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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1334051
審判番号 不服2016-11111  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-22 
確定日 2017-11-21 
事件の表示 特願2012-124684「美白剤」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月12日出願公開、特開2013-249275、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年 5月31日の出願であって、平成27年12月15日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年 1月29日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年 5月23日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年 7月22日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年 5月23日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?3に係る発明は、以下の文献2?7に記載された発明及び周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

当該原査定において挙げられた引用文献は、以下のとおりである。
引用文献等一覧
2. Fisheries science,1998年,Vol.64,No.3,p.469-473
3. Nippon Suisan Gakkaishi,1992年,Vol.58,No.10,p.1977-1982(周知技術を示す文献)
4. Marine Biotechnology,1999年,Vol.1,p.102-106(周知技術を示す文献)
5. 特開2005-008523号公報
6. 特開2007-89541号公報(周知技術を示す文献)
7. 特開昭62-79790号公報(周知技術を示す文献)
8. 特開2002-29929号公報(周知技術を示す文献)
9. 特開平1-272511号公報(周知技術を示す文献)
10. 特開平8-301904号公報(周知技術を示す文献)
11. 特開2006-16336号公報(周知技術を示す文献)

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正による、請求項1に「、メラニン生成を抑制するための」という事項を追加する補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるか、また、当該補正が新規事項を追加するものではないかについて検討する。
「、メラニン生成を抑制するための」という事項は、補正前の請求項1に記載された「有効成分」を、「メラニン生成を抑制するための有効成分」であるものに限定するものであって、かつ、その補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められるから、当該補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、「メラニン生成を抑制するための有効成分」という事項は、願書に最初に添付された明細書の【0011】段落、【0015】段落、【0047】段落等に記載された事項であるから、当該補正は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものと認める。
そして、以下の「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、上記補正後の請求項1?3に係る発明は、独立して特許を受けることができるものである。

第4 本願発明
本願請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、平成28年 7月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明であると認める。

「【請求項1】
次の式(1)で示される構造の酸性ムコ多糖類またはそれらの生理学的に許容される塩を、メラニン生成を抑制するための有効成分として含む美白剤。

(上記の構造式において、GlcNAcpはピラノース型N-アセチルグルコサミン残基を、GlcUApはピラノース型グルクロン酸残基を、Gluはグルタミン酸を、DはD型を、LはL型を、nは分子量が5万より大きいことを示す繰り返しの数をそれぞれ表す。)
【請求項2】
皮膚外用剤である請求項1に記載の美白剤。
【請求項3】
美容食品である請求項1に記載の美白剤。」

第5 引用文献、引用発明等
1.文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された文献2には、次の事項が記載されている。
(文献2は英語のため、日本語訳文にて記す。)

(2-1)(p.469要旨欄第1?9行)
「海洋細菌シュードモナス・エスピーNo.42株(Pseudomonas sp. No.42)の生産する多糖類が、モル比2:1:1のN-アセチル-D-グルコサミン残基(D-GlcNAc)、D-グルクロン酸残基(D-GlcUA)及びL-グルタミン酸残基(L-Glu)から構成される高分子量のグリコサミノグリカンであることを見出した。構造解析は、化学的技術とNMRの技術を組み合わせて行い、当該多糖類が、以下の構造式で表される鎖状の繰り返し単位からなるものであることを確認した。



(2-2)(p.473右欄第2?6行)
「さらに、天然の多糖類は、α-D-グルコピラノシル残基のO-3位とO-4位にO-アセチル基が存在することを示す・・・というシグナルを示した。」

(引用発明の認定)
摘記事項(2-2)から、多糖類を構成する残基のうち、α-D-GlcNAcについてはピラノース型であることが認められる。
また、文献2には、当該多糖類の用途等に関する記載がない。
したがって、文献2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「次の構造式の繰り返し単位からなる酸性ムコ多糖類。

(上記の構造式において、D-GlcNAcはN-アセチルグルコサミン残基を、D-GlcUAはD-グルクロン酸残基を、また、L-GluはL-グルタミン酸を示す。また、構造式中のα-D-GlcNAcはピラノース型である。)」

