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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1333747
審判番号 不服2015-21992  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-11 
確定日 2017-10-19 
事件の表示 特願2012- 50679「非水系電池用の電極リード線部材」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月19日出願公開、特開2013-187018〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月7日の出願であって、平成27年2月27日付けで手続補正がなされ、同年5月7日付けで拒絶理由が通知され、同年6月26日付けで手続補正書及び意見書が提出され、同年9月9日付けで拒絶査定がなされ、これを不服として同年12月11日に本件審判請求がなされ、同時に手続補正がなされ、平成28年3月2日付けで上申書が提出されたものである。

第2 平成27年12月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年12月11日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
平成27年12月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)は、特許請求の範囲の請求項1に対する補正事項を含み、その補正前、補正後の請求項1の記載は次のとおりである(下線部は補正により変更された箇所を示す)。

[補正前の請求項1]
アルミ箔と樹脂フィルムとのラミネートフィルム積層体を外装材に用いてなる非水系電池用収納容器から引き出される電極リード線部材であって、前記電極リード線部材の、前記外装材との接合部に沿う断面で見た、金属製平板の両端部が押し潰されて、断面中央部よりも厚みが薄くされてなり、短冊状をした前記金属製平板の外表面に、ポリビニルアルコール系樹脂又はポリビニルエーテル系樹脂と、水溶性のフッ素化合物とを含有した溶液を塗布・乾燥させて保護層が形成されていることを特徴とする電極リード線部材。

[補正後の請求項1]
アルミ箔と樹脂フィルムとのラミネートフィルム積層体を外装材に用いてなる非水系電池用収納容器から引き出される電極リード線部材であって、前記電極リード線部材の、前記外装材との接合部に沿う断面で見た、金属製平板の両端部が押し潰されて、断面中央部よりも厚みが薄くされてなり、短冊状をした前記金属製平板の外表面に、ポリビニルアルコール系樹脂又はポリビニルエーテル系樹脂と、水溶性のフッ素化合物とを含有した溶液を塗布・乾燥させた保護層が、帯状のパターンに形成されていることを特徴とする電極リード線部材。

2.補正の適否
上記補正事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは図面に記載した事項の範囲において、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「保護層」を、「帯状のパターンに」形成されているものに限定することにより特許請求の範囲を限定的に減縮するものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとした課題は同一であるといえるから、この補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、特許法第17条の2第3項、第4項の規定に違反するものでもない。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下検討する。

2-1.本願補正発明
本願補正発明は、上記「1.補正の内容」の[補正後の請求項1]に記載した事項により特定されるとおりのものである。

2-2.刊行物の記載事項
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2011-202121号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。なお、下線は、特に注目した箇所を示すために当審で付したものである。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、リチウムイオン二次電池の正極及び負極から外部に電気を取り出すための端子であるタブリードとなる金属基材の表面に塗布し、タブリードの耐電解液性、耐腐食性を確保する水溶性高分子皮膜形成剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリン自動車の代替えとして、電気自動車の開発が急速に発達してきている。この電気自動車を普及する際の最も重要な課題のひとつとなっているのが電源となる電池である。この電池にはリチウムイオン二次電池が採用されているが、このリチウムイオン二次電池を電気自動車に採用するには10?15年の保証が必要といわれ、そのため、高品質・高信頼性が要求されている。
【0003】
このリチウムイオン二次電池とは、正極・負極・セパレータ・電解液を金属ケース内或いはラミネート型のセル構造に収納して密閉構造としたものである。このリチウムイオン電池には、微量の水分でも悪影響を及ぼすため、完全密閉化は絶対条件となっている。また、安全性確保のため、その内部若しくは外部に安全弁を始め各種の保護機能を一体装備しているものが多い。
【0004】
また、このリチウムイオン電池には、正極及び負極から外部に電気を取り出すためのタブリードと呼ばれる端子が付設している。このタブリードは、一般的には、正極にはアルミニウム、負極にはニッケルめっきを施した銅が用いられているが、これらの導体にはPPフィルムなどの絶縁フィルムを溶着して絶縁機能を発揮させる必要がある。しかし、万が一、リチウムイオン二次電池内部の電解液からフッ化水素が発生した際には、タブリードを形成する金属基材と絶縁フィルムとが剥がれ易い状態となり、この金属基材と絶縁フィルムとが完全に剥がれてしまった場合には電解液漏れによる重大な事故につながってしまう可能性がある。また、タブリードの腐食・溶解反応があれば、リチウムイオン二次電池自体の耐久性が低下してしまうという問題も生じる。そのため、金属基材と絶縁フィルムとの剥がれ対策やタブリード自体の耐腐食性の向上が重要となっている。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の表面処理では、金属基材の表面に形成した皮膜が厚すぎて、タブリードの導電性を低下させたり、皮膜自体に歪が生じこの歪によって皮膜が持つ本来の耐性を低下させたり、或いは表面処理を行った際に極めて毒性の高い生成物が生じるなど、様々な問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記タブリードの問題を解決するために、耐電解液性、耐腐食性、耐湿性を確保し得る皮膜を形成し、この皮膜の厚さを容易に制御することで導電性を良好にし、更に、環境にやさしく、安全性に優れた水溶性高分子皮膜形成剤を提供することを目的とする。」

