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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C21B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C21B
管理番号 1334112
審判番号 不服2016-18059  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-02 
確定日 2017-11-02 
事件の表示 特願2015-533995「高炉操業方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月 5日国際公開、WO2015/029424〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2014年(平成26年) 8月26日(優先権主張2013年 8月28日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年 5月 6日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年 7月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年 8月29日付けで拒絶査定がなされた。
本件審判は、この拒絶査定を不服として、同年12月 2日に請求された拒絶査定不服審判である。

第2 本願発明

本願の請求項1?6に係る発明(以下、「本願発明1?6」といい、総称するときは「本願発明」という。)は、平成28年 7月11日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
高炉の羽口から熱風を高炉へ吹き込むとともに、
易燃性還元材と粉状の固体還元材とを、前記羽口からランスを通じて高炉へ吹込む高炉操業方法であって、
前記固体還元材は、粒子径75μm以上の粒子を20mass%以下含有する高炉操業方法。
【請求項2】
高炉の羽口から熱風を高炉へ吹き込むとともに、
支燃性ガスと粉状の固体還元材とを、前記羽口からランスを通じて高炉へ吹込む高炉操業方法であって、
前記固体還元材は、粒子径75μm以上の粒子を20mass%以下含有する高炉操業方法。
【請求項3】
高炉の羽口から熱風を高炉へ吹き込むとともに、
易燃性還元材と支燃性ガスと粉状の固体還元材とを、前記羽口からランスを通じて高炉へ吹込む高炉操業方法であって、
前記固体還元材は、粒子径75μm以上の粒子を20mass%以下含有する高炉操業方法。
【請求項4】
前記支燃性ガスは、50vol%以上の酸素濃度を有し、前記熱風に富化される酸素の一部を前記ランスから吹込む請求項2または請求項3に記載の高炉操業方法。
【請求項5】
前記固体還元材が微粉炭である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の高炉操業方法。
【請求項6】
前記易燃性還元材が、水素、都市ガス、LNG、プロパンガス、転炉ガス、高炉ガス、コークス炉ガス、シェールガスの何れかである請求項1、請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の高炉操業方法。」

第3 拒絶査定の理由

平成28年 8月29日付けの拒絶査定の理由は、以下のとおりである。

特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項について

請求項1、5、6に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1に記載された発明及び周知技術(要すれば引用文献3に記載された事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、請求項1?6に係る発明は、引用文献2に記載された発明と、引用文献3?4等に記載されるような周知技術とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

引用文献1.特開2006-241586号公報

引用文献2.特開2013-019008号公報

引用文献3.特開2009-068088号公報

引用文献4.特開2012-188742号公報

第4 引用文献等

1 引用文献1について
原査定の理由で引用文献1として引用された、本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2006-241586号公報(公開日 平成18年 9月14日)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)

(1-ア)
「【実施例1】
【0034】
本発明の効果を確認するために、高炉を模擬したコークス充填型試験燃焼炉を用いて都市ガス吹込みと圧損との関係を検証した。
コークス充填型試験燃焼炉10は、図2に示すように、炉内高さ1000mm、炉内奥行き600mmの矩形の炉であり、炉壁10aに羽口11を一本有している。羽口11には熱風吹き込み用のブローパイプ13が接続され、ブローパイプ13にはブローパイプ内の圧力を測定する入側圧力計15が設けられている。
また、炉の上部にはコークス装入口17と排気口19が設けられ、排気口には排ガスの圧力を測定する出側圧力計21が設けられている。
また、ブローパイプ13には、気体還元材吹込み用ランスと微粉炭吹込み用ランスが設けられている。コークス充填型試験燃焼炉10においては、気体還元材吹込み用ランスと微粉炭吹込み用ランスのそれぞれの設置位置は適宜変更可能になっている。
【0035】
上記のように構成されたコークス充填型試験燃焼炉10においては、高炉と同様に羽口11から熱風を吹込むと共に固体還元材としての微粉炭と気体還元材としての都市ガスを吹き込み、炉内のコークスを燃焼させる。
本実施例では、羽口炉内側先端から200mmの位置で微粉炭及び都市ガスの吹込みを行う場合(比較例)と、都市ガスを羽口炉内側先端位置で吹き込みその後方の羽口炉内側先端から200mmの位置で微粉炭の吹込みを行う場合(本発明例)の、2つの場合を行った。
なお、本実施例で用いた都市ガスの組成は、メタンガス:88.5体積%、エタンガス:4.6体積%、プロパンガス:5.4体積%、ブタンガス:1.5体積%で、カロリーは11800kcal/kgである。また、微粉炭の銘柄は、Blackwater炭であり、74μmのメッシュ間隔の篩いを通過した微粒子が80%のものを用いた。」

