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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1333809
審判番号 不服2016-9010  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-16 
確定日 2017-10-16 
事件の表示 特願2014-513038「ヘキサヒドロジベンゾ[a,g]キノリジン系化合物、その製造方法、医薬品組成物およびその応用」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月 6日国際公開、WO2012/163179、平成26年 6月30日国内公表、特表2014-515379〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2012年4月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年5月27日(CN)中国)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月27日に手続補正書が提出され、平成27年3月19日付けで拒絶理由が通知され、同年9月29日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年2月9日付けで拒絶査定がされ、同年6月16日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、同年8月10日に審判請求書を補正する手続補正書が提出されたものである。
なお、平成28年6月16日に特願2016-120137号が分割出願されている。

第2 平成28年6月16日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年6月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正
平成28年6月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項1である
「一般式(I)で示されるヘキサヒドロジベンゾ[a,g]キノリジン系化合物、またはその薬学的に許容される無機塩または有機塩:

(ただし、前述化合物は、エナンチオマーまたはジアステレオマーであり、
R_(2)は、ヒドロキシ基で置換されたC1-C6アルキル基、置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲン、置換または無置換のC1-C6アルキル基、置換または無置換のC2-C6アルケニル基、置換または無置換のC2-C6アルキニル基、置換または無置換のC3-C6シクロアルキル基、置換または無置換のC1-C6アルカノイル基であり、R_(2)が置換または無置換のC1-C6アルキル基、置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、置換または無置換のC2-C6アルケニル基、置換または無置換のC2-C6アルキニル基、あるいは置換または無置換のC3-C6シクロアルキル基である場合、前述置換する置換基がハロゲンであり、R_(2)が置換または無置換のC1-C6アルカノイル基である場合、前述置換する置換基がC1-C6アルキル基、ハロゲン、C1-C6アルコキシ基から選ばれ、
R_(3)は、H、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基またはハロゲンであり;
R_(4)は、Hまたはハロゲンであり;
R_(5)、R_(6)、R_(8)は、それぞれ独立に水素、ヒドロキシ基、ヒドロキシ基で置換されたC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲン、C3-C6シクロアルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC2-C6アルケニルオキシ基、ハロゲンで置換または無置換のC3-C6アルキニルオキシ基、置換または無置換のベンジルオキシ基、R_(14)COO-、R_(15)R_(16)N-で、R_(5)、R_(6)またはR_(8)が置換または無置換のベンジルオキシ基である場合、前述置換する置換基がC1-C6アルキル基、ハロゲンまたはC1-C6アルコキシ基で、ここで、R_(14)は、H、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基で、R_(15)、R_(16)は、それぞれ独立にH、置換または無置換のC1-C6アルキル基から選ばれ、R_(15)またはR_(16)が置換または無置換のC1-C6アルキル基である場合、前述置換する置換基がC1-C6アルキル基、ハロゲンまたはC1-C6アルコキシ基であり;
R_(7)は、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲンで置換または無置換のC2-C6アルケニルオキシ基、ハロゲンで置換または無置換のC3-C6アルキニルオキシ基であり、
R_(1)は、水素、ヒドロキシ基、ヒドロキシ基で置換されたC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲン、C3-C6シクロアルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC2-C6アルケニルオキシ基、ハロゲンで置換または無置換のC3-C6アルキニルオキシ基、置換または無置換のベンジルオキシ基であり;R_(1)が置換または無置換のベンジルオキシ基である場合、前述置換する置換基がC1-C6アルキル基、ハロゲンまたはC1-C6アルコキシ基であり;
あるいは、R_(1)とR_(2)は、一緒に置換または無置換の5-7員複素環を形成してもよく、前述置換する置換基がハロゲンあるいはハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、C2-C6アルケニル基、またはC2-C6アルキニル基で、前述複素環がN、O、Sから選ばれる1-3個のヘテロ原子を含み;
あるいは、R_(5)、R_(6)、R_(7)、R_(8)のうち、任意の二つの隣接の置換基が一緒に置換または無置換の5-7員複素環を形成してもよく、前述置換する置換基がハロゲンあるいはハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、C2-C6アルケニル基、またはC2-C6アルキニル基で、前述複素環がN、O、Sから選ばれる1-3個のヘテロ原子を含み;
そして、*は、一般式(I)の化合物におけるキラル炭素原子の立体配置は、R型またはS型であることを示す)。」
を、
「一般式(I)で示されるヘキサヒドロジベンゾ[a,g]キノリジン系化合物、またはその薬学的に許容される無機塩または有機塩:

(ただし、前述化合物は、エナンチオマーまたはジアステレオマーであり、
R_(1)は、ヒドロキシ基、または無置換のC1-C6アルコキシ基であり;
R_(2)は、無置換のC1-C6アルコキシ基であり;
R_(3)は、H、またはハロゲンであり;
R_(4)は、Hであり;
R_(5)は、H、ヒドロキシ基、無置換のC1-C6アルコキシ基、またはハロゲンであり;
R_(6)は、H、ヒドロキシ基、無置換のC1-C6アルコキシ基であり;
R_(7)は、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基であり;
R_(8)は、H、ヒドロキシ基、無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲン、またはハロゲンで置換のC1-C6アルキル基であり;
ここで、R_(1)とR_(2)は、一緒に置換または無置換の5員複素環を形成しており、前述置換する置換基がハロゲンであって、前述複素環が2個のOをヘテロ原子として含み;および/または、R_(6)とR_(7)は、一緒に置換または無置換の5員複素環を形成しており、前述置換する置換基がハロゲンであって、前述複素環が2個のOをヘテロ原子として含み;
そして、*は、一般式(I)の化合物におけるキラル炭素原子の立体配置は、R型またはS型であることを示す)。」
とする補正を含んでいる(審決注:補正箇所に下線を付した。)。

2 補正の適否

(1)補正の目的の適否
この補正は、請求項1に係る発明における一般式(I)中のR_(1)?R_(8)について
「R_(2)は、ヒドロキシ基で置換されたC1-C6アルキル基、置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲン、置換または無置換のC1-C6アルキル基、置換または無置換のC2-C6アルケニル基、置換または無置換のC2-C6アルキニル基、置換または無置換のC3-C6シクロアルキル基、置換または無置換のC1-C6アルカノイル基であり、R_(2)が置換または無置換のC1-C6アルキル基、置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、置換または無置換のC2-C6アルケニル基、置換または無置換のC2-C6アルキニル基、あるいは置換または無置換のC3-C6シクロアルキル基である場合、前述置換する置換基がハロゲンであり、R_(2)が置換または無置換のC1-C6アルカノイル基である場合、前述置換する置換基がC1-C6アルキル基、ハロゲン、C1-C6アルコキシ基から選ばれ、
R_(3)は、H、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基またはハロゲンであり;
R_(4)は、Hまたはハロゲンであり;
R_(5)、R_(6)、R_(8)は、それぞれ独立に水素、ヒドロキシ基、ヒドロキシ基で置換されたC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲン、C3-C6シクロアルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC2-C6アルケニルオキシ基、ハロゲンで置換または無置換のC3-C6アルキニルオキシ基、置換または無置換のベンジルオキシ基、R_(14)COO-、R_(15)R_(16)N-で、R_(5)、R_(6)またはR_(8)が置換または無置換のベンジルオキシ基である場合、前述置換する置換基がC1-C6アルキル基、ハロゲンまたはC1-C6アルコキシ基で、ここで、R_(14)は、H、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基で、R_(15)、R_(16)は、それぞれ独立にH、置換または無置換のC1-C6アルキル基から選ばれ、R_(15)またはR_(16)が置換または無置換のC1-C6アルキル基である場合、前述置換する置換基がC1-C6アルキル基、ハロゲンまたはC1-C6アルコキシ基であり;
R_(7)は、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲンで置換または無置換のC2-C6アルケニルオキシ基、ハロゲンで置換または無置換のC3-C6アルキニルオキシ基であり、
R_(1)は、水素、ヒドロキシ基、ヒドロキシ基で置換されたC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲン、C3-C6シクロアルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC2-C6アルケニルオキシ基、ハロゲンで置換または無置換のC3-C6アルキニルオキシ基、置換または無置換のベンジルオキシ基であり;R_(1)が置換または無置換のベンジルオキシ基である場合、前述置換する置換基がC1-C6アルキル基、ハロゲンまたはC1-C6アルコキシ基であり;
あるいは、R_(1)とR_(2)は、一緒に置換または無置換の5-7員複素環を形成してもよく、前述置換する置換基がハロゲンあるいはハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、C2-C6アルケニル基、またはC2-C6アルキニル基で、前述複素環がN、O、Sから選ばれる1-3個のヘテロ原子を含み;
あるいは、R_(5)、R_(6)、R_(7)、R_(8)のうち、任意の二つの隣接の置換基が一緒に置換または無置換の5-7員複素環を形成してもよく、前述置換する置換基がハロゲンあるいはハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、C2-C6アルケニル基、またはC2-C6アルキニル基で、前述複素環がN、O、Sから選ばれる1-3個のヘテロ原子を含み;」
を、
「R_(1)は、ヒドロキシ基、または無置換のC1-C6アルコキシ基であり;
R_(2)は、無置換のC1-C6アルコキシ基であり;
R_(3)は、H、またはハロゲンであり;
R_(4)は、Hであり;
R_(5)は、H、ヒドロキシ基、無置換のC1-C6アルコキシ基、またはハロゲンであり;
R_(6)は、H、ヒドロキシ基、無置換のC1-C6アルコキシ基であり;
R_(7)は、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基であり;
R_(8)は、H、ヒドロキシ基、無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲン、またはハロゲンで置換のC1-C6アルキル基であり;
ここで、R_(1)とR_(2)は、一緒に置換または無置換の5員複素環を形成しており、前述置換する置換基がハロゲンであって、前述複素環が2個のOをヘテロ原子として含み;および/または、R_(6)とR_(7)は、一緒に置換または無置換の5員複素環を形成しており、前述置換する置換基がハロゲンであって、前述複素環が2個のOをヘテロ原子として含み;」
と補正するものであり、R_(1)?R_(8)の選択肢の一部を削除し、限定するものであるから、上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するための事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)そこで、上記補正後の請求項1に記載された特許を受けようとする発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて、以下に検討する。