「【0025】
【図1】本実施例のタブリード試験片を示す説明平面図である。
【図2】図1のA-A断面図である。」

「【0027】
本発明は、水溶性高分子のアニオン変性ポリビニルアルコール(以下、アニオン変性PVA)に、架橋剤としての飽和脂肪族を加えたことで、アニオン変性PVAのみでは煮沸水に対して耐水性が非常に悪いものであったが、煮沸水に対しても優れた耐水性を有する水溶性高分子皮膜形成剤となる。」

「【0030】
また、例えば、カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性PVAと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかとを純水中で溶解した混合溶液に、水溶性フッ化水和物(例えば、VF_(3)・3H_(2)O,ZnF_(2)・4H_(2)O,CrF_(3)・3H_(2)O,CoF_(3)・3H_(2)O,NiF_(2)・4H_(2)O,CuF_(2)・2H_(2)Oから選択される水溶性フッ化水和物)を加えれば、耐腐食性が向上することとなる。
【0031】
即ち、この水溶性フッ化水和物に含有するフッ素は、電気陰性度が最大の原子であり、酸化剤でもある。また、水溶性フッ化水和物中の金属成分と常にイオン結合した状態で存在する。このため、水溶性高分子皮膜1形成前の金属基材2の表面には必ず酸素イオンが存在し、この水溶性高分子皮膜形成剤を塗布し、加熱・乾燥することで酸素イオンがこのフッ素イオンに引き寄せられ、フッ素と結合している金属との間で活性化された微小な金属酸化物が形成され、この水溶性高分子皮膜1と金属基材2との密着性を向上させることとなり、これによって、耐腐食性が向上することとなる。」

「【実施例】
【0034】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0035】
本実施例は、水溶性高分子と、架橋剤である飽和脂肪族カルボン酸と、水溶性フッ化水和物とからなる水溶性高分子皮膜形成剤を金属基材2に塗布して形成したタブリードである。
【0036】
具体的には、カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性PVAと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかと、VF_(3)・3H_(2)O,ZnF_(2)・4H_(2)O,CrF_(3)・3H_(2)O,CoF_(3)・3H_(2)O,NiF_(2)・4H_(2)O,CuF_(2)・2H_(2)Oから選択される水溶性フッ化水和物とを純水中で混合、溶解した水溶性高分子皮膜形成剤を金属基材2に塗布し、この金属基材2を加熱、乾燥することで前記水溶性高分子皮膜形成剤が脱水縮合を起こして、この金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成したタブリードである。」

「【0043】
このようにして、カルボキシル基若しくはスルホ基を含有親水基とするアニオン変性PVAと、ブタンテトラカルボン酸,アミノカルボン酸若しくはアミノカルボン酸誘導体のいずれかと、VF_(3)・3H_(2)O,ZnF_(2)・4H_(2)O,CrF_(3)・3H_(2)O,CoF_(3)・3H_(2)O,NiF_(2)・4H_(2)O,CuF_(2)・2H_(2)Oから選択される水溶性フッ化水和物とを、純水中で混合、溶解して水溶性高分子皮膜形成剤を形成し、これを金属基材2に塗布して、加熱乾燥することで金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1が形成される。」