2.文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された文献5には、次の事項が記載されている。

(5-1)(請求項1?2)
「【請求項1】
海洋細菌が生産する酸性ムコ多糖類又はそれらの生理学的に許容される塩もしくは誘導体を有効成分として含む美白剤。

【請求項2】
酸性ムコ多糖類が、次の構造式で示される化合物である請求項1記載の美白剤。

(上記の構造式において、GalNAcpはピラノース型N-アセチルガラクトサミン残基を、GlcUApはピラノース型グルクロン酸残基を、DはD型を、LはL型を、Pyrはピルビン酸を、nは繰り返しの数をそれぞれ表す。)」

(5-2)(【0008】段落?【00010】段落)
「【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ヒト皮膚美白剤として使用が可能な物質を求めて、鋭意研究を進めていたところ、軟骨培養細胞増殖促進作用を有する物質として知られている海洋細菌が生産する酸性ムコ多糖類にメラノーマ細胞のメラニンの産生を抑制する効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は(1)海洋細菌の生産する酸性ムコ多糖類又はその生理学的に許容される塩もしくは誘導体を有効成分として含有することを特徴とする美白剤に関する。
尚、本多糖類としては、海洋細菌シュードモナス・エスピーWAK-1(Pseudomonas sp.WAK-1)菌株又はその変異株の培養物より分離精製された酸性ムコ多糖類を用いることが好ましい[マツダ(M.Matsuda)ら:Fisheries Science,63,983-988(1997)]。これら酸性ムコ多糖類は、本明細書において単に「WAK-1-A」又は「多糖類WAK-1-A」と表記する。
本発明の美白剤の有効成分として用いられる海洋細菌が生産する多糖類WAK-1-Aは、次の構造式で示される化合物である。

(上記の構造式において、GalNAcpはピラノース型N-アセチルガラクトサミン残基を、GlcUApはピラノース型グルクロン酸残基を、DはD型を、LはL型を、Pyrはピルビン酸を、nは繰り返しの数をそれぞれ表す。)
また本発明は、別の態様として酸性ムコ多糖類又はそれらの生理学的に許容される塩もしくは誘導体の美白剤としての使用にも関する。また本発明は、美白治療において酸性ムコ多糖類又はそれらの生理学的に許容される塩もしくは誘導体を用いる美白治療方法にも関する。」

(5-3)(【0018】段落?【0019】段落)
「(有効成分)
本発明で使用される多糖類WAK-1-Aは、医薬として使用できる程度に精製されたものであれば、種々の方法で調製されたものを用いることができる。WAK-1-Aの調製方法としては、各種の方法が知られている。例えば、海洋微生物を炭素源として蔗糖、窒素源としてペプトン、酵母エキスを含有する海水を寒天で固めた培地で培養して多糖類を生産し、採取、精製して得ることができる[マツダ(M.Matsuda):ら、日本水産学会誌,58,1735-1741(1992)]。また、海洋微生物を所定の培地において培養して多糖類を生産するに際し、海水よりも高濃度の塩化ナトリウム含有培地において微生物を培養することを特徴とする多糖類の生産方法によることもできる(特願2002-6352)。
より具体的には、例えば寒天平板培養では、炭素源として蔗糖、窒素源としてペプトン、酵母エキスを含有する多糖類生産用海水培地を寒天で固めた培地においてシュードモナス・エスピーWAK-1(Pseudomonas sp.WAK-1)菌株又はその変異株を培養し、寒天平板上に生じた粘質物中のWAK-1-Aと硫酸多糖類の混合物からWAK-1-Aを分離、精製して得ることができる。」

(5-4)(【0037】段落?【0045】段落)
「【実施例】
次に参考例及び実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する・・・。

(参考例1)
・・・シュードモナス・エスピーWAK-1菌株(Pseudomonas sp.WAK-1)菌株の保存用斜面培養から、1白金耳を試験管中の上記滅菌培地・・・に接種し・・・振とう培養を行い、次いでこの前培養液・・・海水から調製した滅菌培地・・・に接種し・・・静置培養を行った。培養後培養液を遠心分離して菌体を除いた上澄液に、2倍量のエタノールを加えて白色沈殿を得た。この沈殿物を採取して水200ml中に溶解し、この溶液に再度2倍量のエタノールを加えて多糖類を沈殿させ、噴霧乾燥により粉末化とした。
これを・・・リン酸緩衝液に溶解し・・・DEAE-セルロースイオン交換クロマトグラフィーにより吸着した画分から0.4M NaClで溶出される画分を集め、透析後凍結乾燥して酸性ムコ多糖類粉末を得た。
このようにして得られた多糖類については、セルロースアセテート膜電気泳動法を用いて均一性を確認すると共に、化学分析、核磁気共鳴分析により、公知の多糖類WAK-1-Aであることを確認した。

