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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1333781
審判番号 不服2016-9928  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-01 
確定日 2017-10-18 
事件の表示 特願2013-521203号「シートベルト配置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月26日国際公開、WO2012/010833、平成25年 8月22日国内公表、特表2013-533161号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年7月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年7月23日、英国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成27年 5月25日付け 拒絶理由通知
9月 3日 意見書、手続補正書の提出
平成28年 2月25日付け 拒絶査定
7月 1日 審判請求書及び手続補正書の提出
7月27日 手続補正書(方式)の提出
(審判請求書の請求の理由を補充)

第2 平成28年7月1日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年7月1日の手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
平成28年7月1日の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであり、補正前後の請求項1の記載は次のとおりである。
なお、下線部は補正箇所を示す。

ア 本件補正前の請求項1の記載
「【請求項1】
座面部と背もたれ部とを有し、左側と右側との間の実質的に中央に配置された車両用のシートベルト配置であって、
その配置は、前記座面部に対し反対側に位置する車両構造上の第1及び第2係留点を含み、
前記第1係留点はシートベルトの一端のための係留を提供し、前記第2係留点はシートベルトによって運ばれたラッチを受けるラッチ機構を含み;
前記配置は、シートの後方の車両構造上に配置された収容システムを含む第3係留点を含み、前記第1、第2及び第3係留点は、それぞれ比較的車両構造の低位置に配置され;
前記配置は、前記背もたれ部の上端又は上端近くに取り付けられて前記第1、第2及び第3係留点よりも上方に位置する上部マウントを含み、
それにより、固定位置において、前記シートベルトは前記収容システムから前記上部マウントに向けて前記シートの前記背もたれ部の後方を延伸し、前記上部マウントを通って前記背もたれ部の前面の前を斜めに前記上部マウントから前記第2係留点の前記ラッチ機構まで延伸し、前記ラッチ機構から前記第1係留点まで前記座面部の上を延伸し得る、シートベルト配置。」

イ 本件補正後の請求項1の記載
「【請求項1】
座面部と背もたれ部とを有し、左側と右側との間の実質的に中央に配置された車両用のシートベルト配置であって、
その配置は、前記座面部に対し反対側に位置する車両構造上の第1及び第2係留点を含み、
前記第1係留点はシートベルトの一端のための係留を提供し、前記第2係留点はシートベルトによって運ばれたラッチを受けるラッチ機構を含み;
前記配置は、シートの後方の車両構造上に配置された収容システムを含む第3係留点を含み、前記第1、第2及び第3係留点は、それぞれ比較的車両構造の低位置に配置され;
前記配置は、前記背もたれ部の上端又は上端近くに取り付けられて前記第1、第2及び第3係留点よりも上方に位置する上部マウントを含み、
それにより、固定位置において、前記シートベルトは前記収容システムから前記上部マウントに向けて前記シートの前記背もたれ部の後方を延伸し、前記上部マウントを通って前記背もたれ部の前面の前を斜めに前記上部マウントから前記第2係留点の前記ラッチ機構まで延伸し、前記ラッチ機構から前記第1係留点まで前記座面部の上を延伸し得るものであり、
前記シートは、前記座面部から前記背もたれ部へと延びる比較的軽量の構造部材を有し、
前記上部マウントが、前記構造部材に固定され、
前記第3の係留点は、前記シートの後方で実質的に中央に位置しており、
前記シートは運転席であり、
複数の乗員席が、前記運転席の後方であって、横方向にオフセットされて提供される、シートベルト配置。」

2.補正の適否
本件補正による請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に係る発明に、補正前の請求項2、3、5、10、11の事項を付加し、補正後の請求項1に係る発明としたものであり、補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定を満たすか)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「1.イ」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

(2)引用文献1に記載された事項及び引用発明1
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-220644号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、下線(「イ」の段落【0012】の「第1実施例(図1?図7)」の下線を除く)は当審で付したものである。以下同様である。


