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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1333778
審判番号 不服2016-2436  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-17 
確定日 2017-10-18 
事件の表示 特願2014-171318「中継方法,中継装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月26日出願公開,特開2015- 39173〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2012年(平成24年)4月18日(国内優先権主張 平成23年4月19日,平成23年4月28日,平成23年5月26日,平成23年6月24日,平成23年9月2日)を国際出願日とする出願である特願2013-510885号の一部を,平成26年8月26日に新たな特許出願としたものであって,平成27年6月17日付けで拒絶理由が通知され,同年9月15日に意見書が提出されたが,同年11月10日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成28年2月17日に拒絶査定不服審判が請求され,同時に手続補正がされたものである。



第2 補正の却下の決定
[結論]
平成28年2月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の概要
平成28年2月17日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「受信装置であって,
それぞれ同一の周波数で同時に複数のアンテナから送信された複数の信号を受信して得られた信号である第1の受信信号及び第2の受信信号を取得する取得部と,
取得した第1の受信信号及び第2の受信信号を復調する復調部とを備え,
前記第1の受信信号は,
N個の行列(ただし,Nは3以上の整数である。)の中からスロット毎に切り替えて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理により前記スロット毎に第1の変調信号s1及び第2の変調信号s2から生成された第1の送信信号z1と第2の送信信号z2を受信した信号であり,
前記第2の受信信号は,
複数の行列の中から,前記受信装置からフィードバックされた情報に基づいて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理により,第1の変調信号s1及び第2の変調信号s2から生成された第1の送信信号z1と第2の送信信号z2を受信した信号であり,
前記復調部は,
前記第1の受信信号に対して,前記スロット毎に切り替えて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理に応じた復調を行い,
前記第2の受信信号に対して,前記フィードバックされた情報に基づいて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理に応じた復調を行う
ことを特徴とする受信装置。」(以下,「補正前の発明」という。)
を,
「受信装置であって,
それぞれ同一の周波数で同時に複数のアンテナから送信された複数の信号を受信して得られた信号である第1の受信信号及び第2の受信信号を取得する取得部と,
取得した第1の受信信号及び第2の受信信号を復調する復調部とを備え,
前記第1の受信信号は,
N個の行列(ただし,Nは3以上の整数である。)の中からスロット毎に切り替えて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理により前記スロット毎に第1の変調信号s1及び第2の変調信号s2から生成された第1の送信信号z1と第2の送信信号z2を受信した信号であり,
前記第2の受信信号は,
複数の行列の中から,前記受信装置からフィードバックされた情報に基づいて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理により,第3の変調信号s3及び第4の変調信号s4から生成された第3の送信信号z3と第4の送信信号z4を受信した信号であり,
前記復調部は,
前記第1の受信信号に対して,第1の送信信号z1と第2の送信信号z2のみを対象とし,且つ前記スロット毎に切り替えて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理に応じた復調を行い,
前記第2の受信信号に対して,前記フィードバックされた情報に基づいて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理に応じた復調を行う
ことを特徴とする受信装置。」(以下,「補正後の発明」という。)
に変更することを含むものである。([当審注]:下線部は補正箇所を示す。)


2 補正の適否
請求項1についての上記補正は,補正前の発明の「前記第2の受信信号は,複数の行列の中から,前記受信装置からフィードバックされた情報に基づいて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理により,第1の変調信号s1及び第2の変調信号s2から生成された第1の送信信号z1と第2の送信信号z2を受信した信号であり,」を,補正後の発明では「前記第2の受信信号は,複数の行列の中から,前記受信装置からフィードバックされた情報に基づいて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理により,第3の変調信号s3及び第4の変調信号s4から生成された第3の送信信号z3と第4の送信信号z4を受信した信号であり」とするものである。すなわち,第2の受信信号を生成するためのプリコーディング処理がなされる対象となる変調信号が,補正前の発明では,第1の受信信号と同じく,「第1の変調信号s1及び第2の変調信号s2」だったが,補正後の発明では,第1の受信信号とは異なり,かつ,補正前の発明には存在しない,「第3の変調信号s3及び第4の変調信号s4」に変更された。すなわち,第2の受信信号の構成が本件補正前後で異なるものとなった。
この点は,審判請求書の「また,補正後の請求項1において,第1受信信号と第2の受信信号とが協調通信により得られた信号であるとの限定はありません。・・・また,第1送信信号z1(または第2の送信信号z2)と,第3の送信信号z3(または第4の送信信号z4)とが,同一の情報データ信号から生成されるとの限定もありません。この点についても補正後の請求項1と引用文献1とは異なっております。」との主張のとおり,「第3の変調信号s3及び第4の変調信号s4」は「第1の変調信号s1及び第2の変調信号s2」は異なるものであり,第2の受信信号の構成が本件補正前後で異なることは,請求人も認めているとおりである。
したがって,当該補正の目的は,特許法第17条の2第5項各号に規定されたいずれの事項にも該当しないから,本件補正は特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていない。
また,同様の理由で,本件補正により発明の技術的内容が変更されたから,本件補正は特許法第17条の2第4項に規定する要件も満たしていない。