上記(1-ア)の記載から、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「高炉を模擬したコークス充填型試験燃焼炉の羽口から熱風を吹き込むとともに、
気体還元材としての都市ガスと固体還元材としての微粉炭とを、前記羽口からランスを通じて前記炉へ吹き込む炉操業方法であって、
微粉炭は、74μmのメッシュ間隔の篩いを通過した微粒子が80%のものである炉操業方法。」(以下、「引用発明1」という。)

2 引用文献2について

原査定の査定の理由で引用文献2として引用された、本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2013-19008号公報(公開日 平成25年 1月31日)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)

(2-ア)
「【0015】
次に、本発明の高炉操業方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の高炉操業方法が適用された高炉の全体図である。図に示すように、高炉1の羽口3には、熱風を送風するための送風管2が接続され、この送風管2を貫通してランス4が設置されている。羽口3の熱風送風方向先方のコークス堆積層には、レースウエイ5と呼ばれる燃焼空間が存在し、主として、この燃焼空間で還元材の燃焼、ガス化が行われる。
【0016】
図2には、ランス4から固体還元材として微粉炭6だけを吹込んだときの燃焼状態を示す。ランス4から羽口3を通過し、レースウエイ5内に吹込まれた微粉炭6は、コークス7と共に、その揮発分と固定炭素が燃焼し、燃焼しきれずに残った、一般にチャーと呼ばれる炭素と灰分の集合体は、レースウエイから未燃チャー8として排出される。羽口3の熱風送風方向先方における熱風速度は約200m/secであり、ランス4の先端からレースウエイ5内におけるO_(2)の存在領域は約0.3?0.5mとされているので、実質的に1/1000秒のレベルで微粉炭粒子の昇温及びO_(2)との接触効率(分散性)の改善が必要となる。なお、高炉内に吹込まれる微粉炭の平均粒径は10?100μmで使用されている。
【0017】
図3は、ランス4から送風管2内に微粉炭(図ではPC:Pulverized Coal)6のみを吹込んだ場合の燃焼メカニズムを示す。羽口3からレースウエイ5内に吹込まれた微粉炭6は、レースウエイ5内の火炎からの輻射伝熱によって粒子が加熱し、更に輻射伝熱、伝導伝熱によって粒子が急激に温度上昇し、300℃以上昇温した時点から熱分解が開始し、揮発分に着火して火炎が形成され、燃焼温度は1400?1700℃に達する。揮発分が放出してしまうと、前述したチャー8となる。チャー8は、主に固定炭素であるので、燃焼反応と共に、炭素溶解反応と呼ばれる反応も生じる。
【0018】
図4は、ランス4から送風管2内に微粉炭(図ではPC)6と共に易燃性還元材として都市ガス9を吹込んだ場合の燃焼メカニズムを示す。都市ガス9の主成分はメタンであり、他にエタン、プロパン、ブタンなどを含む。下記表1に都市ガスの組成例を示す。微粉炭6と都市ガス9の吹込み方法は、単純に平行に吹込んだ場合を示している。なお、図中の二点鎖線は、図3に示した微粉炭のみを吹込んだ場合の燃焼温度を参考に示している。このように微粉炭と都市ガスを同時に吹込む場合、気体ガスである都市ガスが優先的に燃焼し、この燃焼熱によって微粉炭が急速に加熱、昇温すると考えられ、これによりランスに近い位置で燃焼温度が更に上昇する。
【0019】
【表1】
【0020】
このような知見に基づき、図5に示す燃焼実験装置を用いて燃焼実験を行った。実験炉11内には高炉内を模擬するためコークスが充填されており、覗き窓からレースウエイ15の内部を観察することができる。送風管12にはランス14が差し込まれ、燃焼バーナ13で生じた熱風を実験炉11内に所定の送風量で送風することができる。また、この送風管12では、送風の酸素富化量を調整することも可能である。ランス14は、微粉炭及び都市ガスの何れか一方又は双方を送風管12内に吹込むことができる。実験炉11内で生じた排ガスは、サイクロンと呼ばれる分離装置16で排ガスとダストに分離され、排ガスは助燃炉などの排ガス処理設備に送給され、ダストは捕集箱17に捕集される。
【0021】
燃焼実験には、ランス14に単管ランスと二重管ランスの二種類を用い、単管ランスを用いて微粉炭のみを吹込んだ場合、二重管ランスを用い、二重管ランスの内側管から微粉炭を吹込み、二重管ランスの外側管から易燃性還元材として都市ガスを吹込んだ場合、二重管ランスの内側管から易燃性還元材として都市ガスを吹込み、二重管ランスの外側管から微粉炭を吹込んだ場合、二重管ランスの内側管から都市ガスと微粉炭の混合還元材を吹込み、外側管から支燃性ガスとして酸素(以下、単にO_(2)という)を吹込んだ場合、二重管ランスの内側管から支燃性ガスとしてO_(2)を吹込み、外側管から都市ガスと微粉炭の混合還元材を吹込んだ場合の夫々について覗き窓から2色温度計による燃焼温度、燃焼位置、未燃チャーの燃焼状況、拡散性を測定した。」

