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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07F |
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管理番号 | 1333625 |
審判番号 | 不服2016-11471 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-07-29 |
確定日 | 2017-10-10 |
事件の表示 | 特願2013-527294「ホスホン酸エステル誘導体およびその合成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年3月8日国際公開、WO2012/031045、平成25年9月26日国内公表、特表2013-536865〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、2011年8月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年8月31日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年8月29日に手続補正書が提出され、平成27年6月17日に手続補正書が提出され、同年6月26日付けで拒絶理由が通知され、同年10月2日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年3月29日付けで拒絶査定がされ、同年7月29日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、同年10月25日に審判請求書を補正する手続補正者が提出されたものである。 なお、この出願の一部が平成27年10月2日に特願2015-196930号として分割出願されている。 第2 平成28年7月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成28年7月29日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 本件補正 平成28年7月29日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項1である 「約5.5度2θ、19.3度2θ、20.8度2θおよび21.3度2θにピークを含むX線回折パターンを特徴とする、ホスホン酸,[[(S)-2-(4-アミノ-2-オキソ-1(2H)-ピリミジニル)-1-(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル]モノ[3-(ヘキサデシルオキシ)プロピル]エステルの結晶(形態A)。」 を、補正後に 「5.5度2θ、19.3度2θ、20.8度2θおよび21.3度2θにピークを含むX線回折パターン、及び91%を超える純度を特徴とする、ホスホン酸,[[(S)-2-(4-アミノ-2-オキソ-1(2H)-ピリミジニル)-1-(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル]モノ[3-(ヘキサデシルオキシ)プロピル]エステルの結晶(形態A)。」 とする補正を含むものである(審決注:補正部分に下線を付した。)。 2 補正の適否 (1)補正の目的の適否 この補正は、発明を特定するために必要な事項である「ホスホン酸,[[(S)-2-(4-アミノ-2-オキソ-1(2H)-ピリミジニル)-1-(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル]モノ[3-(ヘキサデシルオキシ)プロピル]エステルの結晶(形態A)」に関し、その結晶のX線回折パターンの2θの数値についてその数値が指す範囲を不明確とする「約」との記載を削除し、併せてその結晶が「91%を超える純度」を有することを限定するものであるから、補正前の請求項1に記載された発明を特定するための事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び同第4号に規定する「明りようでない記載の釈明」を目的とするものに該当する。 (2)そこで、上記補正後の請求項1に記載された特許を受けようとする発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて、以下に検討する。 ア 特許法第29条第2項についての検討 (ア)刊行物 刊行物1:特表2004-500352号公報(原審における引用文献1) 刊行物2:平山令明編著,「有機化合物結晶作製ハンドブック??原理とノウハウ??」,丸善,平成20年7月25日,p.2-3,57-59,78-79 刊行物3:C. G. WERMUTH編,長瀬博監訳,「最新 創薬化学 下巻」,株式会社テクノミック,平成11年9月25日,p.452-453 刊行物4:日本化学会編,「化学便覧 応用化学編 第6版」,丸善,平成15年1月30日,p.178 刊行物5:長倉三郎,井口洋夫,江沢洋,岩村秀,佐藤文隆,久保亮五編,「岩波 理化学辞典 第5版」,第5版第8刷,2004年12月20日,岩波書店,p.504 刊行物6:緒方章,菰田太郎,新延信吉著,「化学実験操作法」,訂正第36版,昭和52年6月20日,南江堂,p.55-59,526-533 刊行物7:日本化学会編,「第4版 実験化学講座1 基本操作I」,第2刷,丸善,平成8年4月5日,p.184-186 刊行物2?7は、この出願の優先日当時の技術常識を示すために引用するものである。 (イ)刊行物の記載事項 a 刊行物1 (1a)「【請求項1】下記の構造を有するホスホネート化合物: 式中、 R_(1) およびR_(1') は、独立して、-H、・・・-O(C_(1)-C_(24))アルキル、・・・であり、ただし少なくとも1個のR_(1) およびR_(1') はHではなく・・・; ・・・ R_(3) は、選択的にリンカーL上の官能基またはC^(α) 上の利用可能な酸素原子に連結された、薬学的に活性を有する化合物のホスホネート誘導体であり; ・・・ nは0または1である。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【請求項4】R_(3) が、抗ウイルス性ヌクレオシドのホスホネート誘導体である、請求項1記載のホスホネート化合物。 【請求項5】ホスホネート誘導体が、アデフォビル、シドフォビル、環式シドフォビル、またはテノフォビルである、請求項4記載のホスホネート化合物。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1、4及び5) (1b)「【0001】発明の分野 本発明は、新規ホスホネート化合物、それらを含有する組成物、それらの製造法、ならびに例えば骨粗鬆症およびその他の骨代謝障害、癌、ウイルス感染症などのような、様々な医学的障害の治療のためのそれらの用途に関する。 【0002】発明の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0005】・・・モノホスホネートも、治療的恩典を提供することが知られている。治療的恩典を有するモノホスホネートのひとつのクラスは、例えばシドフォビル、環状シドフォビル、アデフォビル、テノフォビルなどの、抗ウイルス性ヌクレオチドホスホネート・・・である。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0006】・・・ヌクレオチドホスホネートは、消化管からの吸収が悪いので、これらは頻繁な非経口投与が必要とされる(例えばシドフォビル)。さらに、負に帯電したホスホネート部分は、細胞侵入を妨げ、低下された抗ウイルスまたは抗増殖活性をもたらす。驚くべきことに、本発明の化合物は、この種の物質の欠点を克服している。