「【0050】
<実施例1>
実施例1における水溶性高分子皮膜形成剤は、カルボキシル基を含有親水基に有するアニオン変性PVA(A)と、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(B)とを、固形分濃度比(B/A)が1.09となるように純水中で混合、溶解し、これにフッ化バナジウム水和物(VF_(3)・3H_(2)O)(C)を、固形分濃度比(C/(A+B))が0.91となるように混合して形成したものであり、この水溶性高分子皮膜形成剤中にアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材を浸漬して表面に水溶性高分子皮膜形成剤を付着させて、160℃で5分間加熱して、この水溶性高分子皮膜形成剤を乾燥させて金属基材2の表面に水溶性高分子皮膜1を形成した。」

「【0069】
また、上述した実施例1?実施例15及び比較例1?比較例3で作製したタブリード試験片4について、具体的に説明すると、金属基材2となるアルミ基材及びNiめっきを施した銅基材は、厚さ0.2mmの板材を用いて、60mm×40mmの方形状に切り出したものを使用した。これらの金属基材2を上述した実施例1?実施例15及び比較例1?比較例3に示した条件で表面処理を行って、表面に水溶性高分子皮膜1を形成し、図1,図2に示すように、この表面に水溶性高分子皮膜1を形成した金属基材2の上下面に、この基材を挟んで重合状態に絶縁フィルム3(厚さ100μm、幅15mmのものを使用)を両端が5mmずつ突出するようにして架設し、この状態で溶着してタブリード試験片4を作製した。」

「【0076】
(2)剥離強度試験
剥離強度試験の目的は、所定の表面処理条件を施した金属基材2に絶縁フィルム3を溶着して形成したタブリード試験片4における引張強度、即ち、金属基材2と絶縁フィルム3との密着性を確認するものである。
【0077】
試験内容は、二軸延伸ナイロン(ONy)/アルミ箔(Al)/無延伸ポリプロピレン(CPP)からなる三層ラミネートフィルムを半分に折り、これにタブリード試験片4を挟み込んだ状態で、溶着機を用いてラミネートフィルムとタブリード試験片4を溶着したサンプルを作製する。このサンプルを15mm幅に切断し、引張試験機を用いて10mm/分で引っ張り、溶着部が剥離する際の荷重を測定することで剥離強度を確認する。」









以上の記載の特に下線部を参照すると、次のア?カのことがいえる。

ア 刊行物1には、【0035】、【0036】、【0043】、【0050】の下線部の記載によれば、実施例1として、水溶性高分子としてのアニオン変性ポリビニルアルコール、架橋剤としての1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、および、水溶性フッ化水和物としてのVF_(3)・3H_(2)Oを純水中で混合、溶解した水溶性高分子皮膜形成剤を金属基材2に塗布して加熱乾燥させた、水溶性高分子皮膜1を形成したタブリード試験片4が記載されている。

イ 刊行物1の【0025】と【図1】、【図2】によれば、タブリード試験片のA-A断面において、金属基材2の断面は長方形状であることが看てとれる。そして、上記A-A断面とは、絶縁フィルム3が金属基材2を突出して設けられる方向であり、絶縁フィルム3が金属基材2を完全に覆うところでは、金属基材2が電池の正極・負極や外部の端子と接続できないことは明らかであるから、A-A断面と垂直な方向に金属基材2が延長しており、当該延長の端部において、金属基材2の一端が電池の正極・負極と接続し、同他端が電池外部の端子と接続することは明らかである。してみれば、A-A断面の方向は、タブリードの延長方向に垂直な方向であるといえるから、金属基材2のタブリードの延長方向に垂直な方向の断面が長方形状であるといえる。

ウ 上記アのタブリード試験片4は、【0069】の記載によれば、アルミ基材等を60mm×40mmの方形状に切り出して金属基材2として使用した、剥離強度試験等の試験を行うための試験片であるが、試験片ではなく実際の電池に用いるタブリードは、金属基材の寸法は異なるかもしれないが、試験片と同じ構造・材料で形成されたものと認められる。

