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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A47L
管理番号 1334089
審判番号 不服2016-3418  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-04 
確定日 2017-11-01 
事件の表示 特願2014-519437号「抗微生物または抗細菌仕上げの平型拭取クロス」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月17日国際公開、WO2013/007327、平成26年 9月25日国内公表、特表2014-524802号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年5月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年7月12日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成27年10月28日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成28年3月4日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正書が提出された。その後、平成28年12月16日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成29年4月20日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。


第2 本願発明について
1 本願発明
特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、平成29年4月20日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認めるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「長方形の基部本体(4)を含んでなる、拭取クロスホルダ(1)に配設するための平型拭取クロス(3)であって、
前記基部本体(4)は微生物および/または細菌の増殖を阻止または抑制する作用物質を有し、
前記基部本体(4)は繊維(5)、糸(6)または総(7)を有するとともに、
前記作用物質は繊維(5)、糸(6)または総(7)が製造される材料の内部に分散されている平型拭取クロスにおいて、
前記繊維(5)、糸(6)または総(7)は被拭取面に対向し得る自由端を有し、
前記繊維(5)、糸(6)または総(7)はマイクロファイバーを含み、
前記作用物質は、前記繊維(5)、糸(6)または総(7)が製造に使用される材料の溶融物に取り込まれることによって、前記材料の内部に均一に分散され、
前記作用物質は銀塩として存在し、
前記作用物質はセラミック支持体中に吸収されており、
前記作用物質は、一本の繊維(5)、一本の糸(6)または一つの総(7)中に、0.0001%?0.001%の質量比率で存在し、
前記基部本体(4)は前記作用物質をゾーン状に有することを特徴とする平型拭取クロス。」

2 引用例
(1) 引用例1
当審の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-104228号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(「・・・」は省略を意味する。以下同じ。)
(ア)「【請求項1】 パイル起毛を施した基布から構成される払拭布において、
前記基布の表裏両面には、前記払拭布を保持具に保持させた状態で、同保持具の下面側に対応する領域のみにパイル起毛が施されたパイル起毛部が形成されている払拭布。
・・・
【請求項4】 前記パイル起毛部には、綿40?60%及び抗菌糸40?60%のパイル糸でパイル起毛が施されている請求項1?請求項3のいずれか一項に記載の払拭布。
【請求項5】 前記抗菌糸が、銀ゼオライト系抗菌糸ポリエステルである請求項4に記載の払拭布。」

(イ)「【0011】この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、繰り返し使用が可能であり低資源で製造することができると共に、保持具での保持を簡単で確実に行うことができる払拭布を提供することにある。」

(ウ)「【0022】図1には、本発明における払拭布10が示されており、同図において払拭布10は、パイル起毛11を施した基布12から構成されており、払拭布10の縦横比(長手方向幅A及び短手方向幅Bの比)がおおよそ3:2の略矩形形状とされている。そして、払拭布10の長手方向幅Aは、240?600mm、好ましくは、300?480mm、短手方向幅Bは、160?400mm、好ましくは、200?320mmで形成されている。また、図1及び図2に示されるように、前記払拭布10の表裏両面には、その短手方向の中心位置を中心としてパイル起毛部13が短手方向幅Cで長手方向に延設されている。なお、パイル起毛部13の短手方向幅Cは、80?200mm、好ましくは、100?160mmで形成されている。
【0023】また、パイル起毛部13には、パイル起毛11が密集起毛されており、同パイル起毛11は、前記基布12を糸としての縦糸及び横糸を使用して織りながら同時にパイル糸を絡ませることで形成されている。なお、パイル起毛11は、基布12の表裏両面にそれぞれ5?10mm、好ましくは6?8mmの長さで形成されている。即ち、パイル起毛11が短すぎる場合には、払拭面積が少なくなるため、塵や埃を吸着する能力が低下してしまう。また、パイル起毛11が長すぎる場合には、掃除中にパイル起毛11同士が絡み合いやすく、絡まったパイル起毛11では吸着面積を減らすことになり、掃除中又は掃除終了後に絡まったパイル起毛11をほどく作業が必要となってしまう。」

