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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25B
管理番号 1333915
審判番号 不服2016-18373  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-07 
確定日 2017-10-26 
事件の表示 特願2014-242575号「圧縮機、および、それを用いた空気調和機」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月 2日出願公開、特開2016-102641号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成26年11月28日の出願であって、平成28年2月9日付けで通知された拒絶の理由に対して、平成28年4月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年9月9日付けで拒絶査定され、これに対して平成28年12月7日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、上記手続補正書により補正された特許請求の範囲と明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、「本願発明」という。)と認められる。
「密閉容器(310)と、
前記密閉容器の内側に設けられたモータ(320)と、
前記モータによって回転させられるクランク軸(330)と、
前記クランク軸の回転によって駆動される流体圧縮機構(340)と、
前記密閉容器の内側に設けられた潤滑油貯留部(350)と、
を備える、空気調和機(1)用の圧縮機(30)であって、
前記空気調和機の暖房運転時における前記クランク軸の最高回転速度R_(Hmax)[回転/秒]と、前記空気調和機の冷房運転時における前記クランク軸の最高回転速度R_(Cmax)[回転/秒]との間に、
(0.5×R_(Cmax))≦R_(Hmax)≦(0.7×R_(Cmax))
の関係が成立する、圧縮機。」

3 引用刊行物等
(1) 本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-48382号公報(以下、「引用例1」という。)には、図1ないし4とともに次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 室内空気と熱交換する室内熱交換器と、冷房能力と暖房能力とを最大能力から最小能力の間でそれぞれ可変できる能力可変手段と、を有する冷暖房可能の空気調和装置において、
冷房時の冷房定格能力と暖房時の暖房定格能力を暖房定格能力が冷房定格能力以下となるように設定したことを特徴とする空気調和装置。
【請求項2】 室内熱交換器、減圧装置、室外熱交換器、出力周波数が可変できるインバータ装置によって駆動される圧縮機及び四方弁を備え、前記インバータ装置の出力周波数を変化させて前記圧縮機の回転速度を可変することで冷暖房能力が可変可能な空気調和機において、
前記インバータ装置の出力周波数をそれぞれ所定の値に固定して冷房及び暖房定格能力出力を得るとともに、暖房定格能力が冷房定格能力よりも小さくなるように制御する制御手段を、備えたことを特徴とする空気調和装置。」

イ 「【0007】このため、冷房定格能力が2.8kWの空気調和装置では暖房定格能力が4.0kW?4.2kW程度の設定がなされているのである。そこで、従来はこのような大きな暖房能力を得るために室内,室外熱交換器容量、さらには圧縮機の容量も大型化していた。
【0008】ところが、最近では暖房時に例えばファンヒータやホットカーペット等の補助暖房機と空気調和装置との併用が多く見られるようになってきた。家庭用ファンヒータでは暖房能力が3kWから4kW程度が一般的であり、このような補助暖房機を併用する場合には空気調和装置の暖房能力は2kW程度で十分である。
【0009】また、冷房運転を行う時期は部屋の通風を良くするため、部屋の仕切を開放する傾向にある。一方、暖房時期には寒いため、部屋を閉め切る傾向がある。このため、2間続きの家屋では冷房時は開放して1部屋として使用し、暖房時期には仕切って一方の部屋のみとして使用する場合が多く見受けられる。
【0010】このような部屋の使用法においては、暖房時には暖めなければならない部屋の広さは冷房時の部屋の広さの半分程度となる。
【0011】以上のような最近の他の暖房機器との併用運転や、冷房時と暖房時の部屋の使用方法の相違に対し、従来の冷,暖房定格能力の設定では暖房能力が過多となり、大きな暖房定格能力を得るために大型化している室内外熱交換器等の機器は無駄になっていた。
【0012】また、ファンヒータ等の他の暖房機器は、通風量が小さく、部屋全体をくまなく暖気が行き渡るには時間がかかったり、一部に暖気が行き渡らない等の問題がある。
【0013】本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、近年の他の暖房機器との併用や冷房時と暖房時の部屋の使用方法の相違等に対して節電可能で最適な暖房能力を備えた空気調和装置を提供することにある。」

