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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1333899
審判番号 不服2016-692  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-15 
確定日 2017-10-26 
事件の表示 特願2011-165182「乳化形化粧料」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 7日出願公開、特開2013- 28556〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年7月28日の出願であって、平成27年1月27日付けで拒絶理由が通知され、同年4月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月27日付けで拒絶査定されたのに対し、平成28年1月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年1月15日付け手続補正について
1 補正の内容
平成28年1月15日付け手続補正により、特許請求の範囲は、
補正前の
「【請求項1】
以下の(a)?(c):
(a)一般式(I)で示される片末端に(メタ)アクリル構造を有するジメチルポリシロキサンと(メタ)アクリレートとを共重合させてなるアクリル-シリコーン系グラフト共重合体で被覆された顔料
(b)A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤
(c)B領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤
を含有し、
前記A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤の含有量は、組成物全量に対し、0.1?3.0質量%であることを特徴とする乳化形化粧料。
【化1】

(式中、R^(1)はメチル基又は水素原子を示し、R^(2)はエーテル結合1個又は2個で遮断されていてもよい直鎖状または分岐鎖状の炭素鎖を有する炭素数1?10の飽和炭化水素基を示し、nは3?300の数を示す。)
【請求項2】
前記B領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤の含有量は、組成物全量に対し、0.5?7.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の乳化形化粧料。
【請求項3】
前記A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤がジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル及び/又はt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乳化形化粧料。
【請求項4】
前記B領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤がパラメトキシ桂皮酸2-エチルヘキシル-、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸2-エチルヘキシル、ジメチコジエチルベンザルマロネート、2,4,6-トリアニリノ-p-(カルボ-2´-エチルヘキシル-1´-オキシ)-1,3,5-トリアジンからなる群から選択される一種または二種以上であることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の乳化形化粧料。」
から
「【請求項1】
以下の(a)?(c):
(a)一般式(I)で示される片末端に(メタ)アクリル構造を有するジメチルポリシロキサンと(メタ)アクリレートとを共重合させてなるアクリル-シリコーン系グラフト共重合体で被覆された顔料
(b)A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤
(c)B領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤
を含有し、
前記A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤がジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル及び/又はt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンであり、
前記A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤の含有量は、組成物全量に対し、0.1?3.0質量%であることを特徴とする乳化形化粧料。
【化1】

(式中、R1はメチル基又は水素原子を示し、R2はエーテル結合1個又は2個で遮断されていてもよい直鎖状または分岐鎖状の炭素鎖を有する炭素数1?10の飽和炭化水素基を示し、nは3?300の数を示す。)
【請求項2】
前記B領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤の含有量は、組成物全量に対し、0.5?7.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の乳化形化粧料。
【請求項3】
前記B領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤がパラメトキシ桂皮酸2-エチルヘキシル、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸2-エチルヘキシル、ジメチコジエチルベンザルマロネート、2,4,6-トリアニリノ-p-(カルボ-2´-エチルヘキシル-1´-オキシ)-1,3,5-トリアジンからなる群から選択される一種または二種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の乳化形化粧料。」
と補正された。(審決注:平成28年1月15日付け手続補正書の請求項1の記載中、「R1」とあるのは「R^(1)」、「R2]とあるのは「R^(2)」の誤記と認める。以下同じ。)

2 補正の目的等
請求人は
「補正前の請求項3に係る発明を新たに請求項1に係る発明とした。これに伴い、従属形式を独立形式に書き換える補正、従属関係の補正を行った。本補正は、請求項1及び2の削除を目的とするものであるから、本補正は特許法第17条の2第5項の要件を満たす適法なものである。」(審判請求書「3.(1)(1-2)」)
と主張しているので、これを踏まえて検討するに、上記1の補正は、補正前後の請求項1の対比からみて、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとみることができるが、他方で、補正前の請求項3において請求項1を引用する場合を独立形式に書き下したものと、補正後の請求項1との間に差違はない。
よって、上記1の補正は、請求人の主張に沿って、請求項の削除を目的とするものと判断される。また、上記1の補正は、いわゆる新規事項を追加するものではない。
したがって、上記1の補正を認容する。

第3 本願発明
上記「第2 2」のとおりであるから、本願の請求項1?3に係る発明は、平成28年1月15日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1は以下のとおりである(以下、「本願発明」という)。

「以下の(a)?(c):
(a)一般式(I)で示される片末端に(メタ)アクリル構造を有するジメチルポリシロキサンと(メタ)アクリレートとを共重合させてなるアクリル-シリコーン系グラフト共重合体で被覆された顔料
(b)A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤
(c)B領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤
を含有し、
前記A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤がジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル及び/又はt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンであり、
前記A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤の含有量は、組成物全量に対し、0.1?3.0質量%であることを特徴とする乳化形化粧料。
【化1】

