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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1333656
審判番号 不服2016-10872  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-19 
確定日 2017-10-11 
事件の表示 特願2014-137793「多結晶シリコン製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月22日出願公開、特開2015- 15471〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月3日(パリ条約による優先権主張2013年7月4日、中国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 7月 3日 審査請求
平成27年 4月30日 拒絶理由通知(起案日)
平成27年 7月22日 意見書及び手続補正書の提出
平成28年 3月17日 拒絶査定(起案日)
平成28年 7月19日 審判請求


第2 本願発明に対する判断
1 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成27年7月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載されている事項によって特定されるものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「多結晶シリコン製造方法であって、
固体レーザ装置によりレーザを出射してアモルファスシリコン層の下面を照射することにより、前記アモルファスシリコン層を予熱するステップS11と、
エキシマレーザ装置によりレーザを出射して前記アモルファスシリコン層の上面を照射することにより、前記アモルファスシリコン層を多結晶シリコンに結晶化するステップS12と、を含み、
前記ステップS11は、前記ステップS12より所定時間早く実行され、
前記固体レーザ装置が出射するレーザ光は、レーザパルス或いは連続レーザである方法。」

2 引用例1の記載事項と引用発明
(1)引用例の記載事項
本願の優先権主張の日の前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった平成27年4月30日付けの拒絶理由通知において引用された刊行物である、特開2002-217125号公報(以下「引用例」という。)には、「表面処理装置及び方法」(発明の名称)に関して、図1?図8とともに、以下の事項が記載されている(下線は、参考のため、当審において付したものである。)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、成膜した基板に対してレーザ光を用いてアニール等の表面処理を行う表面処理装置及び方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、例えばオーミックコンタクトを形成する方法として、シリコン等の半導体基板上にNi等の高融点金属を成膜した後、このように成膜した基板を適当な温度に加熱しつつランプアニールを施すことによって表面の高融点金属を拡散・合金化させて、オーミックコンタクトに加工する方法が知られている。
【0003】一方、ガラス等からなる絶縁基板上に半導体層を形成する方法として、絶縁基板上にアモルファスSi等の半導体形成材料を予め成膜し、この半導体形成材料をエキシマレーザ等のレーザビームによるレーザアニールで結晶化してSi多結晶等からなる半導体層を形成する方法が知られている。このようなレーザアニールで大きな結晶を成長させたい場合、エキシマレーザ等ではビームパワーを十分に確保でないことを考慮して、絶縁基板を全体的に加熱しておくことが行われる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、前者のランプアニールでは、例えば第1段階でまずNiSiを形成し、次に第2段階でNiSi_(2)を形成する工程をとるため、処理工程が複雑なものとなる。また、ランプアニ-ルでは、基板全体をかなり高温に加熱することになるため、基板に熱的なダメージを与えざるを得ない。また、ランプアニールでは、大面積の基板を均一に熱処理することが困難である。さらに、ランプアニールでは、オーミックコンタクトの深さを十分に制御することができず、表面の浅い領域のみにオーミックコンタクトを形成することが困難である。
【0005】また、後者のレーザアニールでは、絶縁基板を全体的に加熱するため、非結晶Si等の半導体形成材料を局所的に加熱・冷却することができず、熱処理工程の精密な制御や管理が困難となり、また真空中で絶縁基板を精密に高温に維持する必要からステージが大型化したり、スループットが低下する。さらに、絶縁基板を加熱せざるを得ないため、本質的に低温プロセスとすることができない。
【0006】そこで、本発明は、処理工程が簡単で基板に与える熱的ダメージが少なく、大面積の基板を表面に近い領域のみを管理された熱工程で処理することができる表面処理装置及び方法を提供することを目的とする。」

