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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1334084
審判番号 不服2015-18257  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-07 
確定日 2017-11-01 
事件の表示 特願2014- 83925「発光素子パッケージモジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月 9日出願公開,特開2014-195083〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年2月26日(パリ条約による優先権主張2006年6月9日,韓国)を出願日とする特願2007-45441号(以下「原々出願」という。)の一部を,平成24年7月10日に新たな出願とした特願2012-154343号(以下「原出願」という。)について,さらにその一部を,平成26年4月15日に新たな出願としたものであって,平成27年1月19日付けで拒絶理由が通知され,同年4月22日に手続補正がされ,同年6月1日に拒絶査定がされ,これに対して,同年10月7日に審判請求がされると同時に手続補正がされたものであり,その後,当審において,平成28年10月5日付けで拒絶理由が通知され,平成29年1月6日に手続補正がされ,同年2月13日に最後の拒絶理由が通知され,同年5月8日に手続補正がされるとともに同時に意見書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
平成29年5月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであり,本件補正の前後で特許請求の範囲の請求項1は以下のとおりである(下線部は,本件補正にかかる手続補正書のとおりのものである。)。
〈補正前〉
「【請求項1】
印刷回路基板と,
前記印刷回路基板上に配置された少なくとも一つの発光ユニットと,
前記印刷回路基板上に配置された少なくとも一つのレンズと,
前記印刷回路基板上に配置された基板保護部と,
回路を具現するために前記印刷回路基板上に印刷された導線と,
を備える発光素子パッケージモジュールの製造方法であって,
前記少なくとも一つのレンズは,前記印刷回路基板上にダイレクトモールディングされ,
前記基板保護部は,前記少なくとも一つのレンズの周囲に配置されており,前記少なくとも一つのレンズの縁部に沿って帯状に形成され,
前記導線,前記少なくとも一つの発光ユニット,前記少なくとも一つのレンズ及び前記基板保護部は,前記印刷回路基板の同一水平面上に配置され,
前記基板保護部は,前記導線の高さよりも高く形成され,
前記基板保護部は,製造工程中に金型を介して加えられる圧力によって前記導線が損傷することを防止する機能を有する,
発光素子パッケージモジュールの製造方法。」

〈補正後〉
「【請求項1】
印刷回路基板と,
前記印刷回路基板上に配置された少なくとも一つの発光ユニットと,
前記印刷回路基板上に配置された少なくとも一つのレンズと,
前記印刷回路基板上に配置された基板保護部と,
回路を具現するために前記印刷回路基板上に印刷された導線と,
を備える発光素子パッケージモジュールの製造方法であって,
前記少なくとも一つのレンズは,前記印刷回路基板上にダイレクトモールディングされ,
前記基板保護部は,前記少なくとも一つのレンズの周囲に配置されており,前記少なくとも一つのレンズの縁部に沿って帯状に形成され,
前記導線,前記少なくとも一つの発光ユニット,前記少なくとも一つのレンズ及び前記基板保護部は,前記印刷回路基板の同一水平面上に配置され,
前記基板保護部は,前記導線と重なることなく配置され,
前記基板保護部は,前記導線の高さよりも高く形成され,
前記基板保護部は,製造工程中に金型を介して加えられる圧力によって前記導線が損傷することを防止する機能を有する,
発光素子パッケージモジュールの製造方法。」

2 補正事項
上記請求項1についての本件補正の補正事項は,補正前の請求項1に,「前記基板保護部は,前記導線と重なることなく配置され,」との記載を追加することである(以下「補正事項」という。)。

3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討
(1)補正事項は,補正前の請求項1の「基板保護部」及び「導線」について,補正後の「前記基板保護部は,前記導線と重なることなく配置され」として,それらの位置関係について限定するものである。よって,上記補正事項は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)しかしながら,補正事項によって追加される事項は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には記載も示唆もされておらず,当初明細書等の記載から自明な事項ともいえない。その理由は以下のとおり。

