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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 B60C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B60C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C
管理番号 1333538
審判番号 不服2014-26370  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-24 
確定日 2017-10-31 
事件の表示 特願2010-215766号「航空機用空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年4月5日出願公開、特開2012-66798号、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年9月27日の出願であって、平成26年4月17日付けで拒絶の理由が通知され、平成26年6月17日に意見書および手続補正書が提出されたが、平成26年9月12日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされた。
これに対して、平成26年12月24日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、手続補正書が提出されたところ、平成28年2月1日付けで、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされた。
この審決に対して、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成28年(行ケ)第10068号、平成29年2月7日判決言渡)があったので、審理を再開し、平成29年7月6日付けで当審において拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、平成29年7月31日付けで意見書および手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は以下のとおりである。

本願の請求項1?6に係る発明は、以下の引用文献1?3に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2001-163008号公報
2.特開平8-230410号公報
3.特開平3-42303号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。

・拒絶理由1(サポート要件)
本願は、特許請求の範囲の記載が、下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

本願発明は、航空機に使用される空気入りタイヤに関する従来構造を念頭にその問題点を解決することを目的としているところ、当業者における出願時の技術常識を考えれば、たとえ、空気入りタイヤの一つとして航空機用のタイヤを具体例として明細書に記載していたとしても、請求項1?5に係る発明の範囲である、特に用途を限定しない空気入りタイヤまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。したがって、この出願の請求項1-5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

・拒絶理由2(明確性要件)
本願は、特許請求の範囲の記載が、下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

本願の請求項5に係る発明における「前記外側ベルトの前記切断端部における、該外側ベルトと前記内側ベルトとの層間距離をDと、」における、「層間距離D」は、その定義がなされておらず不明確である。
したがって、本願の請求項5に係る発明は明確でない。

・拒絶理由3(実施可能要件)
本願は、発明の詳細な説明の記載が、下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

段落【0041】の「図6(B)において、外側ベルト18の切断端部18Aにおける、該外側ベルト18と内側ベルト16との層間距離Dは」の記載内容と図6(B)の記載内容が一致しない(「切断端部18Aにおける」の部分は「タイヤ幅方向両端18B」の誤記か。)。
よって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

第4 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成29年7月31日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