(式中、R1はメチル基又は水素原子を示し、R2はエーテル結合1個又は2個で遮断されていてもよい直鎖状または分岐鎖状の炭素鎖を有する炭素数1?10の飽和炭化水素基を示し、nは3?300の数を示す。)」

第4 刊行物の記載事項
1 原審における拒絶の理由に引用文献4として引用された本願出願日前に頒布された刊行物である、特開2002-255746号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】 分子鎖の片末端にラジカル重合性基を有するオルガノポリシロキサン化合物と炭素数12?30のアルキル(メタ)アクリレートを主体とするラジカル重合性モノマーとを共重合して得られるアクリル-シリコーン系グラフト共重合体で表面被覆した粉体。
【請求項2】 請求項1記載の表面被覆した粉体を含有する化粧料。」

(1b)「【0019】本発明の化粧料には、上記成分の他、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、油剤、界面活性剤、ベンゾフェノン系,PABA系,桂皮酸系,サリチル酸系,4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン,オキシベンゾン等の紫外線吸収剤、グリセリン,タンパク質,ムコ多糖,コラーゲン,エラスチン等の保湿剤、α-トコフェロール,アスコルビン酸等の酸化防止剤、ビタミン類,消炎剤,生薬等の美容成分、パラオキシ安息香酸エステル,フェノキシエタノール等の防腐剤、トリメチルメトキシケイ酸,アクリル変性シリコーン等の被膜形成剤、メチルセルロース,ヒドロキシメチルセルロース,カルボキシビニルポリマー,アルキル変性カルボキシビニルポリマー,キサンタンガム,カラギーナン,グアーガム,寒天,ペクチン等の水溶性高分子、水、香料等を適宜配合することができる。」

(1c)「【0023】合成例1:アクリル-シリコーン系グラフト共重合体
下記一般式(2)で示される片末端メタクリレート置換ジメチルポリシロキサン50g、メチルメタクリレート10g、ステアリルメタクリレート40g、トルエン100gを混合し、続いてアゾビスイソブチロニトリル1.5gを添加、溶解させた後、攪拌下に80?90℃の温度範囲内で5時間反応させ、粘ちょうな溶液を得た。この溶液をメタノール中に注ぎ込み、グラフトポリマーを沈殿析出せしめた。この沈殿物を濾別し、乾燥させてアクリル-シリコーン系グラフト共重合体を得た。
【0024】
【化2】



(1d)「【0027】次に、表面被覆粉体の製造例を示す。
実施例1:アクリル-シリコーン系グラフト共重合体表面被覆セリサイト
合成例1のアクリル-シリコーン系グラフト共重合体5gをイソプロピルアルコール100gに溶解し、セリサイト(サンシンセリサイトFSE:三信鉱業社製)95gを添加し、混合分散する。その後、この分散液を100℃に加熱しながら、イソプロピルアルコールを減圧除去する。次いで、得られた粉体を粉砕して、アクリル-シリコーン系グラフト共重合体表面被覆セリサイトを得た。」

(1e)「【0044】
実施例10:油中水型固形状ファンデーション
(成分) (質量%)
1.表面被覆酸化チタン(注8) 10
2.ベンガラ 0.5
3.黄酸化鉄 1.5
4.黒酸化鉄 0.1
5.球状シリカ(平均粒径6μm) 5
6.デカメチルシクロペンタシロキサン 30
7.オクタメチルシクロテトラシロキサン 10
8.ジメチルポリシロキサン(注9) 0.5
9.セレシンワックス 5
10.マイクロクリスタリンワックス 1
11.POA変性シリコーン(注10) 3
12.POA変性シリコーン(注11) 1
13.精製水 残量
14.キサンタンガム 0.5
15.塩化ナトリウム 0.2
16.1,3-ブチレングリコール 10
(注8)実施例1のセリサイトを酸化チタンに代えて、同様に調製した。
(注9)シリコンKF96(6cs)(信越化学工業社製)
(注10)シリコンKF6017(信越化学工業社製)
(注11)シリコンKF6015(信越化学工業社製)」

(1f)「【0046】
実施例11:水中油型液状ファンデーション
(成分) (質量%)
1.表面被覆酸化チタン(注8) 10
2.ベンガラ 0.5
3.黄酸化鉄 1.5
4.黒酸化鉄 0.1
5.表面被覆タルク(注12) 5
6.ステアリン酸 1.5
7.セタノール 0.8
8.モノステアリン酸グリセリル 0.8
9.パラメトキシ桂皮酸2-エチルヘキシル 2
10.ジメチルポリシロキサン(注9) 2
11.POA変性シリコーン(注13) 1
12.セスキオレイン酸ソルビタン 0.5
13.精製水 残量
14.アルキル変性カルボキシビニルポリマー(注14) 0.2
15.カルボキシビニルポリマー 0.1
16.ジプロピレングリコール 10
17.トリエタノールアミン 1.5
(注12)実施例1のセリサイトをタルク(平均粒径5μm)に代えて、同様に調製した。
(注13)シリコンKF6011(信越化学工業社製)
(注14)カーボポール1342(グッドリッチ社製)
【0047】(製造方法)
A:成分6?12を加温溶解し、混合する。
B:Aに成分1?5を添加し、均一分散後、70℃に加温する。
C:成分13?17を均一分散し、70℃に加温する。
D:BにCを添加して、乳化する。
E:Dを冷却後、容器に充填して、水中油型液状ファンデーションを得た。
実施例11は、滑らかな伸び広がり性、肌への付着性、肌負担感の無さ、化粧持続性の各項目に優れ、しかも経時安定性の良好な水中油型液状ファンデーションであった。」