3 結語
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第4項及び同第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年2月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 補正の却下の決定」の項中の「1 補正の概要」の項の「補正前の発明」のとおりのものと認める。


2 引用発明等
[引用発明]
原査定の拒絶の理由に引用された特開2011-4161号公報(以下,「引用例」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【0078】
また,ここでは,協調通信の方式として,同一の情報データ信号を同一のリソースエレメントにより送信する場合を説明する。なお,制御情報信号はアンカー基地局400からのみ送信し,協調基地局600における制御情報信号をマッピングするリソースエレメントはゼロ(ヌル)とする。さらに,伝送路状況測定用参照信号は,アンカー基地局400と協調基地局600との間で互いに直交していることが好ましく,周波数分割多重や符号分割多重など様々な方法を用いることができる。なお,データ信号復調用参照信号は,アンカー基地局400および協調基地局600間で同一の信号を同一のリソースエレメントにマッピングすることが望ましい。なお,データ信号復調用参照信号をアンカー基地局400および協調基地局600間で,周波数分割多重や時間分割多重や符号分割多重などにより互いに直交させてもよい。
(中略)
【0115】
(第3の実施形態)
以下,本発明の第3の実施形態について説明する。本第3の実施形態における通信システムは,第1の実施形態における通信システムと同様のアンカー基地局1601,協調基地局1602および移動端末1603を備えるが,協調基地局1602におけるプレコーディング処理で用いるプレコーディング行列が周期的に切り替わることが異なる。以下では,第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0116】
図9は,本発明の第3の実施形態において,アンカー基地局1601ではフィードバックされたプレコーディング行列を用いて適応的なプレコーディング処理を行ない,協調基地局1602では複数種類の固定したプレコーディング行列を周期的に切り替えてプレコーディング処理を行なう場合を示す図である。アンカー基地局1601および協調基地局1602から送信された伝送路状況測定用参照信号を用いて,移動端末1603は,協調基地局1602が4種類の固定されたプレコーディング行列(PMI_0?PMI_3)を,時間方向および周波数方向に周期的に切り替えてプレコーディング処理を行なうものとして,アンカー基地局1601におけるプレコーディング制御情報を生成する。
【0117】
ここで,協調基地局1602が周期的に切り替える方法として,様々な方法を用いることができる。
【0118】
図10は,本発明の第3の実施形態において,協調基地局1602が周期的に切り替える方法として,サブフレーム毎に切り替える例を示す図である。これは,サブフレーム番号により,用いるプレコーディング行列を予め規定し,一意に決定させることで実現できる。
【0119】
図11は,本発明の第3の実施形態において,協調基地局1602が周期的に切り替える方法として,サブフレーム毎かつリソースブロック毎に切り替える例を示す図である。これは,サブフレーム番号およびリソースブロック番号により,用いるプレコーディング行列を予め規定し,一意に決定させることで実現できる。
【0120】
図12は,本発明の第3の実施形態において,協調基地局1602が周期的に切り替える方法として,サブフレーム毎かつサブバンド毎に切り替える例を示す図である。これは,サブフレーム番号およびサブバンド番号により,用いるプレコーディング行列を予め規定し,一意に決定させることで実現できる。ここで,サブバンドとはフィードバック情報を生成する周波数方向の単位であり,複数のリソースブロックで構成できる。
【0121】
アンカー基地局1601に対するプレコーディング制御情報をPMI_xとする。移動端末1603は,予め規定された方法を用いて周期的に切り替わるPMI_0?PMI_3のいずれかを用いて,協調基地局1602がプレコーディング処理をした時に,協調通信による最適な受信を行なえるように,PMI_xを生成する。生成したアンカー基地局1601に対するプレコーディング制御情報(PMI_x)をアンカー基地局1601に送信する。次に図9に示すように,移動端末1603に対して協調通信をする場合,アンカー基地局1601ではPMI_xでプレコーディング処理した情報データ信号を送信し,協調基地局1602では予め規定された方法を用いて周期的に切り替わるPMI_0?PMI_3のいずれかでプレコーディング処理した情報データ信号を送信する。
【0122】
本第3の実施形態で説明した方法を用いることにより,移動端末1603は協調基地局1602に対するプレコーディング制御情報をフィードバックする必要がなく,さらにアンカー基地局1601は協調基地局1602に対するプレコーディング制御情報を協調基地局1602に通知する必要がなくなるため,フィードバック情報のオーバーヘッドを低減させると共に,協調通信を行なうシステムにおける処理を低減させることができる。また,協調基地局1602の数が多くなるにつれて,その効果は大きく得られる。さらに,協調基地局1602で用いるプレコーディング行列が周期的に切り替わることにより,移動端末1603ではさらに受信性能を維持することができる。
【0123】
なお,協調基地局1602が用いるプレコーディング行列を周期的に切り替える方法として,既に説明した方法以外にも,システムフレーム毎,スロット毎,リソースエレメント毎,コンポーネントキャリア毎,送信アンテナポート毎,レイヤー毎に切り替えてもよい。さらに,協調基地局1602が複数ある場合,協調基地局1602毎にさらに切り替えてもよい。なお,本第3の実施形態で説明した方法は,第2の実施形態で説明した方法と組み合わせて適用することができる。
【0124】
また,切り替えるタイミングとプレコーディング行列を規定する方法としては,システムで一様なタイミングとプレコーディング行列を予め規定しておく方法の他にも,フレームあるいはサブフレームの番号と切り替えるタイミングやプレコーディング行列との関係のみを予め規定しておく方法,あるいは,協調通信を開始する際に,アンカー基地局1601から切り替えるタイミングやプレコーディング行列あるいは協調基地局1602のフレームやサブフレームの番号(あるいはアンカー基地局における番号との差分情報)を制御チャネル(RRC(Radio Resource Control)シグナリングなどの上位層におけるシグナリングも含む)を介して移動端末1603に通知する方法,あるいは複数の移動端末1603に報知する方法などを用いることができる。」(18,24?25ページ)









