• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1333616
審判番号 不服2015-5893  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-31 
確定日 2017-10-10 
事件の表示 特願2013-538664「移動通信システムにおける端末の速度を用いて基地局と通信する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月24日国際公開,WO2012/067407,平成25年11月21日国内公表,特表2013-542698〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2011年11月15日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2010年11月15日 韓国)を国際出願日とする出願であって,平成26年11月28日付けで拒絶査定がされ,平成27年3月31日に拒絶査定不服審判が請求され,これに対し当審より平成28年2月22日付けで拒絶理由が通知され,同年5月31日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され,さらに同年9月28日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,平成29年3月3日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出されたものである。

第2 当審拒絶理由の概要
1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2.(サポート要件)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


1.理由1(進歩性)について
・請求項1,3,4,7,9,10
・引用文献等1-3
・備考
(請求項1,7について)
引用文献1(特に,段落【0045】-【0052】,【0056】,【0062】,図13,図15参照)には,
「通信システム(ネットワーク)において,端末装置が通信を行うための方法であって,
センサ164が端末装置の移動速度を測定することと,
決定部168が前記移動速度の変化がしきい値より大きいことを検出すると,指示部170が現在の移動速度に基づいてハンドオーバ先となる基地局装置を決定し,ハンドオーバを実行すること
を備える方法。」
の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。
また,引用文献2(図7-10及びそれらの説明箇所参照)及び引用文献3(図10及びその説明箇所を参照)に記載されているように,「ハンドオーバの実行にあたり,端末がハンドオーバ先となる基地局を決定し,決定したハンドオーバ先となる基地局に対する情報をサービング基地局に送信すること。」は,当該技術分野において周知の事項である。
そうすると,引用発明において,前記周知の事項を勘案して,端末装置が決定した「ハンドオーバ先となる基地局装置」に関する情報をサービング基地局装置に送信することは当業者が容易に想到し得たものである。

(請求項3,4,9,10について)
引用文献1(段落【0051】,【0052】)には,さらに測定した移動速度がしきい値よりも高ければマクロ基地局装置を選択し,高くなければマイクロ基地局装置を選択することが記載されている。

2.理由2(サポート要件)について
(1)(省略)

(2)請求項5で引用する請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明の第2の実施形態である端末主導のハンドオーバ手続に関するものであるところ,請求項5に記載された「前記ターゲットセルへのハンドオーバが完了すると,前記ターゲットセルとランダムアクセス動作を行うステップ」における「ハンドオーバが完了」した後に行う「ランダムアクセス動作」は前記第2の実施形態のどの動作に対応するのかが不明である。
なお,ランダムアクセス動作に関する第3の実施形態は,ハンドオーバ手続を前提としていない点に留意されたい。
請求項11についても同様の点が指摘される。

(3)(省略)

