9は,「有機補助溶媒をさらに含んでなる」ものであるから,そのように解するのが相当である。
一方,引用発明Aは,「一般式
【化1】Ar-X-COOR
〔式中、Rは炭素数1?6の非芳香族基を表わし、Arは芳香族基を表わし、Xは単結合又は炭素数1?6のアルキレン基を表わす。〕で示される芳香族エステル溶媒」が15?90重量%であるものであるが,「本発明の農薬乳剤は、(a)農薬活性成分化合物、(b)界面活性剤、(c)芳香族エステル溶媒の他に、さらに、必要によりその他の溶媒、添加剤等を含有してもよい。」と記載される(摘記1d参照)ように,引用発明Aは,「芳香族エステル溶媒」のほかにその他の溶媒を含む態様も,含まない態様もその範囲に含まれているといえる。実際,引用発明Aの具体的な態様である製造例1?13では,芳香族エステル溶媒のほかに,「炭素数9?11の炭化水素溶媒」である「Solvesso 150」を含むものも存在する(摘記1e参照)が,これは本願補正発明の「エステル部分」には当たらないし,製造例7は,「芳香族エステル溶媒」のみでそのほかに溶媒を含まない態様が具体的に記載されている。
してみると,引用発明Aは,本願補正発明の「一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物からなる」に相当する「一般式
【化1】Ar-X-COOR
〔式中、Rは炭素数1?6の非芳香族基を表わし、Arは芳香族基を表わし、Xは単結合又は炭素数1?6のアルキレン基を表わす。〕で示される芳香族エステル溶媒」を「15?90重量%」含むものであって,そのほかに,本願補正発明の「エステル部分」に相当する成分を含むものではない。
また,本願補正発明の「エステル部分」と引用発明Aの「芳香族エステル溶媒」は,「30重量%?80重量%」の範囲でその含有量が重複しており,引用発明Aの具体的な態様である製造例2,5?7,11でも,「芳香族エステル溶媒」を30?80重量%の範囲内で用いている(摘記1e参照)ことからすれば,本願補正発明の「エステル部分」と引用発明Aの「芳香族エステル溶媒」の含有量の範囲が完全に一致するものでないとしても,そのことが実質的な相違点とはならない。
以上のとおり,相違点(i),(ii)はいずれも実質的な相違点とはいえないから,本願補正発明と引用発明Aとは同一である。
仮に,相違点(i),(ii)が実質的な相違点であるとしても,上述のとおり,刊行物1の記載に基づいて,引用発明Aにおいて,相違点(i),(ii)を構成することは当業者が容易になし得たことと認められ,その効果についてもその構成から当業者が予測可能なものであって,格別顕著なものとは認められない。

ウ-2 引用発明Bを主引例とした場合
(ア)対比
引用発明Bの「ピリプロキシフェン」は,本願補正発明の「殺虫剤」に相当し,本願補正発明の「農薬部分」に相当する。
引用発明Bの「酢酸ベンジル」は,エステルではあるので,本願補正発明の「エステル部分」に相当する。
引用発明Bの「農薬乳剤」は,本願補正発明の「農薬調製物」に相当する。
そうすると,本願補正発明と引用発明Bとは,
「ピレスロイド、有糸分裂阻害剤、プロトポルフィリノーゲン-IXオキシダーゼ阻害剤、ブリーチャー除草剤、トリアゾール、ミトコンドリア電子伝達系阻害(METI)化合物、光合成阻害剤、殺虫剤、ニコチン受容体アゴニスト/アンタゴニスト化合物、殺菌・殺カビ剤、ストロビルリン、カルボキシアニリド、ALS阻害剤、植物成長調節剤、軟体動物防除剤、殺線虫剤、殺ダニ剤及びそれらの組み合わせより成る群から選ばれる型の1種もしくはそれより多い化合物を含んでなる5重量%?70重量%の農薬部分;ならびに
エステル部分
を含んでなる農薬調製物」である点で一致し,
以下の点で一応相違している。
(iii)「エステル部分」が,本願補正発明では,「一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物からなる」とともに「30?80重量%」であるのに対して,引用発明Bでは,「酢酸ベンジル」が「79重量%」であって,本願補正発明の「エステル部分」に相当する成分がほかに含まれているかが明確ではない点

