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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01B
管理番号 1333984
審判番号 不服2016-16349  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-02 
確定日 2017-10-24 
事件の表示 特願2014-524363「導電性ワイヤを被覆する装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月14日国際公開、WO2013/020977、平成26年11月13日国内公表、特表2014-529843〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年8月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年8月9日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成28年3月3日付けで拒絶理由が通知され、同年6月7日付けで手続補正され、同年6月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月2日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年11月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年11月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、請求項1を、以下のように補正する補正事項を含むものである。(下線は、補正箇所を示す。)
「【請求項1】
複数のユニットを、
ワイヤ供給ユニット(1)、
ワイヤを前処理するユニット(2)、
被覆剤を塗布するユニット(5)、
被覆されたワイヤを後処理するユニット(6)、
被覆されたワイヤを巻き取るユニット(8)、
の順番で備える、導電性ワイヤを被覆する装置において、
前記ワイヤを前処理するユニット(2)は、前記ワイヤを軟化焼鈍処理するユニットであり、
熱可塑性樹脂が被覆剤として塗布され、
前記被覆されたワイヤを後処理するユニット(6)が架橋ユニットであり、
前記被覆剤を塗布するユニット(5)は、押出機(4)と、被覆剤を供給する貯蔵タンク(3)と、前記ワイヤを前処理するユニット(2)と前記被覆されたワイヤを後処理するユニット(6)との間に配置されたヘッドユニット(5´)とを有し、該ヘッドユニット(5´)に、被覆すべきワイヤが通されるようになっており、
前記ヘッドユニット(5´)の周りでは、分配通路によって前記被覆すべきワイヤに前記被覆剤が塗布されるようになっており、前記分配通路は、前記被覆剤が、前記被覆すべきワイヤの周りに環状に均一に分配され、被覆が同心的に行われるように構成されている、
ことを特徴とする、導電性ワイヤを被覆する装置。」

2 補正の適否
本件補正の上記補正事項は、補正前の請求項1を引用する請求項4を独立記載形式とし、さらに「ヘッドユニット(5´)」について「前記ヘッドユニット(5´)の周りでは、分配通路によって前記被覆すべきワイヤに前記被覆剤が塗布されるようになっており、前記分配通路は、前記被覆剤が、前記被覆すべきワイヤの周りに環状に均一に分配され、被覆が同心的に行われるように構成されている」と限定するものであって、補正前の請求項4に記載した発明と補正後の請求項1に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(1)引用文献
ア 引用文献1・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-192561号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。(下線は、当審で注目する箇所を示す。以下同様。)
a.「【0002】
【従来の技術】従来より、電力ケーブルとして、絶縁材料に架橋ポリエチレンを用いた架橋ポリエチレン絶縁ケーブル(XLPEケーブル)が多用されている。このケーブルはポリエチレンを架橋させることにより耐熱性を高めたもので、近年、その高電圧化が急速に進められており、現在では500kV級の架橋ポリエチレン絶縁ケーブルが実用化されている。」

b.「【0031】
【実施例】以下、本発明の一実施例について説明する。
(A)架橋ポリエチレン絶縁ケーブルの製造方法
図1は本発明の架橋ポリエチレン絶縁ケーブルの製造方法に用いられる架橋装置1の概略を示したもので、2は押出機、3は高周波誘導加熱コイル、4は加熱部Aおよび冷却部Bからなる架橋管である。架橋管4の上部はスプライスボックス(図示せず)を介して押出機2に接続されており、架橋管4の加熱部Aの外周にはヒータ5が配置されている。
【0032】
この加熱部Aには窒素ガス6が充填されており、管内の窒素ガス中の水分量を0.2?1.0wt%の範囲に、好ましくは0.4wt%以下に維持するように、上部のガス供給孔6aから窒素ガスが5Nm^(3)/h以上、好ましくは10Nm^(3)/h以上の流量で導入され、下部のガス排出孔6bから同量のガスが排出される。この場合、窒素ガスを精製再循環させるようにすることもできる。
【0033】
また、架橋管4の冷却部Bには内部に冷却水7が収容されており、冷却水は冷却部Bの下部の冷却水供給孔7aから供給され、上部の冷却水排出孔7bから排出されて絶縁体を冷却する。この冷却水上部の水温の上昇を防止するために、加熱部Aと冷却部Bとの接続部を2重管構造とし、常時冷却水をオーバーフローさせる。
【0034】
図2は絶縁体の押出機2の概略を示したもので、20は絶縁体の押出機、21はクロスヘッドである。ポリエチレンに架橋剤や老化防止剤等をコンパウンドしたペレットは押出機20のホッパー22から供給され、スクリュー23の回転によって混合されるとともに、バレル24とスクリュー23との間を前方に移動する。押出機20の前方にはブレーカープレート25が配置されており、1000以上の値を有する押出機メッシュ26はこのブレーカープレートの直前に配設される。絶縁材料は押出機20からクロスヘッド21に送給され、ダイス27とニップル28との間から導体9の外側に絶縁体9´として押出され、押出機2に接続する架橋管4内でケーブル10が架橋される。
【0035】
尚、図2においては絶縁体の押出しのみを示したが、半導電層(内外部)も同様にして押出される。このように構成されたケーブルの架橋装置1により本発明を実施するにあたっては、まず送出しドラム8に巻回された導体9が押出機2に導かれ、ここでその外周に架橋剤を配合した未架橋のポリエチレンが被覆される。この時、導体9は高周波誘導加熱コイル3により加熱され、次いで、ケーブル10は架橋管4の加熱部A内で約200℃に加熱されてポリエチレンが架橋された後、冷却部B内で70℃以下まで冷却され、巻取ドラム11に巻取られる。」

