ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F |
---|---|
管理番号 | 1333606 |
審判番号 | 不服2016-97 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-01-04 |
確定日 | 2017-10-13 |
事件の表示 | 特願2010-279124「フォトレジストおよびその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年9月8日出願公開、特開2011-175241〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年12月15日(パリ条約による優先権主張2009年12月15日、米国)の出願であって、平成27年8月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年1月4日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされたものである。 そして、本件審判手続において、当審より平成28年10月28日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成29年3月1日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項に係る発明は、平成29年3月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「(a)1)樹脂、2)光活性成分、および3)8,000以下の重量平均分子量を有し、かつ樹脂1)よりも少なくとも5℃低いTgを有する樹脂;を含むフォトレジストを基体上の下地無機表面に適用し;並びに (b)フォトレジスト塗膜層をパターン化された活性化放射線に露光する; ことを含み、 前記樹脂3)が、重合単位として、ジエチレングリコールメタクリラート、ジエチレングリコールアクリラート、並びにエチレングリコールメタクリラート、エチレングリコールアクリラート、およびジエチレングリコールアクリラートの低級アルキルエーテルからなる群から選択される軟質モノマーを含む、フォトレジストレリーフ像を形成する方法。」 第3 当審において通知した拒絶の理由 当審より平成28年10月28日付けで通知した拒絶理由(以下「先の拒絶理由」という。)は、概ね次のとおりである。 1 本願の請求項1?4に係る発明は、その優先日前に日本国内または外国において頒布された引用文献(特開2004-302198号公報)に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2 本願の明細書に記載された実施例で用いられている重量平均分子量及びTgの不明な樹脂のみでは、特許請求の範囲に記載されたフォトレジスト組成物に関して、明細書に記載された効果を裏付ける実データが全く開示されていないことになるから、請求項1?4に係る発明が、本願の明細書に記載された課題を解決し得るかは明らかでない。また、本願の明細書に記載された実施例において、具体的な重量平均分子量及びガラス転位点が不明であるから、本願の明細書に記載された課題を解決し得るフォトレジスト組成物を過度の試行錯誤無く、当業者が実施し得る程度の記載がなされているとは認められない。 よって、本願は特許法36条6項1号及び4項1号に規定する要件を満たしていない。 第4 当審の判断 1 進歩性欠如(29条2項)について (1)引用文献の記載 先の拒絶理由において引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献(特開2004-302198号公報)には、次の事項が記載されている(下線は審決にて付した。)。 ア 「【請求項1】 ガラス転移温度が5℃以上異なる、アクリル酸誘導体モノマーに由来する繰り返し単位及びメタクリル酸誘導体モノマーに由来する繰り返し単位の少なくともいずれかを含有し、更に脂環構造及び酸の作用により分解しアルカリ現像液への溶解性を増加させる基を含有する樹脂を少なくとも2種と活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物を含有することを特徴とするポジ型レジスト組成物。」 イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、IC等の半導体製造工程、液晶、サーマルヘッド等の回路基板の製造、さらにその他のフォトファブリケーション工程に使用されるポジ型レジスト組成物に関するものである。さらに詳しくは250nm以下の遠紫外線などの露光光源、および電子線などによる照射源とする場合に好適なポジ型レジスト組成物に関するものである。」 ウ 「【0002】 【従来の技術】 化学増幅系ポジ型レジスト組成物は、遠紫外光等の放射線の照射により露光部に酸を生成させ、この酸を触媒とする反応によって、活性放射線の照射部と非照射部の現像液に対する溶解性を変化させ、パターンを基板上に形成させるパターン形成材料である。 【0003】 ArFレジストプロセスでは120nm以下のコンタクトホールの形成が望まれている。しかしながら、ArFレジストの完成度はこれまでのi線レジストやKrFエキシマレーザ用レジストに比べて完成度が低く、今後製造される可能性のあるNA0.90のArFエキシマレーザー露光機を用いても120nm以下のホールパターンを形成するのは困難だと考えられている。 