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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02F
管理番号 1334108
審判番号 不服2016-16784  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-09 
確定日 2017-11-02 
事件の表示 特願2012-176135「エンジンのピストン構造」拒絶査定不服審判事件〔平成26年2月24日出願公開、特開2014-34917〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件出願は、平成24年8月8日の出願であって、平成28年4月19日付けで拒絶理由が通知され、平成28年5月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年9月6日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年11月9日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、その後、平成29年5月29日付けで当審において拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年7月7日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本件発明

本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、平成29年7月7日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに本件出願の願書に最初に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
ピストンの上側内部にオイルギャラリを環状に穿設し、該オイルギャラリに潤滑油を導入して冷却するようにしたエンジンのピストン構造であって、単一の素材にて構成されたピストンの燃焼室の開口外周部に抉り部を設けて入口リップ部を形成し、前記オイルギャラリの内壁のうち、上部の前記入口リップ部からの熱流線と対峙する箇所を少なくとも含む所要範囲を未コーティング部として確保し且つ未コーティング部を除いた残りの内壁部分に、前記入口リップ部より下の燃焼室壁面部からの熱が前記未コーティング部から前記ピストンの内部を伝わった後に断熱されるよう断熱材料をコーティングしたことを特徴とするエンジンのピストン構造。」

3.刊行物に記載された発明

(1)刊行物1の記載事項
本件出願前に頒布され、当審拒絶理由に引用された刊行物である実願平2-99235号(実開平4-57650号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が図面(特に、第1図参照。)とともに記載されている。
(下線部は当審が付与した。)

a)「第1図?第3図に示すように、ディーゼルエンジンDEの鋳鉄製のシリンダブロック1のシリンダ孔2には鋳鉄製のピストン3が装着され、ピストン3の上端部には圧縮上死点において燃焼室を形成するとともに燃焼用空気を渦流化させるためのキャビティ4が偏心した位置に凹設され、キャビティ4を形成するキャビティ構成壁5は周壁部5aと底壁部5bとを備え、周壁部5aと底壁部5bの裏面には、セラミック材料からなる所定厚さの断熱層6が溶射法により形成されている。
ピストン3の上段部の周壁部7には、2つのコンプレッションリング8と1つのオイルリング9を装着するためのリング溝7a・7bが形成され、リング溝7a・7bとキャビティ構成壁5の周壁部5aの間には、冷却オイルのオイルジェットJが下方から吹きつけられる環状溝10が形成されている。尚、符号11はリング溝7bに連通した複数の連通孔である。」(明細書第5ページ第16行ないし第6ページ第13行)

b)「エンジンDEの圧縮・爆発工程において、キャビティ構成壁5及びリング溝7a・7bは高温に加熱されるが、第1図に示すように、噴射装置15により環状溝10に冷却オイルのオイルジェットJが吹きつけられ、オイルジェットトによりリング溝7a・7bは冷却されて温度上昇が抑制されるので、リング8・9のリング溝7a・7bへの焼付きを確実に防止することが出来る。
一方、キャビティ構成壁5の周壁部5a及び底壁部5bには、オイルジェットJのオイルスプラシュが吹きつけられるが、これらキャビティ構成壁5の裏面には断熱層6が形成されているので、キャビティ構成壁5からの放熱が低減される。
従って、エンジンDEの作動中キャビティ構成壁5は高温に保持され、オイルジェットJのオイルスプラシュによる燃焼エネルギーの冷却損失を低減することが出来る。」(明細書第7ページ第9行ないし第8ページ第5行)

(2)上記(1)及び図面から分かること

a)上記(1)a)及び第1図ないし第3図の記載によれば、刊行物1には、ディーゼルエンジンDEのピストン3の構造が記載されていることが分かる。

b)上記(1)a)及び第1図ないし第3図の記載によれば、ピストン3の上段部の内部に環状溝10が環状に配設していることが分かる。

c)上記(1)a)及びb)並びに第1図ないし第3図の記載によれば、環状溝10に冷却オイルを吹きつけて冷却することが分かる。

d)上記(1)a)の「鋳鉄製のピストン3」の記載によれば、ピストン3は鋳鉄にて構成されていることが分かる。

e)上記(1)a)並びに第1図及び第2図の記載によれば、ピストン3のキャビティ4の開口外周部に入口リップ部が形成されることが分かる。

f)上記(1)a)の「周壁部5aと底壁部5bの裏面には、セラミック材料からなる所定厚さの断熱層6が溶射法により形成されている。」の記載及び第1図ないし第3図の記載によれば、環状溝10の内壁に断熱層6をコーティングしたといえる。

