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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1334059
審判番号 不服2016-6647  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-06 
確定日 2017-11-01 
事件の表示 特願2013-532907「セルロースエステルを含むポリマー組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月12日国際公開、WO2012/047971、平成25年10月17日国内公表、特表2013-538931〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は、国際出願日である平成23年10月5日(パリ条約による優先権主張 2010年10月7日 2010年10月6日 いずれもアメリカ合衆国(US))にされたとみなされる特許出願であって、平成27年5月11日付けで拒絶理由が通知され、同年8月19日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲の手続補正書が提出されたが、同年12月21日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成28年5月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明の認定
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成27年8月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「吸収性製品用のポリマー組成物であって、
ポリマーと、及び
0.1重量%?25重量%のセルロースエステルとを含んでなり、
前記ポリマーが、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリウレタンウレア、ナイロン、ポリエステル及びそれらの混合物より成る群から選択されてなるものであり、
前記セルロースエステルが、プロピオン酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース及びそれらの混合物より成る群から選択されてなるものである、ポリマー組成物。」

第3 原査定の概要
原査定の理由とされた、平成27年5月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由2及び理由3の概要は以下のとおりである。

「2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
・・・・

●理由1-2について
・・・
・請求項 1-4
・引用文献等 3
・・・
・請求項 1-4
・引用文献等 4
・・・
●理由3について
本願発明の課題は、当該組成物が形成する製品に粘着性の低下及び接着性の保持又は強化をもたらすことであると解される(本願明細書中、[0007]など)。しかしながら、発明の詳細な説明には実施例が記載されておらず、上記課題を解決できることを具体的に確認した記載がない。
これに対し、一般に成形品の物性を原料の組成比から具体的に予測することは困難であることが出願時の技術常識である。
そうすると、発明の詳細な説明には、本願発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。
<引用文献等一覧>
1.略
2.略
3.国際公開第2010/111088号
4.特開2000-345012号公報
5.略」

第4 当審の判断
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1) 刊行物
刊行物A:国際公開第2010/111088号(平成27年5月11日付け拒絶理由通知書に記載の引用文献3)
刊行物B:特開2000-345012号公報(平成27年5月11日付け拒絶理由通知書に記載の引用文献4)

(2) 刊行物Aの記載事項
本願の優先日前に日本国内において頒布されたことが明らかな刊行物である刊行物Aには、以下の事項が記載されている。(なお、和訳については、刊行物Aのパテントファミリーである特表2012-521498号公報に基づいて、当審が作成した。また、下線については当審において付与した。)

ア 「1. An elastic fiber comprising polyurethane or polyurethaneurea and about 0.5% to 25% by weight of a soluble anti-tack composition.
2. The elastic fiber of claim 1 , wherein the soluble anti-tack composition includes a substituted cellulose selected from the group consisting of: cellulose butyrate, cellulose acetate butyrate, cellulose acetate propionate, and a mixture thereof.
・・・
17. A process for preparing an elastic fiber comprising:
(a) preparing a composition including at least one polyurethane, polyurethaneurea, or a mixture thereof;
(b) adding to the composition about 0.5% to 25% by weight of an anti- tack composition;
(c) adding to the composition at least one additive selected from the group consisting of: calcium stearate, magnesium stearate, organic stearate, silicon oil, mineral oil, and mixtures thereof; and
(d) preparing fiber from the composition by a spinning process selected from the group consisting of: wet spinning, dry spinning and melt spinning.
18. The process of 17, wherein the anti-tack composition is selected from cellulose acetate butyrate, cellulose acetate propionate, and a mixture thereof. 19. The process of claim 18, wherein said cellulose acetate butyrate includes about 35% to 57% by weight butyryl content.
・・・
26. A laminate structure comprising: an elastic fiber comprising polyurethane or polyurethaneurea and about 0.5% to 25% by weight of a soluble anti-tack composition; wherein said fiber is adhered to one or more layers of a substrate selected from the group consisting of: fabric, nonwoven, film, and combinations thereof.
27. The laminate of claim 26, wherein the soluble anti-tack composition includes a substituted cellulose selected from the group consisting of: cellulose butyrate, cellulose acetate butyrate, cellulose acetate propionate, and a mixture thereof.
28. The laminate of claim 26 or claim 27, further comprising at least one additional additive selected from the group consisting of calcium stearate, magnesium stearate, organic stearates, silicon oil, mineral oil, and mixtures thereof.
29. The laminate of any one of claims 26-28, wherein said laminate is adhered by an adhesive, ultrasonic bonding, thermal bonding, or combinations thereof.
30. The laminate of any one of claims 26-28, comprising a disposable hygiene article.
31. The laminate structure of claim 30, wherein said disposable hygiene article is selected from the group consisting of diapers, training pants, adult incontinence articles and feminine hygiene articles. 」(特許請求の範囲の請求項1、2、17、18、26?31)
(「【請求項1】
ポリウレタンまたはポリウレタンウレアおよび約0.5重量%?25重量%の可溶性粘着防止組成物を含んでなる弾性繊維。
【請求項2】
可溶性粘着防止組成物が酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、およびそれらの混合物よりなる群から選択される置換されたセルロースを含む、請求項1の弾性繊維。
・・・
【請求項17】
(a)少なくとも1種のポリウレタン、ポリウレタンウレア、またはそれらの混合物を含む組成物を製造し、
(b)組成物に約0.5重量%?25重量%の粘着防止組成物を加え、
(c)組成物にステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、有機ステアレート類、シリコン油、鉱油、およびそれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を加え、そして
(d)湿潤紡糸、乾燥紡糸および溶融紡糸よりなる群から選択される紡糸方法により繊維を組成物から製造する
ことを含んでなる弾性繊維の製造方法。
【請求項18】
粘着防止組成物が酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、およびそれらの混合物から選択される、請求項17の方法。
・・・
【請求項26】
ポリウレタンまたはポリウレタンウレアおよび約0.5重量%?25重量%の可溶性粘着防止組成物を含んでなる弾性繊維を含んでなるラミネートであり、該繊維が織物、不織布、フィルム、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される基質の1つもしくはそれ以上の層に付着されるラミネート。
【請求項27】
可溶性粘着防止組成物が酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、およびそれらの混合物よりなる群から選択される置換されたセルロースを含む、請求項26のラミネート。
【請求項28】
ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、有機ステアレート類、シリコン油、鉱油、およびそれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1種の追加添加剤をさらに含んでなる、請求項26または請求項27のラミネート。
【請求項29】
該ラミネートが接着剤、超音波結合、熱結合、またはそれらの組み合わせにより付着される、請求項26-28のいずれか1項のラミネート。
【請求項30】
使い捨て衛生用品を含んでなる、請求項26-28のいずれか1項のラミネート。
【請求項31】
該使い捨て衛生用品がオムツ、トレーニングパンツ、大人用失禁用品および女性用衛生用品よりなる群から選択される、請求項30のラミネート構造。」(特許請求の範囲の請求項1、2、17、18、26?31)