(2-イ)
「【0046】
また、微粉炭の平均粒子径は10?100μmで使用されるが、本発明では燃焼性を確保し、ランスからの送給並びにランスまでの供給性を考慮したとき、好ましくは20?50μmとするとよい。微粉炭の平均粒子径が20μm未満では、燃焼性は優れるが、微粉炭輸送時(気体輸送)にランスが詰まり易く、50μmを超えると微粉炭燃焼性が悪化する恐れがある。」

上記(2-ア)、(2-イ)の記載から、引用文献2には、以下の発明が記載されていると認められる。

「高炉の羽口から熱風を高炉へ吹き込むとともに、
支燃性ガスとして酸素と、固体還元材として微粉炭と、易燃性還元材として都市ガスとを、前記羽口からランスを通じて高炉へ吹き込む高炉操業方法であって、
微粉炭の平均粒径は、10?100μmである高炉操業方法。」(以下、「引用発明2」という。)

3 引用文献3について
原査定の査定の理由で引用文献3として引用された、本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2009-68088号公報(公開日 平成21年 4月 2日)には、以下の事項が記載されている。

(3-ア)
「【0002】
従来、高炉では鉄鉱石還元材として主にコークスを使用してきたが、近年では高価なコークスの使用量を削減すべく、羽口より微粉炭、重油、天然ガス等の補助還元材の吹き込みが行われている。その中でも特に、石炭を単純に粉砕した微粉炭(粒度75μm以下が80mass%以上程度(後述するD50では50μm程度)のものを用いている。)は高価なコークスの使用量低減に寄与すると共に、コークス炉の稼働率減少によるコークス炉の寿命延長につながるため、所定高炉における月間の微粉炭吹込み比が、266kg/tを記録するという、超多量微粉炭吹込み高炉も出現している(例えば、非特許文献1参照。)。」

第5 対比・判断

1 本願発明1、5、6と引用発明1との対比・判断について

ア 本願発明1と引用発明1とを対比する。

イ 引用発明1の「高炉を模擬したコークス充填型試験燃焼炉」、「気体還元材としての都市ガス」、「固体還元材としての微粉炭」、「炉操業方法」は、それぞれ、本願発明1の「高炉」、「易燃性還元材」、「粉状の固体還元材」、「高炉操業方法」に相当する。