よって,請求項2,5,6,8,11,12に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。

<引用文献等一覧>
1.特開2009-182413号公報
2.国際公開第2003/088691号
3.国際公開第2005/041609号

第3 平成29年3月3日付け手続補正の内容
平成29年3月3日付け手続補正(以下,「補正」という。)は,特許請求の範囲を,補正前の

「【請求項1】
ネットワークにおいて,端末(user equipment)が通信を行うための方法であって,
前記端末の移動速度を測定するステップと,
前記測定した速度に基づいて,前記端末の速度変化が検出されると,制御情報を生成するステップと,
前記制御情報に基づいて,前記制御情報をサービングセルへ送信する動作を行うステップと,を含み,
前記制御情報は,前記測定した速度に基づいて前記端末が決定したターゲットセルに対する情報を含み,前記ターゲットセルは,前記端末がハンドオーバするセルを示すことを特徴とする通信を行うための方法。
【請求項2】
前記制御情報は,
前記測定した速度に対する情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の通信を行うための方法。
【請求項3】
前記ターゲットセルは,
前記測定した速度と閾値に基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載の通信を行うための方法。
【請求項4】
前記ネットワークは,少なくとも一つのマクロセルと前記少なくとも一つのマクロセルに含まれる少なくとも一つのマイクロセルを含み,
前記測定した速度が前記閾値未満である場合,前記少なくとも一つのマイクロセルから決定された第1のマイクロセルが前記ターゲットセルとして選択され,
前記測定した速度が前記閾値以上である場合,前記少なくとも一つのマクロセルから決定された第1のマクロセルが前記ターゲットセルとして選択されることを特徴とする請求項3に記載の通信を行うための方法。
【請求項5】
前記ターゲットセルへのハンドオーバが完了すると,前記ターゲットセルとランダムアクセス動作を行うステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の通信を行うための方法。
【請求項6】
前記測定した速度に対する情報は,
前記端末の能力報告のための情報として,前記サービングセルと初期交渉手続のために使用される情報を含むことを特徴とする請求項2に記載の通信を行うための方法。
【請求項7】
ネットワークにおける端末(user equipment)であって,
前記端末の移動速度を測定する速度測定部と,
前記測定した速度に基づいて,前記端末の速度変化が検出されると,制御情報を生成し,前記制御情報に基づいて,前記制御情報をサービングセルへ送信する動作を行う制御部と,を含み,
前記制御情報は,前記測定した速度に基づいて前記端末が決定したターゲットセルに対する情報を含み,前記ターゲットセルは,前記端末がハンドオーバするセルを示すことを特徴とする端末。
【請求項8】
前記制御情報は,
前記測定した速度に対する情報を含むことを特徴とする請求項7に記載の端末。
【請求項9】
前記制御部は,
前記測定した速度と閾値に基づいて前記ターゲットセルを決定することを特徴とする請求項7に記載の端末。
【請求項10】
前記制御部は,
前記ネットワークが少なくとも一つのマクロセルと前記少なくとも一つのマクロセルに含まれる少なくとも一つのマイクロセルを含む場合,
前記測定した速度が前記閾値未満である場合,前記少なくとも一つのマイクロセルから決定された第1のマイクロセルを前記ターゲットセルとして選択し,
前記測定した速度が前記閾値以上である場合,前記少なくとも一つのマクロセルから決定された第1のマクロセルを前記ターゲットセルとして選択することを特徴とする請求項9に記載の端末。
【請求項11】
前記制御部は,
前記ターゲットセルへのハンドオーバが完了すると,前記ターゲットセルとランダムアクセス動作を行うことを特徴とする請求項7に記載の端末。
【請求項12】
前記測定した速度に対する情報は,前記端末の能力報告のための情報として,前記サービングセルと初期交渉手続のために使用される情報を含むことを特徴とする請求項8に記載の端末。」

から

「 【請求項1】
ネットワークにおいて,端末(user equipment)が通信を行うための方法であって,
前記端末の移動速度を測定するステップと,
前記測定した速度に基づいて,前記端末の速度変化が検出されると,制御情報を生成するステップと,
前記制御情報をサービングセルへ送信する動作を行うステップと,を含み,
前記制御情報に基づいて前記サービングセルからターゲットセルへハンドオーバを遂行するステップと,
前記ハンドオーバが完了すると,前記ターゲットセルとランダムアクセス動作を遂行するステップと,を含み,
前記制御情報は,前記測定した速度に基づいて前記端末が決定した前記ターゲットセルに対する情報を含むことを特徴とする通信を行うための方法。
【請求項2】
前記ターゲットセルは,
前記測定した速度と閾値に基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載の通信を行うための方法。
【請求項3】
前記ネットワークは,少なくとも一つのマクロセルと前記少なくとも一つのマクロセルに含まれる少なくとも一つのマイクロセルを含み,
前記測定した速度が前記閾値未満である場合,前記少なくとも一つのマイクロセルから決定された第1のマイクロセルが前記ターゲットセルとして選択され,
前記測定した速度が前記閾値以上である場合,前記少なくとも一つのマクロセルから決定された第1のマクロセルが前記ターゲットセルとして選択されることを特徴とする請求項2に記載の通信を行うための方法。
【請求項4】
ネットワークにおける端末(user equipment)であって,
前記端末の移動速度を測定する速度測定部と,
前記測定した速度に基づいて,前記端末の速度変化が検出されると,制御情報を生成し,前記制御情報をサービングセルへ送信する動作を行い,前記制御情報に基づいて前記サービングセルからターゲットセルへハンドオーバを遂行し,前記ハンドオーバが完了すると,前記ターゲットセルとランダムアクセス動作を遂行する制御部と,を含み,
前記制御情報は,前記測定した速度に基づいて前記端末が決定した前記ターゲットセルに対する情報を含むことを特徴とする端末。
【請求項5】
前記制御部は,
前記測定した速度と閾値に基づいて前記ターゲットセルを決定することを特徴とする請求項4に記載の端末。
【請求項6】
前記制御部は,
前記ネットワークが少なくとも一つのマクロセルと前記少なくとも一つのマクロセルに含まれる少なくとも一つのマイクロセルを含む場合,
前記測定した速度が前記閾値未満である場合,前記少なくとも一つのマイクロセルから決定された第1のマイクロセルを前記ターゲットセルとして選択し,
前記測定した速度が前記閾値以上である場合,前記少なくとも一つのマクロセルから決定された第1のマクロセルを前記ターゲットセルとして選択することを特徴とする請求項5に記載の端末。」