上記下線部の記載、関連箇所の記載及び図1、2によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「送出しドラム8に巻回された導体9は高周波誘導加熱コイル3により加熱され、押出機2に導かれ、ここでその外周に架橋剤を配合した未架橋のポリエチレンが被覆され、次いで、ケーブル10は架橋管4の加熱部A内で約200℃に加熱されてポリエチレンが架橋された後、冷却部B内で70℃以下まで冷却され、巻取ドラム11に巻取られるケーブルの架橋装置1であって、
押出機2は、押出機20とクロスヘッド21とを備え、
ポリエチレンに架橋剤や老化防止剤等をコンパウンドしたペレットは押出機20のホッパー22から供給され、スクリュー23の回転によって混合されるとともに、バレル24とスクリュー23との間を前方に移動し、押出機20の前方にはブレーカープレート25が配置されており、1000以上の値を有する押出機メッシュ26はこのブレーカープレートの直前に配設され、絶縁材料は押出機20からクロスヘッド21に送給され、ダイス27とニップル28との間から導体9の外側に絶縁体9´として押出され、押出機2に接続する架橋管4内でケーブル10が架橋されるケーブルの架橋装置1。」

イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-295631号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
「【0006】
【実施例】次に図面を用いて本発明の一実施例を説明する。図1は発泡絶縁電線を製造する実施例の工程を示している。この工程では、まず、導体芯線Aが送線機1から送り出され、矯線機2によって湾曲を矯正され、余熱機3によって余熱されて付着水分などが除去され、押出機先端部4に接続されたクロスヘッドダイ5に導入される。これとは別に、押出機(図示せず)から、化学発泡剤を含む溶融した樹脂混合物Pが、押出機先端部4を経てクロスヘッドダイ5に導入され、ここにおいて、芯線Aが樹脂混合物Pで被覆される。クロスヘッドダイ5から引き出された被覆線Bは、加熱筒6に導入されて加熱発泡され、次いで、直ちに電子線照射装置7に導入され、ここで電子線が照射される。次いで、被覆線Bは冷却水槽8に送られて冷却され、キャプスタン9において巻き取りのための張力が与えられて、巻取機10においてボビンに巻き取られる。
【0007】 この実施例の工程において、導体芯線AとしてはAWG25の銅導体を用いた。 樹脂混合物Pとしては、低密度ポリエチレン100重量部とアゾジカルボンアミド(化学発泡剤)20重量部との混和物を、押出機に投入して120?140℃で混練押出ししたものを用いた。この樹脂混合物Pをクロスヘッドダイ5において、肉厚1mmとなるように、芯線A上に被覆した。クロスヘッドダイ5から引き出された被覆線Bを、加熱筒6において250℃に加熱し発泡させた。次に、加熱筒6を通過した直後の被覆線Bに、等角度の3方向から、ダイナミトロン電子線照射装置7によって、線量を下記の3段階に変化させて電子線を照射し、樹脂混合物を架橋硬化させて実施例1?3の発泡絶縁電線を得た。
(実施例1)電子線照射条件;1MeV5mA。
(実施例2)電子線照射条件;1MeV7mA。
(実施例3)電子線照射条件;1MeV10mA。 」