上記(1)の記載及び各図面並びに当該技術分野の技術常識を考慮すると,
上記【0116】,【0121】,【0122】の記載によれば,アンカー基地局1601ではPMI_xでプレコーディング処理した情報データ信号を送信し,協調基地局1602では予め規定された方法を用いて周期的に切り替わるPMI_0?PMI_3のいずれかでプレコーディング処理した情報データ信号を送信することにより,移動端末1603に対して協調通信をし,移動端末1603は送信された情報データ信号を受信するものである。そして,上記【0078】のとおり,協調通信は,同一の情報データ信号を同一のリソースエレメントにより送信するものであり,プレコーディング処理の前提として同時に複数のアンテナから送信された複数の信号が存在することは技術常識である。また,移動端末は,上記情報データ信号を受信するための手段を有しており,当該手段はアンカー基地局からの受信信号及び協調基地局からの受信信号を得ていることは自明である。
したがって,引用例には,「移動端末であって,それぞれ同一の周波数で同時に複数のアンテナから送信された複数の信号を受信して得られた信号であるアンカー基地局からの受信信号及び協調基地局からの受信信号を得る手段」を備えた移動端末が記載されていると認められる。

図4から明らかなように,移動端末は,アンカー基地局からの受信信号及び協調基地局からの受信信号を復調するための復調手段(OFDM復調部,リソースエレメントデマッピング部,伝搬路推定部,フィルタ部,レイヤーデマッピング部,復調部)を備えていると認められる。
したがって,引用例には,「受信したアンカー基地局からの受信信号及び協調基地局からの受信信号を復調するための復調手段」を備えた移動端末が記載されていると認められる。