刊行物1は、特定のアクリル-シリコーン系グラフト共重合体で表面被覆した粉体を含有する化粧料に関する技術を開示するもの(上記(1a))であり、実施例11(上記(1f))には、滑らかな伸び広がり性、肌への付着性、肌負担感の無さ、化粧持続性の各項目に優れ、しかも経時安定性の良好な水中油型液状ファンデーションが記載されている。
そして、その成分の「表面被覆酸化チタン(注8)」についてみると、実施例10(上記(1e))に「(注8)実施例1のセリサイトを酸化チタンに代えて、同様に調製した。」とあり、実施例1(上記(1d))には「実施例1:アクリル-シリコーン系グラフト共重合体表面被覆セリサイト」として、「合成例1のアクリル-シリコーン系グラフト共重合体5gをイソプロピルアルコール100gに溶解し、セリサイト(……)95gを添加し、混合分散する。その後、この分散液を100℃に加熱しながら、イソプロピルアルコールを減圧除去する。次いで、得られた粉体を粉砕して、アクリル-シリコーン系グラフト共重合体表面被覆セリサイトを得た。」と記載され、合成例1(上記(1c))には「下記一般式(2)で示される片末端メタクリレート置換ジメチルポリシロキサン50g、メチルメタクリレート10g、ステアリルメタクリレート40g、トルエン100gを混合し、続いてアゾビスイソブチロニトリル1.5gを添加、溶解させた後、攪拌下に80?90℃の温度範囲内で5時間反応させ、粘ちょうな溶液を得た。この溶液をメタノール中に注ぎ込み、グラフトポリマーを沈殿析出せしめた。この沈殿物を濾別し、乾燥させてアクリル-シリコーン系グラフト共重合体を得た。」と記載されていることから、「表面被覆酸化チタン(注8)」とは、「下記一般式(2)で示される片末端メタクリレート置換ジメチルポリシロキサンを、メチルメタクリレート及びステアリルメタクリレートと反応させて得たアクリル-シリコーン系グラフト共重合体で表面被覆して得た酸化チタン」であるということができる。
同様に、「表面被覆タルク(注12)」についても、「(注12)実施例1のセリサイトをタルク(平均粒径5μm)に代えて、同様に調製した。」(上記(1f))ものであるから、「下記一般式(2)で示される片末端メタクリレート置換ジメチルポリシロキサンを、メチルメタクリレート及びステアリルメタクリレートと反応させて得たアクリル-シリコーン系グラフト共重合体で表面被覆して得たタルク」であるということができる。

以上を総合すると、刊行物1には、次のとおりの発明が記載されていると認めることができる。
「以下の成分からなる、滑らかな伸び広がり性、肌への付着性、肌負担感の無さ、化粧持続性の各項目に優れ、経時安定性の良好な水中油型液状ファンデーション。
(成分) (質量%)
1.表面被覆酸化チタン 10
2.ベンガラ 0.5
3.黄酸化鉄 1.5
4.黒酸化鉄 0.1
5.表面被覆タルク 5
6.ステアリン酸 1.5
7.セタノール 0.8
8.モノステアリン酸グリセリル 0.8
9.パラメトキシ桂皮酸2-エチルヘキシル 2
10.ジメチルポリシロキサン(注9) 2
11.POA変性シリコーン(注13) 1
12.セスキオレイン酸ソルビタン 0.5
13.精製水 残量
14.アルキル変性カルボキシビニルポリマー(注14) 0.2
15.カルボキシビニルポリマー 0.1
16.ジプロピレングリコール 10
17.トリエタノールアミン 1.5
(ここで、上記表面被覆酸化チタン及び表面被覆タルクは、下記式(2)で示される片末端メタクリレート置換ジメチルポリシロキサンを、メチルメタクリレート及びステアリルメタクリレートと反応させて得たアクリル-シリコーン系グラフト共重合体で表面被覆したものである。

)
(注9)シリコンKF96(6cs)(信越化学工業社製)
(注13)シリコンKF6011(信越化学工業社製)
(注14)カーボポール1342(グッドリッチ社製)。」(以下、「引用発明1」という。)