(3)補正後の請求項1の記載によれば,補正事項によって追加される事項に係る「基板保護部」及び「導線」は,それぞれ「印刷回路基板上に配置された基板保護部」及び「回路を具現するために前記印刷回路基板上に印刷された導線」であって,当初明細書等を見ると,当該「印刷回路基板上に配置された基板保護部」及び「回路を具現するために前記印刷回路基板上に印刷された導線」を備えるものは,段落【0056】?【0061】に記載された「第3実施例」のうち,特に段落【0060】?【0061】に,図7とともに記載されたものである。

(4)当該段落【0056】?【0061】には以下の記載がある。
「【0056】
<第3実施例>
一方,発光ユニット200が印刷回路基板210上の発光ダイオードパッケージ220である場合には,印刷回路基板210には回路を構成するために導線が印刷されている。
【0057】
この場合,通常,第1金型110と第2金型120が結合する際に数トン(ton)の圧力が加えられるため,第1金型110と第2金型120との間に位置する印刷回路基板210上に印刷されている導線が損傷する恐れがある。
【0058】
したがって,このように第1金型110と第2金型120の結合圧力によって印刷回路基板210上の導線が損傷するのを防止するために,第1金型110と第2金型120が結合される際に,各金型と印刷回路基板210との接触部に弾性または伸縮性の材質からなる基板保護部230,231が備えられてもよい。
【0059】
すなわち,基板保護部230は,図6に示すように,レンズ形状溝111の周縁にそのレンズ形状の溝111と同じ形状にすることができ,特に,レンズ形状の溝111の縁部に帯状に形成されてもよい。
【0060】
また,図7に示すように,基板保護部231は,印刷回路基板210上に形成されてもよい。このように印刷回路基板210上に形成された基板保護部231は,第1金型110と第2金型120が結合される時,印刷回路基板210と第1金型110間に加えられる圧力を和らげる。
【0061】
一方,このような基板保護部231は,印刷回路基板210上の導線の高さよりも高く且つ円形の凹凸形状で形成されても良い。」

ここで,図7は以下のものである。


(5)上記(4)によれば,「基板保護部」及び「導線」の位置関係について,当初明細書等には,「基板保護部231は,印刷回路基板210上の導線の高さよりも高く」「形成されても良い」(段落【0061】)との記載はあるが,補正事項にかかる「前記基板保護部は,前記導線と重なることなく配置され」との記載はない。

(6)また,当初明細書等には,上記段落【0057】に記載されたとおり,「第1金型110と第2金型120が結合する際に数トン(ton)の圧力が加えられるため,第1金型110と第2金型120との間に位置する印刷回路基板210上に印刷されている導線が損傷する恐れがある」ところ,「各金型と印刷回路基板210との接触部に弾性または伸縮性の材質からなる基板保護部」(段落【0058】)を設けることにより,「印刷回路基板210上に形成された基板保護部231は,第1金型110と第2金型120が結合される時,印刷回路基板210と第1金型110間に加えられる圧力を和らげる」(段落【0060】)と記載されており,すなわち,第1金型110と印刷回路基板210の間に「弾性または伸縮性の材質からなる基板保護部」が設けられることにより,印刷回路基板210と第1金型110間に加えられる圧力が,「弾性または伸縮性の材質からなる基板保護部」の変形等により和らげられ,これにより導線の損傷が防止でき,これは,第1金型110が印刷回路基板210に直接接触する場合よりも,導線に加わる圧力が,基板保護部の変形等により分散される作用によるものと理解できる。
この際,前記基板保護部が,前記導線と重なることなく配置される必要がないことは明らかである。

(7)さらに,「基板保護部は,前記少なくとも一つのレンズの周囲に配置されており」,当該レンズが「発光ユニット」の略真上に配されることから,「発光ユニット」が「基板保護部」に取り囲まれることは当然といえる。一方,「前記印刷回路基板上に印刷された導線」は,「回路を具現するため」のものであるところ,当該「回路」によって,「発光ユニット」と,レンズに覆われた部分以外との電気的な接続がなされることも当然であるから,「前記印刷回路基板上に印刷された導線」と「一つのレンズの周囲に配置されて」いる「基板保護部」の重複は避けられないことは明らかである。
しかしながら,当初明細書等には,当該重複を回避することについて何ら言及がないから,補正事項にかかる「前記基板保護部は,前記導線と重なることなく配置され,」との構成が示唆されているともいえない。