一対のビード部間をトロイド状に跨って配設された少なくとも1層のカーカスと、
カーカスのタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ周方向に延びる複数の周方向主溝が形成されたトレッドと、
タイヤ径方向における前記カーカスと前記トレッドとの間に配設され、タイヤ赤道面に対し鋭角となる第1角度で交差すると共にタイヤ幅方向両端において折れ曲がることによりジグザグしながらタイヤ周方向に延びるコードが全領域に埋設されている少なくとも1層の内側ベルトと、
タイヤ径方向における該内側ベルトと前記トレッドとの間に配設され、前記タイヤ赤道面に対し前記第1角度よりも大きい鋭角の第2角度で交差するコードが全領域に埋設され、タイヤ幅方向両側の切断端部がタイヤ幅方向内側に折り返され、前記切断端部が前記周方向主溝のタイヤ径方向内側位置を避けて配置され、前記トレッドの接地幅をWとすると、両側の前記切断端部が、タイヤ赤道面から(0.15?0.35)Wの範囲に位置している少なくとも1層の外側ベルトと、
を有する航空機用空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記切断端部は、前記トレッドの前記タイヤ赤道面の両側で前記タイヤ赤道面に夫々最も近い2本の前記周方向主溝で区画された中央陸部のタイヤ径方向内側に配置されると共に、タイヤ幅方向に対向するように配置され、
該切断端部間には、タイヤ幅方向両端部が前記中央陸部のタイヤ径方向内側に配置された補完ベルトが配設されている請求項1に記載の航空機用空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記外側ベルトと前記補完ベルトとの間に、追加ベルトが包み込まれるように配設されている請求項2に記載の航空機用空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記補完ベルトのタイヤ幅方向両端部は、前記周方向主溝の位置を避けて配置されている請求項2又は請求項3に記載の航空機用空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記外側ベルトのタイヤ幅方向両端における、タイヤ径方向に互いに隣接する該外側ベルトの前記コードと前記内側ベルトの前記コードとのタイヤ径方向のコード間距離である層間距離をDとし、
前記外側ベルトの前記コードの径をdとすると、
D≧dである請求項1?請求項4の何れか1項に記載の航空機用空気入りタイヤ。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で加筆した。以下、同様である。
(1a)
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、航空機等に装着される高速重荷重用空気入りタイヤに関する。」
(1b)
「【0003】近年、航空機の大型化、タキシング速度の高速化に伴い、さらなる高速、重荷重での走行に耐えうる空気入りタイヤが要求されるようになってきた。
【0004】このため、本発明者は空気入りタイヤの諸性能を向上させるべく鋭意研究を行い、特に、高速で地上走行をする重荷重用空気入りタイヤにおいて、以下のようなことが生じていることを知見した。即ち、前述のような空気入りタイヤのトレッドゴムのゲージは周溝の溝底で最も薄いため、走行時にトレッド部の変形によって該溝底に大きな歪が生じるが、このような歪は、該溝底に最も近接するベルトプライのプライ端、通常は最外側切離しプライのプライ端に、大きな影響を与える。
【0005】ここで、前記最外側切離しプライのプライ端にはパンタグラフ効果等によって大きな歪が生じているため、前述の溝底に生じた歪の影響が付加されると、プライ端における歪がベルトプライ中で最大となり、この結果、該最外側切離しプライのプライ端においてセパレーションが発生し易くなりタイヤ耐久性が悪化することを知見した。」
(1c)
「【0007】前述のように最外側切離しプライのプライ端を周溝から幅方向外側あるいは幅方向内側に周溝の開口幅Hの 0.6倍超だけ離したので、走行時に周溝の溝底に大きな歪が発生しても、最外側切離しプライのプライ端はこの歪の影響をあまり受けることはなく、この結果、プライ端におけるセパレーションが効果的に抑制され、タイヤ耐久性が向上する。」
(1d)
「【0010】また、このタイヤ11は一方のビード部13から他方のビード部に亘って延びるトロイダル状をしたカーカス層21によって補強されており、このカーカス層21は互いに重なり合わされた1層以上、この実施形態では6層のカーカスプライ22から構成されている。これらのカーカスプライ22のうち、内層側の4層は前記ビード12の回りに折り返されたターンアッププライとなっており、また、外層側の2層は折り返し部の外側に沿ってビード12まで延びるダウンプライとなっている。そして、各カーカスプライ22内にはトレッドセンターEに実質上直交する(ラジアル方向に延びる)多数本のナイロン繊維等からなるテキスタイルコードが埋設されている。」
(1e)