「【請求項1】
シートベルトのタングをバックルに挿入して係止させることにより乗員の身体を拘束するシートベルト装置を備えたシート装置において、・・・」

「【0012】
第1実施例(図1?図7):
図1はシティコミューターカーの外形輪郭と共に車室内を露出させて平面視した図であり、図2は側面から見た図である。図1、図2を参照して、シティコミューターカー1は、そのエンジンルーム2に小排気量のエンジン(図示せず)を搭載し、ダッシュパネル3の後方に位置する車室4には、車幅方向中央に配置されたハンドル5に一致させて車幅方向中央に位置する運転席シート6と、その後方に車幅方向に隣り合うように配設された2つの後席シート7、7とが配設されている。なお、図2において、参照符号8は、運転席シート6と後席シート7の下方に配設された燃料タンクを示し、また、9は車輪を示し、前輪にはFを付記し、後輪にはRを付記して示してある。
【0013】
唯一の前席シートである運転席シート6は、車幅方向中央部分に配設されたシートクッション10とシートバック11とを有し、この運転席シート6は前後方向にスライド可能である。
【0014】
左右の後席シート7、7は、互いに独立したセパレートシートで構成され、各後席シート7は、着座した後席乗員が車幅方向外方に斜め前方に向いた姿勢となるように設置され、これにより、後席乗員Pは、運転席シート6の側方のフロアに足を伸ばすことができる。これにより、後席シート7を運転席シート6に接近させた状態で設置したとしても、運転席シート7の側方のフロアを利用して後席乗員Pの足元スペースを確保することができる。このことから、車室の前後長が短いにも関わらず後席シート7として比較的大型のシートを設置することができる。
・・・
【0016】
運転席シート7にはシートベルト装置30が取り付けられている。シートベルト装置30は、腰ベルト31と肩ベルト32とを有する3点式であり、ベルト巻き取り装置であるリトラクター(図示せず)は運転席シート7の内部に設置されている。すなわち、この運転席シート7はベルトインシートであり、ドライバDは、腰ベルト31の一端に設けられたタング33をバックル34に挿入することでシートベルト装置30を装着することができ、また、バックル34からタング33を解放することで、シートベルト装置30を外すことができる。バックル34は、シートクッション10の一側の後端に配設され、そして、バックルアンカー35によって車体フロア36に固設されている。」
(当審注:段落【0014】、【0016】の「運転席シート7」は「運転席シート6」の誤記と認める。)

【図6】から、腰ベルト31の他端は、バックル34とはシートクッション10の反対側で、バックル34がバックルアンカー35によって固設されているのと同じ車体フロア36にあることを看取しうる。
また、3点式のシートベルトにおいて、シートベルトの一端は車体フロアに固定されていることは技術常識であることを併せみれば、【図6】から、腰ベルト13の他端は車体フロア36に固設されていると認められる。

【図6】から、肩ベルト32は、シートバック11の上部から繰り出され、シートバック11の前面を斜めにシートバック11の上部からバックル34まで延び、腰ベルト31は、バックル34から腰ベルト31の他端が固設される位置までシートクッション10の上で延びていることを看取しうる。
また、肩ベルト32を繰り出すシートバック11の上部の出口には、肩ベルト32を案内する部材が設けられていると認められる。

上記アの記載からみて、「シートベルト装置30」は、乗員の身体を拘束するための「シートベルト」、「タング」、「バックル」を備えたものといえる。
そうすると、上記ア?エの事項及び【図1】、【図2】、【図6】の記載並びに技術常識からみて、本願補正発明の特定事項に倣えば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明1〕
「車幅方向中央部分に配設されたシートクッション10とシートバック11とを有した運転席シート6のシートベルト装置30であって、
シートクッション10に対して反対側の車体フロア36に固設された、腰ベルト31の他端と、腰ベルト31の一端に設けられたタング33が挿入されるバックル34とを含み、
運転席シート7の内部に設置されたベルト巻き取り装置であるリトラクターを含み、
肩ベルト32は、シートバック11の上部の案内部材から繰り出され、シートバック11の前面を斜めにシートバック11の上部からバックル34まで延び、腰ベルト31は、バックル34から腰ベルト31の他端が固設される位置までシートクッション10の上で延びているものであり、
運転席シート6の後方に車幅方向に隣り合うように2つの後席シート7、7が配設された車両の、シートベルト装置30。」