(8)請求人は,平成29年5月8日に提出した意見書において,「万一,「基板保護部231」が「導線」と「印刷回路基板210」の同一水平面上に配置されず,例えば,下図のように「導線」と重なって「導線」上に配置される場合,・・・(中略)・・・,「金型110,120」が互いに結合する際の圧力によって「印刷回路基板210」の「導線」が損傷することがあります。」(意見書2ページ14?19行)と主張するが,当初明細書等には当該主張のように導線が損傷する旨の記載はなく,逆に,上記(6)で検討したとおり,前記基板保護部が前記導線と重なっていても「圧力を和らげる」ことができ,これにより導線の損傷が防止できると理解できるので,前記請求人の主張はあたらない。

(9)さらに,平成28年10月5日付けで通知した拒絶理由において,特開平8-330637号公報(引用例2)及び特開平8-236560号公報(引用例3)を引用して例示したとおり,配線基板を備える樹脂パッケージを金型を用いて形成する際に,上下金型によって挟まされる部分の境界(エッジ)において,配線を含む基板表面に損傷が生じるため,これを防ぐために,配線を含む基板表面に保護のための部材を設けることは,本願の優先日前において周知の技術であった。しかしながら,当初明細書等においては,当該周知技術では,前記請求人が主張するように,導線と基板保護部が重なって配置された場合における導線の損傷が発生する旨の指摘や,これを基とした課題設定がされていないことを考慮すると,当初明細書等には,「基板保護部」及び「導線」の位置関係について,前記周知技術を越える新たな技術思想が開示されているとはいえない。


(10)よって,補正事項に係る,「前記基板保護部は,前記導線と重なることなく配置され,」との事項は,当初明細書等には記載も示唆もされておらず,当初明細書等の記載から自明な事項ともいえない。

(11)小括
したがって,補正事項は,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであり,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


4 補正却下の決定の理由のむすび
よって,上記1の補正内容を含む本件補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものとはいえず,特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年5月8日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成29年1月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】
印刷回路基板と,
前記印刷回路基板上に配置された少なくとも一つの発光ユニットと,
前記印刷回路基板上に配置された少なくとも一つのレンズと,
前記印刷回路基板上に配置された基板保護部と,
回路を具現するために前記印刷回路基板上に印刷された導線と,
を備える発光素子パッケージモジュールの製造方法であって,
前記少なくとも一つのレンズは,前記印刷回路基板上にダイレクトモールディングされ,
前記基板保護部は,前記少なくとも一つのレンズの周囲に配置されており,前記少なくとも一つのレンズの縁部に沿って帯状に形成され,
前記導線,前記少なくとも一つの発光ユニット,前記少なくとも一つのレンズ及び前記基板保護部は,前記印刷回路基板の同一水平面上に配置され,
前記基板保護部は,前記導線の高さよりも高く形成され,
前記基板保護部は,製造工程中に金型を介して加えられる圧力によって前記導線が損傷することを防止する機能を有する,
発光素子パッケージモジュールの製造方法。」

2 刊行物に記載された発明
(1)引用例1: 特開2001-185761号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2001-185761号公報(以下「引用例」という。)には,図14?16とともに以下の記載がある(下線は当審で付加。以下同様。)。