(エ)「【0026】次に、前記払拭布10を構成する各素材について説明する。最初に、基布12について説明すると、前記基布12は、ポリエステル50?66%、好ましくは55%?60%、レーヨン18%?26%、好ましくは20%?24%及び綿18%?25%、好ましくは20%?23%で構成された縦糸及び横糸を使用して織られている。そのため、払拭布10が軽量となると共に、払拭布10の洗浄後の乾燥性にも優れており、さらに、払拭布10の耐久性を向上させることができる。また、前記縦糸及び横糸は、10?40番双糸、好ましくは25?30番双糸の太さの糸が使用されている。
【0027】次に、パイル起毛11について説明すると、前記パイル起毛11には、綿40?60%、好ましくは50%?55%及び抗菌糸40?60%、好ましくは50%?55%で構成されたパイル糸が使用されている。従って、綿を主成分としたパイル糸が使用されているため、パイル起毛11に塗布させる吸着剤の吸着率を向上させることができると共に、塵や埃を吸着させる能力を向上させることができる。さらに、細かい塵や埃を払拭させる能力も向上させることができる。また、前記パイル糸は、10?40番双糸、好ましくは20?25番双糸の太さの糸が使用されている。即ち、パイル糸が細すぎる場合には、パイル起毛部13のボリューム感を出すために、パイル糸の打ち込み本数を増やさなければならず、コストが高くなると共に耐久性を低下させてしまう。また、パイル糸が太すぎる場合には、例えばフローリング床の溝などの細かい箇所にある塵や埃を払拭することができなくなってしまう。
【0028】また、パイル糸を構成する抗菌糸としては、銀ゼオライト系抗菌糸ポリエステルが使用されている。即ち、銀ゼオライト系抗菌糸ポリエステルには、ポリエステル繊維に特殊抗菌性セラミックスが練り込まれているため、特に熱や湿度に対して強く抗菌効果を長時間持続させることができる。また、銀ゼオライト系抗菌糸ポリエステルは、綿などの天然繊維と混綿しやすいため、抗菌効果を最大限に発揮させることもできる。」

(オ)「【0031】次に、本実施形態の払拭布10を保持させる保持具17について説明する。図3には、保持具17が示されており、同図において保持具17は、柄18と、その柄18に対して回動自在なヘッド部19と、前記柄18とヘッド部19を連結する自在継手20から構成されている。そして、前記ヘッド部19は、基台21、クッション部22、連結溝23及び保持用スリット24から構成されている。」

(カ)図2「



(キ)図3「



(ク)引用例1に記載された発明
上記記載事項を総合すると引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「短手方向幅Cで長手方向に延設されているパイル起毛部13にパイル起毛11を施した基布12から構成され、保持具17に保持される払拭布10であって、
パイル起毛部13には、パイル起毛11が密集起毛されており、パイル起毛11は、基布12を糸としての縦糸及び横糸を使用して織りながら同時にパイル糸を絡ませることで形成されており、
パイル起毛部13には、綿40?60%及び抗菌糸40?60%のパイル糸でパイル起毛11が施され、
抗菌糸が、銀ゼオライト系抗菌糸ポリエステルであり、
銀ゼオライト系抗菌糸ポリエステルは、ポリエステル繊維に特殊抗菌性セラミックスが練り込まれている払拭布10。」

(2) 引用例2
当審の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-165741号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】従来から床等の清掃には、モップ等の清掃用具が一般に使用されている。モップは、拭き取り部分と拭き取り部分を装着する柄からなる。この拭き取り部分は、紐状の糸条を多数集めて形成されており、紐状の糸条は加撚して形成されている。こうしたモップ等の清掃用具の拭き取り部分は、床のツヤ出しを兼ねるために油成分等を含浸して使用したり、水や液状薬剤を含ませた湿潤状態で使用される。そして、床面の塵や埃を付着する事によって汚れを拭き取っている。一般的に十分な拭き取り性を得るために従来から吸水性の良い天然繊維である木綿繊維が用いられており床等の清掃に広く使用され、塵や埃を付着することで汚れを拭い取り、床面等を清潔な状態にしている。」

(イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、優れた抗菌性と拭き取り性、乾燥性を有し、更に自己発塵性の少ない清掃用糸条及びそれからなる清掃用具を提供する事を課題とするものである。
【0006】
【課題を解決する為の手段】すなわち本発明の第一は、抗菌性セラミックスを含有した熱可塑性樹脂からなるマルチフィラメント20?60重量%と、熱可塑性樹脂からなる単糸繊度0.5?2.0dtex(デシテックス)の捲縮を有するマルチフィラメント40?80重量%からなる事を特徴とする清掃用糸条である。」

(ウ)「【0018】本発明では、上記抗菌性繊維と極細繊維を混合して清掃用糸条とする。この極細繊維の単糸繊度は0.5?2.0dtex(デシテックス)である必要があり、好ましくは単糸繊度0.8dtex?1.7dtexである。単糸繊度が0.5dtex未満では糸製造時に糸切れを起こし易く、又単糸強度物性低下等が起こりやすく製造上の品質に問題が起きやすく清掃溶具として使用した場合、床との摩擦により糸切れして塵が発生し易くなり自己発塵の原因になる。一方、2.0dtexを超えると拭き取り性が悪くなる。
【0019】本発明の清掃用糸条は、上記抗菌性繊維と極細繊維からなるが、その混率は抗菌性繊維の割合が20?60重量%である必要がある。抗菌性繊維がこの範囲より少ないと、清掃用糸条の抗菌性は十分ではなく、乾燥性や耐発塵性も劣る。又、抗菌性繊維がこの範囲より多いと、すなわち極細繊維が40重量%未満であると、清掃性能が十分ではない。」

(エ)「【0039】(実施例5?11)実施例1と同様に作製した267dtex/12fの捲縮を有する抗菌性繊維と単糸繊度を変更した捲縮を有する極細繊維を使用した以外実施例1と同様に作製した。。
【0040】
【表3】



(オ)「【0043】(実施例19)実施例1と同様の方法で78dtex/24fの抗菌性繊維を得た。この糸を7本合撚した抗菌性繊維を得た。
【0044】次に溶液粘度2.78の6-ナイロン樹脂と溶液粘度1.77のポリエステル樹脂を使用した6-ナイロン樹脂:ポリエステル樹脂の重量比が1:3の分割型複合繊維からなる極細繊維を得た。該分割型複合繊維断面の十字断面部分は6-ナイロン樹脂、4個の分割花弁断面部分がポリエステル樹脂である。分割型複合口金ノズルを使用して紡糸温度293℃、紡糸速度1460m/分で紡糸を行った後、延伸機で2.75倍熱延伸を行い167dtex/56fの極細繊維を得た。この糸を仮撚機により糸速145m/分、仮撚温度175℃、撚数2400T/M、1%オーバーフィード処理を行い割繊し、単糸繊度0.74dtexの6-ナイロン繊維56fと単糸繊度0.56dtexのポリエステル繊維224fからなる捲縮を有する極細繊維を得た。
【0045】こうして得られた78dtex/24fの抗菌性繊維7本と167dtex/280fの捲縮を有する極細繊維7本を集束、撚数160T/Mで加撚し総繊度1715dtexの加撚糸を得た。この1715dtexの加撚糸を3本引き揃えて更に撚数110T/Mで加撚し総繊度5145dtexの加撚糸を得た。この5145dtexの加撚糸を83℃40分セットし、抗菌性繊維31重量%、捲縮を有する極細繊維69重量%の混率からなる清掃用糸条を得た。」

