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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21D
管理番号 1333914
審判番号 不服2016-17921  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-30 
確定日 2017-10-26 
事件の表示 特願2012- 66265「原子力発電プラント制御システム及びその代替監視制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月30日出願公開、特開2013-195397〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月22日に出願された特願2012-66265号であって、平成28年1月26日付けで拒絶理由が通知され、同年3月29日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年8月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年11月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年11月30日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成28年3月29日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「原子力発電プラントの状態を検出するプラント設備から受信する状態情報に基づいて前記原子力発電プラントの監視制御を行う監視制御装置を備える原子力発電プラント制御システムにおいて、
前記監視制御装置とは異なる前記原子力発電プラント内の浸水防止領域に設けられて、前記監視制御装置に替わって前記原子力発電プラントを監視制御する代替監視制御装置と、
水密化された原子炉格納容器内に設けられた前記プラント設備と前記監視制御装置と前記代替監視制御装置とに電気的に接続され、該プラント設備からの前記状態情報を前記監視制御装置と前記代替監視制御装置とに切り替えて出力する切替装置と、を備え、
前記切替装置は、前記浸水防止領域に設けられており、
前記代替監視制御装置は、前記切替装置が切り替えて出力した前記状態情報に基づいて、前記監視制御装置に替わって前記原子力発電プラントの監視制御を継続することを特徴とする原子力発電プラント制御システム。」が

「原子力発電プラントの状態を検出するプラント設備から受信する状態情報に基づいて前記原子力発電プラントの監視制御を行う監視制御装置を備える原子力発電プラント制御システムにおいて、
前記監視制御装置とは異なる前記原子力発電プラント内の浸水防止領域に設けられて、前記監視制御装置に替わって前記原子力発電プラントを監視制御する代替監視制御装置と、
水密化された原子炉格納容器内に設けられた前記プラント設備と前記監視制御装置と前記代替監視制御装置とに電気的に接続され、該プラント設備からの前記状態情報を前記監視制御装置と前記代替監視制御装置とに切り替えて出力する切替装置と、を備え、
前記切替装置は、前記浸水防止領域に設けられており、
前記状態情報は、前記原子炉格納容器内の圧力、温度、水位の少なくとも1つの情報を含み、
前記代替監視制御装置は、前記原子力発電プラント内が浸水した場合、前記切替装置が切り替えて出力した前記状態情報に基づいて、前記監視制御装置に替わって前記原子力発電プラントの監視制御を継続することを特徴とする原子力発電プラント制御システム。」と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、補正前の「状態情報」について、「原子炉格納容器内の圧力、温度、水位の少なくとも1つの情報を含」むことを特定し、また、「監視制御を継続する」ことについて「原子力発電プラント内が浸水した場合」であると特定する補正事項からなり、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正であるといえる。
すなわち、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とすることを含むものである。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)引用例
ア 引用例1
(ア)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭54-928号(実開昭55-101398号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「(イ)引用例1に記載された発明の認定」において直接引用した記載に下線を付した。)
a「考案の詳細な説明
本考案は原子力発電所の停止装置に係り、特に中央制御室内と中央制御室外とに設けられ夫々に独立した動作機能を維持し得る停止装置に関するものである。
原子力発電所の中央制御室での通常運転中、この中央制御室に運転員等の立入れない、または前記制御室から退避せざるを得ない事態が発生し、前記中央制御室に設置されている中央操作盤による運転制御が困難になった場合は、中央制御室以外の発電所内であって、その適当な場所に設置されている遠隔停止系により、速やかに原子炉を冷温の下に停止させる必要がある。この停止系を制御するための操作盤として遠隔停止操作盤がある。
遠隔停止操作盤により原子炉の停止操作を行なう場合、まず上記のような中央制御室の事故等の起こるまで行なっていた中央操作盤による補機類の制御は、その事故等の発生により直ちに遠隔停止操作盤が代行し得るようにするため、補機類の制御回路系統を中央操作盤から遠隔停止操作盤に切替える必要がある。そして遠隔停止操作盤で補機制御を行なう際に、たとえ先の中央操作盤による制御運転中、補機制御に対する中央操作盤からの制御回路系統が短絡、地絡、そして開放等になっても、それまで補機類に供給されていた制御電源を喪失することなく、遠隔停止操作盤が引き継いで制御し得るように補機類制御回路の電源を確保しておく必要がある。」(明細書第1頁下から第6行?第3頁第3行)