(3)対比・判断
本願補正発明と引用発明1とを対比する。

後者の「シートクッション10とシートバック11」は、前者の「座面部と背もたれ部」に相当する。

後者の「シートベルト装置30」は、「車幅方向中央部分に配設されたシートクッション10とシートバック11とを有した運転席シート6」のためのものであり、車両の実質的に中央に配置されるものといえ、また、それを構成している各部品の配置に関する事項を含むものでもあるので、前者の「座面部と背もたれ部とを有し、左側と右側との間の実質的に中央に配置された車両用のシートベルト配置」に相当する。

(ア)前者の「車両構造」について、本願の明細書の発明の詳細な説明には次のとおり記載されている。
「【0006】
このようなシートベルトの配置は、客室の床(又はそこからの延長部材)やシート構造等の車両構造の低位置にある構造部材による拘束力の生成を可能とし、・・・」
そうすると、後者の「車体フロア36」は、前者の「車両構造」に相当する。
(イ)後者の「腰ベルト31の他端」は「車体フロア36に固設され」るものであり、その固設される位置は、前者の「シートベルトの一端のための係留を提供」する「第1係留点」及び「車両構造上の第1」「係留点」に相当する。
(ウ)後者の「腰ベルト31の一端に設けられたタング33が挿入されるバックル34」は、前者の「シートベルトによって運ばれたラッチを受けるラッチ機構」に相当し、後者の「バックル34」が「車体フロア36に固設され」る位置は、前者の「ラッチ機構を含」んだ「第2係留点」及び「車両構造上の」「第2係留点」に相当する。
(エ)上記(ア)?(ウ)の相当関係からみて、後者の「シートクッション10に対して反対側の車体フロア36に固設された、腰ベルト31の他端と、腰ベルト31の一端に設けられたタング33が挿入されるバックル34とを含」むことは、前者の「座面部に対し反対側に位置する車両構造上の第1及び第2係留点を含」むことに相当する。

(ア)前者の「収容システム」はシートベルトを収容するものであるので、後者の「ベルト巻き取り装置であるリトラクター」は、前者の「収容システム」に相当する。
(イ)後者の「ベルト巻き取り装置であるリトラクター」の「運転席シート7の内部に設置された」位置は、前者の「シートの後方の車両構造上に配置された収容システムを含む第3係留点」と、「シートに配置された収容システムを含む第3係留点」である限りにおいて一致する。

後者の「腰ベルト31の他端」と「バックル34」とは「車体フロア36に固設され」るものであるので、その固設される位置は、前者の「第1、第2及び第3係留点は、それぞれ比較的車両構造の低位置に配置され」ることと、「第1及び第2係留点は、それぞれ比較的車両構造の低位置に配置され」る限りにおいて一致する。

後者の「シートバック11の上部の案内部材」は、「腰ベルト31の他端」、「バックル34」のそれぞれが「車体フロア36に固設され」る位置よりも上方に位置することは明らかなので、前者の「背もたれ部の上端又は上端近くに取り付けられて第1、第2及び第3係留点よりも上方に位置する上部マウント」と、「背もたれ部の上端又は上端近くに取り付けられて第1及び第2係留点よりも上方に位置する案内部材」である限りにおいて一致する。

後者の「肩ベルト32は、シートバック11の上部の案内部材から繰り出され」る構造においては、「ベルト巻き取り装置であるリトラクター」から肩ベルト32が繰り出されるものであるので、前者の「固定位置において、シートベルトは収容システムから上部マウントに向けてシートの背もたれ部の後方を延伸」することと、「固定位置において、シートベルトは収容システムから案内部材に向けて延伸」する限りにおいて一致する。