ウ 引用発明1の「微粉炭は、74μmのメッシュ間隔の篩いを通過した微粒子が80%のもの」は、粒子径74μm以下の微粉炭が80%であり、粒子径74μmを超える微粉炭が20%であるといえるから、粒子径75以上の粒子は、少なくとも20%以下であるといえる。
そうすると、引用発明1の「微粉炭は、74μmのメッシュ間隔の篩いを通過した微粒子が80%のもの」は、本願発明1の「固体還元材は、粒子径75μm以上の粒子を20mass%以下含有する」に相当する。

エ してみると、上記イ、ウより、両者は、

「高炉の羽口から熱風を高炉へ吹き込むとともに、
易燃性還元材と粉状の固体還元材とを、前記羽口からランスを通じて高炉へ吹込む高炉操業方法であって、
前記固体還元材は、粒子径75μm以上の粒子を20mass%以下含有する高炉操業方法。」
である点で一致し、相違点はない。

オ 請求人の意見について
(ア)請求人は、審判請求書において、以下のように主張している。
「審査官殿は、拒絶査定において、引用文献1には、固体還元材として、74μmのメッシュ間隔の篩いを通過した微粒子が80%の微粉炭、易燃性還元材として都市ガスを高炉に吹き込むことが記載されている(特許請求の範囲、[0035])。ここで、「74μmのメッシュ間隔の篩いを通過した微粒子が80%の微粉炭」は、「粒子径75μm以上の粒子を20mass%以下含有」していると認める。したがって、請求項1、5、6に係る発明は引用文献1に記載された発明である、と認定しています。
しかしながら、上述したように、本願発明は、LNGなどのガスから離れてしまう粒子径75μm以上の固体還元材であっても燃焼性向上効果を確保できる含有割合の範囲を見出し、当該固体還元材と易燃性還元材とを同時に吹込むことで燃焼性の向上を実現したものです。このため、LNGなどのガスから離れない粒子径75μ未満となる範囲を含む、粒径74μmより大きい粒子を20mass%含有する引用文献1に記載された発明は、本願発明と異なる発明であるといえます。」

(イ)しかし、上記ウ、エのとおり、引用発明1の「微粉炭は、74μmのメッシュ間隔の篩いを通過した微粒子が80%のもの」は、本願発明1の「固体還元材は、粒子径75μm以上の粒子を20mass%以下含有する」に相当し、本願発明1と、引用発明1とは、区別することができない。
よって、上記請求人の主張は、採用できない。

カ 本願発明5と引用発明1とを対比する。

キ 本願発明5は、本願発明1において、固体還元材を微粉炭であると特定しており、引用発明1では、微粉炭を用いているから、両者に相違点は存在しない。

ク 本願発明6と引用発明1とを対比する。

ケ 本願発明6は、本願発明1において、「易燃性還元材が、水素、都市ガス、LNG、プロパンガス、転炉ガス、高炉ガス、コークス炉ガス、シェールガスの何れかである」と特定しており、引用発明1では、気体還元材として都市ガスを用いている。
また、引用文献1には、以下の記載もある(下線は当審が付与した。)。
「【0025】
なお、上記の実施の形態において気体還元材の例として、都市ガスを例に挙げたが、その他にも液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、コークスガス(COG)、ヂメチルエーテル(DME)などを用いてもよい。もちろんこれらの混合ガスも使用できる。」
よって、本願発明6と、引用発明1及び引用文献1に記載された発明とに相違点は存在しない。

コ 上記ア?ケにより、本願発明1、5、6は、引用発明1に記載されたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができないものである。

2 本願発明1-6と引用発明2との対比・判断について

ア 本願発明3と引用発明2とを対比する。

イ 本願発明3と引用発明2とは、

「高炉の羽口から熱風を高炉へ吹き込むとともに、
易燃性還元材と支燃性ガスと粉状の固体還元材とを、前記羽口からランスを通じて高炉へ吹込む高炉操業方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:本願発明3では、「固体還元材は、粒子径75μm以上の粒子を20mass%以下含有する」のに対し、引用発明2では、「微粉炭の平均粒径は、10?100μmである」点。