イ 「【0019】
【発明の実施の形態】〔第1実施形態〕以下、本発明に係る第1実施形態の表面処理装置について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】図1は、第1実施形態の表面処理装置の構造を説明する図である。この表面処理装置は、基板を構成する半導体ウエハの表面上に金属薄膜を形成した直後の処理対象物WOにレーザアニールの熱処理を施すためのものである。この装置は、処理対象物WOを載置して処理室10中で移動する移動ステージ20と、処理対象物WOを金属薄膜側から加熱する第1レーザ光LB_(1)を発生するエキシマレーザその他の第1レーザ光源30と、処理対象物WOを裏面側から加熱する第2レーザ光LB_(2)を発生する炭酸ガスレーザその他の第2レーザ光源40と、処理対象物WOを載置した移動ステージ20を両レーザ光LB_(1)、LB_(2)に対して相対的に適宜移動させるステージ駆動装置50と、表面処理装置の動作を統括的に制御する制御装置70とを備える。
……(中略)……
【0034】図5は、第1レーザ光LB_(1)の走査を説明する図である。高融点金属膜FLにおいて、繰り返しパルスである第1レーザ光LB_(1)が入射する所定領域PA_(1)?PA_(3)は、各パルスごとに一定の重複率でオーバラップしつつX方向に移動する。またこれと同時に、第2レーザ光LB_(2)が入射する領域CA_(1)?CA_(3)も、一定の重複率でオーバラップしつつX方向に移動する。これにより、より均一なレーザアニールが可能になり、オーミックコンタクトの特性を揃えることができる。なお、所定領域PA_(1)?PA_(3)の重複率は、必要な加熱条件に応じて適宜変更することができる。」

ウ 「【0035】〔第2実施形態〕以下、本発明の第2実施形態の熱処理装置について説明する。この熱処理装置の構造は、図1に示すものとほぼ同一であるが、この熱処理装置では、処理対象物WOとして、下地SiO_(2)層とアモルファスSi層を表面上に成膜したガラス基板を処理する。この場合、主たる加熱に用いる第1レーザ光と補助的な加熱に用いる第2レーザ光とによって加熱のパワーを確保し、ガラス基板上のアモルファスSi層を溶融する。この際、第1レーザ光の入射タイミングと第2レーザ光の入射タイミングとに適当な差を設けることで、溶融したアモルファスSi層をポリシリコン化させる際の冷却速度の制御がある程度可能になる。
【0036】図6は、ステージ駆動装置50によって駆動される移動ステージ120の構造を説明する平面図である。矩形のガラス基板からなる処理対象物WOを処理するため、移動ステージ120には、矩形開口120aが形成されている。
【0037】図6(a)の場合、処理対象物WOのアモルファスSi層上面には、矩形の第1レーザ光LB_(1)が入射する。また、処理対象物WOの下面からは、第1レーザ光LB_(1)よりも縦横のサイズがある程度大きい第2レーザ光LB_(2)が、矩形開口120aを介して入射する。処理対象物WOを移動ステージ120とともにXY面内でステップ移動させることにより、両レーザ光LB_(1)、LB_(2)は、処理対象物WOに対して相対的にX方向やY方向に走査される。これにより、処理対象物WO上におけるレーザ光LB_(1)等の入射位置を段階的に移動させることができ、マトリックス状に配置された多数の切り離された領域をポリシリコン化させることができる。
【0038】図6(b)の場合、処理対象物WOのアモルファスSi層上面には、長尺ビームとして投影される第1レーザ光LB_(1)が入射する。また、処理対象物WOの下面からも、同様に長尺である程度大きい第2レーザ光LB_(2)が、矩形開口120aを介して入射する。処理対象物WOを移動ステージ120とともにステップ移動させることにより、両レーザ光LB_(1)、LB_(2)は、処理対象物WOに対して相対的にX方向に走査される。これにより、処理対象物WO上におけるレーザ光LB_(1)等の入射位置を段階的に移動させることができ、ストライプ状に配置された多数の切り離された領域をポリシリコン化させることができる。
【0039】この場合、第1レーザ光LB_(1)の波長を例えばエキシマレーザからの308nmとし、第2レーザ光LB_(2)の波長を例えばYAGレーザの二倍高調波である532nmとすることができる。なお、第2レーザ光LB_(2)は、CO_(2)レーザ(波長:10.64μm)やYAG基本波(波長:1.06μm)やHe-NeレーザやArレーザに置き換えることができることは言うまでもない。」