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0008】従って、ウイルス感染症および不適切な細胞増殖により惹起されたもの(例えば癌)のような、様々な疾患を治療するための、より毒性が低く、より効果的な薬剤が依然として必要とされている。従って本発明の目的は、例えば抗ウイルス性および抗新生物性薬剤のような、薬学的に活性を有する物質の化学的に修飾されたホスホネート誘導体を開発することである。これらの修飾された誘導体は、親化合物の効力を増強する一方で、それを必要とする被験者に投与した場合の有害な副作用を最小化する。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0011】発明の詳細な説明 本発明のホスホネート化合物は下記の構造を有する: 式中、 R_(1) およびR_(1') は、独立して、-H、・・・-O(C_(1)-C_(24))アルキル、・・・であり、ただし少なくとも1個のR_(1) およびR_(1') はHではなく・・・; ・・・ R_(3) は、選択的にリンカーL上の官能基またはC^(α) 上の利用可能な酸素原子に連結された、薬学的に活性を有するホスホネート、ビスホスホネートまたは薬学的に活性を有する化合物のホスホネート誘導体であり; ・・・ nは0または1である。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0013】好ましいプロパンジオール種は下記の式を有する: 式中、m=1であり、およびR_(1)、R_(1)'、R_(3)、Lおよびnは先の一般式において定義したものである。 【0014】好ましいグリセロール種は下記の式を有する: 式中、m=1、R_(2)=H,R_(2')=OH、ならびにC^(α) 上のR_(2) およびR_(2') は両方とも-Hである。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0020】・・・シドフォビル、環式シドフォビル、アデフォビル、テノフォビルなどの抗ウイルス性ホスホネートは、本発明のR_(3) 基として使用することができる。」 (1c)「【0033】本発明の化合物は、ホスホネート含有部分がアルキル-グリセロールまたはアルコキシ-アルカノール部分に直接連結するため、およびホスホン酸結合の存在が酵素による遊離薬物への転換を妨害するために、先行技術において説明されたアルキルグリセロールリン酸プロドラッグよりも改良されている。・・・ 【0034】前述のことにより、本発明のホスホネートはより高度に経口吸収されうる。さらに血漿または消化管酵素ではなく、細胞の酵素が、この複合体を遊離ホスホネートへ転換すると考えられる。アルコキシ-アルカノールホスホネートの更なる利点は、同時投与される食物がホスホネート吸収を低下または除去する傾向が、非常に低下または除去され、その結果、より高度の血漿レベルおよびより良い患者の服薬遵守をもたらすことである。」 (1d)「【0057】本発明の化合物は、一般にはスキームI?VIに示されたような、様々な方法で調製することができる。・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0068】スキームVは、シドフォビル、環式シドフォビル、および他のホスホネートエステルのアルキルグリセロールまたはアルキルプロパンジオール類似体の一般的合成を例示する。2,3-イソプロピリデングリセロール1をジメチルホルムアミド中のNaHにより処理し、続いてメタンスルホン酸アルキルとの反応によって、アルキルエーテル2が生じる。酢酸処理によるイソプロピリデン基の除去、それに続くピリジン中でのトリチルクロライドとの反応により、中間体3が生成する。中間体3とハロゲン化アルキルとのアルキル化により、化合物4が生じる。80%酢酸水溶液によるトリチル基の除去によって、O,O-ジアルキルグリセロール5が得られる。化合物5の臭素化、それに続く環式シドフォビルまたは他のホスホネート含有ヌクレオチドのナトリウム塩との反応によって、所望のホスホネート付加物7が生成する。環式付加物の開環は、水酸化ナトリウム水溶液との反応により達成される。好ましいプロパンジオール種は、スキームVの化合物5について1-O-アルキルプロパン-3-オールの置換により合成することができる。・・・ 【0069】スキームV 試薬:a)NaH、R_(1)OSO_(2)Me、DMF;b)80%酢酸水溶液;c)トリチルクロライド、ピリジン;d)NaH、R_(2)-Br、DMF;e)CBr_(4)、トリフェニルホスフィン、THF;f)環式シドフォビル(DCMC塩)、DMF;g)0.5N NaOH」 (1e)「【0085】実施例8 環式シドフォビルにおける、ヘキサデシルオキシプロピル・・・エステルの合成 シドフォビル(1.0g、3.17mmol)を撹拌したN,N-DMF(25mL)懸濁液に、 N,N-ジシクロヘキシル-4-モルフォリンカルボキシアミジン(DCMC、1.0g、3.5mmol)を加えた。混合物を一晩攪拌してシドフォビルを溶解した。この澄んだ溶液を他の漏斗に満たして、1,3-ジクロヘキシルカルボジイミド(1.64g、7.9mmol)を撹拌した熱いピリミジン溶液(25mL、60℃)に、ゆっくり(30分で)加えた。この反応混合液を100℃で16時間攪拌して室温に冷却して、減圧下で溶媒を取り除いた。残渣をシリカゲルに吸着して、勾配溶出法(CH_(2)Cl_(2)+MeOH)を用いてフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製した。そのUV活性産物を、最終的に5:5:1 CH_(2)Cl_(2)/MeOH/H_(2)Oで溶出して、溶媒を蒸発させ、860mgの白い固体を得た。^(1)Hおよび ^(31)P NMRスペクトルをとると、これが環式シドフォビルのDCMC塩(収率=44%)であることが示された。 【0086】環式シドフォビル(DCMC塩)(0.5g、0.8mmol) の乾燥DMF(35mL)溶液に1-ブロモ-3-ヘキサデシルオキシプロパン(1.45g、4mmol)を加えて、混合液を80℃で6時間加熱して撹拌した。溶液を減圧中で濃縮して、残渣をシリカゲルに吸着し、勾配溶出法(CH_(2)Cl_(2)+EtOH)を用いてフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製した。アルキル化産物を90:10 CH_(2)Cl_(2)/EtOHで溶出した。精製産物を含む画分を蒸発させて、260mgのHDP-環式シドフォビル(収率55%)を得た。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0090】実施例9 シドフォビルにおける、ヘキサデシルオキシプロピル・・・エステルの合成 上記のヘキサデシルオキシプロピル-環式CDVを0.5M NaOHに溶解して室温で1.5時間撹拌した。50%酢酸水を滴下してpHを約9に調整した。沈殿したHDP-CDVを濾過により単離した後、水で洗浄し乾燥して、(3:1 p-ジオキサン/水)で再結晶化してHDP-CDVを得た。」 (1f)「【0099】実施例17 ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)に対するホスホネートヌクレオチド類似体の抗ウイルス活性および選択性 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0104】・・・実験から得たデータを表2に示す。 【0105】【表2】DNA減少によりアッセイされたMRC-5ヒト肺繊維芽細胞におけるヒトCMV複製の阻害 ・・・・・・・・・・・・・・・ EC_(50)-50%有効濃度;CC_(50)-50%細胞傷害性濃度;選択性指標-CC_(50)/EC_(50)。EC_(50) の結果は・・・3?6回の測定の平均である。 