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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K |
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管理番号 | 1333933 |
審判番号 | 不服2017-5391 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-04-17 |
確定日 | 2017-11-17 |
事件の表示 | 特願2016- 9867「無線タグシステムおよび無線通信方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月28日出願公開、特開2016- 66382、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成24年9月7日に出願した特願2012-197276号の一部を平成28年1月21日に新たな特許出願としたものであって,平成28年11月1日付けで拒絶理由が通知され,平成28年12月19日に意見書と手続補正書が提出され,平成29年1月25日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成29年4月17日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成29年1月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1,2に係る発明は,以下の引用文献1,2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2012-084064号公報 2.特開平11-083421号公報 第3 本願発明 本願請求項1,2に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」,「本願発明2」という。)は,平成29年4月17日に提出された手続補正書による手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1,2は以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 地下施設に設置される無線タグと,前記地下施設の近傍を通過する車両に設置されるリーダとにより構成され,前記リーダから所定の周期で起動信号を電磁誘導方式で送信し,当該起動信号を受信した前記無線タグから応答信号を電波方式で送信し,当該応答信号を前記リーダが受信する無線タグシステムにおいて, 前記車両は,鉄製の車体を有し, 前記車両の走行方向をx軸方向とし,走行方向に対して直交する左右方向をy軸方向とし,走行方向に対して直交する上下方向をz軸方向とし, 前記リーダは,前記起動信号を電磁誘導方式で送信する電磁誘導用アンテナのコイルが前記車両の屋根の上に該コイルの開口面が前記z軸に平行となるように設置される構成であり, 前記無線タグは,前記起動信号を電磁誘導方式で受信する電磁誘導用アンテナのコイルが設置され,該コイルの開口面を前記車両の走行時に前記リーダの電磁誘導用アンテナから送出された磁力線の一部が通過し,前記起動信号を受信する構成である ことを特徴とする無線タグシステム。 【請求項2】 地下施設に設置される無線タグと,前記地下施設の近傍を通過する車両に設置されるリーダとを用い,前記リーダから所定の周期で起動信号を電磁誘導方式で送信し,当該起動信号を受信した前記無線タグから応答信号を電波方式で送信し,当該応答信号を前記リーダが受信する無線通信方法において, 前記車両は,鉄製の車体を有し, 前記車両の走行方向をx軸方向とし,走行方向に対して直交する左右方向をy軸方向とし,走行方向に対して直交する上下方向をz軸方向とし, 前記リーダは,前記起動信号を電磁誘導方式で送信する電磁誘導用アンテナのコイルが前記車両の屋根の上に該コイルの開口面が前記z軸に平行となるように設置され, 前記無線タグは,前記起動信号を電磁誘導方式で受信する電磁誘導用アンテナのコイルが設置され,該コイルの開口面を前記車両の走行時に前記リーダの電磁誘導用アンテナから送出された磁力線の一部が通過し,前記起動信号を受信する ことを特徴とする無線通信方法。」 第4 引用文献,引用発明等 1 引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には,「無線タグシステム」(発明の名称)に関し,図面とともに次の事項が記載されている。なお,下線は重要箇所に対して当審が付与した。 ア 「【実施例1】 【0026】 図1は,本発明の実施例1の無線タグシステムの構成例を示す。 