エ 「【0041】図8は、アモルファスSi層をポリシリコン化させる際の、第1及び第2レーザ光LB_(1)、LB_(2)の関係を示すグラフである。図からも明らかなように、第1レーザ光LB_(1)のパワーが第2レーザ光LB_(2)のパワーよりも大きい点は上記第1実施形態の場合と同様であるが、第2レーザ光LB_(2)を第1レーザ光LB_(1)よりもΔt=t_(2)-t_(1)だけ先行して発生させている。ここで、遅延時間Δtは、任意に設定することができ、例えば負の値とすることもできる。この遅延時間Δtを適宜調節することにより、主たる第1レーザ光LB_(1)と補助的な第2レーザ光LB_(2)とによって溶融したSiを徐冷する際のアニール曲線の勾配をある程度任意に制御することができるようになる。」

オ 図8には、第1レーザ光LB_(1)及び第2レーザ光LB_(2)は、時間的にみて、パルス状に変化することが記載されている。

(2)引用発明
以上のア?オから、引用例には、「絶縁基板上にSi多結晶等からなる半導体層を形成する方法」(アの段落【0003】)に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「下地SiO_(2)層とアモルファスSi層を表面上に成膜したガラス基板を処理対象物WOとして、前記処理対象物WOのアモルファスSi層上面に、主たる加熱に用いるエキシマレーザからの矩形の第1レーザ光LB_(1)を入射するステップと、
前記処理対象物WOの下面からは、前記第1レーザ光LB_(1)よりも縦横のサイズがある程度大きく、補助的な加熱に用いる第2レーザ光LB_(2)を入射するステップと、を含み、
前記第2レーザ光LB_(2)を前記第1レーザ光LB_(1)よりもΔtだけ先行して発生させ、
前記第1レーザ光LB_(1)と前記第2レーザ光LB_(2)とによって加熱のパワーを確保して前記アモルファスSi層を溶融させ、当該溶融したアモルファスSi層をポリシリコン化させることで、絶縁基板上にSi多結晶からなる半導体層を形成する方法。」

3 対比
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と、引用発明とを対比する。
ア 引用発明は、「下地SiO_(2)層とアモルファスSi層を表面上に成膜したガラス基板を処理対象物WOとして、前記処理対象物WOのアモルファスSi層上面に、主たる加熱に用いるエキシマレーザからの矩形の第1レーザ光LB_(1)を入射するステップ」を有することにより、当該「第1レーザ光LB_(1)」よりも「Δtだけ先行して発生」し「補助的な加熱に用いる第2レーザ光LB_(2)」と併せることで、「加熱のパワーを確保して前記アモルファスSi層を溶融させ、当該溶融したアモルファスSi層をポリシリコン化させる」ものである。
すなわち、引用発明の前記「主たる加熱に用いるエキシマレーザからの矩形の第1レーザ光LB_(1)を入射するステップ」は、「補助的」に「加熱」された「前記アモルファスSi層」を「溶融させ」るステップであり、これにより「当該溶融したアモルファスSi層をポリシリコン化させる」ためのステップである。
これに対して、本願明細書の段落【0013】の「本発明は、固体レーザ装置によりレーザ光を出射してアモルファスシリコン層の下面を照射し、且つエキシマレーザ装置によりレーザ光を出射してアモルファスシリコン層の上面を照射することにより、アモルファスシリコンを溶融させ、多結晶シリコンを結晶化する時間を大幅に減少でき、多結晶シリコンの生産高を有効に向上させる」という記載を参酌すれば、本願発明の「エキシマレーザ装置によりレーザを出射して前記アモルファスシリコン層の上面を照射することにより、前記アモルファスシリコン層を多結晶シリコンに結晶化するステップS12」は、「エキシマレーザ装置によりレーザを出射して前記アモルファスシリコン層の上面を照射することにより」前記アモルファスシリコン層を溶融させて「前記アモルファスシリコン層を多結晶シリコンに結晶化する」ための「ステップS12」であると解される。
したがって、引用発明の「下地SiO_(2)層とアモルファスSi層を表面上に成膜したガラス基板を処理対象物WOとして、前記処理対象物WOのアモルファスSi層上面に、主たる加熱に用いるエキシマレーザからの矩形の第1レーザ光LB_(1)を入射するステップ」は、本願発明の「エキシマレーザ装置によりレーザを出射して前記アモルファスシリコン層の上面を照射することにより、前記アモルファスシリコン層を多結晶シリコンに結晶化するステップS12」に相当する。