これまで特許文献1(特開2002-196497号)などに、ヒドロキシスチレン樹脂を用いたレジスト組成物でフローベークプロセスのみで所望のホールサイズパターンを得るレジスト組成物が開示されている。しかし、ヒドロキシスチレン樹脂はArFエキシマレーザー光をほとんど透過させないために、ArFレジストとして全く利用できなかった。また、特許文献2(特開2000-159758号)、特許文献3(特開2000-330287号)、特許文献4(特開2000-338674号)、特許文献5(特開2002-161116号)等で脂環構造を含むArF露光用レジスト組成物が開示されているが、脂環構造を含むが故にガラス転移温度が150℃以上と高いため、現実的なフロー温度(200℃以下)ではレジストパターンは熱フローしなかった。 【0004】 また、露光分解前後でガラス転移温度の関係が逆転する酸分解性樹脂をブレンドしたレジスト組成物が特許文献6(特開2002-229210号)で開示されているが、例示される樹脂は全てスチレン構造を含んでいるために、ArFエキシマレーザー光に対する透過率が非常に低く、ArF露光コンタクトホール形成用レジストとしては必要な解像力が得られなかった。」 エ 「【0006】 【発明が解決しようとする課題】 従って、本発明の目的は、露光波長が200nm以下、特にArFエキシマレーザによる露光に適した、通常のパターン形成においても十分な解像力を示し、かつ、適切なフローベーク温度のみでパターン寸法を小さくすることが可能であり、フロー速度も適当でありフロー量が制御しやすいサーマルフロー適性を有するレジスト組成物を提供する。」 オ 「【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明は、下記構成のポジ型レジスト組成物であり、これにより本発明の上記目的が達成される。 【0008】 (1)ガラス転移温度が5℃以上異なる、アクリル酸誘導体モノマーに由来する繰り返し単位及びメタクリル酸誘導体モノマーに由来する繰り返し単位の少なくともいずれかを含有し、更に脂環構造及び酸の作用により分解しアルカリ現像液への溶解性を増加させる基を含有する樹脂を少なくとも2種と活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物を含有することを特徴とするポジ型レジスト組成物。 …… 【0013】 (4)当該2種の樹脂の一方の樹脂1のガラス転移温度が140℃未満であり、他方の樹脂2のガラス転移温度が140℃以上180℃未満であることを特徴とする上記(1)?(3)のいずれかに記載のポジ型レジスト組成物。 …… 【0019】 (8)半導体基板上に、上記(1)?(7)のいずれかに記載のポジ型レジスト組成物によりフォトレジスト膜を形成した後200nm以下の波長の放射線、電子線、X線、イオンビームによりパターン露光、加熱処理、現像処理を順次行い所望よりやや大きなコンタクトホールパターンを形成し、この半導体基板を120℃?200℃に加熱し、レジストパターンを熱フローさせることで所望のサイズのコンタクトホールパターンを形成するパターン形成方法。」 カ 「【0090】 樹脂は、上記の繰り返し単位以外に、ドライエッチング耐性や標準現像液適性、基板密着性、レジストプロファイル、さらにレジストの一般的な必要な特性である解像力、耐熱性、感度等を調節する目的で様々な繰り返し単位を含有することができる。 【0091】 このような繰り返し単位としては、下記の単量体に相当する繰り返し単位を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。 これにより、樹脂に要求される性能、特に、 (1)塗布溶剤に対する溶解性、 (2)製膜性(ガラス転移点)、 (3)アルカリ現像性、 (4)膜べり(親疎水性、アルカリ可溶性基選択)、 (5)未露光部の基板への密着性、 (6)ドライエッチング耐性、 等の微調整が可能となる。 このような単量体として、例えばアクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類等から選ばれる付加重合性不飽和結合を1個有する化合物等を挙げることができる。 【0092】 具体的には、以下の単量体を挙げることができる。 アクリル酸エステル類(好ましくはアルキル基の炭素数が1?10のアルキルアクリレート): アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸アミル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸-t-オクチル、クロルエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート2,2-ジメチルヒドロキシプロピルアクリレート、5-ヒドロキシペンチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ペンタエリスリトールモノアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等。 