(カ)引用例2に記載された事項
引用例2には、「極細繊維」として「0.5?2.0dtex(デシテックス)」のものを用いること(【0006】、【0018】)が記載され、実施例として、0.41、0.50、1.00(【0040】の表2)、0.74、0.56(【0044】)dtexを用いるものが記載されており、一般にマイクロファイバーといわれるものが使用されているから、上記記載事項を総合すると引用例2には、次の事項(以下「引用例2記載事項」という。)が記載されている。
「拭き取り性、乾燥性を有し、更に自己発塵性の少ないモップ等の清掃用具を提供するために、清掃用糸条にマイクロファイバーを混合すること。」

(3) 引用例3
当審の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-139292号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
抗菌性樹脂組成物であって、
樹脂材料と、
コア粒子と、該コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する難水溶性銀塩とを備える銀系抗菌剤と、
を含有する、抗菌性樹脂組成物。
・・・
【請求項5】
前記難水溶性銀塩は、塩化銀、ヨウ化銀、及び硫酸銀からなる群から選択される1種あるいは2種以上である、請求項1?4のいずれかに記載の抗菌性樹脂組成物。
【請求項6】
前記難水溶性銀塩は塩化銀である、請求項5に記載の抗菌性樹脂組成物。
【請求項7】
前記難水溶性銀塩を、前記コア粒子1重量部に対して0.001重量部以上1.0重量部以下備える、請求項1?6のいずれかに記載の抗菌性樹脂組成物。
・・・
【請求項11】
成形体用、塗料用、接着剤用、繊維用、コート用、フィルム用、シート用、インク用及びトナー用のいずれかである、請求項1?10のいずれかに記載の抗菌性樹脂組成物。」

(イ)「【背景技術】
【0002】
近年、清潔志向の高まりに伴って、多くの分野において抗菌化が進められている。従来より、抗菌剤としては有機系抗菌剤と無機系抗菌剤とが知られている。これらの抗菌剤は、樹脂材料に混合され、抗菌性の樹脂成形品、抗菌性繊維、抗菌性コートとして供給されることが多い。一般に、無機系抗菌剤が、安全性及び抗菌活性の面において優れているとされているが、溶解性ガラス等の溶解を伴う抗菌剤では、抗菌活性の耐久性が低い傾向があるが、一定以上の抗菌活性を維持するためにマトリックスへの添加量を増大させるのに必要な分散性を備えておらず、また、銀担持ゼオライト系抗菌剤では、抗菌活性の耐久性に優れるものの外部環境により耐変色性が低下する傾向があった。」

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者によれば、樹脂マトリックスに分散される場合には、樹脂材料に良好に分散され、あるいは最終的に得られる樹脂マトリックスにおいて抗菌剤が良好に分散されて保持されていないと、抗菌活性が発揮されないとともに抗菌活性が低下しやすい他、耐変色性が低下することがわかった。すわなち、樹脂材料や樹脂マトリックスに対して十分な分散性能を有していない抗菌剤は、使用状態において抗菌活性及び耐変色性が低下することがわかった。」

(エ)「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来抗菌性が低くしかも凝集しやすくて分散性が低い難水溶性の銀塩に着目して検討し、かかる銀塩をコア粒子の表面に被膜状に形成することで、予想を超えて高い抗菌活性を発揮するとともに、凝集が抑制されて樹脂材料との混合性や樹脂マトリックスへの良好な分散性能を実現できることを見出して本発明を完成した。
すわなち、本発明によれば以下の手段が提供される。
・・・
【0008】
本発明の抗菌性樹脂組成物によれば、コア粒子と該コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する難水溶性銀塩とを銀系抗菌剤として含有するため、難水溶性銀塩の樹脂材料への分散性が向上され、樹脂組成物及び硬化された樹脂マトリックスに難水溶性塩を良好に分散させることが可能となっている。この結果、本抗菌性樹脂組成物によれば、耐久性ある抗菌活性と耐変色性とを備える樹脂組成物を得ることができるとともに、耐久性ある抗菌活性と耐変色性とを備える樹脂マトリックスを備える抗菌性製品を得ることができる。本抗菌性樹脂組成物は、抗菌性成形体用(特に射出成形用)、抗菌性塗料用、抗菌性繊維用、抗菌性コート用、抗菌性フィルム用、抗菌性シート用、抗菌性接着剤用、抗菌性インク用、抗菌性トナー用等とすることができる。なお、抗菌性樹脂組成物は、樹脂材料と銀系抗菌剤とを含有する他、本発明の目的を損なわない範囲で任意の材料を含有することができ、樹脂材料等の形態に応じ、粉末、液体、ペースト、スラリー、ゲル、成形用のペレットあるいはコンパウンド等各種の形態を採ることができる。また、樹脂マトリックスは、抗菌性樹脂組成物の樹脂材料組成物が成形されて形成されるマトリックスであり、三次元形状を有する成形体、被膜、層体、フィルム、シート等の各種の形態を採ることができる。」