イ 引用発明の「前記処理対象物WOの下面からは、前記第1レーザ光LB_(1)よりも矩形の縦横のサイズがある程度大きく、補助的な加熱に用いる第2レーザ光LB_(2)を入射するステップ」における「第2レーザ光LB_(2)」は、「補助的な加熱に用いる」ものであり、「前記第1レーザ光LB_(1)よりもΔtだけ先行して発生させ」られる。
そして、前記「第2レーザ光LB_(2)」は、「前記処理対象物WOの下面から」入射すると、透明な「ガラス基板」及び「下地SiO_(2)層」を透過して「溶融」対象の「アモルファスSi層」を「補助的」に「加熱」すると認められるから、前記「先行して発生させ」られる「第2レーザ光LB_(2)」は「アモルファスSi層」を予熱すると認められる。
したがって、引用発明の「前記処理対象物WOの下面からは、前記第1レーザ光LB_(1)よりも矩形の縦横のサイズがある程度大きく、補助的な加熱に用いる第2レーザ光LB_(2)を入射するステップ」と、本願発明の「固体レーザ装置によりレーザを出射してアモルファスシリコン層の下面を照射することにより、前記アモルファスシリコン層を予熱するステップS11」とは、「レーザを出射してアモルファスシリコン層の下面を照射することにより、前記アモルファスシリコン層を予熱するステップS11」である点で共通する。

ウ 引用発明において「前記第2レーザ光LB_(2)を前記第1レーザ光LB_(1)よりもΔtだけ先行して発生させ」ることは、本願発明において「前記ステップS11は、前記ステップS12より所定時間早く実行され」ることに相当する。

エ そして、引用発明の「絶縁基板上にSi多結晶からなる半導体層を形成する方法」は、以下に挙げる相違点を除き、本願発明の「多結晶シリコン製造方法」に相当する。

(2)一致点及び相違点
以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。
<<一致点>>
「多結晶シリコン製造方法であって、
レーザを出射してアモルファスシリコン層の下面を照射することにより、前記アモルファスシリコン層を予熱するステップS11と、
エキシマレーザ装置によりレーザを出射して前記アモルファスシリコン層の上面を照射することにより、前記アモルファスシリコン層を多結晶シリコンに結晶化するステップS12と、を含み、
前記ステップS11は、前記ステップS12より所定時間早く実行される方法。」

<<相違点>>
<<相違点1>>
本願発明は、前記アモルファスシリコン層を予熱するステップS11においては「固体レーザ装置により」レーザを出射するのに対して、引用発明は、「補助的な加熱に用いる第2レーザ光LB_(2)」をどのようなレーザ装置で出射するのか、特定されていない点。

<<相違点2>>
本願発明は、「前記固体レーザ装置が出射するレーザ光は、レーザパルス或いは連続レーザである」のに対して、引用発明はこのような特定を有していない点。

4 当審の判断
(1)相違点について
ア 引用例には、第2の2(1)ウで摘記したように、「第1レーザ光LB_(1)の波長を例えばエキシマレーザからの308nmとし、第2レーザ光LB_(2)の波長を例えばYAGレーザの二倍高調波である532nmとすることができる。なお、第2レーザ光LB_(2)は、CO_(2)レーザ(波長:10.64μm)やYAG基本波(波長:1.06μm)やHe-NeレーザやArレーザに置き換えることができることは言うまでもない。」(段落【0039】)と記載されている。
上記記載によれば、第1レーザ光LB_(1)はエキシマレーザからのレーザ光に特定されているが、第2レーザ光LB_(2)は、固体レーザ装置であるYAGレーザからのレーザ光であるか、気体レーザであるCO_(2)レーザやHe-NeレーザやArレーザからのレーザ光であるかは、特定されていない。
しかしながら、上記段落【0039】の記載に接した当業者であれば、第2レーザ光LB_(2)として、先ず、波長が「YAGレーザの二倍高調波である532nm」であるものを選択するものと認められる。すなわち、引用発明の「第2レーザ光LB_(2)」を出射するレーザ装置として、固体レーザ装置である「YAGレーザ」を選択することは、当業者が第一に行う事項であると認められる。