【0093】 メタクリル酸エステル類(好ましくはアルキル基の炭素数が1?10のアルキルメタアクリレート): メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、クロルベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、5-ヒドロキシペンチルメタクリレート、2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等。」 キ 「【0107】 本発明に係る樹脂の重量平均分子量は、GPC法によりポリスチレン換算値として、好ましくは1,000?200,000であり、更に好ましくは3,000?20,000である。重量平均分子量が1,000未満では耐熱性やドライエッチング耐性が劣化する傾向があり、200,000を越えると現像性が劣化したり、粘度が極めて高くなるため製膜性が劣化する傾向がある。 分散度(Mw/Mn)は通常1?10であり、好ましくは1?5、更に好ましくは1?4の範囲のものが使用される。分散度の小さいものほど、解像度、レジスト形状、及びレジストパターンの側壁がスムーズであり、ラフネス性に優れる。 【0108】 本発明のレジスト組成物が含有する2種の樹脂は、Tgが5℃以上、より好ましくは5?70℃、特に好ましくは10?50℃異なる樹脂である。 モノマー種、分子量、分散度を適切に選択することで所望のTgが得られる。例えば、樹脂中のアクリル繰り返し単位比率を高めると、Tgは下がり、メタクリル繰り返し単位の比率を高めるとTgが高くなる。また、脂環構造を有する繰り返し単位の比率、分子量を高めると、Tgが高くなる。 本発明のレジスト組成物が含有する2種の樹脂の総量に対して、高いTgを有する樹脂が5?95質量%であることが好ましく、10?90質量%がより好ましく、20?80質量%が特に好ましい。 本発明のレジスト組成物が含有する樹脂の総量に対して、当該2種の樹脂の総量は、50?100質量%が好ましく、70?100質量%がより好ましい。」 ク 「【0199】 ≪使用方法≫ 本発明のポジ型レジスト組成物は、上記の成分を溶剤、好ましくは前記混合溶剤に溶解し、次のように所定の支持体上に塗布して用いる。 すなわち、上記ポジ型レジスト組成物を精密集積回路素子の製造に使用されるような基板(例:シリコン/二酸化シリコン被覆)上にスピナー、コーター等の適当な塗布方法により塗布する。 塗布後、所定のマスクを通して露光し、ベークを行い現像する。このようにすると、良好なレジストパターンを得ることができる。ここで露光光としては、好ましくは200nm以下の波長の遠紫外線であり、具体的には、ArFエキシマレーザー(193nm)、F2エキシマレーザー(157nm)、放射線、電子線、X線、イオンビーム等が挙げられる。 【0200】 熱フローにより所望のサイズのパターンを得る方法としては、半導体基板上または半導体基板上に無機膜もしくは有機膜による反射防止膜を形成した基板上に、本発明のレジスト組成物によりレジスト膜を形成した後、200nm以下の波長の遠紫外線(好ましくはArFエキシマレーザー光)、放射線、電子線、X線、イオンビームによりパターン露光、加熱処理、現像処理を順次行い所望よりやや大きなコンタクトホールパターン(例えば直径90?150nm)を形成し、この半導体基板を例えば120℃?200℃で30?120秒加熱し、レジストパターンを熱フローさせることで所望のサイズのコンタクトホールパターンを形成することができる。例えば、直径150nmのパターンから熱フローにより直径80nmのパターンを得ることができる。」 ケ 「【0202】 【実施例】 以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の合成例において、複数使用の溶剤の比は質量比、モノマー比、ポリマー組成比はモル比である。 …… 【0208】 合成例(6)樹脂(3-1)の合成 2-ノルボルニル-2-プロピルメタクリレート、3,5-ジヒドロキシ-1-アダマンタンメタクリレート、アダマンタンラクトンアクリレートを40/20/40の割合で仕込み、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/プロピレングリコールモノメチルエーテル=60/40に溶解し、固形分濃度22%の溶液450gを調製した。この溶液に和光純薬製V-601を1mol%加え、これを窒素雰囲気下、6時間かけて100℃に加熱したプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/プロピレングリコールモノメチルエーテル=60/40の混合溶液50gに滴下した。滴下終了後、反応液を2時間攪拌した。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、ヘキサン/酢酸エチル=9/1の混合溶媒5Lに晶析、析出した白色粉体を濾取し、目的物である樹脂(3-1)を回収した。 ^(13)CNMRから求めたポリマー組成比はa/b/c=43/19/38あった。また、GPC測定により求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量は9200、分散度は2.1であった。また、DSC測定を行った結果、樹脂(3-1)のガラス転移点は148℃であった。」 コ 「【0226】 合成例(24)樹脂(16-1)の合成 合成例(6)と同様の方法で重合を行い、目的物である樹脂(16-1)を得た。 ^(13)CNMRから求めたポリマー組成比はa/b/c/d=37/19/39/5あった。また、GPC測定により求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量は7560、分散度1.9であった。また、DSC測定を行った結果、樹脂(16-1)のガラス転移点は139℃であった。」 …… 【0231】 【化55】 …… …… 【0232】 【化56】 …… 【0234】 【化58】 …… 【0235】 【表1】 【0236】 〔実施例1〕 50質量部の合成例1-1のポリマーと65質量部の合成例11-2のポリマー、4.0質量部の光酸発生剤PAG1-12、0.2質量部の添加剤N-1、0.7質量部の界面活性剤W-1、460質量部のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、300質量部のシクロヘキサノンを混合し十分撹拌して溶解させた後、0.1μmのフィルターにて濾過しレジスト溶液を調製した。 BareSi基板に反射防止膜としてARC29A(日産化学製)をスピン塗布し205℃のホットプレートでプロキシミティーベークを60秒行い、78nmのARC29aの膜を基板上に形成した。この基板に上記で調整したレジスト溶液をスピン塗布し120℃のホットプレートでプロキシミティベークを90秒行い、300nmのレジスト膜を形成した。このウエハーをNA0.60のArFマイクロステッパーを用い露光量を変えながらした直後に120℃のホットプレートでプロキシミティ-ベークを90秒行い、引き続いて2.38%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサドの水溶液で60秒間現像、純水で15秒間リンスを行った後基板をスピン乾燥してレジストパターンを形成した(基板A)。基板Aと同様にしてレジストパターンを形成した基板を作成し、基板を150℃?180℃のホットプレートでプロキシミティベーク(フローベーク)を90秒行った(基板B)。基板Aで150nmのコンタクトホールが所望のサイズに形成する露光量を求め、その露光量でフローベーク温度が170℃である基板Bの150nmのコンタクトホールを観察したところ、ホール径が140nm以下ととなっていた。 【0237】 〔実施例2?21〕 表2に示す実施例2?21の組成についても、実施例1と同様な評価を行った。結果を表3に示す。全てのレジストがフローベーク温度180℃以下でホール径が5nm以上小さくなっており、サーマルフロー適性が確認できた。 【0238】 〔比較例1及び2〕 表2における比較例1及び2の組成についても、実施例1と同様に評価を行った。結果を表3に示す。フローベークが180℃でもホール径が5nm以上小さくならず、実用的なサーマルフロー適性が見られなかった。 【0239】 【表2】 」 サ 上記アないしコ(特にオ)によると、引用文献には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。 「 ガラス転移温度が5℃以上異なる、アクリル酸誘導体モノマーに由来する繰り返し単位及びメタクリル酸誘導体モノマーに由来する繰り返し単位の少なくともいずれかを含有し、更に脂環構造及び酸の作用により分解しアルカリ現像液への溶解性を増加させる基を含有する樹脂を少なくとも2種と活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物を含有するポジ型レジスト組成物であって、 当該2種の樹脂の一方の樹脂1のガラス転移温度が140℃未満であり、他方の樹脂2のガラス転移温度が140℃以上180℃未満であるポジ型レジスト組成物により、 半導体基板上にフォトレジスト膜を形成した後200nm以下の波長の放射線、電子線、X線、イオンビームによりパターン露光、加熱処理、現像処理を順次行い所望よりやや大きなコンタクトホールパターンを形成し、この半導体基板を120℃?200℃に加熱し、レジストパターンを熱フローさせることで所望のサイズのコンタクトホールパターンを形成するパターン形成方法。」 (2)対比 本願発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「ガラス転移温度」は、本願発明の「Tg」に相当する。 そして、引用発明の「ガラス転移温度が5℃以上異なる、アクリル酸誘導体モノマーに由来する繰り返し単位及びメタクリル酸誘導体モノマーに由来する繰り返し単位の少なくともいずれかを含有し、更に脂環構造及び酸の作用により分解しアルカリ現像液への溶解性を増加させる基を含有する」「少なくとも2種」の「樹脂」のうち、「ガラス転移温度が140℃以上180℃未満である」「他方の樹脂2」は、本願発明の「樹脂1)」に相当する。 イ 引用発明の「ガラス転移温度が5℃以上異なる、アクリル酸誘導体モノマーに由来する繰り返し単位及びメタクリル酸誘導体モノマーに由来する繰り返し単位の少なくともいずれかを含有し、更に脂環構造及び酸の作用により分解しアルカリ現像液への溶解性を増加させる基を含有する」「少なくとも2種」の「樹脂」のうち、「ガラス転移温度が140℃未満であ」る「一方の樹脂1」と、本願発明の「8,000以下の重量平均分子量を有し、かつ樹脂1)よりも少なくとも5℃低いTgを有する」「樹脂3)」とは、樹脂1)よりも少なくとも5℃低いTgを有する樹脂」である点で共通する。 