上記【0116】?【0121】,【0123】,図3の記載によれば,協調基地局は,4個のプレコーディング行列を,システムフレーム毎,スロット毎,リソースエレメント毎,コンポーネントキャリア毎,送信アンテナポート毎,レイヤー毎等の所定単位毎に切り替えて選択された一つのプレコーディング行列に応じたプレコーディング処理をなすものであり,協調基地局の送信信号は,少なくとも2つの変調信号から生成された少なくとも2つの送信信号であるといえる。
したがって,引用例には,「協調基地局からの受信信号は,4個のプレコーディング行列の中からスロット毎等の所定単位毎に切り替えて選択された一つのプレコーディング行列に応じたプレコーディング処理により前記スロット毎に少なくとも2つの変調信号から生成された少なくとも2つの送信信号を受信した信号である」ことが記載されていると認められる。

上記【0120】?【0121】の記載によれば,アンカー基地局は,移動端末からプレコーディング制御情報(PMI_x)をフィードバックされ,PMI_xでプレコーディング処理した情報データ信号を送信するものである。そして,図1の記載によれば,アンカー基地局の送信信号は,少なくとも2つの変調信号から生成された少なくとも2つの送信信号であるといえる。ここで,フィードバックされたプレコーディング・マトリクス・インジケータ(PMI)に基づいてコードブックの複数のプレコーディング行列の中から使用するプレコーディング行列を選択することは常套手段であることに鑑みれば,引用例には,「アンカー基地局からの受信信号は,複数のプレコーディング行列の中から,前記移動端末からフィードバックされた情報に基づいて選択された一つのプレコーディング行列に応じたプレコーディング処理により,少なくとも2つの変調信号から生成された少なくとも2つの送信信号を受信した信号である」ことが記載されていると認められる。

以上を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「移動端末であって,
それぞれ同一の周波数で同時に複数のアンテナから送信された複数の信号を受信して得られた信号であるアンカー基地局からの受信信号及び協調基地局からの受信信号を得る手段と,
受信したアンカー基地局からの受信信号及び協調基地局からの受信信号を復調するための復調手段とを備え,
前記協調基地局からの受信信号は,
4個のプレコーディング行列の中からスロット毎等の所定単位毎に切り替えて選択された一つのプレコーディング行列に応じたプレコーディング処理により前記スロット毎に少なくとも2つの変調信号から生成された少なくとも2つの送信信号を受信した信号であり,
前記アンカー基地局からの受信信号は,
複数のプレコーディング行列の中から,前記移動端末からフィードバックされた情報に基づいて選択された一つのプレコーディング行列に応じたプレコーディング処理により,少なくとも2つの変調信号から生成された少なくとも2つの送信信号を受信した信号である,
受信装置。」


[周知技術]
本件の最先の優先日前に公開された国際公開第2010/146781号には以下の事項が記載されている。

(2)「【0072】
フィルタ部804は,リソースエレメントデマッピング部803-1,803-2から出力された受信信号に対して,フィルタリング処理を行い,デプリコーディング部805に出力する。デプリコーディング部805は,フィルタ部804でフィルタリングされた信号に対して,プリコーディング部705におけるプリコーディングに対応するデプリコーディング処理を行い,レイヤー数分のレイヤー毎の信号を,レイヤーデマッピング部806に出力する。レイヤーデマッピング部806は,デプリコーディング部805が出力する信号に対して,レイヤーマッピング部704に対応する結合処理を行い,レイヤー毎の信号をコードワード毎の信号に変換し,復調部807-1,807-2に出力する。」(22ページ)


本件の最先の優先日前に公開された国際公開第2010/146775号には以下の事項が記載されている。

(3)「【0068】
フィルタ部804は,参照信号測定部811で測定したDM-RSの測定結果を用いて,リソースエレメントデマッピング部803-1,803-2から出力された受信信号に対して,フィルタリング処理を行い,デプリコーディング部805に出力する。デプリコーディング部805は,フィルタ部804でフィルタリングされた信号に対して,プリコーディング部705におけるプリコーディングに対応するデプリコーディング処理を行い,レイヤー数分のレイヤー毎の信号を,レイヤーデマッピング部806に出力する。レイヤーデマッピング部806は,デプリコーディング部805が出力する信号に対して,レイヤーマッピング部704に対応する結合処理を行い,レイヤー毎の信号をコードワード毎の信号に変換し,復調部807-1,807-2に出力する。」(20ページ)


本件の最先の優先日前に公開された国際公開第2010/122749号には以下の事項が記載されている。

(4)「【0052】
デプリコーディング部56は,フィルタ部55が検出したデータ信号に対して,基地局装置100及び101が行ったプリコーディング処理を元に戻す処理を行う。」(25ページ)