イ 「 [0021] Embodiments of the present disclosure include elastic or spandex fibers that include a soluble anti-tack composition. The anti-tack composition can include compounds that provide an anti-tack benefit to the spandex fiber such that the fiber may be used without the addition of a topical finish to the fiber. In addition, unlike most anti-tack compositions, the elastic fibers' inclusion of the anti-tack composition does not have a deleterious effect on the adhesion of the fiber or yarn, and may even provide an enhanced adhesion of the yarn to a fabric using hot melt elastic attachment adhesives.. In an embodiment, the soluble anti-tack composition can include a specific cellulose acetate butyrate (CAB) and/or cellulose acetate propionate (CAP). In an embodiment, the soluble anti-tack composition can include CAB and/or CAP with an additional additive such as calcium stearate, magnesium stearate, organic stearates, silicon oil, mineral oil, and mixtures thereof. These compositions are added to the polyurethane or polyurethaneurea polymer prior to spinning of the fiber.
[0022] Although cellulose acetate butyrate and cellulose acetate propionate have been identified as providing the benefit of anti-tack without reducing gluing properties, it is recognized that other classes of materials may provide a similar benefit and can be included in the anti-tack composition of the present disclosure. 」(段落[0021]?[0022])
(「【0021】
本発明の態様は可溶性の粘着防止組成物を含む弾性またはスパンデックス繊維を包含する。粘着防止組成物はスパンデックス繊維に粘着防止効果を与えて繊維に対する局部的仕上げ剤の添加なしに繊維を使用できるようにさせる化合物を包含しうる。さらに、多くの粘着防止組成物とは異なり、弾性繊維の粘着防止組成物の包含は繊維または糸の付着性に悪影響を与えず、そして熱溶融弾性付着接着剤を使用しての織物に対する糸の付着性増加を与えることさえありうる。ある態様では、可溶性の粘着防止組成物は特定の酢酸酪酸セルロース(CAB)および/または酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)を包含しうる。ある態様では、可溶性の粘着防止組成物はCABおよび/またはCAPを追加添加剤、例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、有機ステアレート類、シリコン油、鉱油、およびそれらの混合物、と共に包含しうる。これらの組成物はポリウレタンまたはポリウレタンウレア重合体に繊維の紡糸前に加えられる。
【0022】
酢酸酪酸セルロースおよび酢酸プロピオン酸セルロースは付着性を減少させずに粘着防止効果を与えるとして定義されるが、他の種類の物質が同様な効果を与えることがありそして本発明の粘着防止組成物中に含まれうることは認識される。」(段落【0021】?【0022】)

(3) 刊行物Bの記載事項
本願の優先日前に日本国内において頒布されたことが明らかな刊行物である刊行物Bには、以下の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】脂肪族エステル構造を持つ重合体と、セルロースエステル構造を持つ重合体とからなり、セルロースエステル構造を持つ重合体が5重量%未満であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】脂肪族エステル構造を持つ重合体が脂肪族ポリエステルカーボネート及び/または脂肪族ポリエステルである請求項1記載の樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1、2)

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、脂肪族エステル構造を持つ重合体とセルロースエステル構造を持つ重合体からなる樹脂組成物およびその成形品に関するものである。
【0002】本発明に係る脂肪族エステル構造を持つ重合体とセルロースエステル構造を持つ重合体からなる樹脂組成物は、成形性に優れ、フィルム、シート、ラミネート用途等に加工された場合に高い引裂強度を示す。得られる成形品は十分な機械的強度と耐熱性を有すると共に、土中、活性汚泥中、コンポスト中で容易に微生物により分解される。このため、包装材料、農業、漁業、食品分野その他のリサイクルが困難な用途に広く利用できる。たとえば、包装材料分野では、フィルムとして各種包装が可能で、ヒートシールも可能である。農業分野では土壌表面を被覆して土壌の保温を行うマルチフィルム、植木用の鉢や紐、または肥料のコーティング材料などに利用でき、あるいは漁業分野では釣糸、魚網に、さらには医療分野の医療用材料、生理用品などの衛生材料として利用できる。」