ウ 引用発明の「活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物」は、本願発明の「光活性成分」に相当する。 エ 引用発明の「ポジ型レジスト組成物」、「半導体基板」、「200nm以下の波長の放射線、電子線、X線、イオンビーム」及び「パターン形成方法」は、本願発明の「フォトレジスト」、「基体」、「活性化放射線」及び「フォトレジストレリーフ像を形成する方法」にそれぞれ相当する。 そして、引用発明の「半導体基板上にフォトレジスト膜を形成した後200nm以下の波長の放射線、電子線、X線、イオンビームによりパターン露光、加熱処理、現像処理を順次行い所望よりやや大きなコンタクトホールパターンを形成し、この半導体基板を120℃?200℃に加熱し、レジストパターンを熱フローさせることで所望のサイズのコンタクトホールパターンを形成するパターン形成方法」と本願発明の「フォトレジストレリーフ像を形成する方法」は、「フォトレジストを基体」「に適用し」、「フォトレジスト塗膜層をパターン化された活性化放射線に露光する」「ことを含」む「フォトレジストレリーフ像を形成する方法」の点で共通する。 オ 以上によれば、両者は以下の点で一致する。 <一致点> 「(a)1)樹脂、2)光活性成分、および3)樹脂1)よりも少なくとも5℃低いTgを有する樹脂;を含むフォトレジストを基体に適用し;並びに (b)フォトレジスト塗膜層をパターン化された活性化放射線に露光する; ことを含む、フォトレジストレリーフ像を形成する方法。」 カ 他方、両者は以下の点で相違する。 <相違点1> 樹脂3)に関し、本願発明では、8,000以下の重量平均分子量を有し、重合単位として、ジエチレングリコールメタクリラート、ジエチレングリコールアクリラート、並びにエチレングリコールメタクリラート、エチレングリコールアクリラート、およびジエチレングリコールアクリラートの低級アルキルエーテルからなる群から選択される軟質モノマーを含むのに対し、引用発明では、そのような構成を有しているか不明である点。 <相違点2> 本願発明は、フォトレジストを基体「上の下地無機表面」に適用しているのに対して、引用発明は、「半導体基板上にフォトレジスト膜を形成」している点。すなわち、引用発明においては、「半導体基板」と「フォトレジスト膜」の間に無機層があるとは特定されていない点。 (3)判断 ア 相違点1について (ア)引用文献の段落【0235】の表1には、Tgが139℃、分子量が7560であり、その構造式が(16)である、樹脂番号(16-1)の樹脂が示されている。そして、段落【0208】、【0226】及び【0234】の記載を踏まえると、樹脂番号(16-1)の樹脂におけるdの繰り返し単位(右端のもの)は、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリラートに由来するものである(上記(1)ケ及びコを参照。)。 そして、上記樹脂番号(16-1)の樹脂は、そのTgからみて、引用発明の樹脂1の実施例に該当するところ、上記表1には、引用発明の樹脂2の実施例、すなわち上記樹脂番号(16-1)の樹脂とTgが5℃以上異なり、140℃以上180℃未満である樹脂として、樹脂番号(2-2)、(3-1)、(4-1)、(7-1)、(7-4)等が列挙されている。 してみると、引用発明において、樹脂1として樹脂番号(16-1)の樹脂を採用するとともに、樹脂2として樹脂番号(2-2)、(3-1)、(4-1)、(7-1)、(7-4)等の樹脂を適宜選択することは当業者が適宜なし得たことである。 (イ)他方、引用文献の段落【0090】ないし【0093】には、「ドライエッチング耐性や標準現像液適性、基板密着性、レジストプロファイル、さらにレジストの一般的な必要な特性である解像力、耐熱性、感度等を調節する目的で様々な繰り返し単位を含有することができ」、その様な繰り返し単位の単量体として「アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類」を採用し得ることが記載されている(上記(1)カを参照。)。加えて、引用文献の段落【0108】には、「モノマー種、分子量、分散度を適切に選択することで所望のTgが得られる。例えば、樹脂中のアクリル繰り返し単位比率を高めると、Tgは下がり、メタクリル繰り返し単位の比率を高めるとTgが高くなる。また、脂環構造を有する繰り返し単位の比率、分子量を高めると、Tgが高くなる。」と記載されているところ、樹脂番号(16-1)の樹脂は、Tgが139℃であり、樹脂1としては、Tgが比較的高い。 してみれば、引用発明において、樹脂1として樹脂番号(16-1)の樹脂を採用するにあたり、組成比5のモノマーの重合単位として、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリラートに代えてジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリラート(本願発明の「ジエチレングリコールアクリラートの低級アルキルエーテル」に相当。)を用い、かつ、分子量を高めないようにする(8000以下の重量平均分子量を維持する)ことは、引用文献の記載が示唆する設計変更にすぎない。 よって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 イ 相違点2について 引用発明は、「半導体基板上にフォトレジスト膜を形成した後200nm以下の波長の放射線、電子線、X線、イオンビームによりパターン露光」を行うものであるから、極めて微細なパターンを形成することを前提としたものである。