図1において,車両1に搭載されるリーダは,タグに対して所定の周期で起動信号を送信するリーダ送信部(T)11と,タグからの応答信号を受信するリーダ受信部(R)12とを分離し,リーダ送信部(T)11を車両前方に設置し,リーダ受信部(R)12を車両後方に設置する構成である。例えばマンホールなどの保守監視対象物5に設置されるタグは,起動信号を受信するタグ受信部21と,応答信号を送信するタグ送信部22と,保守監視対象物5の状態を測定するセンサ23を備える。タグ受信部21とタグ送信部22は,車両1の進行方向に合せて分離して配置される。あるいは,タグ受信部21とタグ送信部22の配置順に車両1の進行方向を決める。 【0027】 本発明の第1の特徴は,リーダ送信部(T)11を車両前方に,リーダ受信部(R)12を車両後方に分離して設置したところにある。本発明の第2の特徴は,タグにおいて,リーダからの起動信号と非同期で動作するセンサ23と,その測定データを解析した解析データを記憶しておき,リーダからの起動信号に応じて解析データを応答信号として送信するタグ送信部22を備えたところにある。リーダおよびタグの詳細な構成については別途説明する。 【0028】 車両前部のリーダ送信部(T)11から送信された起動信号はタグ受信部21に受信され,起動制御信号としてタグ送信部22に通知される。一方,タグ送信部22は,センサ23から測定データを逐次入力し,測定データを解析して解析データとして記憶しており,起動制御信号に応じて記憶されている解析データを応答信号として送信する。タグ送信部22から送信された応答信号は,車両後部のリーダ受信部(R)12に受信される。 【0029】 ここで,図1に示すように,リーダ送信部(T)11が送信する起動信号の最大到達距離をL1(m),タグ送信部22が送信する応答信号の最大到達距離をL2(m),タグ受信部21とタグ送信部22の間隔(マンホールの長さ)をLm(m),車両1のリーダ受信部(R)12と送信部(T)11の間隔(車両1の長さ)をLc(m),車両1の速度をV(m/秒)とする。このとき,タグ受信部21が起動信号を受信してからタグ送信部22が応答信号を送信するまでに許容される最大応答時間は, (Lc+L1+Lm+L2)/V(秒) となる。例えば,L1=2m,L2=7m,Lm=5m,Lc=4m,V=16.7m/秒(=60km/時)とすると,タグの最大応答時間は1.08秒となり,タグ送信部22は起動制御信号を入力してからこの最大応答時間以内に応答信号を送信すればよい。最大応答時間は,従来の0.84秒から29%延びることになる。なお,リーダ送信部(T)11が起動信号を送信する位置が送信周期に応じてL1内に入る場合(送信周期が2ミリ秒で最大で 3.3cm)や,起動信号および応答信号の伝搬時間は無視している。 【0030】 なお,図1に示す各区間Lc,L1,Lm,L2は模式的に示しており,上記の数値例の大小とは必ずしも一致しない。以下に示す実施例においても同様である。 【0031】 このように,リーダ送信部(T)11とリーダ受信部(R)12を車両1の前後に分離して設置したことにより,その間隔Lc分だけ最大応答時間が延びることになる。また,タグ送信部22にタイマを接続し,起動制御信号の入力時刻から最大応答時間+α(αは任意のマージン)まで,応答信号を所定の送信周期で繰り返し送信することにより,リーダ受信部(R)12に確実に応答信号を受信させることができるとともに,その後に応答信号の送信を停止することにより消費電力を抑えることができる。」 イ 「【0032】 図2は,実施例1の無線タグシステムにおけるリーダの構成例を示す。 図2において,リーダ送信部(T)11は,起動信号の送信周期等を制御する制御回路111と,起動信号を送信する送信回路/送信アンテナ112により構成される。リーダ受信部(R)12は,タグから送信された応答信号(解析データ)を受信する2つの受信アンテナ/受信回路121,122と,各受信回路の出力をダイバーシチ合成して復調する合成/復調回路123と,復調された解析データを記憶するデータ記憶回路124により構成される。なお,2つの受信回路を用いてダイバーシチ合成する構成では,受信特性の向上によりタグ送信部22が送信する応答信号の最大到達距離L2を延ばすことができるが,必ずしもダイバーシチ合成する構成に限定されるものではない。 【0033】 図3は,実施例1の無線タグシステムにおけるタグの構成例を示す。 図3において,タグは,タグ受信部21,タグ送信部22およびセンサ23により構成される。タグ受信部21は,受信アンテナ/受信回路211でリーダ送信部(T)11から送信された起動信号を受信し,起動制御信号を生成してタグ送信部22に出力する。タグ送信部22は,起動制御信号をトリガとして動作する送信回路/送信アンテナ221およびデータ解析記憶回路222と,センサ23から測定データを入力する測定データ収集回路223と,測定データ収集回路223およびデータ解析記憶回路222に動作タイミングを与える測定データ収集/解析用タイマ224とにより構成される。 