ウ 「【0030】また、室内熱交換器5はその熱交換容量が室外熱交換器7の熱交換容量よりも大になるように構成されている。すなわち、室外熱交換器7の吸込み側の面積が室内熱交換器5の吸込側面積よりも小さく形成されている。要するに空気調和装置1は従来の空気調和装置に比べ冷房能力よりも暖房能力の方が小さくなるように室内熱交換器5の容量に比べ相対的に室外熱交換器7の容量が小さく設定されている。さらに、室外熱交換器7には、これに室外空気を送風する室外ファン9を設ける一方、室内熱交換器5には、これに室内空気を送風する室内ファン10を設けると共に、室温を検出する室温センサー11と室内熱交換器5の温度を検出する室内熱交換器温度センサー12を設けている。これら室温センサ11と室内熱交交換器温度センサ12には室内制御器13を電気的に接続している。」

エ 「【0034】図2に示すように、インバータ装置2の出力周波数は室内制御器13により冷房運転時には冷房運転時の最大周波数であるCmaxから最低周波数であるCminの間で制御され、定格運転時の周波数はCstに固定される。
【0035】一方、図3に示すように、暖房運転時のインバータ装置2の出力周波数は室内制御器13により暖房運転時の最大周波数であるHmaxから最低周波数であるHminの間で制御され、定格運転時の周波数はHstに固定される。ここで冷,暖房時の定格能力については、室内熱交換器5と室外熱交換器7の容量設定にもよるが、冷房時の定格能力CPst≧暖房時の定格能力HPstとするため、本実施形態の場合、Cst>Hstに設定されている。」

オ 「【0047】まず、室内制御器13は、制御プログラムを起動させてスタートすると、S1で図示しないリモコンや制御装置の運転モード選択手段からこれが定格能力運転モードを手動選択しているか否かを読み込み、あるいは、室温,外気温,室内ファンの送風量等からなる定格能力測定条件に基づいて定格能力運転モードが選択されているか否か判断し、No、すなわち通常運転を選択していると判断したときはS2へ進む一方、Yes、すなわち定格能力運転を選択していると判断したときはS3へ進む。
【0048】S3では、さらにリモコン等の運転モード選択手段が冷房運転モードを選択しているか否か判断し、Yes、すなわち冷房運転を選択していると判断したときはS4へ進む一方、No、すなわち暖房運転を選択しているときはS5へ進む。
【0049】S5では、インバータ装置2の出力周波数、すなわち圧縮機3の運転回転数を図3で示す暖房運転時の定格運転周波数Hst(Hz)に固定して定格暖房運転を行なう。この定格暖房運転時では仮に室内熱交温度センサ12の検出値が所定値以下であっても室内ファン10の運転を引き続き続行して室内でのサーキュレータ機能を向上させて室内の対流を向上させる。この後、ENDへ進み終了させる。
【0050】一方、S3で冷房定格運転モードが選択されていると判断したときは、S4でON信号を四方弁制御回路16に与え、この四方弁制御回路16は四方弁4のコイルを連続通電(ON)して冷房運転に切り換える。
【0051】この後、S6でインバータ装置2から圧縮機3へ出力される出力周波数を図2で示す冷房運転時の定格運転周波数Cstに固定して定格冷房運転を行ない、しかる後にENDへ進み終了させる。
【0052】一方、上記S1で定格運転でないと判断したとき、すなわち、通常運転であると判断したときは、S2で室温センサ11から読み込んだ室温(Ta)と、温度設定器14から読み込んだ設定温度(Ts)との差Dとその差Dの変化量ΔDを算出する。
【0053】次のS2で、リモコン等の運転モード選択手段により選択されている運転モードが冷房運転であるか否か判断し、Yes、すなわち冷房運転が選択されていると判断したときはS8へ進む一方、No、すなわち暖房運転が選択されていると判断したときはS9へ進む。
【0054】S9では、上記S2で算出した室温Taと設定温度Tsとの差Dおよび変化量ΔDに基づいてインバータ装置2の出力周波数を算出し、この出力周波数は図3で示す暖房時の最大周波数Hmaxから最小周波数Hminの間で制御される。しかる後にENDへ進んで終了させる。
【0055】一方、上記S8では、四方弁制御回路16を介して四方弁4のコイルを連続通電(ON)して冷房運転に切り換える。次のS10では上記S2で算出した室温(Ta)と設定温度(Ts)の差Dおよびその差Dの変化量ΔDに基づいて圧縮機3の回転数、すなわちインバータ装置2の出力周波数を、図2で示す冷房時の最大周波数Cmaxと最小周波数Cminとの間で設定する。」