「【0011】前記カーカス層21の半径方向外側にはトレッドゴム26が配置され、このトレッドゴム26の外表面には周方向に連続して延びる複数本、ここではトレッドゴム26の摩耗を均一とするため、6本の周溝27が幅方向に所定間隔離れて形成されている。ここで、これら周溝27には、通常主溝と呼ばれる広幅の溝、あるいは該主溝より狭い周方向の細溝が含まれる。」
(1f)
「【0012】29は前記カーカス層21とトレッドゴム26との間に配設され、周方向張力を負担するベルト層であり、このベルト層29は半径方向に積層された複数層のベルトプライ30から構成されている。そして、これら複数層のベルトプライ30は、高速重荷重に好適なタイヤ11を容易に得るために、カーカス層21に近接する側に位置する複数層、ここでは4層の無端プライ31と、該無端プライ31の半径方向外側に配置されている、即ち、トレッドゴム26に近接する側に位置する複数層、ここでは2層の切離しプライ32とから構成している。」
(1g)
「【0013】図1、2、3において、各無端プライ31は、1本以上、通常1本もしくは数本のコードをゴム被覆して構成したリボン状体33を準備し、このリボン状体33をほぼ1周する毎にプライ端34、35間を1度だけ往復させながら周方向に巻き付けるとともに、このような巻付けをリボン状体33間に隙間が生じないよう周方向にほぼリボン状体33の幅だけずらして多数回行うことで成形している。この結果、各無端プライ31内には両プライ端34、35において交互に逆方向に折れ曲がることでジグザグしながらほぼ周方向に延びるコード36が、該無端プライ31の全領域においてほぼ均一に埋設されることになる。
【0014】そして、前述のような方法によって無端プライ31を成形すると、コード36が2重となるため、1度に2層の無端プライ31が層間でコード36が互いに交差して成形されることになるが、これら2層の無端プライ31は幅方向両端が閉じていて(端縁同士が連続していて)、コード36が切離し端を有していない編上げ状プライ構造を呈する。ここで、リボン状体33をプライ端34、35において折り曲げる際、この実施形態においては弧状としているが、プライ端34、35に沿って周方向に延びる短い直線部分を設けるようにしてもよい。
【0015】また、前述のようにリボン状体33をほぼ1周させる毎にプライ端34、35間を1度だけ往復させるようにすると、コード36はトレッドセンターEに対して小角度、即ち 5度から15度の角度の範囲内で交差する。ここで、前述したコード36としては、ナイロン繊維等のテキスタイルコードが使用される。
【0016】そして、このような無端プライ31は、プライ端部にコード36の切断端がないので、プライ端34、35での層間せん断歪が大幅に低減し、プライ端34、35におけるセパレーション発生を抑制することができる。しかも、このような層間せん断歪の低減によりコード36のトレッドセンターEに対する交差角を小さくすることができ、これにより、タイヤの軽量化を図ることができる。さらに、プライ端部でのコード36の延在方向が周方向に近い角度となるため、周方向の引張り剛性が増加し、タイヤの高速性能(例えば、耐スタンディングウエーブ性能)が向上する。」
(1h)
「【0017】各切離しプライ32内にはトレッドセンターEに対して同一の所定角度、例えば10?35度の角度で傾斜した多数本のコードが全領域においてほぼ均一に埋設されているが、これらコードは両プライ端38において終了、即ち切断端が露出していている。そして、これら切離しプライ32のうち、少なくとも2枚は層間でコード同士が互いに交差するように、即ち逆方向に傾斜するよう配置されている。ここで、前述したコードとしては、ナイロン繊維等のテキスタイルコードが使用される。
【0018】前記切離しプライ32のうち、半径方向最外側に配置されている最外側切離しプライ32aは、通常、そのプライ端38が幅方向最外側に配置されている周溝27a、ここではサード主溝に最も近接して配置されており、この結果、該最外側切離しプライ32aのプライ端38には前述のように周溝27aの溝底に発生した歪の影響が付加され、切離しプライ32の中ではプライ端38における歪が最大となるおそれがある。
【0019】このため、この実施形態では、最外側切離しプライ32aの半幅(トレッドセンタ?Eからプライ端38までの軸方向距離)をC、トレッドセンターEから前記周溝27aの幅方向中央までの軸方向距離をG、前記周溝27aの開口幅をHとしたとき、C>G+ 0.6HもしくはC<G- 0.6Hの関係を満足するよう、即ち、最外側切離しプライ32aのプライ端38が周溝27aの幅方向中央から幅方向外側あるいは幅方向内側に周溝27aの開口幅Hの 0.6倍を超えて離れるよう、これら最外側切離しプライ32aの半幅C、周溝27aのトレッドセンターEからの距離G(配置位置)を決定している。