(イ)相違点の検討
引用発明Bの「酢酸ベンジル」は,刊行物1の請求項1に係る「農薬乳剤」における
「(c)一般式
【化1】Ar-X-COOR
又は一般式
【化2】RCOO-X-Ar
〔式中、Rは炭素数1?6の非芳香族基を表わし、Arは芳香族基を表わし、Xは単結合又は炭素数1?6のアルキレン基を表わす。〕で示される芳香族エステル溶媒」の一つの実施態様として記載されたものである(摘記1a,1e参照)から,同様の「農薬乳剤」を得るために,このような芳香族エステルとして,
「一般式
【化2】RCOO-X-Ar
〔式中、Rは炭素数1?6の非芳香族基を表わし、Arは芳香族基を表わし、Xは単結合又は炭素数1?6のアルキレン基を表わす。〕で示される」,「酢酸ベンジル」(Rが炭素数1の非芳香族(メチル)基,Arがフェニル基,Xが炭素数1のアルキレン基)に代えて,例えば,製造例13で実際に使用されている「安息香酸プロピル」に代表されるような
「一般式
【化1】Ar-X-COOR
〔式中、Rは炭素数1?6の非芳香族基を表わし、Arは芳香族基を表わし、Xは単結合又は炭素数1?6のアルキレン基を表わす。〕で示される」ものを用いることは当業者が容易に想到し得たことと認められる。
そして,引用発明Bに含まれる「Geronol FE-6-E」,「Geronol FE-4-E」は,ともに界面活性剤であって,「ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム」を主成分とするものである(摘記1e参照)から,本願補正発明の「エステル部分」に相当するものではなく,引用発明Bの「酢酸ベンジル」を上述のとおり,「一般式
【化1】Ar-X-COOR
〔式中、Rは炭素数1?6の非芳香族基を表わし、Arは芳香族基を表わし、Xは単結合又は炭素数1?6のアルキレン基を表わす。〕で示される」ものに置き換えることで,本願補正発明の「エステル部分」が「一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物からなる」とともに「30?80重量%」であることとなる。
そうすると,引用発明Bにおいて,刊行物1の記載に基づいて,相違点(iii)を構成することは当業者が容易になし得たことと認められる。
なお,引用発明Bの「ピリプロキシフェン」を刊行物1に記載される「ピレスロイド化合物」に代えることも,製造例8?11の記載(摘記1e参照)からみて当業者が容易になし得たことと認められる。

(ウ)本願補正発明の効果
本願補正発明の効果は,本願明細書の記載(【0013】等)からみて,低い毒性,低い生体内蓄積,優れた生分解性及び高い引火点を示しながら,乳剤又は分散系中の活性成分の優れた送達性を与えることにあるものと認められるが,このような効果があることについて定量的なデータによって示されるものではない。
そして,引用発明Bも「乳化安定性に優れた乳濁液とすることのできる低刺激性の農薬乳剤」であって(摘記1b参照),低刺激性(低い毒性)であることや水中で液の分離がなく乳液安定性に優れる(乳剤又は分散系中の活性成分の優れた送達性を与えること)の効果は具体的に確認されている(摘記1f)し,引火点の低い溶媒も含まないものであるから,上記の本願補正発明の効果は引用発明Bの構成そのものが必然的に有している効果か,当業者がその構成から当然に予測し得るものであるといえ,格別顕著なものということはできない。

ウ-3 引用発明Cを主引例とした場合
(ア)対比
引用発明Cの「ピリプロキシフェン」は,本願補正発明の「殺虫剤」に相当し,本願補正発明の「農薬部分」に相当する。
引用発明Cの「安息香酸プロピル」は,本願補正発明の「一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物」に相当し,本願補正発明の「エステル部分」に相当する。
引用発明Cの「農薬乳剤」は,本願補正発明の「農薬調製物」に相当する。
そうすると,本願補正発明と引用発明Cとは,
「ピレスロイド、有糸分裂阻害剤、プロトポルフィリノーゲン-IXオキシダーゼ阻害剤、ブリーチャー除草剤、トリアゾール、ミトコンドリア電子伝達系阻害(METI)化合物、光合成阻害剤、殺虫剤、ニコチン受容体アゴニスト/アンタゴニスト化合物、殺菌・殺カビ剤、ストロビルリン、カルボキシアニリド、ALS阻害剤、植物成長調節剤、軟体動物防除剤、殺線虫剤、殺ダニ剤及びそれらの組み合わせより成る群から選ばれる型の1種もしくはそれより多い化合物を含んでなる5重量%?70重量%の農薬部分;ならびに
一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物を含んでなるエステル部分
を含んでなる農薬調製物」である点で一致し,
以下の点で一応相違している。
(iv)「エステル部分」が,本願補正発明では,「一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物からなる」とともに「30重量%?80重量%」であるのに対して,引用発明Cでは,「安息香酸プロピル」が「22重量%」であって,本願補正発明の「エステル部分」に相当する成分がほかに含まれているかが明確ではない点