b「第1図は従来の停止装置の電源系統を示すものであり、まず中央制御室に設置されている中央操作盤3による補機5の制御は遠隔停止操作盤2に設けられている切替スイッチ2Aの互いに連動して切替わる接点2A_(1),2A_(1)と接点2A_(2),2A_(2)につき、接点2A_(1),2A_(1)を閉じて接点2A_(2),2A_(2)を開き、電源設備である電源分電盤1のノーヒューズしゃ断器1Aを介して電源開閉装置4の補機制御回路4Aに制御電源を供給し、中央操作盤3の操作スイッチ3Aを投入することにより開閉しゃ断器4Bを介して、原子炉運転の安全システムとして発電所内に設置されている補機5を制御する。この制御ルートをケーブルで示せば6d,6a,6b,6eとなる。一方、このような通常制御ができない場合の遠隔停止操作盤2による補機5の制御は、切替スイッチ2Aの接点2A_(2),2A_(2)を閉じ、接点2A_(1),2A_(1)を開いて前記中央制御盤3による制御ルート6d,6aを切離すことにより、前記電源設備の別な枝路に設けられた電源分離盤1のノーヒューズしゃ断器1Bを介して補機制御回路4Aに制御電源を供給し、そして遠隔停止操作盤2の操作スイッチ2Bを投入することにより同様に、原子炉周辺に設置されている補機5を制御することができる。この場合の制御ルートをケーブルで示せば6c,6b,6eとなる。
ここで上述のように切替スイッチ2Aは接点2A_(1),2A_(1)の閉成状態において、電源設備である電源分電盤1のノーヒューズしゃ断器1Aを介して電源開閉装置4の補機制御回路4Aに制御電源を供給する機能と、中央操作盤3の操作スイッチ3Aを投入することにより原子炉周辺に設置されている補機5を制御する機能とを有し、また前記接点2A_(1),2A_(1)と連動して開閉する接点2A_(2),2A_(2)の閉成状態において、前記電源分電盤1のノーヒューズしゃ断器1Bを介して前記補機制御回路4Aに制御電源を供給する機能と、遠隔停止操作盤2の操作スイッチ2Aを投入することにより前記補機5を制御する機能とを有して制御系統の切替え得る接点機構を備えている。」(明細書第3頁第4行?第5頁第2行)

c「第2図は本考案の停止装置をブロック図にて示したものであり、図において説明のため第1図と同一箇所には同一符号を付してある。
本考案停止装置の制御系統を遠隔停止操作盤2による場合について説明すると、中央制御室に設置されている中央操作盤3からの補機制御が不可能になった場合、中央制御室外に設置されている遠隔停止操作盤2に設けられている切替スイッチ2Aの接点2A_(2),2A_(2)を閉成して、これと連動して切替わるように構成されている接点2A_(1),2A_(1)を開放することにより、電源開閉装置4に設けられている補機制御回路4Aの保護用ヒューズも4Cから4Dに切替わる。そして前記電源開閉装置4とケーブル6dのみにより接続されている電源設備の電源分電盤1のノーヒューズしゃ断器1Aを介して補機制御回路4Aに、前記接点2A_(1),2A_(1)が開放されるまでその補機制御回路4Aに供給していたそのままの、制御電源が供給され遠隔停止操作盤2に設けられている操作スイッチ2Bを投入することにより開閉しゃ断器4Bを介して、原子炉周辺に設置されている補機5を制御することができる。よってこの場合の制御ルートをケーブルで示せば6d,6b,6eとなる。
上述した制御のなし得る停止装置において、中央操作盤3による制御系統が短絡、地絡そして開放等の事故により、遠隔停止操作盤2による制御系統への影響を考慮して、特に電源分電盤1のノーヒューズしゃ断器1Aの健全性を確保する必要があるが、このことは第3図に示した電流に対する溶断またはしゃ断に要する時間の関係のようにノーヒューズしゃ断器1Aの溶断特性曲線7と電源開閉器4に設けられているヒューズ4Cのしゃ断特性曲線8とは前記関係において十分に協調をとり得るから、たとえ前記中央操作盤3での事故が起きても電源分電盤1のノーヒューズしゃ断器1Aはトリップされることがない。」(明細書第7頁第1行?第8頁下から第5行)

