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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04J
管理番号 1333776
審判番号 不服2015-20810  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-24 
確定日 2017-10-18 
事件の表示 特願2013-222792「シングルキャリア伝送およびOFDM伝送のための符号およびプリアンブル」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月 3日出願公開,特開2014- 60745〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2009年10月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年10月7日 米国,2009年10月2日 米国)を国際出願日とする出願である特願2011-531153号の一部を,平成25年10月25日に新たな特許出願としたものであって,平成27年7月15日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年11月24日に拒絶査定不服審判が請求され,同時に手続補正がされ,審査官が同年12月21日付けで作成した前置報告に対する反論を記した上申書が平成28年3月24日付けで提出され,その後,当審において同年12月20日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,平成29年4月18日付けで手続補正がされたものである。



第2 当審において通知した拒絶理由
当審拒絶理由は,本願は,サポート要件(理由1),明確性要件(理由2),実施可能要件・委任省令要件(理由3),新規性(理由4),進歩性(理由5)を満たしていないとするものであり,その概要は,以下のとおりである。

1 理由1(サポート要件)について
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(n)の第2のゴレイ符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(m)+2^(n)の少なくとも1つの拡張ゴレイ符号を獲得すること,前記長さ2^(m)は,前記長さ2^(n)とは異なり,mおよびnは,異なる値の整数であり,および前記少なくとも1つの拡張ゴレイ符号を使用してパケットを生成する」との前提において,「少なくとも前記第1のゴレイ符号及び前記第2のゴレイ符号は,定義されたパターンの組から選択されたパターンにしたがって位置される」(請求項1,12,23,34,35)ことは,発明の詳細な説明及び図面に記載されていないから,発明の詳細な説明の記載との対応関係が不明確であり,その裏付けが不明確である。
すなわち,「前記第1のゴレイ符号」,「前記第2のゴレイ符号」とは,それぞれ「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号」,「長さ2^(n)の第2のゴレイ符号」であり,長さ2^(m)と長さ2^(n)とは異なるから,「少なくとも前記第1のゴレイ符号及び(前記第1のゴレイ符号とは異なる長さの)前記第2のゴレイ符号は,定義されたパターンの組から選択されたパターンにしたがって位置される」ということになる。したがって,「定義されたパターンの組」とは,「第1のゴレイ符号」と「(第1のゴレイ符号とは異なる長さの)第2のゴレイ符号」とにより構成されるパターンの組であることになる。そして,「拡張ゴレイ符号」の長さ2^(m)+2^(n)は「2のべき乗」でないことは明らかであるから,上記各請求項に係る発明の「拡張ゴレイ符号」は,「2のべき乗」の長さを有するものを排除していると認められる。
一方,発明の詳細な説明には,「パターン」については,「(フレームおよびプリアンブルフォーマット)」と題して記載される【0069】?【0079】に【数1】?【数4】に示されるパターンが開示されるのみである。そして,【数1】?【数4】に示されるパターンは,CE/SFDフィールドのa256,b256及びそのプレフィックス及びポストフィクス,又はa512,b512及びそのプレフィックス及びポストフィクスを構成する,ゴレイ相補符号「a」,「b」及び当該ゴレイ相補符号「a」,「b」を備える拡張ゴレイ符号のパターンを示すものである。ここで,例えば【数1】の一番目のパターンは,CE/SFDフィールドの「プレフィックス」が長さ128チップのゴレイ符号「+a」であり,同「a256」が長さ128チップのゴレイ符号「+b」の後に長さ128チップのゴレイ符号「-a」を付加した長さ256チップの拡張ゴレイ符号であり,同「b256」が長さ128チップのゴレイ符号「+b」の後に長さ128チップのゴレイ符号「+a」を付加した長さ256チップの拡張ゴレイ符号であり,「ポストフィックス」が長さ128チップのゴレイ符号「+b」であることが見てとれる。そして,「a」と「b」とは相補符号であるから同じ長さであり,「a256」及び「b256」は,同じ長さの第1のゴレイ符号「a」及び第2のゴレイ符号「b」を備える拡張ゴレイ符号であって,「2のべき乗」の長さを有するものである。同様に,【数1】?【数4】に示されるパターン中のゴレイ符号及び拡張ゴレイ符号はいずれも「2のべき乗」の長さを有するものである。すなわち,発明の詳細な説明に記載されているものは,「少なくとも前記第1のゴレイ符号及び(前記第1のゴレイ符号と同じ長さの)前記第2のゴレイ符号が,定義されたパターンの組から選択されたパターンにしたがって位置される」ものであり,また,「拡張ゴレイ符号」は「2のべき乗」の長さを有するものである。
したがって,請求項1,12,23,34,35に係る発明と,発明の詳細な説明に記載されているものとは,明らかに異なる。
ここで,発明の詳細な説明中に「(拡張ゴレイ符号の設計)」と題して記載される【0047】?【0058】,図5?図8には,長さ8チップとして例示されている「a(1)」及びその相補ゴレイ符号である「b(1)」,長さ16チップとして例示されている「a(2)」及びその相補ゴレイ符号である「b(2)」,これらを付加することにより構築される2のべき乗ではない長さ24チップとして例示されている拡張ゴレイ符号「a(3)」及びその拡張相補ゴレイ符号である「b(3)」が記載されている。しかしながら,当該例示は,上述のとおりの【0069】?【0079】に【数1】?【数4】に示されるパターンとは対応し得ないものである。そして,当該例示のように,第1のゴレイ符号と第2のゴレイ符号の長さが異なり,拡張相補符号の長さが2のべき乗ではない場合について,「少なくとも前記第1のゴレイ符号及び前記第2のゴレイ符号は,定義されたパターンの組から選択されたパターンにしたがって位置される」ことは,発明の詳細な説明に記載されておらず,自明でもない。
以上のとおり,請求項1,12,23,34,35及びこれらの請求項を引用する各請求項に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。