ア「【0002】
【従来の技術】従来より,トランスファーモールド成型により一度に多数個生産される面実装用光半導体装置としては,例えば,図13にその構成を示すと,ガラスエポキシ等の基板31上に,一対のパターン状電極配線(メッキ配線)32a,32bが形成され,前記各メッキ配線32a,32bは基板31の表面から側面を経て裏面に達し,該面実装用光半導体装置の端子電極ともなっている。基板31の凹所33に形成された一方のメッキ配線32a上には,発光素子または受光素子である光学素子34が搭載され,この光学素子34は,他方のメッキ配線32bに金配線37にて接続されている。そして,光学素子34の周囲には,透光性樹脂によりモールドされた透光性モールド体35が形成され,この上部には,光学素子34の集光性を高めるためのレンズ35aが形成されている。
【0003】前記面実装用光半導体装置の製造方法を図14,図15を参照して簡単に説明すると,まず,一度に多数個生産するための多連構成である基板31上に,この光半導体装置を単品化したときの側面となるカッティング分離用孔部36を複数形成する。次いで,金メッキ等による各一対のメッキ配線32a,32bを,基板31の表面から孔部36を介して基板31の裏面に達するように形成する。そして,基板31の凹所33に形成された一方のメッキ配線32a上に,光学素子34を導電性樹脂にてダイボンディングして搭載し,金配線37にてワイヤボンディングして他方のメッキ配線32bと接続する。その後図15に示すように,エポキシ樹脂等の透光性樹脂を用いてトランスファーモールド成型にて透光性モールド体35を形成する。同図に示すように,基板31は前後左右に多連構成となっているので,分割ラインLに沿ってダイシングすると,図13に示すような単独の面実装用光半導体装置が多数個できる。
【0004】ところで,前記トランスファーモールド成型する際には,図16に示すように,基板31は金型38の下型38bの上にセットされ,上方から金型38の上型38aによって押さえ込まれ,そして,金型38のキャビティ39内に透光性樹脂が注入されて透光性モールド体35が形成されるが,この型締めの際に,図16(b)に示すように,金型38の上型38aのキャビティ39のエッジがメッキ配線32a,32bに当接し,型締め時の圧力及び金型38の温度等によって基板31の表面及びメッキ配線32a,32bに段差を生じさせる(図16(b)のC部参照)場合があり,これにより,メッキ配線32a,32bは断線等の大きなダメージを受ける。」

イ ここで,図15は以下のものである。


ウ 上記記載から,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ガラスエポキシ等の基板31上に,一対のパターン状電極配線(メッキ配線)32a,32bが形成され,前記各メッキ配線32a,32bは基板31の表面から側面を経て裏面に達し,該面実装用光半導体装置の端子電極ともなっており,また,基板31の凹所33に形成された一方のメッキ配線32a上には,発光素子である光学素子34が搭載され,この光学素子34は,他方のメッキ配線32bに金配線37にて接続されており,そして,光学素子34の周囲には,透光性樹脂によりモールドされた透光性モールド体35が形成され,この上部には,光学素子34の集光性を高めるためのレンズ35aが形成されている,面実装用発光半導体装置の製造方法であって,
基板31上に,この光半導体装置を単品化したときの側面となるカッティング分離用孔部36を複数形成し,次いで,金メッキ等による各一対のメッキ配線32a,32bを,基板31の表面から孔部36を介して基板31の裏面に達するように形成し,基板31の凹所33に形成された一方のメッキ配線32a上に,光学素子34を導電性樹脂にてダイボンディングして搭載し,金配線37にてワイヤボンディングして他方のメッキ配線32bと接続し,その後,エポキシ樹脂等の透光性樹脂を用いてトランスファーモールド成型にて透光性モールド体35を形成し,
トランスファーモールド成型する際には,基板31は金型38の下型38bの上にセットされ,上方から金型38の上型38aによって押さえ込まれ,そして,金型38のキャビティ39内に透光性樹脂が注入されて透光性モールド体35が形成される,
面実装用発光半導体装置の製造方法。」


3 対比
引用発明と本件発明とを対比する。
ア 引用発明の「基板31」であって,「基板31上に,一対のパターン状電極配線(メッキ配線)32a,32bが形成され,前記各メッキ配線32a,32bは基板31の表面から側面を経て裏面に達し,該面実装用光半導体装置の端子電極ともなって」いるものは,本願発明の「印刷回路基板」に相当する。

イ 引用発明の「基板31の凹所33に形成された一方のメッキ配線32a上に」「搭載され」た「発光素子である光学素子34」は,本願発明の「前記印刷回路基板上に配置された少なくとも一つの発光ユニット」に相当する。