ウ 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、流動性、成形性に優れ、フィルム、シート、ラミネート用途等に加工された場合に高い引裂強度を示す樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。」

エ 「【0020】本発明において、セルロースエステル構造を持つ重合体とは一般に市販されているセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等が例示され、単独及びその混合物の形で使用される。」

(4) 刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、上記(2)ア、イから、請求項18の製造方法で製造された弾性繊維を含んでなるラミネートがオムツ、トレーニングパンツ、大人用失禁用品および女性用衛生用品等に利用されることが記載されているといえるから、以下の発明が記載されていると認める。

「オムツ、トレーニングパンツ、大人用失禁用品および女性用衛生用品用のポリマー組成物であって、
(a)少なくとも1種のポリウレタン、ポリウレタンウレア、またはそれらの混合物を含む組成物を製造し、
(b)組成物に約0.5重量%?25重量%の粘着防止組成物を加え、
(c)組成物にステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、有機ステアレート類、シリコン油、鉱油、およびそれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を加えたポリマー組成物であって、
粘着防止組成物が酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、およびそれらの混合物から選択される、
ポリマー組成物。」(以下、「引用発明A」という。)

(5) 刊行物Bに記載された発明
刊行物Bには、上記(3)アから、以下の発明が記載されていると認める。

「脂肪族エステル構造を持つ重合体が脂肪族ポリエステルカーボネート及び/または脂肪族ポリエステルである重合体と、セルロースエステル構造を持つ重合体とからなり、セルロースエステル構造を持つ重合体が5重量%未満である樹脂組成物。」(以下、「引用発明B」という。)

(6) 本願発明と引用発明Aとの対比・判断
本願発明と引用発明Aとを対比する。
引用発明Aの「オムツ、トレーニングパンツ、大人用失禁用品および女性用衛生用品用」は、本願発明における「吸収性製品用」に相当する。
引用発明Aの「少なくとも1種のポリウレタン、ポリウレタンウレア、またはそれらの混合物を含む組成物」は、本願発明の「ポリマー」が「ポリウレタン、ポリウレタンウレア」から選択されてなるものに相当する。
引用発明Aの「酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、およびそれらの混合物から選択される」「粘着防止組成物」と、本願発明の「セルロースエステル」とは、「セルロースエステル」である限りにおいて一致しており、その配合量についても重複一致している。

そうすると、本願発明と引用発明Aとは、
「吸収性製品用のポリマー組成物であって、
ポリマーと、及び
0.1重量%?25重量%のセルロースエステルとを含んでなり、
前記ポリマーが、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリウレタンウレア、ナイロン、ポリエステル及びそれらの混合物より成る群から選択されてなるものである、
ポリマー組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
配合されるセルロースエステルに関し、本願発明は、「前記セルロースエステルが、プロピオン酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース及びそれらの混合物より成る群から選択されてなるものである」と特定するのに対して、引用発明は、「酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、およびそれらの混合物から選択される」との特定である点。

以下、相違点1について検討する。
刊行物Aには、配合する粘着防止組成物に関し「酢酸酪酸セルロースおよび酢酸プロピオン酸セルロースは付着性を減少させずに粘着防止効果を与えるとして定義されるが、他の種類の物質が同様な効果を与えることがありそして本発明の粘着防止組成物中に含まれうることは認識される。」(上記(2)イ)との記載があるから、酢酸酪酸セルロースおよび酢酸プロピオン酸セルロースと同様なセルロースエステルであって、セルロースエステルとして周知であるプロピオン酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース(たとえば、特表平6-504558号公報の第10頁右上欄、特表2003-529625号公報の段落【0023】、特表2007-505704号公報の段落【0048】等参照のこと)に置換するようことは、当業者において想到容易である。

以下、その効果について検討する。
本願明細書には、セルロースエステルに関して、以下の記載がある。
「【0006】
1つの代表的なポリマー組成物は、中でも:ポリウレタン又はポリウレタンウレア及び約0.1重量%?25重量%のセルロース添加物、例えばセルロースエステルを含む。1つの態様において、セルロース添加物組成物は、酪酸セルロース、プロピオン酸セルロース、アセチルセルロース、すなわち酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース及びそれらの混合物より成る群から選ばれるアセチルセルロースのようなセルロースエステルを含む。・・・
【0007】
いくつかの態様のポリマー組成物は、それらが形成する製品、例えば繊維及びフィルムに多様な利益を与えることができる。利益には粘着性の低下及び接着性の保持又は強化が含まれ得る。」
「【0022】
本開示の態様はセルロースエステルを含む。選ばれるセルロースエステルは、製品中のポリマー、セルロースエステルの融解温度(100?250℃)及びセルロースエステルの数平均分子量(5000?150,000)に依存するであろう。制限ではない適したセルロースエステルの例は酪酸セルロース(CB)、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース(CAB)、酢酸フタル酸セルロース及び/又は酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)である。・・・
【0023】
セルロース添加物は接着性を低下させずに、又は接着性を強化しながら(例えば接着に必要な接着剤の量を減少させることにより)粘着防止の利益を与えると同定されたが、他の種類の材料が類似の利益を与えることができ、本開示のセルロース添加物と一緒に含まれ得ることが認められる。」
「【0025】
1つの態様において、本開示のポリマー組成物は中でもポリウレタン又はポリウレタンウレアのようなポリマー及び置換されたセルロースならびに1種もしくはそれより多い添加物を含む。アセチルセルロースには、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース及びそれらの混合物が含まれ得るが、これらに限られない。1つの態様において、アセチルセルロースは酢酸セルロースであることができる。酪酸セルロースを用いることもできる。・・・」
「【0027】
1つの態様において、本開示のセルロースエステルは酢酸酪酸セルロースであるか、又はそれを含む。・・・」
「【0028】
1つの態様において、本開示のアセチルセルロースは酢酸プロピオン酸セルロースである。・・・」
「【0031】
1つの態様において、本開示のポリマー組成物は中でもポリウレタン又はポリウレタンウレアのようなポリマー及び約0.5重量%?25重量%の酢酸酪酸セルロースを含み、・・・」
「【0046】
1つの態様において本開示は、ポリウレタン又はポリウレタンウレア及び約0.1重量%?25重量%の酢酸酪酸セルロースを含有するポリマー組成物を含んでなる布を提供する。・・・」
「【0047】
1つの態様において、積層構造は、ポリウレタン又はポリウレタンウレア、約0.1重量%?25重量%の酢酸酪酸セルロース及び・・・」