(オ)「【0016】
(抗菌性樹脂組成物)
(樹脂材料)
本抗菌性樹脂組成物の樹脂材料は、特に限定しないで、本組成物の適用先に応じた各種の熱可塑性樹脂材料あるいは熱硬化性樹脂材料を用いることができる。熱可塑性樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂(MBS樹脂)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(MABS樹脂)、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン樹脂(AAS樹脂)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、ポリチオエーテルスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、液晶ポリマー、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は単独で、あるいは2種以上をそれぞれあるいは組み合わせてポリマーブレンドとして用いることができる。好ましくは、ポリエステル、ABS、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等を用いることができ、なかでも、ポリエステル、ABS、ポリプロピレン及びポリエチレンを含むポリオレフィンがより好ましい。」

(カ)「【0019】
(コア粒子)
本銀系抗菌剤におけるコア粒子は、難水溶性銀塩をその外表面に被膜状に保持させるための担体粒子である。したがって難水溶性銀塩の被膜を備えうる表面を備えている限り中空状であっても中実状であってもよく、また、多孔質であってもよいが、好ましくは中実状である。また、コア粒子の外形形状は、球状、薄片状、針状、不定形状等各種の形態を採ることができるが、抗菌剤調製時における溶媒分散性や溶媒との濡れ性、抗菌剤として調製された後の流動性や分散性を考慮すると球状であることが好ましい。
・・・
【0021】
コア粒子の材料は特に限定しないで、抗菌剤調製時あるいは抗菌剤の適用先を考慮して公知の材料から選択して用いることができる。例えば、各種の有機材料及び無機材料を用いることができる。無機材料としては、ガラス、セラミックスの他、無機塩類などの各種無機化合物の粉末を用いることができる。有機材料としては、ゴムや樹脂などの高分子材料を主体とすることが好ましい。特に、コア粒子を樹脂製粒子とすれば、粒径制御や密度など流動性及び分散性に関連する特性を制御することが容易であるからである。また、抗菌剤調製時に使用する溶媒に応じて適切な濡れ性や溶媒分散性を得ることのできる表面特性(疎水性及び親水性)や密度を制御するのが容易であるからである。」