後者の「シートバック11の上部から繰り出され」た「肩ベルト32」が「シートバック11の前面を斜めにシートバック11の上部からバックル34まで延び、腰ベルト31は、バックル34から腰ベルト31の他端が固設される位置までシートクッション10の上で延びている」ことは、前者の「上部マウントを通って背もたれ部の前面の前を斜めに上部マウントから第2係留点のラッチ機構まで延伸し、ラッチ機構から第1係留点まで座面部の上を延伸し得る」ことと、「案内部材を通って背もたれ部の前面の前を斜めに案内部材から第2係留点のラッチ機構まで延伸し、ラッチ機構から第1係留点まで座面部の上を延伸し得る」限りにおいて一致する。

後者の「シートベルト装置30」を有した「運転席シート6」であることは、前者の「シートは運転席」であることに相当する。

後者の「運転席シート6の後方に車幅方向に隣り合うように2つの後席シート7、7が配設され」ることは、前者の「複数の乗員席が、運転席の後方であって、横方向にオフセットされて提供される」ことに相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明1の一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点〕
「座面部と背もたれ部とを有し、左側と右側との間の実質的に中央に配置された車両用のシートベルト配置であって、
その配置は、前記座面部に対し反対側に位置する車両構造上の第1及び第2係留点を含み、
前記第1係留点はシートベルトの一端のための係留を提供し、前記第2係留点はシートベルトによって運ばれたラッチを受けるラッチ機構を含み;
前記配置は、シートに配置された収容システムを含む第3係留点を含み、前記第1及び第2係留点は、それぞれ比較的車両構造の低位置に配置され;
前記配置は、前記背もたれ部の上端又は上端近くに取り付けられて前記第1及び第2係留点よりも上方に位置する案内部材を含み、
それにより、固定位置において、前記シートベルトは前記収容システムから前記案内部材に向けて延伸し、前記案内部材を通って前記背もたれ部の前面の前を斜めに前記案内部材から前記第2係留点の前記ラッチ機構まで延伸し、前記ラッチ機構から前記第1係留点まで前記座面部の上を延伸し得るものであり、
前記シートは運転席であり、
複数の乗員席が、前記運転席の後方であって、横方向にオフセットされて提供される、シートベルト配置。」
〔相違点1〕
本願補正発明は、「収容システム」が「シートの後方の車両構造上に配置された」ものであり、「収容システムを含む第3係留点」は「比較的車両構造の低位置に配置され」「シートの後方で実質的に中央に位置」するものであり、「上部マウント」は「第3係留点」よりも上方に位置するものであり、シートベルトは収容システムから背もたれ部の上端又は上端近くに取り付けられた「上部マウントに向けてシートの背もたれ部の後方を延伸し、上部マウントを通って」、「上部マウントから」第2係留点のラッチ機構まで延伸するものであるのに対して、引用発明1は、「ベルト巻き取り装置であるリトラクター」が「運転席シート7の内部に設置され」るものであるが、リトラクターの車両構造への配置が「比較的車両構造の低位置」とは特定されておらず、肩ベルト32が繰り出されるシートバック11の上部に設けられた「案内部材」がリトラクターよりも「上方に位置する」とは特定されておらず、繰り出されるシートベルトが「シートの背もたれ部の後方」を延伸するとは特定されていない点。
〔相違点2〕
本願補正発明は、「シートは、座面部から背もたれ部へと延びる比較的軽量の構造部材を有し、上部マウントが、構造部材に固定され」と特定されているのに対して、引用発明1は、そのような特定がなされていない点。