カ 「【0061】さらに、この空気調和装置1によれば、暖房定格能力を冷房定格能力と同等もしくはそれ以下に設定しているので、従来大きな暖房定格能力を得るために大型化している室内熱交換器、室外熱交換器、圧縮機等の冷凍サイクル部品の小型軽量を図ることができ、低コストで高効率な小形の空気調和装置を提供することも可能となる。
【0062】また、室外熱交換器7の容量を相対的に室内熱交換器の容量よりも小さく設定しているために、冷房時の冷媒蒸発温度が高めとなり、室内熱交換器の除湿能力が低下するので、冷媒の減圧量と同時に圧縮機の回転数を、冷房時に室内熱交換器温度が除湿機能を果たす値にまで低下するように制御するので、除湿機能の低下を防止することができる。なお、上記実施形態では、暖房定格能力が、2.5kWで冷房定格能力が2.8kWに設定した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば冷房定格能力が2.8kWの場合、暖房定格能力は2.8kW以下で1.4kW以上であればよい。これは暖房能力が1.4kW未満であると、暖房運転時の暖風吹出し温度が低くなり過ぎるためである。」

キ これらの記載事項によれば、引用例1には、次の発明が記載されていると認めることができる(以下、この発明を「引用発明」という。)。

「インバータ装置の出力周波数を変化させて回転速度を可変する、
空気調和装置に備えられた圧縮機であって、
前記空気調和装置の定格能力運転において、圧縮機の運転回転数を、暖房運転時は暖房運転時の定格運転周波数Hstに固定して定格暖房運転を行い、冷房運転時は冷房運転時の定格運転周波数Cstに固定して定格冷房運転を行い、暖房定格能力は冷房定格能力以下となるように、Cst>Hstに設定され、
前記空気調和装置の通常運転において、圧縮機の運転回転数が、暖房運転時は暖房時の最大周波数Hmaxから最小周波数Hminの間で制御され、冷房運転時は冷房時の最大周波数Cmaxから最小周波数Cminとの間で制御される、
圧縮機。」

(2) 同じく本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-139261号公報(以下、「引用例2」という。)には、図1とともに次の事項が記載されている。

ク 「【0023】
【発明の実施の形態】実施の形態1.図1は、実施の形態1を表す空気調和機、冷蔵庫、冷凍庫等の冷凍・空調装置に組み込まれ冷凍サイクルを構成する冷凍サイクル装置の一例を示す図である。図において、1は圧縮機、8は四方弁、2は第一熱交換器であり、空調装置などの場合では冷房時には凝縮器として作用し、暖房時には蒸発器として作用する。
・・・(省略)・・・
【0025】また、圧縮機1は、密閉容器1j内に設けられた油溜め1a内に冷凍機油10が封入されている。また、1cはスクロールやロータリ形などで冷媒を圧縮する圧縮機構部、1bは油ポンプであり、クランク軸1eに設けられている。1dはモータのロータ、1hはモータのステータ、1mは吸入マフラー、1gは吸入管、1fは吐出管である。」

(3) 同じく本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-45975号公報(以下、「引用例3」という。)には、図1及び図2とともに次の事項が記載されている。

ケ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シリンダ内を偏心して回転する偏心ローラーの外周面にベーンが当接することによりシリンダ内を吸入空間と圧縮空間とに仕切り、偏心ローラーの偏心回転により吸入された作動ガスを圧縮空間内で圧縮するロータリー圧縮機、及び、そのロータリー圧縮機を用いた空気調和装置や冷凍装置等の冷熱発生装置に関する。」