エ 上記ア?ウをまとめると、刊行物1には、実施例1の試験片と同じ構造・材料で形成された、実際の電池に用いるタブリードとして、「タブリードの延長方向に垂直な方向の断面が長方形状である金属基材の表面に、水溶性高分子としてのアニオン変性ポリビニルアルコール、架橋剤としての1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、および、水溶性フッ化水和物としてのVF_(3)・3H_(2)Oを純水中で混合、溶解したものを塗布して加熱乾燥させた水溶性高分子皮膜が形成されているタブリード」が記載されているといえる。

オ さらに、上記エのタブリードは、実施例の背景的な技術の記載である【0001】によれば、「リチウムイオン二次電池の正極及び負極から外部に電気を取り出すための端子であるタブリード」といえ、また、リチウムイオン二次電池は、同【0003】によれば、「正極・負極・セパレータ・電解液を」、「ラミネート型のセル構造に収納して密閉構造とした」ものといえるから、上記エのタブリードは、「ラミネート型のセル構造に収納して密閉構造としたリチウムイオン二次電池の正極及び負極から外部に電気を取り出すためのタブリード」といえる。

カ また、刊行物1の【0076】、【0077】には、実施例のタブリード試験片4に対して行う剥離強度試験において、「二軸延伸ナイロン(ONy)/アルミ箔(Al)/無延伸ポリプロピレン(CPP)からなる三層ラミネートフィルム」を用いることが記載されており、試験用ではなく上記オに記載した実際の二次電池を構成するラミネート型のセル構造も、「二軸延伸ナイロン(ONy)/アルミ箔(Al)/無延伸ポリプロピレン(CPP)からなる三層ラミネートフィルム」を用いたものであると認められる。

以上のア?カによれば、刊行物1には、実施例1の試験片と同じ構造・材料で形成された、実際の電池に用いるタブリードとして、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているといえる。

[引用発明]
正極・負極・セパレータ・電解液を、二軸延伸ナイロン(ONy)/アルミ箔(Al)/無延伸ポリプロピレン(CPP)からなる三層ラミネートフィルムを用いたラミネート型のセル構造に収納して密閉構造としたリチウムイオン二次電池の正極及び負極から外部に電気を取り出すためのタブリードであって、
タブリードの延長方向に垂直な方向の断面が長方形状である金属基材の表面に、水溶性高分子としてのアニオン変性ポリビニルアルコール、架橋剤としての1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、および、水溶性フッ化水和物としてのVF_(3)・3H_(2)Oを純水中で混合、溶解したものを塗布して加熱乾燥させた水溶性高分子皮膜が形成されているタブリード。

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-77044号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。なお、下線は、特に注目した箇所を示すために当審で付したものである。

「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シート電池に関する。」

「【0003】図3は従来のシート電池を示す図である。同図(a)は斜視図で示している。同図(b)及び(c)は断面図で示しており、また断面に現れた線のみを記載している。同図(a)に示すように、シート電池20は、シート状の外装部材21と外装部材22との間に、正極23a、セパレータ23c、負極23bを順に積層した積層体23を配置し、さらに電解液を注入して形成されている。外装部材21の周縁部と外装部材22の周縁部はヒートシールにより接合されている。正極23aおよび負極23bには、外装部材21と外装部材22との間から電池外部へと突出する正極用のリード端子24aと負極用のリード端子24bがそれぞれ接続されている。なお、正極23aと正極用のリード端子24aとの接続部分、および負極23bと負極用のリード端子24bとの接続部分については、概略的に示している。積層体23は外形のみを点線で示している。
【0004】同図(b)及び(c)は、線B-Bを通る厚み方向の断面を部分的に拡大した図であり、外装部材21と外装部材22の周縁部を示している。同図(b)はヒートシールされる前の状態を示しており、同図(c)はヒートシールされた後の状態を示している。同図(b)及び(c)に示すように、外装部材21及び外装部材22は、対向する面側にそれぞれ接着剤層(21a、22a)を有している。リード端子(24a、24b)は外装部材21と外装部材22とで挟まれている。リード端子(24a、24b)の横断面は矩形(長方形)を呈している。接着剤層(21a、22a)はホットメルト系接着剤で形成されている。この接着剤層21aと接着剤層22aとが、同図(c)に示すようにヒートシールされて融着することにより、外装部材21の周縁部と外装部材22の周縁部とは接合される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、シート電池に通常用いられるホットメルト系接着剤は、ヒートシール時において流動性が低いものであり、また、通常接着剤層の厚みは50μm?100μm程度、電極リードの厚みは50μm?100μ程度である。そのため、同図(b)に示すように、ヒートシールの際に接着剤層(21a、22a)がリード端子(24a、24b)の側面にまで回り込まず、ヒートシール後にリード端子(24a、24b)の側面に隙間Sが形成される場合がある。このような隙間Sが形成されると、隙間Sから電池内部の電解液が漏洩したり、逆に隙間Sから電池内部に水分等が侵入して、著しく電池特性が劣化するという問題が生じてしまう。一方、上記の隙間Sの形成は、接着剤層の厚みを増加することによって解消することができるが、この場合、シート電池自体の厚みを増加させてしまい好ましくない。
【0006】本発明の課題は、上記問題を解決し、厚みが従来と同等又はそれ以下であるにも拘らず、電解液の漏洩や水分等の侵入を抑制し得、電池特性を安定化し得るシート電池を提供することにある。」