【0020】このようにすれば、走行時に周溝27aの溝底に大きな歪が発生しても、最外側切離しプライ32aのプライ端38はこの歪の影響をあまり受けることはなく、この結果、該プライ端38におけるセパレーションが効果的に抑制され、タイヤ耐久性が向上する。特に、前記周溝27aが前述のように広幅の主溝であるときには、その溝底は変形し易いため、かなり大きな歪が発生するが、このような主溝から最外側切離しプライ32aのプライ端38を離して該歪の影響を効果的に弱めれば、セパレーションをより確実に抑制することができる。」
(1i)上記(1f)及び図2から、「無端プライ31」および「最外側切離しプライ32a」は、いずれも、カーカス層21とトレッドゴム26との間に配設されていることが看取できる。
(2)上記、上記(1a)?(1i)および図1?3から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「一方のビード部13から他方のビード部に亘って延びるトロイダル状をしたカーカス層21と、
カーカス層21の半径方向外側に配置され、外表面には周方向に連続して延びる6本の周溝27が幅方向に所定間隔離れて形成されているトレッドゴム26と、
カーカス層21とトレッドゴム26との間に配設され、トレッドセンターEに対して5度から15度の角度の範囲内で交差する、両プライ端34、35において交互に逆方向に折れ曲がることでジグザグしながらほぼ周方向に延びるコード36が、全領域においてほぼ均一に埋設される無端プライ31と、
カーカス層21とトレッドゴム26との間で無端プライ31の半径方向外側に配設され、トレッドセンターEに対して同一の所定角度10?35度の角度で傾斜した多数本のコードが全領域においてほぼ均一に埋設され、これらコードは両プライ端38において切断端が露出し、プライ端38が周溝27aの幅方向中央から幅方向外側あるいは幅方向内側に周溝27aの開口幅Hの 0.6倍を超えて離れるよう、配置位置を決定している、最外側切離しプライ32aと、
を有する航空機等に装着される高速重荷重用空気入りタイヤ。」

2.引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には図面とともに次の事項が記載されている。
(2a)
「【0012】
【発明が解決しようとする課題】この発明はクロスプライ構造における耐摩耗性、発熱性、タイヤの成長の問題点を解消するもので、ラジアル構造を基本とし、カーカスコード、ベルトコードに特定の引張弾性率を有するコードを用いるとともに、ベルト層、クッションゴム及びビードエーペックスを特定構造とすることにより、従来のラジアル構造の欠点である航空機の離着陸時の衝撃緩和効果を高めかつベルト層両端の損傷を防止し、ラジアル構造の航空機タイヤの耐久性を全体的に高めた航空機タイヤを提供することを目的とする。」
(2b)
「【0022】なお本発明では、ベルト層のコードに比較的低弾性率のコードを用いるためベルト層の“タガ効果”が低下する傾向にあり、しかもベルト層端部での損傷を招き易い。したがって本発明ではベルト層を折り返したプライを1枚以上含ませて構成する。
【0023】ここで折り返したプライとは図3(イ)?図3(ニ)に示す如く、各種の構成のものが採用できる。図3(イ)はプライの両端を一方の側に折返した構造、図3(ロ)はプライの一端のみを一方の側に折り返し短い折り返し部TIを有する構造、図3(ハ)は一端のみを折り返し、上側のプライと下側のプライの長さをほぼ同じとした場合、図3(ニ)は1枚のプライで2ケ所の折り返し部を形成した構造、図3(ホ)は、プライの両端をそれぞれ反対方向に折り返して短い折り返し部Ta、Tbを形成した構造を示している。
【0024】本発明は、これらのプライ1種以上、更にこれらのプライに折り返していないプライを混在させて、ベルト層が形成されるが、該ベルト層の両端部は前記折り返しプライの折り返し部が位置するように成形することが好ましい。
【0025】次に前記ベルト層のコードの角度はタイヤ周方向に対して30°以下、好ましくは10°?20°の範囲に配列される。一般にベルト層のコードは“タガ効果”とトレッド部の“エンベロープ効果”の調整を図って15°?45°の範囲に設定されていたが、特に航空機用タイヤでは超高速回転にともなう遠心力によってタイヤクラウン部が突出する現象、タイヤの成長の問題があり、この現象を長時間継続するとタイヤの成長状態で永久セットされ、発熱性が大きくなり耐久寿命は著しく低下することになる。
【0026】したがって、上記観点からベルト層のコードをタイヤ周方向に対して上述の如く比較的低い範囲に配列すること、更にタガ効果の面からは、タイヤ周方向にコードを0°に配列したバンドと併用することが好ましい。但し、高速回転時のトレッド部の変形を抑制するための採用する0°バンドは、トレッド両端部における拘束力が少ないので、トレッドショルダー部の膨張変形に対する効果は少なくない。また0°バンドでは、地上走行におけるコーナリングフォースが低く操縦性が悪い。そこで、トレッドショルダー部の補強性を高めかつ、良好な地上走行操縦性を維持するための、ベルト層は一定のコード角度を有し、そのプライ両端部が折り返されていることが一層望ましい。
