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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16C
管理番号 1334038
審判番号 不服2016-12264  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-12 
確定日 2017-11-22 
事件の表示 特願2012-193561「焼結軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成26年3月17日出願公開、特開2014-47892、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年9月3日の出願であって、平成27年8月17日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年11月6日に手続補正されたが、平成28年4月11日付けで拒絶査定(発送日:同年5月17日、以下「原査定」という。)され、これに対し、同年8月12日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正され、その後、当審において平成29年5月12日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の同年8月4日に手続補正されたものである。

第2 原査定の概要
本願の平成27年11月6日の手続補正により補正された下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項 1ないし5
・刊行物等 1ないし6
請求項1ないし5に係る発明は、下記の刊行物1ないし5に記載された発明及び周知技術(刊行物6参照)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

刊行物等一覧
刊行物1:特開平11-236604号公報
刊行物2:特開平8-291823号公報
刊行物3:特開2006-226398号公報
刊行物4:特開2002-70845号公報
刊行物5:特開2011-42817号公報
刊行物6:特開平7-119737号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要
本願の平成28年8月12日の手続補正により補正された下記の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物A及びBに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項 1ないし5
・刊行物等 A及びB
請求項1ないし5に係る発明は、下記の刊行物A及びBに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

刊行物等一覧
刊行物A:特開平11-132233号公報
刊行物B:特開2011-42817号公報 (原査定の刊行物5)

第4 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成29年8月4日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
回転軸を回転自在に支持する軸受面を有し、前記回転軸の回転中に、当該回転軸が前記軸受面に対して摺動する焼結軸受であって、
多孔質構造の第一軸受部が有する第一軸受面と、
多孔質構造の第二軸受部が有する第二軸受面と、
前記第一軸受部及び前記第二軸受部に含浸された潤滑剤と、
前記第一軸受部と前記第二軸受部との間に設けられた中間部と、を有し、
前記中間部の内径は、前記第一軸受部の内径及び前記第二軸受部の内径のそれぞれと比較して大きく形成され、
前記第一軸受面及び前記第二軸受面のうち少なくとも一方の軸受面には、その周方向の略全域において、複数のディンプルが設けられており、
前記ディンプルは、周方向に沿って延びており、
前記複数のディンプルが設けられている軸受面と前記回転軸の外周面との間のクリアランスは、6μm以下に設定されていることを特徴とする焼結軸受。
【請求項2】
前記ディンプルの深さは、50μm以下に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の焼結軸受。
【請求項3】
前記ディンプルの周方向の寸法は、10?1000μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の焼結軸受。
【請求項4】
前記複数のディンプルが設けられている軸受面の平均微小硬度(MHv)は、50?200の範囲内にあることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の焼結軸受。
【請求項5】
ファンモータに適用されることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の焼結軸受。」

第5 刊行物
1 刊行物A
当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物A(特開平11-132233号公報)には、「軸受装置の製造方法と軸受装置及びこれを用いたモータ」に関して、特に、【請求項2】、【請求項8】、【請求項12】、段落【0055】ないし段落【0062】、図13(c)等の記載からみて、刊行物Aには、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「多孔質状の焼結合金により形成された軸受本体に、シャフトが摺動回転する内径部が形成された焼結含油軸受であって、
前記軸受内径部はストレート状に形成され、かつ、軸受内径部に、内径が摺動部よりひとまわり大きい中逃げ部を設けることにより、上下2ヶ所の摺動部を形成し、
前記各摺動部の摺動面には、全周に渡って、回転方向に並んだ複数の凹部が一体に形成されている、焼結含油軸受。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
・引用発明の「シャフト」は、本願発明1の「回転軸」に相当し、同様に、「上下2ヶ所の摺動部」は「第一軸受部」及び「第二軸受部」に、「各摺動部の摺動面」は「第一軸受面」及び「第二軸受面」に、「中逃げ部」は「中間部」に、「凹部」は「ディンプル」に、それぞれ相当する。