2 理由2(明確性要件)について
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)上記1のとおりであるため,「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号」,「長さ2^(n)の第2のゴレイ符号」に係る「定義されたパターン」とはいかなるものか不明確であり,「少なくとも前記第1のゴレイ符号及び前記第2のゴレイ符号は,定義されたパターンの組から選択されたパターンにしたがって位置される」なる構成が技術的に不明である。
このため,請求項1,12,23,34,35及びこれらの請求項を引用する各請求項に係る発明は,明確でない。

(2)は省略。


3 理由3(実施可能要件・委任省令要件)について
この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1)上記1及び2(1)のとおりであるため,「少なくとも前記第1のゴレイ符号及び前記第2のゴレイ符号は,定義されたパターンの組から選択されたパターンにしたがって位置される」なる事項をどのように実施するのか不明である。
このため,発明の詳細な説明は,当業者が各請求項に係る発明を実施し得る程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(2)【0005】の記載によれば,本発明の課題は「受信機側における正確なチャネル推定を確実にしながら,SC変調された伝送信号とOFDM変調された伝送信号の両方によって使用されるのに適したフレーム構造の生成を提案する」ことと解される。しかしながら,発明の詳細な説明の記載及び図面を勘案しても,請求項1に係る発明とSC変調された伝送信号及びOFDM変調された伝送信号との因果関係は見出せず,請求項1に係る発明がSC変調された伝送信号とOFDM変調された伝送信号の両方によって使用されるのに適したフレーム構造であることは確認できない。また,受信機側における正確なチャネル推定を確実にし得ることも確認できない。
また,【0078】をみても,何故パターン[プレフィックス a512 b512 ポストフィックス]がSCベースの伝送のために使用されることが可能であるのに対して,パターン[プレフィックス b512 a512 ポストフィックス]はOFDMベースの伝送のために使用されることが可能であるのか明らかにされておらず,SC伝送モード/OFDM伝送モードと「「a512」と「b512」の位置」との技術的因果関係が不明である。
このため,各請求項に係る発明は,いかなる課題をどのように解決しているのか不明であり,発明の技術的意義が不明である。

(3)【0062】の「SC CEフィールドが,少なくとも256チップにわたって延びるマルチパスチャネルのチャネル推定を可能にする一方で,OFDM CEフィールドが,FFTサイズと合致する512チップにわたって延びるマルチパスチャネルのチャネル推定を可能にすることができることが好ましい可能性がある。」等の記載をみても,図11?13,図16に記載されたフレーム構造が「SC変調された伝送信号とOFDM変調された伝送信号の両方によって使用されるのに適したフレーム構造」といい得るのか否か不明である。
(中略)
このように,「(拡張ゴレイ符号の設計)」と題して記載される【0047】?【0058】と「(フレームおよびプリアンブルフォーマット)」と題して記載される【0069】?【0079】との関係,及び,これら発明が解決しようとする課題との因果関係も不明である。
このため,いかなる課題がいかなる構成によりどのように解決されたのか不明であり,発明の技術的意義が不明である。


4 理由4(新規性)及び理由5(進歩性)について
この出願の請求項1,12,23,34,35に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献4又は5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
この出願の請求項1?35に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1?6に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特表2002-539667号公報
2.米国特許第7039036号明細書
3.米国特許出願公開第2007/0113159号明細書
4.Hiroshi Harada et al.,Unified and flexible millimeter wave WPAN systems supported by common mode,IEEE 802.15-07-0761-10-003c,2007年9月18日,pp.1,2,21,22,37-41,59-61
5.Ryuhei FUNADA et al.,A design of single carrier based PHY for IEEE 802.15.3c standard,Personal, Indoor and Mobile Radio Communications, 2007. PIMRC 2007. IEEE 18th International Symposium on,2007年9月7日
6.Ernest E. Hollis,A property of decomposable Golay codes which greatly simplifies sidelobe calculation,Proceedings of the IEEE,1975年12月,Vol.63, No.12,pp.1727-1728



第3 請求人の対応
当審拒絶理由に対して,請求人は,平成29年4月18日付けで,特許請求の範囲を補正する手続補正書及び意見書を提出した。

1 補正後の特許請求の範囲
平成29年4月18日付けで手続補正された特許請求の範囲(請求項1のみ抜粋)は以下のとおりである。

「【請求項1】
長さ2^(m)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(n)の第2のゴレイ符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(m)+2^(n)の少なくとも1つの拡張ゴレイ符号を獲得すること,前記長さ2^(m)は,前記長さ2^(n)とは異なり,mおよびnは,異なる値の整数であり,および
前記少なくとも1つの拡張ゴレイ符号のペアによって定義されるパターンのセットから選択された1つのパターンを使用してパケットを生成することを備える,無線通信のための方法。」
([当審注]:下線部は補正箇所を示す。)