d「



(イ)引用例1に記載された発明の認定
上記記載から、引用例1には、
「原子力発電所内に設置され、原子炉周辺に設置されている補機5を制御する原子炉運転の安全システムにおいて、
原子力発電所の中央制御室での通常運転中、遠隔停止操作盤2に設けられている切替スイッチ2Aの互いに連動して切替わる接点2A_(1),2A_(1)と接点2A_(2),2A_(2)につき、接点2A_(1),2A_(1)を閉じて接点2A_(2),2A_(2)を開き、電源設備である電源分電盤1のノーヒューズしゃ断器1Aを介して電源開閉装置4の補機制御回路4Aに制御電源を供給し、中央操作盤3の操作スイッチ3Aを投入することにより開閉しゃ断器4Bを介して、中央制御室に設置されている中央操作盤3により補機5は制御され、
前記中央制御室に設置されている中央操作盤による運転制御が困難になった場合に、中央制御室以外の発電所内であって、その適当な場所に設置されている遠隔停止系を制御するための操作盤として遠隔停止操作盤2があり、
切替スイッチ2Aの接点2A_(2),2A_(2)を閉じ、接点2A_(1),2A_(1)を開いて前記中央制御盤3による制御ルート6d,6aを切離すことにより、前記電源設備の別な枝路に設けられた電源分離盤1のノーヒューズしゃ断器1Bを介して補機制御回路4Aに制御電源を供給し、そして遠隔停止操作盤2の操作スイッチ2Bを投入することにより、遠隔停止操作盤2により補機5は制御され、
たとえ先の中央操作盤による制御運転中、補機制御に対する中央操作盤からの制御回路系統が短絡、地絡、そして開放等になっても、それまで補機類に供給されていた制御電源を喪失することなく、遠隔停止操作盤が引き継いで制御し得る原子炉運転の安全システム。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

イ 引用例2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2012-21979号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付したものである。)
a「【0001】
本発明は、主として原子力発電所の非常発電設備に係るものであり、なお、津波に曝される海洋沿岸に設置の発電設備の全般にも応用可能である。
【背景技術】
【0002】
一般に原子力発電所は、原子炉の高圧缶(圧力容器)内に装填した燃料棒のウラン原子核反応熱で発生する高温・高圧の水蒸気により、化石燃料の燃焼熱を利用する火力発電所と同様に、タービン発電機を駆動し電力に変換するものであり、原子炉の発生熱量の大半を復水器により冷却放散のため海岸或いは大河沿岸に設置され、特に海洋に面した発電所は地震に伴う津波に曝される。」

b「【0009】
発電所全幅に亘り高堤防を施せば、近接地域の波勢増大を招き、越流あれば該堤防が反って構内滞留を招いて諸設備の冠水が長引き損害増加を招く。
【0010】
なお、津波は震源海底の挙動のみならず、対岸大陸の急傾斜海岸の大規模地滑りによる巨大津波の可能性も地質学の課題に上っており、入江奥部の地滑りでの津波が対岸山地を超えた実例もあり、津波特性として注目すべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように不確定要因を持つ巨大地震及び津波に際し、原子炉の冷却・停止に必要な電力を供給する、安全且つ高信頼度の非常発電設備が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発電設備に係る全ての機器・装置を1棟の耐震・耐波・水密構造且つ吸排気塔付建屋内に配し、該建屋の地下部に燃料油タンク及びポンプ室を、最低海水位(干潮)以下に冷却海水の取水路及び放水路を、地上部に内燃機関駆動の発電機及びその遠隔自動始動を含む運転操作及び点検・保守に必要な全ての機器をそれぞれ配して非常発電設備を構成し、原子炉棟毎に設置する。
【0013】
建屋上の吸排気塔は、不確定要因を含む最大想定津波高に破砕波高を含む余裕を充分加えた高さの耐震・耐波構造とし、燃料油タンク底及びポンプ室床は、最高海水位(満潮位)より高位とし取水路及び放水路からの津波水撃に耐える水密構造とする。」