本件の最先の優先日前に公開された国際公開第2010/122818号には以下の事項が記載されている。

(5)「【0065】
デプリコーディング部205は,フィルタ部204が検出した送信データ信号に対して,基地局装置100a,100bで行ったプリコーディング処理を元に戻す処理を行う。」(22ページ)

上記(2)?(5)の記載からも明らかなように,「送信側でプリコーディングされた信号を受信側で復調する際に,プリコーディング処理に応じた復調処理を行う。」ことは,プリコーディングに係る技術常識ともいえる周知技術である。


3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると,
(ア)引用例の「移動端末」は,基地局からの送信信号を受信するのであるから,「受信装置」ということができる。

(イ)本願明細書を見ても本願発明の「スロット」の定義は明らかにされておらず,【1343】の「・・・s1で送信する1500シンボルとs2で送信する1500シンボルを送信するために1500スロット(ここでは「スロット」と名付ける。)が必要となる。」等の記載によれば,「スロット」は「シンボル」に対応する時間等の種々の所定時間単位を含む概念と解され得る。一方,引用発明の「スロット」は所定個数のOFDMシンボルからなる時間単位(引用例の図2)である。しかしながら,両者に文言上の差異は無く,引用例の【0123】には切り替えに係る種々の時間単位が列挙されていることに鑑みれば,実質上の差異も見出せない。したがって,引用発明の「4個のプレコーディング行列の中からスロット毎に切り替えて」は,本願発明の「N個の行列(ただし,Nは3以上の整数である。)の中からスロット毎に切り替えて」に含まれる。
そして,引用発明の「協調基地局からの受信信号」は,「4個のプレコーディング行列の中からスロット毎等の所定単位毎に切り替えて選択された一つのプレコーディング行列に応じたプレコーディング処理により前記スロット毎に少なくとも2つの変調信号から生成された少なくとも2つの送信信号を受信した信号」であるから,本願発明の「N個の行列(ただし,Nは3以上の整数である。)の中からスロット毎に切り替えて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理により前記スロット毎に第1の変調信号s1及び第2の変調信号s2から生成された第1の送信信号z1と第2の送信信号z2を受信した信号」である「第1の受信信号」に相当する。

(ウ)引用発明の「アンカー基地局からの受信信号」は,「複数のプレコーディング行列の中から,前記移動端末からフィードバックされた情報に基づいて選択された一つのプレコーディング行列に応じたプレコーディング処理により,少なくとも2つの変調信号から生成された少なくとも2つの送信信号を受信した信号」であるから,本願発明の「複数の行列の中から,前記受信装置からフィードバックされた情報に基づいて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理により,第1の変調信号s1及び第2の変調信号s2から生成された第1の送信信号z1と第2の送信信号z2を受信した信号」である「第2の受信信号」に相当する。

(エ)上記(ア)?(ウ)のとおりであるから,引用発明の「それぞれ同一の周波数で同時に複数のアンテナから送信された複数の信号を受信して得られた信号であるアンカー基地局からの受信信号及び協調基地局からの受信信号を得る手段」は,本願発明の「それぞれ同一の周波数で同時に複数のアンテナから送信された複数の信号を受信して得られた信号である第1の受信信号及び第2の受信信号を取得する取得部」に相当し,引用発明の「受信したアンカー基地局からの受信信号及び協調基地局からの受信信号を復調するための復調手段」は,本願発明の「取得した第1の受信信号及び第2の受信信号を復調する復調部」に相当する。

以上を総合すると,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。
(一致点)
「受信装置であって,
それぞれ同一の周波数で同時に複数のアンテナから送信された複数の信号を受信して得られた信号である第1の受信信号及び第2の受信信号を取得する取得部と,
取得した第1の受信信号及び第2の受信信号を復調する復調部とを備え,
前記第1の受信信号は,
N個の行列(ただし,Nは3以上の整数である。)の中からスロット毎に切り替えて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理により前記スロット毎に第1の変調信号s1及び第2の変調信号s2から生成された第1の送信信号z1と第2の送信信号z2を受信した信号であり,
前記第2の受信信号は,
複数の行列の中から,前記受信装置からフィードバックされた情報に基づいて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理により,第1の変調信号s1及び第2の変調信号s2から生成された第1の送信信号z1と第2の送信信号z2を受信した信号である,
受信装置。」

