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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1333775
審判番号 不服2015-19017  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-22 
確定日 2017-10-18 
事件の表示 特願2012-556112「エポキシ化触媒、前記触媒の調製方法及びオレフィンオキシドの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 9日国際公開、WO2011/109215、平成25年 6月10日国内公表、特表2013-521119〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成23年 2月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年 3月 1日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年10月24日に国際出願翻訳文(明細書の翻訳文、請求の範囲の翻訳文及び要約書の翻訳文)が提出され、平成26年 2月17日に出願審査請求がされ、同年10月2日付けで拒絶理由が通知され、平成27年 4月 3日付けで意見書及び手続補正が提出されたが、同年 6月15日付けで拒絶査定され、これに対し、同年10月22日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に手続補正がなされ、前記拒絶査定不服審判の審判請求書が同年12月10日付け手続補正書で補正された後、平成28年 1月12日付けで前置報告がされ、同年 6月16日付けで上申書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年10月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1に特定された次のとおりのものである(下線は、請求人において付したものである)。

「【請求項1】
担体、及び該担体上に担持されている銀、レニウム助触媒、第1共促進剤及び第2共促進剤を含むオレフィンのエポキシ化用触媒であって、
a)担体上に担持されているレニウム助触媒の量は触媒の重量に対して1mmol/kgを超え;
b)第1共促進剤は硫黄、リン、ホウ素及びその混合物から選択され;
c)第2共促進剤はタングステン、モリブデン、クロム及びその混合物から選択され;
d)担体上に担持されている第1共促進剤及び第2共促進剤の全量は触媒の重量に対して最大で5.0mmol/kgであり;
e)前記担体は細孔直径範囲が0.01?200μm、比表面積が0.03?10m^(2)/g、細孔容積が0.2?0.7cm^(3)/gであって、前記担体の中央細孔直径が0.1?100μmである単峰性、双峰性または多峰性細孔径分布を有し、ならびに10?80%の吸水率を有しており;
f)前記担体は水銀ポロシメトリーにより測定される細孔径分布において、0.01?100μmの細孔直径範囲に少なくとも2つの対数微分細孔容積分布ピークを有し、ならびに前記ピークの少なくとも1つのピークは0.01?1.0μmの細孔直径範囲に存在し、各ピークは0.2cm^(3)/g以上の対数微分細孔容積分布の最大値である、前記触媒。」

なお、当該補正は、本件補正前の請求項1の従属項である請求項11を、引用形式を解消して、新たに独立項として請求項1としたものであって、請求項の削除を目的とするものといえる。


第3 原査定の理由
原査定の理由は、平成26年10月 2日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由1であり、本件補正前の請求項11に係る発明について、その出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

そして、その引用文献として、国際公開第2008/141027号(以下「引用文献1」という。(原査定における「引用文献6」))、及び特開2008-86877号公報(以下「引用文献2」という。(原査定における「引用文献3」))を引用し、以下のとおり指摘がされている。

「●理由1(進歩性)について
・・・
・請求項11,引用文献等3、6
・・・
・・・引用文献1?5に記載の発明において、引用文献6に記載のように各成分の担持量等を調節することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
・・・また、上記では引用文献1?5を主引例として検討したところ、引用文献6を主引例とした場合にも、同様の理由から本願発明は進歩性を有しないものと認められる。例えば、引用文献1には、銀、レニウム等の活性成分を有するエポキシ化触媒において、本願請求項1、9に規定の担体を用いることで、触媒活性及び選択性に優れる触媒が得られる旨記載されているから(特許請求の範囲、実施例等参照)、引用文献6に記載の発明において、触媒活性及び選択性のさらなる向上を目的として、引用文献1に記載の担体を用いることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。引用文献2?5についても同様である(各文献の特許請求の範囲又は請求の範囲、実施例等参照)。・・・」

第4 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明は、引用文献1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 引用文献の記載事項
(1)引用文献1(国際公開第2008/141027号
対応日本語公報:特表2010-527748号公報)
原査定で引用された本願優先日前に公知となった引用文献1には、以下の事項が記載されている。