【0034】 センサ23は,例えばマンホール内の浸水を検知するための水圧センサ,マンホール構造に影響のある振動や歪みを検知する加速度センサやゲージセンサ,マンホール内の温度を検知する温度センサなど,マンホール内の設備点検に用いる各種保守監視の測定データを出力する。測定データ収集回路223は,測定データ収集/解析用タイマ224が設定する時間間隔で,センサ23から測定データを収集してデータ解析記憶回路222に出力する。データ解析記憶回路222は,この測定データを解析して得られる解析データを記憶するとともに,タグ受信部21から入力する起動制御信号に応じて記憶している解析データを送信回路/送信アンテナ221に出力する。例えばデータ解析記憶回路222では,マンホールの浸水の継続時間(期間)を解析したり,加速度センサで検出されるマンホールの揺れが所定の閾値を超える回数を解析したり,温度センサで検出される温度が所定の閾値を超える回数を解析し,解析データとして記憶する。送信回路/送信アンテナ221は,タグ受信部21から入力する起動制御信号に応じて,解析データを応答信号としてリーダ受信部(R)12に向けて送信する。なお,送信回路/送信アンテナ221は,上記のように,起動制御信号の入力時刻から最大応答時間+αまで,応答信号を所定の送信周期で繰り返し送信するようにしてもよい。」 上記摘記事項,図面の記載及びこの分野における技術常識を勘案すると,上記引用文献1には,「無線タグシステム」に関する次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認める。 「 車両1に搭載されるリーダは,タグに対して所定の周期で起動信号を送信するリーダ送信部(T)11と,タグからの応答信号を受信するリーダ受信部(R)12とを分離し,リーダ送信部(T)11を車両前方に設置し,リーダ受信部(R)12を車両後方に設置する構成であり,例えばマンホールなどの保守監視対象物5に設置されるタグは,起動信号を受信するタグ受信部21と,応答信号を送信するタグ送信部22と,保守監視対象物5の状態を測定するセンサ23を備え,タグ受信部21とタグ送信部22は,車両1の進行方向に合せて分離して配置される,無線タグシステム。」 2 引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(特に,【特許請求の範囲】)には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されている。 「 地表に鉛直方向に指向性を有する電磁波を発生する,移動可能な電磁波発生手段(1)と,当該手段(1)からの電磁波の電磁誘導によって応答する,地中に埋設された地表に鉛直な指向性を有する信号を発生する情報表示器(2)と,当該表示器(2)から発生する信号を検知して,それぞれの信号出力を認識する,移動可能な認識手段(3)とからなり,前記手段(1)及び手段(3)を地表に沿って水平方向に移動させることにより,前記手段(3)で,手段(1)の移動各位置における,地表に鉛直方向の信号出力値を求め,前記各位置の信号出力値の最大値となるところをもって,情報表示器(2)の地中埋設位置に対応する地表埋設位置を特定し,認識手段(3)の信号出力最大値と埋設深さとの関係を予め測定して求めた検量線に基づいて埋設物の深さを測定する,地中埋設物の深さ測定方法。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比・検討 本願発明1と引用発明1とを対比すると, a 引用発明1の「リーダ」,「タグ」,「車両1」,「マンホールなどの保守監視対象物5」,「起動信号」,「応答信号」は,それぞれ,本願発明1の「リーダ」,「無線タグ」,「車両」,「地下施設」,「起動信号」,「応答信号」に相当する。 b 引用発明1の「リーダ送信部(T)11」,「タグ受信部21」は,それぞれ,「送信アンテナ」,「受信アンテナ」を含んでいる(【0032】-【0033】)ことを勘案すれば, 引用発明1の「起動信号を送信するリーダ送信部(T)11」と本願発明1の「起動信号を電磁誘導方式で送信する電磁誘導用アンテナ」とは,「起動信号を送信するアンテナ」の点で共通し, 引用発明1の「起動信号を受信するタグ受信部21」と本願発明1の「起動信号を電磁誘導方式で受信する電磁誘導用アンテナ」とは,「起動信号を受信するアンテナ」の点で共通する。 c 後述する相違点を除き,引用発明1の「無線タグシステム」は本願発明1の「無線タグシステム」に相当するものである。 