に変更するものである。

第4 平成29年3月3日に提出された意見書の主張
審判請求人は,平成29年3月3日に提出された意見書において,以下のとおり主張している。

「1.理由1(進歩性)について
本拒絶理由では,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,と認定されています。
しかしながら,出願人はこの御認定には承服できず,従いまして,以下に意見を申し述べます。
なお,本拒絶理由に対して,以下のご説明内容を明確にする為に請求項の補正を行っています。

(1)補正について
・補正前の請求項1および7について
本願の請求項1について,進歩性の本拒絶理由が通知されていない補正前の請求項5ならびに本願の出願当初明細書および図面等に基づき「ネットワークにおいて,端末(user equipment)が通信を行うための方法であって,前記端末の移動速度を測定するステップと,前記測定した速度に基づいて,前記端末の速度変化が検出されると,制御情報を生成するステップと,前記制御情報をサービングセルへ送信する動作を行うステップと,を含み,前記制御情報に基づいて前記サービングセルからターゲットセルへハンドオーバを遂行するステップと,前記ハンドオーバが完了すると,前記ターゲットセルとランダムアクセス動作を遂行するステップと,を含み,前記制御情報は,前記測定した速度に基づいて前記端末が決定した前記ターゲットセルに対する情報を含むことを特徴とする通信を行うための方法。」に補正し,新請求項1として発明の内容を明確に致しました。
また,新請求項1に整合するように,補正前の請求項7を補正し,新請求項4として発明の内容を明確に致しました。
・補正前の請求項2,5?6,8および11?12について
上記補正に伴い,補正前の請求項2,5?6,8および11?12を削除し,その他の請求項番号を符番し直しました。
上記補正はいずれも,出願当初明細書等に基づくものであって,いわゆる新規事項を追加するものではなく,いわゆるシフト補正にも該当致しません。