イ そして、第2の2(1)オで指摘したように、引用例には、第2レーザ光LB_(2)は、時間的にみてパルス状に変化することが記載されている。
したがって、引用発明の「第2レーザ光LB_(2)」を、固体レーザ装置である「YAGレーザ」により、時間的にみてパルス状に変化するレーザパルスとして出射させることは、当業者であれば、当然になし得たものと認められる。

ウ ここで、仮に、本願発明の「前記固体レーザ装置が出射するレーザ光は、レーザパルス或いは連続レーザである」との発明特定事項が、「前記固体レーザ装置」の動作形態を表しているとした場合について検討する。

エ 一般にレーザは誘導放出を利用した光の発振器を利用して構成されるものであり、その動作形態は、前記発振器の励起状態に応じて、基本的に、連続波発振動作とパルス発振動作とに分けられ、それぞれの動作を行うレーザは、連続レーザないしパルスレーザと呼ばれることは、当業者の技術常識である。
したがって、上記アのように、引用発明の「第2レーザ光LB_(2)」を出射するレーザ装置として、固体レーザ装置である「YAGレーザ」を選択した場合、当該「YAGレーザ」の動作形態は連続波発振動作とパルス発振動作のいずれかであるから、当該「YAGレーザ」は連続レーザかパルスレーザかのいずれかであると認められる。

オ これに対して、本願明細書には、段落【0009】、【0013】、【0021】、【0031】及び【0036】に、固体レーザ装置が出射するレーザ光は、レーザパルスであってよく、連続レーザであってもよいことが記載されている。そして、上記の段落【0013】には、「固体レーザ装置によりレーザ光を出射してアモルファスシリコン層の下面を照射し、且つエキシマレーザ装置によりレーザ光を出射してアモルファスシリコン層の上面を照射することにより」得られる効果が記載されているだけである。
したがって、本願発明のように「固体レーザ装置が出射するレーザ光は、レーザパルス或いは連続レーザである」ことで格別の効果を奏することは、本願明細書には何ら記載されていない。

カ 以上のとおりであるから、引用発明において、「補助的な加熱に用いる第2レーザ光LB_(2)」を固体レーザ装置であるYAGレーザから出射させ、このとき、前記「第2レーザ光LB_(2)」を、時間的にみてパルス状に変化するレーザパルスとして出射させるか、あるいは、前記YAGレーザを連続波発振動作させて連続レーザとして出射させるか、パルス発振動作させてレーザパルスとして出射させるかを選択することで、相違点1及び2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(2)審判請求人の主張
ア 審判請求書における主張
審判請求人は、審判請求書において、以下のように主張している。
(ア)「(1)……引用文献1において、YAGレーザからの第2レーザ光LB2の波長は、シリコンを効率的に透過する波長である。本願発明における「固体レーザ装置によりレーザを出射してアモルファスシリコン層の下面を照射」において、引用文献1に記載された第2レーザ光LB2を適用した場合、アモルファスシリコン層がシリコンを含むので第2レーザ光LB2は予熱効果を獲得することができない。したがって、第2レーザ光LB2を、「固体レーザ装置によりレーザを出射してアモルファスシリコン層の下面を照射することにより、前記アモルファスシリコン層を加熱する」ことには適用できない。
(イ)「(2)……本願発明では、アモルファスシリコン層の上面を溶融させて多結晶シリコンを結晶化するのであるから、固体レーザ装置の照射領域と、エキシマレーザ装置の照射領域は、実質的に等しいはずである。もし、本願発明において、引用文献1に記載された領域AR1,AR2のように第1レーザ光LB1および第2レーザ光LB2を照射したとすると、第2レーザ光LB2の照射領域の中に、第2レーザ光LB1が照射されなかった部分が生じる。この部分において多結晶シリコンへの結晶化が不十分になる可能性がある。
なお、本願発明において固体レーザ装置の照射領域と、エキシマレーザ装置の照射領域が実質的に等しいことは、明細書には直接的に記載されていないものの、明細書全体の記載および当業者の技術常識からすれば、ただちに理解できることである。
したがって本願発明には、引用文献1に記載されたような、第1レーザ光LB1および第2レーザ光LB2の照射を適用することができない。したがって、当業者は、引用文献1からは、本願請求項1,6に記載された発明を容易に想到することはできない。」
(ウ)「本願発明の作用効果は「多結晶シリコンを結晶化する時間を大幅に減少でき、多結晶シリコンの生産高を有効に向上させるとともに、アモルファスシリコンの溶融と結晶化の時の温度勾配を低減するため、多結晶シリコンの結晶化度を有効に高め、多結晶シリコンの結晶品質を改善することができ、さらに、高価なエキシマレーザ装置の出射回数を減少することができるため、エキシマレーザ装置の使用寿命を延長することができ、コストを一層低減することができる。」というものであり、「本願発明と引用文献1とでは、作用効果が異なる。」
(エ)「(4)引用文献1の段落[0039]には、「第1レーザ光LB1の波長を例えばエキシマレーザからの308nmとし、第2レーザ光LB2の波長を例えばYAGレーザの二倍高調波である532nmとすることができる。」等の記載がある。しかしながら、この説明は、引用文献1の図6(a)または図6(b)に記載された構成を前提とするものである。引用文献1に開示された構成を本願発明には適用することができない。すなわち、引用文献1は、本願発明を示唆するものではない。」