【0027】この場合、前記ベルト層は、10°?30°の角度でコードを配列し、該ベルトプライの両端を折り返した折り返し部がトレッドのショルダー部に位置するように形成するのが好ましい。ベルトの両端部を折り返す場合コードの角度が10°より小さいと該端部の剛性を高めタイヤ周方向の拘束力を高める効果はあるが、タイヤ軸方向の相互作用に係わる力が小さく、折り返し部で重なる部分のコード角度の交差によりショルダー部を効果的に把握する作用が乏しくなる。」
(2)上記(2a)、(2b)および図面から、引用文献2には、「タガ効果を維持し、ベルト層両端の損傷を防止するために、ベルトプライの両端を折り返し、その折り返し部がトレッドのショルダー部に位置するように形成する」技術事項(以下、「引用文献2に記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「一方のビード部13から他方のビード部に亘って延びるトロイダル状をしたカーカス層21」は、本願発明1の「一対のビード部間をトロイド状に跨って配設された少なくとも1層のカーカス」に相当する。
イ 引用発明の「カーカス層21の半径方向外側に配置され、外表面には周方向に連続して延びる6本の周溝27が幅方向に所定間隔離れて形成されているトレッドゴム26」は、本願発明1の「カーカスのタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ周方向に延びる複数の周方向主溝が形成されたトレッド」に相当する。
ウ(ア)引用発明の「カーカス層21とトレッドゴム26との間に配設され」ることは、本願発明1の「タイヤ径方向におけるカーカスとトレッドとの間に配設され」ることに相当する。
(イ)引用発明の「トレッドセンターE」は、本願発明1の「タイヤ赤道面」に相当し、引用発明の「トレッドセンターEに対して5度から15度の角度の範囲内で交差する」ことは、本願発明1の「タイヤ赤道面に対し鋭角となる第1角度で交差する」ことに相当する。
(ウ)引用発明の「両プライ端34、35」は、プライの幅方向端部であるのは明らかなので、「両プライ端34、35において交互に逆方向に折れ曲がることでジグザグしながらほぼ周方向に延びる」ことは、本願発明1の「タイヤ幅方向両端において折れ曲がることによりジグザグしながらタイヤ周方向に延びる」ことに相当する。
(エ)以上の相当関係から、引用発明の「トレッドセンターEに対して5度から15度の角度の範囲内で交差する、両プライ端34、35において交互に逆方向に折れ曲がることでジグザグしながらほぼ周方向に延びるコード36」は、本願発明1の「タイヤ赤道面に対し鋭角となる第1角度で交差すると共にタイヤ幅方向両端において折れ曲がることによりジグザグしながらタイヤ周方向に延びるコード」に相当し、引用発明の「カーカス層21とトレッドゴム26との間に配設され」、前記の「コード36」が、「全領域においてほぼ均一に埋設される無端プライ31」は、本願発明1の「タイヤ径方向における前記カーカスと前記トレッドとの間に配設され」、前記の「コード」が、「全領域に埋設されている少なくとも1層の内側ベルト」に相当する。
エ(ア)引用発明の「カーカス層21とトレッドゴム26との間で無端プライ31の半径方向外側に配設され」ることは、本願発明1の「タイヤ径方向における内側ベルトとトレッドとの間に配設され」ることに相当する。
(イ)引用発明の「トレッドセンターEに対して同一の所定角度10?35度の角度で傾斜した多数本のコード」は、本願発明1の「タイヤ赤道面に対し第1角度よりも大きい鋭角の第2角度で交差するコード」と、「タイヤ赤道面に対し鋭角の第2角度で交差するコード」である限度で共通する。
(ウ)引用発明の「これらコード」の「切断端が露出し」た「両プライ端38」は、本願発明1の「タイヤ幅方向両側の切断端部」に相当する。
(エ)以上の相当関係から、引用発明の「カーカス層21とトレッドゴム26との間で無端プライ31の半径方向外側に配設され、トレッドセンターEに対して同一の所定角度10?35度の角度で傾斜した多数本のコードが全領域においてほぼ均一に埋設され、これらコードは両プライ端38において切断端が露出し、プライ端38が周溝27aの幅方向中央から幅方向外側あるいは幅方向内側に周溝27aの開口幅Hの 0.6倍を超えて離れるよう、配置位置を決定している、最外側切離しプライ32a」は、本願発明1の「タイヤ径方向における該内側ベルトと前記トレッドとの間に配設され、前記タイヤ赤道面に対し前記第1角度よりも大きい鋭角の第2角度で交差するコードが全領域に埋設され、タイヤ幅方向両側の切断端部がタイヤ幅方向内側に折り返され、前記切断端部が前記周方向主溝のタイヤ径方向内側位置を避けて配置され、前記トレッドの接地幅をWとすると、両側の前記切断端部が、タイヤ赤道面から(0.15?0.35)Wの範囲に位置している少なくとも1層の外側ベルト」と、「タイヤ径方向における該内側ベルトと前記トレッドとの間に配設され、前記タイヤ赤道面に対し鋭角の第2角度で交差するコードが全領域に埋設された、少なくとも1層の外側ベルト」である限度で共通する。