(2)引用文献について
引用文献1(特開2009-182413号公報)には「無線通信技術に関し,特に基地局装置との間においてハンドオーバを実行する通信方法およびそれを利用した端末装置に関する(段落0001)」技術が開示されています。
具体的には,段落0048に「取得部166は,センサ164から移動速度を取得する。また,取得部166は,復調部158において復調されたデータを受けつけ,誤り率を測定する。その結果,取得部166は,誤り率をもとに,通信の品質を取得する。なお,取得部166は,通信の品質として,誤り率以外の情報を受けつけてもよい。例えば,EVM(Error Vector Magnitude)や受信電力である。」,段落0049に「決定部168は,取得部166において取得した品質および移動速度をもとに,ハンドオーバの実行を決定する。」,段落0051に「指示部170は,現在の移動速度がしきい値よりも高ければ,認識した基地局装置1の中からマクロセル基地局装置を優先的に選択する。」,段落0052に「一方,指示部170は,現在の移動速度がしきい値よりも高くなければ,認識した基地局装置1の中からマイクロセル基地局装置を優先的に選択する。」ことが開示されています。
すなわち,引用文献1には,基地局装置との間においてハンドオーバを実行する通信方法等において,決定部が,取得部において取得した品質および移動速度をもとに,ハンドオーバの実行を決定し,現在の移動速度がしきい値よりも高ければ,認識した基地局装置の中からマクロセル基地局装置を優先的に選択し,現在の移動速度がしきい値よりも高くなければ,認識した基地局装置の中からマイクロセル基地局装置を優先的に選択する構成が開示されています。
引用文献2(国際公開第2003/088691号)の1ページの上段には,「無線アクセス通信システム,無線基地局及びそれらに用いるハンドオーバ制御方法並びにそのプログラムに関し,特に無線アクセス通信システムにおける無線端末の高速ハンドオーバ支援方法に関する」技術が開示されています。
具体的には,9ページには,「無線端末1が,図8に示すように,AP(#1)2aとの間で通信401を行っている状態で(ステップa1),無線端末1がAP(#2)2bとの通信が可能のエリアへ移動したとする(ステップa2)。無線端末1はAP(Access Point:無線基地局)(#2)2bが送信するビーコンを受信し(ステップa3),AP(#2)2bが送信する信号の受信電力レベルの方がAP(#1)2aが送信する信号の受信特性より優れていることを検出すると(ステップa4),その接続先をAP(#2)2bに変更することを決定する(ステップa5)。ここで,上記のビーコンとは,AP(#1,#2)2a,2bが接続中のすべての無線端末1に対して報知している制御情報である。」,10ページには「また,端末主導型でハンドオーバを行う場合の動作について示したが,網主導型でハンドオーバを行うことも可能である。ハンドオーバの決定に受信電力レベルを用いているが,ビットエラーレートやフレームエラーレートを適用することも可能である。」構成が開示されています。
すなわち,引用文献2には,無線アクセス通信システムにおける無線端末の高速ハンドオーバ支援方法であって,端末主導型でハンドオーバを行う技術が開示されています。
引用文献3(国際公開第2005/041609号(対応する日本特許第4226601号))には,「セルラ方式の移動体通信の技術分野に属し,特に複数の無線基地局の中から適切な接続先の無線基地局を決定する接続先基地局決定装置に関する(段落0001)」技術が開示されています。
具体的には,7ページ下段に「ステップc-3では,移動端末は通信中の基地局Aからの受信電力が規定値を下回るような場合に,ハンドオーバの要求を行なうことを決定する。ステップc-4では,ハンドオーバの要求を行なうこととした移動端末は,接続先基地局判定部116にてハンドオーバ先基地局の判定手順(図4)を開始する。即ち,周辺基地局の内,受信電力が規定値以上の基地局が選択され,その中から要求リソース量を上回る空きリソース量を有する基地局が絞り込まれ,さらにその中から空きリソース量が最小の基地局がハンドオーバ先基地局として決定される。」ことが開示されています。
すなわち,引用文献3には,移動端末が通信中の基地局からの受信電力を測定し,規定値を下回るような場合に,移動端末自体がハンドオーバの要求を行ない,ハンドオーバ先基地局を決定する技術が開示されています。

(3)本願発明と引例発明との差異について
本願の補正後の新請求項1は,進歩性の本拒絶理由が通知されていない補正前の請求項5ならびに本願の出願当初明細書および図面等に基づき「ネットワークにおいて,端末(user equipment)が通信を行うための方法であって,前記端末の移動速度を測定するステップと,前記測定した速度に基づいて,前記端末の速度変化が検出されると,制御情報を生成するステップと,前記制御情報をサービングセルへ送信する動作を行うステップと,を含み,前記制御情報に基づいて前記サービングセルからターゲットセルへハンドオーバを遂行するステップと,前記ハンドオーバが完了すると,前記ターゲットセルとランダムアクセス動作を遂行するステップと,を含み,前記制御情報は,前記測定した速度に基づいて前記端末が決定した前記ターゲットセルに対する情報を含む」ことを技術的特徴にしており,このような具体的な構成は引用文献には開示されていない技術的構成であります。
引用文献1には,基地局装置との間においてハンドオーバを実行する通信方法等において,決定部が,取得部において取得した品質および移動速度をもとに,ハンドオーバの実行を決定し,現在の移動速度がしきい値よりも高ければ,認識した基地局装置の中からマクロセル基地局装置を優先的に選択し,現在の移動速度がしきい値よりも高くなければ,認識した基地局装置の中からマイクロセル基地局装置を優先的に選択する構成が開示されていますが,本願の上記構成とは異なります。
また,引用文献2および3も本願の上記構成とは異なります。
このように本願の技術的な特徴及び効果は,引用文献には開示されていないものと思料致します。
その他の従属項については,独立項と同じ理由で進歩性があります。