コ 「【0022】まず、本実施の形態であるロータリー圧縮機の構造について、図1と図2とを参照して説明する。図1にはロータリー圧縮機の縦断面図を、図2には、図1のA-A断面に相当する横断面図を示した。図1と図2とにおいて、密閉容器1内に固定子2及び回転子3とからなる電動モーターで構成された駆動源と、この駆動源によって駆動される圧縮要素とが収容されている。密閉容器1内には潤滑油14が貯留されている。シリンダ4は主軸受5と副軸受6とによりその両端開口が閉塞されて設けられている。偏心部10を有するクランク軸9が主軸受5と副軸受6とにより軸支されている。偏心部10に自転自在に嵌合された偏心ローラー11と、密閉容器1内の作動ガス圧とスプリング13とにより押圧されて偏心ローラー11と接触するベーン収容室18より出退可能なベーン12とにより、シリンダ4内が吸入室7と圧縮室8とに仕切られている。吸入室7と吸入パイプ15とが吸入口15aを介して接続されて設けられている。」

(4) 同じく本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-296519号公報(以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。

サ 「【0026】17はリモコンで、冷房運転と暖房運転を切り換える冷暖切換スイッチ11と、16℃?31℃の間で温度設定可能な室温設定スイッチ12と、室内側送風ファンの風量を強風・中風・弱風の間で切り換える風量設定スイッチ18を有する。19は周波数制御装置で、通常運転時は室温センサ14で検出した室温Tiとリモコン17の室温設定スイッチ12で設定された設定温度Tsとの差に基づき、暖房運転時は図2(a)(最高周波数は95Hz)より、冷房運転時は図2(b)(最高周波数は75Hz)より、インバータ周波数foを決定する。また、暖房運転時、室温センサ14で検出した室温、外気温センサ20で検出した外気温およびリモコン17の室温設定スイッチ12、風量設定スイッチ18の入力状態によっては所定時間後、インバータ周波数foを暖房運転での定格周波数(75Hz)に変更する。」

シ 「【0039】この結果、本実施例の空気調和機で暖房運転のJISの定格能力を測定する場合、最初最高周波数の95Hzで圧縮機3が駆動されるが、所定時間経過すると75Hzに圧縮機3の周波数が変更される。従って、暖房運転のJISの定格能力は、圧縮機3の最高周波数(95Hz)と最低周波数(35Hz)の間に予め設定された定格周波数(75Hz)で駆動される状態での空気調和機の能力とできる。」

ス 「【0056】この結果、本実施例の空気調和機で冷房運転のJISの定格能力を測定する場合、最初最高周波数の75Hzで圧縮機3が駆動されるが、所定時間経過すると65Hzに圧縮機3の周波数が変更される。従って、冷房運転のJISの定格能力は、圧縮機3の最高周波数(75Hz)と最低周波数(35Hz)の間に予め設定された定格周波数(65Hz)で駆動される状態での空気調和機の能力とできる。」

(5) 同じく本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭60-99947号公報(以下、「引用例5」という。)には、次の事項が記載されている。

セ 「第3図を使用して更に説明する。説明をわかりやすくするため、今圧縮機(1)は第3図の通り2台とし、各々の最大回転数は定格時の1.5倍、最小回転数は定格時の0.5倍とする。周波数変換器(7)は上記に対応して定格時は60Hz,最大回転時は90Hz,最小回転時は30Hz迄の変化が可能とし、最大容量は90Hzの場合の圧縮機1台の容量迄耐え得るものとする。」(2ページ右上欄3?10行)