上記各相違点について以下検討する。
〔相違点1について〕
3点式シートベルト装置においてリトラクターをシートに備え付ける場合に、シート後方で下方のフレームまたは車体構造に固定することは、周知の事項といえる(例えば、欧州特許出願公開第590237号明細書の7欄38?41行、10欄29?31行、図2、図11には、リトラクター機構32がリアクロスレール62、164に取り付けられることが記載されている。特開2002-87208号公報の段落【0022】、【図2】には、リトラクタ12がブラケット13を介してフロアパネル5に取り付けられることが記載されている。)。
そうすると、引用発明1においてリトラクターを、シートの後方で下方の車両構造上に配置することは、周知の事項に基づいて当業者が適宜になし得ることといえ、その際、リトラクターを運転席シート6の中央に位置させることは、後方に車幅方向に隣り合うように2つの後席シート7、7が配置されていることから、その乗降のし易さや居住性、あるいは車両全体の小型化等を考慮して当業者が適宜になし得る設計事項といえる。
また、引用発明1のリトラクターの配置に周知の事項を適用すると、案内部材はリトラクターよりも上方に位置することになるとともに、リトラクターから繰り出されるシートベルトは運転席シート6のシートバック11の後方を上方に向かって延びることとなるといえ、本願補正発明の「シートの背もたれ部の後方」がシートの外側を意味し、シートベルトが露出していることを意味するとしても、そのように構成することに格別の困難性は認められず、構造の簡素化等の観点から当業者が適宜になし得る設計事項といえる。
さらに、引用発明1のリトラクターの配置に周知の事項を適用したときに、リトラクターから繰り出されるシートベルトが運転席シート6の内部を延びるように構成するのであれば、引用発明1の「案内部材」は本願補正発明の「上部マウント」と実質的に相違するとは認められず、リトラクターから繰り出されるシートベルトが運転席シート6の外側を延びるように構成するのであれば、シートの外をシートベルトが延伸することに伴い案内部材をシートの外に設けることは周知の事項であるので(例えば、特開2003-11781号公報の段落【0045】、【0047】?【0048】、【図6】には、上部ガイド34がシートバック23背面に案内されたシートベルト31をシートバック23の上端部まで案内することが記載されている。)、引用発明1の「案内部材」を、運転席シートの上部で外側に配置することは当業者が適宜になし得ることといえる。
以上のとおりであるので、引用発明1を、相違点1に係る本願補正発明のように構成することは、周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることといえる。
〔相違点2について〕
車両用のシートが座面部から背もたれ部へと延びる構造部材を有していることは周知の事項であり、また、背もたれ部の構造部材の上部にシートベルトを案内する部材を固定することも周知の事項である(例えば、特開平2-256544号公報の2頁右下欄12行?3頁左上欄16行、第1図?第3図には、ショルダーベルト支持部7がシートバックフレーム3の上部に溶接されていることが記載されている。特開2003-11781号公報の段落【0047】?【0048】、【図6】には、上部ガイド34がシートバックフレーム35の上端部に形成されることが記載されている。)。
また、構造部材に比較的軽量の材質ものを採用することは、車両の軽量化の観点から、当業者が適宜になし得る設計事項といえる。
さらに、本願補正発明の「座面部から背もたれ部へと延びる」との事項が、それらが一の部材で形成され、座面部と背もたれ部とが相対的に固定されていることを意図しているとしても、そのような構造部材は周知であるといえる(例えば、実公昭35-17226号公報の第1図の座席のフレームAを参照。実願昭62-48067号(実開昭63-155464号)のマイクロフィルムの明細書6頁13?17行、第1図には、背フレーム部41と座フレーム部42とが一体的に形成されることが記載されている。)
そうしてみると、引用発明1を、相違点2に係る本願補正発明のように構成することは、周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることといえる。

そして、本願補正発明の奏する作用及び効果を検討しても、引用発明1及び周知の事項から予測できる程度のものであって格別のものではない。
よって、本願補正発明は、引用発明1及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成28年7月1日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?15に係る発明は、平成27年9月3日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1.ア」の【請求項1】に記載されたとおりのものである。

2.引用文献2に記載された事項及び引用発明2
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である独国特許出願公開第10008562号明細書(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、翻訳は当審によるものである。