ア 刊行物
刊行物1:Biochemical Pharmacology,1978年,27(8),p.1113-1116(原審における引用文献27)
刊行物2:日本化学会編,季刊化学総説,No.6,1989,「光学異性体の分離」,p.2,9,16,134,212-213
刊行物3:月刊薬事,29(10),1987,p.23-26
刊行物4:日本化学会編,「化学便覧 応用化学編 第5版」,丸善,平成7年3月15日,p.II-317-II-318
刊行物5:日本化学会編,「分離精製技術ハンドブック」,丸善,平成5年3月25日,p.472-484
刊行物6:「カーク・オスマー化学大辞典」,丸善,昭和63年9月20日,p.63-68

刊行物2?6は、この出願の優先日当時の技術常識を示すために引用するものである。

イ 刊行物の記載事項

(ア)刊行物1:Biochemical Pharmacology,1978年,27(8),p.1113-1116
訳文により示す。
(1a)「一連のアポルフィン及びプロトベルベリンをDA型及びβ型アデニン酸シクラーゼとの活性について試験した。・・・・・・・驚くべきことに、プロトベルベリンはDA-シクラーゼの阻害剤としてかなり強力であり、βシステムにほとんど影響を与えなかった。ほとんどの場合、S-異性体はR-異性体よりはるかに強力であった。試験された化合物のいずれもβ-アゴニスト活性を有さなかった。」(1113頁、要約)
(1b)「ラットの尾状核のドーパミン感受性シクラーゼ及びラット赤血球のβ感受性シクラーゼは、以前に記載されているように調製される[13]。外因的に添加された非標識ATPから37℃で5分間に生成される環状AMPは、Brownら[14]によって説明されたタンパク質結合アッセイによって決定される。
アンタゴニスト活性はIC_(50)として記録され、これは10μMのN-メチルドーパミンによる刺激を50%減少させる濃度を指す。」(1113頁左欄下から11行?最下行)
(1c)「


(1114頁、表2)
(1d)「テトラヒドロプロトベルベリン類似体の阻害活性をTable 2に示す。このシリーズでは立体化学的効果が容易に見られる。化合物7(R)及び7(S)を除いて、S-異性体はDA受容体においてR-異性体よりもはるかに強力である。これらの薬剤のうち5つを除く全てがβ受容体における阻害活性を欠いていた。化合物8、9(S)、10、12及び(S)-カナジンは、β受容体で弱いアンタゴニスト活性を有し、(S)-カナジン以外のすべてが比較的弱いアゴニスト活性を示した(データは示さず)。」 (1115頁左欄24?34行)