(参考例2)
・・・参考例1と同じ方法で菌体を遠心分離により除いて同様の処理をして多糖類を得た。このようにして得られた多糖類については、セルロースアセテート膜電気泳動法を用いて均一性を確認すると共に、化学分析、核磁気共鳴分析により、公知の多糖類WAK-1-Aであることを確認した。
参考例1で得られたWAK-1-Aを使用して,メラノーマ細胞に対する細胞増殖とメラニン生成抑制効果を調べ試料無添加の場合と比較して試料添加系での細胞増殖率,メラニン生成量を求めた。又陽性コントロールとしてアルブチン(Fluka Chemie)を使用した。

(i)細胞中のメラニン量の測定方法
・・・2x104個のマウスB16メラノーマ細胞を所定の濃度となるように試料を含む上記培養液5mlを入れた直径6cmのシャーレに播種し・・・培養した。試料は、0.5mg/4mlの濃度となるように上記培養液に溶解した後0.45μmのフイルターで予め除菌して使用した。4日間培養後、新しい培養液(同様に試料を含む)に交換し更に4日間同条件で培養した後,・・・細胞を分散させ遠心分離により回収した。これを上記培養液2mlを用いて細胞浮遊液を作り,その0.1mlを細胞計数用として使用した。細胞数は血球計算板を使用して測定し,シャーレ当たりの細胞数を算出した。この結果を図1に示す。
図1の結果から明らかなように,WAK-1-Aは,メラノーマ細胞の増殖抑制効果、すなわち細胞毒性は認められなかった。

(ii)細胞中のメラニン量の測定方法
(i)の方法で細胞数を測定した残りの細胞浮遊液をリン酸緩衝液で洗浄した後直径1.3cm,穴孔5μmのフイルター(東洋濾紙)上に細胞を捕集し,その白色化度を肉眼で評価することによりメラニン産生量を判定した。この結果を図2に示す。なお、白色度の判定基準は下記によって行った。
++:白色化が大きい。+:白色化が中程度。±:やや白色化する。-:白色化しない。
図2から明らかなように、WAK-1-AはB16メラノーマのメラニン産生を抑制した。
なお、本参考例1及び2において用いられた上記のWAK-1菌株は、日本国独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター・・・に寄託し、平成14年8月28日 受託番号FERM P-18988として受託され、その後ブタペスト条約に基づく寄託への移管請求を行い受託番号FERM BP-8275として受託されたものである。
【発明の効果】
本発明の有効成分であるWAK-1-Aは、B-16メラノーマ細胞に対して、細胞毒性を示すことなくメラニン産生を著しく抑制し,皮膚に美白作用をなすので、美白剤として安全で非常に有用である。」

(5-5)(図1)




(5-6)(図2)




4.その他の引用文献について
原査定及び前置報告において周知技術を示す文献として引用された文献3、4、6?11には、以下の事項が記載されている。

(3-1)
文献3には、海洋細菌シュードモナス・エスピーNo.42株(Pseudomonas sp. No.42)の生産する多糖類について、その構造式の特定までは行われていないが、分子量が178万の多糖類が得られたことが記載されている(Fig.3A)。

(4-1)
文献4には、海洋細菌シュードモナス・エスピーNo.42株(Pseudomonas sp. No.42)の生産する多糖類について、その構造式の特定までは行われていないが、分子量が210万の多糖類が得られたことが記載されている(Figure.2のNative)。