g)上記(1)b)の「第1図に示すように、噴射装置15により環状溝10に冷却オイルのオイルジェットJが吹きつけられ、オイルジェットトによりリング溝7a・7bは冷却されて温度上昇が抑制されるので、リング8・9のリング溝7a・7bへの焼付きを確実に防止することが出来る。」の記載及び第1図ないし第3図の記載を、上記f)とあわせてみると、環状溝10の内壁のうち、リング溝7a・7bの裏面を少なくとも含む所要範囲を未コーティング部としたといえる。

h)上記(1)b)の「エンジンDEの圧縮・爆発工程において、キャビティ構成壁5及びリング溝7a・7bは高温に加熱される」の記載及び「キャビティ構成壁5の周壁部5a及び底壁部5bには、オイルジェットJのオイルスプラシュが吹きつけられるが、これらキャビティ構成壁5の裏面には断熱層6が形成されているので、キャビティ構成壁5からの放熱が低減される。」の記載を、上記e)、f)及びg)とあわせてみると、環状溝10の内壁のうち、上記未コーティング部を除いた残りの周壁部5aの裏面に、周壁部5aのキャビティ4側の表面からの熱が周壁部5aの内部を伝わった後に断熱されるよう断熱層6をコーティングしたといえる。

(3)引用発明

上記(1)及び(2)並びに図面を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

<引用発明>

「ピストン3の上段部の内部に環状溝10を環状に配設し、環状溝10に冷却オイルを吹きつけて冷却するようにしたディーゼルエンジンDEのピストン3の構造であって、鋳鉄にて構成されたピストン3のキャビティ4の開口外周部に入口リップ部を形成し、環状溝10の内壁のうち、リング溝7a・7bの裏面を少なくとも含む所要範囲を未コーティング部として確保し且つ未コーティング部を除いた残りの周壁部5aの裏面に、周壁部5aのキャビティ4側の表面からの熱が周壁部5aの内部を伝わった後に断熱されるよう断熱層6をコーティングしたディーゼルエンジンDEのピストン3の構造。」

4.対比・判断

(1)対比

本件発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、引用発明の「ピストン3」は本件発明の「ピストン」に、以下同様に、「上段部の内部」は「上側内部」に、「環状溝10」は「オイルギャラリ」に、「配設」は「穿設」に、「吹きつけて」は「導入して」に、「ディーゼルエンジンDEのピストン3の構造」は「エンジンのピストン構造」に、「鋳鉄にて構成された」は「単一の素材にて構成された」に、「キャビティ4」は「燃焼室」に、「周壁部5aの裏面」は「内壁部分」に、「周壁部5aのキャビティ4側の表面」は「燃焼室壁面部」に、「周壁部5aの内部」は「ピストンの内部」に、「断熱層6」は「断熱材料」にそれぞれ相当する。

上記3.(1)c)の「ピストン3の上段部の周壁部7には、2つのコンプレッションリング8と1つのオイルリング9を装着するためのリング溝7a・7bが形成され、リング溝7a・7bとキャビティ構成壁5の周壁部5aの間には、冷却オイルのオイルジェットJが下方から吹きつけられる環状溝10が形成されている。尚、符号11はリング溝7bに連通した複数の連通孔である。」の記載及び第1図の記載並びに技術常識によれば、引用発明の「冷却オイル」は、連通孔11を通ってリング溝7bに供給されることで、潤滑油として機能するといえるから、本件発明の「潤滑油」に相当する。

引用発明の「環状溝10の内壁のうち、リング溝7a・7bの裏面を少なくとも含む所要範囲を未コーティング部として確保し且つ未コーティング部を除いた残りの周壁部5aの裏面に、周壁部5aのキャビティ4側の表面からの熱が周壁部5aの内部を伝わった後に断熱されるよう断熱層6をコーティングした」ことと、本件発明の「オイルギャラリの内壁のうち、上部の入口リップ部からの熱流線と対峙する箇所を少なくとも含む所要範囲を未コーティング部として確保し且つ未コーティング部を除いた残りの内壁部分に、入口リップ部より下の燃焼室壁面部からの熱が未コーティング部からピストンの内部を伝わった後に断熱されるよう断熱材料をコーティングした」こととは、「オイルギャラリの内壁のうち、所要範囲を未コーティング部として確保し且つ未コーティング部を除いた残りの内壁部分に、燃焼室壁面部からの熱がピストンの内部を伝わった後に断熱されるよう断熱材料をコーティングした」という限りにおいて一致する。