(イ)刊行物2:日本化学会編,季刊化学総説,No.6,1989,「光学異性体の分離」,p.2,9,16,134,212-213
(2a)「対掌体の一方が有効な生物活性を示す場合,もう一方の異性体が単にまったく活性を示さないだけでなく,有効な対掌体に対して競合阻害(competitive inhibition)をもたらす結果,ラセミ体の生物活性が有効な対掌体に比べ1/2以下に激減してしまう場合があることは,医薬品の開発研究でしばしば体験するところである.
・・・・・・・・・・・・・・・
したがって,光学的に純粋な対掌体をいかにして入手(合成又は分割)するかは,医薬品のみならず生物活性物質を対象とする研究において,不斉中心をもつ化合物を扱う場合,避けて通ることのできない重要課題である.」(2頁9?15行)
(2b)「生理(薬理)活性をもつ物質が生体に摂取され吸収されると,その物質に特異的な親和性をもつ受容体(receptor)との結合により生理活性が発現することになるので,基質が不斉中心をもっていれば,その(S)体と(R)体とでは生理活性に相違が生ずるのはこれまた自然であろう.医薬品の多くは生体にとって異物(xenobiotics)であり,副作用が認められない場合でも,疾病という異常状態から正常状態への復帰に必要な最少限度の用量を(必要期間だけ)投与されるべきである.したがって,医薬品の構造中に不斉中心が存在している薬物は,たとえ一方の光学異性体が生体に対して何らの生理活性を示さないラセミ体であっても,光学分割して目的に適合した対掌体のみを提供すべきであると主張されるようになった.換言すれば,このようなラセミ体は「50%の不純物を含有する医薬品」とみなすべきであるとの提唱であり,これが共感を呼ぶに至ったのはごく自然のことである^(1))。このような考え方が出てきた背景には,1章のはじめに述べたサリドマイドに関する知見が大きく横たわっていたためと思われる^(2)).」(16頁8?18行)
(2c)「医薬品の起源の多くは動植物であり,これら天然物中の有効成分が不斉炭素を含む場合でも,一方の対掌体が用いられる場合が多い。したがって,天然物中の有効成分(たとえばエイコサノイド,抗生物質,生理活性ペプチド,ステロイドあるいはアルカロイドなど)や微生物二次代謝産物をリード化合物とするドラッグデザインでは,最初から光学活性体のみを対象として設計,合成,開発がなされ,医薬品としては光学活性体が供給されているのが現状である.」(16頁19?23行)
(2d)「液体クロマトグラフィー(LC)による光学分割,なかでもHPLCによる光学分割については,分割能の高い種々のタイプのキラル固定相の開発が進んでおり,最も広範囲の光学異性体の分離に対応できるようになっている.GCによる光学分割と比較すると,熱的に不安定な物質や高沸点の物質の分割においてとくに有利であり,分取も容易である.」(134頁11?14行)
(2e)「医薬品はヒトや動物の病気の治療に用いられる化学物質であるが,その作用は薬物が生体内の特定の受容体(レセプター)に結合して活性を発現するものと考えられている.したがって,薬理活性の発現には医薬品と受容体の双方の立体構造が重要な役割を演じ,不斉をもつ薬物ではその鏡像体によって受容体との結合のしやすさに差があり,これにより薬理活性の強さに差を生じることになる.場合によっては,まったく異なった薬理作用を示すこともある.さらに薬物が受容体に到達するまでに各種の酵素によって分解されて活性を失ったり,逆により活性の強い形に変換される場合もあり,その分解あるいは変換の速さが鏡像体によって大きく異なることがしばしば認められていて,これも薬理活性の差となって現れる.また,分解物が毒性をもつ場合には,鏡像体によって異なった副作用を示すこととなる.」(212頁12?20行)
(2f)「光学異性体間の薬効の差が小さいもの,活性体で投与しても体内でラセミ化されるもの,逆にラセミ体で投与しても体内で活性型の鏡像体に変換されるものなど,薬物代謝にはさまざまな経路があり,不斉をもつ医薬品はすべて光学活性体として使用すべきだとはいえない.現状では上述のような薬物代謝を充分に検討したうえで,ラセミ体で使用するか,光学活性体とするかが決定されている.最近では製造承認を得るために,ラセミ体の薬物については,それぞれの光学異性体の吸収,分布,代謝,排泄など薬物動態を検討した資料の提出が求められている^(2)).」(213頁5?10行)

(ウ)刊行物3:月刊薬事,29(10),1987,p.23-26
(3a)「生体(酵素や受容体)はこれらの光学異性体を識別する能力を持っており,異性体にはまったく生理活性を持たないもの,弱い同類の生理活性を持つもの,拮抗的な生理活性を持つもの(アンタゴニスト)や別な生理活性を持つものがある。
それゆえ,医薬品として用いるときにはラセミ体としてではなく,目的にあったエナンチオマーのみを用いることが好ましいと考えられるが,現状はほとんどがラセミ体として用いられている。たとえば,Mason(1984)によると米国では合成キラル医薬品の82%はラセミ体として投与されている。この原因として,不斉合成や光学異性体の分離は技術的にかなり難しいことがあり,特に大量生産においては分離・精製などの生産コストの問題があげられる。
しかし,最近,医薬品としてラセミ体の開発・使用に関して問題が投げかけられてきた。その背景として,最近の薬物分析技術の進歩,とくに高速液体クロマトグラフィーにおけるキラルカラムの開発などにより,光学異性体の分離・定量の技術が進歩し,その結果,合成キラル医薬品の生体内動態,特に代謝に関して異性体間に著しい差があることが明らかになったことがあげられよう^(1,2))。」(23頁左欄7行?右欄3行)

(エ)刊行物4:日本化学会編,「化学便覧 応用化学編 第5版」,丸善,平成7年3月15日,p.II-317-II-318
(4a)「現在,一般的に行われている光学分割の方法は,次のように大別される.
(1)物理的方法:ラセミ混合物として自然分掌した結晶を機械的に選別する(機械的分離法)か,あるいはどちらか一方のエナンチオマーの種結晶を接種して,接種したほうのエナンチオマーの結晶のみを優先的に晶出させる(優先晶出法).
(2)化学的方法:ラセミ体に別の光学活性体(光学分割剤)を作用させ,生成したジアステレオマーの結晶性や溶解度差などを利用して分割する(ジアステレオマー法).
(3)生化学的方法:生物の消化機能や酵素の不斉加水分解作用など,生体の不斉識別能力を使用して分割する.
(4)クロマトグラフィー法:不斉構造をもつ吸着剤を固定相としたガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分割する.」(II-317頁右欄下から10行?II-318頁左欄5行)