「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図を用いて詳細に説明する。図1は、本発明のシート電池の一例を示す図である。同図(a)は斜視図で示しており、同図(b)は断面図で示している。同図(a)の例に示すように、シート電池10は、二つのシート状の外装部材(1、2)が互いの周縁部で接合され、外装部材間に少なくとも正極3aとセパレータ3cと負極3bとを積層してなる積層体3が収容された構造を有している。正極3aおよび負極3bには、周縁部における外装部材1と外装部材2との間から電池外部へと突出するリード端子(正極用4a、負極用4b)が接続されている。なお、正極3aと正極用のリード端子4aとの接続部分、および負極3bと負極用のリード端子4bとの接続部分については、概略的に示している。積層体3は同図(a)においては外形のみを点線で示している。外装部材間には更に電解液が注入されている。
【0011】同図(b)は線A-Aを通る厚み方向の断面であって、外装部材1と外装部材2の接合された周縁部を示している。同図(b)の例に示すように、リード端子(4a、4b)は、少なくとも外装部材1と2との接合された周縁部において、外装部材(1、2)の面方向側にある端部の横断面の形状が、リード端子の外側に先細り状となるように、形成されている。
【0012】同図(b)の例では、リード端子(4a、4b)の横断面は、楕円形を呈しており、端部において先細りになっている。外装部材(1、2)は互いの対向する面側にそれぞれ接着剤層(1a、2a)を有しており、この接着剤層(1a、2a)がリード端子(4a、4b)の周囲と密着している。さらに、接着剤層(1a、2a)はホットメルト系接着剤で形成されている。外装部材1の周縁部と外装部材2の周縁部は、接着剤層1aと接着剤層2aとをヒートシールして互いに融着することにより、接合される。
【0013】このようにリード端子(4a、4b)の横断面の形状を従来のような矩形ではなく、上記に示すような楕円形とすれば、ヒートシールの際に接着剤層(1a、2a)がリード端子(4a、4b)の側面にまで十分回り込むようになる。よって、リード端子(4a、4b)と接着剤層(1a、2a)との間に隙間が生じることを抑制できる。
【0014】本発明においてリード端子は、図1に示したように、外装部材の面方向側にある端部において、横断面、即ちリード端子の長手軸に対して垂直な断面の形状が端子の外側に向けて先細り状となっているものであれば良い。なお、リード端子は、外装部材の接合された周縁部においてのみ、このような先細り状の断面形状を有していれば良く、全体にわたってこのような断面形状を有している必要はない。」









2-3.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「正極・負極・セパレータ・電解液を、二軸延伸ナイロン(ONy)/アルミ箔(Al)/無延伸ポリプロピレン(CPP)からなる三層ラミネートフィルムを用いたラミネート型のセル構造に収納して密閉構造としたリチウムイオン二次電池の正極及び負極から外部に電気を取り出すためのタブリード」は、リチウムイオン二次電池が、非水系電解液を使用する非水系電池であることは技術常識であるから、本願補正発明の「アルミ箔と樹脂フィルムとのラミネートフィルム積層体を外装材に用いてなる非水系電池用収納容器から引き出される電極リード線部材」に相当する。