本願明細書の段落【0007】の記載からみて、本願発明の効果は、繊維及びフィルムに粘着性の低下及び接着性の保持又は強化を与えることと理解できる。
一方、引用発明Aの効果は、摘示イの段落【0022】から、付着性を減少させずに粘着防止効果を与えることと認められる。
そうすると、引用発明Aの効果である「付着性を減少させず」、「粘着防止」は、それぞれ、本願発明の効果である「接着性の保持」、「粘着性の低下」に相当するとみられるので、本願発明の効果は、刊行物Aの記載から予測しうるものにすぎない。

また、本願明細書におけるセルロースエステルに係る上記すべての記載をみれば、本願発明で特定するセルロースエステルである「プロピオン酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース」は、そのほかに例示されている「酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース」と同列に記載されていて、このうち「酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース」は、引用発明Aで利用されているセルロースエステルである。
そして、この引用発明Aで利用されている「酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース」は、本願明細書中に態様としての組成物の記載はあるが、本願発明の「プロピオン酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース」は、本願明細書中に態様の例示すらない。
さらに、本願明細書には、具体的な実施例の記載もなく、ポリマーにセルロースエステルを配合することにより具体的にどのような効果が奏されるかも確認されていないし、セルロースエステルの具体的な種類が異なることによりどのような効果上の差異があるかも確認されていない。
そうすると、引用発明Aとの対比において、相違点1に係る構成による本願発明と引用発明Aとの効果上の差異は認められず、本願発明が優れた効果を奏するものとは認められない。

以上のことから、本願発明は、引用発明Aに基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7) 本願発明と引用発明Bとの対比・判断
本願発明と引用発明Bとを対比する。
引用発明Bの「脂肪族ポリエステルカーボネート及び/または脂肪族ポリエステルである重合体」は、本願発明の「ポリエステルから選択されるポリマー」に相当する。
引用発明Bの「セルロースエステル」の配合量は、本願発明と重複一致している。
引用発明Bの「樹脂組成物」は、本願発明の「ポリマー組成物」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明Bとは、
「ポリマー組成物であって、
ポリマーと、及び
0.1重量%?25重量%のセルロースエステルとを含んでなり、
前記ポリマーが、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリウレタンウレア、ナイロン、ポリエステル及びそれらの混合物より成る群から選択されてなるものである、
ポリマー組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点2>
配合されるセルロースエステルに関し、本願発明は、「前記セルロースエステルが、プロピオン酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース及びそれらの混合物より成る群から選択されてなるものである」と特定するのに対して、引用発明Bは、このような特定がない点。
<相違点3>
ポリマー組成物の用途に関し、本願発明は、「吸収性製品用」と特定するのに対して、引用発明Bは、このような特定がない点。

以下、相違点について検討する。
相違点2について
セルロースエステルとして、プロピオン酸セルロース及び酢酸フタル酸セルロースは周知(たとえば、特表平6-504558号公報の第10頁右上欄、特表2003-529625号公報の段落【0023】、特表2007-505704号公報の段落【0048】等参照のこと)であるから、引用発明Bのセルロースエステルとして、これら周知のセルロースエステルを採用することは、当業者において想到容易である。
そして、そのことによる効果を検討しても、上記(6)で効果について述べたとおり、本願明細書のセルロースエステルに係る全ての記載をみても、セルロースエステルの種類を替えることによる効果上の差異は認められず、相違点2によって、優れた効果が奏されるものとも認められない。

相違点3について
刊行物Bには、発明の属する技術分野において「生理用品などの衛生材料として利用できる。」(上記(3)イ)との記載があるから、当業者が、引用発明Bのポリマー組成物を、吸収性製品用とすることは、想到容易である。
そして、そのことによる効果を検討しても、格別なものがあるとは認められない。