ウ 引用発明において,「基板31上に」「形成され」た,「一対のパターン状電極配線(メッキ配線)32a,32b」は,「基板31の表面から側面を経て裏面に達し,該面実装用光半導体装置の端子電極ともなって」いるものであるから,電気的回路を構成するものであることは明らかであるから,当該「一対のパターン状電極配線(メッキ配線)32a,32b」は,本願発明の「回路を具現するために前記印刷回路基板上に印刷された導線」に相当する。

エ 引用発明においては,「光学素子34の周囲には,透光性樹脂によりモールドされた透光性モールド体35が形成され,この上部には,光学素子34の集光性を高めるためのレンズ35aが形成されている」ところ,「エポキシ樹脂等の透光性樹脂を用いてトランスファーモールド成型にて透光性モールド体35を形成し」ているのであるから,透光性モールド体35の部分であるレンズ35aも,トランスファーモールド成型にて形成されるものである。また,「トランスファーモールド成型する際には,基板31は金型38の下型38bの上にセットされ,上方から金型38の上型38aによって押さえ込まれ,そして,金型38のキャビティ39内に透光性樹脂が注入されて透光性モールド体35が形成される」のであるから,透光性モールド体35(すなわちレンズ35a)は基板31上に直接形成されるものである。
よって,引用発明の「レンズ35a」が上述のとおり形成されることは,本願発明の「前記少なくとも一つのレンズは,前記印刷回路基板上にダイレクトモールディングされ」ることに相当する。

オ 引用発明の「面実装用発光半導体装置の製造方法」は,本願発明の「発光素子パッケージモジュールの製造方法」に相当する。

以上から,引用発明と本件発明とは以下の点で一致する。
「印刷回路基板と,
前記印刷回路基板上に配置された少なくとも一つの発光ユニットと,
前記印刷回路基板上に配置された少なくとも一つのレンズと,
回路を具現するために前記印刷回路基板上に印刷された導線と,
を備える発光素子パッケージモジュールの製造方法であって,
前記少なくとも一つのレンズは,前記印刷回路基板上にダイレクトモールディングされる,
発光素子パッケージモジュールの製造方法。」

一方,両者は以下の点で相違する。
《相違点1》
本願発明は,「印刷回路基板上に配置された基板保護部」であって,「前記基板保護部は,前記少なくとも一つのレンズの周囲に配置されており,前記少なくとも一つのレンズの縁部に沿って帯状に形成され,」「前記基板保護部は,前記導線の高さよりも高く形成され,」「前記基板保護部は,製造工程中に金型を介して加えられる圧力によって前記導線が損傷することを防止する機能を有する」ものを備えるが,引用発明はそのような構成を備えない点。

《相違点2》
本願発明は,「前記導線,前記少なくとも一つの発光ユニット,前記少なくとも一つのレンズ及び前記基板保護部は,前記印刷回路基板の同一水平面上に配置され」る構成を備えるが,引用発明はそのような構成を備えない点。

4 判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
前記2(1)アに摘記した,引用例1の段落【0004】に記載されているとおり,引用発明に係る面実装用発光半導体装置の製造方法においては,「金型38の上型38aのキャビティ39のエッジがメッキ配線32a,32bに当接し,型締め時の圧力及び金型38の温度等によって基板31の表面及びメッキ配線32a,32bに段差を生じさせる(図16(b)のC部参照)場合があり,これにより,メッキ配線32a,32bは断線等の大きなダメージを受ける」という問題を生ずるものである。
一方,一般に,配線基板を備える樹脂パッケージを金型を用いて形成する際に,上下金型によって挟まされる部分の境界(エッジ)において,配線を含む基板表面に損傷が生じるため,これを防ぐために,配線を含む基板表面に保護のための部材(以下「保護部材」と略記。)を帯状に設けることは,以下の周知例1及び周知例2に示されているように,周知の技術である。
それゆえ,引用発明において,上記引用例1の段落【0004】に記載された問題を解消するために,前記周知の技術を適用することは当業者が適宜になし得たことである。
ここで,前記周知の技術において,保護部材を配線の高さよりも高く形成することは,上下金型で挟む際に,配線よりも先に保護部材を接触させて当該配線を保護するために,当然になされることである。
また,引用発明においては,「透光性樹脂によりモールドされた透光性モールド体35が形成され,この上部には,光学素子34の集光性を高めるためのレンズ35aが形成されている」が,透光性モールド体自体をレンズ形状とすることは,以下の周知例5に示されているように周知の構成であり,当該構成を採用し,これに伴い前記保護部材をレンズの縁に沿って形成することは,単なる設計変更に過ぎない。
よって,引用発明において,相違点1に係る構成を備えることは当業者が適宜になし得たことである。