【0106】表2に示された結果のように、本発明の化合物は、誘導されていないシドフォビル、環式シドフォビル・・・よりも、一様により活性がありかつ選択性がある。 【0107】実施例18 ポックスウイルス複製に対するHDP-cCDVのインビトロ作用 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0110】・・・結果を表4に示す。 【0111】【表4】 EC_(50)-50%有効濃度;CC_(50)-Vero細胞における50%細胞傷害性濃度;選択性指標-CC_(50)/EC_(50)。表2と同じ略号。結果は3回の測定の平均である。 【0112】表4に示したように、本発明の化合物は、ワクシニア、牛痘、および様々な小痘瘡株に対して、誘導していないCDVまたはcCDVよりも、実質的により活性があった。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【0119】実施例21 ヘルペスウイルス複製に対するシドフォビル類似体の作用 ・・・表7に示す。 【0120】【表7】DNA減少によりアッセイされたMRC-5ヒト肺繊維芽細胞におけるヒトHSV複製の阻害 ・・・・・・・・・・・・・・・ 表2と同じ略号:EC_(50)-50%有効濃度;CC_(50)-50%細胞傷害性濃度;選択性指標-CC_(50)/EC_(50)。EC50値は、2つ組で1回測定したHDP-CDVを除いて、2回の実験の平均である。 【0121】表7に示したように、全ての本発明の化合物は、HSV-1に対して、誘導していないヌクレオチドホスホネート、シドフォビル、または環式シドフォビルよりも、より活性を有する。」 b 刊行物2 (2a)「1.2 結晶を利用する いま,純度99.9%の分子を結晶化させることを考える.・・・純度99.9%は一般的には非常に高い純度にみえるが・・・その純度のままで結晶になることはほとんどない.逆に,99.9%の純度の物質から結晶が得られたとすると,その結晶中での物質の純度は99.9%よりはるかに高くなっているといってよい.すなわち,通常物質を結晶化するということはその物質をきわめて高純度にすることを意味し,結晶化は精製法の重要な手段の一つになっている. 物質の性質や機能を理解するためには,その構造を詳しく知る必要がある.・・・結晶は物質の構造を解明するうえでも有用な状態であるといえる.物質の精密な立体構造の解析を目指すなら,その物質をまず結晶化させなくてはならない. 結晶中では原子群が特定の規則配列をしているが,原子群の配向が,その物質の性質や機能あるいはその物質の生産工程に重要な影響を与える場合が少なくない.二,三の例を示そう.工業的にある物質を生産し,精製する過程では結晶化を行うことが多い.原子群の配向は後で述べるようにかならずしも一通りではなく,多くの場合何通りかある.その中で特定の配向をとると非常に細かい結晶になるため,その結晶のろ過(審決注:「ろ」は、原文は「さんずいに戸」であるが、ひらがなで表記する。以下同じ。)を妨害し,精製を困難にしてしまうことがある.また,原子群がある種の配向をとった結晶はきわめて吸湿性に富み,その貯蔵を著しく難しくしてしまうことがある.さらに,非線形光学材料の場合には,結晶を構成する分子がたとえ同じであっても,結晶中の分子の配向のしかたによっては望むべき性質がまったく現れないこともある.このように,結晶中の分子の配向のしかたは物質の工業的用途を考えるうえで非常に重要である.特定の物質から望ましい性質を最大限に引き出すためには,それを実現するように,その物質を結晶化させなければならない. 以上のように結晶化は,少なくとも物質の精製,物質の構造解析,そして機能をもった物質をつくり出すうえで非常に重要な技術である.」(2頁下から7行?3頁24行) (2b)「医薬品の大半は化学合成あるいは天然物由来の有機化合物であり,それらは製造の最終工程で晶析により結晶性粉末として調製されることが多い. 結晶は晶析条件に依存してさまざまな構造,形状,大きさ,凝集状態などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える.たとえば,結晶構造の異なる多形や晶癖の異なる結晶の溶解速度は一般的に異なるため,医薬品の生物学的有効性に相違が生じる.こうした相違は,散剤,錠剤,顆粒剤,カプセル剤などといった固体状態の医薬品を経口投与する場合においてとくに顕著に表れる.医薬品の作用部位への到達濃度を決定する要因の一つに投与部位からの吸収の効果があり,経口投与される医薬品では製剤から放出される主薬の溶解性が消化管での吸収に大きく影響するからである. 結晶多形の密度や融点,格子エネルギーなどは異なり,結果として熱や湿度,光といったストレスに対する結晶の物理的あるいは化学的な安定性に相違が生じる.このような理由から保存条件によっては準安定形から安定形への結晶転移が生じ,医薬品の生物学的有効性が変わることもあり得る.したがって,安定性の観点からは,一般に常温で安定な結晶形が選択されることが多い.しかし,一方で準安定形の溶解性が安定形と比較して優位に優れる場合があることから,あえて準安定形を開発の基本形として選択し,生物学的有効性に優れた製剤を設計することもある. 結晶中に溶媒が取り込まれた溶媒和物の結晶は,厳密な意味での結晶多形と区別するため疑似結晶多形と称される.・・・溶媒和物の中でも水和物はとくに重要である.・・・ 医薬品は人体に直接作用するものである.疾病の治療や予防に有効であることはもとより,期待通りの薬効が発揮されるように一定の品質をもち,安全性が確保されることが強く要求されている.したがって,ICH(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use:日米EU医薬品規制調和国際会議)のガイドラインなどで結晶多形・溶媒和物の取り扱いに関するディシジョンツリーが提示されている. 医薬品の結晶化は通常、溶液の冷却,溶媒の蒸散,低溶解性の溶媒の添加,塩の形成などの方法と,種結晶をかくはん下添加する方法などをさまざまに組み合わせることによって達成される.これらの結晶化条件にかかわる溶媒の特性,過飽和度,温度などのさまざまな因子が,結晶の特性を決定する.したがって,晶析条件と析出する結晶のさまざまな特性の相関を明確にし^(1,2)),医薬品の品質を保証することが重要である^(3)).本章では,そのような医薬品の品質設計の観点から結晶化を概説する.」(57頁3行?58頁末行) (2c)「4.2.1 結晶多形の検索 複数の結晶相が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相間はいまだ解明されておらず,結晶多形の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.したがって,偶然に見いだされる場合も少なくないが,結晶多形の検索に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法で検索しているいくつかの報告もある^(4,5)). 表4.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられているFurosemide(フロセミド)・・・での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである^(4)).医薬品における結晶多形の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.これら溶媒に対して,さまざまな冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせ・・・ 」(59頁2?末行) (2d)「4.5.1 一般的な結晶化条件 医薬品を開発するうえで,初期段階においては種々の条件下における結晶多形の検索を行い,製剤化検討の結果なども考慮して開発の基本形となる結晶形を選択する.