引用発明の「金属基材」、「水溶性高分子としてのアニオン変性ポリビニルアルコール」、「水溶性フッ化水和物としてのVF_(3)・3H_(2)O」は、それぞれ、本願補正発明の「金属製平板」、「ポリビニルアルコール系樹脂」、「水溶性のフッ素化合物」に相当する。また、刊行物1の【0030】、【0031】の記載によれば、引用発明の水溶性高分子皮膜は、タブリードの耐腐食性を向上させるものであるから保護層といえ、【図1】、【図2】を参照すると、金属基材2は平板であることは明らかである。
したがって、引用発明の「金属基材の表面に、水溶性高分子としてのアニオン変性ポリビニルアルコール、架橋剤としての1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、および、水溶性フッ化水和物としてのVF_(3)・3H_(2)Oを純水中で混合、溶解したものを塗布して加熱乾燥させた水溶性高分子皮膜」は、本願補正発明の「金属製平板の外表面に、ポリビニルアルコール系樹脂と、水溶性のフッ素化合物とを含有した溶液を塗布・乾燥させた保護層」に相当する。

よって、本願補正発明と引用発明とは次の点で一致し、また、相違する。

(一致点)
アルミ箔と樹脂フィルムとのラミネートフィルム積層体を外装材に用いてなる非水系電池用収納容器から引き出される電極リード線部材であって、
金属製平板の外表面に、ポリビニルアルコール系樹脂と、水溶性のフッ素化合物とを含有した溶液を塗布・乾燥させた保護層が形成されている電極リード線部材。

(相違点1)
「金属製平板」が、本願補正発明では、「前記電極リード線部材の、前記外装材との接合部に沿う断面で見た、金属製平板の両端部が押し潰されて、断面中央部よりも厚みが薄くされてなり、短冊状をした前記金属製平板」であるのに対し、引用発明では、「タブリードの延長方向に垂直な方向の断面が長方形状であ」り、また、「短冊状をした」ものか否か明らかではない点。

(相違点2)
「保護層」(引用発明でいう「水溶性高分子皮膜」)が、本願補正発明では、「帯状のパターンに形成されている」のに対し、引用発明では、どのように形成されているのか特定されていない点。