他の各独立請求項についても,上記請求項1の補正と同様の補正がなされた。


2 意見書の主張
当審拒絶理由の上記理由1,理由2及び3,理由4及び5に対して,請求人は平成29年4月18日付け意見書にて以下のとおり主張している。

(1)理由1について
「審判官は,現請求項(例えば請求項1)における「定義されたパターンの組」は,長さ2^(m)+2^(n)の長さを有し,「2のべき乗」の長さでないことは明らかであるので,請求項1等における「拡張ゴレイ符号」は,「2のべき乗」の長さを有するものを排除している。しかし,本願明細書中の[数1]?[数4]に示されたパターン中のゴレイ符号及び拡張ゴレイ符号はいずれも「2のべき乗」の長さを有するものである。したがって,例えば,請求項1の発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではない,と認定されているものと推察いたします。
先ず,本願出願書類の図8,9,11-13,16等に示したものは,IEEE802.15.3Cに適合するフレーム構造の一例を示すだけであり,2のべき乗でない拡張ゴレイコードの長さを除外している訳ではなく,除外する技術的理由もありません。現に,審判官もご指摘の通り,長さ24チップの例も本願明細書中に記載されております。それだけでなく,明細書段落0047-0058等には,拡張ゴレイ符号の設計が記載され,例えば,長さ26チップのゴレイ符号が,それぞれ,長さ16,8,および2の3つのゴレイ符号をお互いに付加することによって獲得されること,長さ2^(m)+2^(n)の拡張ゴレイ符号が,長さ2^(m)の第1のゴレイ符号を長さ2^(n)の第2のゴレイ符号に付加することによって獲得されること等が詳述されております。本願発明者にも確認いたしましたが,チャネル推定は,受信機に知られている限り,(理論上も,実際も,)いかなるシーケンスであっても可能であることを,当業者であれば,本願の記載に基づき,十分容易に理解致します。
したがって,補正後の請求項1等の発明は,発明の詳細な説明に記載されたものであり,理由1は解消されたものと思料いたします。」

(2)理由2,理由3について
「理由2(1):別途手続き補正により明確化されたものと思料いたします。
理由2(2):補正の結果,明確化され,発明特定事項と整合するようになったものと思料いたします。したがって,理由2も解消されたものと思料いたします。
理由3(1):上記の通り,発明の詳細な説明に基づいて,当業者は極めて容易に本願発明を実施し得るものと思料いたします。
理由3(2):補正後の請求項によれば,「拡張ゴレイ符号のペアによって定義されるパターンのセットから選択された1つのパターンを使用してパケットを生成すること」が出来,明細書段落0078等の記載に基づき,OFDMプリアンブル,SCプリアンブルの認識により,受信機側が知る限り,正確なチャネル推定が出来ることは,当業者であれば自明です。それでも,審判官に置かれて,何故にチャネル推定が出来ないと判断されるかの理由,根拠を示して頂ければ,さらに内容を検討し,必要であれば,再度の補正も検討いたしますので,その場合は,是非再度の補正を行う機会を与えて頂きたくお願い申し上げます。
理由3(3):理由3(2)に関する上記意見に加え,理由1についての上記意見をご参照ください。
したがって,理由2,理由3も解消されたものと思料いたします。」

(3)理由4,5について
「補正後の請求項に基づく発明の構成,特に,「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(n)の第2のゴレイ符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(m)+2^(n)の少なくとも1つの拡張ゴレイ符号を獲得すること,・・・・」「拡張ゴレイ符号のペアによって定義されるパターンのセットから選択された1つのパターンを使用してパケットを生成すること」の構成要件は何れの引用文献にも開示も示唆も無く,補正後の請求項に基づく発明は進歩性を有すると思料いたします。」



第4 当審の判断
1 当審拒絶理由の理由1及び理由2について
平成29年4月18日付けの手続補正により,請求項1の
「前記少なくとも1つの拡張ゴレイ符号を使用してパケットを生成することを備え,少なくとも前記第1のゴレイ符号及び前記第2のゴレイ符号は,定義されたパターンの組から選択されたパターンにしたがって位置される」
が,
「前記少なくとも1つの拡張ゴレイ符号のペアによって定義されるパターンのセットから選択された1つのパターンを使用してパケットを生成することを備える」に補正された。

しかしながら,補正後の「拡張ゴレイ符号のペア」なる記載からは相補符号としてのペアであることは読み取れず,任意の拡張ゴレイ符号のペア(一対)を含むと解されるが,発明の詳細な説明には,「ペア」に関しては,「ゴレイ相補符号のペア」が開示されているだけであり,相補符号としてのペア以外のものを含み得る「拡張ゴレイ符号のペア」は記載されていない。