(キ)「【0031】
銀系抗菌剤は、良好な抗菌活性と耐変色性とを備える結果、抗菌活性や耐変色性のそれぞれの要請に応じた適切な配合比率で抗菌性樹脂組成物に配合することができる。良好な抗菌活性を有することから、低い添加量でも十分な抗菌性能を発現させることができる。低い添加量によれば、最終的に得られる抗菌性製品の外観や性能を損なうことがないという利点がある。さらに、銀系抗菌剤は、良好な分散性を備えるため、低い添加量であっても良好に樹脂材料に分散され、樹脂材料を成形して得られる樹脂マトリックスにおいても良好に分散され、抗菌性製品の外観を損なうことなく、良好な抗菌活性と耐変色性を発揮することができる。樹脂材料100重量部に対して0.01重量部以上で含有されていることが好ましい。0.01重量部未満であると十分な抗菌効果が得られにくいからである。好ましくは、0.04重量部以上である。0.04重量部以上であると0.04重量部未満のときと比べて耐水性が顕著に向上するからである。また、銀系抗菌剤は樹脂材料100重量部に対して10.0重量部以下であることが好ましい。10.0重量部を超えると変色程度が増大することがあり、また、表面が荒れたりする場合があるからである。好ましくは、1.0重量部以下である。1.0重量部以下であると1.0重量部超のときと比べて十分な耐候性を確保できるからである。したがって、銀系抗菌剤は、樹脂材料100重量部に対して0.01重量部以上10.0重量部以下であることが好ましい。より好ましくは、0.04重量部以上1.0重量部以下である。
【0032】
なお、樹脂材料に対して銀系抗菌剤を上記範囲で含有することにより、樹脂材料100重量部に対して、難水溶性銀塩としては、0.0001重量部以上1.0重量部以下であることが好ましく、より好ましくは、0.0004重量部以上0.1重量部以下である。」

(ク)引用例3に記載された事項
引用例3には、上記記載事項を総合すると引用例3には、【0021】にコア粒子としてセラミックスを用いることが記載されているから、次の事項が記載されている。
「高い抗菌活性を発揮するための銀系抗菌剤において、セラミックからなるコア粒子担体に保持される難水溶性銀塩とすること。」(以下「引用例3-1記載事項」という。)
「良好な抗菌活性を発揮するために、樹脂材料100重量部に対して、難水溶性銀塩としては、0.0001重量部以上1.0重量部以下含有すること。」(以下「引用例3-2記載事項」という。)

3 本願発明と引用発明の対比
(1) 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「パイル起毛11」は、その作用及び構造から、本願発明の「繊維(5)、糸(6)または総(7)」に相当し、同様に「保持具17」は「拭取クロスホルダ(1)」に、「払拭布10」は「平型拭取クロス」にそれぞれ相当する。

(イ)引用発明の「短手方向幅Cで長手方向に延設されている」「パイル起毛11を施した」「基布12」の「パイル起毛部13」は、パイル起毛11を施したパイル起毛部13が長方形であるから、本願発明の「長方形の基部本体(4)」に相当する。
したがって、引用発明の「短手方向幅Cで長手方向に延設されているパイル起毛部13にパイル起毛11を施した基布12から構成され、保持具17に保持される払拭布10」は、本願発明の「長方形の基部本体(4)を含んでなる、拭取クロスホルダ(1)に配設するための平型拭取クロス(3)」に相当する。

(ウ)引用発明の「銀ゼオライト系抗菌糸ポリエステル」は、抗菌性を発揮する作用物質として銀を用いるものであるから、その抗菌性を有する銀は、引用発明の「微生物および/または細菌の増殖を阻止または抑制する作用物質」に相当する。
そして、引用発明の「抗菌糸が、銀ゼオライト系抗菌糸ポリエステルであり、銀ゼオライト系抗菌糸ポリエステルは、ポリエステル繊維に特殊抗菌性セラミックスが練り込まれている」ことは、抗菌糸がパイル起毛11に使用されており、パイル起毛11が基布12のパイル起毛部13に施されているから、本願発明の「前記基部本体(4)は微生物および/または細菌の増殖を阻止または抑制する作用物質を有し」ていることに相当する。
また、引用発明の当該事項は、抗菌糸のポリエステル繊維に銀を担持する特殊抗菌性セラミックスを練り込んでいるのであるから、その内部には銀を担持する特殊抗菌性セラミックスが分散しているといえるので、本願発明の「前記作用物質は繊維(5)、糸(6)または総(7)が製造される材料の内部に分散されている」ことに相当する。
さらに、引用発明の当該事項は、ポリエステル繊維のポリエステルに特殊抗菌性セラミックスを練り込むことが、特殊抗菌性セラミックスがポリエステルに取り込まれることといえ、その結果、特殊抗菌性セラミックスが均一に分散されることは明らかであるから、本願発明の「前記作用物質は、前記繊維(5)、糸(6)または総(7)が製造に使用される材料の溶融物に取り込まれることによって、前記材料の内部に均一に分散され」ることに相当する。