以上のことから、本願発明は、引用発明Bに基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(8) 請求人の主張の検討
審判請求書において、請求人は、引用文献3(刊行物A)及び引用文献4(刊行物B)に基づく進歩性の拒絶理由に対して、概略以下の主張をしている。
主張1)「本願発明固有の発明特定事項1)『0.1重量%?25重量%のセルロースエステルとを含んでなり、前記セルロースエステルが、プロピオン酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース及びそれらの混合物より成る群から選択されてなるものである』こと、及び、固有の発明特定事項2)『前記ポリマーが、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリウレタンウレア、ナイロン、ポリエステル及びそれらの混合物より成る群から選択されてなるものであ』ることは、引用文献3に開示されておらず、かつ、これらを採用することの動機づけは全く開示されていないことが明らかに理解されます。また、本願発明と、引用文献3とは、発明の対象、解決すべき課題、解決手段(発明特定事項)の全てにおいて明らかに相違しており、引用文献3に開示された事項は、本願発明に想到するための動機づけが全く開示されていないことが明らかに理解されるのです。そして、本願発明の効果は、引用文献3を精読した当業者にとり異質かつ顕著なものとなっております。」
主張2)「本願発明固有の発明特定事項1)『吸収性製品用のポリマー組成物』、及び発明特定事項2)『0.1重量%?25重量%のセルロースエステルとを含んでなり、前記セルロースエステルが、プロピオン酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース及びそれらの混合物より成る群から選択されてなるものである』こと、及び発明特定事項3)『前記ポリマーが、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリウレタンウレア、ナイロン、ポリエステル及びそれらの混合物より成る群から選択されてなるものであ』ることは、引用文献4に開示されておらず、かつ、これらを採用することの動機づけは全く開示されていないことが明らかに理解されます。また、本願発明と、引用文献4とは、技術分野及び発明の対象、解決すべき課題、解決手段(発明特定事項)の全てにおいて明らかに相違しており、引用文献4に開示された事項は、本願発明に想到するための動機づけが全く開示されていないことが明らかに理解されるのです。そして、本願発明の効果は、引用文献4を精読した当業者にとり異質かつ顕著なものとなっております。」

以下、上記主張について検討する。
主張1)に対して
上記(6)での対比のとおり、引用文献3(刊行物A)には、「0.1重量%?25重量%のセルロースエステルとを含んでな」る、「ポリマーとしてポリウレタン」からなるポリマー組成物が記載されており、吸収性製品用のポリマー組成物としても記載されているから、発明の対象、解決すべき課題、解決手段が明らかに相違するとはいえない。
そして、セルロースエステルの種類間の差異による効果の違いについては、当初明細書には記載されておらず、審判請求書で示された「追加の実験例」でも立証されていないから、効果の主張は採用できない。
そうすると、主張1は失当であって、採用できない。
主張2)に対して
上記(7)での検討のとおり、発明特定事項1)『吸収性製品用のポリマー組成物』の点は、引用文献4(刊行物B)において具体的な用途として示唆がある。また、引用文献4(刊行物B)には、上記(7)での対比のとおり、「0.1重量%?25重量%のセルロースエステルとを含んでな」る、「ポリマーとしてポリエステル」からなるポリマー組成物が記載されているから、発明の対象、解決すべき課題、解決手段が明らかに相違するとはいえない。
そして、セルロースエステルの種類間の差異による効果の違いについては、当初明細書には記載されておらず、審判請求書で示された「追加の実験例」でも立証されていないから、効果の主張は採用できない。
そうすると、主張2は失当であって、採用できない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本願発明は、上記第2に記載のとおりである。
一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の「発明が解決しようとする課題」は、明示的に記載はなされていない。わずかに、段落【0007】において「いくつかの態様のポリマー組成物は、それらが形成する製品、例えば繊維及びフィルムに多様な利益を与えることができる。利益には粘着性の低下及び接着性の保持又は強化が含まれ得る」と記載されていることから、発明の詳細な記載において示されている態様のポリマー組成物では、粘着性の低下および接着性の保持又は強化という効果が奏されうる(課題が達成されている)ことが理解できる。
そこで、発明の詳細な説明における態様を確認すると、以下のものが記載されている。