また,発明の詳細な説明には,「パターンのセット」に関しては,「(フレームおよびプリアンブルフォーマット)」と題して記載される【0069】?【0079】に【数1】?【数4】にて示されるパターンのセット(【数1】?【数4】の各行が,「セット」の構成要素であると解される。)が開示されるのみである。そして,本願明細書の【0071】の「次に,符号1206が,拡張ゴレイ符号[+b -a]に対応することが可能であり,符号1208が,拡張ゴレイ符号[+b +a]に対応することが可能であり,さらに符号1210が,ゴレイ符号+bに対応することが可能である。同様に,式(1)からの第4のパターンが使用される場合,符号1206は,[-b -a]に対応することが可能であり,符号1208は,[-b +a]に対応することが可能であり,さらに符号1210は,-bに対応することが可能である。」との記載によれば,例えば【数1】では,「プレ」及び「ポスト」に対応する列がゴレイ符号(ゴレイ相補符号)であり,「a256」及び「b256」に対応する列が拡張ゴレイ符号であると解し得るが,「a256」及び「b256」は,同じ長さの第1及び第2ゴレイ符号を備えるものであるから,「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(n)の第2のゴレイ符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(m)+2^(n)の少なくとも1つの拡張ゴレイ符号」ではない。同様に【数2】?【数4】にて示されるパターンのセットをみても,「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(n)の第2のゴレイ符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(m)+2^(n)の少なくとも1つの拡張ゴレイ符号」に対応するものは見当たらない。

請求人は,意見書にて「本願出願書類の図8,9,11-13,16等に示したものは,IEEE802.15.3Cに適合するフレーム構造の一例を示すだけであり,2のべき乗でない拡張ゴレイコードの長さを除外している訳ではなく,除外する技術的理由もありません。」と主張する。しかしながら,発明の詳細な説明において「パターンのセット」についての開示は【数1】?【数4】しかなく,【数1】?【数4】は,「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(n)の第2のゴレイ符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(m)+2^(n)の少なくとも1つの拡張ゴレイ符号のペアによって定義されるパターンのセット」を示すものではない。図9,図11?図13,図16に示されるCE/SFDフィールドについても同様である。そして,本願明細書及び図面には,「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(n)の第2のゴレイ符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(m)+2^(n)の少なくとも1つの拡張ゴレイ符号のペアによって定義されるパターンのセット」の具体的な開示は存在しないから,当該パターンのセットは発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず,また,当該パターンのセットがいかなるものか不明であって技術的に特定することができない。よって,上記主張は採用できない。

したがって,上記補正に係る記載は,特許法第36条第6項第1号,第2号に規定する要件を満たしていない。


2 当審拒絶理由の理由3について
(1)理由3(1)について
上記1のとおりであるから,「前記少なくとも1つの拡張ゴレイ符号のペアによって定義されるパターンのセットから選択された1つのパターンを使用してパケットを生成することを備える」なる事項をどのように実施するのか不明である。
このため,発明の詳細な説明は,当業者が各請求項に係る発明を実施し得る程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。したがって,拒絶理由3(1)はなんら解消されていない。

(2)理由3(2),(3)について
意見書を見ても,「明細書段落0078等の記載に基づき,OFDMプリアンブル,SCプリアンブルの認識により,受信機側が知る限り,正確なチャネル推定が出来ることは,当業者であれば自明です。」との釈明がなされているだけであり,依然として請求項1に係る発明とSC変調された伝送信号及びOFDM変調された伝送信号との因果関係は見出せず,請求項1に係る発明がSC変調された伝送信号とOFDM変調された伝送信号の両方によって使用されるのに適したフレーム構造であることは確認できない。
また,【0078】をみても,何故パターン[プレフィックス a512 b512 ポストフィックス]がSCベースの伝送のために使用されることが可能であるのに対して,パターン[プレフィックス b512 a512 ポストフィックス]はOFDMベースの伝送のために使用されることが可能であるのか明らかにされておらず,SC伝送モード/OFDM伝送モードと「「a512」と「b512」の位置」との技術的因果関係が不明である。
そして,プリアンブルが存在すれば,プリアンブル中の符号を用いて何らかのチャネル推定をなし得ることは当然であるが,本願発明の特徴である,「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(n)の第2のゴレイ符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(m)+2^(n)の少なくとも1つの拡張ゴレイ符号のペアによって定義されるパターンのセットから選択された1つのパターンを使用してパケットを生成すること」により,どのような特段の作用効果が得られるのかは,全く不明である。
また,【0062】の「SC CEフィールドが,少なくとも256チップにわたって延びるマルチパスチャネルのチャネル推定を可能にする一方で,OFDM CEフィールドが,FFTサイズと合致する512チップにわたって延びるマルチパスチャネルのチャネル推定を可能にすることができることが好ましい可能性がある。」との記載を参酌しても,「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(n)の第2のゴレイ符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(m)+2^(n)の少なくとも1つの拡張ゴレイ符号のペアによって定義されるパターンのセットから選択された1つのパターンを使用してパケットを生成すること」なる本願発明の特徴と上記【0062】の記載との因果関係はなんら見出すことができない。
このため,各請求項に係る発明は,いかなる課題をどのように解決しているのか不明であり,発明の技術的意義が不明である。したがって,拒絶理由3(2),(3)はなんら解消されていない。

以上のとおり,本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


3 当審拒絶理由の理由4,5について
(1)本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成29年4月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの
「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(n)の第2のゴレイ符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(m)+2^(n)の少なくとも1つの拡張ゴレイ符号を獲得すること,前記長さ2^(m)は,前記長さ2^(n)とは異なり,mおよびnは,異なる値の整数であり,および
前記少なくとも1つの拡張ゴレイ符号のペアによって定義されるパターンのセットから選択された1つのパターンを使用してパケットを生成することを備える,無線通信のための方法。」
である。