(エ)引用発明の「パイル起毛11を施した基布12」は、本願発明の「前記基部本体(4)は繊維(5)、糸(6)または総(7)を有する」ことに相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で一応相違する。

<一致点>
「長方形の基部本体を含んでなる、拭取クロスホルダに配設するための平型拭取クロスであって、
前記基部本体は微生物および/または細菌の増殖を阻止または抑制する作用物質を有し、
前記基部本体は繊維、糸または総を有するとともに、
前記作用物質は繊維、糸または総が製造される材料の内部に分散されている平型拭取クロスにおいて、
前記作用物質は、前記繊維、糸または総が製造に使用される材料の溶融物に取り込まれることによって、前記材料の内部に均一に分散される平型拭取クロス。」

<相違点1>
本願発明では、繊維(5)、糸(6)または総(7)は被拭取面に対向し得る自由端を有するのに対して、引用発明は、パイル起毛11が自由端を有するとは特定されていない点。
<相違点2>
本願発明では、繊維(5)、糸(6)または総(7)はマイクロファイバーを含むのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。
<相違点3>
本願発明では、作用物質は銀塩として存在し、セラミック支持体中に吸収され、一本の繊維(5)、一本の糸(6)または一つの総(7)中に、0.0001%?0.001%の質量比率で存在するのに対して、引用発明は、ポリエステル繊維に特殊抗菌性セラミックスが練り込まれている銀ゼオライト系抗菌糸であり、銀塩として存在しているか不明であり、銀ゼオライト系抗菌糸の抗菌物質のパイル起毛11中における質量比率が不明な点。
<相違点4>
本願発明では、基部本体(4)は作用物質をゾーン状に有するのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

(2) 当審の判断
上記相違点について検討する。
<相違点1について>
払拭布において、パイル起毛の端部を自由端とすることは、例を挙げるまでもなく周知技術である。
そして、引用発明のパイル起毛は、図2等を参酌すると、自由端であるとも看取されるところ、自由端でないとしても上記周知技術を適用し、本願発明の上記相違点1に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点2について>
引用例2記載事項の「清掃用糸条」は本願発明の「繊維(5)、糸(6)または総(7)」に相当し、同様に「モップ等の清掃用具」は「平型拭取クロス」に相当するから、引用例2記載事項を本願発明の用語で言い換えると、引用例2記載事項は、拭き取り性、乾燥性を有し、更に自己発塵性の少ない平型拭取クロスを提供するために、繊維(5)、糸(6)または総(7)にマイクロファイバーを混合することといえる。
そして、引用発明の払拭布10も、拭き取り性、乾燥性を有し、更に自己発塵性を少なくすることは当然の課題であるから、当該課題を解決するために、引用例2記載事項を適用し、パイル起毛11にマイクロファイバーを混合し、マイクロファイバーを含むものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ここで、請求人は、平成29年4月20日の意見書で、引用例2のマイクロファイバーは、熱に弱く、吸水性が高いことから、引用発明への適用には阻害要因が存在する旨主張する。
しかし、マイクロファイバーを含む清掃用具は、湿潤状態のみならず乾拭きにも用いることのできる素材であることは技術常識(例えば、特表2005-510335号公報の【0022】等、特開2011-62377号公報の【0018】?【0023】参照。)であるから、請求人の主張は採用できない。