その後,工業化に向けたスケールアップの検討を行い,工場での生産が安定に行えるように準備する必要がある.したがって,開発初期段階における結晶多形の有無などを含めた結晶状態の検討は,医薬品の開発を効果的に進めるうえで非常に重要である.晶析条件に関する文献も多いが^(35)),ここでは,医薬品を結晶化する一般的な条件を示し,さらに医薬品の結晶化の実例を記述する. 一般に使用される晶析溶媒としては,水,メタノール,エタノール,1-プロパノール,2-プロパノール,1-ブタノール,2-ブタノール,1-ペンタノール,酢酸エチル,アセトン,メチルエチルケトン,トルエン,シクロヘキサン,シクロヘキサノン,ジメチルホルムアミドなどである. 結晶化はおよそ以下のような方法を用いる. (1)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時ろ過し,残留試料を除いた後,室温付近まで徐々に冷却する. (2)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時ろ過し,残留試料を除いた後,氷などにより急冷する. (3)試料を適当な溶媒に溶かした液に,試料が溶けにくい溶媒を滴下する. (4)試料を適当な溶媒に溶かした液をエバポレーターなどを用いて脱溶媒する. (5)試料を適当な溶媒(引火しないもの)に溶かした液を噴霧する. (6)試料をホットステージなどを用いて融解し,室温付近まで徐々にあるいは急激に冷却する.」(78頁15行?79頁9行) (2e)「4.5.2 結晶化および結晶データ (1)白内障・神経障害治療薬M79175・・・ α形:β形を融解するまで過熱した後,冷却する. β形:過熱したエタノール-水混液の試料溶液を徐冷する. ・・・・・・・・・・・・・・・ (2)抗ヒスタミン剤Doxylamine succinate(ドキシラミンコハク酸塩)・・・ I形:かくはんしながら沸点近くまで加熱した無水エタノールに溶解し,あらかじめ温めておいたフィルターおよびフラスコを用いてろ過する.得られたろ液は,室温まで徐冷する. ・・・・・・・・・・・・・・・ II形:医薬品分子を加熱融解し数時間放置する. (3)非ステロイド型抗炎症剤Diclofenac(ジクロフェナク,N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン・・・ 無水物:試料を数種の有機溶媒から析出させる. ・・・・・・・・・・・・・・・ 水和物:無水物の水溶液を40℃に加温し,室温で水を徐々に除き結晶を得る.」(79頁10?末行) c 刊行物3 (3a)「IV.メソモルフィック結晶(mesomorphic crystalline)^(〔訳註5〕) の取り扱い□ ある種の物質は結晶となるときに複数の結晶状態をとりうることが知られている.その結晶状態に決定する要因には,結晶化溶媒の物性,結晶化するときの温度,不純物の有無などがある.このような性質を結晶多形または単に多形(polymorphism)という.可能な結晶状態のなかには準安定な結晶がある.準安定状態(metastable state)の結晶はより安定な状態に変化して異なる物理化学性質を示すことになる.この変化は2つのタイプに分けられる.可逆的転移である互変(enantiotropy)と不可逆的転移の単変(monotropy)である.前者は文字どおり多形のそれぞれの状態が相互変換可能な場合である.後者は,熱力学的に不安定な状態からより安定な状態へ変化する現象であり,一般的にはこの種の転移が多い.ある薬物が異なる結晶形を示すときに,それぞれの結晶形を識別する方法には,融点測定,溶解度測定,示差走査熱量測定,熱重量分析,赤外分光,X線回折,走査電子顕微鏡による形態観察などがある. 一般論として,準安定状態の物質には安定状態に比べてその溶解度および溶解速度が大きいという特徴がある.極端な場合,両状態の溶解度の差が4倍以上にもなることがあるが^(21,22),通常よく観察されるのは溶解度が50?100%程度上昇する現象である^(23).一例としてここではリボフラビン(riboflavin)を挙げる.この薬物には3種の多形があり,その溶解度はそれぞれ60mg/L,810mg/L,1200mg/Lと大きな開きがみられる^(24).また,準安定状態の結晶を溶媒と接触できるようにしておくと,この結晶は最も安定な状態に徐々に変化し,これに伴って溶解度が低下することがある.たとえば,ノボビオシン(novobiocin)は酸性のアモルファス固体(無定形または非晶質固体)であるが,溶解度の非常に低い結晶に変化しやすい^(25).このためにノボビオシンを懸濁液として投与することは困難である.薬物を噴霧乾燥(spray drying)によって溶解度の高いアモルファス固体とすることがある.この場合,純粋な薬物を噴霧しても良いが,実際には均質な分散薬物を得るために添加剤を加えることが多い^(26). ある結晶状態が他の状態に変化する現象すなわち転移は,工業的な製造プロセスにおいても起こりうる.たとえば,クロロキン二リン酸(chloroquine diphosphate)の一水和物の結晶を高温で保存しておくと無水物となることがある.この脱水反応は薬物を粉砕する際にも起こりやすい.さらにクロロキン二リン酸無水物を湿度の高い状態で保存していると他の水和物に転移することもある.また,薬物の原末を圧縮する際にも結晶形の変化が起こりうる^(27).クロラムフェニコール(chloramphenicol)のステアリン酸塩の場合は,A結晶(form A)をコロイドシリカ(coloidal silica)の存在下で粉砕するとB結晶(form B)に変化することが知られている^(28).以上の事例から明らかなことではあるが,固体の薬物を製造する場合は,プロセスを標準化するのと同時に,品質管理の一環として固体薬物の結晶状態に関するより精密な検査を行うことが特に重要であることをここで強調しておきたい.」(452頁下から12行?453頁20行) d 刊行物4 (4a)「4.3.3 晶析 a.晶析とその役割 晶析は,目的の特性を有する結晶を,再現性よく,確実に製造する技術である.晶析は,化学物質の製造全般に広く用いられており,分離精製のみならず,機能性固体(結晶)の生産という観点からも重要である.たとえば,糖・アミノ酸などの食品の製造,記録媒体としてのα-鉄(α-Fe)・マグへマイト(γ-Fe_(2)O_(3))などの電子材料の製造,ナノ粒子の製造,さらにその90%が結晶である医薬品(原薬)とその中間体の製造などであり,いずれも結晶特性の制御が高度に要求されている. 1998年の調査(化学工学会晶析技術特別研究会)によれば,わが国で行われている晶析は,80%が溶液からの晶析である.また,75%が回分法で行われている.次に融液からの晶析が多く,大規模の精製晶析についても優れた技術,たとえばKCP法(呉羽テクノエンジ)が開発されている. b.結晶特性 おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である.これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ過性(審決注:ろ過の「ろ」は原文ではさんずいに戸であるが、ひらがなで記す。以下も同じ。)・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である. (i) 晶癖 ・・・ (ii) 粒径・粒径分布 ・・・ (iii) 純度 結晶への不純物の取込みについては,二つのメカニズムがある.母液の結晶への取込み,あるいは結晶表面への付着によるものと,結晶構造への組込みによるものである.前者は,結晶成長の粗さ,凝集などによって引き起こされるものであり,晶析速度の調整,洗浄などで解決する可能性がある.後者は,溶媒の変更,多形の選択など根本的な変更が必要である.結晶溶媒(結晶構造に組み込まれた溶媒)も不純物と見なすことができる. (iv) 多形 化合物は同じで,結晶構造が異なるものである.