(相違点)
本願発明は,更に「前記復調部は,前記第1の受信信号に対して,前記スロット毎に切り替えて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理に応じた復調を行い,前記第2の受信信号に対して,前記フィードバックされた情報に基づいて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理に応じた復調を行う」との事項を有しているのに対し,引用発明は当該事項が明らかでない点。

以下,上記相違点について検討する。
引用例には移動端末の復調手段(OFDM復調部,リソースエレメントデマッピング部,伝搬路推定部,フィルタ部,レイヤーデマッピング部,復調部)の具体的動作は明らかにしていないが,「送信側でプリコーディングされた信号を受信側で復調する際に,プリコーディング処理に応じた復調処理を行う。」ことはプリコーディングに係る技術常識ともいえる周知技術であるから,引用発明においても当然に「前記協調基地局からの受信信号に対して,前記スロット毎に切り替えて選択された一つのプレコーディング行列に応じたプレコーディング処理に応じた復調を行い,前記アンカー基地局からの受信信号に対して,前記フィードバックされた情報に基づいて選択された一つのプレコーディング行列に応じたプレコーディング処理に応じた復調を行う」ものと考えられるし,仮にそうでないとしても,そのようにすることは当業者が容易になし得ることに過ぎない。
したがって,両者には実質的な相違は無く,同一である。また,引用発明及び周知技術に基づいて本願発明をすることは,当業者にとって容易である。


なお,請求人は審判請求書において,
(i) 「請求項1に係る補正は,出願当初の明細書の段落0099-0103の記載に基づきます。段落0099-0103には,周期的にプリコーディング行列を切り替える方法により生成された送信信号を対象として復調を行うことを開示しております。周期的にプリコーディング行列を切り替える方法により生成された送信信号と,フィードバックされた情報に基づいてプリコーディング行列を選択する方法により生成された送信信号とが重畳された信号を復調することの開示はなく,周期的にプリコーディング行列を切り替える方法により生成された送信信号のみを復調対象としていることは,当業者なら明らかであると思料いたします。」,
(ii) 「また,補正後の請求項1において,第1受信信号と第2の受信信号とが協調通信により得られた信号であるとの限定はありません。すなわち,第1の送信信号z1(または第2の送信信号z2)と,第3の送信信号z3(または第4の送信信号z4)とが,同一の周波数で同時に送信されるとの限定はありません。」
と主張している。
しかしながら,上記(i) の主張については,本願明細書の【0099】?【0103】に記載されてる実施の形態1は,「複数の行列の中から,前記受信装置からフィードバックされた情報に基づいて選択された一つの行列に応じたプリコーディング処理により,第1の変調信号s1及び第2の変調信号s2から生成された第1の送信信号z1と第2の送信信号z2を受信した信号」である「第2の受信信号」が存在しない例についての開示であるから,「周期的にプリコーディング行列を切り替える方法により生成された送信信号と,フィードバックされた情報に基づいてプリコーディング行列を選択する方法により生成された送信信号とが重畳された信号を復調することの開示」がないことは当たり前のことに過ぎない。このため,当該箇所の開示は,「第1の受信信号及び第2の受信信号を取得する」本願発明において,「周期的にプリコーディング行列を切り替える方法により生成された送信信号のみを復調対象」とすることの根拠となるものではない。したがって,請求人の上記(i) の主張は採用できない。
また,上記(ii) の主張については,「それぞれ同一の周波数で同時に複数のアンテナから送信された複数の信号を受信して得られた信号である第1の受信信号及び第2の受信信号を取得する」との日本語の記載は,その文言からみて,第1の受信信号及び第2の受信信号を同時に取得することを含んでおり,本願発明には,「同時には取得しない」旨の限定はないのであるから,特に「第1受信信号と第2の受信信号とが協調通信により得られた信号である」との限定がなくとも,本願発明は,第1の受信信号及び第2の受信信号を同時に取得するものを含んでいると認められる。したがって,請求人の上記(ii) の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであるから,採用できない。


4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明と同一であり,また,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号,同第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-22 
結審通知日 2017-05-23 
審決日 2017-06-07 
出願番号 特願2014-171318(P2014-171318)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H04J)
P 1 8・ 57- Z (H04J)
P 1 8・ 121- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡 裕之  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 菅原 道晴
山中 実
発明の名称 中継方法、中継装置  
代理人 特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所  

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