本願発明は,上記1のとおりの記載不備を有するものであるため,明細書の記載等を参酌すると,本願明細書の
「【0048】
本開示の一態様において,長さ2^(m)+2^(n)の拡張ゴレイ符号が,長さ2^(m)の第1のゴレイ符号を長さ2^(n)の第2のゴレイ符号に付加することによって獲得されることが可能である。第1のゴレイ符号が第2のゴレイ符号の前に付加されることが可能であり,あるいは第2のゴレイ符号が第1のゴレイ符号の後ろに付加されることが可能である。
【0049】
一例において,ゴレイ相補符号の或るペアが,長さ8チップであり,a^((1))およびb^((1))と表されることが可能である一方で,ゴレイ相補符号の別のペアが,長さ16チップであり,a^((2))およびb^((2))と表されることが可能である。次に,長さ24チップの相補ゴレイ符号a^((3))およびb^((3))のペアが,異なる多くの仕方で構築されることが可能である。例えば,ゴレイ符号a^((3))は,ゴレイ符号a(1)をゴレイ符号a^((2))の後ろに付加することによって構築されることが可能であり,ゴレイ符号b^((3))は,ゴレイ符号b^((1))をゴレイ符号b(2)の後ろに付加することによって構築されることが可能である。拡張相補ゴレイ符号の別のセットが,a^((1))をb^((2))の後ろに,b^((1))をa^((2))の後ろに付加することによって構築されることが可能である。
【0050】
また,任意の偶数長の拡張ゴレイ符号が,提案される方法を使用すること,および第1のゴレイ符号を別の拡張ゴレイ符号の後ろに付加することによって獲得されることが可能であることにも留意されたい。また,拡張ゴレイ符号は,2つより多くのゴレイ符号を付加することによって獲得されることも可能である。例えば,長さ26チップのゴレイ符号が,それぞれ,長さ16,8,および2の3つのゴレイ符号を互いに付加することによって獲得されることが可能である。」([当審注]:下線部は強調を示す。)
との記載によれば,長さが異なるゴレイ符号から拡張ゴレイ符号が構成されるのは一例に過ぎない(すなわち,そのような可能性が排除されていないことを述べているに過ぎない。)こと,
【0071】の記載(上記「1 当審拒絶理由の理由1及び理由2について」参照。)から明らかなように,【数1】?【数4】のパターン,図9,図11?図13,図16に示されるCE/SFDフィールドには,同じ長さのゴレイ符号を付加して拡張ゴレイ符号が構成されること,
長さが異なるゴレイ符号を付加して構成された拡張ゴレイ符号を用いたCE/SFDフィールドについての開示は存在せず,異なる長さのゴレイ符号を付加して構成された拡張ゴレイ符号を用いることによる作用効果についてはなんら明らかにされていないこと,
及び,平成27年5月26日意見書の「拡張ゴレイ符号は,2つ以上のゴレイ符号を含むコードです。例えば,拡張ゴレイ符号は,2つのゴレイ符号又は2つ以上のゴレイ符号を取り付けることにより,得られることが明らかにされています(明細書の段落0048乃至段落0050)。」との釈明も考慮すると,
長さ2^(m)+2^(n)の拡張ゴレイ符号における長さ2^(m)と長さ2^(n)とが異なることは単なる例示に過ぎず,拡張ゴレイ符号を構成する各ゴレイ符号の長さが異なることはチャネル推定などにおいて作用効果上の差異を生じるものではなく,拡張ゴレイ符号は単に複数のゴレイ符号が付加されたものと解する余地がある。そして,実際にはプリアンブルのCE/SFDフィールド内に区切り(デリミタ等)はないことから,CE/SFDフィールド自体が,複数の拡張ゴレイ符号を備える拡張ゴレイ符号ともいえることになる。そして,例えば長さ128チップのゴレイ相補符号ペア(a及びb)のそれぞれも,複数の偶数長(例えば,64,32,32等々)のゴレイ符号を備える拡張ゴレイ符号でもあり得ることになる。
してみると,例えば本願明細書【0069】の【数1】の1行目のパターンは,長さ128チップの(拡張)ゴレイ符号「+a」(プレ)と長さ256チップの拡張ゴレイ符号「+b-a」(a256)を備える拡張ゴレイ符号「+a+b-a」と,長さ256チップの拡張ゴレイ符号「+b+a」(b256)と長さ128チップの(拡張)ゴレイ符号「+b」(ポスト)を備える拡張ゴレイ符号「+b+a+b」とのペアを備えるパターンであり,本願発明は当該パターンによる「+a+b-a+b+a+b」をCE/SFDフィールドとしてパケットを生成することを包含するものということができる。
以上の解釈の下で本願発明を認定するものとして,新規性,進歩性について検討する。

(2)引用発明及び周知技術
[引用発明]
当審拒絶理由に引用された Hiroshi Harada et al.,Unified and flexible millimeter wave WPAN systems supported by common mode([当審仮訳]:共通モードによりサポートされた統合されたフレキシブルなミリ波WPANシステム),IEEE 802.15-07-0761-10-003c,2007年9月18日 には,図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「