周知例1:特開平8-330637号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された特開平8-330637号公報(以下「周知例1」という。)には,図1?5とともに以下の記載がある。
「【0007】
【実施例】つぎに,本発明を図に示す一実施例に基づいて詳細に説明する。図1および図2に符号1で示すものは本発明に係る表面実装型発光ダイオード(以下に発光ダイオード1と略称する)であり,この発光ダイオード1は,端子部3a,マウント部3b,配線部3cで成る導電パターン3が形成された基板2にLEDチップ4がマウントされ,金ワイヤ5で配線が行われた後に透明樹脂によるモールド部6が形成されるものである点は従来例のものと同様である。
【0008】ここで,本発明では前記基板2の上面2aにハンダレジスト膜7を設けるものであり,上記ハンダレジスト膜7が設けられる位置は,端子部3aが設けられている基板2の短辺2bに平行するモールド部6の二辺が基板2と接する接合線6aを少なくとも含むものとされている。
【0009】即ち,前記基板2は前記接合線6aを境界として,一方では基板2の上面2aが前記端子部3a若しくはマウント部3b,配線部3cを含み露出し,他方では基板2の上面2aが前記端子部3a若しくはマウント部3b,配線部3cを含みモールド部6に覆われるものとなっているが,前記ハンダレジスト膜7は露出側と覆われる側との双方にわたるようにして基板2の上面2aに設けられるのである。
【0010】尚,実際の発光ダイオード1の製造工程においては,前記基板2を作成する際の導電パターン3がエッチングなど適宜な手段で形成が行われた後の時点で,例えばスクリーン印刷などにより所定位置にハンダレジスト膜7を予めに印刷しておけば良いものである。
【0011】次いで,上記の構成とした本発明の発光ダイオード1の作用および効果について説明を行う。先ず,上記の構成としたことで,図3に示すようにモールド部6を形成するために基板2を金型11,12で挾んだ場合にも前記導電パターン3の端子部3aに生じる割れ,剥がれの発生は皆無となった。
【0012】これは,前記ハンダレジスト膜7が前記基板2および導電パターン3が形成された部材に比較して軟質であるので,上記のように金型11,12に挟まれて圧縮されたときには,このハンダレジスト膜7の部分のみで変形を生じるものとなり,基板2に変形を生じることがなく,従って,割れ,剥がれは発生しなく成るのである。
【0013】
・・・(中略)・・・
【0022】図5に示すものは本発明の別な実施例であり,前の実施例が二本の接合線6aの近傍にハンダレジスト膜7を形成するものとしていたが,本発明はこれを限定するものでなく,図示のように基板2のマウント部3bと配線部3cとを除く上面2aの全面にハンダレジスト膜8を形成しても良く,要は少なくとも前記接合線6aを含むようにハンダレジスト膜8が形成されれば良いものである。」