結晶溶媒の有無で溶媒和結晶は擬多形とよばれている.多形結晶は,外観のみでは判断できない.粉末あるいは単結晶X線回折・赤外吸収(IR)・示差走査熱量測定(DSC)などで同定する必要がある.多形は,溶媒の種類・温度・冷却速度・過飽和度・かくはん速度・不純物などに影響を受ける.溶媒によって異なる多形が析出する場合が多く,重要な溶媒については混合溶媒も含めて,どのような結晶が析出するか,点検することが必要である.溶媒を選択することによって,目的の結晶多形が唯一選択的に得られる場合と,いったん析出した結晶多形(準安定結晶)が経時的に他の多形(安定結晶)に転移する,いわゆる溶媒媒介転移が起こる場合がある.溶媒媒介転移が起こるのは,準安定結晶と安定結晶の溶解度が異なるためである.どの多形が析出するかはオストワルドの段階則(Ostwald's step rule;状態の移行は,エネルギー的にもっとも近い状態を経由して順次に進行するという法則)に従うとされており,通常,溶解度が大きいほうの結晶が先に析出する.しかし,オストワルドの段階則に従わない場合もあり,多形を制御するためには,平衡論(オストワルドの段階則)のみではなく,速度論的な検討を行う必要がある. c.晶析操作 晶析操作としては,冷却晶析,濃縮晶析,反応晶析,貧溶媒晶析が多い.・・・」(178頁左欄5行?右欄下から7行) e 刊行物5 (5a)「再結晶 [英 recrystallization・・・][1]結晶性物質を溶媒に溶解し,適当な方法でふたたび結晶として析出させる操作をいう.そのためには,温度による溶解度の相違を利用して高温の飽和溶液を冷却するとか,溶媒を蒸発させて濃縮するとか,溶媒に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させるなどの方法が取られる.共存する不純物は多くの場合溶液中に残るので,精製の方法としてよく使われる.」(504頁右欄017の項) f 刊行物6 (6a)「有機溶剤 ・・・・・・・・・・・・・・・ メタノール(bp64.7°,水と混和する) 溶剤としての性質からいうと,メタノールは水とエタノールとの,ほぼ中間にあり,値も安く沸点もエタノールよりも低いので,用途はエタノール以上に広いといっても過言ではない.・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ エタノール(bp78.4°,水と混和する) 一般に無機物はエタノールに溶けにくく,有機物は溶けやすいから,エタノールは有機化合体と無機化合体とを分離するときに,よく使われる.・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ エタノールは、水と随意の比例で混和する点で,その溶剤としての価値は著しく高い.このエタノールの性質は,特に再結晶の際の溶剤として使うのに便利である. ・・・・・・・・・・・・・・・ プロパノール(bp97°,水と混和する), イソプロパノール(bp82°,水と混和する) ・・・・・・・・・・・・・・・ ブタノール(bp117°,1:12の割合で水に溶ける) ・・・・・・・・・・・・・・・」(55頁16行?59頁末行) (6b)「分別結晶(分別晶出) 2種あるいは,それ以上の物質の混合物を,分離精製するには,再結晶^(*)(Recrystallization・・・)なる仕方による.各物質の溶剤への,溶解度(Solubility・・・)は違っているので,その溶剤を適当に使った場合に,一方の物質は析出し,他方の物質は母液中に残る性質を利用するのである. また2物質の,同一溶剤中から晶出する速度が,著しく異っているときにも,分別結晶の仕方によって,両物質を分離できる.」(526頁16?22行) (6c)「飽和溶液を冷やして結晶させる仕方 この仕方は再結晶の一般的な仕方であって,普通に“再結晶を行なう”というときには,この仕方か,あるいはつぎに述べる仕方による. 再結晶を行なうには,溶質を加えた溶剤を沸点まで熱して,その中に溶質を溶けるだけ溶かし,熱時にこし分け,ろ液を冷やして結晶を析出させる. 溶剤の選び方 ・・・予試験を各種の溶剤について行ない,冷熱両時の溶解度の差の最大なものを採用する.しかし・・・結晶を母液からこし分けることが困難なものや,結晶の析出速度があまりに速いものは,操作が面倒であるから・・・他のものを選ぶ方がよい.・・・ 物質の溶かし方 ・・・一般に溶剤は過量に使わないようにする.物質が固くて大きな塊になっているときには,溶剤を加えて熱しても,すぐにはその温度における飽和溶液にならない.それゆえに,まずできるだけ細かく砕き・・・,最小必要量の溶剤を加える.熱して液が沸き始めても,なおしばらくその状態をつづけて,物質がどうしても全溶しないときに,はじめて溶剤を追加する.二硫化炭素,石油エーテル,エーテル,アセトン,エタノール,ベンゼン,クロロホルムその他の揮発性溶剤を使う場合には,物質を三角フラスコに入れ,還流冷却器をつけて水浴上で加温する. 物質によっては,試験管で行なった上記の“溶剤の選び方”のときとは違って,大量に溶かそうとすると,溶剤を充分に加えてあっても,なかなか,急に溶けないものがある.そして初めに,よく粉末にしておいたものが,液中で団塊になって,いつまでも小さくならないことがある.このような場合には,引火しないように注意しながら,冷却器を一時取はずして,ガラス棒・・・で塊を砕いてから,前同様加温をつづけると速く溶ける.こうして物質が全部溶けて,異物やろ紙の繊維だけが,液中に浮遊しているようになれば,温時にろ過する.・・・ さて透明なろ液を得てから,冷やして結晶を析出させるのであるが,その冷やし方は,大きな結晶を作ろうとするのと,小さな結晶を作ろうとするのとで違ってくる・・・・大きな結晶を作る場合には・・・極ゆるゆると冷やす.また小さな結晶を作る場合には・・・急に冷やす.いずれの場合でも,液がある温度まで下がっても,すぐにその条件で析出し得る結晶が全部析出するものではないから,しばらくそのまま放置して,待たなければならない.このようにして常温で出た結晶をこし分ける.さらにその「ろ液」を冷やすと,なお多量の結晶を得る場合がある.」(527頁26行?529頁17行) (6d)「溶液を濃縮して結晶させる仕方 物質の溶液を蒸発濃縮して,結晶を析出させることは,物質を精製する点からいえば,“飽和溶液を冷やして結晶させる仕方”(p.527)よりも好ましくはないが,溶液を冷やしただけでは,結晶の出る量が少いから,通常は適当に濃縮して結晶を出す場合が多い.濃縮結晶を行なう場合は, ○1(審決注:原文は○の中に1であるが、このように表記する。以下も同じ。) 溶剤を使い過ぎたとき 誤って溶剤を多量に使いすぎたときは,無論のことであるが,物質が飽和溶液になる量の溶剤で溶かすことは,操作に時間がかかるから,物質を溶かしやすい程度に溶剤を幾分過量に加え,つぎに適当に濃縮して,結晶を出すことはよく行なっている. ○2 物質を熱して溶かすことができないとき 物質が熱のために,分解しやすくて,熱することができない場合には,まず物質を常温で溶剤に飽和させ,ろ過してから減圧,低温で溶剤の一部を留去する. ○3 冷熱両時の物質の溶解度に大差がないとき ・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 溶剤の一部分を蒸散させて結晶させるときの結晶容器は,物質の性質や,溶剤の蒸発を常温で行なうか,熱時で行なうかなどによって違ってくる.常温で蒸発させる場合には,口が広くて浅い「さら」を使う. ・・・・・・・・・・・・・・・ 溶剤がエーテル,アセトンなどのように引火性,もしくは高価なもののときには,水浴上で蒸発することは避け,溶剤を蒸留回収する.この際には容器として三角フラスコを使い,蒸留中にフラスコ内の液の周囲に,乾燥固着してくる結晶は,ときどきフラスコを振り動かして,液中に落して溶かすか,または固着しているフラスコの外壁に,口で息を吹きかけて溶かす・・・. 