(イ)相違点の検討
引用発明Cの「安息香酸プロピル」の含有量については,刊行物1の請求項1に係る「農薬乳剤」における
「(c)一般式
【化1】Ar-X-COOR
又は一般式
【化2】RCOO-X-Ar
〔式中、Rは炭素数1?6の非芳香族基を表わし、Arは芳香族基を表わし、Xは単結合又は炭素数1?6のアルキレン基を表わす。〕で示される芳香族エステル溶媒の一種以上15?90重量%を含有する」ものの一つの実施態様として記載されたものである(摘記1a,1e参照)から,同様の「農薬乳剤」を得るために,その含有量を「22重量%」から,15?90重量%の範囲内,すなわち,製造例2,4?7,11のように44?79重量%とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。
そして,引用発明Cに含まれる「Soprophor 796/P」,「Geronol FE-4-E」は,ともに界面活性剤であって,それぞれ,「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリアリールエーテル」,「ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム」を主成分とするものである(摘記1e参照)から,本願補正発明の「エステル部分」に相当するものではない。また,「Solvesso 150 」も「炭素数9?11の炭化水素溶媒」である」から,本願補正発明の「エステル部分」に相当するものではない。
そうすると,引用発明Cでも,「エステル部分」が,「一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物からなる」ものであるといえ,引用発明Cにおいて,刊行物1の記載に基づいて,相違点(iv)を構成することは当業者が容易になし得たことと認められる。
なお,引用発明Cの「ピリプロキシフェン」を刊行物1に記載される「ピレスロイド化合物」に代えることも,製造例8?11の記載(摘記1e参照)からみて当業者が容易になし得たことと認められる。

(ウ)本願補正発明の効果
本願補正発明の効果は,上記ウ-2(ウ)で述べたとおりであるところ,引用発明Cも「乳化安定性に優れた乳濁液とすることのできる低刺激性の農薬乳剤」(摘記1b参照)であるから,上記の本願補正発明の効果は引用発明Cの構成が必然的に有している効果か,芳香族エステル溶媒の含有量を増加させることで必然的に得られる効果であるといえ,格別顕著なものということはできない。

エ 請求人の主張
(ア)請求人の主張の概要
引例1(審決注:「刊行物1」である。以下同じである。)の目的は乳化安定性の優れた低刺激性のピレスロイド農薬乳剤の提供であり,具体的にその効果が確認されているのは製造例8-11であるが,その溶媒は非芳香族酸エステルである酢酸ベンジルと引火点48℃のソルベッッソ150からなる。つまり,引例1では芳香族酸エステルの効果は確認されておらず,仮に,酢酸ベンジルと芳香族酸エステルを置き換えたとしても溶媒が芳香族酸エステルのみからなる農薬乳剤が記載されているとはいえない。
引例1の【0013】の「必要によりその他の溶媒・・・を含有してもよい。」との記載は,請求項1の「(a)・・・農薬活性成分化合物・・・(b)界面活性剤・・・(c)・・・で示される芳香族エステル溶媒・・・を含有することを特徴とする農薬乳剤。」の下線部分が(a),(b),(c)のみに係るのではなく,(c)成分の内容にも係っており,むしろ,溶媒が芳香族エステルのみである場合が排除されることを確認的に記載しているものと考えられる。
一方,本発明の農薬調製物においては,とりわけ燃料油溶媒に起因する低い引火点の課題が解決されているが,引例1は斯かる問題点とその解決の記載を欠くのみならず,低引火点の溶媒を使用する実施例において本発明の効果を反対教示するものである。