2 同じく、原審における拒絶の理由に引用文献6(周知技術を示す文献)として引用された本願出願日前に頒布された刊行物である、特表2010-501515号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2a)「【0003】
皮膚に対する紫外線の有害作用を防止し、および/または皮膚をこの有害作用から保護する各種の化粧品が報告されている。また、有害な紫外線Aを吸収できる多数の有機日焼け止め剤が化粧品の分野で報告されているが、なかでも特に有利な有機日焼け止め剤はジベンゾイルメタンとこの誘導体である。これは、これら日焼け止め剤が固有の高い吸光力を示しているからである。一方、p-メトキシケイ皮酸とこの誘導体は非常に有効な紫外線B日焼け止め剤であるので、広く使用されている。化粧用組成物は、紫外線の全領域にわたって保護するように、紫外線AとBの日焼け止め剤の両者を含有することが不可欠である。」

(2b)「【0013】
ジベンゾイルメタンまたはこの誘導体は、組成物の好ましくは0.1から5重量%存在し、より好ましくは0.1から2重量%存在する。」

(2c)「【0048】
【表1】



3 同じく、原審における拒絶の理由に引用文献7(周知技術を示す文献)として引用された本願出願日前に頒布された刊行物である、特開2007-204476号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
(3a)「【0006】
紫外線に対して皮膚及びケラチン物質の保護を提供する目的で、UV-A領域で活性である有機スクリーニング剤と、UV-B領域で活性である有機スクリーニング剤とを含む抗日光組成物の使用が一般的に実施されている。
【0007】
この点では、UV-Bスクリーニング剤の特に有利なファミリーは、現在ではケイ皮酸エステル、特に2-エチルヘキシルパラ-メトキシシンナメートからなり、これはこれらが高い基礎吸収を示すためである。UV-B領域で活性であるスクリーニング剤としてそれ自体周知の製品であるこれらのケイ皮酸エステル誘導体は、仏国特許出願FR-A-2 315 908に特に開示されている;更に、2-エチルヘキシルパラ-メトキシシンナメートは、DSM社により商標名"Parsol MCX"により現在市販されている。
【0008】
更にこの点では、UV-Aスクリーニング剤の特に有利なファミリーは、現在ではジベンゾイルメタン誘導体、特に4-(tert-ブチル)-4'-メトキシジベンゾイルメタンからなり、これはこれらが高い基礎吸収を示すためである。UV-A領域で活性であるスクリーニング剤としてそれ自体周知の製品であるこれらのジベンゾイルメタン誘導体は、仏国特許出願FR-A-2 326 405及びFR-A-2 440 933、並びに欧州特許出願EP-A-0 114 607に特に開示されている;更に、4-(tert-ブチル)-4'-メトキシジベンゾイルメタンは、DSM社により商標名"Parsol 1789"により現在市販されている。」

(3b)「【0121】
組成物実施例8?10
【表1】



4 また、原審における拒絶理由の通知において引用文献1として引用された本願出願日前に頒布された刊行物である、特開平10-251123号公報(以下、「刊行物4」という。)には、次の事項が記載されている。
(4a)「【0004】
【課題を解決するための手段】上記事情に鑑み、本発明者等は鋭意研究の結果、特定の粒径及び粒度分布を有する酸化チタン粉末を処理剤で表面処理することにより、優れた性質を有する新規表面処理酸化チタン粉末が得られ、また、それを配合することによって、耐水性・耐油性が良好で、化粧崩れが少なく、化粧効果の持続性並びに安定性に優れた化粧料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、一次粒径が0.1?14μmであり、且つ(D90-D10)/D50〔但し、D90、D10及びD50は、それぞれ、粒度分布の積算値が90%、10%及び50%に相当する粒径である。〕で定義されるスパンが2以下であり、且つ表面処理剤で処理された酸化チタン粉末(本明細書では、表面処理剤で処理された酸化チタン粉末を表面処理酸化チタン粉末と称すことがある。)、及びそれを含有する化粧料である。この化粧料は、耐水性や耐油性に優れ、化粧崩れし難く、化粧持続性が良好で、かつ製品安定性に優れている。」

(4b)「【0012】……(以下、重量%を単に%と記す)、………」

(4c)「【0050】製造例4 アクリル-シリコーン系グラフト共重合体処理単結晶酸化チタン粉末の製造例
酢酸エチル400mlにアクリル-シリコーン系グラフト共重合体(シリコンKP-540;信越化学工業社製)180gと製造例1の単結晶酸化チタン粉末300gを添加して充分混合する。これを高剪断下、加温して溶媒を除去し、アクリル-シリコーン系グラフト共重合体処理単結晶酸化チタン粉末を得た。」

(4d)「【0051】製造例5 有機シリコーン処理単結晶酸化チタン粉末の製造例
有機シリコーン化合物(シリコンKF-7312J;信越化学工業社製)20gと製造例1の単結晶酸化チタン400gを2-プロパノール400mlに添加混合してスラリー状とする。これを撹拌しながら減圧乾燥し、2-プロパノールを除去する。冷却後、ボールミルにて粉砕し、有機シリコーン処理単結晶酸化チタン粉末を得た。」