(1a)「A highly selective epoxidation catalyst comprising a rhenium promoter in a quantity of more than 1 mmole/kg of the catalyst and a catalytically effective amount of silver as well as a first co-promoter and a second co-promoter in a total quantity of at most 3.8 mmole/kg catalyst, in accordance with the invention, exhibits an unexpected improvement in catalytic performance, in particular an improvement in initial selectivity, compared to a like catalyst not in accordance with the invention.」(3ページ6行?11行)
(日本語訳:
「 レニウム助触媒を1ミリモル/kg触媒より多い量でおよび触媒として有効な量の銀、同様に第1の共助触媒および第2の共助触媒を最大で3.8ミリモル/kg触媒の合計量で含む、本発明による高度に選択性のエポキシ化触媒は、本発明によらない類似の触媒と比較して、予想外の触媒性能の向上、特に当初の選択率の向上を示す。」
訳文は、上記対応日本語公報を参照して作成した。以下、同様。)

(1b)「The surface area of the carrier may suitably be at least 0.1 m ^(2) /g ・・・relative to the weight of the carrier; and the surface area may suitably be at most 20 m ^(2) /g, preferably at most 10 m^( 2) /g ・・・relative to the weight of the carrier. ・・・」(3ページ18行?22行)
(「担体の表面積は、担体の重量に対して、適当には少なくとも0.1m^(2)/g・・・であればよく、表面積は、担体の重量に対して、適当には最大で20m^(2)/g、好ましくは最大で10m^(2)/g・・・であればよい。・・・」)

(1c)「・・・The water absorption of the carrier may be in the range of from 0.2 to 0.85 g/g・・・ water absorption is expressed as the weight of the water that can be absorbed into the pores of the carrier, relative to the weight of the carrier. 」(3ページ31行?4ページ7行)
(「・・・担体の吸水率は、0.2から0.85g/gの範囲内・・・であればよい。・・・ 吸水率は担体の重量に対する担体の細孔内に吸収され得る水の重量として表現される。」)

(1d)「Examples
EXAMPLE 1 - Preparation of stock silver solution:
This example describes the preparation of a stock silver impregnation solution used in preparing Catalyst A in Example 2.
A silver-amine-oxalate stock solution was prepared by the following procedure:
・・・
The final solution was used as a stock silver impregnation solution for preparing Catalyst A.
EXAMPLE 2 - Preparation of catalysts:
Catalyst A:
Catalyst A was prepared by the following procedure: ・・・ A vessel containing 30 grams of Carrier A hollow cylinders, see Table I below, was evacuated to 20 mm Hg for 1 minute and the final impregnation solution was added to Carrier A while under vacuum,・・・and dried in air ・・・ producing Catalyst A.
The final composition of Catalyst A comprised the following, calculated on the basis of pore volume impregnation: 17.2 %w silver; 2 mmole Re/kg; 0.6 mmole W/kg; 2 mmole S/kg; 19 mmole Li /kg; and 5.6 mmole Cs/kg. These values are relative to the weight of the catalyst. 」(14ページ1行?15ページ21行)
(「【実施例】
(実施例1)
銀ストック溶液の調製
この実施例は、実施例2の触媒Aの調製において使用される銀含浸ストック溶液の調製を記載している。
銀-アミン-シュウ酸塩ストック溶液を次の手順によって調製した:
・・・
最終溶液は銀含浸ストック溶液として触媒Aを調製するために使用した。
(実施例2)
触媒の調製
触媒A
触媒Aは次の手順によって調製した。・・・担体Aの中空円筒、下記表Iを参照のこと、30グラムを収容している容器を20mmHgまで1分間真空にし、真空下のままで最終含浸溶液を担体Aに加え、次いで真空を開放して担体を液体に3分間接触させた。・・・空気中で・・・乾燥して触媒Aを作製した。
触媒Aの最終の組成は、細孔体積含浸に基づいて計算されて次のものを含んでいた:銀17.2重量%、Re2ミリモル/kg、W0.6ミリモル/kg、S2ミリモル/kg、Li19ミリモル/kgおよびCs5.6ミリモル/kg。これらの値は触媒の重量に対するものである。」)