(イ)検討
刊行物1には,上記イで述べたとおり,農薬活性成分化合物については,ピレスロイド化合物のみならず,本願補正発明の「殺虫剤」に当たるピリプロキシフェンを使用した製造例1?7,12,13も記載され,芳香族エステル溶媒については,酢酸ベンジルのほかに,本願補正発明の「一般式CO(OR_(a))(R_(b))」に当たる安息香酸プロピルを使用した製造例13が記載され,また,芳香族エステル溶媒として他の溶媒を使用しない製造例7も記載されている(摘記1e参照)。
そうすると,刊行物1は,ピレスロイド化合物を用いた製造例8?11のみではなく,その他の製造例も考慮して,芳香族エステル溶媒として,安息香酸プロピルを使用した場合や芳香族エステル溶媒以外の溶媒を使用しない場合についても開示があると解するのが相当である。
また,刊行物1の【0013】の記載は,上記イでも述べたとおり,「本発明の農薬乳剤は、(a)農薬活性成分化合物、(b)界面活性剤、(c)芳香族エステル溶媒の他に、さらに、必要によりその他の溶媒、添加剤等を含有してもよい。」と記載される(摘記1d参照)ように,(a),(b),(c)成分の他に任意成分として別の溶媒等を含有してもよいとしか解することはできず,実際,製造例7では芳香族エステル溶媒である酢酸ベンジル以外に溶媒を含まないものが記載されている(摘記1e参照)ことからすれば,溶媒が芳香族エステルのみである場合が排除されることを確認的に記載しているわけではない。
また,上記ウ ウ-1(イ)でも述べたとおり,本願補正発明において,農薬調製物に有機補助溶媒を含む態様は排除されておらず,その有機補助溶媒には,本願明細書の記載(【0016】参照)からみて,Solvesso(登録商標)溶媒のような芳香族炭化水素が含まれ得るものであるから,燃料油溶媒に起因する低い引火点の課題の解決という本願補正発明の効果は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。

オ まとめ
以上のとおりであるから,本願補正発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明であるか,刊行物1に記載された発明に基いて当業者が本願優先日前に容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号に該当するか,同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 補正却下の決定のまとめ
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たしておらず,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,補正の却下の決定の結論のとおり,決定する。

第3 本願発明
平成28年6月1日付けの手続補正が却下されたので,本願の特許請求の範囲は,平成27年9月29日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載されたとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(本願発明)は以下のとおりである。

「ピレスロイド、有糸分裂阻害剤、プロトポルフィリノーゲン-IXオキシダーゼ阻害剤、ブリーチャー除草剤、トリアゾール、ミトコンドリア電子伝達系阻害(METI)化合物、光合成阻害剤、殺虫剤、ニコチン受容体アゴニスト/アンタゴニスト化合物、殺菌・殺カビ剤、ストロビルリン、カルボキシアニリド、ALS阻害剤、植物成長調節剤、軟体動物防除剤、殺線虫剤、殺ダニ剤及びそれらの組み合わせより成る群から選ばれる型の1種もしくはそれより多い化合物を含んでなる5重量%?70重量%の農薬部分;ならびに
一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物を含んでなる30重量%?80重量%のエステル部分
を含んでなる農薬調製物。」

第4 原査定における拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は.以下の理由1,2を含むものであって,
理由1は,本願発明は,その出願前(優先日前)に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないというものであり,
理由2は,本願発明は,その出願前(優先日前)に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基いて,その出願前(優先日前)にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり,
刊行物1として,特開平10-130104号公報が引用されている。

第5 当審の判断
当審は,原査定のとおり,本願は拒絶すべきものと判断する。その理由は以下のとおりである。

1 刊行物1の記載事項
刊行物1の記載事項は,上記「第2 2 (2)ア」に示したとおりである。

2 刊行物1に記載された発明
刊行物1の記載された発明は,上記「第2 2 (2)イ」に示したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,本願補正発明において,「エステル部分」が「一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物からなるもの」が「一般式CO(OR_(a))(R_(b))を有し、式中、R_(a)は1?8個の炭素原子の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であり、R_(b)は芳香族基である1種もしくはそれより多い化合物を含んでなる」ものとなったものであるから,本願発明は本願補正発明をすべて含むものである。
そうすると,上記「第2 2 (2)ウ」で述べたとおり,本願補正発明は,刊行物1に記載された発明と同一であるか,刊行物1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同様の理由により,本願発明も刊行物1に記載された発明と同一であるか,刊行物1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるといえ,本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当するか,同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号に該当するか,同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-10 
結審通知日 2017-05-17 
審決日 2017-05-30 
出願番号 特願2013-542093(P2013-542093)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
P 1 8・ 113- Z (A01N)
P 1 8・ 575- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 直裕江間 正起瀬下 浩一  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 井上 雅博
加藤 幹
発明の名称 農薬調製物のための低毒性、低臭気、低揮発性溶媒  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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