(4e)「【0089】
実施例11 日焼け止め化粧料
(成分) (%)
1.表面処理単結晶酸化チタン(製造例4) 10.0
2.表面処理単結晶酸化チタン(製造例5) 10.0
3.デカメチルシクロペンタシロキサン 20.0
4.ジカプリン酸ネオペンチルグリコール 5.0
5.パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル 10.0
6.4-tert-ブチル-4‘-メトキシジベンゾイルメタン 5.0
7.ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 3.0
8.香料 適量
9.エタノール 5.0
10.美容成分 適量
11.精製水 残量
【0090】(製造方法)
A:成分1?8をホモミキサーにて分散混合する。
B:Aに成分9?11の混合溶解物を添加して乳化混合し、日焼け止め化粧料を得た。
得られた日焼け止め化粧料は、高い紫外線遮断効果を有しながら白さが目立たず、伸び・広がりなどの使用性も良好で、汗などにも強い日焼け止め化粧料であった。」

(4f)「【0091】
【発明の効果】本発明の表面処理酸化チタンは、特定範囲の粒径と粒度分布を有するため分散性に優れ、また表面処理によって撥水性、耐水性、撥油性、耐油性を有するので、化粧品用の素材にきわめて有用であり、これを配合した化粧料は、使用性が良好で、化粧崩れが少なく、化粧効果持続性に優れたものである。また、酸化チタンが特定の粒度分布を有するため、この酸化チタンに表面処理を施す際に微粉末に起因する凝集物や粗大粒子に起因する未処理粒子の発生が低減され、表面処理効果が向上すると共に均一に表面処理された酸化チタン粉末を得ることができる。更に、上記特性を有する表面処理酸化チタン粉末を配合した化粧料は、均一な化粧膜、良好な使用感を有し、表面処理効果が充分に発揮されるため耐水性や耐油性が向上し、化粧効果の持続性に優れている。」

刊行物4は、表面処理酸化チタン粉末を含有する、耐水性や耐油性に優れ、化粧崩れし難く、化粧持続性が良好な化粧料に関する技術を開示するもの(上記(4a))であり、実施例11(上記(4e))には、日焼け止め化粧料が記載されている。
そして、その成分の「表面処理単結晶酸化チタン(製造例4)」についてみると、製造例4(上記(4c))に「アクリル-シリコーン系グラフト共重合体(シリコンKP-540;信越化学工業社製)180gと製造例1の単結晶酸化チタン粉末300gを添加して充分混合する。これを高剪断下、加温して溶媒を除去し、アクリル-シリコーン系グラフト共重合体処理単結晶酸化チタン粉末を得た。」とあり、「表面処理単結晶酸化チタン(製造例4)」とは、アクリル-シリコーン系グラフト共重合体(シリコンKP-540;信越化学工業社製)表面処理単結晶酸化チタンであるということができる。
また、「表面処理単結晶酸化チタン(製造例5)」は、製造例5(上記(4d))より「有機シリコーン処理単結晶酸化チタン」である。
そして、実施例11の製造方法に「乳化混合し、日焼け止め化粧料を得た。」(上記(4e))とあることから、実施例11の日焼け止め化粧料は乳化化粧料であるといえる。
なお、上記(4b)より、刊行物4において、%の表示は重量%を表していると解される。

そうすると、刊行物4には、次のとおりの発明が記載されていると認めることができる。
「以下の成分からなる日焼け止め乳化化粧料。
(成分) (重量%)
1.アクリル-シリコーン系グラフト共重合体(シリコンKP
-540;信越化学工業社製)表面処理単結晶酸化チタン 10.0
2.有機シリコーン処理単結晶酸化チタン 10.0
3.デカメチルシクロペンタシロキサン 20.0
4.ジカプリン酸ネオペンチルグリコール 5.0
5.パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル 10.0
6.4-tert-ブチル-4‘-メトキシジベンゾイルメタン 5.0
7.ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 3.0
8.香料 適量
9.エタノール 5.0
10.美容成分 適量
11.精製水 残量」(以下、「引用発明2」という。)

第5 刊行物1からの容易想到性について
1 本願発明と引用発明1とを対比する。
ア 本願明細書【0014】の
「本発明のアクリルシリコーン被覆顔料に用いられる顔料としては、具体的には、ベンガラ、黄色酸鉄、黒色酸化鉄、群青、酸化クロム、水酸化クロム等の有色無機顔料、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の無機白色顔料、硫酸バリウム、タルク、セリサイト、カオリン、マイカ等の体質顔料、チタンマイカ等の光輝性顔料等が例示される。」
なる記載によれば、引用発明1の「表面被覆酸化チタン」の酸化チタン及び「表面被覆タルク」のタルクは、本願発明における「顔料」に相当する。