4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、用語の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「空気調和装置」は、本願発明の「空気調和機」に相当し、同様に、「空気調和装置に備えられた圧縮機」は「空気調和機用の圧縮機」に相当する。
また、本願発明における「クランク軸の最高回転速度」は、本願の明細書の【0049】及び図2の記載内容からして、本願発明の「圧縮機の最高回転速度」と同じ値であるといえるから、本願発明の「暖房運転時における前記クランク軸の最高回転速度R_(Hmax)[回転/秒]」及び「冷房運転時における前記クランク軸の最高回転速度R_(Cmax)[回転/秒]」と引用発明の圧縮機の運転回転数の「暖房時の最大周波数Hmax」及び「冷房時の最大周波数Cmax」とは、「暖房運転時における圧縮機の最高回転速度R_(Hmax)[回転/秒]」及び「冷房運転時における圧縮機の最高回転速度R_(Cmax)[回転/秒]」の限りにおいて一致している。そして、本願発明の「暖房運転時における前記クランク軸の最高回転速度R_(Hmax)[回転/秒]」及び「冷房運転時における前記クランク軸の最高回転速度R_(Cmax)[回転/秒]」はそれぞれ所定の値に特定されているといえるし、引用発明の「暖房時の最大周波数Hmax」及び「冷房時の最大周波数Cmax」もそれぞれ所定の値に特定されているといえる。そうすると、本願発明の「前記空気調和機の暖房運転時における前記クランク軸の最高回転速度R_(Hmax)[回転/秒]と、前記空気調和機の冷房運転時における前記クランク軸の最高回転速度R_(Cmax)[回転/秒]との間に、 (0.5×R_(Cmax))≦R_(Hmax)≦(0.7×R_(Cmax)) の関係が成立する」ことと、引用発明の「前記空気調和装置の通常運転において、圧縮機の運転回転数が、暖房運転時は暖房時の最大周波数Hmaxから最小周波数Hminの間で制御され、冷房運転時は冷房時の最大周波数Cmaxから最小周波数Cminとの間で制御される」こととは、「前記空気調和機の暖房運転時における圧縮機の最高回転速度R_(Hmax)[回転/秒]と、前記空気調和機の冷房運転時における圧縮機の最高回転速度R_(Cmax)[回転/秒]とが、それぞれ所定の値に特定されている」限りにおいて一致している。

(1) 一致点
したがって、両者は、
「空気調和機用の圧縮機であって、
前記空気調和機の暖房運転時における圧縮機の最高回転速度R_(Hmax)[回転/秒]と、前記空気調和機の冷房運転時における圧縮機の最高回転速度R_(Cmax)[回転/秒]とが、それぞれ所定の値に特定されている、圧縮機。」
である点で一致し、次の点で相違している。

(2) 相違点
[相違点1]
「空気調和機用の圧縮機」が、本願発明では、「密閉容器と、前記密閉容器の内側に設けられたモータと、前記モータによって回転させられるクランク軸と、前記クランク軸の回転によって駆動される流体圧縮機構と、前記密閉容器の内側に設けられた潤滑油貯留部と、を備える」のに対して、引用発明では、「インバータ装置の出力周波数を変化させて回転速度を可変する」ものの、その具体的な構成が不明である点。

[相違点2]
「前記空気調和機の暖房運転時における圧縮機の最高回転速度R_(Hmax)[回転/秒]と、前記空気調和機の冷房運転時における圧縮機の最高回転速度R_(Cmax)[回転/秒]とが、それぞれ所定の値に特定されている」点に関し、本願発明では「(0.5×R_(Cmax))≦R_(Hmax)≦(0.7×R_(Cmax)) の関係が成立する」のに対して、引用発明ではそのように特定されていない点。