c「【0039】
図1において、鉄筋コンクリート構造の建屋1を岩盤2の上に配し、地下部に燃料油タンク3及びポンプ室4を、該タンク底5と該ポンプ室床版6が最高海水面(満潮高)HWL以上にそれぞれ配し、該床版6の下の取水路7は最低海水面(干潮高)LWLより充分深く採って原子炉棟の取水路(後述)に導く。
【0040】
建屋1の地上部床版8の上は、非常発電機室9とし、屋上10には不確定要因を含む想定最高津波に破砕波高を含む余裕を加えた高さH[m]の吸排気塔11を配し、非常発電棟1を構成する。
【0041】
床版8の上に発電機関12、発電機13及び共通台枠14より成るディーゼル発電機セット15を搭載し、発電機関12の排気管16を吸排気塔11内に配する。
【0042】
ポンプ室4の床版6に、発電機関毎に深井戸ポンプ17を、その濾し器付きポンプ部18が取水路7の最低海水面LWLより充分深くから取水するよう配し、揚水管19の天端エルボ20を貫通のポンプ軸に電動機22を連結し、図2に並示のように、該エルボ20に逆止弁23を配して冷却海水主管24を地上部床版8上に導き、分岐して各発電機関12の冷却水入口25に接続し、冷却水出口26より排水管27を以って放水路28に落し、冷却海水系を構成する。
【0043】
建屋1の地下部に配した燃料油タンク3に、区分壁29を配し構造補強と油面30の慣性揺れ(Sloshing)の抑制を期し、鋼板内張31を施して建屋1の外部への漏油を防ぎ、油面30上の空間に微正圧の不活性ガス(窒素、アルゴン等)を注入して燃料油の揮発性ガスを抑え防火安全を期する。」

ウ 引用例3
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭57-211596号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付したものである。)
「3.発明の詳細な説明
本発明は原子力発電所における遠隔操作停止装置の自動切換回路に関する。
原子力発電所においては、中央制御室に各プロセス量、電気量の監視及び機器の操作を行なっているが、更に中央操作室以外からも遠隔操作停止を可能とし、制御装置の信頼性の向上を計る目的で遠隔操作停止装置(以下、RSSと略す)が設置されている。そのRSSはRSS制御盤の切換スイッチを手動にて切り換えることによって中央制御室の制御回路を切り離し、RSSに切り換えるように構成されている。
第1図はそのRSSの従来例を示したもので、盤面上には多数の故障表示器1、指示計2、操作スイッチ3、切換スイッチ4が配置され、内部には、第2図(a)に示すように中央制御室からRSSへ切り換えるための切換回路が多数設けられている。
その切換スイッチ4は、発電所が通常運転されているときは、中央制御室側に切り換えられており、そのとき閉じる接点4-1により、中央制御室からの制御回路が形成される。従って、中央制御室の操作スイッチ5の操作により、電磁接触器6がONあるいはOFFされ、第2図(b)に示すように、その接点6-IのONあるいはOFF動作により、電源開閉器7を介して電源につながる弁、ポンプ、ファン等の電動機8の操作、停止が行なわれる。
一方、切換スイッチ4により、中央制御室側からRSS側に切り換えれば、そのとき閉じる接点4-2、により、RSS回路が構成されると同時に、接点4-1が開き中央制御回路が切り離される。従って、運転員は故障表示器l、指示計2により、原子炉の状態、プロセス量、電気量を監視しながら操作スイッチ3を操作し、弁、ポンプ、ファン等を制御することによってRSS側から原子炉を安全に停止させることができる。」(第1頁左下欄下から第7行?第2頁左上欄第9行)