(オ)刊行物5:日本化学会編,「分離精製技術ハンドブック」,丸善,平成5年3月25日,p.472-484
(5a)「なかでも3,5-ジメチルフェニルカルバメートは,分割可能な化合物の種類が多い.図11.37にその例を示す.ヘキサン-2-プロパノ?ルを溶離液として,芳香族炭化水素からアミンやカルボン酸まで分割できる.水素結合,双極子-双極子相互作用以外に芳香環どうしの相互作用も不斉識別に働いていると考えられる.筆者らのところで,このカラムにより493種のラセミ体の分割を行ったが,そのうち227種が完全分割され,86種は裾が一部重なった部分分割であった.この確率(313/493=0.63)は,ほかのキラルカラムによる確率に比べてかなり高い. 」(480頁左欄3?13行)
(5b)「

」 (479頁、図11.37)

(カ)刊行物6:「カーク・オスマー化学大辞典」,丸善,昭和63年9月20日,p.63-68
(6a)「プロトベルベリン系には70種類以上のアルカロイドがあるが、代表的なものはキシロピニン,ベルベリン,カナジン,コリダリンなどである.」(65頁右欄21?24行)

ウ 刊行物に記載された発明
刊行物1は、一連のアポルフィン化合物及びプロトベルベリン化合物について、ドーパミン感受性及びβ感受性アデニル酸シクラーゼに対する活性を検討した文献である(摘示(1a))。表2には、プロトベルベリン化合物の一つである化合物11として、式

において2及び3位がO-CH_(2)-Oであり、9、10及び11位がOCH_(3)である化合物(摘示(1c))が記載されている。当該化合物の不斉中心は、上記式において*が付された13a位のキラル炭素原子一つのみであり、その立体配置は「R,S」(摘示(1c))と記載されることから、当該化合物はR型の鏡像異性体及びS型の鏡像異性体の両方を含む混合物であると認められる(審決注:「鏡像異性体」と「エナンチオマー」は同義であり、以下、本願の特許請求の範囲及び明細書の用語に合わせて「エナンチオマー」ということがある。)。また、当該化合物について、ドーパミン感受性及びβ感受性アデニル酸シクラーゼに対する阻害試験を行ったこと(摘示(1b))が記載され、その結果得られたIC_(50)値(摘示(1c))も具体的に示されている。
そうすると、刊行物1には、
「式

において2及び3位がO-CH_(2)-Oであり、9、10及び11位がOCH_(3)である化合物の、R型の鏡像異性体及びS型の鏡像異性体の混合物」
の発明(以下「引用発明」という。また、上記化合物を「化合物A」、「R型の鏡像異性体」を「R体」、「S型の鏡像異性体」を「S体」という。)が記載されているといえる。

エ 対比・判断

(ア)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
本願補正発明は、上記1に示したとおりであり、一般式(I)で示されるヘキサヒドロジベンゾ[a,g]キノリジン系化合物、又はその薬学的に許容される無機塩若しくは有機塩であって、エナンチオマー(審決注:鏡像異性体である。)又はジアステレオマーであり、上記式中の*で示されるキラル炭素原子の立体配置がR型又はS型である化合物に係るものであると認められる。
ここで、引用発明における化合物Aは、本願補正発明の上記一般式(I)において、R_(1)とR_(2)が一緒にO-CH_(2)-Oを表し、これらが結合する2つの炭素原子と共に5員複素環を形成し、R_(3)、R_(4)及びR_(8)が水素であり、R_(5)、R_(6)及びR_(7)がOCH_(3)である化合物に相当し、本願補正発明におけるR_(1)?R_(8)の定義に合致するものである。
したがって、両者は、
「一般式(I)で示されるヘキサヒドロジベンゾ[a,g]キノリジン系化合物:

(ただし、
R_(1)は、ヒドロキシ基、または無置換のC1-C6アルコキシ基であり;
R_(2)は、無置換のC1-C6アルコキシ基であり;
R_(3)は、H、またはハロゲンであり;
R_(4)は、Hであり;
R_(5)は、H、ヒドロキシ基、無置換のC1-C6アルコキシ基、またはハロゲンであり;
R_(6)は、H、ヒドロキシ基、無置換のC1-C6アルコキシ基であり;
R_(7)は、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基であり;
R_(8)は、H、ヒドロキシ基、無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲン、またはハロゲンで置換のC1-C6アルキル基であり;
ここで、R_(1)とR_(2)は、一緒に置換または無置換の5員複素環を形成しており、前述置換する置換基がハロゲンであって、前述複素環が2個のOをヘテロ原子として含み;および/または、R_(6)とR_(7)は、一緒に置換または無置換の5員複素環を形成しており、前述置換する置換基がハロゲンであって、前述複素環が2個のOをヘテロ原子として含む;)」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本願補正発明は、上記化合物について、エナンチオマー又はジアステレオマーであって、*で示されるキラル炭素原子の立体構造がR型又はS型であることが特定されているのに対し、引用発明は、その化合物が、R体及びS体の混合物である点