第1回の結晶をこし分けた母液をそのまま放置するか,または適度の濃さまで蒸発または蒸留濃縮すると,第2回の結晶を得るが,実際には冷やして析出させる仕方と,濃縮して析出させる仕方とを,あわせて行なう場合が多い.」(531頁17行?532頁下から5行) (6e)「溶液に他の液体を加えて結晶させる仕方 溶液を冷やすか,溶剤を蒸散または留去して,過飽和の状態に導く仕方以外に,溶液に他の液体を混ぜて,溶質の溶解度を減じ,結晶を析出させる仕方もある. これに使う溶剤のおもな組合わせは,つぎの通りである. ・・・・・・・・・・・・・・・ この仕方のうち,最も多く使われるものは,水とエタノールとである.この二つは互に随意の比に混じるから,一方に溶けて他方に溶けない性質の物質は,この二つの溶剤を適当に使い分ければ,よく結晶する.」(533頁15?26行) g 刊行物7 (7a)「a.再結晶 物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本的操作である.再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・不純物・・・は再結晶により除去できることになる. (i)試料の純度 再結晶を行う試料の純度は特に有機物では最初に薄層クロマトグラフィーで確認しておく.その際,用いた展開剤の極性と薄層上のR_(f) 値との関係は再結晶の溶媒選択に役立つし,また不純物の大よその極性も分かる.精製する物質の純度は高い方が望ましく,純度があまりにも低すぎる場合には、蒸留,カラムクロマトグラフィーや活性炭による脱色を行うなどして,夾雑物をある程度除去しておいた方がよい.勿論,精製が可能かどうかは再結晶の原理からみて,溶解度曲線の形に関係するので,不純物が多い場合にも,純粋な結晶が得られることも少なくない. (ii)溶媒の選択 再結晶溶媒の選択には一定の規則があるわけでなく,試行錯誤により選択するのが基本である.したがって,試料約20mg程度を試験管で溶媒に対する溶解性や結晶性を調べてみるとよい.既知化合物であれば,化合物辞典などで再結晶溶媒や溶解度を調べるのがよい^(1)).未知化合物においても,同族体の既知化合物のデータを参照するとよい.しかし,古くから,同族体は同族体をよく溶かすという経験則があり,これを基本にして選ぶとよい選択ができる.つまり精製しようとする化合物が,水素結合性であるのか非水素結合性か,極性基または疎水基をもっているかどうか,イオン性であるかどうかなどである.一般には水素結合性,極性を考慮すれば,次の6種の溶媒の中から選択すれば十分であろう. ヘキサン<ベンゼン<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水(極性小から大) さらにこの中間の極性のものが欲しい場合には,2種の溶媒を混合するか,表4・5を参考にされたい.その際,極性値(誘電率ε,溶解度パラメーターδ,極性値E_(T);ε,δ,E_(T) は数字が大きいと極性が大きい)や沸点,融点を選択の基準とすればよい.反応性溶媒や沸点が高い溶媒はできれば避けた方がよい.このような溶媒では有機物の再結晶中に脱離や置換が起きた多数の例がある. (iii)加熱溶解 溶解は三角フラスコを用いて水浴中でふりまぜながら行うが,溶解しにくい結晶の場合には,結晶を粉砕して,環流下,マグネチックスターラーでかくはんしながら1時間ほど加熱溶解させる.超音波による溶解法も試みてみてもよい. (iv)結晶化 結晶が析出する速さ,大きさや形は放冷速度,溶媒,濃度などによって異なる.時には結晶組成が異なってしまうこともある.一般に低融点のものや分子量の大きな物質は結晶化しにくい傾向がある.結晶化が起きにくい場合には,○1放冷を徐々に行う(湯浴に浸したままにしておく).○2結晶の種を入れる.○3管壁をガラス棒などで擦り,種をつくる.○4冷蔵庫内に数日から数か月放置する.○5混合溶媒にして溶解度を下げる.○6自然蒸発を待つ.急冷すると結晶にならず,オイル状となり精製ができないことも多い.論文中には記載がないが,X線構造解析用の結晶が放置したNMR試料管中から偶然得られたということも少なくない. (v)純度の確認 物質の純度はクロマトグラフィー,各種スペクトル,元素分析などの機器分析が最近の微量分析の方法であるが,融点測定も手軽にできる方法でありおろそかにしてはいけない.融点は,物質が不純であれば文献値よりも低下し,不明瞭になる.また融点測定時に液晶状態が観測される場合もあるから注意されたい.」(184頁20行?186頁末行) (7b)「 」(186頁) (ウ)刊行物に記載された発明 a 刊行物1は、ウイルス感染症などの医学的障害の治療のために有用なホスホネート化合物に関する特許文献である(摘示(1a)?(1f))。 刊行物1には、上記ホスホネート化合物について、請求項1に以下の一般式 が示され、そのR_(3) であるホスホネート誘導体について、請求項4?5に、抗ウイルス性のヌクレオシドのホスホネート誘導体であるシドフォビル(審決注:以下、シドフォビルを「CDV」と略記することがある。)が記載されている(摘示(1a))。 b そして、上記一般式のR_(3) 以外の部分については、以下の「好ましいプロパンジオール種」 及び「好ましいグリセロール種」 (式中、R_(2)=H、R_(2')=OH) が言及されている(摘示(1b)。ここで、nは0であってよく、R_(1) 及びR_(1') は、独立して、-H、-O(C_(1)-C_(24))アルキル、であってよいので、上記プロパンジオール種は、以下の構造 CH_(2)(O(C_(1)-C_(24))アルキル)-CH_(2)-CH_(2)-O-R_(3) の化合物を含み、上記グリセロール種は、以下の構造 CH_(2)(O(C_(1)-C_(24))アルキル)-CH(OH)-CH_(2)-O-R_(3) の化合物を含む。 c そして、刊行物1に係るホスホネート化合物が上記一般式のR_(3) 以外の部分を含むことに関し、「ホスホネート含有部分がアルキル-グリセロールまたはアルコキシ-アルカノール部分に直接連結する」こと、「本発明のホスホネートはより高度に経口吸収されうる」こと及び「細胞の酵素が、この複合体を遊離ホスホネートへ転換すると考えられる」ことが説明されている(摘示(1c))。 d そして、シドフォビルの「アルキルグリセロールまたはアルキルプロパンジオール類似体」の一般的合成スキームとして、以下のスキームV (審決注:各段階の試薬の記載は省略する。)が示されている(摘示(1d))。ただし、ここに示されたのはアルキルグリセロール類似体(審決注:上記cの「グリセロール種」である。)の合成スキームであり、プロパンジオール類似体(審決注:上記cの「プロパンジオール種」である。)は、化合物5を「1-O-アルキルプロパン-3-オール」(審決注:OR_(1)-CH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-OH)に代えるとされている。 e そして、実施例8?9には、シドフォビルを出発物質として、環式シドフォビルにおけるヘキサデシルオキシプロピルエステル(審決注:「ヘキサデシルオキシプロピル-環式CDV」、「HDP-環式シドフォビル」、「HDP-cCDV」、「1-O-ヘキサデシルプロパンジオール-3-cCDV」と略記されることがある。)を合成し(実施例8)、この環式シドフォビルのヘキサデシルオキシプロピルエステルを、まず、0.5M NaOHで処理し、次いで50%酢酸水で処理して、シドフォビルのヘキサデシルオキシプロピルエステル(審決注:「HDP-CDV」、「1-O-ヘキサデシルプロパンジオール-3-CDV」と略記されることがある。)を沈殿させ、濾過、水洗、乾燥し、3:1のp-ジオキサン/水で再結晶化して、HDP-CDVを得たこと(実施例9)が記載されている(摘示(1e))。実施例9の生成物は、再結晶化を経ていることから、結晶であると認められる。 また、HDP-CDVの薬理活性が、実施例17、18、21で試験されており、ヒトサイトメガロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルスの複製を阻害する活性がCDVより高いことが示されている(摘示(1f))。 