(1e)「


(「

」)

(1f)「EXAMPLE 3 - Testing of catalysts:
The catalysts were used to produce ethylene oxide from ethylene and oxygen.
・・・
As observed from the data in Table II, Catalysts A, B, C, D, and E, having a total quantity of first and second co-promoters of at most 3.8 mmole/kg catalyst, exhibit an unexpected improvement in initial selectivity at the same ethylene oxide production levels, relative to Catalyst F which has a total quantity of first and second co-promoters of 4 mmole/kg catalyst. ・・・」(18ページ29行?19ページ25行)
(「(実施例3)
触媒の試験
この触媒をエチレンおよび酸素から酸化エチレンを作製するために使用した。
・・・
表IIのデータからから観察されるように、最大で3.8ミリモル/kg触媒の第1の共助触媒および第2の共助触媒の合計量を有する触媒A、B、C、DおよびEは、4ミリモル/kg触媒の第1の共助触媒および第2の共助触媒の合計量を有する触媒Fに対して、同じ酸化エチレン生成レベルにおいて、当初の選択率の予想外の向上を示す。・・・」)

(1g)「


(「

」)

(1h)「 1. A catalyst for the epoxidation of an olefin comprising a carrier and, deposited on the carrier, silver, a rhenium promoter, a first co-promoter, and a second co-promoter; wherein the quantity of the rhenium promoter deposited on the carrier is greater than 1 mmole/kg, relative to the weight of the catalyst;
the first co-promoter is selected from sulfur, phosphorus, boron, and mixtures thereof; the second co-promoter is selected from tungsten, molybdenum, chromium, and mixtures thereof; andthe total quantity of the first co-promoter and the second co-promoter deposited on the carrier is at most 3.8 mmole/kg, relative to the weight of the catalyst.」(Claim1)
(「【請求項1】
オレフィンのエポキシ化のための触媒であって、担体ならびに担体上に付着させられた銀、レニウム助触媒、第1の共助触媒および第2の共助触媒を含み、担体上に付着させられたレニウム助触媒の量は触媒の重量に対して1ミリモル/kgより多く、 第1の共助触媒はイオウ、リン、ホウ素およびこれらの混合物から選択され、第2の共助触媒はタングステン、モリブデン、クロムおよびこれらの混合物から選択され、
担体上に付着させられた第1の共助触媒および第2の共助触媒の合計量は触媒の重量に対して最大で3.8ミリモル/kgである、触媒。」)

(2)引用文献2(特開2008-86877号公報)
原査定で引用された本願優先日前に公知となった引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】
α-アルミナを主成分とし、水銀圧入法による細孔分布において細孔直径0.01?100μmの範囲に少なくとも2つのピークが存在し、前記ピークの少なくとも1つが0.01?1.0μmの範囲に存在する担体に、触媒成分を担持させてなる、エチレンオキシド製造用触媒。
【請求項2】
請求項1に記載のエチレンオキシド製造用触媒の存在下で、エチレンを分子状酸素含有ガスにより気相酸化する段階を有する、エチレンオキシドの製造方法。」

(2b)「【0006】
そこで本発明は、高選択率でエチレンオキシドを製造しうる触媒およびこの触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法を提供することを目的とする。
・・・
【0009】
本発明によれば、高選択率でエチレンオキシドを製造しうる触媒およびこの触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法が提供されうる。」