ア 「本開示の態様はセルロースエステルを含む。選ばれるセルロースエステルは、製品中のポリマー、セルロースエステルの融解温度(100?250℃)及びセルロースエステルの数平均分子量(5000?150,000)に依存するであろう。制限ではない適したセルロースエステルの例は酪酸セルロース(CB)、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース(CAB)、酢酸フタル酸セルロース及び/又は酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)である。1つの態様において、セルロースエステルはステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、有機ステアレート、シリコーン油、鉱油及びそれらの混合物のような追加の添加物を含むことができる。
セルロース添加物は接着性を低下させずに、又は接着性を強化しながら(例えば接着に必要な接着剤の量を減少させることにより)粘着防止の利益を与えると同定されたが、他の種類の材料が類似の利益を与えることができ、本開示のセルロース添加物と一緒に含まれ得ることが認められる。」(段落【0022】、【0023】)
イ 「1つの態様において、本開示のポリマー組成物は中でもポリウレタン又はポリウレタンウレアのようなポリマー及び置換されたセルロースならびに1種もしくはそれより多い添加物を含む。アセチルセルロースには、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース及びそれらの混合物が含まれ得るが、これらに限られない。1つの態様において、アセチルセルロースは酢酸セルロースであることができる。酪酸セルロースを用いることもできる。適した添加物にはステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、有機ステアレート、鉱油、シリコーン油及びそれらの混合物が含まれるが、これらに限られない。他の態様において、ポリマー組成物は紡糸仕上げ剤(spin finish)のような仕上げ剤を含むことができるが、含まなくても良い。ある態様において、ポリマー組成物又はセルロースエステル組成物は、本明細書で言及される化合物(例えばアセチルセルロース又は他の置換セルロース)の他に少なくとも1種の追加の粒子状粘着防止剤を含むことができる。」(段落【0025】)
ウ 「 1つの態様において、本開示のポリマー組成物は、例えばポリマー組成物の約0.1重量%?1.0重量%、約0.1重量%?5重量%、約0.1重量%?10.0重量%、約0.1重量%?15.0重量%、約0.1重量%?20重量%、約0.1重量%?25重量%、約0.1重量%?50.0重量%、約0.5重量%?約5.0重量%及び約1.0重量%?5.0重量%の置換セルロースを含む。」(段落【0026】)
エ 「1つの態様において、本開示のセルロースエステルは酢酸酪酸セルロースであるか、又はそれを含む。酢酸酪酸セルロースは、例えば約5重量%?90重量%、約20重量%?30重量%、約30重量%?40重量%、約40重量%?50重量%、約50重量%?60重量%、約60重量%?70重量%、約70重量%?80重量%又は約80重量%?90重量%のブチリル含有率を有することができる。あるいはまた、組成物は、ブチリル含有率が最高で且つそれを含んで(up to and including)約100%である酪酸セルロースであることができ、それは酪酸セルロースである。」(段落【0027】)
オ 「1つの態様において、本開示のアセチルセルロースは酢酸プロピオン酸セルロースである。1つの態様において、酢酸プロピオン酸セルロースは、例えば約5重量%?90重量%、約20重量%?30重量%、約30重量%?40重量%、約40重量%?50重量%、約50重量%?60重量%、約60重量%?70重量%、約70重量%?80重量%又は約80重量%?90重量%のプロピオニル含有率を有することができる。」(段落【0028】)
カ 「1つの態様において、本開示のポリマー組成物は追加の添加物を含む。1つの態様において、添加物は約0.1%?1.0%、約0.1%?2.0%、約0.1%?3.0%、約0.1%?4.0%、約0.1%?5.0%、約0.1%?6.0%、約0.1%?7.0%。約0.1%?8.0%、約0.1%?9.0%又は約0.1%?10.0%の添加物(例えばステアレート、シリコーン油又は鉱油)を含有することができる。」(段落【0029】)
キ 「1つの態様において、本開示のポリマー組成物は中でもポリウレタン又はポリウレタンウレアのようなポリマー及び約0.5重量%?25重量%の酢酸酪酸セルロースを含み、酢酸酪酸セルロースは約35重量%?57重量%のブチリル含有率又は約50重量%?57重量%のブチリル含有率を有する。弾性繊維の態様は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、有機ステアレート、シリコーン油、鉱油及びそれらの混合物のようなさらなる添加物を含有することができる。ある態様において、弾性繊維は紡糸仕上げ剤を排除する(excludes)。本開示の弾性繊維は紡糸仕上げ剤を含むことができ、それは最終的な繊維の重量(すなわち適用された後の重量)により約0.5%?7.0%の局部的に適用される鉱油又はシリコーン油あるいは鉱油又はシリコーン油を含有する混合物を含む。」(段落【0031】)
ク 「1つの態様において、本開示のポリマー組成物の調製に用いられるポリマーは、一般的に高分子グリコールを例えばジイソシアナートでキャッピングし、次いで得られるキャッピングされたグリコールを適した溶媒(例えばジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなど)中に溶解し、キャッピングされたグリコールをジオールのような連鎖延長剤を用いて連鎖延長してポリウレタンを形成するか、あるいはジアミンのような連鎖延長剤を用いて連鎖延長してポリウレタンウレアを形成することにより製造され得る。繊維又は長鎖合成ポリマーの製造に有用なポリウレタンウレア組成物は、少なくとも85重量%のセグメント化ポリウレタンを含む。典型的にこれらは高分子グリコールを含み、それをジイソシアナートと反応させてNCO-末端プレポリマー(「キャッピングされたグリコール」)を形成し、それを次いでジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド又はN-メチルピロリドンのような適した溶媒中に溶解し、そして2番目に二官能基性連鎖延長剤と反応させる。」(段落【0033】)
ケ 「1つの態様において、適した高分子グリコール成分には、約600?3,500の数平均分子量のポリエーテルグリコール、ポリカーボネートグリコール及びポリエステルグリコールが含まれるが、これらに限られない。2種もしくはそれより多い高分子グリコール又はコポリマーの混合物も含まれ得る。」(段落【0035】)
コ 「1つの態様において、用いられ得るポリエーテルグリコールの例には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、トリメチレチンオキシド、テトラヒドロフラン及び3-メチルテトラヒドロフランの開環重合及び/又は共重合から、あるいは各分子中に12個より少ない炭素原子を有するジオール又はジオール混合物、例えばエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール及び1,12-ドデカンジオールのような多価アルコールの縮合重合からの2個のヒドロキシル基を有するグリコールが含まれるが、これらに限られない。約1,700?約2,100の分子量のポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール、例えば2の官能価を有するTerathane(登録商標) 1800(INVISTA of Wichita,KS)は、特定の適したグリコールの例である。コポリマーにはポリ(テトラメチレン-コ-エチレンエーテル)グリコール(poly(tetramethylene-co-ethyleneether)glycol)が含まれ得る。」(段落【0036】)
サ 「1つの態様において、用いられ得るポリエステルポリオールの例には、各分子中に12個より多くの炭素原子を有していない低分子量の脂肪族ポリカルボン酸とポリオール又はそれらの混合物の縮合重合により製造される2個のヒドロキシル基を有するエステルグリコールが含まれるが、これらに限られない。適したポリカルボン酸の例にはマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸及びドデカンジカルボン酸が含まれるが、これらに限られない。ポリエステルポリオールの製造に適したポリオールの例にはエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール及び1,12-ドデカンジオールが含まれるが、これらに限られない。約5℃?50℃の融解温度を有する直鎖状二官能基性ポリエステルポリオールは、特定のポリエステルポリオールの例である。」(段落【0037】)