・引用発明は「多孔質状の焼結合金により形成された軸受本体」であるから、摺動部が「多孔質構造」であることは、言うまでもない。

・引用発明の「回転方向」は、本願発明1の「周方向」と同じ方向である。

・引用発明は「焼結含油軸受」であるから、潤滑剤が含浸されていることは明らかである。

以上の点からみて、本願発明1と引用発明とは、次の一致点、相違点を有するものである。
[一致点]
「回転軸を回転自在に支持する軸受面を有する焼結軸受であって、
多孔質構造の第一軸受部が有する第一軸受面と、
多孔質構造の第二軸受部が有する第二軸受面と、
前記第一軸受部及び前記第二軸受部に含浸された潤滑剤と、
前記第一軸受部と前記第二軸受部との間に設けられた中間部と、を有し、 前記中間部の内径は、前記第一軸受部の内径及び前記第二軸受部の内径のそれぞれと比較して大きく形成され、
前記第一軸受面及び前記第二軸受面のうち少なくとも一方の軸受面には、その周方向の略全域において、複数のディンプルが設けられている、焼結軸受。」

[相違点1]
本願発明1は、「前記回転軸の回転中に、当該回転軸が前記軸受面に対して摺動する」のに対して、引用発明は、かかる構成を備えていない点。

[相違点2]
本願発明1は、「ディンプルは、周方向に沿って延びて」いるのに対して、引用発明は、かかる構成を備えていない点。

[相違点3]
本願発明1は、「前記複数のディンプルが設けられている軸受面と前記回転軸の外周面との間のクリアランスは、6μm以下に設定されている」のに対して、引用発明は、クリアランスの大きさは不明である点。

そこで、まず相違点1について検討する。
刊行物Aには「シャフト8が回転すると、図4(a)に示すような圧力9が発生する。凹部7の最深部以前(最深部より反回転方向部分)は他の部分より圧力が低くなり潤滑油が染み出す形になっている。そして、染み出した潤滑油は、シャフト8の回転に伴い徐々に凹部7が浅くなる方向に送られ、いわゆるくさび作用による圧力9が発生する。」(段落【0034】)との記載、「本実施例の軸受装置は、これら回転方向の流れによる圧力と、軸受上端付近に発生する圧力の相乗効果により、動圧効果が高く、回転精度が高い軸受装置となる。」(段落【0036】)との記載、及び「変形例として、図20(a)の内径ピン60を用いて図21(a)の様に左右対称な三角形状とすることもでき、あるいは、図20(b)の内径ピン62を用いて図21(b)の様な左右対称な楕円状とする等の左右対称な形状とすることもできる。この場合、動圧効果は若干低下するものの、シャフトの回転方向によらず一定の動圧効果が得られるため、左右両回転を必要とする軸受装置に使用することにより従来に比べて回転精度が高い軸受装置を提供することができる。」(段落【0075】)との記載がある。
これらの記載からみて、引用発明の「凹部」は動圧を発生させるためのものであるから、引用発明の焼結含油軸受は、焼結動圧軸受といえる。

そして、焼結動圧軸受は、軸回転中に発生する動圧力により、軸受面に対して回転軸を浮かせた状態となるから、本願発明1の「回転軸の回転中に、当該回転軸が前記軸受面に対して摺動する」ものと機序が異なる。

また、当審拒絶理由に引用された刊行物B、原査定の刊行物1ないし刊行物4及び刊行物6には、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項が記載されていない。

そうすると、引用発明において、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって、本願発明1は、相違点2及び3を検討するまでもなく、引用発明並びに刊行物B、刊行物1ないし刊行物4及び刊行物6にそれぞれ記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、それぞれ本願発明1と同様に、引用発明並びに刊行物B、刊行物1ないし刊行物4及び刊行物6にそれぞれ記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 まとめ
以上のとおり、本願発明1ないし5は、引用発明並びに刊行物B、刊行物1ないし刊行物4及び刊行物6にそれぞれ記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第7 原査定についての判断
平成29年8月4日の手続補正により補正された請求項1に係る発明は、「前記回転軸の回転中に、当該回転軸が前記軸受面に対して摺動する」との事項を備えるものとなっており、上記のとおり、引用発明並びに刊行物B、刊行物1ないし刊行物4及び刊行物6にそれぞれ記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし5は、いずれも、引用発明並びに刊行物B、刊行物1ないし刊行物4及び刊行物6にそれぞれ記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-16 
出願番号 特願2012-193561(P2012-193561)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 尾形 元北中 忠  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 冨岡 和人
中川 隆司
発明の名称 焼結軸受  
代理人 吉村 徳人  
代理人 吉村 公一  

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