ウ そこで、上記相違点1について検討する。

エ 引用文献2の上記(2-イ)に示したように、引用文献2には、「微粉炭の平均粒子径は10?100μmで使用されるが、本発明では燃焼性を確保し、ランスからの送給並びにランスまでの供給性を考慮したとき、好ましくは20?50μmとするとよい。微粉炭の平均粒子径が20μm未満では、燃焼性は優れるが、微粉炭輸送時(気体輸送)にランスが詰まり易く、50μmを超えると微粉炭燃焼性が悪化する恐れがある。」(下線は、当審が付与した。)と記載されており、燃焼性と供給性とを考慮して、微粉炭の平均粒径について、好ましい範囲として、20?50μmであることが記載されている。

オ 一方、従来から高炉で通常使用される微粉炭として、引用文献3の上記(3-ア)には、「微粉炭(粒度75μm以下が80mass%以上程度(後述するD50では50μm程度)のもの」が記載されており、当該微粉炭は、本願発明3の「固体還元材は、粒子径75μm以上の粒子を20mass%以下含有する」に相当するものである。

カ そうすると、上記エ、オに示した、引用文献2、3の記載に接した当業者であれば、引用文献2に記載された、燃焼性や供給性を考慮した際に、好ましい範囲とされている平均粒径20?50μmの微粉炭として、引用文献3に記載されている、従来から慣用されている「粒度75μm以下が80mass%以上程度(後述するD50では50μm程度)のもの」を用いることは、何ら困難なことではない。

キ 本願発明1、2と引用発明2との対比・判断

ク 引用発明2は、上記第4、2で示したとおりのものであり、再記すると次のとおりのものである(下線は当審が付与した。)。
「高炉の羽口から熱風を高炉へ吹き込むとともに、
支燃性ガスとして酸素と、固体還元材として微粉炭と、易燃性還元材として都市ガスとを、前記羽口からランスを通じて高炉へ吹き込む高炉操業方法であって、
微粉炭の平均粒径は、10?100μmである高炉操業方法。」

本願発明1、2と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「支燃性ガスとして酸素と、固体還元材として微粉炭と、易燃性還元材として都市ガスとを、前記羽口からランスを通じて高炉へ吹き込む高炉操業方法」は、本願発明1の「易燃性還元材と粉状の固体還元材とを、前記羽口からランスを通じて高炉へ吹込む高炉操業方法」、本願発明2の「支燃性ガスと粉状の固体還元材とを、前記羽口からランスを通じて高炉へ吹込む高炉操業方法」を含む態様であり、それぞれに相当している。
すると、本願発明1、2と引用発明2とは、上記相違点1のみで相違しており、その他の点で一致しているから、上記本願発明3との対比・判断と同様に、上記相違点1に係る本願発明1、2の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得ることである。

ケ 本願発明4-6と引用発明2との対比・判断

コ 引用発明2の「支燃性ガスとして酸素」、「微粉炭」、「易燃性還元材として都市ガス」は、それぞれ、本願発明4の「支燃性ガスは、50vol%以上の酸素濃度を有し」、本願発明5の「固体還元材が微粉炭」、本願発明6の「支燃性ガスが、・・・都市ガス(「・・・」は省略を表す。)」に相当する。
そうすると、本願発明4-6と引用発明2とは、上記相違点1のみで相違しており、その他の点で一致しているから、上記本願発明3との対比・判断と同様に、上記相違点1に係る本願発明4-6の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得ることである。

サ 請求人の意見について
(ア)請求人は、平成28年 7月11日提出の意見書の3.(2)(b)において、以下のように主張している。
「引用文献2の段落[0046]には「50μmを超えると微粉炭燃焼性が悪化する恐れがある」という記載がある中で、当該引用文献2に記載の発明に粒子径75μm以上の粒子を最大で20mass%含有することを許容する「粒子径75μm以上の粒子を20mass%以下含有する微粉炭」は、当業者であれば、通常、用いることを考えない微粉炭であるといえます。このため、引用文献3に記載の発明から「粒子径75μm以上の粒子を20mass%以下含有する微粉炭」を引用文献2に記載の発明に適用する動機付けはないといえ、引用文献2と引用文献3に記載された発明に基づいて、当業者は容易に本願の補正後請求項1-3に係る発明に想到できたとはいえないと考えます。」