シ 「1つの態様において、用いられ得るポリカーボネートポリオールの例には、ホスゲン、クロロギ酸エステル、ジアルキルカーボネート又はジアリルカーボネートと各分子中に12個より多い炭素原子を有していない低分子量の脂肪族ポリオール又はそれらの混合物の縮合重合により製造される2個もしくはそれより多いヒドロキシ基を有するカーボネートグリコールが含まれるが、これらに限られない。ポリカーボネートポリオールの製造に適したポリオールの例にはジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール及び1,12-ドデカンジオールが含まれるが、これらに限られない。約5℃?約50℃の融解温度を有する直鎖状二官能基性ポリカーボネートポリオールは、特定のポリカーボネートポリオールの例である。」(段落【0038】)
ス 「1つの態様において、ジイソシアナート成分には単一のジイソシアナートあるいは4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアナート)及び2,4’-メチレンビス(フェニルイソシアナート)を含有するジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)の異性体混合物を含む種々のジイソシアナートの混合物も含まれ得る。いずれの適した芳香族又は脂肪族ジイソシアナートも含まれ得る。用いられ得るジイソシアナートの例には4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアナート)、2,4’-メチレンビス(フェニルイソシアナート)、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)、1,3-ジイソシアナト-4-メチル-ベンゼン、2,2’-トルエンジイソシアナート、2,4’-トルエンジイソシアナート及びそれらの混合物が含まれるが、これらに限られない。」(段落【0039】)
セ 「1つの態様において、連鎖延長剤は、ポリウレタンウレアのために水又はジアミン連鎖延長剤のいずれかであることができる。ポリウレタンウレア及び得られる繊維の所望の性質に依存して、種々の連鎖延長剤の組み合わせが含まれ得る。適したジアミン連鎖延長剤の例には:ヒドラジン;1,2-エチレンジアミン;1,4-ブタンジアミン;1,2-ブタンジアミン;1,3-ブタンジアミン;1,3-ジアミノ-2,2-ジメチルブタン;1,6-ヘキサメチレンジアミン;1,12-ドデカンジアミン;1,2-プロパンジアミン;1,3-プロパンジアミン;2-メチル-1,5-ペンタンジアミン;1-アミノ-3,3,5-トリメチル-5-アミノメチルシクロヘキサン;2,4-ジアミノ-1-メチルシクロヘキサン;N-メチルアミノ-ビス(3-プロピルアミン);1,2-シクロヘキサンジアミン;1,4-シクロヘキサンジアミン;4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルアミン);イソホロンジアミン;2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン;メタ-テトラメチルキシレンジアミン;1,3-ジアミノ-4-メチルシクロヘキサン;1,3-シクロヘキサン-ジアミン;1,1-メチレン-ビス(4,4’-ジアミノヘキサン);3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン;1,3-ペンタンジアミン(1,3-ジアミノペンタン);m-キシリレンジアミン;及びJeffamine(登録商標)(Texaco)が含まれるが、これらに限られない。」(段落【0040】)
ソ 「1つの態様において、ポリマーの分子量を制御するために、一官能基性アルコール又は第1級/第2級一官能基性アミンが場合により含まれることができる。1種もしくはそれより多い一官能基性アルコールと1種もしくはそれより多い一官能基性アミンのブレンドが含まれることもできる。本開示に関して有用な一官能基性アルコールの例には、1?18個の炭素を有する脂肪族及び環状脂肪族第1級及び第2級アルコール、フェノール、置換フェノール、エトキシル化アルキルフェノール及び500より低い分子量を含む約750より低い分子量を有するエトキシル化脂肪アルコール、ヒドロキシアミン、ヒドロキシメチル及びヒドロキシエチル置換された第3級アミン、ヒドロキシメチル及びヒドロキシエチル置換された複素環式化合物ならびにそれらの組み合わせより成る群から選ばれる少なくとも1つのメンバーが含まれるがこれらに限られず、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、N-(2-ヒドロキシエチル)スクシンイミド、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、メタノール、エタノール、ブタノール、ネオペンチルアルコール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、シクロヘキサンメタノール、ベンジルアルコール、オクタノール、オクタデカノール、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、2-(ジエチルアミノ)エタノール、2-ジメチルアミノエタノール及び4-ピペリジンエタノールならびにそれらの組み合わせを含む。適した一官能基性ジアルキルアミンブロック剤の例には:N,N-ジエチルアミン、N-エチル-N-プロピルアミン、N,N-ジイソプロピルアミン、N-tert-ブチル-N-メチルアミン、N-tert-ブチル-N-ベンジルアミン、N,N-ジシクロヘキシルアミン、N-エチル-N-イソプロピルアミン、N-tert-ブチル-N-イソプロピルアミン、N-イソプロピル-N-シクロヘキシルアミン、N-エチル-N-シクロヘキシルアミン、N,N-ジエタノールアミン及び2,2,6,6-テトラメチルピペリジンが含まれるが、これらに限られない。」(段落【0042】)
タ 「1つの態様において、本開示のポリマー溶液を合成した後、セルロースエステルを溶液中に導入する。セルロースエステルが中に分散された溶液を乾式紡糸して本開示の弾性繊維を形成することができる。乾式紡糸は、紡糸口金オリフィスを介してシャフト(shaft)中にポリマー溶液を押し通してフィラメントを形成する方法を指す。加熱された不活性ガスを室内に通過させ、フィラメントがシャフトを追加する時に溶媒をフィラメントから蒸発させる。得られる弾性繊維を次いで円筒状の芯上に巻き、スパンデックス供給パッケージを形成することができる。湿式-紡糸法も、ポリマー溶液の流延及び乾燥と同様に用いることができる。」(段落【0043】)
チ 「1つの態様において、本開示のポリマー組成物は、特別な目的のために加えられる追加の通常の添加物、例えば酸化防止剤、熱安定剤、UV安定剤、顔料及び艶消剤(例えば二酸化チタン)、染料及び染料増強剤(dye enhancers)、潤滑剤(例えばシリコーン油)、塩素分解への抵抗性を増強するための添加物(例えば酸化亜鉛;酸化マグネシウム及びハンタイトとヒドロマグネサイトの混合物)などを、そのような添加物が本開示のスパンデックスエラストマー又は粘着防止添加物と拮抗効果を生じない限り、含有することができる。二酸化チタンのような通常の添加物のいくつかは、弾性繊維の粘着性を判断するために用いられるパラメーターであるオーバーエンド引取張力(over-end take-off tension)(OETOT)測定値への小さい影響を示すが(下記で実施例中に記載する通り)、それらのいずれもOETOT測定値に感知できる影響を有しておらず、粘着性を低下させるような量でスパンデックスに加えられない。」(段落【0044】)
ツ 「1つの態様において本開示は、ポリウレタン又はポリウレタンウレア及び約0.1重量%?25重量%の酢酸酪酸セルロースを含有するポリマー組成物を含んでなる布を提供する。ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、有機ステアレート、シリコーン油、鉱油及びそれらの混合物のような追加の添加物が含まれることができる。」(段落【0046】)
テ 「1つの態様において、積層構造は、ポリウレタン又はポリウレタンウレア、約0.1重量%?25重量%の酢酸酪酸セルロース及び少なくとも1種の追加の添加物、例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、有機ステアレート、シリコーン油、鉱油及びそれらの混合物を有する本開示の弾性繊維又はエラストマーフィルムを含む。ある態様において、繊維を布帛、不織布、フィルム及びそれらの組み合わせのような基質の1つもしくはそれより多い層に接着する。積層構造を接着剤、超音波接着、熱接着又はそれらの組み合わせにより接着することができる。積層構造はおむつ、トレーニングパンツ、成人失禁用製品又は女性衛生製品のような使い捨て衛生製品を含むことができる。」(段落【0047】)