ここで,図2,図3,及び図5は以下のものである。
【図2】

【図3】

【図5】


周知例2:特開平8-236560号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された特開平8-236560号公報(以下「周知例2」という。)には,図1?5とともに以下の記載がある
「【0026】(実施例1)図1は本発明の半導体集積回路装置の構造の一実施例を示す断面図,図2は本発明の半導体集積回路装置の製造方法の一実施例を示す断面図,図3は本発明の半導体集積回路装置の製造方法の一実施例を示す断面図,図4は本発明の半導体集積回路装置の製造方法の一実施例を示す平面図,図5は本発明の半導体集積回路装置の製造方法の一実施例を示す断面図である。
【0027】まず,本実施例1の半導体集積回路装置の構成について説明すると,半導体素子1を搭載する素子搭載基板2と,素子搭載基板2上に設けられかつ樹脂封止時に樹脂成形を行う金型3のクランプ部3aに接触する緩衝部材4とからなるPGAタイプのものであり,素子搭載基板2の裏面(半導体素子1が搭載される面と反対側の面)にはその内部配線と接続された複数個のリードピン5が取り付けられている。
【0028】ここで,半導体素子1は銀ペーストなどの接着剤6を介して素子搭載基板2に固定され,さらに素子搭載基板2上の電極とボンディングワイヤ7によって電気的に接続されている。
【0029】なお,前記半導体集積回路装置は,半導体素子1およびその周辺部の樹脂封止時に,金型3による圧力が緩衝部材4を介して素子搭載基板2に加えられるものである。
【0030】また,緩衝部材4は,例えば,接着性を備えた部材が塗布(または貼付)されたことにより粘着性を有し,かつ細巾の絶縁性シートによって形成されたダム部材であり,素子搭載基板2上の半導体素子1が搭載される面の外周部に沿った枠状を成し,素子搭載基板2上において,樹脂封止時に金型3のクランプ部3aに接触する箇所に固定されている。これにより,樹脂封止時の封止樹脂8の漏出を防ぎ,さらに,素子搭載基板2に加わる金型3の圧力を緩和する。
【0031】なお,緩衝部材4は,例えば,ポリイミド樹脂やシリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂,または熱変形温度が100℃前後,もしくはそれ以上の熱可塑性樹脂によって形成されている。ここで,前記熱硬化性樹脂もしくは前記熱可塑性樹脂は,例えば,それぞれ単独あるいは2種類以上混合して用いてもよい。
【0032】さらに,緩衝部材4は,前記熱硬化性樹脂もしくは前記熱可塑性樹脂の両者,あるいは何れか一方をガラスなどの無機物からなるクロス(布基材)や,高弾性繊維などの有機物からなるクロス(布基材)に含浸させて形成してもよい。
【0033】
・・・(中略)・・・
【0040】その後,金型3によって,半導体素子1およびその周辺部の樹脂封止を行う。
【0041】この時,金型3のクランプ部3aと緩衝部材4とを接触させた後,金型3によって,緩衝部材4を介して素子搭載基板2に所定の圧力を加える。
【0042】続いて,素子搭載基板2と金型3と緩衝部材4とによって密閉された領域に封止樹脂8を流し込み,硬化する。
【0043】これによって,半導体素子1およびその周辺部を封止することができる。
【0044】なお,素子搭載基板2と外部の実装基板などとの接続はリードピン5によって行う。
【0045】次に,本実施例1の半導体集積回路装置およびその製造方法によって得られる効果について説明する。
【0046】すなわち,半導体素子1を搭載する素子搭載基板2と,素子搭載基板2上に設けられかつ樹脂封止時に樹脂成形を行う金型3のクランプ部3aに接触する緩衝部材4とを有し,樹脂封止時に,金型3による圧力を緩衝部材4を介して素子搭載基板2に加えることにより,緩衝部材4が変形し,素子搭載基板2に加わる圧力を緩和する。また,直接素子搭載基板2に圧力を加えることを防止できる。
【0047】これによって,金型3による圧力を高くしても素子搭載基板2に加わる圧力を緩和するため,素子搭載基板2の配線の変形や断線が減少し,さらに,素子搭載基板2の破損を防止することができる。
【0048】その結果,素子搭載基板2の信頼性の向上を図る半導体集積回路装置を実現することができる。」

なお,周知例2には,素子搭載基板2の表面に配線を形成することは明示されていないが,一般に,素子搭載基板の表面に配線を形成することは,以下の周知例3及び4に示されているように,普通になされることである。