2.理由2(サポート要件)について
本拒絶理由では,本願発明は特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない,と認定されています。
そこで,出願人はこの御認定について,審査官殿のご指摘に対応して,上述しましたように補正前の請求項2,5,6,8,11,12を削除し,本拒絶理由を解消するように致しました。」

第5 当審拒絶理由が解消しているか否かの判断
1.理由2(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)について
理由2の(2)は,補正前の請求項5及び11に対する拒絶理由であり,そのうち補正前の請求項5では請求項1を引用している。
一方,補正後の請求項1は,平成29年3月3日に提出された意見書の「本願の請求項1について,進歩性の本拒絶理由が通知されていない補正前の請求項5ならびに本願の出願当初明細書および図面等に基づき」の記載にもあるように,補正前の請求項5の発明特定事項を含むから,補正後の請求項1において,補正前の請求項5に対する理由2の(2)が解消していなければならない。
そこで,補正後の請求項1(以下,この「1.」の項において単に「請求項1」という。)において,理由2の(2)が解消されているか否かについて以下検討する。

請求項1に係る発明は「ネットワークにおいて,端末(user equipment)が通信を行うための方法」であって,請求項1の
「前記制御情報に基づいて前記サービングセルからターゲットセルへハンドオーバを遂行するステップと,
前記ハンドオーバが完了すると,前記ターゲットセルとランダムアクセス動作を遂行するステップと,を含み,」
の記載からみて,端末は,「ハンドオーバが完了すると」,すなわち「ハンドオーバ」が完了した後に,「ランダムアクセス動作」を遂行するものと解するのが自然である。

一方,発明の詳細な説明には,端末主導のハンドオーバ手続に関する第2の実施形態について,以下の記載がある。
「【0036】
図4は,本発明の第2の実施形態によるハンドオーバ手続を示す図である。
【0037】
図4は端末主導のハンドオーバ手続として,端末が自身の速度を測定し,上記測定された速度を考慮してターゲットセルを決定して,上記決定されたターゲットセルを現在のサービング基地局に報告すれば,上記基地局が上記測定された速度を用いてハンドオーバ手続を遂行する。
【0038】
ステップ410で,端末210は加速センサなどを用いて自身の速度を測定する。
【0039】
ステップ420で,端末210は上記測定された速度を考慮してターゲットセルを決定する。このステップで,端末210は所定閾値を設定する方式を使用することができる。例えば,端末の速度が所定閾値以下であると,マイクロセルをターゲットセルとして決定し,端末の速度が所定閾値を超過すると,マクロセルをターゲットセルとして決定する。
【0040】
ステップ430で,端末210は上記決定されたターゲットセルに対する情報を現在のサービング基地局220に報告する。上記決定されたターゲットセルに対する情報はトラヒックチャンネルと共に送信されるか,別途の制御チャンネルを通じて送信されることができる。
【0041】
ステップ440で,サービング基地局220は端末210を該当ターゲットセルにハンドオーバするために,端末210とハンドオーバ手続を遂行する。ハンドオーバ手続は,当業界でよく知られた手順であり,多様な方式で遂行され得る。しかしながら,これは,本発明の主な関心でないので,これに対する詳細な説明は省略する。」