イ 上記アの顔料(酸化チタン及びタルク)を表面被覆するアクリル-シリコーン系グラフト共重合体についてみると、引用発明1の式(2)は、本願発明における一般式(I)においてR1がメチル基、R2は直鎖状の炭素鎖を有する炭素数3の飽和炭化水素基、nが29であるものに相当するから、引用発明1の式(2)で示される片末端メタクリレート置換ジメチルポリシロキサンを、メチルメタクリレート及びステアリルメタクリレートと反応させて得たアクリル-シリコーン系グラフト共重合体は、本願発明の一般式(I)で示される片末端に(メタ)アクリル構造を有するジメチルポリシロキサンと(メタ)アクリレートとを共重合させてなるアクリル-シリコーン系グラフト共重合体に相当する。

ウ 上記ア、イより、引用発明1の「表面被覆酸化チタン」及び「表面被覆タルク」は、本願発明の「(a)一般式(I)で示される片末端に(メタ)アクリル構造を有するジメチルポリシロキサンと(メタ)アクリレートとを共重合させてなるアクリル-シリコーン系グラフト共重合体で被覆された顔料」に相当する。

エ 本願明細書【0020】によれば、引用発明1の「パラメトキシ桂皮酸2-エチルヘキシル」は、本願発明における「(c)B領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤顔料」に相当する。

オ 引用発明1の「水中油型液状ファンデーション」が乳化形化粧料であることは明らかである。

カ したがって、両者は、
「以下の(a)、(c):
(a)一般式(I)で示される片末端に(メタ)アクリル構造を有するジメチルポリシロキサンと(メタ)アクリレートとを共重合させてなるアクリル-シリコーン系グラフト共重合体で被覆された顔料
(c)B領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤
を含有する乳化形化粧料。
【化1】

(式中、R1はメチル基又は水素原子を示し、R2はエーテル結合1個又は2個で遮断されていてもよい直鎖状または分岐鎖状の炭素鎖を有する炭素数1?10の飽和炭化水素基を示し、nは3?300の数を示す。)」の発明である点で一致し、
次の点で相違する。

<相違点1>:
本願発明は、A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤(以下、UV-A吸収剤という)を含有し、前記UV-A吸収剤がジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル及び/又はt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンであり、その含有量は、組成物全量に対し、0.1?3.0質量%であるのに対して、引用発明1はUV-A吸収剤が配合されていない点。

2 <相違点1>についての検討
皮膚に対する紫外線の有害作用を防止し、紫外線の全領域にわたって保護するために、化粧用組成物に、有害な紫外線Aを吸収できる有利な有機日焼け止め剤(UV-A吸収剤)として4-(tert-ブチル)-4'-メトキシジベンゾイルメタン等のジベンゾイルメタン誘導体と、非常に有効な紫外線B日焼け止め剤(以下、UV-B吸収剤という)である2-エチルヘキシルパラ-メトキシシンナメート(審決注:パラメトキシ桂皮酸2-エチルヘキシルと同義)等のp-メトキシケイ皮酸誘導体の両者を含有させることは、本願出願日前、周知慣用の技術であり(刊行物2の(2a)及び刊行物3の(3a)参照)、その際の4-(tert-ブチル)-4'-メトキシジベンゾイルメタン等のジベンゾイルメタン誘導体の配合量を、化粧用組成物の0.1から2重量%とすることも周知である(刊行物2の(2b)及び表1((2c))に示される、UV-A吸収剤である「Parsol 1789」とUV-B吸収剤である「Parsol MCX」とを併用する処方における「Parsol 1789」の欄の重量%の値、並びに、刊行物3((3b))の同様にUV-A吸収剤とUV-B吸収剤とを併用する実施例10の「ブチルメトキシジベンゾイルメタンPARSOL 1789(DSM)」の欄の成分含有量の値、参照)。
しかも、刊行物1((1b))には、「本発明の化粧料には、上記成分の他、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、……4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン……等の紫外線吸収剤……等を適宜配合することができる。」旨明記されている。
してみると、引用発明1において、上記周知慣用技術に基づき、UV-B吸収剤のパラメトキシ桂皮酸2-エチルヘキシルと併用して、適宜配合できると刊行物1に明示される成分である、UV-A吸収剤のt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンを、化粧用組成物における通常の配合量である0.1から2重量%程度配合することに、当業者が格別の創意を要したものとは認められない。(なお、化粧用組成物においては質量%と重量%とは同等とみなしうるものである。以下同様。)
そして、そもそも引用発明1は化粧持続性に優れた水中油型液状ファンデーションであることからすれば、周知慣用技術に基づきパラメトキシ桂皮酸2-エチルヘキシルと併用して4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタンを配合することにより、化粧持続性に優れると共に、紫外線の全領域にわたって紫外線の有害作用の防止効果を有することは、当業者であれば自明のことである。

3 本願発明の効果について
請求人は、平成27年4月27日提出の意見書に添付した実験成績証明書の追加の実施例9?12及び比較例5、6の測定結果に基づき、UV-A吸収剤の含有量を0.1?3.0質量%の範囲(技術的特徴(エ))とすることで、人工汗・人工皮脂混合物による処理前後でほとんど色が変化しない(色差ΔEが0.8以下)という、極めて優れた化粧持ち効果を有する旨主張している(審判請求書「3.(1)(1-3)」)。
しかし、請求人の上記主張は以下述べるとおり採用できない。