オ 引用発明の「航空機等に装着される高速重荷重用空気入りタイヤ」は、本願発明1の「航空機用空気入りタイヤ」に相当する。
カ そうすると、本願発明1と引用発明との一致点および相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「一対のビード部間をトロイド状に跨って配設された少なくとも1層のカーカスと、
該カーカスのタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ周方向に延びる複数の周方向主溝が形成されたトレッドと、
タイヤ径方向における前記カーカスと前記トレッドとの間に配設され、タイヤ赤道面に対し鋭角となる第1角度で交差すると共にタイヤ幅方向両端において折れ曲がることによりジグザグしながらタイヤ周方向に延びるコードが全領域に埋設されている少なくとも1層の内側ベルトと、
タイヤ径方向における該内側ベルトと前記トレッドとの間に配設され、前記タイヤ赤道面に対し鋭角の第2角度で交差するコードが全領域に埋設された、少なくとも1層の外側ベルトと、
を有する航空機用空気入りタイヤ。」
<相違点1>
本願発明1は、「外側ベルト」を構成する「コード」のタイヤ赤道面に対する「第2角度」が、「内側ベルト」を構成する「コード」のタイヤ赤道面に対する「第1角度よりも大きい」と特定されているのに対して、引用発明は、「最外側切離しプライ32a」を構成する「コード」が「トレッドセンターEに対して同一の所定角度10?35度の角度で傾斜」し、「無端プライ31」を構成する「コード36」が「トレッドセンターEに対して5?15度の角度の範囲内で交差する」ものである点。
<相違点2>
本願発明1は、「外側ベルト」が「タイヤ幅方向両側の切断端部がタイヤ幅方向内側に折り返され」るものであり、その「切断端部が周方向主溝のタイヤ径方向内側位置を避けて配置され、トレッドの接地幅をWとすると、両側の切断端部が、タイヤ赤道面から(0.15?0.35)Wの範囲に位置している」と特定されているのに対して、引用発明は、「最外側切離しプライ32a」が「コードが両プライ端38において切断端が露出し、プライ端38が周溝27aの幅方向中央から幅方向外側あるいは幅方向内側に周溝27aの開口幅Hの 0.6倍を超えて離れるよう、配置位置を決定している」ものである点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
ア 引用文献2に記載の技術事項は、航空機等に装着される高速重荷重用空気入りタイヤに関するものであって、航空機の離着陸時の衝撃緩和効果を高めるために、比較的低弾性率のコードを用いたが、これによってタガ効果の低下が生じるので、コードを周方向に比較的浅い角度(10度?30度)とすることによってタガ効果の低下を防止しようとしたところ、これによって、トレッド両端部における拘束力が低下してしまうのを、折り返し部でコードを重ねることによって補強し、ベルト層両端部の損傷を防止することを目的とするためである(上記「第5 2.(1)(2a)、(2b)」、参照。)。
したがって、引用文献2に記載の技術事項に接した当業者は、同技術事項は、航空機用タイヤであって、ベルト層のコードをタイヤ周方向に比較的浅い角度(10度?30度)に配列したものが有する、トレッド両端部における拘束力の低下という問題点を解決するものであると理解しうる。
一方、引用発明は、航空機用タイヤに関するものであって、「最外側切離しプライ32a」には、多数本のコードが「トレッドセンターEに対して同一の所定角度10?35度の角度で傾斜して」埋設されているから(上記、「第5 1.(1)(1h)」、参照。)、当業者は、引用発明に係るタイヤは、トレッド両端部における拘束力の低下という問題点を有するものと理解し、技術分野が共通するとともに同じ問題点を解決する引用文献2に記載の技術事項を適用することにより、当該問題点を解決しようとする動機づけは十分にあるといえる。
よって、引用発明に引用文献2に記載の技術事項を適用することは当業者にとって容易に想到し得たものであるといえる。
イ ところで、引用文献2に記載の技術事項は、上記のようにトレッド両端部における拘束力の低下という問題点を、ベルトプライの両端を折り返し、その折り返し部をトレッドのショルダー部に位置するように配置することにより解決するものであるから、ベルトプライの折り返し部がトレッドのショルダー部に位置すれば足りる。そして、トレッドのショルダー部とは航空機用空気入りタイヤの分野においては、トレッドの端部をいうものと解するのが一般的であるから、当業者が引用発明に引用文献2に記載の技術事項を適用するに当たっては、ベルトプライの折り返し部がトレッド端部に位置するように配置すれば足りる。したがって、引用発明に引用文献2に記載の技術事項を適用しても、相違点1に係る本願発明1の構成、特に、外側ベルトの切断端部を、タイヤの赤道面から0.15?0.35Wの範囲に位置させるという構成には至らない。