(イ)相違点についての検討

a 化合物AのR体又はS体とすることの動機付けについて
刊行物2には、対掌体(審決注:「鏡像異性体」、「エナンチオマー」、「光学異性体」、「光学活性体」と呼ばれることがあるが、以下、原文をそのまま摘記する場合を除き、「鏡像異性体」と言い換える。)には、その一方のみに生物活性があり、他方には全くない場合や活性に差がある場合があること(摘示(2a)(2e))、たとえ一方の鏡像異性体が何ら生理活性を示さないラセミ体でも光学分割して目的の鏡像異性体のみを提供すべきとなってきたこと(摘示(2b))、医薬品の製造承認にあたっては、ラセミ体の薬物については、それぞれの鏡像異性体の薬物動態を検討した資料の提出が求められていること(摘示(2f))が記載されている。
刊行物3には、鏡像異性体には全く生理活性を持たない場合や弱い生理活性を有する場合、アンタゴニストや別な生理活性を持つ場合があること、及び、最近の薬物分析技術の進歩、特に高速液体クロマトグラフィーにおけるキラルカラムの開発などにより、鏡像異性体の分離・定量の技術が進歩し、その結果、合成キラル医薬品の生体内動態、特に代謝に関して異性体間に著しい差があることが明らかになったこと(摘示(3a))が記載されている。
これらのことから、鏡像異性体がある医薬化合物では、ラセミ体だけではなくそれぞれの鏡像異性体を分割して取得し、その生理活性や薬物動態を確認して優れた鏡像異性体を使用することが、本件優先日時点での当業者の技術常識となっていたものと認められる。
そして、刊行物1では、化合物AのR体及びS体の混合物(化合物11)と並んで、カナジンをはじめとする6種類のプロトベルベリン化合物のR体又はS体の鏡像異性体についても、ドーパミン感受性及びβ感受性アデニル酸シクラーゼに対する阻害活性が検討されている(摘示(1c))。その結果、たとえば上記6種類中5種類のプロトベルベリン化合物について、S体がR体よりドーパミン受容体において強力であること(摘示(1d))が記載されており、実際にプロトベルベリン化合物においても鏡像異性体間でその活性が異なることが理解できる。
また、刊行物6の摘示(6a)に記載のとおり、上記カナジンはプロトベルベリン系アルカロイドの代表的なものであり、カナジンと11位の置換基のみが相違する化合物Aはアルカロイド類似体であると認められるところ、刊行物2には、アルカロイドのような天然物中の有効成分をリード化合物とする場合には、鏡像異性体が開発の対象とされ、医薬品として供給されているのが現状であること(摘示(2c))が記載されているから、本願優先日時点において、アルカロイド類似体は鏡像異性体とすることがむしろ自然であったともいえる。
そうすると、刊行物1において、R体及びS体の混合物として用いられる化合物Aには、R体又はS体を分割して得ようとする動機付けが存在するものと認められる。

b 化合物AのR体又はS体を得る手段の容易想到性について
刊行物4には、光学分割の一般的な手法として、ジアステレオマー法、ガスクロマトグラフィー法、及び高速液体クロマトグラフィー法等の様々な手法があること(摘示(4a))が記載されている。
刊行物2には、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)による光学分割について、分割能の高い種々のタイプのキラル固定相の開発が進み、広範囲の鏡像異性体の分離に対応できるようになったこと(摘示(2d))が記載され、刊行物3にも、高速液体クロマトグラフィーにおけるキラルカラムの開発により鏡像異性体の分離・定量の技術が進歩したこと(摘示(3a))が記載されている。
刊行物5には、セルロースの3,5-ジメチルフェニル誘導体を用いたキラルカラムは光学分割可能な化合物の種類が多く、当該カラムによって光学分割できるアミン化合物には、化合物Aと類似の化学構造を有するプロトベルベリン化合物である2,3,9,10-テトラメトキシ-5,8,13,13a-テトラヒドロ-6H-ジベンゾ[a,g]キノリジンも含まれること(摘示(5a)(5b))が記載されている。
以上のことから、本願優先日時点において、医薬化合物の鏡像異性体を取得するにあたり、液体クロマトグラフィー法及びジアステレオマー法といった各種手法が一般的に行われており、なかでも液体クロマトグラフィー法は分割能が高く、広範囲の鏡像異性体に対応できる優れた手法であって、キラルカラムにセルロースの3,5-ジメチルフェニル誘導体を用いた場合には、上記のプロトベルベリン化合物も光学分割できる方法として広く当業者に認識されていたものといえる。
そうすると、刊行物1に記載された化合物AのR体及びS体の混合物についても、上記の液体クロマトグラフィー法をはじめとする周知の手法を採用し、R体又はS体を別々に取得することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