」(スライド21)
([当審仮訳]:
要約
・共通モードは以下をサポートする
- 共通モードにおけるビーコンによるチャネルスキャン
- 自動デバイス発見
・「全」指向性アンテナのための自動デバイス発見(ADD)
・(最適エアインタフェースのための)プリコーディング共通プリアンブル及びPLCPヘッダを備えるSC/OFDMフレームを用いたチャネルプロ-ビング(オプション)
・SC及び/又はOFDMに依存する4つの通信タイプ
・スーパーフレーム
(中略)
・フレームフォーマット
1.フレームタイプは,CMT,SC LRT,チャネルプロ-ビング,SC MRT/HRT SC及びOFDMモードフレーム
2.プリアンブル
・CMT,SC LRT及びチャネルプロ-ビングフレームのためのロングプリアンブル
・ ハーフレートフレームのための64チップのゴレイ符号の32回繰り返しの同期及び128チップのゴレイ符号の4回繰り返しのCE
・ フルレートフレームのための128チップのゴレイ符号の32回繰り返しの同期及び256チップのゴレイ符号の4回繰り返しのCE
・SC MRT/HRTフレームのためのショートプリアンブル
・ フルレートフレームのための128チップのゴレイ符号の8回繰り返しの同期及び256チップのゴレイ符号の4回繰り返しのCE
(後略) )

イ 「

」(スライド22)
([当審仮訳]:
802.15.3cピコネット
・802.15.3cピコネットは,「全」指向性アンテナを備えるピコネットコーディネータ(PNC)及びデバイス(DEVs)からなる
・PNC及びDEVsは,シングルキャリア(SC)及び/又はOFDMエアインタフェースが可能
・802.15.3cピコネットは,以下をサポートする
- 4つの通信タイプ
1.タイプ1:共通モード/LRTモード
2.タイプ2:共通/LRT及びSC MRT/HRTモード
3.タイプ3:共通/LRT及びOFDMモード
4.タイプ4:共通/LRT,SC MRT/HRT及びOFDMモード )

ウ 「

」(スライド37)
([当審仮訳]:
プリアンブルフォーマット
・2つのプリアンブルタイプ

・プリアンブルは同期(SYNC)シーケンス及びチャネル推定(CE)シーケンスからなる
- SYNCシーケンスは,AGC,アンテナダイバーシティ,タイミング検出,粗AFC及びSFD(開始フレームデリミタ)のために用いられる
・ロングプリアンブル
- ハーフレートフレームのための64チップのゴレイ符号の32回繰り返し(^(*))の同期
- フルレートフレームのための128チップのゴレイ符号の32回繰り返しの同期
・ショートプリアンブル
- フルレートフレームのための128チップのゴレイ符号の8回繰り返しの同期
・SFDは[-a]により最後のSYNCシーケンスを識別するために用いられる
- サイクリックプリフィックス及びポストフィックスを備える2つのシーケンスがCE及び精密AFCに用いられる
・ロングプリアンブル
- ハーフレートフレームのための128チップのゴレイ符号の4回繰り返しのCE
- フルレートフレームのための256チップのゴレイ符号の4回繰り返しのCE
・ショートプリアンブル
- フルレートフレームのための256チップのゴレイ符号の4回繰り返しのCE
・サイクリックプリフィックス及びポストフィックスを伴うことは,それぞれシーケンスの後半部及び前半部のコピーからなる
(^(*))繰り返し:符号は異なってもよい(すなわち,a,-a,b,-b)が,同一のデコーダによりデコード可能なもの )

エ 「

」(スライド38)
([当審仮訳]:
・ロングプリアンブル
- 64@0.816Gcpsのゴレイ符号の32回繰り返し
- 128@1.632Gcpsのゴレイ符号の32回繰り返し
・ショートプリアンブル
- 128@1.632Gcpsのゴレイ符号の8回繰り返し
・[-a]は最後のSYNCシーケンスを識別するために用いられるSFD
・[a],[-a],[b]はゴレイ符号セット
・[a]及び[b]はお互いに相補ペア
・[a]のポストフィックス[a”]は,[a]の後半部のコピー,[a]のプリフィックス[a’]は,[a]の前半部のコピー
・[b],[b’],[b”]についても同様
・[a]及び[b]は
- ロングプリアンブルの128@0.816Gcpsのゴレイ符号
- ロングプリアンブルの256@1.632Gcpsのゴレイ符号
- ショートプリアンブルの256@1.632Gcpsのゴレイ符号 )

上記ア?エの記載及び当該技術分野の技術常識を考慮すると,
WPANに係る無線通信のために,スライド38の同期(SYNC)及びチャネル推定(CE)シーケンスからなるプリアンブルを備えるパケットが生成されるものと認められる。
そして,チャネル推定(CE)シーケンスとして,「長さ256(2^(8))のゴレイ符号aと,前記長さ256(2^(8))のゴレイ符号aの後半の長さ128(2^(7))の符号a’からなるプリフィックスと,前記長さ256(2^(8))のゴレイ符号aの前半の長さ128(2^(7))の符号a”からなるポストフィックスとを備える,少なくとも長さ128+256+128のシーケンス」と,「長さ256(2^(8))のゴレイ相補符号bと,前記長さ256(2^(8))のゴレイ相補符号bの後半の長さ128(2^(7))の符号b’からなるプリフィックスと,前記長さ256(2^(8))のゴレイ相補符号bの前半の長さ128(2^(7))の符号b”からなるポストフィックスとを備える,少なくとも長さ128+256+128のシーケンス」とのペアが見てとれる。そして,パケットの生成に当たり当該シーケンスが生成されているといえる。
ここで,長さ256は長さ2^(8)といえ,長さ128は長さ2^(7)いえ,長さ2^(8)と長さ2^(7)は異なり,8および7は異なる値の整数であることは自明である。
なお,前記「長さ128+256+128のシーケンス」は,結局,「プリフィックスa’及びポストフィックスa”」からなるシーケンスの2回繰り返し,「プリフィックスb’及びポストフィックスb”」からなるシーケンスの2回繰り返しであり,チャネル推定(CE)シーケンスは4回コードを繰り返しているといえることは明らかである。
そして,スライド37の「(^(*))」によれば,繰り返しでは符号は異なってもよい(すなわち,a,-a,b,-b)のであるから,スライド38のチャネル推定(CE)シーケンスは複数のパターンのセットが存在し,選択された1つのパターンを使用してパケットが生成されるといえる。