(2c)「【0013】
本発明において、担体の細孔分布は水銀圧入法により得られる。ここでは、細孔はすべて円筒形、細孔径は直径D、細孔容積はVで表現するものと仮定する。また、「ログ微分細孔容積分布」とは、広い範囲の細孔分布を表現するのに最もよく利用されており、差分細孔容積dVを細孔径の対数扱いの差分値d(logD)で割った値を求め、これを各区分の平均細孔径に対してプロットしたものである。なお、「差分細孔容積dV」とは、測定ポイント間の細孔容積の増加分をいう。例えば、図1Aに示すように、横軸が細孔直径(対数目盛り)を示し、縦軸がログ微分細孔容積を示す。また、積算細孔容積分布とは、横軸に細孔径、縦軸に細孔容積ΣVをプロットしたものである。例えば、図1Bに示すように、横軸が細孔直径(対数目盛り)を示し、縦軸が積算細孔容積を示す。なお、細孔分布を得るための水銀圧入法の具体的な手法としては、後述する実施例に記載の手法を採用するものとする。【0014】
水銀圧入法により得られる細孔分布において、「ピーク」とは、ログ微分細孔容積の極大値が0.2cm^(3)/g以上となるものを意味し、極大値が0.2cm^(3)/g未満のものは「ピーク」には含まれないものとする。」

(2d)「【0022】
担体の比表面積についても特に制限はないが、好ましくは0.03?10m^(2)/g・・・である。担体の比表面積が0.03m^(2)/g以上であれば、必要な量の触媒成分の担持が可能となり、担体の比表面積が大きいほど触媒成分の高分散担持が容易になる。また、触媒反応の活性部位である触媒成分表面の面積が大きくなるので、好ましい。一方、担体の比表面積が10m^(2)/g以下であれば、担体の細孔径がある程度大きい値に維持され、製造された触媒を用いたエチレンオキシド製造時のエチレンオキシドの逐次酸化が抑制されうる。・・・
【0023】
担体の細孔容積も特に制限されないが、好ましくは0.2?0.6cm^(3)/g・・・である。担体の細孔容積が0.2cm^(3)/g以上であれば、触媒成分の担持が容易となるという点で好ましい。一方、担体の細孔容積が0.6cm^(3)/g以下であれば、担体の強度が実用的な程度に確保されうるという点で好ましい。・・・」

(2e)「【0026】
担体の吸水率についても特に制限はないが、好ましくは10?70%・・・である。担体の吸水率が10%以上であれば、触媒成分の担持が容易となる。一方、担体の吸水率が70%以下であれば、担体の強度が実用的な程度に確保されうる。・・・」

(2f)「【0027】
本発明の触媒は、上述した担体に触媒成分が担持されてなる構成を有する。触媒成分の具体的な形態については特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうるが、触媒成分として銀を必須に含有することが好ましい。また、銀のほかに、一般に反応促進剤として用いられる触媒成分が担体に担持されてもよい。反応促進剤の代表例としては、アルカリ金属、具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。アルカリ金属のほかには、タリウム、硫黄、クロム、モリブデン、タングステン、レニウムなどもまた、反応促進剤として用いられうる。これらの反応促進剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、反応促進剤としてはセシウムが好適に用いられる。
【0028】
銀や反応促進剤の担持量については特に制限はなく、エチレンオキシドの製造に有効な量で担持すればよい。例えば、銀の場合、その担持量はエチレンオキシド製造用触媒の質量基準で1?30質量%であり・・・また、反応促進剤の担持量は、エチレンオキシド製造用触媒の質量基準で、通常0.001?2質量%・・・である。
特に、反応促進剤の最適な担持量は、担体物性の違いや反応促進剤の組み合わせなどにより異なる。このため、予め反応促進剤の担持量の異なる触媒を調製し、当該触媒について性能を評価した後、最高性能を示す反応促進剤の担持量を決定し、このような最高性能を示す量の反応促進剤量を担持して触媒を調製することが好ましい。・・・」

(2g)「【実施例】
【0040】
・・・本実施例において、各種パラメータの測定は以下の手法により行われた。
【0041】
<担体の細孔分布/細孔容積/平均細孔直径の測定>
水銀圧入法により測定した。具体的には、200℃にて少なくとも30分間脱気した担体をサンプルとし・・・細孔分布、細孔容積、および平均細孔直径を得た。」