発明の詳細な説明には、上記アないしテの多数の態様が記載されているが、これらのどの態様においても上記の課題が達成されているかを明示する記載がなく、課題を解決するための手段についての説明もなければ、理論についての記載もなく、実際に測定されたデータを伴う具体的な実施例の記載も存在しない。
そうすると、上記課題がどのような態様で解決できるかが不明であるから、本願発明の記載が、上記の本願発明が前記課題を解決できることを、当業者は認識できない。

さらに、態様アについて検討すると、「セルロース添加物は接着性を低下させずに、又は接着性を強化しながら(例えば接着に必要な接着剤の量を減少させることにより)粘着防止の利益を与えると同定された」との記載はあり、段落【0016】において「定義 本明細書で用いられる場合、「粘着防止剤」又は「粘着防止添加物」という用語は、繊維製造において用いられる添加物又は作用剤(agent)である。1つの態様において、粘着防止剤はポリマーフィラメント又はポリマーフィルムの粘着性を低下させることができる。」との記載、段落【0025】における「本明細書で言及される化合物(例えばアセチルセルロース又は他の置換セルロース)の他に少なくとも1種の追加の粒子状粘着防止剤を含むことができる。」の記載を合わせみれば、上記態様アにおける態様が、課題が解決できる態様であると読み取れるかもしれない。
そこで、その前提に立って、本願発明の詳細な説明の記載が、上記の本願発明が前記課題を解決できることを、当業者が認識できるように記載されているかどうかについて検討する。
本願の出願時の当業者においては、粘着防止剤を利用することで粘着性を低下させることができることは認識できても、粘着防止剤の利用で、接着性を低下させずに、接着性を強化できることは認識できないし、粘着防止剤を利用することで接着性を低下させずに接着性を強化できることが、当業者の技術常識であったも認められない。
そして、発明の詳細な説明には、粘着防止剤として特定のセルロースエステルを利用することで、どのような化学的・物理的性質に基づいて、粘着性を低下させると同時に、接着性を低下させずに、接着性を強化できるのか、理論的な説明はされておらず、実験により確認したデータも示されていない。
してみれば、態様アにおける態様が、上記発明が解決しようとする課題を解決できる態様であるとしたとしても、当業者といえども、発明の詳細な説明の記載から、本願発明が上記発明が解決しようとする課題を解決できるとは認識できない。他の態様イないしテにおいても同様である。

以上のとおりであるから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とは認められない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、また、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2017-05-31 
結審通知日 2017-06-06 
審決日 2017-06-20 
出願番号 特願2013-532907(P2013-532907)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 佐久 敬
大島 祥吾
発明の名称 セルロースエステルを含むポリマー組成物  
代理人 大谷 寛  
代理人 北野 健  
代理人 佃 誠玄  
代理人 堅田 健史  
代理人 大野 聖二  

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