(ウ)発明の効果について

a 化合物AのR体について
本願明細書には、S体又はラセミ体である特定の実施例化合物について、表1にドーパミンD_(1)、D_(2)受容体に対する親和力の測定結果が、表2にD_(2)受容体に対する拮抗作用特性の測定結果が、表3にセロトニン受容体に対する親和力の測定結果が、表4?8に薬物動態学試験の研究結果がそれぞれ記載されている。この中で、実施例17は、段落【0089】に「実施例17:S-(-)-2,3-メチレンジオキシ-9,10,11-ジメトキシ-5,8,13,13a-テトラヒドロ-6H-ジベンゾ[a, g]キノリジン(DC037016)」と記載され、段落【0026】には、DC037016の構造式として、

と記載されている。両者は一見一致しないが、前者の化学名中の「9,10,11-ジメトキシ」なる記載は化学的に適切でなく、上記構造式を合わせみれば「9,10,11-トリメトキシ」の誤記であると認められることから、実施例17の化合物は化合物AのS体に相当するものといえる。当該化合物については、表1にドーパミンD_(1)、D_(2)受容体に対する親和力の測定結果が示されるにとどまり、その他の試験結果は示されていない。また、化合物AのR体やラセミ体に相当する実施例やその試験結果は見当たらない。
そして、上記(イ)aに記載したとおり、医薬化合物において、鏡像異性体間で生理活性や薬物動態が大きく異なる場合があることは、本願優先日における技術常識であり、このような立体構造のみならず、環上の置換基のような化学構造の差異が生理活性や薬物動態に大きく影響することも、本願優先日において広く認識されていることである。さらに、上記表1には、ドーパミンD_(1)、D_(2)受容体の両方に親和性を有しないか非常に低い結果を示すラセミ化合物DC037009が存在することも勘案すれば、上記試験のいずれにおいても、化合物AのR体が、化合物AのS体を含む上記実施例化合物と同様の活性や挙動を示すものと解する根拠は見いだせない。
したがって、化合物AのR体が、当業者の予測を超える顕著な効果を奏するものとすることはできない。


b 化合物AのS体について
化合物AのS体については、上記aで述べたとおり、ドーパミンD_(1)、D_(2)受容体に対する親和力の測定結果が示されるにとどまり、限られた上記実施例化合物の試験結果から、セロトニン受容体に対する親和力等の活性や薬物動態を当業者が推認できるものとはいえない。仮に当該化合物がセロトニン受容体に対する親和力を有するとしても、S体のプロトベルベリン化合物であるl-ステフォリジン(l-Stepholidine)がセロトニン受容体に対する親和力を有することは本願優先日前に公知のものであること(Synapse,2011年,65,p.379-387,特にp.382の右欄6?8行)からみれば、それが直ちに当業者の予想を超えるとまではいえない。
また、具体的に示されるドーパミンD_(1)、D_(2)受容体に対する親和力の測定結果についても、刊行物1には、化合物AのR体及びS体の混合物がドーパミン感受性アデニル酸シクラーゼ阻害活性、すなわちドーパミン受容体アンタゴニスト活性を有すること、及び、試験した大半のプロトベルベリン化合物において、S体がR体よりドーパミン受容体において強力であること(摘示(1c)(1d))が記載されることに照らして、化合物AのS体がドーパミンD_(1)、D_(2)受容体に対する親和力を有することが予想外とはいえない。さらに、たとえばD_(1)受容体作動活性が具体的に裏付けられてもいないところ、当該親和力を有するというだけでは、当業者の予測を超える顕著な効果を奏するものということもできない。
したがって、化合物AのS体についても、当業者の予測を超える顕著な効果を奏するものとすることはできない。

なお、意見書及び審判請求書において提示される試験結果はいずれも、上記表1及び3の一部の抜粋又は上記表1中の数値から算出した数値に関するものであり、上記で検討した本願明細書の記載の域を出るものではない。

オ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
したがって、請求項1についての補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明
平成28年6月16日付けの手続補正は上記第2に記載されたとおり却下されたので、この出願の発明は、平成27年9月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「一般式(I)で示されるヘキサヒドロジベンゾ[a,g]キノリジン系化合物、またはその薬学的に許容される無機塩または有機塩:

(ただし、前述化合物は、エナンチオマーまたはジアステレオマーであり、
R_(2)は、ヒドロキシ基で置換されたC1-C6アルキル基、置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲン、置換または無置換のC1-C6アルキル基、置換または無置換のC2-C6アルケニル基、置換または無置換のC2-C6アルキニル基、置換または無置換のC3-C6シクロアルキル基、置換または無置換のC1-C6アルカノイル基であり、R_(2)が置換または無置換のC1-C6アルキル基、置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、置換または無置換のC2-C6アルケニル基、置換または無置換のC2-C6アルキニル基、あるいは置換または無置換のC3-C6シクロアルキル基である場合、前述置換する置換基がハロゲンであり、R_(2)が置換または無置換のC1-C6アルカノイル基である場合、前述置換する置換基がC1-C6アルキル基、ハロゲン、C1-C6アルコキシ基から選ばれ、
R_(3)は、H、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基またはハロゲンであり;
R_(4)は、Hまたはハロゲンであり;
R_(5)、R_(6)、R_(8)は、それぞれ独立に水素、ヒドロキシ基、ヒドロキシ基で置換されたC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲン、C3-C6シクロアルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC2-C6アルケニルオキシ基、ハロゲンで置換または無置換のC3-C6アルキニルオキシ基、置換または無置換のベンジルオキシ基、R_(14)COO-、R_(15)R_(16)N-で、R_(5)、R_(6)またはR_(8)が置換または無置換のベンジルオキシ基である場合、前述置換する置換基がC1-C6アルキル基、ハロゲンまたはC1-C6アルコキシ基で、ここで、R_(14)は、H、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基で、R_(15)、R_(16)は、それぞれ独立にH、置換または無置換のC1-C6アルキル基から選ばれ、R_(15)またはR_(16)が置換または無置換のC1-C6アルキル基である場合、前述置換する置換基がC1-C6アルキル基、ハロゲンまたはC1-C6アルコキシ基であり;
R_(7)は、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲンで置換または無置換のC2-C6アルケニルオキシ基、ハロゲンで置換または無置換のC3-C6アルキニルオキシ基であり、
R_(1)は、水素、ヒドロキシ基、ヒドロキシ基で置換されたC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルコキシ基、ハロゲン、C3-C6シクロアルキル基、ハロゲンで置換または無置換のC2-C6アルケニルオキシ基、ハロゲンで置換または無置換のC3-C6アルキニルオキシ基、置換または無置換のベンジルオキシ基であり;R_(1)が置換または無置換のベンジルオキシ基である場合、前述置換する置換基がC1-C6アルキル基、ハロゲンまたはC1-C6アルコキシ基であり;
あるいは、R_(1)とR_(2)は、一緒に置換または無置換の5-7員複素環を形成してもよく、前述置換する置換基がハロゲンあるいはハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、C2-C6アルケニル基、またはC2-C6アルキニル基で、前述複素環がN、O、Sから選ばれる1-3個のヘテロ原子を含み;
あるいは、R_(5)、R_(6)、R_(7)、R_(8)のうち、任意の二つの隣接の置換基が一緒に置換または無置換の5-7員複素環を形成してもよく、前述置換する置換基がハロゲンあるいはハロゲンで置換または無置換のC1-C6アルキル基、C2-C6アルケニル基、またはC2-C6アルキニル基で、前述複素環がN、O、Sから選ばれる1-3個のヘテロ原子を含み;
そして、*は、一般式(I)の化合物におけるキラル炭素原子の立体配置は、R型またはS型であることを示す)。」

第4 原査定の理由
原査定の理由である平成27年3月19日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由は、理由2であり、その概要は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に・・・頒布された下記の刊行物に記載された発明・・・に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」というものであり、その「下記の刊行物」には、引用文献27としてBiochemical Pharmacology,1978年,27(8),p.1113-1116(上記第2の2(2)アの刊行物1と同じ。以下「刊行物1」という。)が含まれる。その「下記の請求項」は、請求項1?35である。
そして、拒絶査定は、本願発明が、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることを、その理由に含むものである。

第5 当審の判断

1 刊行物、刊行物の記載事項、刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、その記載事項及び刊行物1に記載された発明は、上記第2の2(2)ア、イ及びウに記載したとおりである。また、技術常識を示す刊行物2?6及びその記載事項は、上記第2の2(2)ア及びイに記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は、上記第2の2(1)で検討したとおり、上記第2の2(2)で検討した本願補正発明において、R_(1)?R_(8)の選択肢が単に増えたものである。
そうすると、本願補正発明が上記第2の2(2)に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 まとめ
したがって、本願発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-23 
結審通知日 2017-05-24 
審決日 2017-06-06 
出願番号 特願2014-513038(P2014-513038)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上村 直子安孫子 由美  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 榎本 佳予子
冨永 保
発明の名称 ヘキサヒドロジベンゾ[a,g]キノリジン系化合物、その製造方法、医薬品組成物およびその応用  
代理人 葛和 清司  

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