ウ 周知文献・周知技術
(ア)原査定において周知技術を示す文献として引用された特開2005-340031号公報(以下、「周知文献1」という。)には、以下の記載がある。
「【0036】
次に電線の製造方法を説明する。図2に示すように、サプライから供給される導体2が、アニーラによって焼き鈍しをして、その後、プレヒータにより予備加熱され、暖まってから、押出機に送られる。
【0037】
図2に示す押出機は、導体2の搬送方向に直交する方向に結晶性のある樹脂材料10(即ち、絶縁体材料)を投入する樹脂材料投入口を設置し、更に導体2と樹脂材料10とを一緒に撚り送るクロスヘッドを設置している。このクロスヘッドの要部構造を図3に示す。
【0038】
図3に示すように、クロスヘッドには、芯金4で導体2の搬送空間を保たれている搬送部5を通じて、導体2は、速度Aで図に示す搬送方向で送り出す。搬送部5と直交する押出シリンダ6の内部にスクリュー7が回転自在に設けられている。図に示さないヒーターで加熱され溶融状態となる樹脂材料10が樹脂材料流入部8に流入され、導体2の周囲に絶縁体層3として被覆される。樹脂材料10の流入速度Bは、スクリュー7にコントロールされる。」

(イ)原査定において周知技術を示す文献として引用された実願昭56-87724号(実開昭57-198831号)のマイクロフィルム(以下、「周知文献2」という。)には、以下の記載がある。
「一般に、この種のエナメル線製造装置に用いられる焼鈍炉は、例えば第1図に示すように、心線供給ボビンから繰り出された心線1を、ガイドロール2を介して傾斜配置された前後に心線挿入孔3,4を有する蒸気加熱炉5に通して焼鈍した後、エナメル線焼付炉に供給するものであって、蒸気加熱炉5で焼鈍しされた心線1は、水槽6を経て引出されるように構成されている。」(第1頁第14行?第2頁第1行)

「上記構成のエナメル線製造装置においては、図示されていない心線供給ボビンから引き出された心線1はガイドロール17を経て矢印方向に送り出され、水槽10でガイドロール18を介して線引油,銅粉等の付着物を洗浄した後、心線挿入孔11より蒸気加熱炉9内に送り込まれて焼き鈍しが行われる。しかる後、アプリケーターでワニスが塗布され焼付炉で焼付される。」(第5頁第3行?第10行)

上記周知文献1、2の記載によれば、次の技術(以下、「周知技術」という。)は、本願優先日前周知の技術と認められる。
「電線等の製造方法において、サプライから供給される導体が、加熱ユニットで焼き鈍しされ、その後、絶縁材料塗布ユニットに送られること。」