(2)本願補正発明と引用発明との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明において「原子炉周辺に設置されている補機5を制御する」に際して、「原子炉周辺に設置されている補機5」における各種の情報を得ていることは当然の事項であるから、引用発明の「原子力発電所の中央制御室での通常運転中」、「中央制御室に設置され」「補機5」を「制御」する「中央操作盤3」が、本願補正発明の「原子力発電プラントの状態を検出するプラント設備から受信する状態情報に基づいて前記原子力発電プラントの監視制御を行う監視制御装置」に相当する。
(イ)引用発明の「前記中央制御室に設置されている中央操作盤による運転制御が困難になった場合に、中央制御室以外の発電所内であって、その適当な場所に設置されている遠隔停止系を制御するための操作盤として」「補機5」を「制御」する「遠隔停止操作盤2」と、本願補正発明の「前記監視制御装置とは異なる前記原子力発電プラント内の浸水防止領域に設けられて、前記監視制御装置に替わって前記原子力発電プラントを監視制御する代替監視制御装置」とは、「前記監視制御装置とは異なる前記原子力発電プラント内に設けられて、前記監視制御装置に替わって前記原子力発電プラントを監視制御する代替監視制御装置」である点で一致する。
(ウ)引用発明の「接点2A_(1),2A_(1)を閉じて接点2A_(2),2A_(2)を開き、電源設備である電源分電盤1のノーヒューズしゃ断器1Aを介して電源開閉装置4の補機制御回路4Aに制御電源を供給し、中央操作盤3の操作スイッチ3Aを投入することにより開閉しゃ断器4Bを介して、中央制御室に設置されている中央操作盤3により補機5は制御され」「接点2A_(2),2A_(2)を閉じ、接点2A_(1),2A_(1)を開いて前記中央制御盤3による制御ルート6d,6aを切離すことにより、前記電源設備の別な枝路に設けられた電源分離盤1のノーヒューズしゃ断器1Bを介して補機制御回路4Aに制御電源を供給し、そして遠隔停止操作盤2の操作スイッチ2Bを投入することにより、遠隔停止操作盤2により補機5は制御され」る「切替スイッチ2A」が、本願補正発明の「水密化された原子炉格納容器内に設けられた前記プラント設備と前記監視制御装置と前記代替監視制御装置とに電気的に接続され、該プラント設備からの前記状態情報を前記監視制御装置と前記代替監視制御装置とに切り替えて出力する切替装置」に相当する。
(エ)引用発明の「たとえ先の中央操作盤による制御運転中、補機制御に対する中央操作盤からの制御回路系統が短絡、地絡、そして開放等になっても、それまで補機類に供給されていた制御電源を喪失することなく、遠隔停止操作盤が引き継いで制御し得る」ことと、本願補正発明の「前記代替監視制御装置は、前記原子力発電プラント内が浸水した場合、前記切替装置が切り替えて出力した前記状態情報に基づいて、前記監視制御装置に替わって前記原子力発電プラントの監視制御を継続する」であることとは、「前記代替監視制御装置は、前記切替装置が切り替えて出力した前記状態情報に基づいて、前記監視制御装置に替わって前記原子力発電プラントの監視制御を継続する」点で一致する。
(オ)引用発明の「原子炉運転の安全システム」が、本願補正発明の「原子力発電プラント制御システム」に相当する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「原子力発電プラントの状態を検出するプラント設備から受信する状態情報に基づいて前記原子力発電プラントの監視制御を行う監視制御装置を備える原子力発電プラント制御システムにおいて、
前記監視制御装置とは異なる前記原子力発電プラント内に設けられて、前記監視制御装置に替わって前記原子力発電プラントを監視制御する代替監視制御装置と、
水密化された原子炉格納容器内に設けられた前記プラント設備と前記監視制御装置と前記代替監視制御装置とに電気的に接続され、該プラント設備からの前記状態情報を前記監視制御装置と前記代替監視制御装置とに切り替えて出力する切替装置と、を備え、
前記代替監視制御装置は、前記切替装置が切り替えて出力した前記状態情報に基づいて、前記監視制御装置に替わって前記原子力発電プラントの監視制御を継続する原子力発電プラント制御システム。」
の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