そうしてみると、引用発明の半導体基板上に反射防止膜を設けることは必要不可欠と考えられるところ、半導体基板上に設ける反射防止膜として、無機反射防止膜は、例示するまでもなく周知である(なお、引用文献の段落【0200】においても、無機膜による反射防止膜が例示されている。)。 したがって、引用発明において半導体基板上に無機膜による反射防止膜を形成した上でフォトレジスト膜を形成すること、すなわち、フォトレジストを基体上の下地無機表面に適用することは、引用文献が示唆する範囲内の事項にすぎない。 ウ 本願発明の効果について 本願発明によってもたらされる効果を全体としてみても、引用発明から当業者が当然に予測できる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。 (4)意見書について 請求人は平成29年3月1日付けの意見書において、概略、引用文献に具体的に開示されている樹脂番号(16-1)の樹脂は、それよりも低いTgの樹脂と組み合わせて使用されていることを指摘し(段落【0239】)、引用文献には、低級アルキルエーテルを有する樹脂を低Tg樹脂として用いることが記載も示唆もされていないと主張する。 しかしながら、引用発明におけるポジ型レジスト組成物は、「当該2種の樹脂の一方の樹脂1のガラス転移温度が140℃未満であり、他方の樹脂2のガラス転移温度が140℃以上180℃未満である」ポジ型レジスト組成物である。したがって、樹脂番号(16-1)の樹脂は、引用発明ではTgが低い方の樹脂(樹脂1)として使用されるべきものである。 なお、引用文献の段落【0239】を参照すると、そこには、樹脂番号(7-3)の樹脂(Tg=139℃)を、それより低いTgの樹脂と組み合わせた例(実施例10:Tg=134℃の樹脂(10-2)と組み合わせた例)、及びそれより高いTgの樹脂と組み合わせた例(実施例8:Tg=152℃の樹脂(7-1)と組み合わせた例)の双方が開示されている。すなわち、引用文献には、Tgが140℃近辺の樹脂ならば、低Tg樹脂としても高Tg樹脂としても使用可能なことが開示されている。 (5)小括 以上のとおりであって、本願発明は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものである。 2 サポート要件違反(36条6項1号)について (1)本願の明細書には、次の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、イオン注入リソグラフィ用途に特に有用な、低Tg成分を含む新規のフォトレジストに関する。本発明のフォトレジストはSiON、酸化ケイ素、窒化ケイ素および他の無機表面のような下地無機表面に対して良好な接着性を示すことができる。 【背景技術】 【0002】 フォトレジストは基体に像を移すために使用される感光膜である。フォトレジストの塗膜層が基体上に形成され、次いで、フォトレジスト層は、フォトマスクを通して活性化放射線源に露光される。 【0003】 イオン注入技術は、半導体ウェハをドーピングするために使用されてきた。このアプローチによって、イオンビーム注入装置は真空(低圧)チャンバー内でイオンビームを生じさせ、そのイオンがウェハに向けられ、ウェハに「注入」される。 【0004】 しかし、現在のイオン注入方法では顕著な問題が生じている。とりわけ、注入リソグラフィプロトコルにおいては、フォトレジストは多くの場合有機下地層上に堆積されず、その代わりに無機層、例えば、酸窒化ケイ素(SiON)、SiO(酸化ケイ素)層上に堆積され、そして他の無機物質、例えば、Si_(3)N_(4)コーティングが半導体デバイス製造に、例えば、エッチストップ層および無機反射防止層として使用されてきた。例えば、米国特許第6,124,217号;第6,153,504号;および第6,245,682号を参照。 …… 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 SiONおよび他の無機基体層上での良好な解像度および接着性を提供する新規のフォトレジストシステムを有することが望まれている。 【課題を解決するための手段】 【0007】 ここで、本発明者は、1)有機低Tg成分、2)光酸不安定(photoacid-labile)基を含む樹脂、並びに3)1種以上の光酸発生剤化合物を好ましくは含む、新規なフォトレジスト組成物を提供する。本発明の好ましいレジストは、サブ300nm、およびサブ200nm波長、例えば、248nm、193nmおよびEUVをはじめとする短波長像形成に有用である。 【発明を実施するための形態】 【0008】 本発明のフォトレジストにおいて使用するための1種以上の低Tg樹脂は様々な設計のものであることができる。一形態においては、アクリラート単位を含む樹脂が好ましい。さらにより好ましくは、メタクリラート樹脂単位よりもアクリラート樹脂単位が、低Tg樹脂成分を提供するのに好ましい場合がある。 【0009】 特定の形態においては、本発明のフォトレジストの低Tg樹脂は、樹脂のTgを低減できる比較的「軟質」なモノマーの重合単位を含む。