」(図4)
ここで,請求項1に記載された「ハンドオーバ」について検討するに,特に【0041】の「ステップ440で,サービング基地局220は端末210を該当ターゲットセルにハンドオーバするために,端末210とハンドオーバ手続を遂行する。」の記載及び図4(両矢印で表されるハンドオーバ手続440参照)からみて,発明の詳細な説明及び図面では,「ハンドオーバ」と「ハンドオーバ手続」とは,異なる技術的意味を持つ用語として使い分けられており,「ハンドオーバ手続」は,「ハンドオーバ」をするための一連の処理のうち端末とサービング基地局とのやりとりのことをいうものと解される。
そして,「ハンドオーバ」の技術的意味について,本願明細書に明記されていないが,本願出願時の技術常識(例えば,「中嶋信生・有田武美,『携帯電話はなぜつながるのか』,日経BP社,pp.30-33,2008年5月14日1版3刷発行」,「服部 武 編著,『OFDM/OFDMA教科書』,株式会社インプレスR&D,pp.298-299,2008年9月21日初版第1刷発行」。)に照らせば,端末がサービング基地局と通信している状態から該サービング基地局との通信を停止し,ターゲットセルとの通信を開始するまでの一連の処理のことを意味することは明らかである。
そうすると,請求項1の「前記ハンドオーバが完了する」は,サービング基地局と通信している状態から該サービング基地局との通信を停止し,ターゲットセルとの通信を開始している状態と解するのが自然である。
してみると,請求項1の「前記ハンドオーバが完了すると,前記ターゲットセルとランダムアクセス動作を遂行するステップ」は,端末がターゲットセルと通信を開始している状態で,さらに該ターゲットセルとランダムアクセス動作を行うステップと解されるところ,発明の詳細な説明には,第2の実施形態を含めて,端末がターゲットセルと通信を開始している状態でさらに,該ターゲットセルとランダムアクセス動作を行うことについては記載も示唆もされておらず,当業者にとって自明な事項でもない。

したがって,請求項1は,発明の詳細な説明又は図面に記載されていな事項を含んでいるから,請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって,本願は依然として特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

なお,審判請求人は,特許法第36条第6項第1号の拒絶理由に対し,意見書において「上述しましたように補正前の請求項2,5,6,8,11,12を削除し,本拒絶理由を解消するように致しました。」と主張しているが,当該理由は,上述のとおり実質的に判断されるべきものであるから,上記主張を採用することはできない。

2.理由1(特許法第29条第2項:進歩性)について
請求項1に係る発明は,上述のとおり,特許法第36条第6項第1号の規定に違反するので,当審拒絶理由の理由1(特許法第29条第2項)について判断するまでもなく,この出願は特許を受けることができないものである。

なお,請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載された事項の範囲内で善意に解釈した(請求項1の記載からは直接認定できない事項を含む)場合であっても,進歩性を認めることができないので,参考までに請求項1に係る発明についてその理由を簡単に示す。

(1) 請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明を再掲すると以下のとおりである。
「ネットワークにおいて,端末(user equipment)が通信を行うための方法であって,
前記端末の移動速度を測定するステップと,
前記測定した速度に基づいて,前記端末の速度変化が検出されると,制御情報を生成するステップと,
前記制御情報をサービングセルへ送信する動作を行うステップと,を含み,
前記制御情報に基づいて前記サービングセルからターゲットセルへハンドオーバを遂行するステップと,
前記ハンドオーバが完了すると,前記ターゲットセルとランダムアクセス動作を遂行するステップと,を含み,
前記制御情報は,前記測定した速度に基づいて前記端末が決定した前記ターゲットセルに対する情報を含むことを特徴とする通信を行うための方法。」
ここで,「ハンドオーバ」は,上記「1.」の項のとおり,端末をサービング基地局からターゲットセルにハンドオーバするための一連の処理,すなわち,端末がサービング基地局と通信している状態から該サービング基地局との通信を停止し,ターゲットセルとの通信を開始するまでの一連の処理のことを意味すると解されるが,仮に,発明の詳細な説明に記載された事項の範囲内で善意に解釈するとして,図4のステップ440の「ハンドオーバ手続」,すなわち,「ハンドオーバ」における一連の処理のうち,端末とサービングセルとのやりとりを狭義の「ハンドオーバ」と解することとする。