イ ア(ア)の主張について
第2の3(1)イで指摘したように、引用発明の「補助的な加熱に用いる第2レーザ光LB_(2)」は「アモルファスSi層」を予熱していると認められる。また、引用例には、段落【0039】に「第2レーザ光LB_(2)の波長を例えばYAGレーザの二倍高調波である532nmとすることができる。」と記載されている。
これに対して、本願発明の「固体レーザ装置」が出射する「レーザ」は「前記アモルファスシリコン層を予熱する」ものである。そして、本願明細書には、固体レーザ装置が出射するレーザ光の波長は532nmであることが、段落【0008】、【0012】、【0019】、【0029】及び【0034】に記載されている。
したがって、前記ア(ア)の主張は、引用発明と本願発明、及び、引用例及び本願明細書の記載を、それぞれ正解したものでないから、採用することはできない。

ウ ア(イ)の主張について
本願明細書には、段落【0008】、【0012】、【0020】、【0030】及び【0035】に、固体レーザ装置が出射するレーザ光のビームサイズは、エキシマレーザ装置が出射するレーザ光のビームサイズの1.5倍であると記載されている。
したがって、「本願発明において固体レーザ装置の照射領域と、エキシマレーザ装置の照射領域が実質的に等しいことは、明細書には直接的に記載されていないものの、明細書全体の記載および当業者の技術常識からすれば、ただちに理解できる」という主張は、本願明細書の記載に基づくものでない。
よって、前記ア(イ)の主張は、採用することはできない。