(イ)しかし、引用文献2の上記【0046】「50μmを超えると微粉炭燃焼性が悪化する恐れがある」との記載の粒径は、【0046】の記載全体を参酌すると、平均粒径についての記載であって、粒径が50μmを超える微粉炭粒子をわずかでも含むと、燃焼性が悪化する恐れがあるとの意味ではない。
そして、上記カのとおり、引用文献2に記載された、燃焼性や供給性を考慮した際に、好ましい範囲とされている平均粒径20?50μmの微粉炭として、引用文献3に記載されている、従来から慣用されている「粒度75μm以下が80mass%以上程度(後述するD50では50μm程度)のもの」を用いることは、何ら困難なことではない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

シ 本願発明の効果について検討する。

ス 本願の発明の詳細な説明の記載によれば(【0026】)、本願発明は、「ランス4から吹込まれるLNG9及び酸素のうちの少なくとも一つが微粉炭6と効率良く混合し、微粉炭6と酸素との反応が促進し、又はLNG9の燃焼熱で微粉炭6の温度が大幅に上昇し、これらにより微粉炭6の燃焼速度が上昇して燃焼温度が大幅に向上し、もって還元材比を低減することができる。」という効果を奏するとされている。

セ そして、上記スの効果は、「粒子径75μm以上の粒子を20mass%以下含有」する微粉炭を用いることにより奏される効果であるから、上記カに示したように、従来慣用の「粒度75μm以下が80mass%以上程度(後述するD50では50μm程度)」の微粉炭を用いれば、当然に同様に奏される効果であるといえるし、引用文献2には、燃焼性を考慮する記載もあるから、上記スの効果は、引用文献2、3に記載された事項及び技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果ともいえないし、異質な効果ともいえない。

ソ 請求人の意見について
請求人は、審判請求書において、以下のように主張している。
「引用文献3に記載されている粒度75μm以下が80mass%以上程度の微粉炭が通常用いられることが周知であったとしても、本願発明の課題を認識し得ない出願時の当業者が、本願発明の課題を解決すべく、粒度75μm以下が80mass%以上程度の微粉炭を用いることを引用文献2に記載の発明の特徴に加える動機付けはありません。
さらに、上述したように、本願発明によって固体還元材の生産性および燃焼性を向上できるという顕著な効果が得られることから、粒度75μm以下が80mass%以上程度の微粉炭を用いることを引用文献2に記載の発明の特徴に加えることが容易であったといえません。」

タ しかしながら、本願の課題を認識していなくとも、上記ウ?コで検討したように、引用文献2、3の記載に接した当業者であれば、微粉炭の燃焼性、供給性等を考慮して、本願発明1?6に容易に想到するといえる。
そして、請求人が主張する「固体還元材の生産性および燃焼性を向上」という効果についても、上記スの検討と同様に、従来慣用の「粒度75μm以下が80mass%以上程度(後述するD50では50μm程度)」の微粉炭を用いれば、当然に同様に奏される効果であるといえるし、引用文献2には、燃焼性を考慮する記載もあるから、引用文献2、3に記載された事項及び技術水準から予測される範囲を超えた格別な効果とも、異質な効果ともいえない。

チ してみると、本願発明1?6は、引用発明2に記載された発明と引用文献3等に記載されるような周知技術とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明1、5、6について前記第3に示した拒絶査定の理由のうち、請求項1、5、6に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるとの理由は妥当である。
また、本願発明1?6について前記第3に示した拒絶査定の理由のうち、請求項1?6に係る発明は、引用文献2に記載された発明及び引用文献3等に記載されるような周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの理由は妥当である。

したがって、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-31 
結審通知日 2017-09-05 
審決日 2017-09-19 
出願番号 特願2015-533995(P2015-533995)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C21B)
P 1 8・ 113- Z (C21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池ノ谷 秀行  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 結城 佐織
金 公彦
発明の名称 高炉操業方法  
代理人 井上 茂  

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