以上を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「長さ2^(8)のゴレイ符号と,前記長さ2^(8)のゴレイ符号の後半の長さ2^(7)の符号と,前記長さ2^(8)のゴレイ符号の前半の長さ2^(7)の符号とを備える,長さ2^(8)+2^(7)+2^(7)の少なくとも1つの符号を生成すること,前記長さ2^(8)は,前記長さ2^(7)とは異なり,8および7は,異なる値の整数であり,および
前記少なくとも1つの符号のペアによって定義されるパターンのセットから選択された1つのパターンを使用してパケットを生成することを備える,無線通信のための方法。」

[周知技術]
当審拒絶理由に引用されたErnest E. Hollis,A property of decomposable Golay codes which greatly simplifies sidelobe calculation,Proceedings of the IEEE,1975年12月,Vol.63, No.12の1727ページ右欄下から14?12行には以下の記載がある。
「A decomposable Golay code is one whose member codes each have a length which is divisible by 2^(N) where N≧2.」
([当審仮訳]:
分解可能なゴレイ符号は,そのメンバー符号の長さが2^(N)で割り切れる長さを有する符号であり,N≧2である。)

当審拒絶理由に引用された特表2002-539667号公報には以下の記載がある。
「【0026】
本発明は,L=2^(N)の相補シーケンスのペアからのシーケンスの1つを使用する受信信号の相関のための,実質的に減らされたメモリを有するメモリ効率のよいゴーレイ相関器も提供する。相補ペアからの1つのシーケンスが,長さXの,2つのより短い構成要素相補シーケンスの連結として表現される。各構成要素シーケンスが,L/X回だけ繰り返され,長さY=L/Xのシグネチャ・シーケンスに従って+1または-1によって変調される。長さXの第1相関器が,スペクトラム拡散信号を受信し,構成要素相補シーケンスに対応する相関値の中間対を生成する。第1セレクタが,要素が集合{0,1}に属する長さY=L/Xのインターリーブ化シーケンスの現在値に基づいて,連続するタイム・ウィンドウのそれぞれの間に,相関値の中間対の1つを交互に供給する。構成要素シーケンスの連結の順序は,インターリーブ化シーケンスによって決定される。乗算器が,選択された中間相関値に,シグネチャ・シーケンスの対応するビットをかけて,乗算された相関出力を生成する。乗算された相関出力は,X個のメモリ手段を有する遅延線によって生成されるフィードバック出力と合計され,結果の合計自体は,遅延線の入力にフィードバックされる。最終相関値は,Y個の連続するタイム・ウィンドウが発生した後の結果の合計に対応する。好ましい例の実施形態では,N=12,L=4096,X=256,およびY=16であり,最終相関器が,上で説明したものなどの効率的なゴーレイ相関器である。」(24?25ページ)

当審拒絶理由に引用された米国特許第7039036号明細書の7欄21?33行には以下の記載がある。
「Referring now to FIG.7 , the pattern of the orthogonal sequence on lead 603 will be explained in detail. The pattern of FIG.7A includes complementary eight-bit Golay sequences A={1,1,-1,1,1,1,1,-1} and B={1,1,-1,1,-1,-1,1} that may be produced by the circuits of FIG.4 or FIG.5 or stored as factors. Sixteen of the eight-bit factors A and B are arranged in true or complement form corresponding to each of rows X_(1)-X_(17). Each of the seventeen rows, therefore, includes a different orthogonal 128-bit sequence. The sequence of each row is then concatenated with its complement (FIG.7B) to produce a respective 256-bit sequence. These 256-bit sequences S(0)-S(16) are applied to lead 603 as previously described to produce the SSC.」
([当審仮訳]:
図7を参照して,リード603上の直交シーケンスのパターンについて詳細に説明する。図7Aのパターンは,図4又は図5の回路又は記憶された因子として生成することができる相補的な8ビットのゴレイシーケンスA={1,1,-1,1,1,1,1,-1}とB={1,1,-1,1,-1,-1,1}とを含む。8ビット係数A及びBのうちの16ビットは,行X_(1)-X_(17)のそれぞれに対応する真又は補数形式で配列される。したがって,17行のそれぞれは,異なる直交128ビットシーケンスを含む。次いで,各行のシーケンスは,相補的に連結され(図7B),それぞれの256ビットシーケンスを生成する。これらの256ビットシーケンスS(0)-S(16)は,先に説明したようにリード603に供給されてSSCを生成する。)