(2h)「【0050】
(実施例1)
α-アルミナを主成分とする担体(・・・吸水率:39.4%・・・)4Lに対し、・・・煮沸処理を3回繰り返した。その後、・・・乾燥して、担体Aを得た。この担体Aの細孔分布を図示する(図1A:ログ微分細孔容積対細孔直径、図1B:積算細孔容積対細孔直径)。図1Aに示すように担体Aの細孔分布においては、細孔直径0.01?100μmの範囲(より詳細には、0.1?2.0μmの範囲)に3つのピークが存在し、かつ、0.01?1.0μmの範囲(より詳細には、0.1?0.5μmの範囲)に1つのピークが存在する。
【0051】
一方、シュウ酸銀520gを含む水スラリー(水スラリー中の水の含有量:150g)に、水100mL、および4.0gの硝酸セシウムを水250mLに溶解した溶液を添加して、泥状にした。次いで、・・・含浸溶液を調製した。
【0052】
得られた含浸溶液を予め約100℃に加熱した担体A2000gに含浸させた。次いで、・・・触媒前駆体を得た。
【0053】
得られた触媒前駆体を、・・・加熱処理し、エチレンオキシド製造用触媒Aを調製した。」

(2i)「【0066】
<触媒の転化率/選択率の測定>
各実施例および各比較例において得られた触媒を・・・二重管式ステンレス製反応器中に充填して充填層を形成した。次いで、当該充填層に、エチレン21容量%、酸素7容量%、二酸化炭素7容量%、残部がメタン、窒素、アルゴンおよびエタンからなり(メタン 52容積%、窒素 0.8容積%、アルゴン 12容積%およびエタン 0.2容積%)、さらに二塩化エチレン2ppmを含有する混合ガスを導入し、反応圧力20kg/cm^(2)G、空間速度6000hr^(-1)の条件下にてエチレンオキシドを製造した。下記数式2および数式3に従って、エチレンオキシド製造時の転化率(数式2)および選択率(数式3)を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0067】



(2j)「【表1】



(2k)「【0069】
上記表1に示す結果から、本発明によれば、選択性に優れたエチレンオキシド製造用触媒が提供されうる。そして、当該触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法によれば、高収率でエチレンオキシドを製造することが可能となる。」

(2l)「【図1A】





2 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、記載事項(1a)、(1h)によれば、担体、ならびに担体上に付着させられた銀、レニウム助触媒、第1の共助触媒、および第2の共助触媒を含み、担体上に付着させられたレニウム助触媒の量は触媒の重量に対して1ミリモル/kgより多く、第1の共助触媒はイオウ、リン、ホウ素及びこれらの混合物から選択され、第2の共助触媒はタングステン、モリブデン、クロム及びこれらの混合物から選択され、担体上に付着させられた第1の共助触媒および第2の共助触媒の合計量は触媒の重量に対して最大で3.8ミリモル/kgである、オレフィンのエポキシ化のための触媒が記載されている。
記載事項(1b)によれば、担体の表面積は、少なくとも0.1m^(2)/gであり、最大で10m^(2)/gであることが規定されている。
記載事項(1c)によれば、担体の吸水率は、0.2から0.85g/gの範囲内であることが規定されている。
これらの記載事項を、本願請求項1の記載に即して整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる

「担体、ならびに担体上に付着させられた銀、レニウム助触媒、第1の共助触媒および第2の共助触媒を含むオレフィンのエポキシ化のための触媒であって、
担体上に付着させられたレニウム助触媒の量は触媒の重量に対して1ミリモル/kgより多く、
第1の共助触媒はイオウ、リン、ホウ素およびこれらの混合物から選択され、
第2の共助触媒はタングステン、モリブデン、クロムおよびこれらの混合物から選択され、
担体上に付着させられた第1の共助触媒および第2の共助触媒の合計量は触媒の重量に対して最大で3.8ミリモル/kgであり、
担体は、表面積が0.1?10m^(2)/gであり、および0.2?0.85g/gの吸水率を有する、前記触媒。」