(8-1)
文献8には、下記式に示されるようなグルコース、グルクロン酸、ラムノースからなる繰り返し構造を有する、アルカリゲネス レータスB-16株細菌産生多糖類と、美白剤(エンドセリン拮抗薬、アスコルビン酸及びその誘導体並びにそれらの塩、グルタチオン及びその誘導体並びにそれらの塩、システイン及びその誘導体並びにそれらの塩、レゾルシン及びその誘導体並びにそれらの塩、ハイドロキノン及びその誘導体並びにそれらの塩、グラブリジン、グラブレン、リクイリチン、イソリクイリチン及びこれらを含有するカンゾウ抽出物、胎盤抽出物、カロチノイド類及びこれらを含有する動植物抽出物、ネオアガロビオース、アガロースオリゴサッカライド、アスパラガス抽出物、イブキトラノオ抽出物、エンドウ豆抽出物、エイジツ抽出物、オウゴン抽出物、オノニス抽出物、海藻抽出物、キイチゴ抽出物、クジン抽出物、ケイケットウ抽出物、ゴカヒ抽出物、リノール酸を含有する植物油、サイシン抽出物、サンザシ抽出物、サンペンズ抽出物、シラユリ抽出物、シャクヤク抽出物、センプクカ抽出物、ソウハクヒ抽出物、大豆抽出物、茶抽出物、トウキ抽出物、糖蜜抽出物、ビャクレン抽出物、ブナノキ抽出物、ブドウ種子抽出物、フローデマニータ抽出物、ホップ抽出物、マイカイカ抽出物、モッカ抽出物、ユキノシタ抽出物、ヨクイニン抽出物及び羅漢果抽出物から選ばれた少なくとも1種以上)を含有する美白用皮膚外用剤が記載されている(特許請求の範囲、【0013】?【0014】段落)。

また、当該多糖類は、増粘性、分散物・乳化物特性および吸水・吸湿・保湿性を有するものとして当該美白用皮膚外用剤に配合されることが記載されている(【0020】段落)。

(9-1)
文献9には、N-アセチルDグルコサミンとDグルクロン酸からなるムコ多糖であるヒアルロン酸を睾丸ヒアルロニダーゼもしくは細菌ヒアルロニダーゼを作用させることによって生ずるオリゴ糖である下記構造式の四糖類、二糖類又は六糖類、並びに不飽和二糖類の一種もしくは2種以上の混合物、又は生じた不飽和二糖をさらに還元することによって得られる開裂不飽和二糖よりなる、化粧品に美白性、湿潤性及び紫外線吸収性を付与するための化粧品用添加剤が記載されている(特許請求の範囲、p.3左上欄)。


(10-1)
文献10には、クレブシエラ属細菌が生産する、構成糖が、D-グルクロン酸、L-ラムノース、D-ガラクトースおよびD-グルコースの4種から成り、その構成モル比が、D-グルクロン酸:L-ラムノース:D-ガラクトース:D-グルコース=0.8?1.2:2.4?3.6:0.8?1.2:0.8?1.2である、各構成糖残基の結合様式が下記式のとおりである多糖類が、保湿能及びチロシナーゼ阻害活性能を有する成分として化粧料に配合することが記載されている。

(Rha、Gal、GlcおよびGlcUAは、それぞれ、ラムノース残基、ガラクトース残基、グルコース残基およびグルクロン酸残基を示し、数字はグリコシド結合の位置を示す。)(特許請求の範囲、【0009】段落)

また、上記多糖類を製造するに際し、限外ろ過システムを使用し、限外濾過膜を透過しなかった濃縮液から凍結乾燥して得る方法が記載されている(【0052】段落)

(6-1)
文献6には、多糖類等の高分子有機物を加水分解する酵素反応の制御方法などについて記載されている。

(7-1)
文献7には、ヒアルロン酸にヒアルロニダーゼを作用させて、改質されたヒアルロン酸を得る方法などが記載されている。

(11-1)
文献11には、海洋細菌が生産する下記構造式の酸性ムコ多糖類の製造方法として、分子量5万カットの中空糸UF膜モジュールを備えた膜濾過装置を用いて、高分子画分の酸性ムコ多糖類を得る方法が記載されている(特許請求の範囲、【0029】段落)。

(上記の構造式において、GalNAcpはピラノース型N-アセチルガラクトサミン残基を、GLcUApはピラノース型グルクロン酸残基を、DはD型を、LはL型を、Pyrはピルビン酸を、nは繰り返しの数をそれぞれ表す。)

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用発明との対比
本願発明1と引用発明の一致点、相違点は、以下のとおりである

(一致点)
「次の構造式の繰り返し単位からなる高分子量の酸性ムコ多糖類。

(上記の構造式において、D-GlcNAcはN-アセチルグルコサミン残基を、D-GlcUAはD-グルクロン酸残基を、また、L-GluはL-グルタミン酸残基を示す。また、α-D-GlcNAcはピラノース型である。)」