してみると、本件発明と引用発明とは、
「ピストンの上側内部にオイルギャラリを環状に穿設し、オイルギャラリに潤滑油を導入して冷却するようにしたエンジンのピストン構造であって、単一の素材にて構成されたピストンの燃焼室の開口外周部に入口リップ部を形成し、オイルギャラリの内壁のうち、所要範囲を未コーティング部として確保し且つ未コーティング部を除いた残りの内壁部分に、燃焼室壁面部からの熱がピストンの内部を伝わった後に断熱されるよう断熱材料をコーティングしたエンジンのピストン構造。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>

a)相違点1

本件発明においては、ピストンの燃焼室の開口外周部に「抉り部を設けて」入口リップ部を形成したのに対し、
引用発明においては、抉り部を設けていない点(以下、「相違点1」という。)。

b)相違点2

「オイルギャラリの内壁のうち、所要範囲を未コーティング部として確保し且つ未コーティング部を除いた残りの内壁部分に、燃焼室壁面部からの熱がピストンの内部を伝わった後に断熱されるよう断熱材料をコーティングした」に関して、
本件発明においては、オイルギャラリの内壁のうち、「上部の入口リップ部からの熱流線と対峙する箇所を少なくとも含む」所要範囲を未コーティング部として確保し且つ未コーティング部を除いた残りの内壁部分に、「入口リップ部より下の」燃焼室壁面部からの熱が「未コーティング部から」ピストンの内部を伝わった後に断熱されるよう断熱材料をコーティングしたのに対し、
引用発明においては、環状溝10の内壁のうち、リング溝7a・7bの裏面を少なくとも含む所要範囲を未コーティング部として確保し且つ未コーティング部を除いた残りの周壁部5aの裏面に、周壁部5aのキャビティ4側の表面からの熱が周壁部5aの内部を伝わった後に断熱されるよう断熱層6をコーティングした点(以下、「相違点2」という。)。

(2)判断

a)相違点1について

エンジンのピストン構造において、ピストンの燃焼室の開口外周部に抉り部を設けて入口リップ部を形成することは、本件出願前に周知技術(例えば、特開2007-211644号公報[特に、段落【0024】及び図1]、及び、特開2001-207853号公報[特に、段落【0016】ないし【0019】及び図1ないし3。「空気溜り部14」が「抉り部」に対応する。]等参照。)である。
そして、引用発明及び上記周知技術は、いずれも燃焼室に入口リップ部を形成したエンジンのピストン構造の技術分野に属するものである。
そうすると、引用発明において、上記周知技術を適用し、ピストン3のキャビティ4の開口外周部に抉り部を設けて入口リップ部を形成し、相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

b)相違点2について

上記3.(1)b)の「噴射装置15により環状溝10に冷却オイルのオイルジェットJが吹きつけられ、オイルジェットトによりリング溝7a・7bは冷却されて温度上昇が抑制されるので、リング8・9のリング溝7a・7bへの焼付きを確実に防止することが出来る。」との記載及び第1図の記載から、引用発明において未コーティング部は、冷却オイルにより冷却するためのものといえる。
また、上記3.(1)b)の「キャビティ構成壁5の周壁部5a及び底壁部5bには、オイルジェットJのオイルスプラシュが吹きつけられるが、これらキャビティ構成壁5の裏面には断熱層6が形成されているので、キャビティ構成壁5からの放熱が低減される。」及び「エンジンDEの作動中キャビティ構成壁5は高温に保持され」との記載並びに第1図の記載から、引用発明においてコーティングは、キャビティ構成壁5の周壁部5aを高温に保持するためのものといえる。

また、燃焼室に入口リップ部が形成されたエンジンのピストン構造において、入口リップ部及びピストンリング部を冷却する必要があることは、本件出願前に周知の課題(例えば、特開平8-284744号公報[特に、段落【0010】ないし【0013】、【0019】ないし【0021】及び【0024】並びに図2]、特開平8-232758号公報[特に、段落【0017】ないし【0019】及び【0021】並びに図3])等参照。)である。

上記課題に照らせば、引用発明において、リング溝7a・7bの裏面の他に、入口リップ部についても冷却する必要があることは、当業者が理解するところである。
してみると、引用発明において、キャビティ構成壁5の周壁部5aを高温に保持した上で、入口リップ部を冷却するために、周壁部5aの裏面のうち、入口リップ部に近接する部分を未コーティング部として冷却オイルにより冷却することは、当業者が容易に想到できたことである。
そして、入口リップ部に近接する部分を未コーティング部とした引用発明は、その周壁部5aの裏面における未コーティング部及びコーティングした部分と、周壁部5aのキャビティ側の表面との配置位置及び温度分布(等温線)に照らせば、「上部の入口リップ部からの熱流線と対峙する箇所を含む所要範囲」を未コーティング部として確保し、「入口リップ部より下の燃焼室壁面部からの熱が未コーティング部からピストンの内部を伝わった後に断熱されるよう断熱材料をコーティング」したものといえる。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

c)効果について

本件発明は、全体としてみても、引用発明及び上記周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

5.まとめ

以上のとおり、本件発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび

上記2.ないし5.で述べたとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-04 
結審通知日 2017-09-05 
審決日 2017-09-19 
出願番号 特願2012-176135(P2012-176135)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀内 亮吾  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 槙原 進
西山 智宏
発明の名称 エンジンのピストン構造  
代理人 特許業務法人山田特許事務所  

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