<相違点3について>
抗菌性セラミックにおいて、作用物質がセラミック支持体中に吸収されていることは周知(例えば、上記引用例3(【請求項1】、【0021】等)には、セラミックからなるコア粒子担体の表面の少なくとも一部を難水溶性銀塩で被覆した銀系抗菌剤が記載されている。)であり、また、技術常識でもある。
また、引用例3-1記載事項の「難水溶性銀塩」は、本願発明の「銀塩」及び「作用物質」に相当するから、銀を作用物質とする抗菌剤において、作用物質が銀塩であることも周知でり、また、技術常識である。
このような技術常識に照らせば、引用発明の特殊抗菌性セラミックスは、作用物質である銀が支持体中に吸収されているといえるし、作用物質が銀塩として存在しているともいえるから、これらの点において、本願発明と引用発明とは実質的に相違しない。
また、仮に実質的に相違しているとしても、引用発明の特殊抗菌性セラミックスにおいて、抗菌剤として周知である上記事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
さらに、その際に、作用物質の含有量を良好な抗菌性を発揮するために、引用例3-2記載事項を参酌して、0.0001%?0.001%とすることは、設計上適宜なし得たことである。
したがって、引用発明において、本願発明の上記相違点3に係る事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点4について>
本願発明の「ゾーン」とは、一般に、地帯、区域、区画を表す(広辞苑第六版)から、引用発明の「短手方向幅Cで長手方向に延設されているパイル起毛部13にパイル起毛11を施」され、「パイル起毛部13には、パイル起毛11が密集起毛されており、」「パイル起毛部13には、綿40?60%及び抗菌糸40?60%のパイル糸でパイル起毛11が施され」ていることは、短手方向幅Cで長手方向に延設されているパイル起毛部13が抗菌性を有する銀を含む抗菌糸で密集起毛されており、抗菌性を有する銀が特定の区域に存在するから、引用発明には、本願発明の「前記基部本体(4)は前記作用物質をゾーン状に有する」に相当することが実質的に記載されているといえる。
また、仮に記載されているといえず、平成29年4月20日の意見書で説示する「「前記基部本体(4)は前記作用物質をゾーン状に有する」とは、作用物質が繊維(5)、糸(6)または総(7)が製造に使用される材料の溶融物に取り込まれることによって、該材料の内部に均一に分散されていることから、基部本体(4)において作用物質を有する領域〔すなわち、繊維(5)、糸(6)または総(7)〕と、作用物質を有しない領域とが明確に分けられていることを意味する。」ものであるとしても、払拭布においてパイル起毛を間隔を空けて複数の列状に配置することは普通に行われていることであるから、引用発明において、上記相違点4に係る本願発明の事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

<本願発明の奏する効果について>
請求人が平成29年4月20日の意見書で主張する「周囲環境への前記作用物質の漸次的な放出が保証され」ることについて検討すると、引用発明の「銀ゼオライト系抗菌糸ポリエステル」は、上記(1)で検討したとおり、銀がセラミック中に吸収され、ポリエステルの溶融物に取り込まれることによって均一に分散されているものであるから、本願発明と同様に上記作用を有することは明らかである。
また、引用発明は乾式で用いるものである点で相違する旨主張するが、本願発明が濡らした状態で用いることは特定されておらず、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるし、仮に本願発明が濡らした状態で用いることを前提としているとしても、引用例1には払拭布10を洗浄することが記載されていること(【0026】)からも、濡らした状態で用いることも可能であることは明らかである。よって、請求人の上記主張は採用できない。
さらに、請求人は、引用発明において、基布12に周知の抗菌糸を使用することは、引用例1の目的に反する旨主張するが、本願発明には、ベース層13に作用物質を有していることは特定されておらず、特許請求に範囲の記載に基づかない主張である。
ゆえに、引用発明の奏する効果は、当業者が引用発明、引用例2記載事項、引用例3記載事項及び周知技術から予測し得る範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

3 むすび
したがって、本願発明は、引用発明、引用例2記載事項、引用例3記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


第3 まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-02 
結審通知日 2017-06-06 
審決日 2017-06-21 
出願番号 特願2014-519437(P2014-519437)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A47L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 良憲  
特許庁審判長 中村 則夫
特許庁審判官 佐々木 正章
窪田 治彦
発明の名称 抗微生物または抗細菌仕上げの平型拭取クロス  
代理人 特許業務法人R&C  

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