ア 1欄3?5行
(翻訳:本発明はウエストベルトとショルダーベルトを備えた自動車シート、特に中央の自動車シート向けの3点安全ベルトに関する。)
イ 1欄55行?2欄11行
(翻訳:本発明は、ウエストベルトとショルダーベルトを具備する自動車の座席用の安全ベルトであって、ショルダーベルトの自由端はベルトリトラクタを具備し、自動車の車体に固定されており、ショルダーベルトとウエストベルトの間にはベルトバックル用のラッチプレートが配され、ショルダーベルトはこのベルトバックルからバックレストの上を通り座席の後ろの自動車の車体に取り付けられた固定具に導かれ、ショルダーベルトには更にバックレストの上部域に取り付けられたベルトバックル用のスライド可能な別のラッチプレートが配されていて、前記ウエストベルトの自由端は自動車の座席の近くに固定される安全ベルトである。
このような解決方法によって、両方のラッチプレートをそれらのバックルから解除するだけで自動車の座席から安全ベルトを、または安全ベルトから自動車の座席を開放することができるようになる。自動車の座席に安全ベルトを用いる時は、常に座席側のラッチプレートだけを解除または装着する。この場合、バックレスト側にあるショルダーベルトに対してずらすことができるラッチプレートは、バックレスト内に組み込まれたバックルにしっかり固定されてベルトディレクタとして機能する。座席を移動させる時、安全ベルトは自動車内のリトラクタによってその位置にとどまり、この時、リトラクタは自動車の床にしっかり取り付けられていることが好ましい。)
ウ 2欄60行?3欄15行
(翻訳:図面1では中央位置の自動車座席3用のウエストベルト1とショルダーベルト2を有する3点安全ベルト(安全ベルト)が描かれており、ショルダーベルトは自動車の座席3のバックレスト4の上を通り、自由端はその(3)後部の、自動車の車体に配されたベルトリトラクタ5に固定されている。ショルダーベルト2はバックレスト4に組み込まれたベルトバックル7に解除可能にロックすることができ、ずらすことができるラッチプレート6を具備する。ショルダーベルト2とウエストベルト1の間には、ベルトバンドを解除可能に自動車の座席に組み込まれたベルトバックル9にロックするための、広範囲に位置をずらすことができるノッチプレート8が配されており、ウエストベルト1の自由端は自動車の座席の近くで自動車の床に固定されている。
ショルダーベルト2に配されたノッチプレートは、安全ベルトが停止した位置にある場合は、ベルトバックル7内にロックされるが、ノッチプレート6によってガイドされるショルダーベルト2はずらすことができる。安全ベルトが動作位置にある場合は、安全ベルトは一般的には、ノッチプレート8がベルトバックル9でロックされることによって乗客を保持する。ノッチプレート6と8の両方のロックを解除すると、安全ベルトは自動車の座席から開放される。)

図面1(FIG.1)から、
・自動車の座席の近くで自動車の床に固定されるウエストベルト1の自由端とベルトバックル9とは、座席3の座面部に対して反対側に位置していること、
・ベルトリトラクタ5は座席3の設置面とほぼ同じ高さの車体に配置されていること、
・ベルトバックル7はバックレスト4の上部に組み込まれていること、
・ショルダーベルト2がベルトリトラクタ5から座席3のバックレスト4の上部のベルトバックル7内にロックされているノッチプレート6に向けてバックレスト4の後方を延伸し、ノッチプレート6を通ってバックレスト4の前面を斜めにベルトバックル9にロックされているノッチプレート8まで延伸し、ウエストベルト1がノッチプレート8から座面部の反対側の自動車の床まで延伸していること
を看取しうる。