ア 請求人は、
「化粧料の分野においては、複数成分の親和性の高低には、それらの種類と量が少なからず関係していると見るのが自然であるから、当業者であれば、本願明細書の実施例に示された“紫外線防御効果”と“化粧持ち”の効果に、紫外線吸収剤の種類及び量が寄与していることを推論することができる。
また、本願明細書の段落0018には、特に好ましいUV-A吸収剤の例として、補正後の本願発明のものが記載され、かつ段落0019には、UV-A吸収剤の好ましい含有量として補正後の本願発明の範囲が記載されていること、前記実施例に記載された例は、何れも当該範囲内にあることに鑑みると、当業者であれば、これらの好ましい形態において実施例に記載された有利な効果が得られることを推論することができる。」(審判請求書「3.(3)(3-1)」)
と主張する。
しかしながら、 本願明細書には、UV-A吸収剤の含有量に関して次のとおり記載されている。
「【0019】
これらUV-A吸収剤の含有量は乳化形化粧料全量に対して0.01?5.0質量%であることが好ましく、0.1?3.0質量%であることがより好ましい。含有量が下限値以下では、A領域の紫外線に対する防御効果が不十分な場合があり、また、上限値以上では、含有量を増加させてもA領域の紫外線に対する防御効果が頭打ちになり、乳化形化粧料を塗布する際に伸びが重くなるなどの使用性の低下が生じる場合があり好ましくない。」
かかる記載からは、UV-A吸収剤の含有量の好ましい範囲は、紫外線防御効果と使用性の観点から特定されるものであると理解されるにとどまり、0.1?3.0質量%と特定することにより特定範囲外である場合に比べて顕著な化粧持ち効果を奏することについてまで本願明細書に記載されているとはいえない。
また、本願明細書に記載の実施例1、2、5、6のUV-A吸収剤の含有量はすべて1質量%であるから、1質量%の場合に色差ΔEの値が小さいことは実施例1、2、5、6に示されているといえるが、これら実施例の結果は、UV-A吸収剤の含有量が例えば0.01質量%や5.0質量%である場合に色差ΔEの値がどのように変化するかを示唆するものではない。ましてや、色差ΔEの値が「知覚に影響を与える臨界を超えた差異」(審判請求書「3.(1)(1-3)」)となる上限、下限のUV-A吸収剤の含有量の境界値が0.1質量%、3.0質量%となるといった、実験成績証明書の追加の実施例9?12及び比較例5、6の測定結果を、本願明細書の記載から推論できるとは到底いえない。
したがって、本願出願後に実験成績証明書で追加された、UV-A吸収剤の含有量を特定範囲とすることによる化粧持ちの効果は、本願発明の効果として参酌できない。

イ また、本願明細書では、色差ΔEを化粧持ちの指標としているが、色差ΔEと化粧持ちとの相関関係は、着色顔料を含む化粧料については本願明細書記載のとおりの関係が当てはまるとしても、白色顔料や体色顔料のみで色の変化が測定しにくい化粧料については、塗布後の経時変化や本願明細書の実験のような人工汗、人工皮脂混合物での処理前後でΔEに顕著な差違が現れないことが予測される。
そうすると、着色顔料を含む乳化形化粧料でUV-A吸収剤の含有量がある特定の範囲である場合に色差ΔEが顕著に小さいことが認められるとしても、着色顔料を含まない乳化形化粧料においても同様に、UV-A吸収剤の含有量が当該特定の範囲である場合のものが当該範囲を外れた場合のものに比べて、色差ΔEが顕著に小さいと直ちに認めることはできないこととなる。
そうであるところ、本願発明における顔料は着色顔料に限定されているものではないことからすれば、色差ΔEが顕著に小さいという効果は、本願発明に包含される乳化形化粧料すべてにわたって奏される効果とみることはできない。

ウ したがって、本願出願後に実験成績証明書で追加されたUV-A吸収剤の含有量を特定範囲とすることによる化粧持ちの効果はそもそも上記アのとおり参酌すべきでないが、仮に参酌したとしても上記イのとおり本願発明に包含される乳化形化粧料すべてにわたって奏される効果とはいえず、格別な効果とはいえない。

第6 刊行物4からの容易想到性について
1 本願発明と引用発明2とを対比する。
ア ここで、引用発明2の「アクリル-シリコーン系グラフト共重合体(シリコンKP-540;信越化学工業社製)表面処理単結晶酸化チタン」における「シリコンKP-540;信越化学工業社製」は、特開2000-309509号公報(【0018】?【0022】:下記参照)
「【0018】アクリル-シリコーン系グラフト共重合体とは、分子鎖の片末端にラジカル重合性基を有するオルガノポリシロキサン化合物とアクリレート及び/又はメタクリレートを主体とするラジカル重合性モノマーとのラジカル重合体で、……例えば、分子鎖の片末端にラジカル重合性を有するオルガノポリシロキサン化合物は、下記一般式(5)
【0019】
【化1】