f 以上によれば、刊行物1には、 「シドフォビルのヘキサデシルオキシプロピルエステルの結晶」 の発明(以下「引用発明」といい、その化合物を「引用化合物」という。)が記載されているということができる。 (エ)本願補正発明と引用発明との対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 本願明細書の段落【0005】には、シドフォビルが「[(S)-1-(3-ヒドロキシ-2-ホスホニルメトキシプロピル)シトシン」であることが記載されている。 また、シトシンは、4-アミノ-ピリミジン-2(1H)-オンである。 そうすると、本願補正発明の「ホスホン酸,[[(S)-2-(4-アミノ-2-オキソ-1(2H)-ピリミジニル)-1-(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル]モノ[3-(ヘキサデシルオキシ)プロピル]エステル」は、シドフォビルのヘキサデシルオキシプロピルエステルと、同じ化学構造の化合物である(以下、この化合物を「化合物P」という。)。 したがって、本願補正発明と引用発明とは、 「化合物Pの結晶」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 本願補正発明においては、化合物Pの結晶が、「5.5度2θ、19.3度2θ、20.8度2θおよび21.3度2θにピークを含むX線回折パターン、及び91%を超える純度」を特徴とする「形態A」の結晶であることが、特定されているのに対し、引用発明においてそのように特定されていない点 (オ)相違点についての検討 a 結晶を得ることの動機付けについて この出願の優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、その物質を結晶化することについては強い動機付けがあり、医薬化合物が結晶で得られる条件を検討することは、文献を示すまでもなく、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。結晶化の条件により得られる結晶が異なることがあることも、よく知られている。例えば、結晶化について、化合物の純度を高める精製の観点は、摘示(2a)、(4a)、(5a)、(6b)、(7a)?(7b)に示され、医薬化合物では結晶形により溶解性やバイオアベイラビリティ等の性質が異なることから結晶多形を探索するとの観点は、摘示(2b)?(2d)、(3a)、(4a)に示されている。 引用化合物は、上記(ウ)のとおり、ウイルス感染症などの医学的障害の治療という医薬用途を意図した化合物であるから、不純物による不測の副作用の防止の観点からも、高純度であることは当然に望まれることであり、結晶多形の探索も、当業者が通常検討する事項であるといえる。 そうすると、化合物Pについても、当業者が結晶が得られる条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。 b 特定の工程を採用する点及びX線回折により結晶を特定する点について (a)本願明細書には、本願補正発明の化合物Pの特定のX線回折パターン及び91%を超える純度を有する形態Aの結晶を製造するための方法については、以下の記載がある。 なお、本願明細書においては、化合物P、すなわち「ホスホン酸,[[(S)-2-(4-アミノ-2-オキソ-1(2H)-ピリミジニル)-1-(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル]モノ[3-(ヘキサデシルオキシ)プロピル]エステル」を、「CMX001」と呼んでいる(段落【0007】)。 (i)段落【0123】?【0133】に、メタノールから再結晶するなどして91%を超える純度を有する材料を生成することについて、以下の記載がある。 「【0123】別の実施形態において、適切な溶媒系によるCMX001の再結晶は、91%を超える(例えば、92%超、93%超、94%超、95%超、97.5%超、98%超、99%超、または99.5%超の)純度を有する材料を生成する。 【0124】別の実施形態において、適切な溶媒系によるCMX001の再結晶は、形態Aを生成する。好ましくは、形態Aは、91%を超える(例えば、92%超、93%超、94%超、95%超、97.5%超、98%超、99%超、または99.5%超の)純度を有する。 【0125】一実施形態において、形態Aは水和物ではない。 【0126】他の実施形態において、形態Aは、溶媒和物、例えば、メタノール溶媒和物、エタノール溶媒和物またはイソプロパノール溶媒和物である。 【0127】別の実施形態において、形態Aは、非化学量論的溶媒和物、例えば、メタノール溶媒和物、エタノール溶媒和物またはイソプロパノール溶媒和物である。 【0128】別の実施形態において、形態Aは、脱溶媒和された溶媒和物、例えば、脱溶媒和されたメタノール溶媒和物、脱溶媒和されたエタノール溶媒和物または脱溶媒和されたイソプロパノール溶媒和物である。 【0129】別の実施形態において、適切な溶媒系によるCMX001の再結晶は、HPLC AUC(曲線下面積)により純度99%超の純度を有する材料を生成する。 【0130】別の実施形態において、CMX001の合成においてカラムクロマトグラフィーは使用されない。 【0131】別の実施形態において、CMX001は、遊離酸として単離される。 【0132】別の実施形態において、CMX001は、メタノールから再結晶される。 【0133】別の実施形態において、CMX001は、メタノールから、20℃以上の温度で再結晶および単離される。」 (ii)段落【0201】?【0208】の実施例1?2には、シトシンを出発物質として、粗製のCMX001を合成し、これをメタノールから2回の再結晶を行って、実施例2の標題化合物CMX001を得たことが記載されている。粗製のCMX001の濾過ケーキを得てから後の手順が、以下のように記載されている。 「【実施例2】 【0202】ホスホン酸,[[(S)-2-(4-アミノ-2-オキソ-1(2H)-ピリミジニル)-1-(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル]モノ[3-(ヘキサデシルオキシ)プロピル]エステル(CMX001)の調製 ・・・濾過ケーキを、アセトン(101.5kg)中、およそ40℃で1時間スラリー化し、次いで濾過し、アセトン(2×29.0kg)で洗浄した。粗製のCMX001の典型的なHPLC(AUC)純度は、274nmの波長で97%超、225nmの波長で76%超であった。粗生成物を、メタノール(101.5kg)中、70℃で加熱して、均質な溶液を得、15?25℃に2時間冷却し、濾過し、メタノール(29.2kg)で洗浄した。典型的なHPLC(AUC)純度は、1回目の再結晶後、98%超であった。生成物にメタノール(75.9kg)から2回目の再結晶をさせ、濾過し、メタノール(29.0kg)で洗浄し、50℃で真空乾燥させて一定重量にし、14.8kg(77.7%)のCMX001を白色からオフホワイトの固体として産出した。典型的なHPLC(AUC)純度は、99%超であった・・・。」 (iii)段落【0213】の実施例7にも、実施例7の標題化合物CMX001を得たことが記載されている。粗製のCMX001の濾過ケーキを得てから後の手順が、以下のように記載されている。 「【実施例7】 【0213】ホスホン酸,[[(S)-2-(4-アミノ-2-オキソ-1(2H)-ピリミジニル)-1-(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル]モノ[3-(ヘキサデシルオキシ)プロピル]エステル(CMX001)の調製 ・・・得られた固体を濾過し、水、次いでアセトンで洗浄した。固体を、アセトン中、およそ40℃でスラリー化し、濾過した。