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「付着」、「第1の共助触媒」、「第2の共助触媒」、「表面積」は、それぞれ、本願発明の「担持」、「第1共促進剤」、「第2共促進剤」、「比表面積」に相当する。
引用発明のレニウム助触媒の量が、触媒の重量に対して「1ミリモル/kgより多」いことは、本願発明の、レニウム助触媒の量は触媒の重量に対して「1mmol/kgを超え」ることに相当し、また、引用発明の第1の共助触媒及び第2の共助触媒の合計量は触媒の重量に対して「最大で3.8ミリモル/kg」であるから、本願発明の第1共促進剤及び第2共促進剤の全量が触媒の重量に対して「最大で5.0mmol/kg」であることに相当する。
そして、引用発明の担体の表面積が0.1?10m^(2)/gであるから、本願発明の比表面積と一致している。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「担体、及び該担体上に担持されている銀、レニウム助触媒、第1共促進剤及び第2共促進剤を含むオレフィンのエポキシ化用触媒であって、
a)担体上に担持されているレニウム助触媒の量は触媒の重量に対して1mmol/kgを超え;
b)第1共促進剤は硫黄、リン、ホウ素及びその混合物から選択され;
c)第2共促進剤はタングステン、モリブデン、クロム及びその混合物から選択され;
d)担体上に担持されている第1共促進剤及び第2共促進剤の全量は触媒の重量に対して最大で5.0mmol/kgであり;
e)’前記担体は比表面積が0.03?10m^(2)/gを有している、前記触媒。」
である点で一致し、次の点で相違している。

相違点
本願発明は、
e)’担体は、細孔直径範囲が0.01?200μm、細孔容積が0.2?0.7cm^(3)/gであって、前記担体の中央細孔直径が0.1?100μmである単峰性、双峰性または多峰性細孔径分布を有し、ならびに10?80%の吸水率を有しており、
f)前記担体は水銀ポロシメトリーにより測定される細孔径分布において、0.01?100μmの細孔直径範囲に少なくとも2つの対数微分細孔容積分布ピークを有し、ならびに前記ピークの少なくとも1つのピークは0.01?1.0μmの細孔直径範囲に存在し、各ピークは0.2cm^(3)/g以上の対数微分細孔容積分布の最大値である、という特定の細孔分布を有するものであるのに対し、
引用発明の担体は、吸水率が0.2?0.85g/g(20?85%)であり、細孔容積、及び細孔分布は不明である点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について、以下に検討する。
(a)引用文献2に記載された触媒について
引用文献2には、記載事項(2a)などによれば、エチレンを気相酸化してエチレンオキシドを製造するための触媒に関して記載されているから、引用文献2に記載された触媒は、引用発明と同様にオレフィンのエポキシ化用触媒であるといえる。
そして、記載事項(2a)、(2b)、(2i)、(2k)などによれば、この触媒は、高選択率でエチレンオキシドを製造することを目的とし、特定の細孔分布を有する担体、例えば、担体Aを用いることにより、選択性に優れ、高収率でエチレンオキシドを製造することが可能になるという効果を奏するものと認められる。
また、記載事項(2f)によれば、引用文献2に記載された触媒は、銀を必須で担持するものであり、また、銀の他に、反応促進剤として、アルカリ金属や、硫黄、クロム、モリブデン、タングステン、レニウムなどを反応促進剤としてエチレンオキシド製造用触媒の質量基準で、0.001?2質量%担持することができるものと認められる。
ここで、上記反応促進剤のレニウムは、引用発明のレニウム助触媒に相当し、また、硫黄は、引用発明の第1の共助触媒に、モリブデン、及びタングステンは、引用発明の第2の共助触媒に相当する。

(b)引用文献2に記載された触媒の担体Aの吸水率及び細孔特性
引用文献2の記載事項(2c)、(2g)によれば、触媒に用いる担体の細孔分布等は、水銀圧入法により測定されたものであって、記載事項(2c)によれば、細孔分布における「ピーク」は、ログ微分細孔容積の極大値が0.2cm^(3)/g以上となるものを意味する。
そして、記載事項(2l)を参照すると、担体Aは、細孔直径範囲として少なくとも0.01?200μmを有していることは明らかであり、記載事項(2h),(2j),(2l)によれば、吸水率が39.4%、比表面積が1.6m^(2)/g、細孔容積が0.41cm^(3)/g、平均細孔直径が1.05μmであり、細孔直径0.01?100μmの範囲にログ微分細孔容積の極大値が0.2cm^(3)/g以上の3つのピークが存在し、かつ0.01?1.0μmの範囲に1つのピークが存在する細孔分布を有していると認められる。
また、記載事項(2l)によれば、中央細孔直径が0.1?100μmの範囲内であることは明らかである。
ここで、上記担体Aの吸水率は、39.4%であるから、引用発明の担体の吸水率0.2?0.85g/gの範囲内のものであり、担体Aの比表面積も、引用発明の担体において規定されている数値の範囲内のものである。