周知例3:特開2002-26188号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2002-26188号公報(以下「周知例3」という。)には,図7とともに以下の記載がある
「0002】
【従来の技術】半導体装置が用いられる電子機器が小型化・薄型化されたことにより,また半導体装置が多ピン化されたことにより,半導体装置がBGA構造で提供される場合が多くなってきている。図7は,特開平9-22961号公報にて開示された従来のBGA型半導体装置の断面図である。図7に示されるように,樹脂基板101b,表面配線101c,裏面配線101d,内層配線101eを有し,基板を貫通して配線間を接続するスルーホール101aが形成された印刷配線基板101の表面は,半導体チップ102が搭載される領域と表面配線101cのワイヤボンディング領域を除いて,ソルダレジスト105により覆われている。(後略)」

周知例4:特開平10-92967号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された特開平10-92967号公報(以下「周知例4」という。)には以下の記載がある
「【0004】従来のBGAの基本構造をより詳しく説明すると,先ず比較的小さなパッケージ用両面配線基板にICチップが搭載され,ICチップの電極パッドと当該パッケージ用基板の配線パターンとがワイヤーボンディングにより接続される。パッケージ用基板は,その配線パターン及びスルーホールによって,ワイヤーボンディングされた位置から底面側のハンダボールが形成される所定の位置までを個々に接続する。(後略)」

周知例5:特開平7-30152号公報
本願の優先日前に日本国内において頒布された特開平7-30152号公報(以下「周知例5」という。)には,図3とともに以下の記載がある
「【0002】
【従来の技術】電子部品に対するモールド方法の1つとして,基板に実装された電子部品を金型内で基板と共にモールド成形する方法が知られている。このような従来のモールド方法を,プリント基板に実装されたLEDチップを例として図を用いて説明する。図3は,上記のような従来のモールド方法において,基板とLEDチップとを金型内で一体にモールドする時の一例を模式的に示す断面図である。(後略)」
ここで,図3は以下のものである。


図3を参照すると,モールドされる部分全体がレンズ形状となっていることが見て取れる。

(2)相違点2について
まず,「同一水平面上に配置され」ることについての技術的意味を検討する。
本願明細書には,図7とともに,前記第2 3(4)に摘記した記載と同じ記載がされているところ,「同一水平面上に配置され」の具体的な意味は記載されておらず,また,前記第2「3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討」の検討と同様の理由により,「同一水平面上に配置され」るもののそれぞれが重畳するか否かについても記載はないといえる。
それゆえ,本願明細書及び図面の記載から,相違点2にかかる「前記導線,前記少なくとも一つの発光ユニット,前記少なくとも一つのレンズ及び前記基板保護部は,前記印刷回路基板の同一水平面上に配置され」るとは,平坦な印刷回路基板の一面に,「導線」,「発光ユニット(発光素子)」,「レンズ」及び「基板保護部」が配されている程度の意味であって,重畳するか否かについての特定は含まないと解される。
ところで,引用発明にかかる面実装用発光半導体装置においては,「基板31の凹所33に形成された一方のメッキ配線32a上には,発光素子である光学素子34が搭載され」ているところ,一般に,発光素子を搭載する基板を平坦で凹所のないものを用いることは,例えば,前出の周知例1(例えば図3参照)及び周知例5(例えば図3参照)にも示されているように従来より周知の技術であり,引用発明における基板31についても平坦で凹所のないものとすることは,設計事項にすぎない。
そして,前記(1)で検討したとおり,引用発明において,基板保護部を設けることは当業者が適宜になし得たことであるところ,上記周知の技術の採用に伴い,各メッキ配線32a,32b,発光素子である光学素子34及びレンズとともに基板保護部を平坦な面上に設けて,相違点2にかかる構成を備えることは,当業者が適宜になし得たことである。

(3)よって,本願発明は,周知技術を勘案して,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-30 
結審通知日 2017-06-06 
審決日 2017-06-22 
出願番号 特願2014-83925(P2014-83925)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 星野 浩一
近藤 幸浩
発明の名称 発光素子パッケージモジュール  
代理人 重森 一輝  
代理人 重森 一輝  
代理人 金山 賢教  
代理人 金山 賢教  
代理人 小野 誠  
代理人 小野 誠  
代理人 市川 英彦  
代理人 市川 英彦  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 岩瀬 吉和  

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