粗生成物をメタノールから再結晶させ、乾燥させた。生成物にメタノールから2回目の再結晶をさせ、残っている残留溶媒が0.5%以下になるまで、真空下およそ50℃で乾燥させた。」 (iv)段落【0230】?【0232】の実施例11には、「CMX001の結晶性研究」と題して、「実施例2において記述されている方法によって生じたCMX001形態学的形態Aの4つのロット、すなわちロット番号1?5」について、表10?14のXRDデータ(審決注:X線回折データ)及び図1?5のディフラクトグラム(審決注:X線回折図形)を得たことが記載されている。 (b)上記(a)(ii)?(iv)によれば、本願明細書の実施例に記載された、化合物Pの所定の純度の形態Aの結晶の製造方法は、粗製の化合物Pをメタノールに溶解し冷却して結晶を析出させることを、2回繰り返す、というものである。上記(a)(i)によれば、エタノール又はイソプロパノールから再結晶することでも製造できるとされているといえる。 このような操作は、ごく一般的な、溶液の冷却による結晶化であって(摘示(2b)?(2d)、(4a)、(5a)、(6c)、(7a))、溶媒の選択にしても、メタノール、エタノール又はイソプロパノールのような、ありふれた、医薬化合物の結晶化に際して当業者が通常選択する溶媒が用いられるものであると認められる(摘示(2c)、(2d)、(6a)、(7a)、(7b))。そして、再結晶の回数についても、所望する純度に応じ、当業者が適宜設定し得る事項である。 してみると、本願補正発明の、化合物Pの91%を超える純度を有する形態Aの結晶は、引用発明において、当業者が、通常行う再結晶の操作により得られるものであると認められる。 また、結晶の特定のためにX線回折の測定をして2θで特定することは、医薬化合物の結晶の技術分野では、常套手段である。 (c)以上によれば、引用発明において、化合物Pの結晶を得ることを試み、その際に結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点1に係る「5.5度2θ、19.3度2θ、20.8度2θおよび21.3度2θにピークを含むX線回折パターン、及び91%を超える純度」を特徴とする「形態A」の結晶であるとの本願補正発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (カ)発明の効果について 本願補正発明の効果は、本願明細書の記載からみて、請求項1に記載された化合物Pの91%を超える純度を有する形態Aの結晶を提供できることであると認められる。 しかし、上記(オ)に述べたとおり、そのような結晶は、当業者が容易に得ることができるものであるから、このような効果は、格別のものであるとすることはできない。そして、本願明細書の記載をみても、請求項1に記載された化合物Pの所定純度の形態Aの結晶が、当業者の予測を超える格別の効果を奏するものでもない。 (キ)まとめ 以上のとおり、本願補正発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及びこの出願の優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 イ まとめ 以上のとおり、本願補正発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及びこの出願の優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 3 補正の却下の決定のむすび したがって、請求項1についての補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明 平成28年7月29日付けの手続補正は上記第2に記載されたとおり却下されたので、この出願の発明は、平成27年10月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「約5.5度2θ、19.3度2θ、20.8度2θおよび21.3度2θにピークを含むX線回折パターンを特徴とする、ホスホン酸,[[(S)-2-(4-アミノ-2-オキソ-1(2H)-ピリミジニル)-1-(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル]モノ[3-(ヘキサデシルオキシ)プロピル]エステルの結晶(形態A)。」 第4 原査定の理由 原査定の理由である平成27年6月26日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由は、理由1?3であり、その理由2の概要は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に・・・頒布された下記の刊行物に記載された発明・・・に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」というものであり、その「下記の刊行物」は、引用文献1として提示された特表2004-500352号公報(上記第2の2(2)アの刊行物1と同じ。以下「刊行物1」という。)を含む。その「下記の請求項」は、請求項1?3を含む。本願発明は、拒絶理由通知で言及された請求項1に係る発明において末尾の「・・・エステルの結晶学的形態(形態A)」が「・・・エステルの結晶(形態A)」に補正されたものである。 第5 当審の判断 1 刊行物、刊行物の記載事項、刊行物に記載された発明 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、その記載事項及び刊行物1に記載された発明は、上記第2の2(2)ア(ア)?(ウ)に記載したとおりである。また、技術常識を示す刊行物2?7及びその記載事項は、上記第2の2(2)ア(ア)(イ)に記載したとおりである。 2 対比・判断 本願発明は、上記第2の2(1)で検討したとおり、上記第2の2(2)で検討した本願補正発明において、その結晶のX線回折パターンの2θの数値について「約」の記載が付されたものであるとともに、その結晶が「91%を超える純度」を有することの限定がされないものである。「約」を伴う2θの範囲が、本願補正発明の「約」を伴わない2θの範囲を包含することは明らかである。したがって、本願発明は、本願補正発明よりも広範な結晶についての発明である。 そうすると、本願補正発明が、上記2の2(2)アに記載したとおり、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及びこの出願の優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及びこの出願の優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 まとめ したがって、本願発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及びこの出願の優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-05-17 |
結審通知日 | 2017-05-19 |
審決日 | 2017-05-30 |
出願番号 | 特願2013-527294(P2013-527294) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C07F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 黒川 美陶、春日 淳一 |
特許庁審判長 |
井上 雅博 |
特許庁審判官 |
齊藤 真由美 中田 とし子 |
発明の名称 | ホスホン酸エステル誘導体およびその合成方法 |
代理人 | 森本 聡二 |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 河村 英文 |
代理人 | 中村 綾子 |
代理人 | 有原 幸一 |
代理人 | 奥山 尚一 |