エ ア(ウ)の主張について
(ア)審判請求人は、本願発明の効果は、本願明細書の段落【0013】に記載された「多結晶シリコンを結晶化する時間を大幅に減少でき」ること、「アモルファスシリコンの溶融と結晶化の時の温度勾配を低減する」こと、「高価なエキシマレーザ装置の出射回数を減少すること」であると主張している。
(イ)引用例には、段落【0005】に「後者のレーザアニールでは、絶縁基板を全体的に加熱するため、非結晶Si等の半導体形成材料を局所的に加熱・冷却することができず……スループットが低下する。」と記載されている。そうすると、引用発明が「主たる加熱に用いるエキシマレーザからの矩形の第1レーザ光LB_(1)を入射」して「処理対象物WO」の前記「矩形」の領域のみを局所的に加熱することにより、絶縁基板を全体的に加熱する場合に比べて、スループットが向上し「Si多結晶からなる半導体層を形成する」速度が、従来の「レーザアニール」に比べて大きくなったと認められる。
(ウ)また、引用例には、段落【0035】に「この際、第1レーザ光の入射タイミングと第2レーザ光の入射タイミングとに適当な差を設けることで、溶融したアモルファスSi層をポリシリコン化させる際の冷却速度の制御がある程度可能になる。」と、段落【0041】に「この遅延時間Δtを適宜調節することにより、主たる第1レーザ光LB_(1)と補助的な第2レーザ光LB_(2)とによって溶融したSiを徐冷する際のアニール曲線の勾配をある程度任意に制御することができるようになる。」と記載されている。
したがって、「アモルファスシリコンの溶融と結晶化の時の温度勾配を低減」できるという効果は、当業者が引用例の記載から予期し得たものと認められる。
(エ)本願の特許請求の範囲の請求項1には、「エキシマレーザ装置によりレーザ」をどのように「出射」するのか、何ら記載されていない。したがって、本願発明が「高価なエキシマレーザ装置の出射回数を減少する」という効果を奏するという主張は、本願の特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
なお、引用例には、段落【0037】に、「処理対象物WO上におけるレーザ光LB_(1)等の入射位置を段階的に移動させることができ、マトリックス状に配置された多数の切り離された領域をポリシリコン化させることができる。」と記載されている。
そして、「第1レーザ光LB_(1)」は、図8に記載されるように、一回の照射でパルス状に短期間照射されることが、引用例には記載されている。
そうすると、引用発明の「主たる加熱に用いるエキシマレーザからの矩形の第1レーザ光LB_(1)」は、「アモルファスSi層」全体を「ポリシリコン化」する場合と比較して、出射回数は当然に減少するものと認められる。
(オ)以上から、審判請求人が主張する本願発明の効果は、すべて、引用例の記載から、当業者が予期し得たものと認められる。
よって、前記ア(ウ)の主張は、採用することはできない。

オ ア(エ)の主張について
(ア)審判請求人のア(エ)の主張において、なぜ「引用文献1に開示された構成を本願発明には適用することができない。」のか、その理由が記載されていない。加えて、「引用文献1に開示された構成を本願発明には適用することができない」ことと、「引用文献1は、本願発明を示唆するものではない」かどうか、あるいは、本願発明は「引用文献1に開示された構成」から当業者が容易に発明をすることができたかどうか、との関係が不明である。
したがって、前記ア(エ)の主張は、その主張自体が不明りょうである。
(イ)次に、仮に引用例に記載された発明が「図6(a)または図6(b)に記載された構成を前提とする」から、「引用文献1は、本願発明を示唆するものではない」と主張しているとして、以下検討する。
(ウ)引用例には、「図6(a)または図6(b)」については、段落【0037】?【0038】に記載されている。
そして、各段落には、「第1レーザ光LB_(1)」及び「第2レーザ光LB_(2)」を矩形ビームまたは長尺ビームとして「処理対象物WO」に入射すること、各ビームを「処理対象物WO」に対して少なくとも相対的にX方向に走査すること、が記載されている。
(エ)これに対して、本願明細書には、段落【0020】に「アモルファスシリコン層1の受熱効果を一層改善するために、例えば、固体レーザ装置4が出射するレーザ光5のビームサイズは、エキシマレーザ装置2が出射するレーザ光3のビームサイズの1.5倍であってもよい。ビームサイズについて、例えば、ビームの断面が円形であれば、半径のサイズを指し、楕円形であれば、長半径と短半径を指し、長方形であれば、長さと幅のサイズを指す。」と、「固体レーザ装置4が出射するレーザ光5」及び「エキシマレーザ装置2が出射するレーザ光3」のビーム形状は「長方形」でありうることが記載されている。
(オ)しかしながら、本願の特許請求の範囲の請求項1には、「固体レーザ装置が出射するレーザ光」及び「エキシマレーザ装置」が出射するレーザ光を、「アモルファスシリコン層」上で走査させることも、逆に走査させないことも、記載されていない。
したがって、前記ア(エ)の主張は、本願の特許請求の範囲の記載に基づくものでない。
(カ)以上から、前記ア(エ)の主張は採用することはできない。

(3)判断のまとめ
以上検討したとおり、相違点1ないし2は、引用発明から当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。
そして、本願発明の効果も、引用発明から、当業者が予期し得たものである。


第3 結言
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-10 
結審通知日 2017-05-16 
審決日 2017-05-29 
出願番号 特願2014-137793(P2014-137793)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桑原 清  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 加藤 浩一
鈴木 匡明
発明の名称 多結晶シリコン製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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