一方,当審拒絶理由において引用した引用文献1(特に,段落【0045】-【0052】,【0056】,【0062】,図13,図15参照)には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「通信システム(ネットワーク)において,端末装置が通信を行うための方法であって,
センサ164が端末装置の移動速度を測定することと,
決定部168が前記移動速度の変化がしきい値より大きいことを検出すると,指示部170が現在の移動速度とに基づいてハンドオーバ先となる基地局装置を決定し,ハンドオーバを実行し,
併せて無線リソース割当が行われること
を備える方法。」

ここで,引用発明では,端末装置がハンドオーバ先となる基地局装置を決定しており,決定した基地局装置についての情報を生成し,該情報をいずれかの基地局装置へ送信していることは,明らかである。
そうすると,本願の請求項1に係る発明と引用発明とは,以下の点で相違し,その余の点で実質的に一致する。

<相違点1>
請求項1に係る発明では,「制御情報をサービングセルへ送信する動作を行うステップ」を有するのに対し,引用発明では,前記「制御情報」に相当する決定した基地局装置についての情報をどの基地局装置に送信するのかが特定されていない点。

<相違点2>
請求項1に係る発明では,「前記ターゲットセルとランダムアクセス動作を遂行するステップ」を有するのに対し,引用発明では,「ハンドオーバを実行し,併せて無線リソース割当が行われること」とあるものの,ターゲットセルとランダムアクセス動作する点について明記されていない点。

まず,相違点1について検討する。
引用文献2(図10及びその説明箇所を参照)及び引用文献3(図7-10及びそれらの説明箇所参照)に記載されているように,「ハンドオーバの実行にあたり,端末がハンドオーバ先となる基地局を決定し,決定したハンドオーバ先となる基地局に対する情報をサービング基地局に送信すること。」は,当該技術分野において周知事項である。
そして,引用発明に周知事項を採用して,端末装置が決定した「ハンドオーバ先となる基地局装置」に関する情報をサービング基地局装置に送信することは,当業者が容易に想到し得たものである。

次に,相違点2について検討する。
ハンドオーバの実行においては,端末とターゲットセルとの間で無線リソースを割当てるために,端末がターゲットセルとランダムアクセス動作を実行することは技術常識ともいうべき周知事項(例えば,前述の「服部 武 編著,『OFDM/OFDMA教科書』,株式会社インプレスR&D,pp.298-299,2008年9月21日初版第1刷発行」。)である。
してみると,相違点2に係る両発明の構成について,実質的な差異はなく,仮にそうでないとしても,周知事項から当業者が容易に想到し得たものである。

よって,請求項1に係る発明は,引用発明と周知事項から当業者が容易に想到し得たものである。

なお,請求人は,平成29年3月3日に提出した意見書において,引用発明は,決定部が,取得部において取得した品質および移動速度をもとに,ハンドオーバー先を決定しているのに対し,請求項1に係る発明では,測定した速度に基づいて決定する点で異なる旨主張しているが,請求人が平成28年5月31日に提出した意見書には,「一般的なハンドオーバ過程でターゲットセルを決定するためには,端末で測定された受信信号品質を利用することができるので(一例として,引用文献1に開示されているように),ターゲットセルのタイプが決定されると,該当タイプによるセルから受信された信号の品質に基づいて一つのターゲットセルが決定され得ることは,当業者が十分に類推できる内容であるものと思料致します。」と記載しているので,請求人が相違するとする上記の点は実質的なものではなく,請求人の上記主張を採用できない。

第6 むすび
以上のとおり,本件出願は,特許請求の範囲の記載に不備があり,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-24 
結審通知日 2017-05-08 
審決日 2017-05-25 
出願番号 特願2013-538664(P2013-538664)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 正明  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 山中 実
中野 浩昌
発明の名称 移動通信システムにおける端末の速度を用いて基地局と通信する方法及び装置  
代理人 崔 允辰  
代理人 木内 敬二  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