典型的な軟質モノマーには、ジエチレングリコールメタクリラート、およびジエチレングリコールアクリラート、並びに対応する低級アルキル(例えば、C_(1-4))エーテル、特にメチルエステル、例えば、CH_(2)=C(CH_(3))C(O)OCH_(2)CH_(2)OCH_(3)、CH_(2)=CHC(O)OCH_(2)CH_(2)OCH_(3)、CH_(2)=CHC(O)OCH_(2)CH_(2)OCH_(2)CH_(2)OCH_(3)、CH_(2)=C(CH_(3))C(O)OCH_(2)CH_(2)OCH_(2)CH_(2)OCH_(3)など;エチレングリコールメタクリラートおよびエチレングリコールアクリラート;4個以上の炭素、典型的には4?約16個の炭素を有するアルキルアクリラート、n-ブチルアクリラート;およびヒドロキシアルキル置換基が1?約16個の炭素原子、より好ましくは3または4?約16?20個の炭素原子を有するヒドロキシアルキルメタクリラートまたはアクリラート;など、が挙げられる。 【0010】 特定の好ましい形態においては、低Tg樹脂はフォトレジスト組成物に組み込まれ、レジストのSiONまたは酸化ケイ素表面層への接着の認識できる増大を提供する化合物であることができる。接着の認識できる増大は、対照レジスト(同じ方法で処理された同じレジストであるが、当該低Tg樹脂を含まないレジスト)よりも増大した解像度によって示される。この増大した解像度は、候補の低Tg樹脂を含むレジスト(試験レジスト)および対照レジストの走査型電子顕微鏡写真(SEM)の目視検査によって決定される。よって、何らかの所定のレジストシステムに好適な低Tg樹脂は実験的に容易に特定されうる。」 イ 「【0051】 このようなプロセスにおいて、レジスト組成物はめっきされるべきでない領域に対する保護層として機能する。金属堆積の後で、残存するレジスト組成物は、約40℃?69℃の温度で、市販のN-メチルピロリドン(NMP)ベースの剥離剤を用いることによるなどして剥離される。好適な剥離剤は様々な商業的なソースから入手可能である。 【0052】 本明細書において言及される全ての文献は参照により本明細書に組み込まれる。以下の非限定的な例は本発明の例示である。 【0053】 実施例1:レジスト製造 【化2】 【化3】 【0054】 以下の成分(以下の1?5)を混合することにより、フォトレジストが調製され、量はレジストの全重量の重量パーセントとして表される。 1.樹脂 フォトレジストの樹脂(すぐ上の構造中の樹脂1として特定される)が上に示され、そこでは、ターポリマーの各繰り返し単位の右にある数値はターポリマーにおけるその単位の(その樹脂合成中の添加モノマーに基づく)重量での量を表す。この樹脂は、流体フォトレジストの全重量の12.0重量パーセントの量で存在する。 2.光酸発生剤化合物(PAG) PAGは、流体フォトレジストの全重量の2.5重量パーセントで存在するt-ブチルフェニルテトラメチレンスルホニウムペルフルオロブタンスルホナートである。 3.塩基性添加剤 塩基性添加剤は、フォトレジスト組成物の全重量を基準にして0.017重量%の量のN-アルキルカプロラクタムである。 4.低Tg樹脂 このフォトレジストの低Tg樹脂は上に示され、そこでは、ターポリマーの各繰り返し単位の右にある数値は、ターポリマーにおける単位の(その樹脂合成中の添加モノマーに基づく)重量での量を表す。この低Tg樹脂は流体フォトレジストの全重量の8重量パーセントの量で存在する。 5.溶媒 溶媒は乳酸エチルであり、レジストの残部を提供する。 【0055】 実施例2:リソグラフィ処理 実施例1の配合されたレジスト組成物はSiONウェハ表面上にスピンコートされ、90℃で60秒間、真空ホットプレートでソフトベークされる。レジスト塗膜層は、フォトマスクを通した193nmで露光され、次いで、露光された塗膜層は110℃で露光後ベークされる。コーティングされたウェハは、次いで0.26Nのテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液で処理されて、像形成されたレジスト層を現像する。 フォトレジストレリーフ像の形成後、基体(レジストマスクを有する)は高エネルギー(>20eV、減圧環境)リンイオン注入処理にかけられる。」 (2)上記(1)アの記載によれば、本願発明が解決しようとする課題は、「SiONおよび他の無機基体層上での良好な解像度および接着性を提供する」ことであり、当該課題を解決するための手段として、本願発明は「樹脂1)」に加え、「樹脂3)」として「8,000以下の重量平均分子量を有し、かつ樹脂1)よりも少なくとも5℃低いTgを有」し、「重合単位として、ジエチレングリコールメタクリラート、ジエチレングリコールアクリラート、並びにエチレングリコールメタクリラート、エチレングリコールアクリラート、およびジエチレングリコールアクリラートの低級アルキルエーテルからなる群から選択される軟質モノマーを含む」ものである。 これに対し、一般に、樹脂組成物の技術分野においては、樹脂組成物の構成単位としての特定のモノマーのみを特定することのみでは、当該樹脂組成物の効果の予測が困難であるところ、本願の明細書には、実施例として、段落【0053】ないし【0054】(上記(2)イを参照。)に、「1.樹脂」が、【化2】として示された3つのモノマーの重量比が45:45:10の樹脂1、「4.低Tg樹脂」が、【化3】として示された3つのモノマーの重量比が40:40:20の低Tg樹脂、その他「2.光酸発生剤化合物(PAG)、「3.塩基性添加剤」及び「5.