【0020】R1:メチル基又は水素原子
R2:場合によりエーテル結合1個又は2個で遮断されている直鎖状又は分岐状の炭素鎖を有する炭素原子1?10個の2価の飽和炭化水素基
R3:メチル基又はブチル基
l:3?300
で表されるものが挙げられる。
……
【0022】分子鎖の片末端にラジカル重合性基を有するジメチルポリシロキサン化合物とアクリレート及び/又はメタクリレートを主体とするラジカル共重合性モノマーとの共重合は、重合比率1/19?2/1の範囲内で、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等の通常のラジカル重合開始剤の存在下で行われ、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、バルク重合法のいずれの方法の適用も可能である。アクリル変性シリコーン樹脂の市販品としては、KP540、KP561、溶剤に溶解したものとして、KP541、KP543、KP545(以上、信越化学工業社製)等が挙げられる。」
によれば、本願発明の「アクリル-シリコーン系グラフト共重合体」に該当する。

イ 本願明細書【0014】より、酸化チタンは、本願発明における「顔料」に該当するから、上記アより引用発明2の「アクリル-シリコーン系グラフト共重合体(シリコンKP-540;信越化学工業社製)表面処理単結晶酸化チタン」は、本願発明の「(a)一般式(I)で示される片末端に(メタ)アクリル構造を有するジメチルポリシロキサンと(メタ)アクリレートとを共重合させてなるアクリル-シリコーン系グラフト共重合体で被覆された顔料」に相当する。

ウ 引用発明2の「4-tert-ブチル-4‘-メトキシジベンゾイルメタン」、「パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル」は、それぞれ、本願発明の「(b)A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤」、「(c)B領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤」に相当する。

エ 引用発明2の「日焼け止め乳化化粧料」が乳化形化粧料であることは明らかである。

オ したがって、両者は、
「以下の(a)?(c):
(a)一般式(I)で示される片末端に(メタ)アクリル構造を有するジメチルポリシロキサンと(メタ)アクリレートとを共重合させてなるアクリル-シリコーン系グラフト共重合体で被覆された顔料
(b)A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤
(c)B領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤
を含有し、
前記A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤がジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル及び/又はt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンである乳化形化粧料。
【化1】

(式中、R1はメチル基又は水素原子を示し、R2はエーテル結合1個又は2個で遮断されていてもよい直鎖状または分岐鎖状の炭素鎖を有する炭素数1?10の飽和炭化水素基を示し、nは3?300の数を示す。)」の発明である点で一致し、
次の点で相違する。

<相違点2>:
A領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤(UV-A吸収剤)の含有量について、本願発明が0.1?3.0質量%であるのに対して、引用発明2は5.0重量%である点。

2 <相違点2>についての検討
有機紫外線吸収剤の配合量については、多量に用いるとべたつきなどの使用感が損なわれることは下記文献A等に記載されるとおり本願出願前周知である。

文献A:下山雅秀、”紫外線防御用メイクアップ化粧料の開発動向”FRAGRANCE JOURNAL、フレグランスジャーナル社、1999年、第27巻、第5号、25?30頁(特に、26頁右欄17?22行参照)(原審の拒絶の理由における引用文献8)

そして、皮膚刺激等の皮膚に対する安全性への配慮や人工的な有機化学物質の使用を好まない消費者の心理等から、紫外線防御効果が得られる必要最小限の配合量としようとすることは技術常識といえること、また、上記「第5 2」で示したとおり、UV-A吸収剤であるt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンの化粧用組成物における通常の配合量が0.1から2重量%程度であることからすれば、引用発明2において、上記周知の事項を勘案して、4-tert-ブチル-4‘-メトキシジベンゾイルメタンの含有量を5.0重量%よりも少ない本願発明の範囲の程度とすることは、当業者が適宜なし得ることといわざるを得ない。
そして、刊行物4の(4e)、(4f)の記載によれば、引用発明2の日焼け止め乳化化粧料は、高い紫外線遮断効果を有しながら、耐水性や耐油性に優れ、化粧崩れし難く、化粧持続性が良好であるといえるから、本願明細書記載の本願発明の奏する効果は、引用発明2及び刊行物4の記載事項並びに周知事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

第7 まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された引用発明1及び周知慣用技術に基づき当業者が容易に発明することができたものであり、また、刊行物4に記載された引用発明2及び周知事項に基づき当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-21 
結審通知日 2017-08-22 
審決日 2017-09-07 
出願番号 特願2011-165182(P2011-165182)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松村 真里松本 直子橋本 憲一郎  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 長谷川 茜
小川 慶子
発明の名称 乳化形化粧料  
代理人 辻田 朋子  

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