上記ア?エの事項及び図面1(FIG.1)の記載からみて、本願発明の特定事項に倣えば、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明2〕
「中央位置の自動車座席3用のウエストベルト1とショルダーベルト2を有する3点安全ベルトであって、
座席3の座面部に対して反対側に位置している、自動車の座席の近くで自動車の床に固定されるウエストベルト1の自由端と、ショルダーベルト2とウエストベルト1の間で位置をずらすことができるノッチプレート8がロックされる自動車の座席に組み込まれたベルトバックル9とを含み、
ショルダーベルト2は座席3のバックレスト4の上を通り、その自由端が座席3の後部であって座席3の設置面とほぼ同じ高さの自動車の車体に配されたベルトリトラクタ5に固定され、
ショルダーベルト2は、ショルダーベルト2に配されバックレスト4の上部に組み込まれたベルトバックル7内にロックされるノッチプレート6によってガイドされ、
ショルダーベルト2がベルトリトラクタ5から座席3のバックレスト4の上部のベルトバックル7内にロックされているノッチプレート6に向けてバックレスト4の後方を延伸し、ノッチプレート6を通ってバックレスト4の前面を斜めにベルトバックル9にロックされているノッチプレート8まで延伸し、
ウエストベルト1がノッチプレート8から座面部の反対側の自動車の床まで延伸している、3点安全ベルト。」

3.対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明2とを対比する。

後者の「座席3」の「座面部」と「バックレスト4」は、前者の「座面部と背もたれ部」に相当する。

後者の「中央位置の自動車座席3用」の「3点安全ベルト」は、それを構成している各部品の配置に関する事項を含むものであるので、前者の「座面部と背もたれ部とを有し、左側と右側との間の実質的に中央に配置された車両用のシートベルト配置」に相当する。

(ア)前者の「車両構造」は、「客室の床(又はそこからの延長部材)やシート構造等の車両構造」(本願の明細書の段落【0006】参照)であるので、後者の「自動車の床」及び「自動車の座席」は、前者の「車両構造」に相当する。
(イ)後者の「ウエストベルト1の自由端」は「自動車の座席の近くで自動車の床に固定される」ものであり、その固定される位置は、前者の「シートベルトの一端のための係留を提供」する「第1係留点」及び「車両構造上の第1」「係留点」に相当する。
(ウ)後者の「ショルダーベルト2とウエストベルト1の間で位置をずらすことができるノッチプレート8がロックされる自動車の座席に組み込まれたベルトバックル9」は、前者の「シートベルトによって運ばれたラッチを受けるラッチ機構」に相当し、後者の「ベルトバックル9」の位置は、前者の「ラッチ機構を含」んだ「第2係留点」及び「車両構造上の」「第2係留点」に相当する。
(エ)上記(ア)?(ウ)の相当関係から、後者の「座席3の座面部に対して反対側に位置している、自動車の座席の近くで自動車の床に固定されるウエストベルト1の自由端と、ショルダーベルト2とウエストベルト1の間で位置をずらすことができるノッチプレート8がロックされる自動車の座席に組み込まれたベルトバックル9とを含」むことは、前者の「座面部に対し反対側に位置する車両構造上の第1及び第2係留点を含」むことに相当する。

(ア)後者の「ベルトリトラクタ5」は、ショルダーベルト2を巻き取るものであることは明らかであり、前者の「収容システム」はシートベルトを収容するものであるので、後者の「ベルトリトラクタ5」は、前者の「収容システム」に相当する。
(イ)後者の「ベルトリトラクタ5」の「座席3の後部であって座席3の設置面とほぼ同じ高さの自動車の車体に配された」位置は、前者の「シートの後方の車両構造上に配置された収容システムを含む第3係留点」に相当する。

後者の「ウエストベルト1の自由端」は「自動車の床に固定され」、「ベルトバックル9」は「自動車の座席に組み込まれ」、「ベルトリトラクタ5」は「座席3の設置面とほぼ同じ高さの自動車の車体に配され」るので、それぞれの固設される位置は、前者の「第1、第2及び第3係留点は、それぞれ比較的車両構造の低位置に配置され」ることに相当する。

後者の「バックレスト4の上部に組み込まれたベルトバックル7内にロックされるノッチプレート6」は、ウエストベルト1の自由端、ベルトバックル9、ベルトリトラクタ5との位置関係からみて、前者の「背もたれ部の上端又は上端近くに取り付けられて第1、第2及び第3係留点よりも上方に位置する上部マウント」と、「背もたれ部の上端又は上端近くに位置し第1、第2及び第3係留点よりも上方に位置する上部マウント」である限りにおいて一致する。