(c)相違点に係る容易想到性について
上記(a)、(b)によれば、引用文献2に記載された触媒は、引用発明と用途及び成分組成が同じであり、高選択率でエチレンオキシドを製造することを目的とし、引用発明の担体と同様の吸水率及び比表面積を持つ担体Aを用いるものといえる。
そして、上記担体Aの吸水率、及び細孔容積は、上記相違点e)’の吸水率、及び細孔容積の範囲に含まれ、上記担体Aにおける「水銀圧入法により測定される細孔分布」、「ログ微分細孔容積分布」は、上記相違点に係る「水銀ポロシメトリーにより測定される細孔径分布」、「対数微分細孔容積分布」にそれぞれ相当するから、上記担体Aの吸水率及び細孔特性は、上記相違点に係るe)’、及びf)の要件を充足するものといえる。

以上のことから、引用発明において、担体の吸水率及び細孔特性を、高選択率でエチレンオキシドを製造することが可能である引用文献2に記載の上記担体Aと同様のものとして、上記相違点を解消することは、当業者であれば容易になし得たことといえる。


4 請求人の主張及び本願発明の効果について
請求人は、審判請求書において、「本願発明においては、特定の触媒組成物と特定の担体とを選択することにより、選択性及び安定性が改善されたオレフィンのエポキシ化用触媒が得られるといった本願発明特有の格別の効果を達成し得たものである。」などとして「補正後の本願発明は、引用文献1?7の記載から容易に想到し得た発明ではない」と主張している。
しかし、上記3に記載したとおり、引用文献1には、上記「特定の触媒組成」を有するエポキシ化用触媒が開示され、当初の選択率が向上することが記載され(記載事項(1a)、(1f)参照)、また、引用文献2には、上記「特定の吸水率及び細孔特性を有する担体」を用いたエポキシ化用触媒が開示され、これにより、高選択率でエチレンオキシドを製造しうることが記載されていることから、引用発明の担体に、担体Aと同様の吸水率及び細孔特性を採用することにより、触媒の選択率が向上することは、当業者であれば予測可能なものであるといえる。
これに対し、本願明細書には、引用発明の実施例の一部(記載事項(1d)、(1e)参照)と同一である「実施例1-ストック銀溶液の調製」、及び「実施例2-触媒の調製」について開示されているにすぎず、本願発明の特に「f)」で規定する細孔分布を有する担体を用いた触媒はもちろん、実際にエポキシ化反応を行った例すら記載されていない。
そうすると、本願明細書の記載では、本願発明が「選択性及び安定性が改善され」るという、引用文献1,2に記載された事項から予期し得ない効果を奏することを認めることができない。

請求人は、さらに、上申書を提出して、請求項4を新たに請求項1とする補正案を提示し、当該請求項1に係る発明は、改善された選択性のみならず改善された安定性も有するオレフィンのエポキシ化触媒が得られるという格別の効果を達成したものである旨主張している。
しかし、担体の強度増強などのために、フルオリド含有化学種及び強度増強添加剤を担体に配合する点は、原査定に引用された特表2008-511441号公報に記載されている事項であり、当該請求項1に係る発明についても、進歩性を有するとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1,2に記載された発明に基いて当
業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-17 
結審通知日 2017-05-23 
審決日 2017-06-05 
出願番号 特願2012-556112(P2012-556112)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 俊樹  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 永田 史泰
後藤 政博
発明の名称 エポキシ化触媒、前記触媒の調製方法及びオレフィンオキシドの製造方法  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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