5 判断
上記相違点について検討する。

[相違点1]について
空気調和機用の圧縮機において、密閉容器と、密閉容器の内側に設けられたモータと、モータによって回転させられるクランク軸と、クランク軸の回転によって駆動される流体圧縮機構と、密閉容器の内側に設けられた潤滑油貯留部と、を備えるものは周知の事項である(例えば、引用例2の摘記事項ク、引用例3の摘記事項ケ及びコ参照。)
そして、引用発明の具体化に際し、インバータ装置の出力周波数を変化させて回転速度を可変する空気調和機用の圧縮機として、どのようなものを採用するかは、当業者が適宜選択し得る設計的事項といえる。
よって、引用発明の空気調和機用の圧縮機として、上記周知の圧縮機を採用し、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点2]について
引用例1においては、インバータ装置の暖房運転時の最大周波数Hmaxと冷房運転時の最大周波数Cmaxとを区別してそれぞれ記載している(摘記事項エ、図2及び3参照。)から、両者が同じ値に限られるものではなく、すなわち、圧縮機の構造的な最大値に限られるものではない。
また、引用例1には、「従来の冷,暖房定格能力の設定では暖房能力が過多となり、大きな暖房定格能力を得るために大型化している室内外熱交換器等の機器は無駄になっていた。」(【0011】。摘記事項イ参照。)ことが記載されている。そして、このような課題を解決するため、引用発明では「暖房定格能力は冷房定格能力以下となるように」「設定され」ている。このような課題およびその解決手段の思想に倣い、引用発明において暖房能力を冷房能力以下となるように、暖房時の最大周波数Hmaxを冷房時の最大周波数Cmax以下と設定することは、当業者が考慮し得ることである。
さらに、引用発明は、「暖房定格能力は冷房定格能力以下となるように、Cst>Hstに設定され」ている(すなわち、冷房運転時の定格運転周波数Cst>暖房運転時の定格運転周波数Hst。)。ここで、引用例1には、定格運転周波数と最大周波数との関係について明記されていないものの、空気調和機において、相対的に大きい定格運転時の圧縮機の回転速度に対して、相対的に大きい最高回転速度が設定されることは、周知の事項といえる(例えば、引用例4の摘記事項サないしス、引用例5の摘記事項セ参照。)ことを踏まえると、暖房運転時の圧縮機の定格回転速度が冷房運転時の圧縮機の定格回転速度よりも小さいのであれば、それに伴い、暖房運転時の圧縮機の最高回転速度も冷房運転時の圧縮機の最高回転速度より小さく設定すること、すなわち、暖房時の最大周波数Hmax<冷房時の最大周波数Cmaxと設定することが普通のことといえる。
その上、引用例1には「空気調和装置1は従来の空気調和装置に比べ冷房能力よりも暖房能力の方が小さくなるように室内熱交換器5の容量に比べ相対的に室外熱交換器7の容量が小さく設定されている。」(【0030】。摘記事項ウ参照。)ことが記載されており、熱交換器の容量も冷房能力よりも暖房能力の方が小さくなるように設定されていることは、定格運転時であるか通常運転時であるか、又、暖房運転時であるか冷房運転時であるかに応じて変わるものではない。したがって、暖房運転時の圧縮機の最高回転速度を冷房運転時の圧縮機の最高回転速度より小さく設定すること、すなわち、暖房時の最大周波数Hmax<冷房時の最大周波数Cmaxと設定することが普通である。
そして、引用発明の暖房運転時の圧縮機の最高回転速度及び冷房運転時の圧縮機の最高回転速度に関し、暖房時の最大周波数Hmax<冷房時の最大周波数Cmaxと設定するに際し、両者の割合は想定する冷房能力及び暖房能力によって、設計者が適宜設定し得ることであるといえる。そして、引用例1には「例えば冷房定格能力が2.8kWの場合、暖房定格能力は2.8kW以下で1.4kW以上であればよい。」(【0062】。摘記事項カ参照。)と記載され、定格能力についてではあるものの、暖房定格能力を冷房定格能力以下でその50%以上とすることも記載されている。これらのことからすれば、引用発明において、暖房時の最大周波数Hmaxを、冷房時の最大周波数Cmaxの50%?70%とすることは、当業者が適宜設定し得たことである。そして、本願発明において、暖房運転時における圧縮機のクランク軸の最高回転速度(R_(Hmax))を冷房運転時における最高回転速度(R_(Cmax))の50%?70%に設定することの技術的な意義について、発明の詳細な説明に「両者の値はある程度近接しているので、モータを駆動する電気回路部品の定格値の選定をさらに最適に行いやすい。」(【0061】。平成27年10月22日付け手続補正書。)との記載があるものの、それは「両者の値はある程度近接している」ことによる効果というべきであるから、50%?70%の数値範囲に限定することに臨界的意義があるとはいえない。
よって、上記引用例1に記載された事項及び上記周知の事項からすれば、引用発明をして上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願発明の全体構成により奏される効果は、引用発明、引用例1に記載された事項及び上記周知の事項(引用例2?5記載事項)から予測し得る程度のものと認められる。

6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、引用例1に記載された事項及び上記周知の事項(引用例2?5の記載事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶をされるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-25 
結審通知日 2017-08-29 
審決日 2017-09-11 
出願番号 特願2014-242575(P2014-242575)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼藤 啓  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 佐々木 正章
田村 嘉章
発明の名称 圧縮機、および、それを用いた空気調和機  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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