後者の「ショルダーベルト2がベルトリトラクタ5から座席3のバックレスト4の上部のベルトバックル7内にロックされているノッチプレート6に向けてバックレスト4の後方を延伸し、ノッチプレート6を通ってバックレスト4の前面を斜めにベルトバックル9にロックされているノッチプレート8まで延伸し、ウエストベルト1がノッチプレート8から座面部の反対側の自動車の床まで延伸している」ことは、「ベルト巻き取り装置であるリトラクター」から肩ベルト32が繰り出されるものであるので、前者の「固定位置において、シートベルトは収容システムから上部マウントに向けてシートの背もたれ部の後方を延伸し、上部マウントを通って背もたれ部の前面の前を斜めに上部マウントから第2係留点のラッチ機構まで延伸し、ラッチ機構から第1係留点まで座面部の上を延伸し得る」ことに相当する。

そうすると、本願発明と引用発明2の一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点〕
座面部と背もたれ部とを有し、左側と右側との間の実質的に中央に配置された車両用のシートベルト配置であって、
その配置は、前記座面部に対し反対側に位置する車両構造上の第1及び第2係留点を含み、
前記第1係留点はシートベルトの一端のための係留を提供し、前記第2係留点はシートベルトによって運ばれたラッチを受けるラッチ機構を含み;
前記配置は、シートの後方の車両構造上に配置された収容システムを含む第3係留点を含み、前記第1、第2及び第3係留点は、それぞれ比較的車両構造の低位置に配置され;
前記配置は、前記背もたれ部の上端又は上端近くに位置し前記第1、第2及び第3係留点よりも上方に位置する上部マウントを含み、
それにより、固定位置において、前記シートベルトは前記収容システムから前記上部マウントに向けて前記シートの前記背もたれ部の後方を延伸し、前記上部マウントを通って前記背もたれ部の前面の前を斜めに前記上部マウントから前記第2係留点の前記ラッチ機構まで延伸し、前記ラッチ機構から前記第1係留点まで前記座面部の上を延伸し得る、シートベルト配置。」
〔相違点3〕
本願発明は、「上部マウント」が「背もたれ部の上端又は上端近くに取り付けられ」るものであるのに対して、引用発明2は、「ノッチプレート6」が「バックレスト4の上部に組み込まれたベルトバックル7内にロックされる」ものである点。

(2)判断
上記相違点3について以下検討する。
車両用シートの背もたれ部の構造部材の上部にシートベルトを案内する部材を固定することは周知の事項である(例えば、特開平2-256544号公報の2頁右下欄12行?3頁左上欄16行、第1図?第3図には、ショルダーベルト支持部7がシートバックフレーム3の上部に溶接されていることが記載されている。特開2003-11781号公報の段落【0047】?【0048】、【図6】には、上部ガイド34がシートバックフレーム35の上端部に形成されることが記載されている。)。
そうしてみると、引用発明2のショルダーベルト2をガイドするノッチプレート6を、バックレスト4の上部に組み込まれたベルトバックル7内にロックする構造に代えて、相違点3に係る本願発明の構成のように、シートベルトを案内する部材を背もたれ部の上端又は上端近くに固定取り付けした構造とすることは、上記周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることといえる。

そして、本願発明の奏する作用及び効果を検討しても、引用発明2及び周知の事項から予測できる程度のものであって格別のものではない。
よって、本願発明は、引用発明2及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、引用発明2及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-18 
結審通知日 2017-05-23 
審決日 2017-06-06 
出願番号 特願2013-521203(P2013-521203)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60R)
P 1 8・ 575- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森本 康正三宅 龍平野口 絢子  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 平田 信勝
島田 信一
発明の名称 シートベルト配置  
代理人 梶 俊和  

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