そうすると,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「 地下施設に設置される無線タグと,前記地下施設の近傍を通過する車両に設置されるリーダとにより構成され,前記リーダから所定の周期で起動信号を送信し,当該起動信号を受信した前記無線タグから応答信号を電波方式で送信し,当該応答信号を前記リーダが受信する無線タグシステムにおいて, 前記車両は,車体を有し, 前記リーダは,前記起動信号を送信するアンテナが前記車両に設置される構成であり, 前記無線タグは,前記起動信号を受信するアンテナが設置され,前記起動信号を受信する構成である 無線タグシステム。」 (相違点1) 本願発明1は,リーダから起動信号を「電磁誘導方式」で送信し,無線タグは当該起動信号を受信しているのに対し, 引用発明1は,リーダ送信部(T)11とタグ受信部21との起動信号の送受信が「電磁誘導方式」とされていない点。 (相違点2) 本願発明1では,「リーダ」は,「前記車両の走行方向をx軸方向とし,走行方向に対して直交する左右方向をy軸方向とし,走行方向に対して直交する上下方向をz軸方向とし」たとき「前記起動信号を電磁誘導方式で送信する電磁誘導用アンテナのコイルが前記車両の屋根の上に該コイルの開口面が前記z軸に平行となるように設置される構成であ」るのに対し, 引用発明1では「起動信号を送信するリーダ送信部(T)11」の具体的なアンテナ構成は明らかではない点。 (相違点3) 本願発明1では,「無線タグ」は,「前記起動信号を電磁誘導方式で受信する電磁誘導用アンテナのコイル」が設置され,「該コイルの開口面を前記車両の走行時に前記リーダの電磁誘導用アンテナから送出された磁力線の一部が通過し,前記起動信号を受信する構成である」のに対し, 引用発明1では「起動信号を受信するタグ受信部21」の具体的なアンテナ構成は明らかではない点。 (相違点4) 一致点の「車両」の「車体」に関し, 本願発明1では「鉄製の」と限定されているのに対し, 引用発明1では特段の限定がなされていない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑みて,まず(相違点3)について検討する。 引用発明2の「情報表示器(2)」は「移動可能な電磁波発生手段(1)」からの電磁波の電磁誘導によって応答する点で本願発明1の「起動信号を電磁誘導方式で受信する電磁誘導用アンテナのコイル」に相当するものといえるが,該「情報表示器(2)」は「電磁波の電磁誘導によって応答する,地中に埋設された地表に鉛直な指向性を有する信号を発生する」ものでもあって,送受信を兼用するアンテナであり,引用発明2は「情報表示器(2)」の応答によりその「地中埋設位置を特定」することができるものである。 一方,引用発明1の「タグ受信部21」は,タグ受信部21が起動信号を受信してからタグ送信部22が応答信号を送信するまでに許容される最大応答時間を延ばすために,「タグ送信部22」とはマンホールの長さであるLmなる間隔をおいて設置されるものであるところ(【0029】),起動信号を受信するのみの受信アンテナである。 そして,送受信を兼用することが必須である引用発明2の「情報表示器(2)」の受信機能のみを引用発明1の「タグ受信部21」に替えて適用することは当業者であっても容易であるとはいえないから,引用発明1の「起動信号を受信するタグ受信部21」を,本願発明1のように「前記起動信号を電磁誘導方式で受信する電磁誘導用アンテナのコイル」が設置され,「該コイルの開口面を前記車両の走行時に前記リーダの電磁誘導用アンテナから送出された磁力線の一部が通過し,前記起動信号を受信する構成である」ものとすること(相違点3)は,当業者が容易になし得たものということはできない。 したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用文献1,2に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2について 本願発明2は本願発明1に対応する方法の発明であり,本願発明1の上記(相違点3)に係る構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用文献1,2に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。 他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-11-07 |
出願番号 | 特願2016-9867(P2016-9867) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G06K)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 梅沢 俊 |
特許庁審判長 |
和田 志郎 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 新川 圭二 |
発明の名称 | 無線タグシステムおよび無線通信方法 |
代理人 | 渡部 比呂志 |
代理人 | 豊田 義元 |