(2)対比
補正発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「導体9」は、補正発明の「ワイヤ」、「導電性ワイヤ」に相当し、引用発明の「送出しドラム8」は、補正発明の「ワイヤ供給ユニット(1)」に相当する。
イ 引用発明の「高周波誘導加熱コイル3」は、「導体9を加熱」するから、補正発明の「ワイヤを前処理するユニット(2)」に相当するといえる(しかしながら、「前記ワイヤを軟化焼鈍処理するユニット」ではない。)。
ウ 引用発明の「押出機2」は、ここで導体9の「外周に架橋剤を配合した未架橋のポリエチレンが被覆される」から、補正発明の「被覆剤を塗布するユニット(5)」に相当し、被覆される「未架橋のポリエチレン」は、熱可塑性樹脂であることは明らかであるから、補正発明の「熱可塑性樹脂が被覆剤として塗布」される構成にも相当する。
エ 引用発明では「ポリエチレンに架橋剤や老化防止剤等をコンパウンドしたペレットは押出機20のホッパー22から供給される」から、引用発明の「ホッパー22」は、補正発明の「被覆剤を供給する貯蔵タンク(3)」に相当するといえる。
オ 引用発明では「架橋管4内でケーブル10が架橋される」から、引用発明の「架橋管4」は、補正発明の「被覆されたワイヤを後処理するユニット(6)」であり、当該ユニットが「架橋ユニット」である構成に相当するといえる。
カ 引用発明では「ケーブル10は架橋管4の加熱部A内で約200℃に加熱されてポリエチレンが架橋された後、冷却部B内で70℃以下まで冷却され、巻取ドラム11に巻取られる」から、引用発明の「巻取ドラム11」は、補正発明の「被覆されたワイヤを巻き取るユニット(8)」に相当するといえる。
キ 引用発明は「絶縁材料は押出機20からクロスヘッド21に送給され、ダイス27とニップル28との間から導体9の外側に絶縁体9´として押出され、押出機2に接続する架橋管4内でケーブル10が架橋される」ものであり、引用発明の「クロスヘッド21」は、「高周波誘導加熱コイル3」と「架橋管4」との間に配置され、被覆されるべき「導体9」が通されることは明らかであるから、補正発明の「前記ワイヤを前処理するユニット(2)と前記被覆されたワイヤを後処理するユニット(6)との間に配置されたヘッドユニット(5´)」に相当し、「被覆すべきワイヤが通されるようになって」いる構成に相当するといえる。
ク 引用発明の「絶縁材料は押出機20からクロスヘッド21に送給され、ダイス27とニップル28との間から導体9の外側に絶縁体9´として押出され」る構成は、「クロスヘッド21」において、「ダイス27とニップル28との間」が絶縁材料の分配通路となっており、絶縁材料が「導体9」の外周に環状に塗布されていることは明らかであるから、補正発明の「前記ヘッドユニット(5´)の周りでは、分配通路によって前記被覆すべきワイヤに前記被覆剤が塗布されるようになっており、前記分配通路は、前記被覆剤が、前記被覆すべきワイヤの周りに環状に均一に分配され、被覆が同心的に行われるように構成されている」点と、「前記ヘッドユニット(5´)の周りでは、分配通路によって前記被覆すべきワイヤに前記被覆剤が塗布されるようになっており、前記分配通路は、前記被覆剤が、前記被覆すべきワイヤの周りに環状に分配され、被覆が行われるように構成されている」点では共通するといえる。
ケ 引用発明の「送出しドラム8に巻回された導体9は高周波誘導加熱コイル3により加熱され、押出機2に導かれ、ここでその外周に架橋剤を配合した未架橋のポリエチレンが被覆され、次いで、ケーブル10は架橋管4の加熱部A内で約200℃に加熱されてポリエチレンが架橋された後、冷却部B内で70℃以下まで冷却され、巻取ドラム11に巻取られるケーブルの架橋装置1」は、補正発明の「複数のユニットを、ワイヤ供給ユニット(1)、ワイヤを前処理するユニット(2)、被覆剤を塗布するユニット(5)、被覆されたワイヤを後処理するユニット(6)、被覆されたワイヤを巻き取るユニット(8)、の順番で備える、導電性ワイヤを被覆する装置」に相当するといえる。

したがって、両者は、以下の一致点、相違点を有するといえる。
(一致点)
「複数のユニットを、
ワイヤ供給ユニット(1)、
ワイヤを前処理するユニット(2)、
被覆剤を塗布するユニット(5)、
被覆されたワイヤを後処理するユニット(6)、
被覆されたワイヤを巻き取るユニット(8)、
の順番で備える、導電性ワイヤを被覆する装置において、
熱可塑性樹脂が被覆剤として塗布され、
前記被覆されたワイヤを後処理するユニット(6)が架橋ユニットであり、
前記被覆剤を塗布するユニット(5)は、押出機(4)と、被覆剤を供給する貯蔵タンク(3)と、前記ワイヤを前処理するユニット(2)と前記被覆されたワイヤを後処理するユニット(6)との間に配置されたヘッドユニット(5´)とを有し、該ヘッドユニット(5´)に、被覆すべきワイヤが通されるようになっており、
前記ヘッドユニット(5´)の周りでは、分配通路によって前記被覆すべきワイヤに前記被覆剤が塗布されるようになっており、前記分配通路は、前記被覆剤が、前記被覆すべきワイヤの周りに環状に分配され、被覆が行われるように構成されている、
ことを特徴とする、導電性ワイヤを被覆する装置。」

(相違点1)「前記ワイヤを前処理するユニット(2)」が、補正発明では、「前記ワイヤを軟化焼鈍処理するユニット」であるのに対し、引用発明では、導体9を高周波誘導加熱コイル3により加熱するものであり、導体9を軟化焼鈍処理するものではない点。

(相違点2)「ヘッドユニット(5´)の周り」において、補正発明では、「分配通路は、前記被覆剤が、前記被覆すべきワイヤの周りに環状に均一に分配され、被覆が同心的に行われるように構成されている」のに対し、引用発明では、分配通路は、被覆剤が、前記被覆すべきワイヤの周りに環状に均一に分配され、被覆が同心的に行われるように構成されていることが特定されていない点。