(相違点1)
本願発明1は、当該酸性ムコ多糖類を、「メラニン生成を抑制するための有効成分として含む美白剤」であるのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

(相違点2)
本願発明1では、上記構造式で表される繰り返し単位の数が、「分子量が5万よりも大きいことを示す繰り返しの数」であることが特定されているが、引用発明では、繰り返し単位の数について、そのような特定がなされていない点。

(相違点3)
本願発明1では、上記の構造式において、β-D-GlcUA及びβ-D-GlcNAcがピラノース型であることが特定されているが、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

(2)引用発明との相違点1についての判断
上記相違点1について検討すると、文献2には、上記多糖類の用途については記載がなく、当該多糖類をメラニン生成の抑制のために用いることや、美白剤に用いることについて、記載も示唆もされていない。
この点、文献5には、シュードモナス属の海洋細菌から得られる酸性ムコ多糖類(WAK-1-A)にメラニン生成抑制作用があり、美白剤として利用できることが記載されているが(摘記事項(5-1)?(5-6))、当該WAK-1-Aは、引用発明の多糖類とは、その構造が異なる。具体的には、引用発明の酸性ムコ多糖類は、N-アセチルグルコサミンとグルタミン酸を含み、繰り返しの基本単位構造中に3つの環を含む鎖状のものであるのに対し、文献5に記載の酸性ムコ多糖類(WAK-1-A)は、N-アセチルガラクトサミンとピルビン酸を含み、繰り返しの基本単位構造中に4つの環を含む分岐状のものとなっている。
化学構造が大きく異なれば、通常、その生理活性も異なるものとなることが本願出願時の技術常識であると認められるところ、同属の海洋細菌から得られる酸性ムコ多糖類であっても、その構成糖やアミノ酸の種類、そして、基本単位構造を形成する環の数や分岐の有無までもが異なる文献5に記載の多糖類の有するメラニン生成抑制や美白という生理活性が、引用発明の多糖類にもあると、当業者は通常予測し得ないと解される。
そして、引用発明と文献5に記載の多糖類とは、シュードモナス属の海洋細菌から得られる酸性ムコ多糖類である点や、β-D-グルクロン酸残基を含む点では共通するが、周知文献として引用された文献3、4、6?11に記載の事項の内容を併せ参酌してみても、これらの共通点を有する成分であれば、メラニン生成の抑制作用や美白効果を奏するものである、といった技術常識が本願出願日にあったとも認めることはできない。
したがって、引用発明の酸性ムコ多糖類を、メラニン生成抑制や美白のための成分として用いることは、文献2及び文献5、並びに文献3、4、6?11等の本願出願日の技術常識に基づき、当業者が容易に想到することができなかったと認められる。
そして、本願発明は、本願の請求項1に記載の構造式を有する酸性ムコ多糖類について、本願明細書の実施例4に記載の試験を具体的に行って(【0044】段落?【0047】段落、図1)、当該成分が、細胞毒性を示すことなくメラニン生成抑制作用を発揮し、美白剤として利用できる好適な成分であるということを初めて見出したものであることが認められる。

(3)小括
よって、本願発明1は、上記相違点2、相違点3について判断するまでもなく、文献2及び文献5、並びに文献3、4、6?11等の本願出願日の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2、3について
本願発明2、3は、本願発明1をさらに限定したものであるから、本願発明1と同じ理由により、文献2及び文献5、並びに文献3、4、6?11等の本願出願日の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定について
1.理由(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1?3は、「次の式(1)で示される構造の酸性ムコ多糖類またはそれらの生理学的に許容される塩を、メラニン生成を抑制するための有効成分として含む美白剤。

(上記の構造式において、GlcNAcpはピラノース型N-アセチルグルコサミン残基を、GlcUApはピラノース型グルクロン酸残基を、Gluはグルタミン酸を、DはD型を、LはL型を、nは分子量が5万より大きいことを示す繰り返しの数をそれぞれ表す。)」との事項を有するものとなっており、拒絶査定において引用された文献2?7に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-11-07 
出願番号 特願2012-124684(P2012-124684)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 俊之中村 泰三  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 田村 聖子
冨永 みどり
発明の名称 美白剤  
代理人 三好 秀和  

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