溶媒」からなるフォトレジスト組成物を「SiONウェハ表面上にスピンコート」し、「フォトマスクを通した193nmで露光」することが記載されているものの、上記「樹脂1」(【化2】)及び「低Tg樹脂(【化3】)の重量平均分子量及びTgの何れも記載されておらず、「下地無機表面に対して良好な接着性を示す」ことを裏付ける具体的な評価試験も行われていない。 加えて、上記「低Tg樹脂」(【化3】)におけるモノマーは、「エチレングリコールアクリレート」を用いるものであって、本願発明の樹脂3)の重合単位である「ジエチレングリコールメタクリラート、ジエチレングリコールアクリラート、並びにエチレングリコールメタクリラート、エチレングリコールアクリラート、およびジエチレングリコールアクリラートの低級アルキルエーテルからなる群から選択される軟質モノマー」ではない。 したがって、本願の実施例で用いられている重量平均分子量及びTgの不明な樹脂のみでは、本願発明に用いられるフォトレジスト組成物に関して、明細書に記載された「下地無機表面に対して良好な接着性を示す」との効果を裏付ける実データが全く開示されていないことになるから、このような本願の明細書の記載から、本願発明が本願の明細書に記載された課題を解決できると認識することはできない。 念のため、本願の明細書の段落【0053】及び【0054】に開示されたフォトレジスト(以下「実施例1フォトレジスト」という。)が「SiONおよび他の無機基体層上での良好な解像度および接着性を提供する」ものであると仮定して検討しても、同様である。すなわち、実施例1フォトレジストは本願発明のフォトレジストに該当しないフォトレジストであるから、このことを根拠として、本願発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるということはできない。しかも、本願の発明の詳細な説明には、「エチレングリコールアクリレート」等の軟質モノマーと「SiONおよび他の無機基体層上での良好な解像度および接着性を提供する」こととの因果関係を十分に解き明かすような記載は存在しない。また、「エチレングリコールアクリレート」と本願発明の軟質モノマー(例:エチレングリコールメタクリラートのtert-ブチルエーテルやジエチレングリコールアクリラートのn-ブチルエーテル)が「SiONおよび他の無機基体層上での良好な解像度および接着性を提供する」という発明の課題との関係において均等物であると当業者が理解できるような記載も存在しない。このような発明の詳細な説明の記載内容では、たとえ当業者といえども、実施例1フォトレジストにおける「エチレングリコールアクリレート」を、本願発明の重合単位の一例である「エチレングリコールメタクリラートのtert-ブチルエーテル」や「ジエチレングリコールアクリラートのn-ブチルエーテル」に置き換えた場合、さらには重合割合をごく僅か(例:5%)にした場合についてまで、「SiONおよび他の無機基体層上での良好な解像度および接着性を提供する」ことができると認識することはできない。 よって、本願発明は、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載や技術常識から、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えているといわざるを得ない。 (3)なお、請求人は、平成29年3月1日付けの意見書において、本願の明細書には、軟質モノマーの典型的な例として「エチレングリコールアクリラート」以外にも「ジエチレングリコールメタクリラート、ジエチレングリコールアクリラート、並びにエチレングリコールメタクリラート、エチレングリコールアクリラート、およびジエチレングリコールアクリラートの低級アルキルエーテルからなる群から選択される軟質モノマー」が挙げられている旨主張する。 しかし、上記(2)のとおり、本願の明細書には、記載された効果を裏付ける実データが全く開示されておらず、本願発明は、本願の明細書に記載された課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものとはいえないから、請求人の主張は採用できない。 第5 むすび 以上のとおりであって、本願発明(本願の請求項3に係る発明)は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 また、本願は、特許請求の範囲の請求項3の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、請求項1及び2について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-05-19 |
結審通知日 | 2017-05-22 |
審決日 | 2017-06-02 |
出願番号 | 特願2010-279124(P2010-279124) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(G03F)
P 1 8・ 121- WZ (G03F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 外川 敬之 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
中田 誠 清水 康司 |
発明の名称 | フォトレジストおよびその使用方法 |
代理人 | 特許業務法人センダ国際特許事務所 |