これらの記載によれば,「長さ2^(N)のゴレイ符号を結合して新たなゴレイ符号を生成すること。」は周知であるといえる(以下,「周知技術1」という。)。

(3)対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると,
本願発明の「m」は任意の整数を含むのであるから,本願発明の「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号」と引用発明の「長さ2^(8)のゴレイ符号」とは,「長さ2^(8)の第1のゴレイ符号」の点で共通する。
本願発明の「n」は「m」以外の任意の整数を含むのであるから,本願発明の「長さ2^(n)の第2のゴレイ符号」と引用発明の「前記長さ2^(8)のゴレイ符号の後半の長さ2^(7)の符号」とは,「長さ2^(7)の第2の符号」の点で共通する。
引用発明の「長さ2^(8)のゴレイ符号と,前記長さ2^(8)のゴレイ符号の後半の長さ2^(7)の符号と,前記長さ2^(8)のゴレイ符号の前半の長さ2^(7)の符号とを備える,長さ2^(8)+2^(7)+2^(7)の少なくとも1つの符号」は,少なくともゴレイ符号とそのプリフィクス(又はポストフィクス)を備え,その長さは少なくともゴレイ符号とそのプリフィクス(又はポストフィクス)の長さはあるから,「長さ2^(8)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(7)の第2の符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(8)+2^(7)を有する少なくとも1つの符号」といえ,この点で両者は共通する。
また,本願発明の「第2のゴレイ符号」,「拡張ゴレイ符号」は,それぞれ「第2の符号」,「符号」といえる。

以上を総合すると,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。
(一致点)
「長さ2^(8)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(7)の第2の符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(8)+2^(7)を有する少なくとも1つの符号を獲得すること,前記長さ2^(8)は,前記長さ2^(7)とは異なり,8および7は,異なる値の整数であり,および
前記少なくとも1つの符号のペアによって定義されるパターンを使用してパケットを生成することを備える,無線通信のための方法。」

(相違点)
一致点の「長さ2^(8)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(7)の第2の符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(8)+2^(7)を有する少なくとも1つの符号」について,本願発明は「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(n)の第2のゴレイ符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(m)+2^(n)の少なくとも1つの拡張ゴレイ符号」であるのに対し,引用発明は「長さ2^(8)のゴレイ符号と,前記長さ2^(8)のゴレイ符号の後半の長さ2^(7)の符号と,前記長さ2^(8)のゴレイ符号の前半の長さ2^(7)の符号とを備える,長さ2^(8)+2^(7)+2^(7)の少なくとも1つの符号」である点。
すなわち,(i) 本願発明は「m」,「n」について特定していないのに対し,引用発明はm=8,n=7である点,(ii) 引用発明は,「少なくとも1つの符号」が3つの符号を備えており,(iii) そのうちの「長さ2^(7)の符号」がゴレイ符号であり,「少なくとも1つの符号」が「拡張ゴレイ符号」であることが明らかでない点。

以下,上記相違点について検討する。
まず,本願発明は,「m」,「n」について具体的な値を特定しておらず,当然にm=8,n=7を含むのであるから,(i) の点に相違はない。
次に,本願発明の「長さ2^(m)の第1のゴレイ符号と,長さ2^(n)の第2のゴレイ符号とを少なくとも備える,少なくとも長さ2^(m)+2^(n)の少なくとも1つの拡張ゴレイ符号」の「少なくとも」(3箇所)との記載によれば,本願発明は第1,2のゴレイ符号以外の符号を備えることを排除していないから,引用発明の「少なくとも1つの符号」が3つの符号を備えていること((ii) の点)は相違にならない。
そして,(iii) の点についても,引用例には,長さ128(2^(7))のゴレイ符号も示されており(スライド38参照。),また,周知技術1のとおり「長さ2^(N)のゴレイ符号を結合して新たなゴレイ符号を生成すること。」が周知であることに鑑みれば,引用発明の「長さ2^(7)の第2の符号」もゴレイ符号と解し得る,或いは引用発明の「長さ2^(7)の第2の符号」をゴレイ符号とすることは適宜なし得ることに過ぎない。
そして,その場合,上記「(1)本願発明」のとおり,「拡張ゴレイ符号」は単に複数のゴレイ符号が付加されたものと解されるから,引用発明の「長さ2^(8)+2^(7)+2^(7)の少なくとも1つの符号」(符号aとそのプリフィックスである符号a’及びポストフィックスである符号a”)も,そのうちの少なくとも「長さ2^(8)+2^(7)」の部分(符号a’と符号a,符号aと符号a”)も,いずれも「拡張ゴレイ符号」と言い得ることは明らかである。

したがって,本願発明は,引用発明と同一,或いは相違があるとしても引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。


第5 むすび
以上のとおり,本件出願は,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に不備があり,特許法第36条第6項第1号,第2号及び同第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。
また,本願発明は,引用発明と実質的に同一であり,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号,同第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-16 
結審通知日 2017-05-23 
審決日 2017-06-07 
出願番号 特願2013-222792(P2013-222792)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H04J)
P 1 8・ 121- WZ (H04J)
P 1 8・ 113- WZ (H04J)
P 1 8・ 536- WZ (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡 裕之  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 菅原 道晴
山中 実
発明の名称 シングルキャリア伝送およびOFDM伝送のための符号およびプリアンブル  
代理人 福原 淑弘  
代理人 井関 守三  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 奥村 元宏  

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