ウ さらに、引用文献2に記載の技術事項の目的を達成するために必要なベルトの折り返し幅は、低弾性率のコードを比較的浅い角度で配置することによって生じるトレッド両端部における拘束力の低下を防ぐ程度のもので必要かつ十分であって、引用文献2はその目的以外に折り返し幅を調整することを示唆しないから、当業者は、引用文献2に記載の技術事項を適用した引用発明において、ベルトプライの切断端部の位置を赤道面やトレッドショルダー部との距離に応じて調整するとの発想には至らない。
エ したがって、引用発明において、相違点2に係る本願発明1の構成に想到することは引用文献2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。
オ また、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3にも、相違点2に係る本願発明1の構成についての記載も示唆もない。
オ そして、本願発明1は、相違点2の構成を有することにより、外側ベルトの両端でのセパレーションの発生を抑制できるとともに、タイヤ耐圧性や、遠心力による迫出し時のひずみの集中を避け、また、せん断ひずみの集中を避けるという格別の作用効果を奏するものである(本願明細書段落【0009】,【0010】、参照。)。
カ したがって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献2に記載の技術事項および引用文献3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2.本願発明2?5について
本願発明2?5は、本願発明1を減縮した発明である。したがって、本願発明1と同様の理由により、引用発明、引用文献2に記載の技術事項および引用文献3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 原査定についての判断
本願発明1?5は、「外側ベルト」の「切断端部が周方向主溝のタイヤ径方向内側位置を避けて配置され、トレッドの接地幅をWとすると、両側の切断端部が、タイヤ赤道面から(0.15?0.35)Wの範囲に位置している」という技術事項を有しており、当該技術事項は、上記「第6」に説示のとおり、原査定における引用文献1?3には、記載も示唆もされておらず、また、本願出願日前における周知の技術でもないので、本願発明1?5は、当業者であっても、原査定における引用文献1?3に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由についての判断
1.特許法第36条第1項について
平成29年7月31日付けの補正によって、請求項1?5において、「・・・航空機用タイヤ。」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。
2.特許法第36条第2項について
平成29年7月31日付けの補正によって、請求項5は、「前記外側ベルトのタイヤ幅方向両端における、タイヤ径方向に互いに隣接する該外側ベルトの前記コードと前記内側ベルトの前記コードとのタイヤ径方向のコード間距離である層間距離をDとし、
前記外側ベルトの前記コードの径をdとすると、
D≧dである請求項1?請求項4の何れか1項に記載の航空機用空気入りタイヤ。」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。
3.特許法第36条第4項について
平成29年7月31日付けの補正によって、補正前の段落【0041】における「・・・外側ベルト18の切断端部18Aにおける・・・」が、「・・・外側ベルト18のタイヤ幅方向両端18Bにおける・・・」に補正された結果、この拒絶の理由は解消した。
4.したがって、当審拒絶理由によっては本願を拒絶することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、本願発明1?5は、当業者が引用発明、引用文献2に記載の技術事項および引用文献3に記載の事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由および当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-16 
出願番号 特願2010-215766(P2010-215766)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B60C)
P 1 8・ 121- WY (B60C)
P 1 8・ 536- WY (B60C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梶本 直樹  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 平田 信勝
尾崎 和寛
発明の名称 航空機用空気入りタイヤ  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  

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