(3)判断
まず相違点1について検討する。
引用発明の導体9の高周波誘導加熱コイル3による加熱と上記周知技術とは、導体線を絶縁材料で被覆する前に導体線に対して行う処理である点で共通する技術であるから、引用発明において、前処理として上記周知技術を採用することは、当業者が容易に想到し得ることであり、そのようにすれば、引用発明は、前処理ユニットとして導体9を軟化焼鈍処理するユニットを備えることになる。
なお、本願明細書の段落【0017】にも「ワイヤを前処理するユニットも通常のエナメル塗布機から公知である。この場合、例えばいわゆる焼鈍を行うことができる。この焼き鈍しによりワイヤが軟らかく焼き鈍しされ、伸線剤残留物が除去される。」と記載されており、補正発明の相違点1に係る構成は、公知の通常のエナメル塗布機からも当業者が容易になし得ることにすぎない。

次に相違点2について検討する。
引用文献2には、「樹脂混合物Pをクロスヘッドダイ5において、肉厚1mmとなるように、芯線A上に被覆した。」(【0007】)と記載されており、芯線A上に被覆する樹脂混合物Pの肉厚を均一(1mm)とすること、すなわち、被覆剤が、被覆すべきワイヤの周りに環状に均一に分配され、被覆が同心的に行われるようにすることが示されている。
そして、引用発明において製造される絶縁ケーブルも、絶縁被覆が、導体の周りに環状に均一に分配され、被覆が同心的であることが製品上好ましいことは明らかである。
したがって、引用発明の「クロスヘッド21」における絶縁材料の分配通路を、上記引用文献2に示されているように、絶縁材料が、被覆すべき導体9の周りに環状に均一に分配され、被覆が同心的に行われるように構成することは、当業者が容易になし得る設計事項である。

そして、補正発明の奏する作用効果も、引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術から、当業者であれば予想できる範囲内のものである。

したがって、補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができない発明である。

(4)結論
以上のとおり、本件補正は,特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、平成28年11月2日付けの手続補正は却下されたので、本願発明は、平成28年6月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項4に記載された以下のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
複数のユニットを、
ワイヤ供給ユニット(1)、
ワイヤを前処理するユニット(2)、
被覆剤を塗布するユニット(5)、
被覆されたワイヤを後処理するユニット(6)、
被覆されたワイヤを巻き取るユニット(8)、
の順番で備える、導電性ワイヤを被覆する装置において、
前記ワイヤを前処理するユニット(2)は、前記ワイヤを軟化焼鈍処理するユニットであり、
熱可塑性樹脂が被覆剤として塗布され、
前記被覆されたワイヤを後処理するユニット(6)が架橋ユニットであることを特徴とする、導電性ワイヤを被覆する装置。

【請求項4】
前記被覆剤を塗布するユニット(5)は、押出機(4)と、被覆剤を供給する貯蔵タンク(3)と、前記ワイヤを前処理するユニット(2)と前記被覆されたワイヤを後処理するユニット(6)との間に配置されたヘッドユニット(5´)とを有し、該ヘッドユニット(5´)に、被覆すべきワイヤが通される、請求項1から3までのいずれか1項記載の装置。」

2 引用文献・引用発明等
引用文献・引用発明及び周知文献・周知技術は、前記「第2 平成28年11月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」、[補正却下の決定の結論]、「2 補正の適否」、「(1)引用文献」の「ア 引用文献・引用発明」及び「ウ 周知文献・周知技術」の欄で説明したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2 平成28年10月13日付の手続補正についての補正却下の決定」、[補正却下の決定の結論]、「2 補正の適否」、「(2)対比」の欄で引用発明と対比した「補正発明」から、引用発明との相違点2に関連する「前記ヘッドユニット(5´)の周りでは、分配通路によって前記被覆すべきワイヤに前記被覆剤が塗布されるようになっており、前記分配通路は、前記被覆剤が、前記被覆すべきワイヤの周りに環状に均一に分配され、被覆が同心的に行われるように構成されている」という限定を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、補正発明と引用発明との相違点1と同じ相違点(「前記ワイヤを前処理するユニット(2)」が、本願発明では、「前記ワイヤを軟化焼鈍処理するユニット」であるのに対し、引用発明では、導体9を高周波誘導加熱コイル3により加熱するものであり、導体9を軟化焼鈍処理するものではない点。」)を有し、他の構成要件は一致するものである。
本願発明と引用発明との相違点の判断は、補正発明と引用発明との相違点1の判断と同様であるから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-23 
結審通知日 2017-05-29 
審決日 2017-06-12 
出願番号 特願2014-524363(P2014-524363)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01B)
P 1 8・ 575- Z (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北嶋 賢二  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 和田 志郎
土谷 慎吾
発明の名称 導電性ワイヤを被覆する装置  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 前川 純一  
代理人 上島 類  
代理人 二宮 浩康  

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