ウ 相違点
(ア)相違点1
本願補正発明においては、代替監視制御装置及び切替装置が、「浸水防止領域」に設けられ、「原子力発電プラント内が浸水した場合」においても原子力プラントの監視制御が継続されるのに対し、引用発明においては、それらの特定がない点。
(イ)相違点2
本願補正発明においては「状態情報は、前記原子炉格納容器内の圧力、温度、水位の少なくとも1つの情報を含」むのに対して、引用発明においては、その点の特定はない点。

(3)当審の判断
ア 上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
東日本大震災において、原子力発電所が津波によって浸水の被害を被ったことは周知の事項であり、それ以降、原子力発電所において、浸水されない場所(本願補正発明における「浸水防止領域」)に必要設備を配設するように設定することは周知の技術事項である(必要とあらば引用例2参照)。
引用発明においても、上記の周知技術を適用し、非常時の設備である「遠隔停止操作盤」(「代替監視制御装置」)、及び「遠隔停止操作盤」に切り替えるための「切替スイッチ」(「切替装置」)を、浸水されない場所(「浸水防止領域」)に配設し、「原子力発電プラント内が浸水した場合」においても原子力発電所内の補機の制御(「原子力プラントの監視制御」)が継続されるようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)相違点2について
原子炉の制御技術において、原子炉格納容器内の「原子炉の状態」の情報を制御に用いることは、引用例3にも記載されているように周知の技術である。そして、「原子炉の状態」の情報としては、「圧力、温度、水位」の情報を用いることは技術常識から当然の事項にすぎない。
引用発明においても、上記の周知技術を採用し、補機5の制御に原子炉格納容器内の「圧力、温度、水位」の情報を用い、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易になし得たことである。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年8月17日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成28年3月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成28年11月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成28年11月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(1)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 平成28年11月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)本願補正発明と引用発明の対比」の「ア 対比」において記載したのと同様の対比の手法及び結果により、本願発明と引用発明は、
「原子力発電プラントの状態を検出するプラント設備から受信する状態情報に基づいて前記原子力発電プラントの監視制御を行う監視制御装置を備える原子力発電プラント制御システムにおいて、
前記監視制御装置とは異なる前記原子力発電プラント内に設けられて、前記監視制御装置に替わって前記原子力発電プラントを監視制御する代替監視制御装置と、
水密化された原子炉格納容器内に設けられた前記プラント設備と前記監視制御装置と前記代替監視制御装置とに電気的に接続され、該プラント設備からの前記状態情報を前記監視制御装置と前記代替監視制御装置とに切り替えて出力する切替装置と、を備え、
前記代替監視制御装置は、前記切替装置が切り替えて出力した前記状態情報に基づいて、前記監視制御装置に替わって前記原子力発電プラントの監視制御を継続することを特徴とする原子力発電プラント制御システム。」
で一致し、次の点で相違する。
(ア)相違点1’
本願発明においては、代替監視制御装置及び切替装置が、「浸水防止領域」に設けられるのに対し、引用発明においては、それらの特定がない点。
そして、上記相違点1’については、「第2 平成28年11月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)当審の判断」の「ア」の「(ア)相違点1について」においての検討と同様であり、相違点1についての理由と同様に、引用発明において、上記「(ア)相違点1について」において記載した周知技術を適用し、非常時の設備である「遠隔停止操作盤」(「代替監視制御装置」)、及び「遠隔停止操作盤」に切り替えるための「切替スイッチ」(「切替装置」)を、浸水されない場所(「浸水防止領域」)に配設することは当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。
また、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。
よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおりであり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-18 
結審通知日 2017-08-22 
審決日 2017-09-07 
出願番号 特願2012-66265(P2012-66265)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21D)
P 1 8・ 575- Z (G21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 洋平  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 野村 伸雄
森林 克郎
発明の名称 原子力発電プラント制御システム及びその代替監視制御方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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