2-4.判断
上記各相違点について検討する。
(相違点1)について
引用発明は、刊行物1の【0003】に記載されているように、リチウムイオン二次電池の正極・負極・セパレータ・電解液をラミネート型のセル構造に収納して密閉構造とし、水分の悪影響を避けた完全密閉化をすることを課題とするものである。
一方、リード端子の横断面が長方形である場合に、ヒートシールをすると、接着剤層がリード端子の側面にまで回り込まず、ヒートシール後のリード端子の側面に隙間Sが形成され、当該隙間Sから電池内部の電解液が漏洩したり、内部に水分が侵入して、著しく電池特性が悪化するという問題があり、当該問題を解決するために、電池の電極から電気を取り出す短冊状をしたリード線を、その断面が、金属製平板の両端部が押し潰されて、断面中央部よりも厚みが薄くされてなる、形状とすることは周知の技術(例えば、上記刊行物2を参照されたい。その他必要であれば、特開2001-57203号公報等を参照されたい。)である。
引用発明と上記周知技術とは、外部から電池内部への水分の侵入を避けるという同一の課題を解決しようとするものであるから、引用発明のタブリードにおいて、上記周知技術を適用することによって、タブリードの断面形状を、両端部が押し潰されて、断面中央部よりも厚みが薄くされてなるようにすることは当業者が容易になし得ることである。
また、電池のタブリードの平面形状としては電池内部から外部へ伸びる短冊状のものが例えば、上記刊行物2に記載のように普通に用いられており、刊行物1の【0069】の記載によれば、タブリードの試験片は板材を方形状に切り出したものであるから、実際のタブリードを、方形状の板材をタブリードの延長方向に伸ばした短冊状とすることは、刊行物1に接した当業者ならば即時に想起することである。
してみると、引用発明において、上記周知技術を適用して、タブリードの断面を、長方形状であることに代えて、両端部が押し潰されて、断面中央部よりも厚みが薄くされてなるようにするとともに、タブリードを短冊状をした金属製平板で構成すること、すなわち、本願補正発明の上記相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点2)について
本願補正発明における保護層が「帯状のパターンに形成されている」とは、本願図面の【図4】、【図5】に示されるように、保護層22が細長い短冊状の金属製平板21のうち、シーラント層23と当接する箇所、すなわち、電池外装用積層体10と熱接合する箇所(【0021】)において、当該金属製平板21の両端部を除く部分を覆う帯のように形成されていることを意味していると認められる。
これに対し、引用発明は、水溶性高分子皮膜がどのように形成されているのか特定されておらず、刊行物1には、【0050】、【0069】の記載によれば、60mm×40mmの方形状の金属基材をタブリードの試験片として水溶性高分子皮膜形成在中に浸漬し表面に水溶性高分子皮膜を形成することが記載されており、この記載から、請求人が主張するように、タブリードの試験片において、水溶性高分子皮膜は、金属基材の全体を被覆していると推測される。
しかしながら、水溶性高分子皮膜が、金属基材の全体を被覆していると推測されるのは、方形状の金属基材をタブリードの試験片として用いた場合のことであって、引用発明のタブリードは試験片ではなく、リチウムイオン二次電池の正極及び負極から外部に電気を取り出すための実際のタブリードであるから、技術常識に基づけば、その両端部は、一端が二次電池の正極や負極に、他端が外部の端子に接続されるものであって、仮に上記両端部が被覆されると電気伝導性が失われタブリードとして機能しないことは明らかである。
よって、技術常識に基づけば、引用発明のタブリードは、リチウムイオン二次電池の正極及び負極から外部に電気を取り出すためのタブリードとして構成した場合には、少なくともその両端部は水溶性高分子皮膜で被覆されないこと、すなわち、水溶性高分子皮膜は両端部を除く部分を覆う帯のように形成されることは当業者に明らかであり、このことは、本願補正発明の保護層が「帯状のパターンに形成されている」ことに相当するので、相違点2は実質的な相違点ではない。
また、仮に相違点2が実質的な相違点であり、水溶性高分子皮膜が帯状であることが明らかでないとしても、上述のように、電気伝導性の点からはタブリードの両端部は被覆されない必要があることは明らかであるから、両端部を被覆しないことにより水溶性高分子皮膜を帯状に形成することは当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではないし、仮に実質的な相違点であったとしても、引用発明において、本願補正発明の上記相違点2に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

また、本願補正発明が奏する「電解液の外部への漏洩や大気中の水分が内部に侵入するのを抑える(低減する)」という効果(本願明細書の段落【0016】)は、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得た構成のものが奏するであろうと当業者が予測し得る範囲を特に超えるものではなく、本願補正発明の進歩性を肯定する根拠となり得るものではない。

したがって、本願補正発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2-5.独立特許要件のまとめ
よって、本願補正発明は、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび(補正却下の決定)
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
上述のとおり本件補正は却下されたので、本願の請求項1-4に係る発明は、平成27年6月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-4の記載により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、上記「第2 1.補正の内容」の[補正前の請求項1]に記載したとおりのものと認める。

2.刊行物の記載事項
刊行物1の記載事項及び引用発明は、上記「第2 2. 2-2.刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2 2.2-1.?2-5.」で検討した本願補正発明の限定事項である、保護層が「帯状のパターンに形成されている」点を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明との対比は、上述した本願補正発明と引用発明との対比と同様にでき、両者の相違点は、上記(相違点1)のみであるから、上記「第2 2.2-4.判断」の「相違点1について」に記載したのと同様の判断により、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-16 
結審通知日 2017-08-22 
審決日 2017-09-06 
出願番号 特願2012-50679(P2012-50679)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤樫 祐樹  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
千葉 輝久
発明の名称 非水系電池用の電極リード線部材  
代理人 貞廣 知行  
代理人 志賀 正武  
代理人 大浪 一徳  

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